2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:00:37.42 ID:ugCLtq7X0
 
 プロットの設定に、一行「ブーン:乳首をいじると変身」と書いていた自分を誉めてやりたい。


( ΦωФ) 「!」


 ロマネスクの瞳孔が猫のように収縮した。
 タカラの奇襲、体重を乗せた飛び蹴りを左脇でキャッチすると、
 力まかせに引き寄せ、後方にぶん投げる。

 地面への激突をバク転で回避し、瞬時に体勢を整えたタカラ。
 にまりと笑い、再度ロマネスク目掛けて突進する。
 眼前まで迫ると、唐突にサイドステップ。  死角からのミドルキックが左脇腹を抉る。
 脚を戻す勢いのまま一回転し、さらに顔面への回し蹴り、一閃。


(,,^Д^) 「プギャはぁ!」


 無防備なロマネスクの顎へ、クリーンヒット。
 タカラの口から愉楽の笑声が漏れる。


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:02:51.26 ID:ugCLtq7X0
 
( ΦωФ) 「……」


 しかし。

 首が後方に多少揺さぶられたものの、
 ロマネスクは体勢を崩す事なく、その場にしっかりと直立していた。
 ダメージを感じさせない様子で、表情すら変えずに。


(,,^Д^) 「へえ〜……。  すっごいタフになっちゃったねー!」

(,,^Д^) 「でも、その余裕……」
 
(,,^Д^) 「いつまでもつかなぁっ!?」


 その場で振り上げるようなハイキックが、再度、ロマネスクの顎目掛けて放たれた。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:05:06.05 ID:ugCLtq7X0
 
●第四話 『 少女暗器 ── V.S ギコ&しぃA 』

−−−−−

 もうそんな体力なんて残ってない、ってなくらい走りまくったわけだが、
 人間、追い詰められると意外な力が発揮されるものだなあ。
 火事場のクソ力ってやつか。  発動する方向が逃げ足オンリーという点が情けない限りだけど。


('A`;) 「ぶはっ、はぁ、はぁ……」


 階段を駆け下り、廊下を全力疾走して、ようやく生徒玄関口に辿り着いた。
 扉を開き、這いずるようにして外に出た。  もはやふらふらでどうしようもない。


(;'A`) 「!」


 その直後、ガラッという音とともに、校舎の窓が一つ開いた。


(*;∩゚) 「けほ、こほ、かふ……」


 見上げると、そこから顔を出したのは例の女の子だった。
 口を抑えて幾度も咳き込んでいる。  その顔の横から、薄い白煙が霧散する。  


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:07:24.03 ID:ugCLtq7X0
 
 よほどたくさん消火器の薬剤を吸い込んだのだろうか。
 火事でもないのに、火事場に取り残された人を見ているみたいで、ほんの少し良心が痛んだ。


(;*゚∩゚) 「うく、ま、待ちなさ……」

(;'A`) 「待てと言われて、待つやつがあぁぁぁ……」


 ありったけの声でそう答えたが、こちらもふらふらには違いない。
 最後まで言うことなく、俺は俺の進むべき方向へ向き直った。


(*;−゚) 「けほ……このままじゃ、逃がし、ちゃう」

(* − ) (仕方ない、よね)


 その瞬間、彼女の瞳に怪しい光が灯ったことを、俺は知らない。


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:09:20.57 ID:ugCLtq7X0
 
('A`;) 「はぁ、はぁ、はひぃ」


 頭を垂れ、よろめきながら正門への道を辿る。
 まずは外に出よう。  人通りにさえ紛れてしまえばなんとかなるさ。
 Japanは法治国家ですからね。  女子高生にいたぶられる男を周りが救ってくれるかは疑問だが。

 などと無駄なことを考える余力くらいは残っているらしい。
 例のヤシの木地帯が視界に入る場所まで来ると、後ろから小さく『ガン』という音が聞こえた。


(;'A`) 「?」


 足を止め、何事かと振り返ると。


Σ(;゚A゚) 「うわっ!?」


(* ー )


