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名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:12:02.27 ID:cFJpn7Yo0
- 「はいはい、いらっしゃい。こんな夜更けにどうなされた。
我等が女神教会立中央図書館書庫に、いったいぜんたいなんの御用でs……」
「……ふむ、この世に相応しい支配者が誰かってのを知りたい、とね?」
「そうですか、ならば、古い伝奇を紐解くといいでしょうな。
そこに高確率で刻まれている言葉があります」
≪龍≫
「……そうだ、じゃあ、古い伝承を聞くといいな。
そこに必ず刻まれている言葉があるだろう」
≪龍≫
「「彼らこそ自然界のヒエラルキー、その頂点に座する種。
純粋な暴力。純粋な破壊。どこまでも無垢な絶対。
それらを全て兼ね備える、世界が生んだ純粋な王者」」
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名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:14:57.87 ID:cFJpn7Yo0
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「んん? いやいや、待ちたまえよ。
まだこの世の支配者が龍だとは決まっていないぞ」
「そうですとも。それらを上回る種が存在するのです。
彼らは神の御名の元、言葉に魔力を託し 常世に溢れるありとあらやる事象を掌握するのです。
そしてまたあるいは、その逞しい両腕で剣を奮い槍を突き屠るのですよ」
「「そうですそうです。ええ、それこそが――――」」
(´・ω・`)ショボンと从
゚∀从ハインはドラゴンハンターのようです
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名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:16:26.97 ID:cFJpn7Yo0
-
地竜はどこかにいる。しかしどこにいるというのだ。
神官であり剣士でもある≪パラディン≫のショボンは、柄にもなく焦っていた。
伯龍とも名高いニーズベック種を、根城であったザンツブルク東の森から
目立った障害物がないこのルグニカ平野までおびき寄せたところまではよかったが、
肝心のそれの姿がないのは困ったものである。
この場所にいるのは確かなことなのに、姿が見えない。
索敵すれども気配すらつかめず、それがまたショボンの焦りを増長させていた。
もっとも、それもそのはずなのかもしれない。
見つけて早々に駆除しなければ、自分たちの命が危ないのである。
先に説明をしておこう。
地竜であるニーズベック種は一城ほどの大きさを有しながら、自らの気配を消すのが抜群に上手い龍である。
しかもその攻撃力は並みいる龍を押さえてトップクラスに位置し、ただ一度咆哮しただけで
衝撃波により町が瓦解するとも言われているほどなのだ。
- 5
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:17:32.27 ID:cFJpn7Yo0
-
(´・ω・`)「……だからに死角の多い森からここまで引きずり出して来たというのに」
ショボンは小さく歯噛みした。
相手の尻尾をつかむことすらできないなどと、ドラゴンハンターとしてあるべきではない失態である。
嘆息のような息をつき、それと一緒に言葉も吐きすてる。
(´・ω・`)「第一、あの巨躯が気配を完璧に消していたとしても、
それを僕たちが視覚出来ない道理はな――」
その思考がよぎった瞬間、ショボンは口をつぐんでしまった。
そうか、最も肝心なことを忘れていた。基本過ぎて見落としていた。
ニーズベック種は気配を消すのに長けた龍だ。
しかしそう言えども、あいつらは元々――
- 8
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:20:39.69 ID:cFJpn7Yo0
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(´・ω・`)「ハイン、下だ、≪地竜≫は下にいる!!」
从 ゚∀从「わぁってる。俺も今、そう思ったところだよ。
さぁて、誉れ高い大地の伯龍のお出ましたぜ――!」
答えるか、アクションを起こすが早いかのタイミングで彼女は手に持っていた細身の長剣を地面に突き立てた。
ざくり、と生々しい音がする。地面に剣が生え、
――――――。
ただ一瞬の静寂の後。
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:22:57.54 ID:cFJpn7Yo0
