- 30
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:39:17.40 ID:cFJpn7Yo0
-
「ではでは皆々様、我等が女神教会立中央図書館書庫はそろそろ閉館し……
む、そこにいるのは……ああ、また君か。熱心ですな、毎日毎日ここに足をお運びなさって」
「む? ははは、なるほど、熱心ではなくただの執着、ときましたか。
いえいえいえいえ、神は固持を罰しませぬ。ならば存分に執着なさるといい。しかし――」
「あなたが執着するそれ……一体全体なんなのですかな。
よもや、いつかの話と関係が? わたくしでよければ、お話くだ――」
(´・ω・`)ショボンと从
゚∀从ハインはドラゴンハンターのようです
- 31
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:40:48.56 ID:cFJpn7Yo0
-
鼻孔をくすぐる匂いは、胃に直接ボディーブローをくらわせているような錯覚をさせる。
視界に広がるのは焦土。瓦礫ばかりの、もとは町だった物。
燻り、黒煙をあげながら天を突く柱。そして崩れた煉瓦。もとは家だった物。
そして、
从 ゚∀从「俺、今後一週間は焼き肉食えないと思う」
ハインリッヒがげんなりと言った。
唇がどことなくべたつくのは、空中を漂う脂肪が付着したからだろう。
タンパク質、アミノ酸、炭素。充満するのはまごうことなき肉の焼ける匂い。
(´・ω・`)「…………」
そしてショボンの足元に転がる、消し炭になった一塊のもとは人だった者。
いましがたまでハインリッヒが見つめていたものであり、ショボンたちが救うべきだった≪人≫だ。
(´・ω・`)「……じゃ、これ終わったらバーボンホームのビフテキ食べにいこうか」
一つ軽口を叩けば、隣にいる相棒に睨まれた。
……確かに不謹慎だったかもしれないと彼は反省する。
-
- 33
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:43:52.69 ID:cFJpn7Yo0
- そして胸の前で十字を切り、我らが神の元へ迷いなく彼、または彼女が逝けるように願った。
せめて安らかに眠れるように祈る。―― 一瞬ではあったが。
失意に肩を落とすハインリッヒを横目に見ながら、ショボンは飛び込んできた依頼について考えてみた。
一週間ほど前、自分の所属するギルドへ飛び込んできたクエスト。
≪町に炎竜、アバタードラゴンが向かってきているらしい。
我々のギルドでも応戦する所存ではあるが力不足が否めないのだ。
恥を忍んで非公式ギルド、≪VIP≫に助力を願いたい。頼む、我々を 救ってくれ≫
ここで簡単な説明をしよう。
ギルド。
これは基本的に、町の自衛やモンスターの狩猟を担う組織体である。
大まかに分類すれば、町や城などに直轄された公式ギルド――騎士団や自衛団なども入る――と、
個々人が自由に参入する非公式ギルドが存在する。
公式と非公式の違いは単純にただ一点。アウトローとそうでないかである。
整理された花壇に咲く花々が公式ギルドだとすれば、野畑に生える雑草がショボンたちの所属する非公式ギルド。
- 34
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:45:27.38 ID:cFJpn7Yo0
-
(´・ω・`)「……恥を忍んで、か」
ショボンはゆっくり息をつく。
思い起こす、殴りかかれたような一文。
公式ギルドからの必死のアプローチ。
ただ一言の切実な願い。救ってくれ。
助けるべきだった人間は、既に炭素となっていた。大方、ドラゴンの炎に焼きつけられたのだろう。
あと一日、自分たちの到着が早ければこうはならなかったのかもしれない。だが現実はそうではなかった。
仕方がないのかな、とショボンは半ばあきらめる。
そしてそれと同時に、それほどのものだったか、と思うのだ。
自然界のヒエラルキー、その頂点に座するドラゴンの脅威は、
強豪ぞろいの彼らですら恐れをなすほどのものなのか。そして強豪ぞろいの彼らですら打ち破れないほどなのか、と。
瓦礫を視界に視線をやりながら、ショボンは嘆息でも漏らしたくなった。
ここまで町を破壊しておき、そして蹂躙しておいても尚、その脅威は――
从 ゚∀从「…………まだここにいるってんだから最悪だ」
ハインリッヒが毒づいた。
- 36
