2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:10:02.72 ID:iRN0Z+vk0
 
( ´W`) 「おうおうねーちゃん達、そったらトコでなぁーにやってんだぁ?」


 一人の男が、赤ら顔を左右に揺らしながらふらふら近づいてきた。
 もじゃもじゃの髭に薄汚れたコート。 どうやらこのあたりに居を構えるホームレスらしい。


川 ゚ -゚) 「……なぁに、ちょっとした痴話喧嘩だ」

( ´W`) 「そうかいそーかい。 わけぇってのはいいもんだなあー」


 気さくというか呑気というか、何も知らない男はそう言ってへらへらと笑い顔を傾けていたが、
 女がにらみ付けると、幾分ばつの悪そうな表情になって橋梁の方向へと離れていった。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:12:50.61 ID:iRN0Z+vk0
 
川 ゚ -゚) 「おい、どう思う」


 ホームレスの背中が小さくなったのを確認し、女がぽつりと呟いた。

 おそらくその言葉は俺へ向けてのものなのだろう。
 対する俺の口からは 『 ごぼ 』 というおよそ返答とは呼べないような音が漏れ、
 それを聞いた女もまた、返事の代用として、掴んだ俺の襟元をさらに強く締め上げる。


川 ゚ -゚) 「実に屈辱的だ。 あんな言い訳が通用してしまうとは」

('A`;) 「ご、がぼぼ、ぶげ……」
  _,
川 ゚ -゚) 「痴話喧嘩? この私が貴様なんぞと痴話喧嘩だと?」


川 ゚ -゚) 「笑えない冗談だな」


 ──言い放ったのは自分だろうに。
 突っ込む暇もなく、俺の口蓋をさらなる水流が圧迫した。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:16:03.55 ID:iRN0Z+vk0
 
●第九話 『 河原での攻防 ── V.S クーA 』


(゚A゚||) 「もががっ、ごぼ……」

Σ('A`;) 「ぶはぁっ」


 苦悶に喘ぐ俺と、無表情でそれを見下す眼前の女。
 我々の様子は、傍目には乳繰り合っているようにしか映らないのだろうか。 


川 ゚ -゚) 「そら、飲み足りないのならまだまだあるぞ」


 俺は川を背に直立した姿勢で、正面から女に襟を掴まれていた。
 さらには、水面から突き出した触手のような水の縄に後ろ手を拘束されている。
 川原の淵に立っている……というより、立たされている状態なのである。
 
 スーツの彼女に首根っこ掴まれ詰め寄られる彼氏。
 まあその、たまに見かけないことも無いでもない、そんな構図じゃないだろうか。


('A`;||) 「ひいぃぃ……」


 まさかこのやり取りを一瞥して、男が超能力者のエージェントに一方的な拷問を繰り返され、
 現在進行形で助けを求めているのだと理解できるほどに想像力豊かな者はいまい。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:19:06.04 ID:iRN0Z+vk0
 
 何度か水を飲まされたあと、ぐったり脱力した俺に向かって女は言った。


川 ゚ -゚) 「さて、貴様は私のセキララなプライベートに土足で踏み込んだ」


 どちらかというと、俺の平和な日常を蹂躙しようとしているのはそちらではなかろうか。


川 ゚ -゚) 「それだけでも、万死に値しさらに倍のハイパーダイナマイト大罪に違いないわけだが、
      加えてお前は盗人ときている。 国宝級のクソ野郎で下衆でウンコでしかも不細工だ」

('A`;) 「……だから、俺、は……」

川 ゚ -゚) 「ああ、まずは依頼主にお前の素性を知らせないといかんな」


 俺は視点も定まらぬ状態のまま、その言葉を脳内で反芻した。

 つまりこいつは、俺の持っている(正確には『 持っていた 』) 、
 箱の回収を請け負った女であり、チャネラーであり、水を操る超能力者だ。
 浄水器の営業レディとはかりそめの姿だろう。

 ” 何でも屋 ” を自称していたが、単独で動いているのか、はたまた組織的に仕事をこなしているのだろうか。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:22:05.90 ID:iRN0Z+vk0
 
川 ゚ -゚) 「内藤ドクオ。 メゾン ・ ド ・ ビコーズ203号室の住人。 一人暮らし。
      平日昼間に御在宅という点よりフリーターもしくは無職と推測される。 そして極めて不細工」


