- 122 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:08:45 ID:nI5rleiY0
- ..
【 しぃサイド: トラック天井部 】
爪;゚〜゚) 「お前、なんで」
震え声に、猫塚しぃは運転席を覗きこんだ。
声の主───誘拐犯は、丸い目でこちらを見上げている。
フロントガラス越しに、さかさまの視線が交差した。
(*゚−゚) 「お願いしますね」
ふたたびよじ登った、トラック運転席(キャブ)・天井部。
車体が上下に揺れ動く。
そのたび、彼女はバランスを崩しそうになる。
人格(チャネル)は交代済み。
今現在、小柄な体躯を支配している主人格───、
しぃには、副人格(つー)ほどの運動能力はない。
トラックは、タムラのハンドル操作によって、どうにか走行状態を保っている。
しぃは潰れたカエルのように、全身で天井にへばりついた。
.
- 123 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:09:34 ID:nI5rleiY0
- .
爪;゚〜゚) 「な、何がだよ、お願いって……」
(゚−゚*) 「ハンドル」
爪;゚〜゚) 「いや、おい」
サイドミラーのパイプにつかまりながら、
しぃはこわごわと、バンパーへ足をおろしてゆく。
反対側の肩から、銀色の直方体がぶらんと下がった。
ごつんと音を立てた後、反動でもう一度、キャブ前部を打つ。
爪l|l゚〜゚) 「何をやろうとしてんだ! なあ!」
タムラが叫んだ。
純粋な疑問ではないだろう。
本当にやるつもりか、というニュアンスが、端々から感じられる。
わかっているなら聞かないで。
唇をぎゅっと結び、しぃはその言葉を、
ためらう気持ちごと喉に押し込んだ。
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- 124 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:10:41 ID:nI5rleiY0
- .
暴走トラック、キャブフロント。
冷気の鋭さは、タンデムに跨っていた時以上だ。
バンパーに足をかけ、コメツキムシのようにくっついた女子高生は、
その片手に、巨大な物体を抱えていた。
爪l|l゙゚〜゚) 「おいって!」
荷台。
その荷台は荷台にあった荷台だ。
つまり───トラックの荷台に積んであった、運搬用の手押し荷台。
泣いたツインテール少女を乗せて走る、例のアレとは異なる。
車輪が大きく、数も4つではなく2つ。
持ち手部分の根本から、三角形に曲がった金属製のパイプが生えている。
車輪を休めるための足部分だろう。
前後逆のリヤカーと呼ぶべき形状だった。
.
- 125 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:11:39 ID:nI5rleiY0
- .
爪l|l 〜 ) 「無茶だ!」
(-゚* ) 「できます。 ───きっと」
運転席の声が煩わしい。
これ以上の問答は不要だった。
しぃはすでに腹を決めている。
決心がどうとかではなく、ぐずぐずしていると本当に振り落とされる。
しぃはトラックの鼻先に片手を添えた。
そしてもう片方の手から、荷台を降ろし、離し。
て
爪l|l゚〜゚) そ 「うわああああああ!!」
飛び降りた。
荷台ごと。
着地した。
荷台の中心へ。
接地部がアスファルトに弾かれ、荷台は大きく跳ね上がった。
しぃはフロントグリルを掴んで堪える。
それから、全身をつっかえ棒のように伸ばした。
.
- 126 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:12:43 ID:nI5rleiY0
- .
ボロ布を噛まされた車輪が、激しく悲鳴をあげる。
直進するトラック。
その前方、両手でトラックを押し返す、制服の女子学生。
いつ跳ね飛ばされても、轢き潰されてもおかしくない。
人力ブレーキ on 荷台。
(;*>ー゚) 「くぅっ……!」
しぃの矮躯を、体験したことのない負荷が襲う。
肉薄する鉄の圧が、風が、音が。振動が。
巨大な黒い塊となって、全身を包み、数多の牙を突き立てる。
荷台の車軸から火花がほとばしった。
右、そして左。
車輪が次々に弾け飛んだ。
天板が跳ねる。 アスファルトが鳴く。
足場が落ち窪んだことで、しぃはふたたびバランスを失いそうになる。
吹き飛ばされる寸前のところで、どうにか踏みとどまる。
.
- 127 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:13:47 ID:nI5rleiY0
- .
パイプとボードだけになった、元 ・
荷台。
しぃは必死の形相でそこに立ち、
キャブフロントへ、細い腕を突っ張った。
止める。
ぜったいに、止まる。
止めてみせる。
しぃは叫び続けた。
音の嵐と、全身をシェイクする衝撃の中で。
.
- 129 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:16:43 ID:nI5rleiY0
- .
〜 〜 〜
【 ドクオサイド: 第三倉庫内 】
不思議と札が止まって見える。
目を開けた直後だからだろう。 クロノスタシスってやつか。
ていうか、この位置はアカン。
弧を描いた札は、仮にどのような軌道をたどろうとも、
ただ一点へ収束することがすでにわかっている。
唯一無二のターゲット、兄者は俺のすぐ真後ろにいる。
彼と札を繋ぐ直線。
高さからいって、顔面直撃コース。
ビンゴ。
この札、このまま行けば俺の目玉にぶっ刺さる。
『 ───メぃラコぉ 』
ダメだ、マズ、助け
.
- 130 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:17:34 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / 「!」
(;l|l゚A゚)
「 く、 ひっ」
いや。
なにか、おかしい。
『 ───Boy、ずいぶん思い切ったことをしでかしたものだッ
』
顔を覆う腕の隙間から、覗く。
───動かない。
今にも俺の額に突き刺さりそうな三枚の凶器は。
さっき見たときと同じく、依然、宙に静止したままだ。
『 しかぁ───ッし! 』
轟くは、どこかで聞いた、誰かの声。
.
- 131 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:18:17 ID:nI5rleiY0
- .
『 そのエクセレン覚悟ッ、ワタシは確かに見届けたぞッ
』
ああ、これは。
この “ 現象 ” は。
( ゚"_ゞ゚) 「はっ ハッ ハァ──────!」
次の瞬間。
耳障りな高笑いが木霊する。
そして。
ダンボールの影から黒い物体が飛び出した。
あっと思ったときには、黒い長方形が次々に、空中の札を弾き飛ばした。
/ ゚、。 / 「……!」
て
(;゚A゚) そ 「うひっ、こ、れっ!?」
いつもより小さめのPC? タブレット?
黒塗りに妙な文様とクロスをあしらった
“ ミニ棺桶 ” は、
くるくる回転しながら、俺の耳元をすり抜けてゆく。
.
- 132 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:19:14 ID:nI5rleiY0
- .
思わず振り向いた。
そこには、自称ダークヒーローの無職男性が、腰に手を当てふんぞり返っていた。
( ゚"_ゞ゚)
【+ と彡 ☆
彼が手をかざすと、棺桶はぴたりのタイミングで眼前に制止する。
まるでブーメランを受け止めるかのごとく、ヤツはそれをキャッチし、
小楯のように構えた。
【+ 】ゞ゚) 「案ずるなかれッ! ダミィだよ!
そちらのエレキネシストくんにビリビリやられちゃぁかなわんからなッ!!」
この口調、“ 棺桶死(シュナイダー)
” とみて間違いない。
PCの心配なんて俺は最初からしてないのだが。
(;'A`) 「う、おおおおおおおッ!!」
俺は鬨の声を上げながら、一直線に───
“ 棺桶死 ” の後ろへ逃げ込んだ。
.
- 133 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:20:12 ID:nI5rleiY0
- .
シフト
/ ゚、。 / 「ふーん。 “ 交代 ”
したんだ。
……ま、別にいいケド」
兄者のサイコキネシスは、空間を高速伝播するエネルギーの
“ 圧 ”
──要は、なんだかよくわからん波動を飛ばしたり、
発生したエネルギー体を制御する能力だ。
対して棺桶死のサイコキネシスは “
遠隔操作タイプ ”。
対象物をリモート ・ コントロールする超能力である。
原理はさっぱりわからんが、なるほど、
これだと “ 反射現象(リフレクション)
” は発生しないらしい。
【+ 】ゞ゚) 「チッチッ! すでェにッ!」
続けざまに出現した “ 猪鹿蝶 ” 三枚が、
宙で制止したままであることが、その証拠だ。
【+ 】ゞ゚) 「このワザは! 見切っているのだよッ!」
ミニ棺桶PC(仕様のボード)がふわりと舞い、
浮遊する花札をハエ叩きのようにはたき落としていく。
.