 若い人は、何故こうもクレイジーなことを平気でやってのけるのだろう。

 彼女が先ほどの窓枠に両足を乗せ、
 左右の壁に手をかけた姿勢で、全身を乗り出していたのだ。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:11:09.70 ID:ugCLtq7X0
 
(;゚A゚) 「あ、あぶない!」


 これはどういう事かと言うと、
 手を離すだけですぐさま I can fly の自由落下が楽しめるという状態であり、すなわちかなりデンジャラス。
 良い子は決して真似をしてはならない。

 二階とはいえ、窓から地面までの距離は5メートル近くある。
 落ちて死ぬかは知らないが、少なくとも無事では済まない高さだろう。


(* ー )  ・・・


 夜の校舎、窓から身を乗り出した制服姿の少女。

 スカートがひらひら風に翻り、白い脚とそれを覆う布地が露わになるが、
 この距離でこの明るさだと、なんだか白い何かにしか見えないのが残念でならぬ。
 くそっ、もっと近づけば……って、そんな事言ってる場合じゃない。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:13:22.18 ID:ugCLtq7X0
 
 そうやって俺がまごついているうちに、事態は文字通り急転直下──。


(i||゚A゚) 「!」


 彼女の体が、


(* ∀ )


 窓から、離れた。


(;゚A゚) 「う、うわああああああ!!」


 気付けば俺はそちらに駆け出していた。
 間近でパンツを見たかったわけじゃない。  
 咄嗟の事で、自分がどうしたかったのかはわからないが、とにかく俺は疾走していたのだ。


(;'A`) 「!!」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:15:12.18 ID:ugCLtq7X0
 
 しかし。
 目の前で繰り広げられる現実は、
 さらに俺の想像の範疇から、斜め上をひた走っていた。


(* ∀ )


(*゚∀゚) 「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
     ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひ
     ゃひゃひゃヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」


 縦読みでも『あひゃ』になるほどの狂笑を発し、落下する。
 女の子は後ろ手に何かを持ち、壁にこすりつけていた。
 壁の削音が続き、ほんの少し落下のスピードが緩んだような。  気がしたところで。

 その体躯が地面に叩き付けられる直前、校舎の壁を蹴飛ばし真横への跳躍。
 ベクトルが変換され、無事、片手を地につけながらの着地に成功する。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:17:13.72 ID:ugCLtq7X0
 
(;゚A゚) 「な、なっ……!」

(*゚∀゚)+ ニィ


 そして、そのままのスピードで女の子が向かってくる。
 先ほどの追いかけっことは段違いの速度。
 身を低くして地面を這うように滑走する。 スカートがステルス機の翼のごとく直線に靡いている。


(;゚A゚) 「!!」

(*゚∀゚) 「あひゃっ!」

 
 あっという間に俺の側まで来ると、上目遣いで舌を出し、首を傾げてウィンク。
 袖に包まれた手首を返し、彼女の腕が宙を薙いだ。
 直後、俺の左腕に鋭い痛みが走る。


(;'A`) 「うわっ!」


 顔を覆った俺に対し、振りぬくような蹴りが繰り出される。
 目の前で展開される大股開き。  白。  願望が叶ったとかそういう問題じゃない。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:19:11.24 ID:ugCLtq7X0
 
Σ(;゚A゚) 「うぐっ……!」

(*゚∀゚) 「ひゃーぁ……」


 靴の先が掠めただけなのに、腹部に抉られるような痛みが襲った。
 思わず腹を押さえたところ、続けざま、下からのタックルをまともに食らう。


Σ( ;A;) 「うわっ!?」


 倒れ込んだ俺が見上げると、影に覆われた端整な顔。  スカートの中の耽美な白。
 しかし、その魅力を堪能する余裕
 ──時間的という意味でも精神的という意味でもだが──は、今の俺には皆無だった。

 女の子は、そのままぺたんと俺の体に座り込んだ。
 痛む腹に体重がかけられ、俺の口から苦悶の喘ぎが漏れる。

 
(*゚∀゚) 「あはっ☆」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:21:33.18 ID:ugCLtq7X0
 
 正面の体勢で馬乗りになった彼女の袖から、医療用のメスが一本転がり出て。 彼女はそれをきゅっと掴む。
 俺の顔の真横、曲げられた足の──靴の先には、
 いつの間にか鉤爪のような金属が生え、鈍い光を放っていた。

