3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:31:24.54 ID:0yBuWJHB0
 
『市長は今日、雑談町オオカミホールで行われたシンポに参加し──』


 キャスターがそう言うと、”キラッ☆”という擬音の似合いそうな横顔がアップで映し出された。
 整った顔立ちは、画面を通してなお匂いたつようなオーラを放っている。
 非公式のファンクラブまで存在するというのも、このビジュアルなら納得できるというものだ。

 知性、ルックス──数々の成功。
 栄華に彩られた人生とはこのようなものを言うのだろう。
 我が街の誇る若き市長は、一度頂点へと上り詰めた者の余裕をもって、滑舌よく言葉を紡いでいた。


 対して、世の中にはその正反対……。
 成功とは無縁の石の暗がりで、団子虫のように蠢く者もまた存在する。


('A`) 「……はぁ」


 カップ麺の汁を飲み干すと、蟲けらは静かに嘆息した。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:34:10.93 ID:0yBuWJHB0
 
「ごめんください」

('A`) 「……」

「内藤さん? いらっしゃいますか、ごめんください」

('A`) 「……はーい」


 いったい誰だ、アンニュイな俺の休日ムードを遮る輩は。
 無遠慮にインターホンを鳴らす人物に向かって、俺はドア越しに呪詛を吐き掛けた。





「ゴメンクダサイ」

 
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:36:05.41 ID:0yBuWJHB0
 
●第八話 『 排水の陣 ── V.S クー@ 』


川 ゚ -゚) 「──まあこのように、塩素の蓄積が人体に多大なる悪影響を及ぼし──」 クドクド

('A`|||)

川 ゚ -゚) 「──というわけでですね、我が社の浄水器は他社より圧倒的に絶対的な──」 コポコポコポ

('A`|||)


 開口一番、そして延々30分。
 目の前にいるスーツの女は絶やすことなく言葉を続けている。
 いつの間にかちゃぶ台の前で胡坐をかき、自ら急須に二杯目のお湯を注いでいた。


川 ゚ -゚) 「おわかりですか?
      当社の浄水器以外をお使いになることが、い・か・に!危険なことか?」

('A`;) 「ええ……その……そういうのってどこでも大差ないかと思うンデスケド」

川 ゚ -゚)ノ 「何をおっしゃいますか! 猛毒です! プールの水を飲んでいるのと同じですよ!」


 湯のみを口へ運びつつ、もう片方の手でちゃぶ台を強く叩く。
 部屋に上げるつもりなんて毛ほどもなかった。 勝手に入ってきたのだ。 勝手に。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:38:15.11 ID:0yBuWJHB0
 
 訪問販売員はどこから見ても美人といえる顔立ちだが、あまりに手法が強引で不信感だけが際立っている。
 無表情のまま緩急をつけてのセールストークが特徴的だった。
 ……というか、なんだか怒られているようで恐縮してしまう。


川 ゚ -゚) 「その点当社の浄水器はすンごいンです。
      えーと何だっけ、マイナスな?イオン?的な?」

川 ゚ -゚)o゙ 「そういうのもマジ出まくりですよ。 たぶん他社の五倍くらいはひり出してます」

('A`;) 「あの……とりあえず今日のところは……」

川 ゚ -゚)ノ 「まーまー。 お待ちください」


 いい加減辟易していた俺がそう切り出したときだった。


川 ゚ -゚)σ 「ちょっと水道とコップをお借りいたしますね」

('A`;) 「あ、はあ」

川 ゚ -゚) 「ここにペットボトルがあります。
      中には当社の浄水器を用いて作った、ごっつミネラル〜んな飲料水が入っております」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:40:17.71 ID:0yBuWJHB0
 
