- 33
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 21:53:27.54 ID:SMZ82KCiP
早く行きたい、とダイオードがせがむので、僕らは一路自宅へと向かった。
('A`) 観光はしなくて良いのか?
/ ゚、。 / 現地の住宅の中を見るだけで十分観光だ
('A`) それは言えてる
/ ゚、。 / 私の星のように×××で出来た×××とは違うのだろう?
('A`) ごめん。なんて言った?
/ ゚、。 / むう。私たちの住宅の話だったんだが、どうやら翻訳不能のようだ
- 35
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 21:55:59.35 ID:SMZ82KCiP
さして離れていない僕のアパートは、それくらいの会話をすればすぐに着いてしまう。
くたびれた木造アパート。二階の階段わきが僕の部屋だ。
鍵を開けてダイオードを入れてやった。
/ ゚、。 / おお。これが地球人の家
入ってまずトイレや浴槽に繋がる小さな台所があり、そこを過ぎれば僕の居間兼寝室になる。
六畳間に本棚とベッド。小さいテレビとそれらの真ん中に小さなテーブルを置いてある。
箪笥などは収納だから見えることはないが、ダイオードはわざわざそこまで確認してはしゃいでいた。
('A`) おいおい、あんまり漁らないでくれよ
/ ゚、。 / 珍しいものがたくさんあるよ、ドクオ
('A`) そうか。これが有り触れた地球の大学生って奴の住み家だ
- 36
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 21:57:38.44 ID:SMZ82KCiP
ダイオードはしばらく部屋を物色して、やがて木彫りの猫に目を付けたようだった。
インテリアにおいてあった物だ。茶色一色の猫が気だるげに寝そべっている姿を彫った置き物である。
/ ゚、。 / これはなんだ?
('A`) ネコっていうもふもふした生き物を象ったものだ
/ ゚、。 / これ堅いよ
('A`) 木で出来ているからな。本物は温かくもふもふだ
/ ゚、。 / もふもふというのは良いことなのか?
('A`) 素晴らしいことだよ
/ ゚、。 / そうか。本物も見てみたいな
- 39
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 21:59:44.30 ID:SMZ82KCiP
やがて日が傾いてきたので、夕食の買い出しに行くことになった。
そのついでにダイオードはしきりにネコを探していたが、野良の姿さえなかった。
スーパーに着くまでに、ついぞネコを拝む機会はなかった。
/ ゚、。 / がっかりだ
('A`) 帰りにきっと会えるよ
/ ゚、。 / そうだと良いんだが
('A`) それより何が食べたい?
/ ゚、。 / 何、かあ
('A`) 自炊歴はそこそこだから、そこそこ何でも作れるぞ
/ ゚、。 / 私は地球の料理はあまり詳しくないんだが
- 40
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:00:57.96 ID:SMZ82KCiP
('A`) ああそうか
/ ゚、。 / すまん
('A`) でも地球のものを食べても大丈夫なのか?
/ ゚、。 / 味は分からないけど、消化は出来ると旅行代理店で聞いた
('A`) じゃあ良いのかな。今晩は僕の得意料理を披露しよう
- 43
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:02:10.88 ID:SMZ82KCiP
僕は鶏肉に玉ねぎ、牛乳と卵、それとこまごました物を買い物かごに入れてレジを通した。
('A`) 簡単で美味しいという、一人暮らしの男のためにある料理だ
/ ゚、。 / なるほど。そういう素朴なものの方がありがたい
('A`) 素朴かどうかは分からないけど、早さと味にかけては一級品だよ
/ ゚、。 / お腹すいてきたな
('A`) もう良い時間だ。帰ったら早速作ろう
- 44
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:05:18.27 ID:SMZ82KCiP
帰り路もやっぱりネコには会えなかった。
おかしいな。普段なら野良の二三匹は目にするのに、探すと会えないなんて。
でもこんなものなのかもしれない。
/ ゚、。 / もふもふ……本物のもふもふ
部屋に帰ってから、ダイオードはしきりに木彫りの猫をなでている。
よっぽど悔しかったのだろうか。なですぎて表面がピカピカになっても止めようとはしなかった。
('A`) また機会があるよ
僕は台所から気休めを言った。手はかしゃかしゃ卵をかき混ぜる。
よく空気と混ぜるのがふんわりさせる秘訣だ。
/ ゚、。 / 帰るまでに会いたかったなあ
- 45
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:06:55.18 ID:SMZ82KCiP
宣言どうりの手早さで、僕はオムライスを作り上げた。
ふんわりとした黄金色の卵は、我ながら快作だった。
('A`) できたよ。食べよう
/ ゚、。 / ありがとう
('A`) あ、待って。食べる前にこれをかけるんだ
/ ゚、。 / これ?
('A`) そう。トマトケチャップ
/ ゚、。 / 分かった
('A`) それで字か絵を描くのがマナーなんだ
- 47
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:08:56.31 ID:SMZ82KCiP
/ ゚、。 / 何を書いたらいいかな?