 つまりその、これらの所謂、ええと凶器が、私を襲ったわけですね。  そうですかそうですか。
 腕もそうだが、じくじく痛む腹からは間違いなく血が出ているだろう。
 そんな上にぺたんこ座りの擬似騎乗位。  おいおい、下着が血まみれになっても知らないぞ。


(*゚∀゚) 「ひゃは……」

(*゚∀゚) 「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」


 目を光らせ口を歪め、高笑いに興ずる女の子。
 バックにはまん丸い月が我々を見下げている。
 何かが壊れてしまったかのようなその表情に、俺は心底恐怖を覚えた。
 

(i||i;A;) 「ひ、ひいぃ、ひっ……」
 

 掲げられたメスが、月光を反射して鋭く輝いた。




 ──殺される。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:23:27.02 ID:ugCLtq7X0
 
−−−−− 


 体育館では闘いの続きが繰り広げられていた。
 いや、これは闘いなんて大層なものではない。  一方的な暴力行為だ。


(,,^Д^) 「シッ!」


 タカラの華麗な体術は、ダンスのコンビネーションを思わせた。
 蹴り、ケリ、KERI。  蹴りに次ぐ蹴りの乱撃。
 逆立ち状態からのミドル、空中でターンしながらの後方回し蹴り。
 相手の肩に飛びつき、手をかけ、振り子のように飛来しながらダブルニー。


( ΦωФ) 「……っ!」


 怒涛の攻撃に対し、ロマネスクは身動きひとつ取れないでいる。
 まるで曲芸のようなバック宙からのサマーソルトが、
 キレイにロマネスクの顎を刈り込み、上方へと跳ね上げる。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:25:05.39 ID:ugCLtq7X0
 
(,,^Д^) 「くっ……!」

( ΦωФ) 「ふんっ」


 それでも、彼はさしたるダメージを負っているように見えなかった。
 痣の出来た頬をぽりぽり掻きながら、次の打撃に備えてやおら体制を整えるのみ。

 時折ロマネスク側もモーションの大きいパンチを放つのだが、
 反撃というにはどこか気合いの感じられない、お粗末な行為に過ぎなかった。

 相手の攻撃は全く食らっていない。  なのに、タカラは確実に焦燥を感じていた。
 体力を失っているのは自分ばかり。  逆に相手からは余裕だけが感じられた。


(,,;^Д^) 「た、タフだ、なぁっ!?」


 その中で、確実に限界に近づいているものが一つあった。
 タカラの体力ではない。  筆者の描写できる蹴りのバリエーションである。
 しょうがないので、Googleで『マーシャルアーツ 巨乳』と入力し、それっぽいサイトを検索する。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:27:26.81 ID:ugCLtq7X0
 
(,,^Д^) 「っしゃぁっ!!」


 おもむろに間合いを詰め、カミソリのようなパラフーゾ(旋風脚)を放つ。
 たった今ググって仕入れた蹴り技です。  本当にありがとうございました。

 半円の軌跡がロマネスクの二の腕へ。  続けざま、逆の脚が胸部を急襲する。
 確かな手ごたえ……否、『足ごたえ』を感じながら、蹴り足を戻して体勢を整える。

 だが。


( ΦωФ) 「……」


 華麗に着地したタカラが見たものは、
 何事もなかったかのように肩を回している、能面の如きロマネスクの無表情。


(,,;^Д^) 「な、なっ……!?」


 逆に、タカラの笑顔からは少しづつ余裕が消えていった。

 ちなみに、余裕が消えたのは地の文のほうも一緒だった。
 大した喧嘩も経験したことのない、厨二バトルも殆ど書いたことのない、
 親父にも殴られたことのない筆者にとって、バトルにおける攻撃の威力をどう表現すべきかわからないのだ。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:29:25.60 ID:ugCLtq7X0
 
 仕方がないので、漫画とかでメガネが割れるほどの威力を『1メガネ』と定義し、
 メガネを単位として攻撃の様子を表すことにする。
 タンスに足の小指をぶつける勢いを『0.3メガネ』くらいだと考えてもらえばいいだろう。
 け、決してバトル描写が面倒になったとかじゃないんだからね!  勘違いしないでよね!