 俺が静止する間もなく、女は水道水とペットボトルの水をそれぞれコップに汲んだ。


川 ゚ -゚)っU 「はい、どうぞ」

('A`) 「え」

川 ゚ -゚) 「この二つを飲み比べてみてください。 今すぐに」

('A`;) 「いや……ですからそういうのは別に……」

川 ゚ -゚) 「さあ早く! 時間は待ってくれませんよ!」

('A`;) 「あ、ハイ」


 そう言って強引にコップを押し付けてくる。
 俺は渋々それを受け取ると、水道から注いだ水に口をつけた。


('A`) 「ウチだって一応浄水器は通し……」

('A`)

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:42:19.36 ID:0yBuWJHB0
 
(|||゚A゚)∵:;:': 「!?」 ブッ


 ……なんじゃこりゃ!? そのまま俺は勢いよく水を噴出した。
 喉から鼻へと突き抜けるような刺激が走り抜け、異臭が口内で暴れ回る。
 舌が、舌の上がネバついてヤバい。 水を吐き出したあともぴりぴりと痺れが続いた。


('A`;) 「おえええっ。 うがい、うがいを……」

川 ゚ -゚)っ∪ 「ほんではこちらのお水をどうぞ!」 サッ

('A`;) 「あわわわわ……」 グビッ


 俺は代わりに差し出された水を口に含む。


('A`)

(゚A゚) 「おお……! これは一体!?」


 その途端、俺の口内に爽やかな清涼感が広がった。
 すっきりとそして滑らかに舌を浄化し、あとには微かに甘みが残る。
 全く違う。 さっきの水とは月とすっぽん。 天と地の差だ。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:44:18.13 ID:0yBuWJHB0
 
(;'A`) 「お、おお、おおおおお」 ゴキュッゴキュッ


 俺はそのまま夢中でコップの水を飲み干した。
 口許を拭って一息つくと、女は得意気に胸を張って言った。


川 ゚ -゚)+ 「いかがです? すごかでしょ? のうみそとろけそうでげしょ?」

(;'A`) 「い、いやしかし、これは一体……」

川 ゚ -゚) 「おわかり頂けたようですね。
      比類なき当社の浄水器がいかにエクセレントなシロモノか」

川 ゚ -゚)9m 「そして……市販されている他社製の浄水器がどれだけゴミか。 う○こ同然か」

(;'A`) 「は、はあ」


 大仰な身振り手振りを交えつつも、無表情を崩すことなく続ける。


川 ゚ -゚)o 「私自身、販売員であると同時に当該製品の愛用者でもあります。
       だからこそ! 自信を持ってお勧めできるんです」

川 ゚ -゚)b 「私の生涯24年を賭けて断言します。
       当社の浄水器をお使いいただければ、明日から世界が劇的に変わることでしょう」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:46:27.89 ID:0yBuWJHB0
 
(;'A`) 「ええと……まあ、断言されても……」

川 ゚ -゚)っ□ 「では早速ですが、こちらの契約書にサインを」

Σ(;'A`) 「ちょ、いやそれは」

川 ゚ -゚) 「お支払いは一括の他、当社クレジットによるリボ払いと……」


 にべもないというか取り付く島もないというか。
 女はバッグから書類を取り出すと、手際よくちゃぶ台に並べだした。


(;'A`) 「いえいえ、ですからソノ、あのですね」

川 ゚ -゚) 「代替品のセラミックフィルターはどうされます? 1パックお付けしましょうか?」

(;'A`) 「え、だから別にそれは……」

川 ゚ -゚) 「そうですね、お付けしましょう別料金ですけど。 どうもありがとうございます」


 あれよの間に女によって必要事項の欄が埋められていく。
 いつの間にか署名まで……って、俺はサインした覚えなんてないんだが。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:48:29.58 ID:0yBuWJHB0
 
