4 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 00:38:59.03 ID:ZyBvGINn0

 ラウン寺での激闘から一晩あけて。



('A`)「いい天気だなぁ……」

川 ゚ -゚)「そうだな」


 洗濯物のはためく内藤家・庭。ドクオとクーが縁側に座っている。
ツンとブーンは眠たげに学校へ向かい、今広いこの屋敷にいるのは二人だけだった。


川 ゚ -゚)「ドクオ、足は大丈夫か」

('A`)「うん、大体は。ちょっと血はでてるけど、骨の部分はほとんど組成完了したよ」


 ドクオの左足には赤の滲む包帯が巻かれている。昨夜、ラウン寺から逃亡する時に追った傷だ。
サーヴァントとは基本的に霊力で体を作っている存在だから、体組織の回復は人間よりもかなり早い。
掠った程度の傷はすでに跡形もなくなり、一番酷い脛を貫通した傷もほとんどふさがっていた。
7 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 00:42:09.71 ID:ZyBvGINn0

('A`)「あと1日もすれば魔術の補助がなくても普通に生活できそうだよ」

川 ゚ -゚)「そうか。それはよかった」


 包帯を換えてやろう、とクーが居間へ救急箱を取りに行く。


('A`)「(……昨日、あんなに遅くに帰ってきたのに何もいわずに足の怪我を見てくれて、
   今もこうして気をつかってくれてる……)」

('∀`)「(酔っ払った亭主を介抱する良妻って感じだなぁ)」


 魔力の患部集中より適切な応急処置より何より、愛しい彼女が自分を気遣ってくれる事実が一番の薬だった。




 ところ変わってブーンやツンが学び、アヤカスフィールが勤めるVIP学園。
中高併設にしては少々小さいグラウンドをかこうように、L字形に4階建ての校舎が二つ立っている。
 山に面しているのが高等部。その屋上に二人は座っていた。といっても、カップルではない。
ブーンとツン。同じ屋根の下でくらす叔母と甥、魔術士とその弟子。そして聖杯戦争のマスター二人である。


( ^ω^)「弁慶、ってあの源義経と一緒にいたっていうあの弁慶かお?」


8 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 00:45:55.13 ID:ZyBvGINn0

ξ゚听)ξ「えぇ。ドクオが聞いたら認めたって。他の国ならともかく、日本じゃ知名度はかなり高いわ。強敵ね」

( ^ω^)「うん。ドクオの傷もひどかったお……」

ξ゚听)ξ「あれは逃げる時に追った傷だけど……真っ向からドクオと打ち合ったらちょっと不利かな……」


 パックの紅茶にストローをさして口をつける。
帰国当初は味に違和感を覚えていたようだが、流石に半年もたつと慣れるらしい。



ξ゚听)ξ「相手のマスター──ハインリッヒもかなり手ごわいわ。魔術に関しては明るくないみたいだけど、
   直接戦闘ならあたしよりずっと上よ。魔術を駆使してようやく互角って所かな。
   あいつらに関してはマスターだけを叩くのは不利ね。2対2に持ち込まないと」

( ^ω^)「サーヴァントもマスターも負けてるのに、2対2に持ち込んだら余計マズいんじゃないかお?」

ξ#゚听)ξ「アタシは負けてない!!」


ξ゚听)ξ「確かにドクオとアサシンじゃ分が悪いし、あたしがハインリッヒに確実に勝てる自信もないわ。
   でも、この聖杯戦争はタッグ戦。互いの弱いところを補いあえば逆転も可能よ。片方を倒せば、事実上勝利だしね」

( ^ω^)「なるほどだお……」


9 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 00:48:11.95 ID:ZyBvGINn0
ξ゚听)ξ「ともあれ、これでアサシンペアが判明したわ。『バーサーカー』『ライダー』『セイバー』『アサシン』……
   『ランサー』は脱落。あとは『アーチャー』と『キャスター』ペア。未だ姿を見せないアーチャーはともかく、
   キャスターも活動を開始してる……うん。やっぱりブーンが戦闘可能になるのを待ったほうがいいかな」

