4 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 00:29:35.74 ID:nweyTfzZ0

ξ゚听)ξ「(……これはマズいわね)」


 人間もそうだが、サーヴァントには特性・相性というものが存在する。お約束、と解釈してもらってもかまわない。
例えばどんなにレベル差があっても“いわタイプ”に“10まんボルト”は効かないし、アキレウスはアキレス健への
一撃だけで、他が5体が満足であろうとも絶命する。

 阿部高和。
英雄という定義があてはまるかどうかは微妙なところだが、彼についてはツンも知っている。
「くそみそテクニック」という漫画に登場し、ネットで絶大なる支持を得るいい男。ノンケでも食っちまうゲイ。
そして、おそらくその特性は……


ξ゚听)ξ「(アンチ・男サーヴァントね……)」

(((('A`)))


 傍らで震えているドクオを見る。それまでの単純な戦いへの面倒くささとは違い、本気で戦うのを躊躇している。

 拳を交えただけで、魂ごと貫かれるという予感。

 はたして、ドクオの感じたものとツンの危惧した可能性とは一致していた。
男が相手なら守戦も攻戦にも絶対的な優勢を誇る英雄。それが阿部孝和だった。



5 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 00:31:09.85 ID:nweyTfzZ0

从'ー'从「それじゃあ阿部さん、いくよ」

阿部さん「ほい来た」


 アヤカスフィールの呪文に応えて阿部の右腕に魔力が収束していく。


阿部さん「あぁ……次は左腕だ…………」


 恍惚としながらアヤカスフィールの魔力供給を受ける阿部を尻目に、ツンは小声で、固まっている男二人に伝える。


ξ゚听)ξ「クーが戻ってくるまでアヤカスフィールを狙うわ。いくら阿部さんだってアヤカを守りながら
   攻勢に転ることはできないはず」

((('A`))「……わかった」


 震えながらもドクオは即答する。



6 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 00:32:47.19 ID:nweyTfzZ0

 サーヴァントはマスターがいないと現世には留まれない。もちろんすぐに消えるわけでもないが
その力は確実に落ち、一定時間の後に消滅する。仮に消滅するまでに他のサーヴァントを全てを消したところで
聖杯を手に入れることはできない。サーヴァントも己の目的──聖杯を手に入れるために戦っている。
目的と手段を入れ違えることはできないので、このような至近距離で相手と相対したの場合、
必然的に敵サーヴァントの撃破よりも、マスターを庇うことが優先される。


ξ゚听)ξ「ブーンもいいわね、落ち着いてアヤカスフィールにぶちかましなさい」

(;^ω^)「で、でも……相手はあんなちっちゃな女の子だお?」

ξ゚听)ξ「見た目はね。中身はあたし並の一流魔術士よ」


 両足にもアヤカスフィールの魔力がチャージされる。阿部が両手で構えた瞬間


ξ゚听)ξ「セット!!」


 戦いがはじまった。



7 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 00:35:52.09 ID:nweyTfzZ0

 ツンの掌がアヤカスフィールを指し、そこから一直線に紅色の魔力弾を連射される。その射線上に立ち塞がり、
難なく片手で阿部が防ぐ。つづけて左右両方向からドクオが放った魔力の帯を破壊し、腰を低く構え、
阿部は3人に突進していく。ブーンも魔力を込めた石を投げるが、明後日の方向へ弾き飛ばされてしまった。


阿部さん「さぁて、楽しませてくれよ」

(('A`))「無理!」


 地に手をつき、魔力を通じさせる。乾いた地面が隆起して阿部に襲い掛かるが、それが届く直前に
阿部は右にステップを踏んで回避する。
隆起から見て阿部と反対側に移動したツンが再びアヤカスフィールに向け、躊躇なく魔力弾を連射した。


从'ー'从「甘いよー」


 アヤカスフィールはあわてる様子もなく、ちいさな掌から蒼色の防御障壁を作り出し、十発ほどの紅弾を受け止める。
それに続けて予備動作抜きで虚空から質・量ともにツン以上の光弾がアヤカスフィールへ飛んでいくが、
直撃する前にアヤカスフィールの元へ戻ってきた阿部が彼女を抱きかかえ、後ろに大きく跳んだ。


8 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 00:38:33.24 ID:nweyTfzZ0
从'ー'从「……あっ、阿部さん、後ろー」

阿部「ほぅ。伏兵か」


 道路から一直線。地を駆け、クーが二人に背後から迫る。
首を狙った一撃を空き手の左で受け、鋭い突きを阿部は半歩身を引いて回避する。軽くかがみ、アヤカスフィールを
地面に置き去りにして ( 从゚-゚从「ギアス!」) 鋭く足払い。
かわしたクーに向かって一歩前に出て、勢いを乗せた中段蹴りを放つ。レイピアで受けたものの、軽くたたらを踏むクー。
そのままたたみかけるように足を踏み出そうとして、そこで阿部は体を反転させる。