(;'A`) 「ちょ、人の話を聞k」

川 ゚ -゚)σ 「まーまー遠慮なさらず。 印鑑はこちらですかぁ?」 サッ


 そう言って立ち上がると、鼻歌交じりに収納棚の引き出しへ手をかける。
 ……いかん、俺はとんでもない人間を部屋に上げてしまったのではなかろうか。


川 ゚ -゚)ノ 「あっ」


 勢いよく引き出しを開いたところで、女が小さく息を呑む声が聞こえた。
 なんだかあからさまに怪訝な表情だった。 眉を顰めて引き出しの中を凝視している。


川 ゚ -゚) 「……あー……」

(;'A`) 「や、やめて下さいよ勝手に……」

川 ゚ -゚) 「えー……その、内藤さん」

(;'A`) 「はあ」

川 ゚ -゚) 「ええ、あの、その……はい」

川 ゚ -゚)ヾ ポリポリ

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:50:48.67 ID:0yBuWJHB0
 
川 ゚ -゚) 「……すみません、そこの書面……三行目の文章を読んでいただけますか?」

('A`) 「え?」


 そう言われてちゃぶ台へ視線を移すと、後ろから「ふんっ」と声が聞こえた。
 次の瞬間、背中に強烈な衝撃。


(゚A゚) 「!?」


 続けざま、うつ伏せに倒れた俺の腕が勢いよく引っ張り上げられた。


(゚A゚;) 「いでででででででっで!?」


 俺は彼女の足の下で悶絶する。
 な、なんだ、何がなんだかわからない。

 わかっていることは、自分が悪質な訪問販売業者によって床に押し倒され、
 関節が軋むほど腕を捻られているという事実だけだ。


川 ゚ -゚) 「うーむ……まさかこんな所で依頼の品に出くわすとはなあ」

(;゚A゚) 「いだ、いぎぎぎぎぎいいい!?」


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:53:04.26 ID:0yBuWJHB0
 
川 ゚ -゚) 「悪いが内藤さん、たった今からアンタはお客様ではなくなった。 処遇は見ての通りだ」

(;゚A゚) 「な、何がなんだか……あだだだだだ!」

川 ゚ -゚) 「余計なことは言わなくていい。 私の質問にだけ答えてもらおうか」


 女はそこで言葉を切ると、背を固定するかかとに一層の力を込める。
 「ぐへっ」と情けない声が俺の口から漏れた。


川 ゚ -゚) 「箱はお前が? どうやって手に入れた?」

(;'A`) 「は、は、箱?」

川 ゚ -゚) 「引き出しに入ってるそいつだ。 隠し立てしてもためにならんぞ」

(;゚A゚) 「な、何も隠してなんk……いぎっ!!」


 手首が捻られ、より一層の力で締め上げられる。
 くっそう、やっぱり得体の知れない訪問業者なんて部屋に上げるんじゃなかった。
 痛みに耐えつつ考える。 箱……箱って、カプセルが入ってたアレのことか。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:55:05.25 ID:0yBuWJHB0
 
川 ゚ -゚) 「アンタも知っての通り、そいつは盗品だからな」

(;'皿`) 「は、はつ……みみ……だし……」

川 ゚ -゚) 「本来はお前をふん縛って依頼主に引き渡すべきだろうが、
      生憎、私の受けた依頼は箱の回収だけだからな。
      入手ルートと目的だけ話せば解放してやる」

川 ゚ -゚) 「ただし、ちょっとでも虚偽を話したらどうなるか……」


 うつ伏せのまま顔を上げると、俺は自分の目を疑った。

 倒れた際に落としたのだろう、床に転がっていたペットボトルが……
 ゆっくりと、まるで意思を持ったかのように、こちらへ向かって転がり進んできたのだ。
 ボトルはそのまま顔の横で静止し、キャップの外れた口部分とにらめっこする形になる。

 次の瞬間。
 中に残っていた水が軟体動物のように蠢いたかと思うと、
 塊となって飛び出し、俺の鼻と口を塞いだ。


(;゚A゚) 「がぼ!?」

川 ゚ -゚) 「……とまあ、こうなるわけだな」


 ようやく ” 超能力 ” という言葉が脳を過ぎったが、そのときには遅かった。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:57:16.92 ID:0yBuWJHB0
 