( ^ω^)「キャスターとは昨日会った、って朝ちょっと言ってたけど……戦ったのかお?」


 食べ終わった焼きそばパンの包みを丸め、ブーンは3つ目の惣菜パンに手をだした。
魔術鍛錬やドクオの怪我もあり、朝は朝食を食べることすらままならなかったのだ。


ξ゚听)ξ「ううん。あたしとハインリッヒとの戦いを見てただけ。仕掛けてはこなかったけど……
   そういえば、何でキャスターは攻撃してこなかったのかしら?」

( ^ω^)「さぁ……わかんないお」


从'ー'从「ブーン君、一緒にご飯たべよー」

                    ξ#゚听)ξ

 唐突に屋上の鉄扉が開き、能天気な声を出しながらアヤカスフィールが現れた。とてとてと二人のほうに駆けてくる。



10 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 00:50:59.04 ID:ZyBvGINn0

( ^ω^)「あ、ア……ワタナベ先生」

从'ー'从「うんうん、よく言えました。学校じゃ“先生と生徒”だからね。」

ξ゚听)ξ「あたしは魔力を隠してる……ブーンの魔力を辿ったのね」

从'ー'从「うん。ツンちゃんがいるのは予想外だったけどね。でも、ちょうどよかったよ。
   二人でご飯たべるより三人のほうがもっとおいしいもんね」

ξ゚听)ξ「……アンタと馴れ合うつもりはないわ。ここはあたし達が使ってるんだから、他のところで食べなさいよ」

从'ー'从「えー。こんな真昼間から戦うつもりはないよぉ。ご飯くらい一緒に食べようよ。ねっ、ブーン君」


 鞄から一枚の紙をヒラヒラとブーンに見せながらアヤカスフィールが問いかける。


( ^ω^)「……わかったお。一緒に食べるお」

ξ#゚听)ξ「(あんたって子は!)」

(;^ω^)「(成績を盾にされたら断れないお……)」


11 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 00:55:50.40 ID:ZyBvGINn0
从'ー'从「えへへー。いっただっきまーす」


 二人に近づき腰を下ろす。プリ○ュア5のキャラの描かれた弁当箱を取り出し蓋を開く。
そぼろ卵やプチトマト。定番のたこさんウインナーにうさぎの形に切り揃えられたりんご。見た目も楽しいおべんとう。

特注サイズスーツではなく、水色のワンピースを着て麦藁帽子をかぶったアヤカスフィール。
ちっちゃい彼女が両手をあわせる姿は
どうみても小学生です。本当にありがとうございました。


从'ー'从「んー、ペニサスがつくってくれたおべんとうはおいしいなぁ」

( ^ω^)「ペニサス?」

从'ー'从「うん。わたしのお屋敷にいるメイドさんなんだ。家のことなら何でもやってくれるんだよぉ」



12 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 00:57:45.97 ID:ZyBvGINn0

ξ゚听)ξ「メイドなんだから、それくらい当然じゃない。うちのバーサーカーなんかサーヴァントのくせに炊事洗濯完璧よ」

从'ー'从「あっ、それだったら阿部さんもスゴいんだよぉ。この前水道管が破裂したとき、ちょちょいのちょいで直してくれたんだもん」

ξ゚听)ξ「こっちは朝登校直前困ったときにボタンのほつれを直してくれるのよ!」

从'ー'从「阿部さんはジッパーだよぉ!」


 意味がわからない。



( ^ω^)「二人とも落ち着くお。それにサーヴァントならブーンのクーが一番だお」

ξ゚听)ξ「黙らっしゃい」从'ー'从


13 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 00:59:24.80 ID:ZyBvGINn0


从'ー'从「でも、確かにブーン君のライダーってかっこいいよね。背は高いし、ライトメイルにレイピア持った、まさに騎士って感じ。
   クー・ウィン・ドーベル──イヌ駆るドヴァ帝国の親衛隊長かぁ」