- 134 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:21:56 ID:nI5rleiY0
- .
【+ 】ゞ゚)σ 「ドゥーユーアンダスタン?」
暑苦しい。 口調が。
音もなく放たれた二の矢 ・ 三の矢も、ものともしない。
棺桶シールドを空中で巧みに操って、防ぎ、
じりじり間合いを詰めていく。
【+ 】ゞ゚) 「ハッ ハッ ハァ────!」
/ ゚、。 / 「へぇ。 でもでも」
間もなく射程圏内 ──ヤツの喉元に、手が届く。
そう確信した瞬間、それは起きた。
/ ゚、。 / 「甘い」
棺桶死めがけて飛んでいた花札が、突如、軌道を変え。
不自然に浮き上がると、
さらにその表面から、プロパンバーナーのそれを思わせる、細長い炎が噴き出した。
【+ 】ゞ゚) 「むっ……!」
.
- 135 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:22:48 ID:nI5rleiY0
- .
予測だにしない “ 現象 ”
にタイミングを狂わされた棺桶死は、
大仰に横っ飛びし、回避。
/ ゚、。 / 「で、こっちも」
( ゚"_ゞ゚) 「ワッツ!?」
が。
避けた先には、くるくる回転する次のエモノが待ち構えており。
淡い発光。 直後、札から対地放電が起こった。
幾筋もの光の糸が、斜め下方に放出される。
間一髪、棺桶バックラーが電撃を防いだ。
どうやら本当にイミテーション(変な表現だが)らしい。
タブレットPCどころか、そもそも金属製ですらないようだ。
なおもスパークするボードを放り投げ、棺桶死は床を蹴る。
.
- 136 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:23:47 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / 「ゴールイン」
───そして。
“ それ ” が放たれる瞬間は。
俺の位置 ・ 角度からだからこそ確認できたのだ。
明後日の方向──両サイドへ向けて投げられた、二枚の札は。
それぞれに跳ね返り、俺の前方へ滑り落ちる。
(;゚A`) 「!」
描かれしは “ 鹿 ” の図柄。
───すなわち “ 磁力操作 ”。
(;'A`) 「───“ マグネティクス ”!
危ない! 右だ!」
俺は力の限り叫んだ。
瞬間的に、起こるであろう “ 現象 ”
に思い至ったためだ。
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- 137 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:24:32 ID:nI5rleiY0
- .
ほどなく、右方のスチールラックが床を滑り出した。
左方で横倒しになっていたもう一つのラックも、ぐらぐら動きはじめる。
棺桶死は誘導されていたのだ。
二つのパレット ・ ラックを結ぶ直線上、その中点へと。
( :::"_ゞ::) 「───SHIT!」
飛び退る。
間一髪避けた彼の真後ろで、けたたましい金属音が弾ける。
二つの収納装置が、熱いハグをかわした。
無理な体勢でジャンプしたため、
棺桶死は受身を取りそこね、グリーンの床へ投げ出される。
/ ゚、。 / 「んー、惜しい」
なおも起き上がれずにいる棺桶死に向かって、
ダイオードはトドメとばかりに札を構え、指を引く。
.
- 138 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:26:10 ID:nI5rleiY0
- .
(;'A`) 「やめろおおおっ! この……っ!」
俺の叫びに反応し、ダイオードはわずかにこちらへ向いた。
棺桶死が戦っている間、俺だってただ手をこまねいていたわけじゃない。
細心の注意を払いつつ、“ それ ” の近くへ移動していたのだ。
飛びついた。
サイコキネシスの直撃によって、ダイオードが床に落とした札の数々。
超能力のパッケージングされた、カード型ウェポンめがけて。
/ ゚、。 / 「!」
(;>A<) 「くらえッ!!」
俺はその一枚を掴み上げると、
手裏剣を飛ばすモーションで、めいっぱい腕を引いた。
.
- 139 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:27:04 ID:nI5rleiY0
- .
(メ;´_ゝ`) 「ばか! やめろっ!」
途端。
( ゛゚A ) (───えっ)
視界が反転した。
世界はコーヒーミルクのように、回り、混ざり。
制止の声が耳に届くと、ようやく、
自分の体が回転しながら宙を舞っていることを知り、
て
(l|l A ) そ 「がッ!?」
右半身への衝撃とともに。
床に打ち付けられた事実と、それがダイオードの所業であることを、理解した。
/ ゚、。 / 「 ──── “ ツイスター ”
。 回転させる能力」
声が出ない。
息が、苦しい。
.
- 140 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:27:45 ID:nI5rleiY0
- .
(メ;´_ゝ`) 「大丈夫か?」
口調からして、兄者に戻ったのだろう。
差し出された肩へ、俺はよろよろと腕を伸ばした。
首へ絡ませると、傷口に触れたのか、兄者は小さく苦痛の声を漏らす。
(;'A`) 「……くそっ。 なん、で」
(メ;´_ゝ`) 「っ痛ぅ……ありゃ不発弾だ。 利用しようなんて思わないほうがいい」
(;'A`) 「あ……」
痛がる兄者から腕を解こうとしたが、抱き起こされるほうが早かった。
ダイオードはすでに俺たちと距離を取っている。
が、追撃はなく、ただ両手で札を弄ぶのみだ。
.
- 141 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:28:50 ID:nI5rleiY0
- .
(メ;´_ゝ`) 「……しないのか。 攻撃」
/ ゚、。 / 「しないんじゃない、できないんだケド。
“ 点火 ” しすぎた。 ちょっち休憩」
(メ ´_ゝ`) 「いーのかよ、そんな弱点っぽいことバラして」
/ ゚、。 / 「んー。 別に。 余裕しゃくしゃくーだから」
(メ;´_ゝ`) 「……あっそ」
兄者のほうにもその隙を突けるほどの体力はなかった。
しばしにらみ合いが続く。
荒い息が、戦況の悪さを物語っていた。
.
- 142 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:29:33 ID:nI5rleiY0
- .
●第三九話 『 信条と、信念と ── VS.
タムラ&ダイオードA 』
ふいに訪れた小休止。
痛む体を壁にもたれさせ、俺は悔いる。
(;# A ) (……くそっ)
パイロキネシスが──そしてエレキネシスによる電撃が。
宙に浮いた状態の花札から “ 発動 ”
したこと。
これらの “ 現象 ” を目の当たりにしてきたんだ。
少し考えればわかったはず、なのに。
/ ゚、。 / 「発動タイミングはある程度操作できるケド」
一片の可能性に賭けた、俺の目論見は失敗に終わった。
.
- 143 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:30:47 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / 「“ 着弾 ” しないと発動できないと思った? ざんねん」
超能力の発動に、“ 札が刺さる ” 過程は必要なかった。
ヤツはいつでも、
札に閉じ込めた超能力のスイッチを入れることができたのだ。
今さらながら、ダイオードの能力は底が深い。
同じ “ 超能力の発動 ” にも、いくつものバリエーションがあることに気づかされる。
札そのものに超能力の効力が現れるタイプ。
着弾した標的物に “ 現象 ” の効果を及ぼすタイプ。
/ ゚、。 / 「どっちにしろ、扱えるのはスズキだけ」
それらを自在に操作できるのだとしたら、
同じコピー能力でも、ドクミの扱うそれとは、利便性に雲泥の差がある。
(メ ´_ゝ`) 「……さっきの不可解な動きも、なんらかの能力か?」
傷だらけの体をもたげ、兄者が聞いた。
.
- 144 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:32:04 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / 「ストック少ないからなー。 あんまコレ、使いたくなかったケド」
エレキネシストは遠回しに肯定した。
兄者が聞いているのは、さっき投げられた札の挙動についてだろう。
俺もその点は疑問に感じていた。
これまで投擲される札は、全てが全て直線軌道ではなかったとはいえ、
ある程度物理法則に沿ったものだった。
が、さきほど発動した一枚のパイロキネシスは、実に不可解な挙動を見せた。
光の屈折のように、宙でかくんと折れ曲がったのだ。
まるでインベーダーのような動き。
/ ゚、。 / 「“ シンクロノス ” ── “
同調させる能力 ”。
パイロキネシスと関連付けたのだ」
マウスを操作するように、空中で手を動かしてみせる。
ダイオードもまた、札をリモート ・
コントロールできたわけか。
札の遠隔操作も、超能力の発動タイミングも思うがまま。
いよいよ手がつけられない。
.