 口から入った水は口蓋で、鼻からの水はそのまま鼻腔で静止し、容赦なく気道を塞ぐ。
 苦悶に喘ぎ、咳き込む勢いでさらに水が喉へと侵入する悪循環。

 こ、このままじゃ……ヤバい。  溺死してしまう。
 自宅のリビングで、ペットボトルの水300ccによって。


(;゚A゚) 「ごぼぼ、ぶご、ぶばあっ!」

川 ゚ -゚) 「話す気になったか? よしよし」


 暴れ馬の手綱を引くように、女は俺の腕をぐっと引き上げた。
 背がえび反りに浮き上がり水攻めから解放される。
 顎の下には今しがたの水の塊が、宙でそのまま静止していた。


川 ゚ -゚) 「さあ答えろ。 誰かの依頼か? それともお前個人がやったことか?」

(;'A`) 「ぷは、はあ、はあ……」

Σ(||。 。) 「あ、あんたは一体……いぶっ」

川 ゚ -゚) 「だーかーらー。 余計なことはしゃべるなっての」


 女の片膝だろうか、延髄に打撃を受けて床とキスする羽目になった。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 22:59:32.26 ID:0yBuWJHB0
 
川 ゚ -゚) 「昼間は愛をお届けする敏腕営業レディ、夜は正義の何でも屋……ってところだ」

川 ゚ -゚)b 「どっちが副業かは想像にお任せしよう」


 愛や正義など微塵も感じさせない態度で、女は先を続ける。


川 ゚ -゚) 「さて、お前に残されたタイムリミットは10秒だ」

(;'A`) 「た、たい……む……?」


 そこで後頭部への圧迫が緩み、俺はようやく顔を上げることができた。
 見ると、いつの間にか眼前に水の塊がふよふよと浮いている。


川 ゚ -゚) 「先程は寛大な処置により、当社浄水器の水を味わわせてやったが……」

川 ゚ -゚)っ 「お待たせしました。
       次に貴方を襲ってくるのは、猛毒と化したお宅の水道水でございまーす」

(;゚A゚) 「なっ」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:01:46.03 ID:0yBuWJHB0
 
川 ゚ -゚) 「いやー、まさかこういう場面でも役に立つとはなあー。 備えあればなんとやらだなぁー」

(;゚A゚) 「や、やめろっ、おい……」


 って、やっぱりこいつがコップの水に細工していたのか。 本当にとんでもない悪徳業者だ。


川 ゚ -゚) 「ほらほら、話してる間に10秒経ったぞ。 お仕置きの時間だな」

(||i'A`) 「うぐっ、んな……」


 女の声に呼応するかのように、水の塊がぶよぶよと蠢きながら俺の顔に近づいてくる。
 マズい。 あんな汚水に襲われるのは間違いなく危険だ。
 単に息苦しいだけではなく、人体に様々な悪影響を及ぼすであろうことは想像に難くない。


(;゚A゚) 「う、うあ、うぁああ」


 暴れる俺を、女はいとも簡単に小手先で制する。
 肩に走った激痛に思わず仰け反った。
 水道水の玉はゆっくり飛来すると、そんな俺の鼻先でぷよんと制止した。


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:04:36.11 ID:0yBuWJHB0
 
川 ゚ -゚) 「さて、おいしいおいしいポイズンドウォーター」

川 ゚ -゚)b゙ 「召・し・上・が・れ」

(;゚A゚) 「や、やめ……ひいいぃっ!」


 その言葉を合図として、水全体がゴムボールさながらにへしゃげ、宙で跳ね上がる。
 マスクのように俺の口周りを覆うと、抗う術もなく鼻腔へ、口へととめどなく侵入してきた。
 なんともいえない臭気が口蓋を満たし、舌がびりびり痛みだす。

 ヤバい……!
 これ、拷問どころか本当に死にかねないって!