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≪ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!≫
比喩誇張なく、大地の底から突き上げる咆哮だった。
その轟音と共に地盤がぐらつき、ハインリッヒを中心として大地が隆起する。
両の足でふんばりをきかせ、ショボンはなんとか立っていた。
ああ、帰ったらバーボンホームで一杯やりたいなぁなどと場違いな思考を疾走させながら。
衝撃は強い。
割れた岩盤の隙間から覗く土のそれよりは幾分も硬質そうな赤茶色。――鱗だ。
両脇にあるのは、見開かれた鮮烈な金色の瞳。
そしてその中央、人間で言うところの眉間にハインリッヒの剣が突き立てられていた。
そここそ、先刻まで探し、極限まで焦らされていた地龍の頭。
次にくる反撃に備えハインリッヒが身を固めたと同時に、ショボンが神聖呪文を紡ぐ。
- 10
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:29:13.20 ID:cFJpn7Yo0
- 剣を掲げ、自分の体の中にある魔力の把握と制御を同時進行。
(´・ω・`)「 ――≪諫言二種その十六≫―― 」
間に合うか、と内心少しばかり焦っていた。
しかしそれにより呪文を紡ぐリズムが乱れてはいけない。
ショボンはそろりと息をついてから慎重に、けれども素早く魔力を生成する。
諫言二種その十六。
≪諫言≫は一般呪文、二種とは地属性の魔法を差す。
そしてその十六番は、主に身体強化を目的とした補強呪文。
(´・ω・`)≪我乞い、我願い、汝奉り享受せしめん――
神の福音の元、強固なる大地精霊、ノームの護りを――!≫
ショボンの右手を光源として、魔力を帯びた白光が瞬いた。
それは一尾の光線となって前方へ飛ぶ。目標は――ハインリッヒの体だ。
- 14
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:32:37.62 ID:cFJpn7Yo0
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从 ゚∀从「っ、サンキューなぁ……!」
暖かな光に包まれながらハインは言う。
(´・ω・`)「どういたしました」
ショボンが軽く笑った。
≪ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!≫
唸る。咆える。大地が揺れる。
それは地竜が最後に挙げる、最大級の猛りの声。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
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名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:35:30.61 ID:cFJpn7Yo0
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从♯゚∀从「待った待った待った待った何なんだよこれ なんなんだよこれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
川д川「お客さま、ギルド協会内ではお静かにお願いします」
ハインの怒声を静止する抑揚のない声が響いた。
(´・ω・`)「…………」
怒気を隠そうともしない相棒を隣に据えながら、ショボンは渋い顔付きをしていた。
二人の現在地はギルド協会ザンツブルク支部。
(´・ω・`)「…………」
苦渋に満ちた表情のまま、ショボンはあたりを軽く見渡す。
横に一閃、ずずいと伸びるカウンターにむらがる人だかりに、
入口付近の壁に張り出された自由消化クエストを見にくる人間。
石造りのその空間は、多くの人で今日も今日とて賑わっていた。
かく言うショボンとハインリッヒもその内に含まれている。
彼らはカウンターに膝をつき、体を寄りかからせながら
向かい側の黒色のローブを纏った(ギルド協会の制服だ。)女性に話かけていた。
- 16
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:37:52.48 ID:cFJpn7Yo0
- その向こうでは、同じくローブを着た人たちが
忙しなく、書類を持ったりファイル片手に行き来している。
从 ゚∀从「あ、ああ、すまん。……って、おいコラ女狐」
川д川「ギルド協会 レファレンス係 ギルドナビゲーションとお呼び下さい」
あくまでも冷静に反論するギルドナビゲーション。
胡乱な瞳にハインが映り、少女はその色のなさに思わず一歩後ずさる。
(´・ω・`)「えーっと、ギルナビさん。……これ、何ですか?」
ショボンは意を決して発言した。その手にあるのは、一枚の用紙。