('A`) ダイオードはビギナーだから自分の名前がいいんじゃないかな
/ ゚、。 / わかった、じゃあスズキと
('A`) 僕は玄人だから漢字を書こう。鬱、と
/ ゚、。 / ドクオは凄いな
('A`) そうだろう。ちょっとかけすぎたけどね
- 50
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:11:14.51 ID:SMZ82KCiP
/ ゚、。 / うん、おいしい
('A`) それは良かった。作ったかいがある
/ ゚、。 / 卵がとろっとしてる
('A`) 自信作だからな
/ ゚、。 / ×××みたいな味だ。×××というのは私の星の食べ物な
('A`) ところで、星にはいつ帰るの?
/ ゚、。 / ん? 明日の早朝だ
('A`) 早いな。宇宙を超えてきたのに一泊二日か
- 51
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:13:36.56 ID:SMZ82KCiP
/ ゚、。 / 移動時間が長いし、何より安いプランだから
('A`) 仕方がないってことか
/ ゚、。 / そうだよ
('A`) なんか悪い気がするな。せっかくの旅行で相手するのが僕なんかで
/ ゚、。 / そんなことはないぞ
('A`) そうか?
/ ゚、。 / むしろドクオで良かったよ
- 52
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:15:22.25 ID:SMZ82KCiP
/ ゚、。 / さっきも言ったが、私も星じゃ友達いなくてなあ。たいてい独りなんだ
('A`) そう言ってたな
/ ゚、。 / 独りでいると鬱屈としてきてな、ちょっと休暇がとれたんで旅行にでも出ようと思って
/ ゚、。 / この地球に来たんだ
('A`) なんでわざわざ地球なんかに
/ ゚、。 / なんでかなあ。特に理由はなかったけど、ドクオみたいな奴を探しに来たのかもしれない
('A`) 僕みたいな?
- 53
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:17:48.15 ID:SMZ82KCiP
/ ゚、。 / 私と似てる奴
('A`) 似てるのかな
/ ゚、。 / 似てるよ。違うところもあるけど。グレイ型宇宙人みたいな顔で、友達いない奴
('A`) なんか失礼なこと言われている気がする
/ ゚、。 / でも、良い奴だ。私みたいな奴が良い奴だってのは、何か嬉しい。オムライスも美味しいし
――ドクオは良い奴だ。
宿泊を許可したときに、顔を赤くして言ったダイオードの姿を思い出した。
人の好意に素直に喜ぶ、宇宙人には見えない綺麗な女の子。
('A`) ダイオードだって良い奴だよ
/ ゚、。 / そうか。嬉しいな
- 54
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:19:18.40 ID:SMZ82KCiP
そして就寝。
ベッドをダイオードに貸して、僕は地べたで毛布にくるまった。
それくらいはサービスだ。長い惑星間移動に疲れたのか、ダイオードはすぐに寝息を立て始めた。
ちなみに寝巻も宇宙しまむらのものだった。本当にしまむりあんだな、この人は。
寝息に誘われるように、僕もすぐに眠りについた。
次の朝の早朝。ダイオードと出会った浜辺で、僕らは握手をした。
/ ゚、。 / お世話になった
('A`) あっという間に行っちゃうんだな
/ ゚、。 / 安いプランだとこんなものだよ
('A`) 良かったらまた来てよ。今度は長いプランで
/ ゚、。 / 考えておくよ
- 56
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:21:03.17 ID:SMZ82KCiP
('A`) あ、それと
僕は一応持ってきた木彫りの猫を差し出した。
('A`) おみやげ、本当に要らないの?
/ ゚、。 / いいよ。それはもふもふじゃないし
と言って、顎にかけたゴム紐をぴんと弾いて見せた。
/ ゚、。 / おみやげにはこの地球しまむらの麦わら帽子があるからね
白いワンピースに麦わら帽子。ちょっと背は高いけど、よく似合っていた。
/ ゚、。 / これで私の星でも、無敵の夏少女だ
('A`) そうだね
僕が笑うと、ダイオードは何かのスイッチを押した。
海の中から円盤型宇宙船が現れる。本当にあっという間のお別れだ。
- 58
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:22:40.75 ID:SMZ82KCiP
/ ゚、。 / じゃあさようなら。元気でね
('A`) うん、さようなら。そっちも元気で
ダイオードは宇宙船に乗りこんでいく。
僕はどうしてもしっくり来なくて、その背中にもう一度叫んだ。
(*'A`) ま、またな!
ダイオードは振り返ってちょっとびっくりした顔をして。
そしてちょっと、顔を赤らめた。
/ ゚、。*/ うん! また会おう!
ダイオードは宇宙船に乗りこんでいく。
消えるようにして、彼女は帰っていく。
- 61
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:25:22.38 ID:SMZ82KCiP
僕は宇宙船が消えるまで見送ろうと思っていた。
海面からゆっくりと浮上する円盤型宇宙船は実にじれったくて、僕はいっそ早く行ってくれと考えた。
けれど、円盤はサービス過剰で、僕の頭上で一度旋回してみせてから、パッと消えた。
その終わりを、
/ ,' 3「UFOじゃああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
早起きの散歩しているおじいさんに見られたらしい。
そのせいで、僕の町はしばらく新聞各紙をにぎわせることになった。
UFOの現われた町ってね。おじいさんは一躍町のヒーローだ。
UFOどころか、宇宙人本人が町を歩いてしまむらに行ったりネコを探してたっていうのに。
それが、ある夏の僕の思い出。
今のところ、ダイオードとは、それ以来会っていない。
終わり
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