- 145 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:32:49 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / 「言っただろ? スズキの信条は、せーせーどーどー」
一瞬何だかよくわからなかったが、
『 能力を明かしても勝てる 』 そう言いたいのだと解釈する。
(メ;´_ゞ`) 「ったく……んじゃ、おれも教えとこっか?」
/ ゚、。 / 「ん?」
(メ ´_ゝ`) 「おれの別人格は……」
/ ゚、。 / 「言わなくていいケド」
サムライは、ヒーローの言葉を一閃した。
/ ゚、。 / 「もう、だいたいわかった」
(メ;´_ゝ`) 「……はあ?」
今までの戦いで、兄者の能力を全て見極めたとでもいうのか。
(;'A`) (マジかよ)
.
- 146 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:34:51 ID:nI5rleiY0
- .
流石オサムというチャネラーに関して、俺の知る情報はごくわずかなものだ。
彼が扱うのは、性質の違う二種類のサイコキネシス。
“ 棺桶死(シュナイダー) ” が、離れた物体に直接働きかけられるのに対し、
“ 兄者 ” を自称する本人格は、波動を飛ばす能力らしい。
空間を高速移動する、ゆらぎの “ 圧 ”
。
透明に近いエネルギー体だが、正確には不可視ではない。
目を凝らせばわかるが、透過した景色に歪みが生じる。
/ ゚、。 / 「悪いケド」
もっとも。
/ ゚、。 / 「あんたののーりょく、射程距離はせいぜい、半径3メートル少々」
(メ ´_ゝ`) 「!」
波動の軌跡を肉眼で捉えるのと、
その動きに反応できるのとでは、別次元の話だが。
.
- 147 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:36:15 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / 「スズキはあんたに近づかない」
(メ ´_ゝ`) 「ふーん。 意気地ねぇんだな」
サ イ コ キ ネ シ ス ト フィールド
/ ゚、。 / 「 “ 超念動能力者 ” の射程圏内で戦うほど、
スズキはくるくるぱーじゃないケド」
ヤツはコピー能力者だ。
ある意味超能力のエキスパートとも言える。
にわかに肌が粟立つ。
(メ ´_ゝ`) 「そう邪険にすんなってー。 僕ちゃんお近づきになりたいなー(棒」
/ ゚、。 / 「近づかないケド。 サムライに二言はないケド」
(メ _ゝ ) 「……はっ。 サムライぃ?」
────ニンジャの間違いだろ!
言い捨てて、兄者は地を蹴る。
助走たっぷりの跳躍が、第二ラウンドの開始を告げていた。
.
- 148 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:38:01 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / 「リレイト。
──“ リプロデュース ”
“ マグネティクス ” 」
ダイオードは札を素早くかざす。
もはや見慣れた感もある、攻撃予備動作。
紫電を合図に、ふたつの飛び道具はさらに強力な超能力兵器と化す。
/ ゚、。 / 「 “ トッピン ” 」
札は飛ばなかった。
代わりに、同心円状の振動波が、ダイオードを中心として放射された。
抗うすべはない。
ジャケットがはためく。 ダンボールが転がる。 倒れた椅子が床を擦り動き出す。
瞬間、衝撃ともいうべき風圧が俺たちを襲った。
両腕で庇をつくり、足を踏ん張って耐える。
が、能力の真価はその後の “ 現象 ”
にあった。
<(メ;゚_ゝ゚)> 「うおおおぉぉおぉお!?」
<(l|l゚A゚)> 「ぎゃあぁぁあぁああぁ!?」
.
- 149 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:38:59 ID:nI5rleiY0
- .
反射的に耳を押さえる。
爆音。
他に表現しようのない、強烈な音圧が嵐となって吹き荒れた。
暴力的なディストーションが、空間を暴れまわる。
重厚にして凶悪な、振動の地獄。
荒れ狂い、ぶち当たり、擦り削る。
倉庫全体が、揺れている。
音は段階的に収束した。
両手を離す。 だが、未だ耳鳴りは収まらない。
/ 、 / 「音と磁力の関連付け(リレイト)
──── “ ダイナミック
・ スピーカー ”」
ダイオードもまた、塞いでいた耳から手を離す。
ていうか、本人もダメージを受けてないか。
痺れる身体へ渇を入れるように、兄者は両膝を叩く。
そうして駆け出そうと構えた瞬間。
『 危ない! 右だ! 』
(メ;´_ゝ`) 「!」
.
- 150 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:39:52 ID:nI5rleiY0
- .
声に反応し、兄者は横っ飛びに体をかわす。
響いたのは俺の声だ。
(;'A`) 「……え?」
だが、違う。
(メ; ゚_:::::) 「!!」
俺は、言ってない。
着地と同時、兄者は顔を覆う影に振り向く。
そして立ちすくんだ。
「「 あ 」」
一段背の高いスチールラックが、彼のほうへ大きく傾いていた。
.
- 152 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:25:34 ID:nI5rleiY0
- .
『 ぐああああああ!! 』
て
(;゚A゚) そ 「わああああ! 兄者ッ!?」
ラックが倒れ。
積まれていたダンボールが、兄者めがけて崩落した。
/ ゚、。 / 「リプロデュース。
音を “ 再生 ”
するのーりょく」
“ 関連付け ” しない、単品での連続攻撃。
いつの間にか録音した俺の声を、札から
『 再生し 』、
“ 吹き飛ばす能力 ”
をぶつけたラックの、倒れる先へ誘導しやがった。
すぐに兄者のもとへ駆け寄る。
段ボールの山に埋もれ、隙間から覗く顔は苦痛にゆがんでいる。
(;'A`) 「大丈夫か!? おいっ」
俺は覆い被さる段ボールを払いのけた。
箱の大きさは均一、しかし重さはさまざまだ。
ときおり関節が悲鳴をあげる。
.
- 153 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:26:16 ID:nI5rleiY0
- .
数個目の箱を投げようとしたところで、俺は気づいた。
すぐ脇の壁際に、しぃちゃんのバッグが落ちている。
そういえば、ここははじめ、簡易テーブルが設置してあった地点だ。
ポセイドンが踏ん反り返っていた場所。
とすると。
( ゚A゚) 「!」
バッグの隣、ひっくり返ったパイプ椅子を蹴飛ばす。
(;'A`) (あった!)
床にプラスチック製のケースが転がっていた。
拾い上げ、勢い任せにふたを外す。
細長いケースの底。 銀色の刃が数本、鋭い光をはなっていた。
ボディチェックの際に、つーの服から転がり落ちたアレだ。
回収後、黒服たちが荷物とともに保管していたのだ。
弾かれるように、兄者のほうへ向き直る。
棺桶死の能力なら、この医療用メスを飛ばして攻撃できる───。
.
- 154 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:26:57 ID:nI5rleiY0
- .
(;゚A`) 「!」
ぱちん。
突如、何かが跳ねるような感覚を、左手に覚えた。
思わず蓋を取り落とす。
同時に、ひらひらと。
(l|l'A`) 「……嘘、だろ」
見覚えのある長方形が、床に舞い落ちた。
“ 鹿 ”─── “ マグネティクス ”。
なぜ、いや、すでに。
蓋の、裏側に、仕込まれていた……!?
続く違和感は、右手側。
掴み上げた箱の中、刃物がぐらぐらと動きはじめており。
『 !! 』
あっと思った瞬間、メスはミサイルのように飛び出してきた。
.
- 155 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:27:57 ID:nI5rleiY0
- .
て
(;>A゚')> そ 「いづっ、あっ……ぐあああぁ!?」
銀の散弾。
さっきとは違う。
止まらない。
とっさに両腕でガードしたものの、
肘の中心に鮮烈な痛みを覚えた。
最初の一箇所を皮切りとして、
腕のあらゆる部位から、シャープな痛みがほとばしる。
半狂乱になりながら、腕のメスを払い落とす。
そして、見た。
メスのハンドル部……一本一本に、細い糸が結びつけてあった。
(l|l;゚'A゚) 「!?」
ぶらり、ぶらり。
一斉に垂れ下がる糸の先。
──その全てに結えられた、月、月、月。
.