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:47:23.97 ID:cFJpn7Yo0
- 自身の前方三百メートルほど先。辛うじて視覚できるところ。
ちょうど町の中央に、白い巨躯が横たわっている。
疑うまでもない。あれはこの町を破壊しつくした炎竜だ。
微弱にしか動かないところを見ると、眠っているのだろうか。
(´・ω・`)「――このまま見て見ぬふりするってのもありだね。
何せ救助を求めた町長は今頃消し炭だし」
从 ゚∀从「けどそれをすれば」
ハインリッヒの疑念を遮って、ショボンが答えた。
(´・ω・`)「うん、間違いなくアレは王都まで上ってくるだろう」
从 ゚∀从「どっちにしろここで仕留めとかなきゃダメってことじゃねぇかよ……」
そう。それが悩みの種であり、ショボンが嘆息を吐きたくなった原因だった。
一つ山を超えた場所に、この国の首都であるザンツベルクがあるのだ。
万が一あの炎竜、火を眷属にするアバタードラゴンが王都まで上ってくるようなことがあれば――
その被害、甚大などという言葉一つで片付けられる訳がない。
- 37
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:48:56.58 ID:cFJpn7Yo0
- さらに付け加えるのであれば、運の悪いことにザンツブルク直属騎士団、
公式ギルド≪白の跳馬≫の主力部隊は、
北のランゴバルトへ先月から遠征に向かっている。
そんな状況下で町一個が壊滅にされたという情報が市民の耳に入れば町は確実に混乱するし、
商業や経済などといった面への大打撃は免れない。
――それでもザンツブルクの治安が平静を保てているのは、
一重に霊峰バルトキルシャと王の情報規制の手腕によるものと言ったところだろうか。
( ^ω^)「ピーポーピーポー……危険危険危険危険危険危険――!」
ふいに隣から大声があがった。ハインリッヒがそちらをじろりと睨む。
彼らの脇にいたのは、先刻まで無言を通していた一人の男だった。
重厚そうな鋼の鎧。手に持ったのは身の丈ほどもある一振りの剣。
( ^ω^)「危険危険危険――アバタードラゴンは炎を吐く吐く吐く――!」
階級はロードマスター。
剣士最高の誉れにいながら剣を持つと回線がぶちぎれる人間。
名前はブーン・V・ホライゾン。
彼は今回のミッションリーダーであり、二人の同行者である。
- 39
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:50:08.32 ID:cFJpn7Yo0
- 从 ゚∀从「みりゃわかるっての……ッ」
瞬間、語気を強くしたハインリッヒをたしなめるようにショボンは見た。
その視線に気づき、ハインが口を紡ぐのにはあまり時間はかからない。
从;゚∀从「す、すまん」
(´・ω・`)「いいよ、別に。そこまで怒ってない。ただ気配は漏らさないようにね」
溜息を漏らしながらいうショボンに、ハインリッヒは無言でうなづくことで答えた。
そして視線を落とし、足もとの石ころをじぃっと見る。
ハインリッヒなりに反省はしているようだ。そうだ。その通りだ。仲間割れをしている暇はない。
(´・ω・`)「……さぁて、と。どうやって攻略したもんか」
微妙になってしまった場の空気を払拭するべく、ショボンが首を軽く回しながら言った。
ガシャリ、と自分の身を守る鎧から硬質な金属音がなる。
从 ゚∀从「まずは様子を見た方がいいだろうな。作戦会議は苦手だが、策もなく突っ走ったら死――」
次の瞬間である。
珍しく建設的な意見を出すハインリッヒの言葉をそれはもう見事に固まらせる出来事が起こった。
- 40
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:51:14.70 ID:cFJpn7Yo0
-
(*^ω^)「ふぁんふぁあぁあぁあぁあぁあん! 危険危険危険――!」
一人の馬鹿が心地よく眠るアバタードラゴン目がけて突っ込んでいったのだ。
从♯゚∀从「あのブレードハッピーがぁ……!」
憎しみを込めて言うハインリッヒに、今回ばかりはショボンも同意したかった。
……ああ、しまった。かんっっっぺきに、すっかり忘れていた。
様子見とか策略とか計略とか姦計とか、そういうまどろこしいのが大嫌いだったのだ。
自分の相棒と――――同行者は。
- 42