ξ゚听)ξ「調べたのね」

从'ー'从「ちょっと苦労したけどね。ブーン君が名前を出してくれなかったらわからなかったよぉ。
   ツンちゃんのサーヴァント・バーサーカーの正体はわからなかったなぁ。ねぇ、真名だけでも教えてよぉ」

ξ゚听)ξ「確か……伊藤誠、だったわ」

从'ー'从「そっかぁ。帰って調べてみるね。ないすぼーと!」

(;^ω^)「(ヴァレヴァレだお……)」


14 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 01:01:44.99 ID:ZyBvGINn0
从'ー'从「それにしても聖杯戦争も本格的に動き出したねぇ。アサシン組は山に結界を張って立てこもり、
   アーチャー組も活動を本格化。マスターを無くしたキャスターはどこかに潜伏中……
   うん。楽しくなってきたよぉ」

( ^ω^)「楽しい…かお?」

从'ー'从「うん。だって家に戻っても友達なんていないからね。ホグワーツに残りたい、って言ったんだけど
   教職枠が余ってなかったんだ。ツンちゃんはツンちゃんでさっさと日本に帰っちゃうし……
   一人でいてもつまんない。こうしてツンちゃんやブーン君と一緒に同じ目標をおっかけるのは楽しいよぉ」

ξ゚听)ξ「その目標にたどり着くのは一人だけ、ってのはわかってるわよね……」

从'ー'从「うん。わたしの願いしかかなわないのは残念だなぁ」

ξ゚听)ξ「……ま、まぁいいわ。それよりアヤカ」

从'ー'从「ふぇ?」


 米粒を頬にくっつけたアヤカスフィールがブーン向き直る。


ξ゚听)ξ「マスターをなくしたキャスター、って……あなた会ったの?」

从'ー'从「うん。といっても、直接会ったわけじゃないけどね」


15 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 01:05:37.54 ID:ZyBvGINn0
从'ー'从「一週間くらい前かなぁ。阿部さんと一緒に新都のほうを歩いてたら、悪趣味の屋敷から
   強い魔術の光を感じたんだ。あれは絶対サーヴァント召還の合図だね」

( ^ω^)「悪趣味な……キムチ御殿かお?」

从'ー'从「うん。その名前は後から知ったんだけどね……
   とりあえずその日はちょっと眠かったから家に帰ったんだ。その帰り道にランサーを倒し、
   アサシンにちょっかいかけられて、ツンちゃんやブーン君(=ライダー&バーサーカー)と会って、
   今はアーチャーに襲われてる。消去法でキムチ御殿にはキャスターがいたハズだよ」

( ^ω^)「いた“ハズ”って、どういうことかお?」

ξ゚听)ξ「襲われてるって……」

从'ー'从「えっと……ツンちゃん、ちょっと待ってね」


从'ー'从「月曜日にね。キムチ御殿を襲いにいったんだ。一歩遅かったんだね……
   屋敷は荒らされた後だったんよぉだ。粗末な魔術結界の張られた部屋に、首のない魔術師の死体があったんだ…」

(;^ω^)「!!」

ξ゚听)ξ「……キャスターのマスターがキャスターに裏切られたのかしら」

从'ー'从「他のサーヴァントが屋敷を襲ってキャスターを連れ出した、とかかもしれないよぉ」

ξ゚听)ξ「(……アサシンが護るラウン寺内にキャスターは居た。キャスターがアサシンを出し抜いて潜伏したのではなく、
   アサシンがキャスターを捕らえて何らかの理由で生かしてるという可能性もあるわね)」

从'ー'从「それでね、さっき言ツンちゃんが言ってたアーチャーの話に戻るけど……」
17 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 01:09:48.15 ID:ZyBvGINn0

