9 名前:32話までの簡易あらすじ ◆cMeBip.NEGNz :2010/08/13(金) 23:50:00.40 ID:ns6iMDds0

 内藤ホライゾンは私立VIP学園中等部に通う学生である。
性格は暢気で穏やか。成績は普通、運動神経はそこそこ。あだ名は誰がつけたか、“ブーン”。
クラスの人気者でもないが、孤立するわけでもなく、いたって普通の中学生である。

 彼は同年代の少年少女たちとは二つ、異なった面を持って生きていた。


 ひとつは家族構成。
英国人の父親、内藤徳夫(日本名)を物心がつく前に。
日本人の母親、内藤空(旧姓・素直)を7年前に交通事故で、彼は失っている。

 小学生ながら両親を無くした彼は連絡のつかない父方の実家や、呼び戻そうとする母方の実家を拒み、
母親の残滓の強く残る生家にて、後見人の手助けを借りて独り過ごしていた。
半年前、イギリスに留学していた年の近い母親の妹──おばの素直ツンが押しかけ同然に

 そしてもうひとつの、決定的な違い。




 内藤ホライゾンは、魔術士である。



10 名前:32話までの簡易あらすじ ◆cMeBip.NEGNz :2010/08/13(金) 23:51:56.26 ID:ns6iMDds0

 魔術士といっても彼の力は見習いの中の見習い。
魔術の心得を持った後見人ショボンから料理を教わる程度の気軽さでしか習っていない彼の生活と能力は、一般人と大差ない。

 コンピューターゲームでたとえれば、「まぶしいひかり」と「ギラ」しか使えない敵雑魚キャラといったところか。


 無論、現代日本で生きる上でそんなものの必要性は皆無である。
懐中電灯があれば「まぶしいひかり」はいらないし、喧嘩で「ギラ」を放つよりも殴ったほうがはやい。
何より、魔術とは“魔術を知らない一般人”には秘匿されてしかるべき存在である。
故に、ブーンも魔術という存在を手品にも似た、趣味の範疇程度にしか捉えていなかった。



 魔術世界について多くを知らず、ほとんど普通の世界に生きてきたブーン。
彼をとりまく状況は、とある夜の出会いによって一変する事になる。


11 名前:32話までの簡易あらすじ ◆cMeBip.NEGNz :2010/08/13(金) 23:54:03.15 ID:ns6iMDds0


 或る秋の夜。

 数年来なかった悪夢──最愛の母親を目の前で失ったあの日を反芻し、
珍しく深夜に目をさました彼は、屋敷の中で薙刀を持った正体不明の男に襲われる。


 ブーンに迫る刃を弾いたのは全長3メートルを越える巨大な槍だった。





川 ゚ -゚)「問おう、少年。貴方が私のマスターか」




 腰までかかる金髪に青を基調とした軽鎧。レイピアとダガーを腰に携え、巨大な戦闘槍を手に
『騎兵<ライダー>』と名乗って彼を助けた女は、髪の色を除いて、あまりにも思い出の中の母親に瓜二つだった。


 騒ぎを聞いて駆けつけたツン、そして彼女に連れられて尋ねたショボンによってブーンは命がけの魔術闘争
──聖杯戦争の存在を知ることとなる。

13 名前:32話までの簡易あらすじ ◆cMeBip.NEGNz :2010/08/13(金) 23:56:50.73 ID:ns6iMDds0

 聖杯

 それは手に入れた者の如何なる願いをも叶えるといわれている究極の魔術道具。
7人の魔術士(あるいはそれに類する存在)が7人の歴史上の英雄を“サーヴァント”という形で従え、
最後のひとりになるまで戦って聖杯を奪い合う、『聖杯戦争』。


 司法の枠からも行政の枠からも外れた、非日常の中の非日常。
魔術の世界ではごく一般的に起こりうる「殺人」も「虐殺」も、何でもありな
この過酷なバトルロイヤルにブーンは自ら参加を決意する。