非公式ギルドVIP様へ、とあり、送り主はギルド協会ザンツブルク支部。
今回の狩り、その成功報酬の明細書であった。
川д川「ギルナビさん……すてきなおなまえ。……失礼いたしました。何とは?」
(´・ω・`)「僕らが狩ったのはニーズベック種――大地を眷属にする伯龍、でしたよね?」
確認するようにショボンが問い、
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:39:02.67 ID:cFJpn7Yo0
-
川д川「はい、我々ギルド協会狩猟管理局 ギルドイエーガー係が確認しました所、
貴方様方が狩られたのは確かにニーズベック種、大地を眷属にする伯龍でございます」
当然のようにギルナビが返した。
手違い、という可能性が切り捨てられ、いよいよもってショボンは溜息をつく。
自分たちの狩った龍はランク三位の≪伯龍≫――ともすれば。
(´・ω・`)「ならなんで……こんなに報酬額が少ないんですか?」
おかしいじゃないですか、と言外にその意図をこめ、ショボンは手に持っていた用紙をカウンターにつきつける。
ふと横目にやれば、しきりにハインリッヒが頷いていた。
川д川「…………」
ギルナビの表情に変化はない。
ただ彼女は無言でショボンを数秒見つめただけだった。
そして言う。あくまでも、淡々と。
- 18
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:43:03.71 ID:cFJpn7Yo0
川д川「――ルグニカ平野には、沈静効果があり≪オニキスの午睡≫の特効薬にもなる
薬草ルグニカ草が唯一自生しているのでございます」
事実のみを切り取って報告しているかのような冷淡さである。
いや、それはまごうことなく事実なのであるが。……とにかく、その言葉の中に、
なんとなく許容しがたい部分を聞いたような気がする。
(´・ω・`)「……まさか」
嫌な予想が脳裏をよぎり、ショボンはかすれた声を出した。
ハインリッヒもなにかしら感づいたのだろうか。カウンターに突っ伏して頭を抱えている。
川д川「貴方様方が伯龍と交戦場所は覚えておいでですね? はい、ルグニカ平野です。
そしてその結果、その場所がどうなったかは……」
(´・ω・`)「ルグニカ草……生えてたんですね?」
川д川「肯定します。付け加えるならばポイントX0.37はその養殖場でした。
地主からの抗議に基づき、その被害総額を報酬から天引きさせていただいた次第でございます」
- 19
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:44:29.66 ID:cFJpn7Yo0
-
やっぱりかぁぁあぁぁああ!! と言う悲鳴が隣からあがった。
やっぱりとはなんだ相棒。やっぱりとは。と思うものの、突き返された事実にショボンは少しだけ泣きたくなる。
(´・ω・`)「この状態、言うなれば――」
川д川「自業自得ですね」
やはりギルナビはただ酷薄に真実だけを告げてきた。
肩を落とし、返した踵。その背中にかけられる言葉は、
≪我々ギルド協会レファレンス係 ギルドナビゲーション一同は、
全てのギルドに属するギルダーに対し、彼らがより心良く、爽やかに職務を全うできるような
清潔で完成された環境作りに日夜取り組んでまいります。では、ごきげんよう≫
無駄にいい声で、そして声だけは軽やか。――あのギルナビの声だった。
流行りのツンデレかよ、とハインが愚痴り、元はと言えば君がね、とショボンが掘り返す。
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名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:52:14.57 ID:cFJpn7Yo0
- 意気消沈しながらギルド協会を後にする二人。
(´・ω・`)「…………あー、一杯やーりーたーいー」
ぼやく男。≪パラディン≫名前はショボン・バーボンザンブルク。
从 ゚∀从「…………あー、早く寝てぇー」
ぼやく少女。名前はハインリッヒ。
二人は、
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- 21
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/29(火) 12:52:25.97 ID:cFJpn7Yo0
「さて、お話の続きでしたな……」
「神の御名の元、言葉に魔力を託し 常世に溢れるありとあらゆる事象を掌握する種族。
そしてまたあるいは、その逞しい両腕で剣を奮い槍を突き龍を屠る種族」
「「そうですそうです。ええ、それこそが――――」」
≪我々人間なのですよ≫
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