- 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:05:57.53 ID:s8Q6nqpy0
- また朝が来た。
布団からゆっくりと体を起こし、朝食を作る。
朝食を済ませた後、商品の仕込み作業に移る。
「僕」には家族がいない。
鎖はなぜ、僕にこんな孤独を押し付けたのだろう。
支配されている以上、結局誰も会話をする事なんてできないはずなのに。
開店早々店に来る、常連客。
そして現れる、又吉と与力の御一行。
血の海に変わる大通り。
(・∀ ・) お!いいねぇいいねぇ
川;゚ -゚) ひっ!
捕らえられた空。
一足遅れてくる長岡。
_
( ゚∀゚) いいか。あの子は…俺が必ず助ける。どうか任せてくれ。
そして訪れる脱力感。
また1日が終わる。
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:06:47.96 ID:s8Q6nqpy0
- 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:08:13.73 ID:s8Q6nqpy0
- 最近、僕は毎日同じ夢を見る。
支配から解放され眠りにつく間だけ。誰にも介入されない僕の時間。
それは僕が一国の王になった夢。
白い煉瓦で建てられた西洋の巨大な城。
城内に敷き詰められた赤い絨毯。
その絨毯の先にある豪華な装飾が施された椅子。
それは紛れも無い僕の玉座だ。
僕に従える何千人もの家来。
僕の一言一句に歓喜する民衆。
それはとても気分のいい夢だ。
夢の中では僕の体と鎖は繋がっておらず、
毎日王だという事には変わりは無いが
同じ毎日を繰り返す事は無く、次の日には今日とは違う別の行動を取れる。
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:09:49.78 ID:s8Q6nqpy0
- 家来にわがままを無理やり通したこともあった。
家来を残虐な刑で殺したこともあった。
王座を追放され僕が断頭台に立つこともあった。
新しい法律を作り、民衆の力になったこともあった。
様々な毎日が送れた。素直に楽しかった。
僕の楽しみはそれだけになっていた。
もしかしたら、夢こそが本当の世界なんじゃないかと疑ったこともあったが、
やはり夢は夢。
朝起きると夢の内容をまったく覚えていない日だってあるので、
この支配こそが現実なのだ。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:10:49.68 ID:s8Q6nqpy0
- それはある日突然起きたことだった。
(・∀ ・) うひゃひゃひゃwwwたいしたことねぇなwww
この天下の大強盗、斉藤又吉を満足させられる奴はいねぇのかよwww
又吉の叫び声が大通りに響く。
(・∀ ・) お!いいねぇいいねぇ
そして毎度のように鍛冶屋へと向かっていく。
僕が気付いたのはほんの一瞬の出来事だった。
川;゚ -゚) ひっ!
(゚ -゚;川
…ん?
- 146 名前:さるさん喰らった:2010/03/02(火) 21:19:29.76 ID:s8Q6nqpy0
- 又吉は不気味に笑うと彼女を抱え上げ、乗っていた馬に乗りこの大通りを走り去っていった。
その走り去る姿から、うひゃひゃひゃと笑い叫ぶ声と少女の泣き叫ぶ声が聞こえ、
その声はだんだん小さくなっていき、風の音だけを残していった。
あれ?
今、確かに空は…
僕と目が…あった…?
- 148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:20:37.37 ID:s8Q6nqpy0
- 信じられなかった。
けれど、これは気のせいとは言い難い事実だ。
僕と空は今まで目が合うような角度で会ったことがなかった。
それが鎖の縛りだから。しかし僕は確かに見た。
真っ直ぐと、正面から見た彼女の悲しい瞳を。
僕に向かって助けを呼んだかと言えば、確証はない。
見間違い…なのか…?