 その決意の源は多感な、中学生にありがちな非日常世界への憧憬でも、
戦いによって流される無益な血をなくそうとする無謀すぎる世界への挑戦でもない

 極めて利己的な、年月を経ることで封印したはずの願望。
今しがた夢にみた悪夢を払拭する、懐かしき面影の再来──



─────母親、内藤空の復活だった。

16 名前:32話までの簡易あらすじ ◆cMeBip.NEGNz :2010/08/13(金) 23:58:57.03 ID:ns6iMDds0

 かくてブーンはクー=ウィン=ドーベル──姿だけでなく、名前も亡き母に似たサーヴァント、
『騎兵<ライダー>』とともに聖杯戦争に参戦する。


 魔術の師匠であるツンと、それに従う臆病な『狂戦士<バーサーカー>』ドクオ。

 幼い容姿の天才魔術士アヤカスフィールに最強最悪の『剣士<セイバー>』、阿部孝和。

 研究肌の魔術士プギャーに、悲劇の複製少女『槍兵<ランサー>』

 老獪陰湿なロマネスクと、伝説の狙撃手『弓兵<アーチャー>』。

 裏社会に生きる格闘家ハインリッヒに戦闘狂の『暗殺者<アサシン>』、恋に狂った亡国の王女『魔術士<キャスター>』。


 ツンやドクオ、後見人ショボンらに助けられつつ、ブーンはクーとともに強敵たちと渡り合う
戦いの中で自らに向けられた敵意に殺意、命をかけた魔術士とのやりとり。
かつての主に刃を向けてなお彼女の救済を願い、聖杯を求めるクーの姿に目を背けながらも聖杯戦争を戦い続ける。



17 名前:32話までの簡易あらすじ ◆cMeBip.NEGNz :2010/08/14(土) 00:01:15.75 ID:ns6iMDds0


 戦いは最終局面。
すでに7チームのうち、『槍兵<ランサー>』『弓兵<アーチャー>』『暗殺者<アサシン>』『魔術士<キャスター>』は脱落。

 ブーン、ツン、アヤカスフィール。残った3人が旧知の間柄、というインサイダー闘争はアヤカの体調不良、
そして『魔術士<キャスター>』最後の攻撃の影響で姿を消したクーの帰来を待つべく、決着は延着されていた。



 そんな異常事態に一石を投じるように、3つの影がVIP街に降り立つ。


 ひとつは『剣士<セイバー>』阿部に持て余した魔力発散の機会をあたえるという老翁。

 ひとつはラウン寺に降りたち、戦闘に長けた住職やその息子に協力を求める頬に刺青をいれた青年。


 そして最後のひとつがこれから活動を開始する。



 死してなお憎悪を隠さず、聖杯戦争の破壊を望むその敵の襲来は、奇しくも聖杯戦争の終結を早める事となる──


18 名前:32話までの簡易あらすじ ◆cMeBip.NEGNz :2010/08/14(土) 00:03:13.49 ID:zS0Es6NK0








       『( ^ω^)ブーンが聖杯戦争に巻き込まれたようです』 最終章











19 名前:主に『Fate』を知らない人のための用語解説:2010/08/14(土) 00:08:50.18 ID:zS0Es6NK0

魔術士:魔術を操る人間。基本的に祖先に魔術士がいないと魔術士になることはできない。“魔法使い”ではないので注意が必要。


魔法使い:現代の技術で不可能な事(例:時間跳躍)を魔術で実現できる魔術士のこと。


聖杯:あらゆる願いを叶えるといわれている、伝説の魔術道具。早い話がドラゴンボール。
   現在は“長門有希”の姿をとり、現界している。


聖杯戦争:7人の魔術士(マスター)が聖杯をめぐり、サーヴァントとともに繰り広げる殺し合い。早い話がバトロワ。


マスター:サーヴァントを召還した魔術士。マスターでないと、聖杯を使役することはできない。


令呪:サーヴァントと契約した魔術士がもつ、サーヴァントに対する強制命令権。最大3回まで行使が可能。
     サーヴァントの能力強化もできるが最大回数使い切ると、マスターとしての資格を失う


