12 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:01:02.32 ID:tRKY7Y7v0

ドンドン ドンドン


( ^ω^)「ツン、ツーン。早く起きるお!」


 ツービートで木製のドアをノックしているのはブーンこと内藤ホライゾン。
成長期真っ只中なだけあり、着ている学生服はやや袖が短くなっている。
その上から花模様のエプロンをつけているその姿は不可解を通り越して、見るものを愉快な気分にさせてしまいそうな。
どうにも憎めそうにない、親しみを持てる感じの男子中学生である。


ξ#゚听)ξ「うっさいわね! 聞こえてるわよ」


 そんな微笑ましい格好のブーンを、ドアを開けてでてきた少女がにらみつける。猫模様のパジャマ、ボサボサの髪。
半開きの口に手をあて、首をポキポキと左右に曲げた。


( ^ω^)「ツン、おはようだお」

ξ゚听)ξ「おはよ。ご飯は?」

( ^ω^)「あとは焼くだけだお。ツン昨日も夜遅くまで研究かお?」

ξ゚听)ξ「……まぁね。軽くシャワー浴びてから行くわ。もう準備しといて」

( ^ω^)「おっおっおっ、了解だお」
14 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:02:27.05 ID:tRKY7Y7v0
 熱いシャワーを浴び、身支度を整えてツンが居間にやってくると、テーブルにはすでに料理が並んでいた。
彩りよくボールに盛られた野菜サラダ。生ハムを巻いたチーズにゆで卵。トーストからは湯気があがっている。
とても男子中学生が朝から作る食事には思えない。


ξ゚听)ξ「ご、豪華ね……何かあったの?」

( ^ω^)「食後のお楽しみだお。さて、ブーンはもうお腹ペコペコだお」

ξ゚听)ξ「私も。さめないうちに食べましょ」

( ^ω^)&ツン「「いただきます(お)」」


 空腹だったのか、無言で食事にとりかかる二人。ほどなくしてテーブルの上は空の食器だけになった。


ξ゚听)ξ「あー、おいしかった。ごちそうさま」

( ^ω^)「ごちそうさまついでに、特訓の成果を見てほしいお」

ξ゚听)ξ「うーん……」


 壁の時計を確認する。7時半、登校までまだしばらく時間はあった。


ξ゚听)ξ「いいわよ。さっさとしてよね」

( ^ω^)「了解だお!」

15 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:03:47.24 ID:tRKY7Y7v0

 食器を流し台に運び、テーブルの中心に火のついてないアルコールランプだけが置かれる。
1メートルほど離れたところからアルコールランプに向かってブーンが右手を伸ばす。そのそばで腕を組み、真剣な面持ちで見守るツン。
意識を先端の紐に集中。言葉を紡ぎ、力を解放する。

 次の瞬間。
何もないところから炎が生まれ、アルコールランプに点火した。


( ^ω^)「やったお! これで10回連続で成功だお!」




( ^ω^)「ツン、どうかお?」

ξ////)ξ「ま、まぁアンタにしてはがんばったほうじゃない? ほめてあげないこともないわよ」

( ^ω^)「おっおっおっ、この調子でツンを目指してもっとがんばるお!」

ξ゚听)ξ「……あのねぇ。私を目指すなら……」


 部屋に戻り、両手にふたつずつアルコールランプを持って戻ってくとブーンが火をつけたものも一緒に横一列に並べ、ツンは左手を握る。
順番に指を開いていくと、一本の指の先にひとつずつ。合計5つの火球が浮かんでいた。
目を丸くするブーンを尻目に「五指爆炎弾」とかいうツンのやる気のないかけ声で火球は飛んでいく。
全て直撃し、5つの硝子製のランプは全て割れてしまった。
17 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:04:46.21 ID:tRKY7Y7v0

(;^ω^)「す、すごいお……」

ξ゚听)ξ「ふふん……って、アタシのランプ、割れちゃったじゃない! 」

( ^ω^)ン「し、知らないお! ツンの魔術で割れたんだお!」

ξ#゚听)ξ「挑発したのはアンタでしょ!! 398円×4個で1592円、耳をそろえて弁償しなさいよ!」

( ^ω^)「理不尽だおぉぉぉぉぉ!」





 断っておこう。これは魔法ではない。『魔術』という、体系化された技術である。最も、技術といっても誰もが使えるものではない。
何代も代を重ね、魔術回路と呼ばれる回路を体内に組み込んだ人間にして非人間。一般の人たちと
異なる理を持ち、一般社会にまぎれて生きる『魔術師』とよばれる“種族”の技である。
 とはいえ、早い話が『メラ』や『ヒャド』と解釈してもらっても得に問題はない。
要は、この二人は普通の人間にはない特殊な力を持っているのだ。


18 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:06:34.46 ID:tRKY7Y7v0


 ともあれ、登校時間が迫ってきたので問答を繰り返している場合ではない。
二人は手早く割れたガラスを片付け、部屋から通学鞄を持ってくる。
仏壇の前に並び、



              川 ゚ -゚)