- 156 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:29:12 ID:nI5rleiY0
- .
て
l|l (l|l:::A::) l|l そ「があああああああああッ!!!」
/ ゚、。 / 「開けてびっくり、な?」
───エレキネシス。
ショックが体中を駆けた。
視界が白黒に点滅する。
思考が寸断される。
身をバラバラに裂かれるような、激痛。
( A ) 「───あっ。 がっ……」
一瞬だったのか、数秒だったのか。
永劫続くかと思われた電撃から解放され、俺はその場にくずおれる。
かろうじて意識の糸は紡がれている。
だが、力が入らない。
刃物と札の散らばる中、orzの姿勢で震えているのがやっとだ。
.
- 157 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:30:12 ID:nI5rleiY0
- .
頭上で硬質な音が響いた。
残された体力をふりしぼり、頭を上げた。
幾重にもゆがむ世界の中で、どうにか像を結んだのは、人影。
ボロボロの兄者が、俺の前に立っていた。
棺桶ボードを巧みに操り、追撃の札を弾き飛ばしてくれていた。
(メ ´_ゝ`) 「ドクオ! 助けてくれたことにゃ、礼を言うぜ」
(; A ) 「あに……じゃ……」
(メ ´_ゝ`) 「だが、もういい」
兄者は、立ち上がろうとしている俺に、ぴしりと手のひらを向けた。
(メ ´_ゝ`) 「中は……おれ一人で大丈夫だ。
お前は行け! 早く!」
(;'A`) 「うぐ……ぐっ」
かけられた言葉に、しばし頭をひねる。
そして。
──バカな俺にも、ようやく理解できた。
.
- 158 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:31:02 ID:nI5rleiY0
- .
兄者はずっと、俺の身を守りながら戦っていたんだ。
俺たちの行動パターンを把握し、
抜け目なく罠を忍ばせる、多才なコピー能力者。
自称サムライ ・ 鈴木ダイオードの繰り出す、多様な攻撃から。
状況は苛烈を極めている。
それこそ、兄者が額から流れる血を止める余裕すらないほどに。
攻撃手段に乏しい俺の、立ち入る隙などなかった。
これまで狙い撃ちにされなかっただけ幸せだったのだ。
戦力外。
( A ) 「──わかった。 あとは……頼む──」
これ以上俺がここに居ても、足手まといになるだけだ。
悔しさに胸が震えた。
しかし、変えられない現実がそこにあった。
.
- 159 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:31:53 ID:nI5rleiY0
- .
俺は下唇を噛むと、よろよろ立ち上がり、きびすを返す。
(l|l A ) (!……はは。 そうだよな……)
後ろからはチャネラー達の戦い──おそらくは防戦一方だが──の様子が、
音と気配で、依然伝わっていた。
眉根を寄せ、倉庫の入り口から外に出る。
冷たい夜の空気が、潮のにおいを乗せて、傷だらけの体を刺した。
俺の無様をあざ笑っているかのように。
背中を丸め、痛む足を引きずるように進む。
超念動能力者、流石オサム。
あいつの意志は、はっきりと感じ取った。
〜 〜 〜
.
- 160 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:32:36 ID:nI5rleiY0
- .
右手の一振りで、数枚をなぎ払った。
吹き飛ぶ札から超常現象は発現しない。
全て、カス札。
ハズレだ。
心の中で舌打ちする。
あとどれくらい。
どれくらいなんだ。
後方からの気配が消えると、札をばら撒くダイオードの手が止まった。
/ ゚、。 / 「枷は外れた。 これで思い切り戦えるな、サイコキネシスト」
そう告げて。
腰のベルトから、さらに数枚の札を抜き出す目の前の敵に対し、
(メ ´_ゝ`) 「……あいつは、枷なんかじゃない」
流石オサム──兄者は、ぼそりと呟いた。
.
- 161 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:45:09 ID:nI5rleiY0
- .
【 兄者サイド: 第三倉庫内 入り口側パレットラック脇
】
ぬるい液体の伝うまぶたを、無造作に右腕でぬぐった。
袖に赤い染みが広がる。
一張羅が台無しだ。 兄者は敵を睨めつけた。
/ ゚、。 / 「あっそ」
相当量をやっつけたはずだ。
いったいヤツには、あとどれだけのストックがあるというのか。
聞いたところで答えてはもらえないだろう。
なんにせよ、やるべき事は限られている。
ダイオードが攻撃のモーションに入った。
兄者は迎撃の構えをとる。
/ ゚、。 / 「よっと」
涼しげな声とは裏腹に、苛烈だった。
先ほどまでの比ではない。
舞うような動きで、ダイオードは数多の札を繰り出す。
散弾銃さながらに放たれる、茶色い紙片。
.
- 162 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:45:53 ID:nI5rleiY0
- .
(メ ´_ゝ`) 「くっ……」
兄者は棺桶死へ交代(シフト)しようと考えたものの、すぐに思いとどまった。
数が多すぎる。
棺桶死の対物サイコキネシスでは、同時に止められる札は数枚が限界なのだ。
札の連弾は、さながら暴風雨──明らかに、制御限界を超えている。
(メ;´_ゝ`) 「ちィッ!?」
身を低くし、札同士の隙間へ肩から突っ込む。
床についた左腕を軸に、回転し、我武者羅に足を振る。
駄々っ子のような動きだが、
発生する念動エネルギーは、数枚の札の軌道を変化させた。
体勢を戻す際、ダイオードの投擲モーションが目の端に映った。
まだ休ませてくれそうにはない。
両サイドからの札を、一枚は棺桶で処理し、もう片方は上着で払った。
(メ;´_ゝ`) (いつだ、いつ来る……?)
もっとも警戒しなければならないカード。
それが、能力の封じられた札であることは、もはや考えるまでもない。
.
- 163 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:46:50 ID:nI5rleiY0
- .
医療用メスに使われる鋼材は、一般的に磁性体ではない。
だが、メスは飛んだ。
ヤツの操る超能力は、ステンレスを瞬時に磁化させることも可能なのだろう。
常識でははかれない──まさに、超常現象。
能力同士を掛け合わせ、バリエーションは飛躍的に広がる。
(メ ´_ゝ`) (今さっき……)
リ レ イ ト
“ 関連付け ” の声が聞こえたのは、一度。
迫る札のうち、超能力を携えた “
バクダン ” は、多くて二つ。
どのタイミングで、どれが、どんな超能力なのか。
吟味する余裕などない。
兄者にできることは、ひたすらに腕を振るい、飛来する札を退けることだけだ。
(メ;´_ゝ`) 「!!」
そうこうしているうちに、弾き損ねた。
わずかに軌道を逸らしたものの、的をはずすには至らず。
一枚の札が跳ね上がり、ほか二枚が兄者のわき腹を掠める。
ひるんだ兄者の頭上へ、札はふわりと舞い降り。
.
- 164 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:47:33 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / 「ほい。 これで終わりっ」
悪いことに。
その一枚こそ、超常現象という名の発火装置を備えた、魔のカードだった。
(メ _ゝ ) 「!!」
兄者を待ちかまえていたかのように。
札は正面で静止し、くるくると回転をはじめる。
発光の瞬間、兄者は考える。
終わりだって? この攻撃で?
言ってくれるじゃないか。
ま、そうかも知れないな。
.
- 165 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 15:48:31 ID:nI5rleiY0
- .
(メ:::::_ゝ::)
(メ ´_ゝ`) 「───お前がな」
両目を見開いた。
溢れる光のまばゆさなど、意に介すことなく。
白い闇が、周囲の全てを飲み込み。
渇いた音が弾けた。
〜 〜 〜
.
- 168 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:21:51 ID:nI5rleiY0
- .
まほろばの丘に、兄者はたたずんでいた。
輻射熱は確かに身体を包んでいる。
だが不思議と、危機感はない。
穏やかなあたたかみを感じさせる、陽光のごとき光が広がっていた。
ひらり、ひらり。
花びらが舞うように、雅やかに、数多の影が揺れ落ちる。
(メ _ゝ ) 「……」
幻惑的な光景も、やがておぼろに揺らぎ、溶け。
光の霧散とともに、すべては掻き消えた。
あとは元通り、荒れ散らかった倉庫の殺風景な像が結ばれ。
静寂がおとずれる。
『 ぐ…… 』
やがて苦悶が響いた。
.