 事前にリサーチした結果だろうか……? なんて考えてはみたが、
 なんのことはない、今日の訪問にてわかった事実を並べ立てただけだ。 不細工なんてただの主観だし。


('A`;) 「ちが……盗って……なん……」

川 ゚ -゚) 「おっと」

(゚A゚||) 「ぅぐえっ」


 項垂れた俺の頬が手の甲へ触れそうになった。
 そのことに気づくと、女は掴んだ襟ごと俺の胸を押しのけてそれを回避した。


川 ゚ -゚) 「危ない危ない……危うく触れるところだった」
  _,
川 ゚ -゚) 「お前の肌に直接触ってしまうと、どういうことか私の能力がリセットされるんだよな」

('A`;) 「う……うう……」

川 ゚ -゚) 「相手の能力の解除。 それがお前の能力なのだろう?」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:25:17.86 ID:iRN0Z+vk0
 
('A`;) 「……そ、そうd」

川 ゚ -゚) 「まあ、そんな事はどうでもいいがな。
      肝心なのは、 ” 箱 ” の入手ルートに関する情報だ。
      さあ言え。 お前のバックには誰がついているんだ?」

('A`;) 「……だから、違うんだ、俺は……」


 俺は辟易した。 なにせ、アパートにいたときから一向に話が進展していない。


川 ゚ -゚) ( ” スイッチ ” されると厄介だ。 優位を保っている間に話をつけてしまおう)

川 ゚ -゚) 「選ばせてやる。 ここで答えて自由になるのと、依頼主に引き渡されるのとどっちがいい?」

('A`;) 「どっちも……イヤで……」

川 ゚ -゚) 「あ? 殺すぞ」

('A`;) 「スミマセンデシタ」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:28:23.28 ID:iRN0Z+vk0
 
川 ゚ -゚) 「はあ……埒が明かん。 いい加減に目的を話せっての」

ヾ('A`;) 「だ、だだだから違うんだよ! アレは雨の日に通行人から……」

川 ゚ -゚) 「ふんっ」


 女の膝が下腹部にめり込み、俺はひとしきり悶絶した。
 

Σ(゚A(`||) 「ぶげっ」

川 ゚ -゚) 「どさくさに紛れて触ろうとするんじゃない」


 まるで痴漢に対する物言いだ。
 こうまで理不尽な扱いを受けるに至った元凶……。
 あの箱って、いったいぜんたい何なんだろうか。

 しかも、その中身を飲んでしまったなんて知られたら、俺は、果たして。
 ……生きて、帰れるのかな。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:31:44.45 ID:iRN0Z+vk0
 
 顔を上げると、霞がかった視界の端にランニングする高校生たちの姿をとらえた。
 部活の練習中なのだろう。 ジャージに身を包み、笑顔で川沿いをだらだらと走り抜けていく。
 土手の上では手をつないだ親子連れがのんびり帰路を辿っている。

 平凡な日常の光景がそこにはあった。
 昨日までは俺の隣にもあったはずの、それ。

 
川 ゚ -゚) -3 「まだ余裕がありそうだな。 よーくわかった。 よし」

川 ゚ -゚)ノノ 「これ以上白を切るつもりなら〜、こっちにも考えがあるわよ〜ん」

('A`;) 「……?」


 女がそう言った瞬間だった。
 後方から伸びた水の触手が、俺の唇を割って再度進入してきたのだ。


Σ(゚A゚;) 「がぼ、がぼぼ、ごぼっ……!」


 エロゲの類であれば一部の層から人気の出そうなシチュエーションだが、
 生憎、口内を蹂躙されているのは眼前の女いわく「ぶさいく」である俺だし、
 よほどのマニアでもない限り、性的にそそる要素は微塵もないと思われる。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:35:05.06 ID:iRN0Z+vk0
 
('A`;) 「ぐぶっ、ごぼ……ぷはっ」

Σ(゚A゚|||) 「うぶっ、ごぼぼぼべぶぶ」


 気道を確保するためには、それらの水を飲み込んで対処するほかなかった。
 しかし、飲み込んだ先から新たな水が喉へ駆け上ってくる。 これじゃあきりが無い。

 
川 ゚ -゚) 「さっきから同じ事の繰り返しで、芸が無い……って思ってるだろ」

('A`;) 「ぞ、ぞんばごぶぁ(そんな事は……)」

川 ゚ -゚) 「 ” 水中毒 ” って御存知かしら?」


 今までにない口調でそうのたまう女の目には、怪しい光が灯っていた。
 無表情と猫なで声のミスマッチが限りなく不気味さを漂わせていた。


('A`;) (み、みず……ちゅうど……?)


