17 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 01:26:29.46 ID:UZUXDZKp0

@


( ^ω^)「そうだお、クーが大丈夫って言ってたんだお。
   ブーンが信じないでどうするお!!」



 ブーンは走った。
どこまでも駆けた。
全力で帰宅した。
なぜか昨日の国語の時間にやった『走れメロス』を思い出した。


( ^ω^)「(待ってるおセリヌンティウス……じゃなくてクー!!)」

…………
……



18 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 01:31:05.25 ID:UZUXDZKp0

 ライトセイバーが引き抜かれると、傷口からおびただしい量の血液が噴出した。


(,,゚Д゚)「……やられゴホッ ガハッ」


 アサシンが咳き込むと、口から赤いものが地に垂れる。地面にころがった大薙刀。その上に地溜まりができていく。
遠くから見ていたハインリッヒが駆け寄ってくるが、アサシンは彼女の姿を見ないまま、腕だけでその動きを制する。



(,,゚Д゚)「まさか、屋敷中の魔力を“俺を空振りさせるためのおとり”のおとりにするとはな…してやられたぜ」

('A`)「卑怯……とはいわないよね?」

(,,゚Д゚)「当然だ──ぐっ?!」


 地面に膝をつき、アサシンは口をおさえる。それを見下ろし、ドクオはつぶやいた。


19 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 01:35:52.51 ID:UZUXDZKp0
('A`)「……アンタはほんとに強かったよ。武器戦闘の技術も、武器の質も、断然そっちが上だ。
   知名度や霊格──サーヴァントとしての格も、間違いなくボクのほうが下だよ」

('A`)「でも……ボクの勝ちだ。クーのために、ボクは負けるわけにはいかない」


(,゚Д゚)「…………過去形にするにはよぉ……」


 ゆっくりと、アサシンが顔をあげる。口の中にたまった血をいきおいよく地べたに吐きつける。
顔布を外して口元をぬぐうと、止血のため、傷口に押し当てる。


从;゚∀从「?!!」
ξ;゚听)ξ「?!!」
(;'A`)「?!!」


(,,゚Д゚)「まだ早いんじゃねぇかゴルァ?!」


 アサシンは紅く染まった大薙刀を掴むと、血の海の上に再び立ち上がった。

27 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 01:55:17.27 ID:UZUXDZKp0

ξ;゚听)ξ「う、嘘っ?!」

从;゚∀从「アサシン……あんた、まだやるっちゅうんか……」

(;'A`)「(……あれだけ魔力を消費して、傷を負ったのにまだ立ち上がるの?!)」

(,,゚Д゚)「…………ちいっ」


 アサシンが『一凪<ヒトナギを>』を降ろす。自ら構えを解いたその口から、血が零れ落ちる。


(,,゚Д゚)「気力で立ち上がってみたが、やっぱり無理か」


28 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 01:56:38.66 ID:UZUXDZKp0

 石突を地面につきたてるアサシン。大長刀の刃、そして本体の足が僅かに透けていた。








(,,゚Д゚)「俺の負けだ」

31 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 01:58:07.74 ID:UZUXDZKp0

从 ゚∀从「アサシン……」

(,,゚Д゚)「すまねぇなハインリッヒ。負けちまった」

从 ゚∀从「……ええんや。あんた、満足したんやろ? 」

(,,゚Д゚)おう。生きてた時も、こいつほど一対一を楽しめたヤツはいなかったぞゴルァ」

从 ゚∀从「ウチもや。あんたやツンと会えてよかった。楽しかったで、この二週間」

(,,゚Д゚)「はは…………ところで嬢ちゃんよぉ」

ξ゚听)ξ「大丈夫よ。ハインリッヒが令呪を捨てるっていうのなら、別にこれ以上危害は加えないわ。ね、ドクオ」

('A`)「うん。別にボクは敵と戦って、倒したいわけじゃないんだ。アンタと戦ったのも、聖杯で願いをかなえるためだし」


32 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 01:59:22.23 ID:UZUXDZKp0
 だってボクは愛の戦士だから。
 決め台詞のように言い放ったドクオの頭をツンがはたくのを見ていて、アサシンはふと、寺に残してきた少女の事を思いだしていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(,,゚Д゚)「……ならば、何故だ。マスターもいなく、戦闘力も不十分。いつでも死ぬ状態でありながら、なぜそのような事を言うんだ」

(*゚ー゚)「簡単だよ。だって…………」


(*//ー//)「ぎ、ギコ君のことがしゅきだから」

(,,゚Д゚)「……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(,,゚Д゚)「(そういえばあれが初めてだったな……女から好きだ、なんて伝えられたのは)」

33 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 02:02:28.92 ID:UZUXDZKp0