::(;゚A゚)ノ:: 「もが、もがががっ、ぶげっ」

(|||'A`)ノシシ 「ぐば、ぶげ、うええぇっ!」


 しかし、天は俺を見捨ててはいなかった。
 まさに水を飲み下す寸前、俺の指先が女の頬へ触れたのだ。


川 ゚ -゚) 「ん?」 プニ

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:06:31.32 ID:0yBuWJHB0
 
 その瞬間、喉へ向かって押し寄せていた水の勢いが止まり、
 制御を失ったそれらは床にぺしゃりと零れ散る。


(;'A`) 「うえぇぇっ! おえっ」

川 ゚ -゚) 「! な、これは」


 女の拘束する力が僅かに緩んだ。 チャンスだ。
 俺は渾身の力で体を反転させると、その勢いのまま、もう片方の手で思い切り女の足を掴んだ。


川;゚ -゚) 「うおっ!?」


 足を取られた女はバランスを崩し、大きくよろめき尻餅をつく。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:08:05.53 ID:0yBuWJHB0
 
(;'A`) 「うべっ、ぺっぺ……」


 俺はちゃぶ台に手をつき、ふらふらと立ち上がった。
 伸ばされた腕を払いのけ、そこら中の物を手当たり次第投げつける。


川 ゚ -゚) 「ちっ」

(;'A`) 「!」


 しかし、女がさして怯む様子もなく立ち上がる姿を見るにつけ、
 すぐさま玄関へ向かって走り出したのだった。
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:10:15.56 ID:0yBuWJHB0
 
−−−


(゚- ゚ 川 「くっ……」


 部屋に残された彼女──
 クーは開け放たれた扉に向けて舌打ちすると、収納棚の引き出しから箱を回収する。


(゚- ゚ 川 (逃がしてしまったのは癪だが……)

ミ川 ゚ -゚) (ひとまず目的は果たしたことだし、このまま退散するか)


 だが、広げた荷物をバッグに押し込んでいるうちに、一つの事実に気づく。


川 ゚ -゚) 「!」

川;゚ -゚) 「あ……あのヤロオ、まさか」


 彼女はちゃぶ台を蹴飛ばすと、
 眉間に皺を寄せ、再度の舌打ちとともにドクオの後を追った。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:12:17.45 ID:0yBuWJHB0
 
〜〜〜


 階段を駆け下りながら考える。
 あの日……そう、例の箱に関わって以来、俺は本当に走らされてばっかりだ。
 それもとうとう、自分の部屋から逃げ出す羽目にまで陥るなんて。
 

(;'A`) 「あ……なんだこれ」


 逃げることに必死で気づかなかったが、俺は右手に何かを握り締めていた。
 おそらくは女に投げつけるつもりで掴んだのだろう。
 それは書類の横に置かれていた、彼女のものと思われる定期入れだった。


(;'A`) (と、とりあえずこれ持って警察にでも駆け込むか!?)


 極悪セールスレディに襲われました、助けてください……なんて、警察は信じてくれるだろうか。
 何より、相手はチャネラーであって普通の人間ではないのだ。

 やっぱりしぃちゃん達に対処を教えてもらうことにしよう。
 情けない話だが、他に頼れそうな相手もいないのだから仕方がない。 餅は餅屋ってやつだ。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:15:05.13 ID:0yBuWJHB0
 
(;'A`) 「……あ」


 とそこで、携帯を自室に置き忘れてきたことに気づく。
 なんてこった、これじゃあ彼らに連絡出来やしないじゃないか……!