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:38:11.97 ID:iRN0Z+vk0
 
川 ゚ -゚) 「頭の残念そうなドクオ君。
      そんな君のために、お姉さんがやさし〜く説明してあげよう」

('A`;) (……)

川 ゚ -゚)b 「 ” 水中毒 ” 」

川 ゚ -゚) 「過剰の水分摂取により生じる低ナトリウム血症を起こす中毒症状である。
      人間の腎臓が持つ最大の利尿速度は16ミリリットル/分であり、
      これを超える速度で水分を摂取すると体内の水分が過剰となり、
      細胞の膨化をきたし低ナトリウム血症を引き起こす」

('A`;) 「  」

川 ゚ -゚) 「なお、血液中のナトリウムイオン濃度の低下に伴って以下のような症状が出る。
      130mEq/Lで軽度の疲労感、120mEq/L以下で頭痛、嘔吐、精神症状。
      110mEq/Lに近づくと性格変化や痙攣、昏睡、
      100mEq/L以下になると神経の伝達が阻害され呼吸困難などを引き起こし……」


川 ゚ -゚) 「ま、要は死亡に至るってわけだ。 以上すべてwikipediaより抜粋」


('A`)


(((゚A゚|||))) 「がぼぼぼっ! ごく……ぐぼぼぼぼっ!」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:41:29.60 ID:iRN0Z+vk0
 
川 ゚ -゚) 「さーて、どのくらいもつかなー。 くーちゃん楽しみだなー」


 無邪気な口調と裏腹に。
 抑揚に乏しい死刑宣告。

 驚いた拍子に水を吸い込み、俺はその場で激しく咳き込む。
 前のめりになったところ、鳩尾を狙って女の膝が待ち構えていた。

 「げっ」という声とともに勢いよく吐き出したはずの水は宙で静止し、
 潰れたボールのような形になって再度俺の口に戻ってくる。


( A ;) 「うぼっ! げ……ごぼ……がぼっ」


 蹴られる。 水を飲む。
 吐く。
 呼吸できない。 痛い。 水が浸入する。


 ──苦しい、苦しいよ。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:44:11.93 ID:iRN0Z+vk0
 
 水が入る。 飲む。 重い。 体が重苦しい。
 蹴られる。 視界が歪む。


 ──俺は、なんで、どうしてこんなことに?


 苦しい。 痛い。
    苦しい。
 痛い。 水が来る。 冷たい。 苦しい。 死ぬ。


 ──誰か、

    誰でもいい


    助けて──。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:47:49.05 ID:iRN0Z+vk0
 
 永遠に続くかと思われた拷問に「待った」がかけられたのは、
 川の中心から、ばしゃあ、という巨大な水音が響いたためであった。


川 ゚ -゚) 「!?」

 
 俺は苦悶に喘ぎ、背を反り返らせた姿勢で水柱の上がる瞬間を見た。
 一瞬遅れて女がそちらへ振り向く。
 飛沫を浴び、襟元を圧迫する力が僅かに緩む。


川 ゚ -゚) 「な、なんだ……?」

( A |||) 「……」


 その隙を突いて脱出するほどの余力は残されていなかったが、
 苦痛から解放された俺の脳は、分散した意識のかけらを必死でかき集める。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:50:05.79 ID:iRN0Z+vk0
 
Σ川 ゚ -゚) 「……!」

川゚ -゚)彡


 女が土手のほうへ振り返るのと、脱力した俺の首がそちらへ傾くのはおそらく同時だった。

 眩暈で揺れる視界の中心に。
 見覚えのある二つの影が、はっきりと像を結んだ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:52:42.07 ID:iRN0Z+vk0
 
(,,゚Д゚) 「うおっしゃー! 弱いものいじめはそこまでどわぁー!」

(;*゚−゚) 「……」


 腰に両手を当てて踏ん反り返った救世主と、
 その隣で心配そうにこちらを見つめる女神。


( A ) 「あ……」

('A`;) 「ギ、ギコ、しぃ……ちゃ……」

( ^ω^) ムシャムシャ

( ^ω^) (僕もいるお)


 ……と、左手にコンビニのチキンを抱えた肉じゅばん。


(,,゚Д゚) 「正義の味方ッ! 登場だ、ゴル──」

(,,;゚Д゚) 「のわぁぁあああぁっ!」


 勢いよく駆け出した正義の味方は、その勢いのまま土手を転がり落ちていった。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:56:12.50 ID:iRN0Z+vk0
 