- 169 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:23:06 ID:nI5rleiY0
- .
散り散りに床へ落ちた札の中に、ただ一枚だけ。
中心部分にいびつな穴の開いたものがあった。
/ ゚、。 / 「……う、くっ」
声の主は、大腿部を押さえてよろめいた。
白い生地に、じわり、濃い赤が滲む。
鈴木ダイオード。
彼の脚をかすめた、念動力の弾丸は。
横倒しの簡易テーブルに炸裂し、天板の中央へ、亀裂を生じさせていた。
(メ ´_ゝ`) 「わお。 当たっちった」
対峙する兄者は、奇妙な体勢でそこにいた。
左腕を前方に伸ばし、指先はVサインを形作っている。
もう片腕は招き猫のように曲げ、手のひらを下向きに、顔の真横へ添えられていた。
彼の左前方、ダンボール箱の端が、僅か燻っている。
” 放電現象 ” の回避。
そして反撃。
倉庫内を包む光の中で──兄者は、それらを同時にやってのけた。
その事実を理解したダイオードは、微かに顔を曇らせる。
.
- 170 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:24:16 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / 「……あんた、のーりょくの射程距離は……3メートル半は」
(メ ´_ゝ`) 「限界じゃないぜ? 自制だよ。
勝手に勘違いしたのは、そっちだしー」
/ ゚、。 / 「……!」
たじろぐ敵の10メートルほど先で、
兄者は、にいっと歯を見せて笑った。
左手のVサインを、さらにぐっと突き出す。
ぐにゃり。
二本の指が可動域を越え、有り得ない方向へ変形した。
ダイオードは眉を顰めた。
が、すぐに気づく。
念動力の収斂により、周囲の空間が歪んで見える所為なのだと。
(メ ´_ゝ`) 『 届かないと思った? ざんねん
』
.
- 171 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:25:16 ID:nI5rleiY0
- .
兄者は右手を伸ばした。
緩慢に、一つ一つの動作を見せ付けるように。
左手のVサイン部分を摘むと、腕に沿って、ゆっくり右手を引き絞る。
すると景色が不自然に捩れた。
輪郭がぼやけて判然としないが、目を凝らせば、
念動波の集合体が、細長いゴムのように伸びてゆく様が見て取れる。
/ ゚、。 / 「撃ち抜いたんだな。 ソレで」
(メ ´_ゝ`) 「御名答」
通常の波動攻撃に比べ、初速の向上。
飛距離拡張。
それらに伴う、威力の倍増。
(メ ´_ゝ`) 「 “ スリング ・ ショット
” 」
サイキック ・ エネルギーの凝縮波。
.
- 172 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:26:18 ID:nI5rleiY0
- .
波動を凝縮する分、衝撃面は縮小する。
が、そんなものはデメリットの範疇に入らない。
ドッヂボールをぶつけられることと、ゴム銃で撃たれること。
どちらがより脅威的か、考えるまでもない。
/ ゚、。 / 「──確かに、射程距離を見誤っていたのはスズキのほうだケド」
(メ ´_ゝ`) 「?」
/ ゚、。 / 「つっても、そんなもん大したネタでもないケド。
3メートル半という射程限界を誇示していたのは、
油断を誘う作戦だったんだろ。 ならば」
(メ ´_ゝ`) 「なんだよ」
/ ゚、。 / 「一撃で仕留められなかった、オマエの負けだ」
(メ ´_ゝ`) 「やけに饒舌じゃねーかっ」
周囲の景色を乱反射する波動体は、
すでに不可視とはかけ離れた、禍々しいオーラを放つ球と化していた。
引き絞った右手の指を解放すれば、すぐに推進力を与えられることだろう。
.
- 173 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:28:23 ID:nI5rleiY0
- .
σ゙/ ゚、。 / 「来な、サイコキネシスト」
(メ ´_ゝ`) 「───そうさせてもらうぜっ!」
札の投擲と、念動弾の射出はほぼ同時だった。
両者は吸い込まれるように中央へ飛来する。
貫ける。
兄者が確信した瞬間、札を中心として、赤く平たい衝撃波が展開された。
て
(メ ´_ゝ`) そ 「げっ」
透過性の高い、可視光によるシールド。
つまりそれは、
て
(メ;´_ゝ`) そ 「うお!? ふにゃ、くそッ!」
リ フ レ ク ス
───“ 反射能力 ” 。
ダイオードの導き出した、スリング ・
ショットへの最適解。
飛ばした札は、兄者を狙ったものではなく、念動弾を弾き返すためだった。
.
- 174 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:30:01 ID:nI5rleiY0
- .
(メ ´_ゝ`) 「ずっりぃ! でもさー……」
リフレクション
その意味を即座に理解した兄者は、“
反射弾 ” を、
(メ#´_ゝ`) 「ワンパなんだよなっ!」
/ ゚、。 / 「!」
難なくかわした。
すぐに体勢を整え、Vサインを作る。
右手を添え、ぎりぎり引き絞るモーションのあと、第二弾が発射された。
〜 〜 〜
.
- 175 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:42:54 ID:nI5rleiY0
- .
【 ダイオードサイド: 第三倉庫奥 ・
壁側 】
対するダイオードは、札を放てる構えになかった。
辛うじて、手元にて “ リフレクス ”
を展開。
だが、そこでの跳弾はまたも兄者に避けられた。
/ ゚、。 / 「くっ、アンタ────」
(メ ´_ゝ`) 「“ 組み合わせる ” 暇なんて、与えねー!」
スムーズに攻撃姿勢へ移り、念動弾を放つ。
反射現象の逆進性と、その軌道の正確性を、相手はすでに理解していた。
ダイオードがこれまで用いてきた “
リフレクス ” は、特殊だ。
攻撃系PSI対策として、ちょっとしたアレンジが施してある。
反射現象(リフレクション)で生まれる跳弾に、入射角と反射角の概念がないのだ。
テレキネシスは、仮にどの角度から衝突しようとも、
そのままの勢いで、真逆の方向へ跳ね戻される。
.
- 176 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:44:22 ID:nI5rleiY0
- .
(メ#´_ゝ`) 「見切ってんだよッ!」
波動は射出位置、つまり発生点目掛けて正確に返ってくる。
軌道は一定、目指す座標は、常にひとつ。
ならば。
“ 反射 ” を察知した瞬間、軽く体を引く。
たったそれだけで、兄者は跳弾を回避することができる。
しかもこれは、 “ 猪鹿蝶 ” のように、周囲を無差別に飛び交う札とは違う。
シールド展開座標は、あくまでダイオードの手元付近。
よしんば札を放ったところで、数メートル前方が関の山。
“ 反射現象 ” を視認したあとで動いても、
兄者はそれを悠々避けることが可能だった。
/ ゚、。 / 「くっ」
“ リフレクス ” による反撃が無駄だと知ると、
ダイオードは回避へと行動をシフトする。
.
- 177 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:45:47 ID:nI5rleiY0
- .
ゴム銃を模した念動弾攻撃は、ダイオードの位置へも届く。
すでに安全圏などない。
それは二人の立場が五分になったことを意味している。
札を飛ばし、飛ばされた札を弾かれ、攻撃を避ける。
壁に沿って移動し、距離を保ちながら札を繰り出す。
(メ;´_ゝ`) 「いってぇ! このっ……!」
兄者はときおり被弾する。
“ 避けきれない ” パターンも生まれつつある。
ダメージは確実に蓄積しているはず。
だが、ダイオードは形勢の悪化をひしひしと感じていた。
/ ゚、。 / (こいつ……!)
それもそのはず。
兄者は超能力の応酬の中、ダイオードとの距離を着実に詰めてきていた。
.
- 178 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:46:48 ID:nI5rleiY0
- .
札の雨に苦悶する。
ときおり炎に体表を焼かれる。
電撃に絶叫する。
なのに──兄者は、斃れない。
札をあらかた弾き飛ばし、
隙を見せれば、容赦なく念動力の弾丸で反撃してくる。
/ ゚、。 / 「ちっ……」
(メ ´_ゝ`) 「捉えたぜ!」
倉庫内は広々としているが、移動可能な空間には限界がある。
積み荷がところどころ崩れた状態ではなおさらのこと。
念動弾を避ける際、箱に足を取られた。
兄者が一気に間合いを詰める。
腕を引いた。 サイコキネシスによる殴打の構えだ。
ダイオードは咄嗟に “ ブローフ ” を展開。
自身を吹き飛ばすことで、無理やり横移動を試みた。
追撃を避けるべく撒いたパイロキネシスは、兄者の肩口に赤い柱を灯した。
(メ;´_ゝ`) 「あっっっちぃぃ! てめっ、こンの……っ!」
.