 そんな事を考えつつエントランスを抜け、駐車場へと飛び出し数歩走ったところで。
 突如、赤いものが上から飛来し、目の前のブロック塀で音を立てて爆ぜた。


Σ(;'A`) 「わっ」


 注視するまでもなく、その正体はすぐに判明した。
 ……水だ。
 破裂した水風船から、水の塊が跳ね返るように真っ直ぐ俺に向かってきたのだ。


(;゚A゚) 「げっ……」

∴。  て
 (;⌒)  そ 「うぼっ!?」
∵゚' ̄'

 そのまま水が顔全体にへばり付く。
 が、さっきまでとは違い、気道を塞ぐほどの勢いは感じられない。
 必死でぱしゃぱしゃ払いのけたところ、どうにか視界を開くことに成功した。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:17:08.49 ID:0yBuWJHB0
 
(;;'A`) 「ぷはっ」

川 ゚ -゚) 「……ちっ。 やはりこの距離じゃダメか……」


 見上げるとやはり、二階の外廊下からこちらを睨み付ける販売員の姿があった。
 俺の様子に気づくや、すぐに階段へとダッシュする。

 こうしちゃいられない。
 俺は両手から滴る水滴を振り払うと、逃走を再開したのだった。
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:19:09.65 ID:0yBuWJHB0
 
−−−


(;'A`) 「はぁ、はあ、ぶはぁっ」


 商店街を抜け、
  路地を複雑に曲がり、
   交差点を突っ切って踏み切りを横断し……。


(;゚A゚) 「ぶへっ、うへっ、ふへぇ……」


 ……いったいどのくらい走っただろうか。
 当て所ない逃走の果て、街外れにあるダム沿いの川土手までたどり着くと、
 俺は歩道脇のガードレールに凭れ掛かり、荒い息を整えた。


(; A ) 「はひ、ひい、ふぅぅ……」


 のどかな光景だった。
 思ったより閑散としていたが、芝生に寝転がる者や、向こう岸には釣り人も見受けられる。
 日はすっかり傾きかけており、学校帰りだろう、制服の学生が自転車で往来する姿もあった。
 これまでの逃走劇がまるで別世界の出来事のように感じられた。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:21:28.82 ID:0yBuWJHB0
 
(;'A`) 「はぁー……」

(;'A`) 「……まあ、さすがにここまで追っては来ないだろう」


 ……くそっ、折角の休みが台無しだ。
 眼下の悠然たる流れへ向け、俺はひとつ深いため息を吐く。
 ガードレールをよいしょとまたぎ、土手斜面に腰を下ろすと、俺はポケットから女の定期入れを取り出した。


(;'A`) (……つーか、どうしよ、これから)


 いくらひどい目に遭わされたとはいえ……。
 知らない女の個人情報、しかもパクってきたものを漁るというのもなんとなく気が咎める。
 というか、持ってきたこと自体不可抗力なのだが。

 厚めのパスケースは定期の他にも様々なカード類がひしめき合っており、半ばカオスの様相を呈していたが、
 だからといって洗いざらい取り出すことはせず、貰った名刺と免許証だけ調べることに決めた。


(;'A`) (ううむ、この連絡先に苦情の電話を入れるべきなのか)


 横書きのカラフルな名刺には、『 株式会社ボッタクリエイティブ 営業 砂緒ヒトミ 』 とあった。
 しかし、あんな怪しい訪問販売を行っている会社だ。 報告したところでまともな対応をしてくれるとは思えない。
 下手すれば会社ぐるみで 『 箱 』 を追う、なんらかのヤバい組織だということだって考えられる。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:24:03.07 ID:0yBuWJHB0
 
(;'A`) (免許証は……うん、名前を偽ってるってことはなさそうだ)


 相手の身元はだいたいわかった。 だがしかし、それが果たして対抗する手段に繋がるのだろうか。
 あの 『 箱 』 が盗品だったなんて知らなかった上に、肝心の中身はそう、既に俺の体内でござる。