20 名前:主に『Fate』を知らない人のための用語解説:2010/08/14(土) 00:11:22.15 ID:zS0Es6NK0

サーヴァント:全ての時間軸・全ての世界から“英雄”と呼ばれる存在を聖杯の力を用い、基本無作為に現世に召還したもの。
     サーヴァントを呼び出したマスターと主従関係を持つ。正体を敵に知られぬよう、基本的に彼らは兵種で呼ばれる。


宝具:サーヴァントがそれぞれ持っている切り札。壮絶な威力・能力を持つものも多いが、魔力を膨大に消費する。


管理人:ショボンのこと。聖杯を管理し、勝ち残ったマスターに与える事が仕事。管理人は聖杯を使用できない。


固有結界:基本的に魔術士のみしか使えない、魔術のひとつの到達点。自分のおもいままになる空間を形成する。


原作:TYPE-MOON制作のエロゲー『Fate/stay night』のこと。当ブーン小説の基本設定、主な話の展開は
   このゲームおよび同名のアニメから拝借されているものが多い。


『新わたなべ☆ちゃんねる』:本編終了後のおまけ。WATANABEさんとヒッキーが作中の事象を解説したり、
          読者からの質問にほぼ全レスしたりする。たまに作者や他作品のキャラも登場する。
          今回より中止予定だったが、規制解除されてたので復活


21 名前:登場人物紹介:2010/08/14(土) 00:13:36.84 ID:zS0Es6NK0

( ^ω^) ブーン:亡き母に似た『騎兵<ライダー>』クーとともに聖杯戦争に参加している見習い魔術士中学生。
      亡き母親と、サーヴァント・クーと、アヤカスフィールについていろいろ悩むお年頃。


川 ゚ -゚) クー:ブーンの亡き母にそっくりな姿形をした『騎兵<ライダー>』のサーヴァント。
   宝具『突撃槍<ランス>』をもち、巨大な“イヌ”を駆る。
   かつての主である『魔術士<キャスター>』シィナの捨て身の宝具の直撃を受け、行方不明に。


ξ゚听)ξ ツン:ブーンの叔母で、一流魔術士女子高生。ツンデレ。サーヴァントは『凶戦士<バーサーカー>』ドクオ。


('A`) ドクオ:なぜかクーを慕う臆病な『狂戦士<バーサーカー>』のサーヴァント。
   主夫・魔術士・オタクとしての才能にあふれた男だったが、現在は戦しか見えない正真正銘の狂戦士になっている。


从'ー'从 アヤカスフィール:ロリロリ魔術士。ブーンの担任教師で、彼に惚れた。ツンとは腐れ縁。サーヴァントは『剣士<セイバー>』阿部孝和。
   現在魔力回路が暴走中。体力は落ち、魔力だけが無尽蔵にふくれあがる危険状態


阿部さん:肉弾戦を得意とする『剣士<セイバー>』優勝候補。男には滅法強い。
   あふれんばかりの魔力を消費するため、現在某所にて魔力を消費中。

('、`*川 伊藤ペニサス:メイド協会から派遣されたアヤカに仕える『白銀家政婦<シルバーメイド>』←サーヴァントではない
   家事に日常何でもござれ。戦闘から阿部さんに惚れているという伏線は回収できそうにない。




22 名前:登場人物紹介:2010/08/14(土) 00:16:04.00 ID:zS0Es6NK0


从 ゚∀从 ハインリッヒ高岡:流浪の格闘家。関西人。元『暗殺者<アサシン>』のマスター。
   現在はブーン達の家に居候している。従姉妹に『黄金家政婦<ゴールドメイド>』高岡貴子→从*゚∀从 がいる。


(´・ω・`) ショボン=ノウレッジ:Bar『バーボンハウス』を営む聖杯戦争の管理人。ブーンの後見人でもある。
   体は人間だが、その体に宿る魂は英霊『タフガイ=ガンファイター』のものだった。


lw´‐ _‐ノv 長門 :対魔術願望増幅用ヒューマノイドインターフェース、“聖杯”。


(*゚ー゚) しぃ:マスターのいない『魔術士<キャスター>』。惚れていたアサシンの死によって暴走。
   クーに討たれる直前、自らの命と引き換えに宝具『終焉の楽園<ル・ラーダ・フォルオル>』を発動させ、消滅。