- 179 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:48:24 ID:nI5rleiY0
- .
兄者はそれを慌てて掻き消している。
思ったとおり、大したダメージも感じさせることなく。
(メ#´_ゝ`) 「鍔迫り合いもできねぇくせに、サムライ名乗ってんじゃねー!」
/ ゚、。 / 「……五月蝿い」
ダイオードの誇りに切り込む一撃だった。
受身の体勢で歯噛みする。 が、態度には出さない。
この程度の挑発には乗れない。
サイコキネシスは、それだけ危険なPSIなのだ。
発生するエネルギーは、不可視の暴力装置といっても過言ではない。
ときに刃物となり、万力となり、凶弾となる。
その上、制御が難しく、暴走しやすいというやっかいな特徴を持つ。
能力が発現した途端、頭蓋の内部を、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられて死んだ者もいる。
念動力の刃で、ミキサーにかけられたかのように。
/ ゚、。 / 「……む」
弾き飛んだパイロキネシスが、天井付近で爆発した。
落下した蛍光灯を、兄者は身を翻してかわす。
.
- 180 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:49:58 ID:nI5rleiY0
- .
ガラスと木屑の降り注ぐ中、ダイオードはサイコキネシストと正面から対峙した。
(メ ´_ゝ`) 「最終ラウンドっつったところか」
/ ゚、。 / 「……」
そうかも知れない。
距離と物量によるアドバンテージを生かし、
じわりじわりとダメージを与えてきたつもりだ。
だが、兄者の耐久性は想定以上だった。
もうすぐ札が尽きる。
先ほどはとうとう接近まで許した。
認めたくないが、形勢は覆ったものと考えていいだろう。
決定打が必要だ。
ここでとどめを刺さねば、ヤツのタフネスに押し切られる。
/ ゚、。 / 「いいだろう」
(メ ´_ゝ`) 「そーこなくちゃな」
紙片を構え、ダイオードは神経を研ぎ澄ます。
.
- 181 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:51:12 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / (遊びは終わり。 ここで蹴りをつける)
とっておきの必殺技があった。
既に下準備は済ませてある。
エレキネシス、パイロキネシス、ブローフ、シンクロノス。
4種類もの超能力の “ 関連付け(リレイト)
” 。
ブローフ── “ 拡散 ” による威力の減少を、
攻撃系PSIの重ね合わせで補ったそれは、
最悪の範囲攻撃といっていい。
/ 、 / 「いざ、尋常に」
なお、パイロキネシスとエレキネシスは、
“ 同調させる能力(シンクロノス) ”
を “ つなぎ ” に使わないと “ 関連付け
” できない。
とはいえ、4枚の札それぞれが、その効力を持つことにはならない。
効果の現れる札は、あくまで1枚に限られる。
だが、その威力は折り紙つきだ。
.
- 182 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:52:20 ID:nI5rleiY0
- .
これでシンクロノスの札はストック切れ。
それ以前に、今のダイオードの体力では、一度放つのが限界の大技だ。
正真正銘の切り札。
(メ ´_ゝ`) 「へへん。 構えだけはいっちょまえだなっ」
加えて、周囲には猪── “ リフレクス
” を撒き散らしている。
先ほどまで使っていたものとは違う。
反射角を広く設定した、“ 乱反射専用
” 札だ。
/ ゚、。 / 「……」
サイキック ・ ファイナルウェポン。
拡散 ・ 乱反射するエレキネシスによって、庫内は巨大な電撃殺虫機と化す。
同時に炸裂するパイロキネシスの連弾。
辺りは火の海に包まれ、電灯、電子機器の類は全て破壊されるだろう。
サイコキネシスで防げる代物ではない。
バリアでも展開できれば別だろうが、これまでの兄者の戦い方を見る限り、
それは不可能だろうと、ダイオードは確信している。
良くて大火傷。
場合によっては、死。
.
- 183 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:53:35 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / 「覚悟はいいか? これで、本当に終わり」
(メ ´_ゝ`) 「そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!」
/ ゚、。 / 「やってみろ」
兄者はぐっと腰を落とし、駆け出した。
(メ#´_ゝ`) 「おおおおおおおおお!」
伸ばされた左手。
V字の指先に生まれた念動弾を番え、ゆっくり右手を引く。
練成された波動がここまでの弾性を持ち、かつ形状を保っているという事実に、
ダイオードは眉を顰める。
サイコキネシス。
やはり、悪魔のPSIだな。
.
- 184 :名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 18:54:20 ID:nI5rleiY0
- .
/ ゚、。 / (死んでくれるなよ)
ここで遭ったも何かの縁。
超念動能力────レアモノ────、絶対に手に入れてみせる。
(メ#´_ゞ`) 「うおおおおおおおおおおおあああああああ!!」
リ レ イ ト
/ ゚、。 / 「“ 関連付け ” ────【
雨四光 】 」
交差した腕の先。
計四枚の札が怪しく輝くと、蔦のような光の糸で紡がれた。
〜 〜 〜
.
- 193 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 17:53:04 ID:8ijslF5w0
- .
【 しぃ ・ クーサイド: 広域農道路上
】
猫塚しぃは、VIP学園に通う2年生だ。
成績は上の中といったところ。
生徒会では会計補佐をつとめている。
色白の肌にショートカット、身長は平均よりだいぶ低い。
華奢で、小柄で、童顔。
容貌は妖精と称される程度に整っており、魅了される者も多い。
あとはまあ、ちょっとだけ人よりよく食べるかも知れない。
それ以外は、いたって普通の高校生だといえる。
.
- 194 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 17:54:56 ID:8ijslF5w0
- .
(l|l*>−<)
そんな彼女は、今夜。
(l|l*>−゚)
爪l|l 〜 )
川 ゚ д゚)
トラックを止めた。
.
- 195 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 17:56:24 ID:8ijslF5w0
- .
(*゚ο゚) ゙ !
川;゚ -゚) 「や……」
爪; 〜 ) 「……やりやがった」
素手で。
彼女の抵抗の軌跡は、
奇妙に長いS字状のブレーキ痕となって、路面に刻まれていた。
.
- 197 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 17:57:09 ID:8ijslF5w0
- .
川;゚ -゚) 「……はぁ」
停止したトラックの後部を数メートル先に見やり、
クーは短いため息をついた。
気を抜くと、その場にぺたりと尻をつきそうになる。
間一髪だった。
暴走するトラック上にしぃの姿を見たとき。
彼女が何をしようとしているのか、クーは瞬時に理解した。
すぐさま路肩の用水路へ飛びつき、
クーは流れる水を掻き飛ばした。
そして、荷台の通過するであろう路面を、薄い水の幕で覆った。
川;゚ -゚) 「……まったく、信じられんことをする」
車輪を無くした台車は、アスファルトへ直に接触する。
が、ボード部の摩擦はハイドロプレーニングにより緩和され。
長い制動距離を経て──トラックは、制止した。
彼女のフォローがなければ、しぃの荷台は地面の摩擦に耐え切れず、
一瞬で宙を舞っていただろう。
トラックは、私が止めた。
.
- 198 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 17:59:11 ID:8ijslF5w0
- .
川;゚ -゚)
クーの頬に冷や汗を伝わせた張本人は、
車の脇にしゃがみ、マグロのしっぽをタイヤ下に押し込んでいる。
……車止め、らしい。
無謀に次ぐ無謀。
虫も殺さない風貌で、よくもまあこんな綱渡りをやってのけるものだ。
クーは呆れ顔で、しぃの小さな背中を見た。
川 ゚ -゚) (────だが)
そういうヤツは嫌いじゃない。
黒髪をかき上げ、斜め後ろに流す。
腰に手をあて、目を細めて、小さくつぶやいた。
超人め。
後でひたいに米って書いてやる。
その直後、トラックのドアが開き。
憔悴しきった表情の男が、よろよろ這い出してきた。
〜 〜 〜
.
- 199 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:01:27 ID:8ijslF5w0
- .