( ^ω^)「ママ、行ってくるお」

ξ゚听)ξ「行ってくるわ、義姉さん」


 麦藁帽をかぶったいやに若い遺影に挨拶してから、揃って家を飛び出した



19 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:10:35.84 ID:tRKY7Y7v0



日直「起立、礼!」


 ブーンの所属する付属VIP中学2年B組。一日の授業は終り、委員長の号令とともに生徒たちは
三々五々帰宅しはじめる。


生徒A「よし、放課後だ! 部活がんばるぞぉ〜」

生徒B「ねぇ、帰りにどうする?」

生徒C「クレープ食べたい」

(=゚ω゚)ノ「ブーン、早く行くよぅ」

( ^ω^)「高槻先生、さよならですお」

高槻先生「内藤君に螺雲君、また明日ね」


 親友のイヨゥに続いてブーンも教室を出て行った。
21 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:11:53.37 ID:tRKY7Y7v0

( ^ω^)「……へぇ。ハーフのお客さんかお」

(=゚ω゚)ノ「普通のお坊さんなら珍しくもないけど、美人、それも外国から来るなんてはじめてだよぅ。
   すごくハイで、面白い人だから楽しいよぅ」

( ^ω^)「おっおっおっ、それはうらやましいお」

(=゚ω゚)ノ「ブーンだって美人な親戚と一緒に住んでるじゃないかよぅ」

( ^ω^)「ハーフ、って時点でツンの3倍は強いお。やっぱりおっぱいが大きくないと…」

(=゚ω゚)ノ「そうか? ツンさん、けっこう胸あるじゃないかよぅ」

( ^ω^)「この前、通販で豊胸パッド注文してるのを見たお」


 ブリテン帰りの師匠に聞かれたらとんでもない事になりそうな会話をしながら、帰宅部二人は歩いていく。
Y字路で二人は別れ、ブーンは夕食の材料を買いにスーパーへと歩き出した。

23 名前:第0話『始まりの日』 :2007/07/03(火) 00:13:38.32 ID:tRKY7Y7v0

 その晩。二人は台所にある小さなテーブルで夕食を食べていた。
このだだっ広い屋敷に学生二人だけというのは広すぎる。食事中はテレビを見ないという暗黙のルールもあり、
あたりに家も少ないため聞こえる音といえば、虫の鳴き声くらい。物寂しい食卓である。
最も、当のブーンとツンは気にかけた様子もなく、黙々と箸を動かしていた。

 やがて食事が終わり、箸をおいてツンは大きく欠伸をする。


ξ゚听)ξ「……寝よっと」

( ^ω^)「へ? まだ7時だお」

ξ゚听)ξ「仮眠よ。12時回ったらちゃんと起きるわ」

( ^ω^)「ママが言ってたけど、不規則な生活は健康に悪いんだお」

ξ゚听)ξ「……若いから大丈夫! それよりブーン、あたしが見てなくても魔術の鍛錬はサボっちゃダメよ。
   うまくできてる今が、完璧に身に着けるチャンスなんだからね。あと片付けもおねがい」

( ^ω^)「わかったお。おやすみだお」


 もう一度大きく欠伸をしてツンは自室へと戻っていった。
 その後、ブーンは台所をかたづけて風呂に入り、テレビを見てからジャンプを読み、ツンに言われたとおり
火炎魔術の復習をしてから部屋にもどって床についた。
時刻は11時半。なんとも健全な中学生である。


24 名前:第0話『始まりの日』 :2007/07/03(火) 00:14:32.88 ID:tRKY7Y7v0

 深夜0時。ツンは静かにおきだした。シャワーを浴び、「ダサいから」という理由で普段なら絶対に着ないような
濃い色のローブを身につけ、ツンは自室のベッド下からつながるブーンにも秘密の地下室にいた。
 棚に並ぶのは怪しげな道具や薬。4面の壁には常人にはただの幾何学模様にしかみえない、
魔術師にとっては感嘆すべきレベルの魔方陣が描かれている。
床には壁と同じように魔方陣が書かれた布が敷かれている。緻密で、それでいて真っ赤な陣は
その側に立つ少女の血液で書かれたものだった。


ξ゚听)ξ「(いい感じ……うん。これなら呼べるわ。最強のサーヴァント・『セイバー』を……)」


 ただ静かに、ツンは呪文を紡いでゆく。朝、何気なしにブーンの前でみせた火球の時とは違う、慎重に慎重を重ねた
魔術の発動。音節ひとつ外すことも許されない。なにしろこれから共に戦地へ赴く相棒を呼び出すのだ。
生半可なモノを召還するというのは、即ち死へと直結する。


 やがて最後の一音節を唱え終わる。陣は輝きだし、中心に向かって光が収束する。
光が少しずつ弱まり、魔方陣を見ると、そこには────





────何もなかった。

26 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:15:07.47 ID:tRKY7Y7v0

ξ;゚听)ξ「え?!!」


 そんなはずはない。
過去の伝承、下校中にショボンから聞いた他のマスターの召還情報、自分の技術に今の魔術。
どこにも間違いはなかった。


ξ;゚听)ξ「お、落ち着くのよ素直ツン。だいいち、あれだけ魔力を集めて大掛かりな魔術を使おうとして失敗したのに
   何もないなんてことは……あれ?」




 部屋の隅に、何かがいる。
28 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:16:11.40 ID:tRKY7Y7v0


         |     
          |     
          |  ……ん?   
        ('A`) 
       ノ(へへ────────────────
      /
    /
  /