 

 

 

24 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 00:20:27.56 ID:zS0Es6NK0

 VIP町中心部から車で5分。
同じ郊外でもラウン山とはまた反対に位置する静かな森林。
人気の少ないその森の中にアヤカスフィールが拠点とする洋風の建物は建っていた。

 少女一人とサーヴァント一体には聊か大きすぎる屋敷を実質的に切り盛りしているのは、メイド協会から派遣された
『白銀家政婦<シルバーメイド>』伊藤ペニサスただ一人。然るに、彼女の一日は早い。

 朝の5時に起床。手早く身支度を整え、朝食の準備に簡単な清掃といつも手順をこなしていく。
どこかへ行くと簡単な朝食を終えて出ていく阿部を送りだすと、時計は8時を回っていた。


(‘、`*川「……アヤカ様の調子はどうでしょうか」


 玄関を掃く手を休めてペニサスは独り想う。
教職を辞して以降、彼女の主はほとんどの時間を枕上で過ごすようになっていた。

('、`*川「(少し覗いてみましょう)」



25 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 00:22:34.39 ID:zS0Es6NK0

('、`*川「……失礼します」


 中で寝ているであろう主を気遣い、形だけドアをたたいて寝室の扉を開く。
どうやって寝室に持ち込んだのか、ムダに大きな天蓋付の巨大ベットの上で、
アヤカスフィールは分厚い魔術書を読んでいた。


从'ー'从「おはよ、ペニサス」

('、`*川「おはようございます。お邪魔でしたでしょうか」

从'ー'从「ううん、ちょうど喉がかわいた所だったよ」


 早朝のうちにベットの脇に準備していた水差しから飲み水を汲み、アヤカスフィールへと差し出す。

27 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 00:26:14.64 ID:zS0Es6NK0

从'ー'从「ぷはぁ、おいし」

('、`*川「昨晩はこの時期にしては少々暑かったですからね」
よろしければ体もお拭きいたしましょうか?」

从'ー'从「うん、まだいいや。それより屋敷の様子は?」

('、`*川「何も異常はございません」


 この屋敷に、期間限定のメイドとして住み込みはじめて57回目の質問に、57回目の同じ答えを返す。



从'ー'从「うん、魔術結界のほうも万全だね。ご飯の準備は?」

('、`*川「問題ありません。こちらへお持ちいたしましょうか?」

从'ー'从「今日は調子がいいし、下に降りるよ。阿部さんは?」


29 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 00:27:43.42 ID:zS0Es6NK0

('、`*川「一時間ほど前に何処かへ出て行かれました。昼には戻られるそうです」

从'ー'从「そっか。着替えて食堂に行くから準備しといてよ。今日はツンちゃんたちも来るし、しっかりしておかないと」

('、`*川「かしこまりました」




(‘、`*川「(……しかし)」

 着替えくらい自分でやる、と言い張るアヤカスフィールに追い出されるような形で
部屋の外に追い出されたペニサスは、廊下を歩きながら逡巡する。



('、`*川「(部屋を出る時に少し見ただけでしたが、明らかにアヤカ様は痩せておられる…)


 魔術事故の影響で元々小学生と変わらない痩矩の彼女だったが、
今のそれは以前みた姿に比べても不健康的に痩せてきていた。


('、`*川「(……本来なら負担のかかる『聖杯戦争』からの離脱を箴言するべきなのでしょうが……)」


31 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 00:31:03.32 ID:zS0Es6NK0

 アヤカスフィールの不調は何も聖杯戦争への参加から起こる心的・肉体的要因だけが問題ではない。
幼少時の魔術演習によって彼女は後天的に“成長しない体”という枷を負っている。

 ペニサス自身魔術についての初歩的理論こそ知ってはいるが、専門家ではない。
極東屈指の魔術士であるツン、そして主たるアヤカスフィールが「このままでいるしかない」と判断を下した異常、
彼女にできる事は一般レベルで主の体調管理に努めるより他なかった。



…………
……




 ところかわって、VIP学園中等部屋上。
かつて『弓兵<アーチャー>』の宝具の脅威にさらされたこの場所で
主人公・ブーンとその魔術の師匠であるツンは向かい合っていた