 『 箱 』 の外側だけ持って大人しく退散してくれるのならいいが、そうは問屋が卸さないだろう。
 俺がカプセルを飲んでしまったことはすぐに知れてしまう。

 そうしたらどうなる?
 怒りの超能力集団による拉致、監禁、陵辱、解剖なんていう最悪のコースも……。


(|||'A`) 「ひいぃぃぃいぃ」


 俺はこの時になってようやく、
 とんでもない事態に巻き込まれてしまったのだということに気づき、頭を抱えたのだった。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:26:11.80 ID:0yBuWJHB0
 
 近隣の学校からだろうか、チャイムの音が小さく響いてくる。
 水面が夕陽を反射してキラキラ輝く。
 遠くにはボール遊びに興じる子供たちの姿も見える。

 都会の喧騒を忘れさせるような、夕間暮れの土手斜面、芝生の上。
 頬を撫でるそよ風は心地よかったが、俺の心はどんより曇り、完全に晴れ渡ることはなかった。


(;'A`) 「……ん?」


 そうやってぼんやり川の様子を眺めたあと、
 再び免許証へと視線を移した俺は、記されている数字にどことなく違和感を感じた。


('A`) (おや? 印刷ミス……なわけないよな)


 顔写真の上部分……生年月日の数字が、俺のそれより幾つも若いのである。


('A`) 「あの女、確か年齢を言ってた気がするんだけど……」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:28:18.85 ID:0yBuWJHB0
 
〜〜〜

 川 ゚ -゚)b 「私の生涯24年を賭けて断言します。
        当社の浄水器をお使いいただければ、明日から世界が劇的に変わることでしょう」

〜〜〜

('A`) (ええとつまり、俺が○○年生まれだから)


 自分の年齢と生まれ年から逆算してみる。


('A`) 「……」

Σ(゚A゚) ハッ


(|||'A`) 「あいつ……5つもサバ読んでいやがった!」


 俺はそこで偶然にも、一つの真理にたどり着いてしまったのである。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:30:03.82 ID:0yBuWJHB0
 
『へえ、読んでたって何が?』


 後方からかけられた疑問の声に、嘆息しながら答える。


('A`) 「?何がも何もないだろ」

('A`) 「だからさ、サバ読んでやがったのよ、サバ」

('A`) 「あの女、24っていうことから既に嘘っぱちで……」

('A`)


『そうか、一足遅かったかあ』


 どことなく、いや、確実に。
 その声に聞き覚えがあることに気づくと、俺は恐る恐る振り向いた。


『ほうほう、なるほどねえ』


('A`|||) ソローッ…

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:32:05.91 ID:0yBuWJHB0
 
川 - ) 「知ってしまったからには」


( A |||)


川#゚ -゚) 「生かしておくわけにはいかんな」


( A ) ・・・


('A`;) 「出たあぁぁぁあっ!!」


 嘘だろ、というか嘘であってほしい。
 鬼の形相で仁王立ちする女の姿を確認すると、俺は一目散に斜面を駆け下りた。


川 ゚ -゚) 「逃がすかっ」


 だが、声が聞こえた直後のことだった。
 走る俺の足に何かが絡みつき、勢いのまま芝生にダイブする。


(゚A゚;) 「うわあっ!」


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:34:15.30 ID:0yBuWJHB0
 
 顔面で芝生を滑ったあと、河川敷までごろごろ転がり落ち、ようやく止まる。


(;ぅA`) 「い、いてて」

Σ(;'A`) 「なっ……!?」


 顔を上げた先、目に飛び込んできたのは不可思議な光景だった。
 右足の脇にはペットボトルが転がっており、
 その口から伸びた水が、まるで蛇のように両足首に絡まっていたのだ。

 足を拘束する水を必死に払いのけるものの、
 まごついているうちに、女のヒールが自己主張の強い音を響かせた。


川 ゚ -゚) 「ったく、手間取らせやがって」

(;'A`) 「ど、どうしてここが……」

川 ゚ -゚) 「お前が知る必要はない……と言いたいトコロだが、冥土の土産に教えてやろう」


 そう前置きしてから女は告げる。
 見下げた表情はどこか得意気で、サディスティックな雰囲気を漂わせていた。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:36:13.38 ID:0yBuWJHB0
 
川 ゚ -゚) 「お前の服に染み込ませた水、そいつは特別製でな」


 服に染み込ませた……ああ、水風船を投げつけたときのことか。


川 ゚ -゚) 「私はその水に対し、おおよその居場所を感知できるってわけだ。
      完全に乾いてしまわない限りはな」

(;'A`) (水……水を操る”チャネラー”……!)