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:52:55.96 ID:cFJpn7Yo0
-
―――――――――――――雷鳴にも似た声が響き渡る。
≪ きゅぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉん!!!!!!!≫
耳をつんざくような高いトーン。
ばさり、と翼が広げられる。逆光のせいで白き王龍はシルエットでしか認識できないが、
それが逆に神々しさを演出させているような気が、ショボンはした。
広げた両羽の大きさはざっと三百メートルほど。
全身を包む白い鱗は、太陽の光を浴びてきらきらと光っている。
眠りを邪魔されたことが頭にキタのか、ドラゴンはしきりに羽根をばたつかせていた。
从 ゚∀从「っ……んにゃろぉ! さっさと死ねってんだよ!」
羽ばたきから生まれた風により、彼方から飛んできた瓦礫を剣で受け流しながらハインリッヒが罵声を飛ばした。
その数歩後方で、ひたすら補助呪文を繰り返していたショボンがバックステップを踏む。
- 44
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:54:06.92 ID:cFJpn7Yo0
- ここまで接近して解ったことではあるが、アバタードラゴンもかなり疲弊している。
――炎竜の背中に突き刺さった何本もの剣。大きくえぐれた腹の肉。
それらすべて、この町の自衛団が命を呈して戦った証だ。
それでも、
(´・ω・`)「…………これは、ちょっと厳しい、かな」
ショボンは眉根をしかめさせながら呟いた。
頼みの綱であった隊長のブーンは一番に突っ込んでそりゃもう無様なことに返り討ちにあい、
アバタードラゴンの尻尾にぷちっとやられてからどこか遠くの方へ叩き飛ばされていた。
突進してこれなど、なんというかはた迷惑な人だ。前代未聞に。
そうやってからショボンは嘆く。
そして既に戦力外通告を受けているリーダーはこの際計算に加えず、
筋肉強化系の呪文をなぞりながら勝算を考えてみた。
- 45
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:55:16.99 ID:cFJpn7Yo0
-
(´・ω・`)「…………」
ダメ。勝てない。王都とか依頼とかどうでもいいから逃げよう。
その結論まで大よそ三秒。
≪パラディン≫の名前が聞いて泣くなぁと思いながら、遅延効果を掛けていた水魔法を解放する。
≪きゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお――!≫
炎を吐く準備をしていたアバタードラゴンが、
突如として自身の頭上に現れた一枚岩のような水に怯んだ瞬間だった。
その機を逃がすまいとハインリッヒが剣を振り上げる。上段の構えのまま、彼女は走る。
- 47
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 13:59:14.81 ID:cFJpn7Yo0
-
≪きゅおぉぉぉぉぉぉぉおおおおお――!≫
目指すはドラゴンのえぐれた腹。ピンク色の鮮烈なそれ。
いや、あるいは、この町の自衛団がドラゴンに最後まで食らいついた勲章。
……とにかく、それへ一撃を下すべく、ハインは駆ける。炎竜まであと3メートルほど。
ハインの靴が砂を噛む。じゃり、と音。
そしてその刹那、轟音と共にドラゴンへ叩きつけられる茫漠な水量。
≪きゅおぉぉぉぉぉぉぉおおおおお――!≫
水魔法発動に少し遅れ、肉壁にたどり着いたハインリッヒが剣を振りおろ、
从 ゚∀从「――――っ」
そうとした時だった。愚かにも彼女は息を呑んだ。
にぃ、と、目の前の王龍が笑ったような気がしたのだ。
そしてハインリッヒが右の視界に、迫りくる一尾の尻尾を知覚したのは、それと同じタイミングだった。
――まるで全てが無駄だ、と言わんばかりのカウンター。
強い衝撃とともに、ハインの体が空中を舞った。
- 48
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:00:22.88 ID:cFJpn7Yo0
- ショボンはその様子を、予感していた絶望と一緒に見ていた。
掛けようとしていた呪文を止め、かわりに彼女の名前を呼ぶ。
(´・ω・`)(くそ、くそ――ッ!)