- 150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:22:15.85 ID:s8Q6nqpy0
- 翌日、同じシーンで彼女は当たりに助けを求めたが、こっちを向かずに普段通りの方向を向いていた。
次の日も、その翌日も確かめたが、やはり目線が僕のほうに向くことは無かった。
やはり見間違いだったのだろうか。
冷静に考えてみれば、動きが変わるような変化など何一つとしてなく、普段通りの流れだ。
やはり見間違いだったのか…。
僕は素直に間違いを認め、またいつも通りの日々を送ろう、と心に決めた。
- 152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:24:15.29 ID:s8Q6nqpy0
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:27:17.41 ID:s8Q6nqpy0
- その日も僕は夢を見た。
今日の夢も僕が王になった夢。
今日は僕の結婚式の夢。
豪華なご馳走、豪華な会場、豪華な衣装。
この国の重役を任される正装を纏った大臣達が会場を埋め尽くす。
当たり前だ。なぜならこの国の王の結婚式なのだ。
豪華でないはずが無い。
そして隣にいるのは僕の妻になる女性。
くるっと女性の顔を確かめる為に首の向きを変える。
その女性は空だった。
川 ゚ -゚)
美しい純白のドレス。首や腕に飾られた様々な宝石。
それらはあの城下町では決して見る事の無い。ドレスであった。
そして透明感のある横顔。
その美しさに僕は動けずにただ見つめていた。
彼女は微笑む。しかしその瞳は僕の顔を向いてはくれなかった。
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:28:46.28 ID:s8Q6nqpy0
- 当たり前だ。
僕は彼女の瞳を見たことが無いのだから。
もちろん夢の中の彼女は喋らない。
僕は彼女の叫び声しか聞いたことが無いから。
僕はゆっくりと彼女の顔に手を触れ、向きを僕のほうへ傾ける。
そこで、僕は夢から目覚めた。とても不愉快な夢のように感じられ、
胸がキリキリと痛んだ気がした。
- 156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:30:46.63 ID:s8Q6nqpy0
- やがて、あれから数日の時が流れた。
僕は毎日彼女の瞳に、吸い寄せられるようになっていた。
あの透き通った混じり気の無い悲しい目を一度だけでいい。
もう一度だけ、正面から見たいのだ。
見間違いなのかも知れない。
それでも。
あの瞳を見たいのだ。
奇跡を信じたいのだ。
僕は空を見る機会があればその姿を目に焼き付けるようになった。
僕はこの街の不条理など忘れ、ただ空を見る事だけに毎日を潰していた。
僕のこの気持ちが彼女に対する恋心だと言うことに気付くのに
そう時間はかからなかった。
- 157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:31:34.46 ID:s8Q6nqpy0
- 彼女と話がしたい。
これが僕の叶わぬ夢であり生き甲斐だった。
こんな街でも生き甲斐を見つけるなど本来ならばありえないのかもしれない。
彼女を見守るという行為おかげでこの日常に対する絶望は無くなった…………
訳ではなかった。
僕にはどうしても、納得がいかなかった。
長岡と言う存在が。
- 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:34:16.16 ID:s8Q6nqpy0
- 僕は空をこんなに愛している。
毎日見守り、毎日想いを寄せ、毎日瞳を捜している。
なのになぜ、何故、彼が彼女を救う者なのだ?
鎖は何故彼を選んだのか?
たとえ無作為に彼が選ばれたとしても僕は長岡が許せなかった。
彼女は僕に瞳を向け僕を呼んだんだ。
長岡…君なんかじゃない。
彼女を思う気持ちが膨らむと共に、長岡に対する憎悪が増していく。
彼女と奴のの姿を見るたびに腹の下に重い何かが溜まっていく。
神様…。あなたがこの鎖を付けた意味は問いません。
でも…どうかお願いします…
僕は…僕は…どうしても空と話しがしたい。
願いはそれだけです。どうか叶えて下さい。
どんなに祈りを捧げても、それが鎖に届くことはなかった。
- 161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:35:53.41 ID:s8Q6nqpy0
- ある日、長岡が空を助けた後、歓喜あふれる町民に囲まれた時、
僕は恐ろしい物を見た。
川 ;−;)
空の二つの目から、零れ落ちる2つの滴。
それは、鎖の事象をひっくり返すような出来事だった。
鎖のせいで僕は…いや、僕たちは涙を流すことができなかった。
しかし、彼女は泣いた。 正しくは泣けたのだ。
どうやって・・・?
- 167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/02(火) 21:54:39.43 ID:s8Q6nqpy0
- そこで僕の脳内に一つの推論が浮かぶ。
もし…もしかしたら、彼女は知っているんじゃないだろうか。
この街のことを。 鎖の謎をを。
けれど鎖のせいでその知を使うことができないのかもしれない。
あの涙はその意味を伝えたかったのではないか、そんな気がした。
僕は馬鹿だった。
彼女を想うのならば、彼女をこの街から抜け出させなければならない。
神様…いつかどこかで願った言葉を撤回してくれますか?
僕は
彼女を助けたい。
この世界から解き放ってあげたい。
この願いが誰かに通じたのかわからない。
ただ僕はこの願いのおかげで、
この後 鎖と闘う機会を得ることができたのだ。
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