(,,;^Д^) 「これ……でもかぁ!?」

 
 咆哮とともに、タカラは床を蹴った。
 ロマネスクの体を駆け登り──その顔面へ、渾身の力と体重をかけたヤクザキック。 3メガネ。

 そのままバネのように上空へ跳ね、宙返りのあと、
 打ちあがったロマネスクの顔面に追撃の両膝(4メガネ)を叩き込んだ。
 さすがに効いたのか、ロマネスクの体勢が大きく揺らぐ。

 しかし。


(,,;^Д^) 「!?」

( ΦωФ) 「ふんっ」

 
 指を鼻に添え、勢いとともに鼻血の飛沫を搾り出しただけ。 
 それだけの動作で、後はやはり何事もなかったかのようにふんぞり返り、
 ただ、タカラを見下ろしていたのだ。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:31:47.66 ID:ugCLtq7X0
 
 タカラは目に見えて動揺した。  自分の中では必殺のコンビネーションだった。
 いかに頑強な肉体を持つ者であれ、ノーダメージで済むなんて事はあるわけがない。
 あっては、ならない。


(,,;^Д^) 「ば、化け物かよぉっ!?  なんなんだアンタ!?」

( ΦωФ) 「先程も言ったであろう……」

( ΦωФ) 「我が名はロマネスク……
        『怪人ロマネスク』だ。  覚えておくがよい」

(,,;^Д^) 「か、怪人って……」

( ΦωФ) 「か弱き者を『護ること』、 それが我輩の存在する意味」


 タカラは、『自己に目覚めて』以来、初めて心中穏やかならぬ物を感じた。


(,,^Д^) (『護る』……なるほど、その辺が『のーりょく』の根幹かな?)


 恐怖を振り払うように、ロマネスク目掛けて滑走する。
 足を止めること、攻撃を緩めること。  それは反撃の機会を許すことに繋がる。


(,,;^Д^) 「くっそお、こんなに頑丈な『チャネル』 見たことねえよっ……!」


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:33:07.80 ID:ugCLtq7X0
 
 策も弄しない、正面からのバカ正直なジャンピングスピンキック。
 着地に続いて、相手の首を抱え込むようにしながらの飛び膝蹴り──。


 どがっ。

( ΦωФ) 「効かん!」


 ばきっ。

( ΦωФ) 「効かん!」


 ずががっ。

( ΦωФ) 「ぜんっぜん効かん!  痒い!」


(,,^Д^) 「……」

(,,;^Д^) 「……勝てるかこんな奴!  反則っ!  チートだぁああっ!!」


 体育館に、タカラの絶叫が響き渡った。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:36:11.42 ID:ugCLtq7X0
 
−−−−−

(*゚∀゚) 「……あひゃ?」


 万事休す。
 冷徹な銀の凶器を前に、顔面を覆った俺だったが。
 目の前の女の子は、今にも振り下ろそうとしていたメスを止めると、不思議な表情で固まっている。


(;A;) 「……?」

(*゚∀゚) 「ええー……そんなのアリ?」


 それから、しきりに首を傾げている。
 やはり彼女は電波だ。  おそらく月から何かの指令があったに違いない。
 願わくば、それが俺にとって吉報であることを。  というかお願いです助けてください。