阿部「ふんっ!」


 まだ地面に転んだままのアヤスフィールに向かって放たれた黒の魔力体。
現代の魔術士では決してつくりだせない、破壊の連鎖を産む黒球は阿部の右ストレート一発で破砕した。




ξ#゚听)ξ「って、何て力の魔術使うのよ! 間違ってアヤカが死んだらどうするの!!」

(;'A`)「ご、ごめん……」

(;^ω^)「魔術士なら相手を殺すのもいとわない、のじゃないのかお…」

ξ////)ξ「べっ、別にアヤカスフィールを助けたいわけじゃないんだからね。サーヴァントだけ倒せばすむんだし
   無益な殺生を好まないだけなんだから!」
10 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 00:40:36.58 ID:nweyTfzZ0

川 ゚ -゚)「ブーン、無事か!」


( ^ω^)「ライダー……じゃなくてクー!」

ξ゚听)ξ「ブーン、それじゃ反対。隠せてないわよ!」


 阿部とアヤカスフィールを避けるように迂回し、クーは3人と合流する。


( ^ω^)「……クー、無事だったかお?」

川 ゚ -゚)「無論だ。弱った相手に遅れなどとらない」

('A`)「よかった、さすがクーだね」

ξ゚听)ξ「ライダー、もう一戦いける?」

川 ゚ -゚)「ああ。あと一戦くらいなら、おそらくは……」


 いつでも魔力弾を打ち出せるよう、両手に魔力を貯めて静かにツンが言う。



11 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 00:43:02.52 ID:nweyTfzZ0
川 ゚ -゚)「あれがサーヴァント『セイバー』か。剣を抜かずともあの攻撃、最優のサーヴァントの名に恥じない、いい攻撃だ」

ξ゚听)ξ「クー、言っとくけどセイバーはあなた相手に剣は使わないわ」

川 ゚ -゚)「……ふむ、なめられたものだな。騎兵を相手の白兵戦に、剣など必要ないという事か、セイバー」

阿部さん「俺の名前は阿部孝和。親しみを込めてアベリ−ヌと呼んでくれ」

川 ゚ -゚)「アベリーヌ、か……」


 何かを言いたげにブーンを見るクー。意図がわかっていないブーンに替わり、苦々しげにツンが頷いた。


川 ゚ -゚)「では。私はクー・ウィン・ドーベル。騎兵『ライダー』のサーヴァントだ」

阿部さん「クー、か。昨日の少女──ランサーよりは楽しめそうだ。せめて5分は持ってくれよ」

川 ゚ -゚)「……戯言を」


 腰から短刀を引き抜き、逆手に持ち直す。


12 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 00:45:31.94 ID:nweyTfzZ0
川 ゚ -゚)「ドクオ、セイバー──アベリーヌは私が迎え撃つ。二人を頼むぞ」

('A`)「わかった。でも……本当に、大丈夫?」

川 ゚ -゚)「あぁ。問題はない。もしもの時は頼む、ぞ……」


 不吉な言葉を残し、一歩、二歩。三歩前に出て阿部と向かいなおる。


 シリアスに戦闘態勢を整えたクー。一方、阿部は────







从;ー;从「うえぇぇぇん、顔がいたいよぉ」

阿部さん「ほい、立てるかお嬢ちゃん」


 地べたでうつぶせになってすねていたアヤカスフィールを引っ張り起こし、帽子についた土を払ってやっていた。


川;゚ -゚)「…………」
15 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 00:48:33.31 ID:nweyTfzZ0
从'ー'从「れろれろ〜。ん〜甘くておいしー」

阿部さん「おいおい、いい女は飴を舐るように舐めたりしないぜ」

从'ー'从「うー、だって疲れたんだもん!」

阿部さん「そうか。なら、さっさと片付けて屋敷に帰るとしよう」

从'ー'从「オッケー」


 いい加減このロリキャラ気取りうぜぇ。
読者と作者が思い始めたころ、ようやくその微妙なロリキャラの仮面が消え、アヤカスフィールに魔術士の貌が
────目的に達するためならその道程に拘らない。純粋で、真っ直ぐすぎる、魔術士の貌が浮かんだ。


从'ー'从「やっちゃえ、セイバー」

阿部さん「応」


 アヤカスフィールの呪文に応えて、巨大なスパナが虚空から現れた。それを手に取り、阿部が走る。
先程と同じようにアヤカスフィールへと飛んでいく魔力弾を届く範囲で弾き飛ばし、大地を蹴った。


16 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 00:52:58.35 ID:nweyTfzZ0
 力まかせにスパナを振り下ろす。勢いのついた、150センチはあろう巨大スパナの一撃を受けずにクーは後ろに下がって
やりすごす。同時に、ツン達もあわせて後ろへと下がった。再びスパナを持ち上げ、横に凪ぐ。さらに返すスパナでもう一撃。


川;゚ -゚)「(少々、重すぎるな)」


 右手の短刀をしまい、サーベルを持つように空いた右手をレイピアの柄に沿える。そう多くはない残りの魔力で
剣を強化し、阿部のスパナを受け止めた。今度はクーの反撃。リーチ差を埋めるべく、大振りスパナの重心が
虚空へ向いている隙にこちらの間合いへと詰め寄る。
 低い体勢から左手一本で、顎先へ居合い抜く。剣先はわずか数センチの差で阿部の体に届かない。