川 ゚ -゚) 「ちっ、仲間か……」


 危険を察知したためか、女は俺を乱暴に押しのける。
 同時に両腕と脚を拘束していた水の縄が解け、ようやく俺は完全に自由の身となった。
 まあ、解放されたとはいっても、地面へ倒れこむ以外の選択肢は残されていなかったが。


('A`|||) 「う、ぐ……」

(;*゚−゚) 「大丈夫ですか?」

('A`;) 「ど、どうしてここが……?」


 ギコに続き、ちょこちょこ駆け寄ってきた彼女に当然の疑問を投げかけると、
 しぃちゃんはにっこり笑って答えを提示した。


(*゚ー゚) 「ドクオさんが街中を駆けていくところを、内藤くんが見つけてくれたんです」

('A`;) 「ないと……あ、ぶ、ブーンか」

(*゚ー゚) 「そのすぐあと、同じ方向に走っていく女の人の姿が見えて。
     なんだか様子がおかしかったから、ギコ君にストーキンg……
     じゃなくて、探知してもらったの」


 俺はこの時初めて、彼らと彼らの持つその能力に、心の底から感謝の気持ちを覚えたのだった。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 22:59:06.97 ID:iRN0Z+vk0
 
 当然学校帰りなのだろう、制服姿である三人は、
 しかしその格好からは想像も出来ないほどに頼もしい存在だった。
 抱き起こしてくれたしぃちゃんの手は相変わらず白くて、小さくて、温かくて柔らかかった。

 一方、転がり落ちたヒーローのほうは……?

 そう思って俺が視線を向けると、彼は ” ポイ捨て禁止 ” の看板にしたたか腰を打ちつけたらしく、
 目に涙を浮かべつつ起き上がるところだった。


(,,>Д゚) 「いてててて……」

川 ゚ -゚) 「どうした少年? お姉さんのあまりの美しさに脱腸したか?」

(,,゚Д゚) 「あん? うっせーババア」

川 ゚ -゚) ピクッ

(,,゚Д゚)9m 「小市民をいたぶる悪のちゃねらーめ! この俺様が成敗してやらぁ!」

川#゚ -゚) 「……オーケー。 殺す」


 ……禁忌に触れられたらしく、女の背後にはどす黒い炎が揺らめいている。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:02:12.79 ID:iRN0Z+vk0
 
(,,゚Д゚) 「ドクオさんへのひでえ仕打ちは見せてもらったからな。
     女とはいえ、容赦しねーぞ」

川 ゚ -゚) 「……はん」
  _, 、_
川#゚ -゚) 「口の聞き方を知らん餓鬼が」


 互いに牽制し合いつつ、じりじり後退し間合いをはかる。
 次の瞬間、ギコの体がびくんと跳ねたように見えた。


(,, Д ) 「……さて、と。 ひさびさに」

川 ゚ -゚) 「……」

(,,^Д^) 「目いっぱい! あーばれるぞぉー!」


 ” タカラ ” が上着を投げ捨てて──、
 それがそのまま戦闘開始の合図となった。
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:05:10.31 ID:iRN0Z+vk0
 
===

 口ではそう言ったものの、
 一見するとただのOLにしか見えない女性に突然殴りかかるのは、世間体をはじめとして色々とアレである。
 傍若無人で無邪気な暴れ者──タカラの中にも、そういうアレやソレを考えられるだけの理性は残っていた。


(,,^Д^) 「シッ!」


 そんな彼の出した結論として、初撃は牽制の意味合いを込めた軽いボディブロー。


川 ゚ -゚) 「──!」


 対する女──クーは器用に身を引いてこれをかわすと、
 お返しとばかりにパンプスのつま先を目いっぱい打ち上げた。


(,,;^Д^) 「わわっ」


 油断していたのか、はたまたあけっぴろげなスカートに気をとられたのか。
 半身を捩って回避したタカラだったが、追撃の掌底が脇腹へまともにヒットする。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:08:21.72 ID:iRN0Z+vk0
 
Σ(,,;^Д^) 「うぐっ……」

川 ゚ -゚) 「あらん。 少年にはちょっとシゲキが強かったかしらん?」


 クーは無表情のままそう挑発すると、
 タカラの左腕を捉えて捻り、背中の中心へヤクザキックを放った。


(,,;^Д^) 「がはっ!」

川 ゚ -゚) 「良かったのは威勢だけだな」


 続けて右手で襟元を掴み、腕を引っ張ってタカラの体を半回転させると、
 流れるように懐に飛び込み、柔道の背負い投げよろしくその体躯を抱えあげる。


川#゚ -゚) 「おらぁあ!」


 しかし、勢いよく跳ねあがったタカラの体は、その勢いのまま一回転し、
 しっかり両脚で着地した。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:11:30.27 ID:iRN0Z+vk0
 