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
( ゜ω゜)「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


( ゜ω゜)「ハート・オブ・ボンバァァァァァァァァァァ!!」



32 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 00:34:37.92 ID:zS0Es6NK0

 ありったけの魔力を込め、放たれたブーンの必殺技。
右腕から放出されたハート型の光は山なりの軌跡を描き、対面のターゲットへと降り注ぐ。


ξ゚听)ξ「……へぇ、ちょっとは成長したじゃない」


 ブーンのありったけの魔力を片手一本で受け止めるツン。
余裕綽々の彼女と対照的に、攻撃をしかけたはずのブーンは大きく息を荒らげ片膝をついている。


ξ゚听)ξ「実戦には向いてないと思うけど、なかなかいいと思うわよ」

(;^ω^)「はぁっ、はあっ……」

ξ゚听)ξ「さ、昼休みが終わっちゃうわよ。さっさと立ちなさい。魔力が空になるまでっていったでしょ?」

(;^ω^)「ちょ、ちょっと……無理だお。これ以上何を出せと……」

ξ゚听)ξ「魔力。魔力キャパをあげる修行でこれ以上のものはないわよ」



33 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 00:38:16.01 ID:zS0Es6NK0

(;^ω^)「そんな事言われても……もう限界だお」

ξ゚听)ξ「冗談。まだウォームアップ程度でしょ?」

(;^ω^)「「そんなバカなんて……」

ξ゚听)ξ「まさか。そうね……魔力を枯渇させるならこれくらいやらないと」

( ^ω^)「ちょ…」


 ブーンが言い終える前に右手から赤い光、左手から青い光を作り出し、それらを両手をあわせることで合体させる。
両手を中心に発生する赤とも青とも、紫とも違う魔力の光球。ブーンに向けたままの左手はそのままに、
まるで弓道の弦を持っているかのように、ツンはその右腕を後ろへと引く。


ξ゚听)ξ「はっ!」

(;゜ω゜)「ノォォォォォォォォォォォォォ!!」


 理性よりも先に直感が働き、ブーンが横っ飛びに回避する。
ツンの腕から放たれた光砲は今しがたブーンが立っていた場所を通過し、軌道を上昇させて空へと消えていった。
VIP学園屋上のアスファルトの一部が剥がれ、金網はぽっかりと大きな穴をあけている。

 その破片や金網の残骸は、欠片も残っていない。


34 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 00:42:30.14 ID:zS0Es6NK0

ξ゚听)ξ「これを連発する、とかじゃない限り短時間じゃ魔力は枯れないわ」

(#゜ω゜)「無茶すぎるお」


 顔を青ざめさせ、大の字で横たわるブーンにツンは嘆息する。


ξ゚听)ξ「 「クーが戻ってきた時の為に、今できるだけのことをやっておきたいんだお!」 ってカッコいい口たたいたのは誰かしら?」

( ^ω^)「……誰でしたかお?」

ξ゚听)ξ「……はぁ」


 ゴソゴソと鞄をあさり、蛙の帽子をかぶった金髪幼女の描かれたチョコレートの箱をブーンへと投げる。


ξ゚听)ξ「これでも食べて回復しなさい。家に戻ったら続きやるからね」

( ^ω^)「学校にお菓子持ってきたらいけないんだお……」

ξ゚听)ξ「黙らっしゃい」

ξ゚听)ξ「それと……」


35 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 00:48:30.49 ID:zS0Es6NK0

ξ゚听)ξ「放課後、わかってるわよね?」

( ^ω^)「校門に3時半だお。アヤカへのお見舞いもバッチリだお」

ξ゚听)ξ「遅刻厳禁だからね」


 カバンをつかんで屋上を後にするツンに座ったまま手をふり、空を仰ぐ。


( ^ω^)「……」

( ^ω^)「はぁ」



( ^ω^)「(アヤカ、クー、ドクオ……不思議なもんだお)」


( ^ω^)「(ほんの1ヶ月前まで会った事もなかったのに、心に大きな穴開きすぎだお)」



36 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 00:56:54.99 ID:zS0Es6NK0