(*゚∀゚) 「わかったよ。 もう、しょうがないなあー」


 その言葉を合図に、少女の体がビクンと反り返った。
 狂気に彩られていた悪魔の笑顔が、突然、呆けたような表情に変容する。


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:38:12.54 ID:ugCLtq7X0
 
(* ο ) 「……」

(*゚−゚) 「!」
 
(;A;) 「???」


 右手のメスがからんと地面に落ちた。
 空いた両手で、そのまま俺の肩をぎゅっと掴む。


(*゚−゚) 「あんまり変に傷つけて、話せなくなっても困るから……」


 幾分穏やかな表情に落ち着いた彼女は、そう言って髪をかきあげ、俺の目をじっと見詰めた。
 スカートの下では、両の太腿で俺の腰をしっかり挟み込んでいる。

 ほんの少し安堵したと同時に、
 そのあまりに柔らかい感触、初めて体験する心地良さに気持ちの昂ぶりを感じてしまう。

 ああ、神様ありがとう。  俺はもうちょっとだけ生きていられそうです。


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:40:03.49 ID:ugCLtq7X0
 
(*゚ー゚) 「質問に答えて。  貴方は『3年前の事件』の関係者なの?」

(;A;) 「ぐす、ぐす、う、ううぅ」

(*゚ー゚) 「どうして内藤くんの代わりに来たの?  あの箱は貴方の物?」

(;A;) 「おう、おおうおう、おううううう」

(*゚ー゚) 「あなたも『チャネラー』じゃないの?  どうしてやられっぱなしなの?」

(*゚ O゚) 「……あ」

(;A;) 「え?」


 そこまで言うと、彼女がハッとしたような表情になる。
 俺の口からは涙声のうめきが漏れるばかりで、まともな答えは何一つできていないのに。


(;*゚−゚) (そ、そうだ、この人も『チャネラー』だったんだっけ)

(;A;) 「……?」

(;*゚−゚) (『能力』がわからないうちに、こんなに接近しちゃうのは……危険だったかも)


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:41:59.69 ID:ugCLtq7X0
 
 その瞬間、肩を抑える彼女の手、腰を挟む太腿の力が明らかに緩んだ。
 つまり、俺の体に対する拘束の大部分が、解かれた、ということ。
 
 この機を前に、俺の心に沸き上がった感情は「逃げたい」の一言で形容されるものであり、
 それが言語化される前にはもう、脳が指令を発していた。


(;A;) 「うおおお!」


 最後の力を振り絞り、上体を起こす。  彼女が反応する間もなくその体を突き飛ばした。


(*゚ー゚) 「きゃっ!  こ、この……」


 女の子は地面に尻餅をつく。  俺はその姿を振り返ることなく駆け出していた。
 腹部に鈍痛。  幸いひっかき傷程度で済んだようだが、それを作り出したのは紛れも無く彼女だ。
 両手を振って懸命に走る。  今は一刻も早くその狂気から逃れたかった。

 しかし。


(;A; )そ 「ぐはぁっ!?」


 逃げる俺の背に、何かが勢いよくぶつかってきた。
 その衝撃で俺の体はふっ飛ばされ、地面に倒れ込む。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:44:33.90 ID:ugCLtq7X0
 
('A`;) 「うぐ……」


 両手に力をこめ、起き上がろうとした眼前には、既に彼女の両足が伸びていた。


(*゚−゚) 「……」

Σ(;A;) 「う、あ、うああ」


 何をぶつけられたのかはわからないが、最早それを知る機会も無さそうだ。
 もうダメだ。  チェック・メイト。  俺は彼女に殺されてしまう。
 ゆらり立ち、俺の襟を掴んで強引に立ち上がらせようとする、彼女の凄まじい握力がその証明だ。


(*゚−゚) 「……逃がさないよ」

(;A;) 「……」


 いざ断言されると、逃れ様の無い絶望感が俺の心を苛み、締め付けるのがわかる。
 グッバイ俺の20数年。  来世ではもっと勝ち組に生まれ変わりたいな。 はは。 ははははは。

 どうせ、だ。
 どうせここで死ぬのなら、せめて……。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:46:04.81 ID:ugCLtq7X0
 
 えび反りのように上体を引っ張り上げられた瞬間、俺の腹は決まった。


(;A;) 「んなあああああああ!!!」

(*゚ー゚) 「!」


 叫声をあげて、俺は目の前の女の子に力の限り抱きついた。


(;*゚ー゚) 「きゃっ!  ちょ、何を……」

(;A;) 「あーもういいよ!  殺せ!  殺したきゃ殺せよー!」

(*゚□゚) 「やっ……こら……っ!」


 言いながら、腰に回した腕をすりすりと動かす。
 抱き締める体のなんと柔らかなこと。 
 初めて触れた胸の感触を含め、全身が心地良い弾力に満ちている。

 そのまま、小さな体躯をぎゅうと抱き締めた。
 首と首が触れ合う。  肌で感じる、女の子の生の柔肌。  そしてその温かさ。
 吸い付くようにしっとり、おまけにすべすべ。  たまらない体験だ。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:48:49.75 ID:ugCLtq7X0
 