正直なところ、今すぐにでも彼女へ駆け寄りたかった。
しかしそれをすれば間違いなく王龍は自分へ牙をむくだろう。
ショボンの焦りは濃い。成す術なく、彼は彼女の名前を連呼する。
(;´・ω・`)「ハイン、ハインリッヒ――!」
从♯‐∀从「だいじょうぶ、だっ……!」
かすれた応答が返ってきた。
剣を杖に立ち上がる彼女を見ながら、どこがだ、と聞きなおしたくなる気持ちを抑え、ショボンは決める。
瓦礫の中央に立ちながら、心の中で彼女へ淡く謝罪する。そして言うのだ。
(´・ω・`)「わるい、……あれ、使うよ」
从 ゚∀从「っ、お前、こら、まさか……!」
- 49
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:04:10.57 ID:cFJpn7Yo0
- 自分のしたいことが何か瞬時に理解できたのだろう。まったくもっていい相棒だ。
ショボンは笑い、興奮からか自身の体をのたうちまわる魔力の奔流を必死に宥める。
从 ゚∀从「やめろ、こんな奴、こんな雑魚、すぐに蹴散らす! すぐに殺すから……!」
もうボロボロのハインが何か言っている。聞こえない。
从 ;∀从「だから、やめろ、破るのか、誓いを!」
彼女が懇願する。聞こえない。聞く耳などない。
そんなもの、僅かばかりの生への執着と一緒にそぎ落とした。
……正直に言おう。勝つ可能性を打算した次点で、なんとなく予感はしていたのだ。
自分はきっと、あの誓いを破るのだろうと。だからショボンはこう返す。
――最後の意地くらい、精一杯張ってもいいだろう?
(´・ω・`)「五カ条か? はん、そんなもの、くそっくらえだよハインリッヒ。
僕は、≪パラディン≫ショボン・バーボンザンブルクは、組織の信条より好きな女の子のために命をかける!」
言いきった。自分でもすがすがしいほどだった。
ショボンは剣を抜き、先刻は失敗に終わった炎を吐く準備を再度する炎竜――アバタードラゴンを見据える。
- 50
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:06:02.62 ID:cFJpn7Yo0
-
ああ、だから、震える自身の足に告げようじゃないか。
そう思い、ショボンは睨む。龍を。彼女を。
(´・ω・`)「迷いなど微塵もあるものか」
- 51
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:06:53.20 ID:cFJpn7Yo0
-
「ああ、いい、覚悟だお」
ふいに、背後から声が響いた。
それはブーンの声だった。
振り返るような真似は出来ない。今はあの憎たらしいドラゴンに隙を見せれない。
だからショボンは、きっと彼はゆらりとゆらりと揺れながら立っているのだろうと予想する。
背中越しから聞こえてくる声はまるで穏やかでまるで不確かで、しかし自分にとって絶対なのだ。
だからこそ彼の言葉は神様のそれのようだとショボンは嘆きたくなるのだ。
- 52
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:07:38.93 ID:cFJpn7Yo0
- いつのまにか返り咲いていたブーンが言った。
( ^ω^)「祝詞をやるお、≪パラディン≫ ショボン・バーボンザンブルク。
【謳え祈れ抗え守れそして世界を回せ回せ回せ。
五カ条破り、身を切り裂きて巨龍に立ち向かうならば、それもまた良し】――!」
ショボンはこう返す。
自分にとって、そしてハインリッヒにとって絶対者であるブーンに。
(´・ω・`)「……ありがとう、≪ロードマスター兼ギルドマスター≫ ブーン・V・ホライゾン。
それじゃあいくよ。――――≪箴言、その二十二≫――――」
紡ぐ呪文。それは神様から与えられた最終手段。
(´・ω・`)≪我乞い、我願い、汝奉り享受せしめん――≫
箴言その二十二。
- 54