 つまりあの水風船は、足止めというより、発信機を取り付けることが目的だった、と……。
 俺はなんとなくギコの能力を思い出していた。


川 ゚ -゚) 「さてと……水も滴るいい女に向かって」

川  - ) 「『 サバ読み 』 などと根拠のない嫌疑をかけた、その罪は重いぞ」 ポキッポキッ

(;'A`) 「ひ、ひぃっ」


 そう言って腕を鳴らしながら女が近づいてくる。
 逃げようにも、水の縄がしぶとく足に絡みついて離れない。
 少しづつこそげ落とすことはできるのだが、このままじゃ間に合わないのは自明だった。


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:38:24.31 ID:0yBuWJHB0
 
 ……い、一かバチか、やってみるしかない。
 俺は観念した素振りで、一歩ずつ歩み寄る女に向かって両手を差し出した。


(;'A`) 「わ、悪かった、俺が悪かったよ」

川 ゚ -゚) 「……」

(;'A`)ノノ□ 「と、とりあえずこれは返すから……」


 そうやって定期入れを押し付ける際、俺は腕を伸ばして女の手に触れた。


('A`) (今だ!)

川 ゚ -゚) 「!」


 途端、足に絡み付いていた水は力を失い、ぱしゃりと地面に零れ落ちる。
 

川 ゚ -゚) 「な、また……!」

└('A`;)┐三 「ドクオちゃんダ──ッシュ!」

 
 あれだけフラフラだったのに、火事場のクソ力ってやつだろう。
 俺は女の体を両手で押しやると、そのまま反対方向へと駆け出した。
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:40:43.11 ID:0yBuWJHB0
 
川 ゚ -゚) 「逃がさんと言っちょるだろうがー!」

Σ('A`;) 「っ!?」


 だが次の瞬間、またも予想外だにしない事態が起こる。


('A`;) 「う、うわっ……!?」


 始まりはこれまでと同じような、足首に対する衝撃だった。
 何度目だろうか、俺はまたも足を取られて芝生へ倒れこむ。
 そして、その姿勢から俺が見たものは。


Σ(゚A゚|||) 「ぬわっ!?」


 それはにわかには信じがたい光景だった。
 水面がこちらに向かって、まるで人を形作るかのように大きくせり上がったのだ。

 例えるならば……なんだろう、海坊主?
 いや、ここは川だから川坊主か……などと呑気なことを言っている場合ではない。

 そしてそこから太い触手のように水が伸び、俺の四肢を次々と拘束していった。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/18(月) 23:43:14.64 ID:0yBuWJHB0
 
('A`;) 「ちょ、なんだこれ、うぇっ」

『ふふん……』

ミ(;'A`) 「!?」


 声のしたほうへ振り向くと、女が片手を川に突っ込んだ状態で、こちらを睨めつけている。


川 ゚ -゚) 「まったくお前も馬鹿な奴だ。
      懸命に逃げた先が、まさかの川端!
      よりによって水場そのものとは……」

m9川 ゚ -゚) 「わかっただろう。
        ここは私にとっておあつらえ向きの舞台だ。 笑ってしまうほどにな」


(;'A`) 「───うわぁぁああっ!」


 そうして、俺の体が川へと引きずりこまれる瞬間──。

 目に映った女の表情は冷淡そのもので、
 彼女の言葉と裏腹に、笑顔の欠片すら感じさせることはなかった。



 (続く)

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