川 ゚ -゚) 「!」


 はっとした表情のクーに向け、手刀一閃。
 断ち切るように左腕と襟の拘束を解くと、タカラは後ろに跳躍して再度距離を取った。


(,,;^Д^) 「うひゃー……びっくりしたぁ」

川 ゚ -゚) 「ふん、怖気づいたか。 やーいやーい」

(,,^Д^) 「いいやー? むしろワクワクするよー♪」

川 ゚ -゚) 「あ?」

(,,^Д^) 「思いっきり戦えるってわかったしさー!」


 言うが早いか、タカラは一直線に駆け出した。
 そのまま大きくジャンプして、モーションのデカい飛び蹴り、所謂ライダーキックを放つ。


川 ゚ -゚) 「……ヒーローにでもなったつもりか?」


 クーは難なくこれをかわすと、横を通過するタカラにカウンターの肘鉄を浴びせようとする。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:14:58.75 ID:iRN0Z+vk0
 
川;゚ -゚) 「うお!?」


 しかし、タカラの滞空時間は常人のそれを超えていた。
 着地寸前と思われた彼の姿はそこにはなく、
 代わりに直角方向へ軌道を変えた右足がクーの首筋を襲う。


Σ川#) -゚) 「ぐあっ」


 ストンピングの勢いで斜めに跳んだタカラは、捻りを加えながら華麗に着地した。


(,,^Д^)9m 「ぷぎゃはははは!!」

川#゚ -゚) 「……こんの……クソガキッ!」

三(,,^Д^) 「あーんな派手な蹴り、フェイントじゃないわけないじゃん!」


 ──強靭な全身のバネと身のこなしが、大技からの大技という芸当を可能にする。
 間髪入れず真正面からのフロントキック、
 立て続けに、斜め方向から打ち下ろすようなブラジリアンキックがクーを襲う。


Σ川;゚ -゚) 「うがっ! こ、の……」


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:18:07.73 ID:iRN0Z+vk0
 
 初撃に対しては腕を使ってこれをガードしたが、
 続く二発目の勢いを殺すことはできず、クーは左肩をおさえて大きくよろめいた。


(,,^Д^) (ほいっ。 これでジ・エンドっ)

(,,^Д^) 「おらぁっ!」

 
 体勢を崩した彼女に向け、歩幅の小さいステップで踏み込む。
 一瞬溜めた直後、タカラは躊躇うことなく自身の超必殺技を繰り出した。

 斜め前方へ宙返りし、軽く膝を曲げて体重を乗せた片脚を一気に打ち落とす。
 高速で揮われる刃の標的は、無防備なクーの後頭部だ。


                 フロントフリップ・デスサイズシューティング
(,,#^Д^) 「喰らッて斃れろッ!  ” 死神流星落撃 ” ッ!」


 トリッキーな予備動作から放たれたそれは、
 延髄を切り落とすかの如く、脚で相手の首を斜め下へと刈り込む変形踵落とし。

 そう。
 魂を刈るべく振るわれる、死神の大鎌さながらに──(ギコによる後日談)。


 その瞬間、タカラの脳内には既に、顔面から地面に叩き伏せられるクーのイメージが完成していた。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:21:13.18 ID:iRN0Z+vk0
 
 ──が、しかし。


Σ(,,^Д^) 「!?」

┛∩川 -゚) 「……残念だったな」


 いち早く、浮遊した水の塊がクッションとなってクーの首元を守っていた。
 ひしゃげたそれはぶよんと弾みをつけ、タカラの体を宙に向かって押し返す。


(,,;^Д^) ┌┛)) 「ちっ……」

(0゚(⊂三(゚- ゚#川彡 「おらぁ!」

Σ(^Д(0゚三 「うぶ!?」


 クーはそのまま腕を伸ばし、ゴム鞠のようになった水の塊をタカラの顔面へと押し付けた。
 ギリギリ着地には成功したものの、顔を上げた瞬間に胴を狙ったトーキック。
 タカラの表情が苦悶に歪んだ。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:24:17.60 ID:iRN0Z+vk0
 
(,,;^Д( ) 「ぐ、が……」

∴。  て
 (;⌒)  そ 「ごぼっ!?」
∵゚' ̄'