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:11:25.19 ID:cFJpn7Yo0
- 箴言は大型魔術を差す。そして、
(´・ω・`)≪我が地位は宮殿の高官 故に我が身は神罰の代行
故に我が魔力は叛旗への終審 故に我が言葉は汝の怒り
パラディンの役職の元、全ての不義に抱擁を――!≫
その二十二番。
それは神の加護を受けた、捨て身の攻撃を差す。
魔力のタンクをからっぽにする代わりに、命のエネルギーをゼロにする代わりに、
確実に敵を爆砕し制裁する、まさに正真正銘の自爆呪文。
ショボンを中心にして、強烈な光が瞬いた。
世界の全てを包み込むような柔らかい光。そして感じるのは、膨大な魔力の爆ぜ。
从 ;∀从「ばか、やろ……」
消えかかる意識の中、ショボンは泣き出しそうな相棒の声を聞いたような気がした。
- 55
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:12:42.75 ID:cFJpn7Yo0
- ―――――――――――
(´・ω・`)「あー、無理無理無理ー死んじゃうー僕ご臨終しちゃうー」
从 ゚∀从「………………」
全身包帯ぐるぐる巻きの男がそう言い、その隣にいる少女は無言で水晶を磨きあげていた。
ここはとあるギルドの地下室。
割と広いじめっ、とした湿気ある部屋に転がるのは、水晶球に水晶球に水晶球。
……とにかく、見渡す限りの水晶玉である。ついでに言うなら四隅にはうずたかく積まれた水晶玉の山。
(´・ω・`)「五カ条破った罰が水晶磨き一万個ってどうなのかな。
甘いような、鬼畜のような。なんともかんとも。
……あ、ヤダいま僕ぺろっと卑猥なこと言っちゃ――」
从 ゚∀从「黙れ」
(´・ω・`)「うわ酷いねハインリッヒ」
从 ゚∀从「……つかなんでお前生きてるんだよ。自爆呪文使ったら普通死ぬだろああ?」
(´・ω・`)「えー、ほらー僕は≪パラディン≫だからねー。神様に愛され系のモテボーイっていうかねー」
- 58
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:26:01.66 ID:cFJpn7Yo0
- 水晶玉を磨きあげながら、ミイラ男がのんびりと言った。
同じくその動作をしていた少女が男を睨む。
(´・ω・`)「……はいはい。ここでネタばらしタイムね。箴言その二十二は誰にでも使えるんだよ」
从 ゚∀从「それくらい知ってら。で、一般呪文の諫言は専門の人間にしか使えないんだろ?」
(´・ω・`)「まね。ま、素質と努力さえあれば諫言も使えるけど」
从 ゚∀从「で、それがなんでお前が生きてるのと結びつくわけ?」
(´・ω・`)「箴言その二十二の特徴しってる?」
从 ゚∀从「……魔力のタンクをからっぽにする代わりに、
命のエネルギーをゼロにする代わり、に発動する呪文」
(´・ω・`)「そう言うこと。つまりは、どっちか選ぶのよ。命か、魔力かをね。
当然命を選んだ方が威力は強いけど、魔力を選んでも箴言は効果を発揮する。
一般的にこれが命テイクの絶対威力ギブ呪文だって思われるのはそのせいだね。
箴言その二十二を出すなんてのはよほど切羽詰まった状態しかないし、
その上そう言う場合の術者の大半は魔力を持たない一般冒険者。自然、命の方を選ぶしかなくなる」
説明口調でいい、ショボンは軽くウィンクする。
げんなりといった感じにハインはそれを見て、
从 ゚∀从「お前は魔力の方を選んだのか」
(´・ω・`)「イエスユアパートナー。
でもね、僕が魔力を選べたのは――――あの人たちのおかげさ」
しんみりとショボンが言う。
ハインの頭にフラッシュバックする、炎竜の背中に刺さったいくつもの剣。そしてえぐれた肉。
それを比喩するなら。ハインリッヒに言わせてもらえるならば『勲章』としか思えない。
- 59