 オボニダーの屋敷に侵入したとき、なぜボロボロになった敵を連れ帰ったのか。
なぜ敵である彼女を気遣ってしばらく山に篭ったのか。
なぜ体調が戻った後も当然のように一緒に生活をしていたのか。

 それは戦えなかった戦士への同情か。怪我に対する気遣いか。暮らしているうちに情が移ったのからなのか


───あるいは、恋愛感情というものを彼女に抱いたからなのか。

 自らのことながら、アサシンはその本当の理由を未だ理解していなかった。


(,,゚Д゚)「(“愛の戦士”なんて堂々といえる馬鹿に影響されちまったのかねぇ……癪だなゴルァ)」

 大薙刀の宝具『一凪<ヒトナギ>』はすでに消えている。
 自らの体を構成していた魔力が霧散していくのを感じながら、アサシンが閉じていた目と口を開いた。
35 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 02:06:58.13 ID:UZUXDZKp0

(,,゚Д゚)「ハインリッヒ、最後にもう一つお願いだ」

从 ゚∀从「ん、なんや?」

(,,゚Д゚)「いや、な。キャスター……しぃのヤツによ。謝っておいてくれないか」


      無事に戻る、って約束を守れなくてよ。


 こうして、日本の誇る大豪傑・武蔵坊弁慶──『暗殺者<アサシン>』は伝説と同じく立ったまま消滅した。
寺でもうひとりのサーヴァントの相手をしつつ、自らの帰りを待っている少女の行く末を案じながら────


…………
……



36 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 02:10:21.29 ID:UZUXDZKp0

( ^ω^)「ついたお!」



 息を荒げながら、自宅をとりかこむ塀に手をつく。
サーヴァントへの絶対命令権────左手に刻まれた令呪が、ブーンの意志に応じて輝いた。

( ^ω^)「クー、戻ってくるお!」


 二本目の令呪が消え、彼方より光がブーンの前に飛んできた。


川 ;゚ -゚)「…………」

( ^ω^)「クー、よかったお! 無事だったんだ」

川 ;゚ -゚)「……あ、ああ。ブーンもよく呼んでくれたな……」

( ^ω^)「当然だお」

37 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 02:13:26.48 ID:UZUXDZKp0

 ブーンがクーの腕をつかむ。
直接触れ合うことでより効率よく、聖杯を介したブーンの魔力がクーの中へ流れこんだ。


( ^ω^)「よし、早速アサシン退治だお」

川 ゚ -゚)「その事だが……ブーン。中にいるサーヴァントの気配は1種類しかないぞ」

( ^ω^)「おっおっお、じゃあツンとドクオがもう倒しちゃったのかお」

川 ゚ -゚)「わからんぞ。もしかしたら逆にやられてるのかもしれない」

(;^ω^)「そ、それはマズいお! 早く中にいくお」

川 ゚ -゚)「(……まぁ、中にある気配はドクオのものだからそれはないけどな。それにしても……)」


 自らの袖を引っ張る若きマスターを見ながら、クーはひとり思った。



38 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 02:15:49.34 ID:UZUXDZKp0
川 ゚ -゚)「(……「一種類しかない」と私が言ったとき、ブーンはドクオの勝利を疑いもしなかった。
   あの二人を信じていたからなのか、あるいは……)」

( ^ω^)「どうしたんだお。早くしないと……」


ξ゚听)ξ「うるさいわねぇ」

('A`)「二人とも、無事だった?」

( ^ω^)「ツン! ドクオ!」



 扉が開いてツン、そしてドクオが顔をだした。

( ^ω^)「ただいまだお!」

ξ゚听)ξ「おかえり。アサシンならもう倒したわよ。そっちは?」

川 ゚ -゚)「……すまない。私には『魔術士<キャスター>』は倒せなかった。逃げ帰ってきてしまった」

('∀`)「気にしないでいいよクー。無事に帰ってきてくれたらそれで十分さ」
40 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 02:18:10.78 ID:UZUXDZKp0

 はしゃぐドクオを見ながら、クーは甲冑の胸を押さえる。そこには真新しい、半分ほど食い込んだ刃物傷がついていた。


川 ;゚ -゚)「(……ブーンに呼び出されなければ、私はあそこでキャスターにやられていた……
   シィナ様……いや、キャスター。いったい何が貴女をそうさせたのですか……)」


…………
……




41 名前:第17話『大立往生』 :2008/01/11(金) 02:19:51.21 ID:UZUXDZKp0

 ラウン寺。
先刻までの戦闘がうそのように、境内は静寂に包まれていた。


(* ― )「……コ君……ギコ君……」


 荒れた地面の中に立つ少女、シィナ=リンゴール=ドヴァ ── 『魔術士<キャスター>』
その顔からは、およそ表情とよばれるものを見て取ることができなかった。


 やがてキャスターは闇に消えた。
山には、魔力の欠片も残されていなかった。


【第17話・終了】
                 →第18話へ続く

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