阿部さん「危ない危ない。一張羅がやぶけてしまった」

川 ゚ -゚)「余裕だな」


 そこから続くクーの斬撃に、短く構えたスパナで阿部が応戦する。
一合。二合。ややあって三合。一進一退の攻防が続く。

 十数合打ち合ったところで、お互い示し合わしたかのように両者が武器を下げ、身をひく。


从'ー'从「セイバーぁぁぁぁぁぁぁ」


 そのタイミングで息もたえだえのアヤカスフィールが阿部の背中へぶつかってきた。


17 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 00:58:44.20 ID:nweyTfzZ0
从;'ー'从「や、やっぱり3人を相手にするのはキツいよぉ」

阿部さん「わたしがツンちゃん達をひきつけるから、阿部さんはあの強そうなのお願いね、っていったのはお嬢だろ?」

从'ー'从「40秒でカタをつける、っていったのは阿部さんでしょ?」

阿部さん「むぅ……確かに、少々手間取ったな」


 破けた左肩に手をあてる。


阿部さん「そろそろ終わりにしようか」


 飄々と言い放つ。
 同じように打ち合っていたクーと違って息ひとつ切らす様子もなく、阿部は再びスパナを構えた。


阿部さん「『宝具』を使え、ライダー。さもなければこれで終わりだ」

川;゚ -゚)「(くっ……)」






???「ちょっと待ったー!」
21 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 01:05:08.87 ID:nweyTfzZ0
阿部さん「……ほぅ」


 声の主はアヤカスフィールを狙撃しつつ、離れたところで二人の戦いを見ていたドクオだった。



('A`)「それ以上クーに手を出してみろ。ボクがボコボコにしてやんよ」

ξ;゚听)ξ「ば、バーサーカー……あ、アンタ大丈夫なの?!」

阿部さん「いいのかい、俺はノンケでもホイホイ食っちまう男なんだぜ」

('A`)「し、知ってるよ」


 平然とクーの前に割り込む。


22 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 01:08:14.92 ID:nweyTfzZ0
川;゚ -゚)「バーサーカー。私はまだ……」

('A`)「無理だよ、クー。ブーン君からの魔力供給もままならないままの状態じゃ、これ以上は戦えない」

川;゚ -゚)「…………」


 震えひとつ起こしていないドクオを見て、クーは静かにレイピアを鞘に仕舞い、身をひいた。


('A`)「さて……」


 阿部からの熱視線と背後からの期待心を受け止めながら、ドクオは自問した。


('A`)「(とりあえずカッコよく出てみたけど、どうしよう)」



 前方およそ2メートルの所に聳え立つ男殺しのサーヴァント・阿部孝和。
そしてそのマスターであるアヤカスフィール・フォン・ワタナベルン。
離れててもわかる、その圧倒的な威圧感。正直体の震えをとめるので精一杯だった。



23 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 01:11:22.55 ID:nweyTfzZ0
('A`)「(近距離で殴り合うのは自殺行為だし、遠距離攻撃じゃ決め手に欠ける。ブーン君にこの短時間で
   魔力供給を覚えてもらうのは無理だし……くそっ、熱いなぁ
   …………熱い?)」


 視点のズーム倍率を下げてみる。


('A`)「………あ」



 空き地の奥、道につながる草木が燃えていた。いい感じに吹いてきた風にあおられ、火は勢いよく
燃え広がっていく。

 やがて黒煙に気づいた警官の通報であたりが騒がしくなる。
ヤジ馬が集まりだした頃、そこにはブーン達の姿はなかった。


24 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 01:14:59.31 ID:nweyTfzZ0

ξ#゚听)ξ「アンタ達、逃げるなら別の方向に逃げなさいよ!」

阿部さん「悪いね、お嬢の屋敷はこっちなんだ」

('A`)「(といいながら何でボクの後ろをピッタリついてくるんだ……)」

从;ー;从「ううっ……お気に入りのコートにコゲがついちゃったよぉ……」

川 ゚ -゚)「しかし妙だな、何故あんなところから火の手が……」

( ^ω^)「(あ、そういえば……)」


25 名前:第4話『戦闘潮流』 :2007/07/24(火) 01:16:04.90 ID:nweyTfzZ0
〜〜回想〜〜

( ^ω^)「ツンもドクオもすごいお……よし!」
( ^ω^)「この石に魔力を込めて……」
( ゚ω゚)「ファイヤーショットガン!」
(;^ω^)「あっさり弾かれてしまったお……」

〜〜回想終了〜〜







(;^ω^)「もしかしたらそれが原因で出火したのかもしれないお」

全員『それだぁぁぁぁぁ!!』




 翌朝、新聞には空き地の不審火についての小さな記事が乗った。
原因不明の出火の正体を知っているのは、後にも先にもこの6人だけである。


【第4話・終了】
                 →第5話へ続く

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