(;*>−゚) 「ひゃぁ……ちょ、やめ」

(;A;) 「やめません!  死ぬまでやーめーまーせーんー!」


 世の中にこんなに気持ちのよい行為があったなんて、イケメンはずるい。  本気ずるい。
 もういいや。  やーらかいし。  ぬくいし。  このまま死ねるなら本望だ。


(*゚ー゚) 「は、離しな……さい……!」


 女の子の両手が、回した俺の二の腕を下から掴み上げる。
 ローラーや消火器を軽軽しく放るその怪力は、先程、襟を掴まれた時に体験済みだ。

 ああ、もう終わりだ。
 腕を解かれ、吹っ飛ばされ、全身を切り刻まれて死ぬんだ、俺は……。
 

(*゚−゚) 「っ!」


 彼女が手に力を込める。  掴んだ俺の二の腕をぎゅうぎゅう持ち上げる。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:51:39.18 ID:ugCLtq7X0
 
(*゚ー゚) 「……あ」

(;*゚ー゚) 「あれ?」

(;A;) 「ふぬおおおお!! ぬわおおおお!!」


 しかし。
 俺の腕に、想像していたような衝撃……
 クレーン車の如き豪腕、万力のような握力は感じられなかった。
 

(*゚ー゚) 「ほえ?  ど、うして?」


 腕の中で、彼女はきょとんと目を丸くする。
 何が起きたのかはわからないが、不思議そうに首を傾げる様子からは、あの狂気は感じられず。


(;A;) 「……」

(;A;) 「ふぬわあああああああ!!」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:53:54.73 ID:ugCLtq7X0
 
 死の覚悟に体を強張らせていた俺。  その足から、ふ、と力が抜けた。
 膝が折れ、腕が緩み。  そのままずりずりと彼女の体にもたれかかる。
 俺は視線を彼女の胸に固定すると(多少意図的に)、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を押し付けた。


(;*゚ー゚) 「や、ちょ、きたないっ」


 当然ながら、彼女はそれを押しのけようとする。
 タイヤを投げつけた時とも、ローラーを抱え上げた時とも違う、
 至って普通の、女の子の力で。


(;*゚−゚) 「こ、これは、どういう事……」

(;A;) 「うあああああ!  ふぐわああああああ!!」 グリグリグリグリ


 顔面で受け止める、二つの母性の象徴とその柔らかさ。
 膝立ちの姿勢で、彼女の細い腰を抱きかかえるようにしながら、
 俺は女の子の胸に顔を埋め、泣いた。


(;*゚ー゚) 「やだっ、ちょ、やめて」

(;A;) 「ふああああああ! あああ!  うぬわああああ!!」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:55:41.48 ID:ugCLtq7X0
 
 緊張の糸と、涙腺と、ええと、あとは何だろう。
 とにかく、俺の中で色んなものが切れたのだろうと思う。
 人目──といっても彼女しかいないけど──も憚らず、俺は力の限り泣き叫んだ。


(;*゚−゚) (これが、この人の、『チャネル』の『能力』……!?)

(*゚−゚) 「……」

(*゚−゚) (でも……なんだか……)

(;A;) 「……!!   ……!!」

(;*゚−゚) 「……」


 俺の肩を掴む、彼女の掌のぬくもり。
 服を通して伝わる体温と、俺の体を支える確かな弾力、柔らかさ。

 そこからは、先程までの戦意は、感じられなかった。
 恐怖は、脅威は、狂気は、とうに闇の中へと失せていた。


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/16(金) 00:56:18.99 ID:ugCLtq7X0
 
(;*゚−゚)

(;A;)


 月明かりのもと、直立する女の子と、それにしがみ付く一人の男。


 子供のように泣きじゃくる俺の声だけが、夜の校舎に残響していた。



 (続く)

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