 見慣れない男が膝をかかえて座っていた。



29 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:17:56.94 ID:tRKY7Y7v0

ξ゚听)ξ「………」

('A`)「…………」

ξ゚听)ξ「………こんばんは」

('A`)「……こ、こんばんは」

ξ゚听)ξ「……えっと、あなたは?」

('A`)「……いちおう『バーサーカー』のサーヴァントだけど」

ξ゚听)ξ「…………」

('A`)「…………」


 その根暗そうな男に、『狂戦士<バーサーカー>』の面影はどこにもなかった。



ξ゚听)ξ「と、とりあえず名乗っておくわ。あたしはツン。あなたのマスターよ」


 なんともいえない状況を打開しようとしたのはツンだった。『バーサーカー』を名のるこの
根暗男の前に左腕を出す。肘のところまで服をまくり、白い腕に刻まれた三画のタトゥーを見せた。


30 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:18:32.59 ID:tRKY7Y7v0
('A`)「う、うん。本当だね…(うわ、肌白いなぁ……)」

ξ゚听)ξ「他のサーヴァントはほとんど召還されている。聖杯戦争はもうじきはじまるわ」

('A`)「それで……えっと……ツンさん?」

ξ゚听)ξ「ツンでいいわ。ところで、あなたの生前の名前も教えてもらえる?」

('A`)「……ドクオ・ナテォウ」

ξ゚听)ξ「ドクオ……聞かない名前ね……まぁいいわ。で、何かしら?」

('A`)「うん、この聖杯戦争のことなんだけど……」

ξ゚听)ξ「7人の魔術師がそれぞれ7つの兵種で英雄と呼ばれる人物を『サーヴァント』とよばれる使い魔的存在として召還し、
   どんな願いでも叶えてくれるといわれる『聖杯』を求めてここVIP市で命がけのバトルロイヤルを繰り広げる
   通称『聖杯戦争』がどうしたの?」

('A`)「(何という説明セリフ……これは間違いなく手抜き)」

('A`)「うん。それなんだけど……」


31 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:19:06.64 ID:tRKY7Y7v0

('A`)「降参しない?」












ξ゚д゚)ξ「       」


('A`)「こっちみんなwwwwwwwww」



32 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:20:28.73 ID:tRKY7Y7v0

('A`)「ボク、とくに聖杯で叶えたい願いもないんだ……痛いのは嫌いだし」

ξ゚听)ξ「…………」


 ツンが固まっている。無理もない。
『バーサーカー』といえば、勇猛果敢すぎる兵種(?)として知られている。
それが召還してみれば開口一番「降参しない?」である。あろうことに、自分が召還された理由を切って捨てたのだ。


ξ#゚听)ξ「何言ってるの?! アンタはあたしが召還したサーヴァントのよ?! きっちり戦いなさい」

('A`)「えー」

ξ#゚听)ξ「いざとなったら令呪で強制的にでも戦t」

('A`)「待って」


 急にドクオの口調が変わった。有無をいわせないその声に、ツンも口を閉ざす。



33 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:21:10.41 ID:tRKY7Y7v0

('A`)「……この建物は結界を張ってるよね?」

ξ゚听)ξ「ええ。誰か知らない人間が入ればわかるし、いざ戦闘の時にはあたし達に地の利が働くわ」

('A`)「サーヴァントがひとり、この結界の中に侵入したよ」
















ξ ゚д゚ )ξ「え?」

('A`)「だからこっちみんなwwwwwwww」
36 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:23:35.46 ID:tRKY7Y7v0
ξ゚听)ξ「そんなハズはないわ。いくら地下室だとはいえ、イレギュラーな存在が中に入ってきて
   あたしが気づかないはずはないもの。結界が破れた様子はないし……」

('A`)「考えられるのは……『アサシン』のサーヴァント。いくらツンが優秀な魔術師でここが優秀な結界だとはいえ、
   闇に生きる暗殺者のサーヴァント『アサシン』なら、それをくぐりぬけるのも可能かもしれない」

ξ゚听)ξ「…………」


 屋敷の結界と、目の前の臆病なサーヴァント。
どちらを信じるべきか。
一瞬だけ迷い、ツンは決断した。


ξ゚听)ξ「……わかった。ドクオの感を信じるわ」

('A`)「よかった。ならする事はひとつだね」

ξ゚听)ξ「えぇ、ドクオ……」

('A`)「ツン……」


37 :第0話『始まりの日』:2007/07/03(火) 00:24:32.69 ID:tRKY7Y7v0

ξ゚听)ξ「戦うわよ」
('A`)「逃げよう」





ξ゚听)ξ ('A`)「「…………」」



 無言でドクオを引っ張り、ツンは自室へとつながる階段をのぼりはじめた。


【第0話・終了】
                 →第1話へ続く

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