 秋にしては少々暖かい昼下がり。
食事を終え、直後の訓練で魔力を限界近くまで消費したブーンはほどなくして眠りにつく。
学生と魔術士という2足の草鞋を履く彼のつかの間の休息は、担任教諭の全校放送による呼び出しまで続いた。


…………
……



('、`*川「♪どうか〜キャンユーキープマイシークレーット〜っと」


 見舞い客を表まで見送り、ティーセットを洗っていると時間は5時を回っていた。


('、`*川「そろそろ洗濯物を取り入れますか」



 夕焼けで赤く染まる洋館のバルコニーに3人分の衣服と寝具が風で大きくたなびいている。
時折森から流れてくる落ち葉はメイド結界に弾かれ、洗濯物にかかる直前で不自然に軌道を変えていった。


37 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 01:01:53.25 ID:zS0Es6NK0

('、`*川「(そろそろ夕方の生協の方がこられるはず……早く戻らないと)」


 取り入れたばかりの洗濯物を籠ごと両手で抱え、屋内に戻ろうとしてペニサスは歩みを止める。
屋敷を覆うように張った結界は、招かれざる来訪者の存在をはっきりと彼女に告げていた。


('、`*川「……はぁ。チャイムを鳴らすまでは入らないようにと書いてるんですけどねぇ」




 屋敷の周囲は屋敷を中心におよそ半径30M、頑丈な鉄柵で囲われている。
 北と南にそれぞれ鍵のない勝手口がひとつずつあるが、一歩そこを抜けるとそこはもう魔術士の要塞。
無礼な侵入者に向けてのアヤカスフィールの仕掛けた魔術のトラップがそこいら中に仕掛けられている。


('、`*川「(……しかし、妙ですね)」


 とりあえず洗濯物を置いたまま玄関に向かいながらペニサスは思案する。


38 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 01:08:32.72 ID:zS0Es6NK0

('、`*川「(勝手口より内側には人払いの結界が張られているのでまず一般人は中には入ってこれないはず……
   仮に入ってきたとしても、最初の15Mほどは相手を無害化する程度のトラップしかない。
   なのに叫び声も何も聞こえないなんて……)」


 ポケットから取り出したヘッドピースを頭に装着し、念のために玄関脇の迎撃用箒を手に扉を開く。


(‘、`*川「……っ!!」


 彼女の視界ひ広がるのは先ほどまでとは何のかわりもない──魔術や通常トラップ発動の跡もみえない周囲の林。
そしてゆっくりと屋敷へと向かってくる、見覚えのない、赤いマントを羽織った長身の魔術士。
背丈に比べて少々短い宝杖を手に、にやけ顔の男は歩みを進める。


(‘、`*川「……すみませんが」


 3Mにまで男が迫ったところでペニサスが先に声を発した。



39 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 01:13:39.88 ID:zS0Es6NK0
('、`*川「鉄柵に書かれていた通り、ここは私有地です。お嬢様は本日体調が優れずに休んでおります。
   申し訳ありませんが、お引取りいただけませんか」


男「まぁ、硬い事言うなよお姉ちゃん」

 

男「俺はただ『剣士<セイバー>』のサーヴァントをぶち殺しに来ただけだからよ」

('、`*川「──」

 不可解すぎる男の終わる前に、ペニサスは一歩踏み込んでいた


(‘、`*川「ペニサスホーン!!」


 手にした仕込み箒──先端に2キロの鉄を仕込んだ特注品を両手で思いっきり相手の胴体に叩きつける。


40 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 01:17:26.01 ID:zS0Es6NK0