 さらに、前かがみになったタカラの顔に水の球体が張り付き、そのまま全体を包み込んだ。


 ──正義の味方タカラ、全身全霊の超必殺技


 フロントフリップ・デスサイズシューティング
    『 死神流星落撃 』  (命名ギコ)




 ──不発。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:27:26.96 ID:iRN0Z+vk0

===

(,,^Д^) 「わー」

川 ゚ -゚) 「だー」

('A`;) ハラハラ (^ω^ ) ムシャムシャ


 タイトスカートの悪者対正義の学生服。
 彼らの息詰まる攻防を前に、俺は尻餅のままただ硬直するばかりだった。
 成り行きを見守る他なかったというべきだろうか。

 ギコのほうは見たこともない表情で戦っていた。
 張り付いたような笑顔を崩さず、機敏に動き回っている。

 おそらく、あれがブーンを襲ったという彼の別人格(アナザー)、” タカラ ” なのだろう。
 両者ともに目を見張るほどの身体能力。  今更ながら、この光景は常軌を逸している。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:32:26.68 ID:iRN0Z+vk0
 
ヽ川 ゚ -゚)ノシシ 「しゃー」

Ψ(,,^Д^)Ψ 「ひゃー」

Σ('A`;) 「あっ…!」 (^ω^ ) ムシャムシャ


 が、女の後ろ……。
 川の中から飛来した ” それ ” のために、優勢だったタカラが一転してピンチへと貶められる。
 そして気づいた時には、その──水の塊がタカラの顔全体を包み込んでいた。

 ヤバい、あれは……あの能力は!


('A`;) 「そ、そいつは水を操るっ! 気をつけろぉ!」


 叫んでから気づいたが……
 どう考えても遅いだろう、伝えるのが。

 水を振り払おうともがくタカラの腹に、女のパンプスのつま先が突き刺さった。
 続けざま、その横っ面を鋭い裏拳が薙ぎ払う。


(;⌒) 「ごぼっ! ぶごごぼ……」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:35:39.04 ID:iRN0Z+vk0
 
 そんな状況でも、水のデスマスクはしつこくタカラの頭部に張り付いている。
 口から吐き出した大量のあぶくが、倒れた彼の顔面を覆い尽くしてゆく。
 マズい、このままでは……!


川 ー ) 「よしよし、もっと飲みたいか?
      それならたっぷり飲ませてやろう」


 不敵な言葉とは裏腹に、女はぴたりと追撃をやめ、川のほとり目掛けてダッシュした。


Σ('A`;) (え……!?)  (^ω^;) ムシャムシャ


 川の淵で止まった彼女は、そこで屈むと、にいと笑って水面へと手を伸ばす。


('A`;) (ひょっとしたら、ヤツは)


 ──そう言えば。
 俺は、川から生えた水の触手で捕まった時のことを思い出した。


('A`) (操作する前段階として、対象の水に ” 直接触れる ” 必要があるのか?)

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:39:26.37 ID:iRN0Z+vk0
 
 確かあの時、女はわざわざ川の流れに手を突っ込んでいた。
 何故そのような事をしたのか?
 簡単だ。  触手を作り出すために必要な行為だったから。

 土手から逃げ出した俺にペットボトルの水を投げつけたことだってそう。
 あの段階では、川の水を制御できる状態ではなかったんだ。  そちらの水にはまだ触れていなかったから。

 そうでなくとも、目の前には水が大量にあるのだ。 こうして戦っている最中に津波でも起こせば無敵じゃないか。
 そんな事はできやしないんだ。  あの能力はオールラウンドってわけじゃない。
 一度に動かせる量や、予備動作の必要性などといった制限があるんだ。


(゚A゚;) (ま、マズい!)


 意を決して飛び出したのは、女の掌が水面に触れる直前のこと。
 俺はほんっと、何をするにも一歩遅いんだ。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/04(水) 23:42:52.64 ID:iRN0Z+vk0
 
(;⌒) 「げぼ……ぶ……が……!」

(゚ω゚ ;) ムシャムシャ


 これ以上の ” 水 ” を操られるのはマズい。
 間に合わなくとも、せめて、俺がヤツの肌に触れなければ。
 その能力を ” リセット ” しなければ──ギコが!


('A`;) 「うわぁぁああああ!」


 が、しかし。
 まるで駆け寄る俺の動きを遮るかのように、


川 ー )


 ばしゃあ、と。


 中空へ弾け散った大量の水しぶきが、女の邪悪な笑みを覆い隠していった──。



 (続く)
 

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