/ ゚、。 / 「!!」
血飛沫が上がった。
威力 ・ スピード ・ 射程距離。
全てが向上した隠し玉、一点集中型サイコキネシス
・ シュート。
被弾。
兄者の必殺技は、無表情なコピー能力者に、苦痛の喘ぎをもたらした。
/ 、 / 「─────な、ぜ、アンタが────」
今までとほぼ同じモーション。
が、念動弾が射出されたのは、肩の横まで引き絞った右手ではなく。
(メ ´_ゝ`) 「へへっ。 かかったな」
軸──パチンコのY字フレームを模した、左手の先からだった。
兄者は指先をふっと吹き、おどけて見せる。
.
- 200 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:03:04 ID:8ijslF5w0
- .
前方へいっぱいに伸ばし、ピースを形作っていた左手。
右手に凝縮した念動弾を飛ばすための台座。
もしくはフロントサイト(照準器)──そう思われていた、二本の指。
その指先が瞬時に閉じ、ピストルと化した。
ダイオードは、マズルを見誤った。
凝縮した波動を飛ばすのに、ゴムの張力は必要なかった。
むろん、兄者が故意にそう思わせていたのだが。
左手の指先に力を集中し、スリング ・
ショット予備動作中に、射出。
これまでより早いタイミングで発射された念動弾は、
札を投げたダイオードが体勢を整える間もなく、その肩へ吸い込まれたのだ。
/ ゚、。l|l/ 「ぐっ、ううっ」
そして。
“ 雨四光 ” とやらは、発動しなかった。
.
- 201 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:04:24 ID:8ijslF5w0
- .
その理由を知るには、前段として、ダイオードの能力の性質を理解する必要がある。
ポーカー勝負の際、ダイオードはいちどロッカーを装着したはずだ。
しかし、花札やちんぽっぽ人形など、おもちゃにコピーされた超能力は消えていなかった。
(ブーンの能力──アポーツにおける
“ アクティブ状態 ” は消えてしまったというのに)
つまり、アンチ ・ サイ能力をもってしても、
ヤツのアイテム──コピー済みの能力について、リセットは不可能だと推察される。
……だが。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
/ ゚、。 / 「発動タイミングはある程度操作できるケド」
/ ゚、。 / 「どっちにしろ、扱えるのはスズキだけ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
札に封印された“ 他人の超能力 ” を
“ 起爆 ” させるのは、ダイオード自身のチカラだ。
アイテムのリモート ・
コントロールそのものが、こいつの超能力によるものならば───!!
.
- 202 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:06:42 ID:8ijslF5w0
- .
【 ドクオサイド: 第三倉庫 ・ 外窓付近
】
(#'A`) 「俺が触れている限り、お前はその力を行使できない!」
“ 点火 ” の瞬間は、封じることが可能。
:::/ ゚、。;/::: 「オ、マエ……!!」
俺は窓枠から乗り出した体勢で、
ダイオードの首に巻きつけた腕を、さらにねじり上げた。
.
- 203 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:08:13 ID:8ijslF5w0
- .
(メ ´_ゝ`) 「ドクオ」
:::( 'A`)::: 「あん?」
(メ ´_ゝ`)b 「GJ」
(;'A`) 「……いいから、早くこいつを何とかしてくれっ」
暴れこそしないものの、俺の腕を剥がそうとするダイオードの握力は強まる一方だ。
くそ……やっぱいてえ。 マジいてえ。
ジャケットのおかげで傷は浅かったが、
メスの刺さりまくった袖には点々と血がにじんでいる。
右腕が疼き、熱が強まる。 この姿勢は長く持ちそうにはない。
:::/ ゚、。;/::: 「……逃げたんじゃ……なかった……のか」
ギリギリ
間もなく、床に散った “ 雨四光 ” は全て、
入り口シャッターの外へ弾き飛ばされた。
.
- 204 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:10:43 ID:8ijslF5w0
- .
:::(;'皿`)::: 「ピンと……きた、からなっ」
イテテ
さっきの兄者の言葉を思い返す。
全てはあの一言から始まっていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(メ ´_ゝ`) 「中は……おれ一人で大丈夫だ。
お前は行け! 早く!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
“ ここは ” ではなく “ 中は ” 。
違和感のある言い回しだ。
倉庫の入り口へ、きびすを返した瞬間、俺は気づいたのだ。
('A`) 「外から回り込め、って事だろうとな」
あの後俺は、足音を殺し、倉庫の外周を移動した。
そして、窓から慎重に中の様子を伺いつつ、機を待った。
.
- 205 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:12:41 ID:8ijslF5w0
- .
サイコキネシス対策として、ダイオードは常に、兄者と一定の距離をとっていた。
必然的に、壁際へ位置取る回数は多くなる。
壁に沿って移動するダイオードを、
兄者はスリング ・ ショットによって、巧みに誘導していた。
入り口シャッター以外に存在する、もう一つの進入口。
棺桶死が登場時に破壊し、枠まで吹っ飛ばしていた、
がらんどうの──この、開いた窓のほうへ。
/ ゚、。;/ 「うぐ……くっ」
というより、最後はダイオード自ら、こちらへ移動している節もあった。
“ 雨四光 ” とやらがどういった能力か知らないが、
こいつの話しぶりからして、相当威力のあるワザだったに違いない。
とすると、こいつは巻き添えを恐れ、脱出を考えていたのかも知れない。
……俺が軒下へ待ち構えているとも知らずに。
罠ってやつは、抜け道に張ることで、最大限の効用を生むもんだ。
.
- 206 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:16:07 ID:8ijslF5w0
- .
(;'A`) 「!」
などと考えているうちに。
ダイオードは肩を震わせながら、右手に摘んだ札の切っ先をこちらに向けた。
俺は驚いて腕を放す。
て
/ 、 / そ 「がっ!?」
だが、ダイオードの身が解放されることはなかった。
俺の腕から逃れたヤツの体は、瞬間的に後方へ吹っ飛び、壁に磔にされたからだ。
苦渋に顔を顰めるダイオード。 とうとうその鉄面皮が剥がれた。
兄者が右手をかざしたまま、一歩ずつ近づいてくる。
両腕を念動力で押さえつけているらしい。
サイキック壁ドンとでもいったらいいのか。
(メ ´,_ゝ`) 「よっ。 捕まえたぜ」
もがくサムライの眼前に立つと、
ぼさぼさ頭のダークヒーローは、にぃっと微笑んでみせた。
.
- 207 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:17:44 ID:8ijslF5w0
- .
/ ゚、。;/ 「くおっ……オマエ、一対一(タイマン)を望んでたんじゃ」
(メ ´_ゝ`) 「卑怯だと思ったかい? 悪いな、期待に副えなくて。
そもそも俺とアンタじゃ “
正々堂々 ” の解釈が違うみたいだ」
人差し指の銃口を、ダイオードのこめかみに当て。
『 BANG 』 とささやいてみせる。
いちいち面倒くさいヤツだが、今はこのオッサンヒーローこそが頼みの綱だ。
(メ ´_ゝ`) 「俺にとって正々堂々ってのは、弾丸(タマ)の投げ合い、ぶつけ合いじゃねえ。
肉体同士の殴り合い以外にねえんだよ。
アンタがお望みなら、最初から付き合ってやってたぜ」
左手で、ぐっと拳を握って示す。
無駄なアクションのたびに拘束が解かれるのではとヒヤヒヤするが、
伸ばした右手一本で、相手の両肩を押さえつけ続けることが可能らしい。
.
- 208 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:19:46 ID:8ijslF5w0
- .
(メ ´_ゝ`) 「ちなみに、おれがねらーになってからの十数年間──。
喧嘩(ガチンコ)での戦績は、29戦29敗だ」
/ 、 ;/ 「!!」
(メ ´_ゝ`) 「うち姉者5回、母者7回」
ボソ
聞かなかったことにする。
(メ ´_ゞ`) 「そう、おれは────」
『 “ 正々堂々 ” 闘って、勝ったことは一度もない
』
(;'A`)
とびっきり何の自慢にもならない事実を吐いて。
孤高のサイコキネシストは、深く腰を落とした。
.
- 209 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:20:44 ID:8ijslF5w0
- .