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:29:27.11 ID:cFJpn7Yo0
- 从 ゚∀从「……神様に愛され系のモテボーイねぇ。
……つかそれ逆に嫌われてるから死ねないだけ何じゃねぇの?」
(´・ω・`)「あはは、そうかも」
ミイラ男がやんわりと笑う。
水晶玉をもった少女はその反応が満足いかないのか、
そうかよ、といったきり無言でまた水晶玉を噴く作業に戻った。
(´・ω・`)「あー、ハイン、これ僕の罰なんだし、無理に付き合ってくれなくてもいいんだよ?」
从 ゚∀从「……………」
やめる気はないのか、それとも聞く耳をもたないのか、
ハインリッヒは手に持った水晶玉を離さない。
……まるでいつかの自分のようだ。
はたしてその真意、同情からだろうか。それともパートナーなりの連帯責任だろうか。
いくらか思案し、どうせ答えは出ないものとショボンはあきらめる。
水晶玉を手に持ちながら、のんびりと言った。
(´・ω・`)「非公式ギルドVIPの五カ条その三、≪自爆呪文は使うべからず≫、かぁ。
僕らなんてしょせんは捨て駒なんだからそれ位バンバン使っていいだろうに。
……まったく甘ちゃんだね、僕らのギルドマスターは」
剣を持つと人変わるけど、と付言する。本当にはた迷惑な人だ。うちの上司は。
- 60
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:30:46.51 ID:cFJpn7Yo0
- 从 ゚∀从「…………」
(´・ω・`)「ん? どうしたの、ハインリッヒったら真っ赤になって」
从 ゚∀从「…………」
(´・ω・`)「あ」
ショボンが声を上げる。なにか思い立ったところでもあったのだろうか。
(´・ω・`)「ああ、そうかそうか。うん、あれはとても愛の籠った告白だったよね」
从 ゚∀从「!」
(´・ω・`)「≪僕は、≪パラディン≫ショボン・バーボンザンブルクは、組し≫」
从#゚∀从「ええぃ黙れ黙れ黙れっ!」
ぎゃーと声をあげた相棒に、ショボンはいよいよもって笑ってしまった。
ビジュアル的に笑えるのはむしろ自分の方だけれど、
顔を真赤にしんがら照れる初心な相棒が、なんだか微笑ましかったのだ。
- 61
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:31:26.33 ID:cFJpn7Yo0
- (´・ω・`)「ねぇハインリッヒ」
从 ゚∀从「…………」
むす、っとしたままのハインにかまわずショボンが続ける。
(´・ω・`)「あと八千七百六十個、頑張ろうね」
从 ゚∀从「……そうだな」
憮然そうにぽつりと返された言葉に、ショボンはまた笑う。
夜はまだ長く、拭くべき水晶の数は膨大で、だから彼は少しだけゆったりと、
ああバーボンホームのビフテキが食べたいなぁと思ったのだった。
- 62
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 14:32:11.65 ID:cFJpn7Yo0
-
――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
「――――――――――。なるほど。なるほど。なるほどなるほどなるほどなるほど!
その名を聞くのは久方ぶりです。その名を呼ぶのは久方ぶりです。
そうですか、貴方はあの≪幻竜≫を追っていらっしゃると!」
「――ふ、ふふふふふふふ、ならば一つの話をしましょう。……ご存知ですか?
……ええ、ええ、ええ、ええ、そうですともそうですとも。ええ、ええ。
この話は彼らの話 私どもの話 とどのつまり人間の話。そしてそしてそして、」
≪ ある男と少女の話でございます。
≫
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