(‘、`*川「……!」

男「おお、こわいこわい」


 全精力をこめた打撃を、男は防御の姿勢もとらずに受け止める。
鈍い音がして折れ曲がる仕込箒。痺れるペニサスの両手とは対照的に、男は微動だにしない。

男「別にあんたはどうでもいいんだよ、用があるのはここのマスターとサーヴァントだけだし」

('、`*川「なおさら行かせるわけにはいきません!」

男「ふぅん、忠実な事で」


 ペニサスの蹴りを右手で受け止めると、男は左腕を振りおろした。



('、`*川「きゃんっ!!」


 防御体勢すらとれず地面に叩きつけられるペニサス。


('、`*川「(い、痛い……でも!!)」

('、`*川「(行かせるわけにはいかない!!)」

41 名前:第33話『天国、陥落す』:2010/08/14(土) 01:21:46.68 ID:zS0Es6NK0

('、`*川「待ちなさい!!」

男「寝てりゃいいのに……」

(‘、`*川「(申し訳ございませんアヤカスフィール様。早く阿部様を呼び戻してください。
   これ以上私ひとりで護りきれません!!)」


 アヤカスフィールに念を飛ばし、立ち上がると再び男に向かいなおった。


('、`*川「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 両手が天馬の軌跡を描き、再び男へと飛び掛る。
ペニサスの拳を受け流し、男の拳が彼女を再度捉える寸前。

 ペニサスの口端が右上を向いた。





('、`*川「メイド秘奥義、『メイドインヘブン』!!」



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 01:26:53.83 ID:zS0Es6NK0

 サーヴァントすら飲み込む『家政婦<メイド>』の最終兵器、固有結界『メイド・イン・ヘブン』。 
世界におよそ88人いると言われる『家政婦<メイド>』の力を結集させ、相手を一時的に世界から離脱させる大技である。


男「……なん……だと」


 今しがたいたはずの屋敷の前からメイド喫茶の店内に移動させられ、はじめて男が驚いたような声をあげる。


男「これは……固有結界。なるほど、こんなモンを持ってるとはね」

('、`*川「正解です。ここではありとあらゆる暴力が拒絶されます」

男「出る方法は?」

('、`*川「私のサービスが終わったら出してあげますよ。安心してください。
   ゆっくり、ゆっくり時間をかけておいしいコーヒーを淹れてあげますから。
   それまでごゆるりとお寛ぎください」



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 01:31:13.70 ID:zS0Es6NK0


男「……面倒くせぇ」


 右手を握り締めると、男は壁を思い切り殴りつける。

('、`*川「無駄です、阿部さんでもここからは力づくでの脱出が…え?」


 男が打った壁──空間に亀裂が走る。


('、`;川「嘘……」



 音をたてて空間が崩壊し、二人は元の世界に着地する。
主を万難から遠ざけるべく、時間稼ぎに特化した固有結界はここに消滅した。


男「時間はあるし、もう自分で探すからいいや」」

('、`;川「逃げてくださいアy


 言葉は最後まで続かなかった。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 01:34:37.64 ID:zS0Es6NK0
 言葉は最後まで続かなかった。

 男が一歩踏み込んで放った蹴りは彼女の腹部に入り、ペニサスは屋敷の壁に叩きつけられる。
彼女の矮躯は壁をぶちぬき、埃ひとつなかった絨毯に瓦礫と少女の血が広がった。


男「お、開いた開いた」


 壊れたばかりの壁を通って男は屋敷へ侵入した。阿部は不在。屋敷のトラップもこの男には関係ない。
 階段を上り、何度か別の部屋をあけた後にアヤカの部屋にたどり着く


男「……あらー」


 頭を抑えて息を荒らげているベッドの主に男は嘆息する。


男「これじゃあアイツを呼び出してもらえそうにねぇなぁ」



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 01:38:04.54 ID:zS0Es6NK0


 1時間後、別世界から現界に戻った阿部がマスター、アヤカスフィールの体調の異変を察知し、
急いで屋敷に戻るもそこにはアヤカスフィールもペニサスの姿もなかった。

 固有結界の消滅を感知し確認にきていたメイド協会の人間に渡された書簡を読み、阿部は臍を噛む。







     「『剣士<セイバー>』のサーヴァント、阿部孝和。
      マスターを返してほしくば今晩9時、VIP川原にて待つ
                        プギャー=ランボルギーニ」



 ラテン語で書かれた誘拐状の末尾に記されたの名前は、十数日前にアヤスフィールと阿部が倒したはずの──

 死んだはずの魔術士の名前だった。


【第33話・終了】
                 →第34話へ続く

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