从'ー'从「昨日、学校からの帰り道にねこさんがいたんだ。
   首輪はつけてなかったから野良ネコさんだと思うけど、すっごくきれいな毛並みで、かわいい声で鳴いてたんだよぉ」

ξ゚听)ξ「前書きはいいから、さっさと本題に入りなさいよ。
   あと5分で休み時間も終わるわよ」

从'ー'从「うん。それでね、わたしうれしくなっちゃって抱きかかえようとしゃがんだら、撃たれたんだ」

( ^ω^)「…………撃たれた?」

从'ー'从「うん。もし、わたしがあそこでしゃがまなかったら、わたしは今頃天国にいたよぉ。
   あわてて霊体にしてた阿部さんを実体化して守ってもらったんだけど、それからも……」





 アヤカスフィールの言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼女が手にしたフォークが弾き飛ばされる。
続いて炸裂音が屋上に響く。3人がつられて振りかえると、鉄扉のドアノブが壊れていた。

ターンッ

最後に、銃声が聞こえてくる。

从'ー'从「今みたいにずっとわたしを牽制してくるんだ」
19 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 01:12:03.35 ID:ZyBvGINn0

 一緒に戦おうよぉ、と嘯くアヤカスフィールの傍に霊体で待機していたのであろう、阿部高和が姿を見せた。


阿部さん「やらないか」

(;^ω^)「…………」









???「学生という社会的身分はときに足枷ともなるのだよ、ツン・スナオゥ」


 VIP市某所。
 姿なき攻撃にあたふたする3人と『セイバー』(=阿部さん)を遠くから見ながら年配の男は傍らのサーヴァントにつぶやいた。
その右手には特殊な魔術刻印──聖杯戦争に参加するマスターの証である令呪が輝いている。


20 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 01:13:58.83 ID:ZyBvGINn0

( ФωФ)「ワタナベルンも遊びが過ぎるな。教師という立場になろうとも、心は学生時代とかわらん。
   スナオゥはともかく、マスターとはいえ魔術師見習いを連れてどうするつもりなんだい?」

( <●><●>)「貴方の予想通りだろう。それより、そろそろ返してもらえないか」

( ФωФ)「おお、スマンなアーチャー」


 耳に装着する片眼鏡。緑色のフレームがはいったそれをマスターからうけとり、アーチャーは装着する。
『至宝の照準機<ミッドナイト・ゴーグル>』、こうみえてもれっきとした偵察用の宝具だ。
彼には数キロはなれた所にいるターゲット自身はもちろん、彼らの現在の体力やその場の空気の流れまで感じ取っていた。


( <●><●>)「予定通り彼女達を日常の中に孤立させた。これ以上は騒ぎになって逃げられまい。
   あとは出てきたサーヴァントをひとりづつしとめていくだけだが……私は前も言ったとおり、子供は撃たないぞ」


 アヤカスフィールへの最初の狙撃。また、先ほどの頭を掠めた一撃。
それが僅かな、本当に僅かな差で外れることすらも、この狙撃主の思惑通りだった。



21 名前:第9話『白昼の襲撃射』 :2007/10/02(火) 01:16:10.44 ID:ZyBvGINn0

( ФωФ)「それで倒せるのなら別にかまわん。あの生意気な小娘達に一泡吹かせられればな」

( <●><●>)「…………」

( ФωФ)「くっくっくっ、課外教育の始まりだ」


 自らのマスターの嫌味な笑い声に辟易しつつも、アーチャーは黙ってターゲットを見つめる。
現在、建物の屋上にいるサーヴァントは『セイバー』のみ。『バーサーカー』『ライダー』のマスターは動こうとはしない。


( <●><●>)「……この状態から一人で私と戦おうなぞ……笑止」


 アーチャーは傍らのライフルを取るとそれを肩に担ぎ、焦点をセイバー(阿部さん)にあわせ────


( <●><●>)「その綺麗な面を吹き飛ばしてやろう」


 静かに、魔力をこめたトリガーを引いた




【第9話・終了】
                 →第10話へ続く

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