(:::::::_ゞ`) 「──はなから、ガチンコで挑んでたら」
/ 、 ;/ 「ぐぅ……っ! 離っ……」
俺は窓枠の特等席から、その様子をしっかり目に焼きつけていた。
/ 、 ;/ 「くああああああああああああああッ!!」
『 いくらでも、勝てただろうにな
』
見えない拳が、サムライヤロウの長身を、打ち上げる瞬間を。
〜 〜 〜
.
- 210 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:22:19 ID:8ijslF5w0
- .
【 タムラサイド: 広域農道 路上 】
爪;゚〜゚)
トラックから降りた鈴木タムラは、きしむ関節をだましだまし歩いた。
めまいがする。
膝を折りそうになりつつ、必死にこらえる。
リ ア ク ト ン
“ 反作用を操る能力 ” を発動した。
トラック前部──キャブ部分にかかる
“ 反作用を、増大した ” 。
“ サイアミーズ ” のモンスター ・
パワーだけじゃない。
トラックは、俺が止めた。
爪;゚〜゚) (おめでてえヤツめ!
オレがチカラを使ってなきゃあ、今頃は……!)
(;*゚ο゚) ゙
トラックを襲った小さな怪物を、
タムラは噛み付きそうな表情で睨みつける。
.
- 211 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:23:23 ID:8ijslF5w0
- .
が、以外なことに。
(;*゚ー゚) 「……やりました」
当の怪物は、くしゃっと表情を崩した。
爪 ゚〜゚) 「え」
タムラはぽかんとその様子を眺める。
空気が弛緩した。
(;*^ー^) 「えへへ……」
怪物ははにかみながら、胸の前で控えめなピースサインをつくった。
.
- 212 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:25:56 ID:8ijslF5w0
- .
爪;゚〜゚) 「は、あは、え……?」
なんだこりゃ。
どーいう状況だよ。
意味わかんねェ。
タムラはこの時、いつの間にか自分が頬を緩めていることに気づいた。
朗らかな少女の笑顔に、おずおずと、親指を立てて応える。
(*^ー^)
それを見た怪物は、これまた照れくさそうに、
ちょんちょん、とピースの刃先をあわせる。
爪 ゚〜゚)
.
- 213 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:26:48 ID:8ijslF5w0
- .
『 ぷっ 』
自然に笑い声が漏れた。
タムラの笑いにつられるように、少女も破顔し、肩をすくめる。
(*^ー^) 「えへへへ……ふふっ」
爪*゚〜゚) 「へ……へへっ」
どちらともなく近づき、こつん、と拳を合わせた。
『 あはははははは! 』
誘拐犯と、被害者の妹。
相対する関係の二人は、夜空に笑いあう。
共同作業で、大事故を回避した。
達成感すら覚えている。
タムラは前髪を掻き上げ、ひときわ大きく笑った。
.
- 214 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:28:05 ID:8ijslF5w0
- .
意味わかんねェ。
なーんで絆されてんだ、オレ。
でも、愉快だ。
久しぶりに心から笑った気がする。
(*^ワ^)
不思議だ。
さっきまであんなに恐ろしい相手だったのに。
目の前で、こんな表情されちゃあな。
爪* 〜 )
あーあ、俺の負けだわ。
なーんか、ぜんぶ、どうでもよくなったー。
報酬のことは気がかりだが……もう、これで終わりでもいっか。
タムラはそう考え始めていた。
.
- 215 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 18:29:31 ID:8ijslF5w0
- .
(*^ー^) 「あはは……さて、それじゃっ」
が。
(#*゚∀゚) 「戦闘かいしだぁぁあぁあぁ!!」
て
爪l|l゚〜 ) そ 「えぇ─────!?」
相手も同じ考えでいてくれるかは、また別の話だ。
〜 〜 〜
.
- 219 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:13:47 ID:8ijslF5w0
- .
【 ドクオサイド: VIP港 倉庫街路上 】
どこか信じがたい光景だった。
ノーヘルでバイクに跨るスーツの男は、
一瞬だけこちらを振り返ると、無言のまま走り去った。
俺たちは肩で息をしつつ、小さくなるヤツの姿を見送る。
(;'A`) -3 「だぁぁああぁもう! 何やってんだよっ!」
(メ;´_ゝ`) 「いやーまさかなー。 まだあんなに動けるたぁなー」
(;'A`) 「この……ポンコツヒーロー……!」
敗走する原付サムライ……鈴木ダイオード。
兄者が能力を解除した途端、それは起こった。
まさに一瞬の出来事だったのだ。
追い詰めたのはこちらだが、
いきなり逃げ出すようなキャラだなんて、思ってもみなかった。
.
- 220 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:14:33 ID:8ijslF5w0
- .
(;'皿`) 「で、どーすんだよこれから!」
(メ ´_ゝ`) 「追う! 当然じゃ!」
(;'A`) 「あ!? ……ああ、ですよねー」
(メ ´,_ゝ`) 「追跡なら任せな!
こーゆーこともあろうかと、
さっきあいつが倒れた時、胸ポケットに小型のGPS発信機入れてやったぜ」
(;'A`) (マジかこのオッサン)
なんと準備のいい。
ピンチ時には美味い豚汁を作ってくれそうだ。
兄者に促されるまま、よろよろ駆け出す。
第三倉庫から少し離れた場所に、一台の車が駐車してあった。
ボロボロの軽。 恐らくは彼のものだろう。
兄者に続き、俺も隣に乗り込む。
勢いに合わせてシートが軋む。
まったくもって、満身創痍の俺たちにぴったりの乗り物だ。
.
- 221 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:16:24 ID:8ijslF5w0
- .
( 'A`) 「んで」
(メ ´_ゝ`) 「んー?」
(;'A`) 「……なんで俺が運転席側なんだ?」
導かれるまま飛び込んだのは、右側。
目の前にはハンドルが、これまたボロいカバーに包まれている。
(メ ´_ゝ`) 「おれがナビゲートしなきゃ始まらんだろーよっ。
できるんだろ? 運転」
('A`)
(メ ´_ゝ`)
('A`) 「まあ……………………
…………………………
……うん………………
……………一応は……」
(メ*´_ゝ`)⊃ 「れっつらごー!」
.
- 222 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:17:06 ID:8ijslF5w0
- .
嬉しそうにそう叫んだあと、兄者は棺桶モバイルを後部座席から取り出し、
くるんと片手に構えた。
こちらはイミテーションではなく本物のほうだろう。
……横から覗きこむと、パネルには確かに、
VIP港を中心とした路線図と、道に沿って動くマーカーが表示されている。
マジか。
マジかよこのオッサン。
なんなんだよ、今日のこの、目まぐるしい出来事の数々は!
(;'A`) (ええいもう、乗りかかった船だ!)
実際は船じゃなく、オンボロの軽だが。
ポセイドンや黒服はとっくの昔に消えていた。
しぃちゃん達は他の誘拐犯を追っている。
しかるに、俺だけ港でのほほんと待っているわけにもいくまい。
あまりに色々なことがありすぎて、頭はすでに、正常な思考を放棄している。
長い夜になりそうだ。
実に三年近く連載しているような印象だ。
エンジンと数回格闘したのち、俺はアクセルを踏み、倉庫街をあとにした。
−−−
.
- 223 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:18:47 ID:8ijslF5w0
- .
(l|l ゚_ゝ゚)
( ゚A゚)
数十分後。
俺たち二人は、ひしゃげたガードレールの横で固まっていた。
(l|l ゚_ゝ゚)
( ゚A゚)
(l|l ゚_ゝ゚)
( ゚A゚)
(l|l ゚_ゝ゚) 「ペーパードライバーなら……先に……言え……」
( ゚A゚)
.
- 224 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:21:54 ID:8ijslF5w0
- .
(l|l _ゝ ) 「……そして、何故、止まらんの……?」
( ゚A゚)
(l|l _ゝ ) 「なんで加速するの……? なんで逆走するの……? バカなの……?」
( ゚A゚)
( ゚A゚) キコエ……ナクテ……
(l|l;゚_ゝ゚) 「何百回止まれって叫んだと思ってんだ!」
( ゚A゚) アセッテ…… ブレーキ ドッチカ ワカラナクナッテ……
.
- 225 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:24:04 ID:8ijslF5w0
- .
ひとしきり叫んだり、暴れたり、頭をかきむしったりしたあと。
兄者はため息をつきながら、右手を俺に差し出した。
(メ;´_ゝ`)つ 「……まあいいや。 ほれ」
( ゚A゚) ……ハイ
(メ;´_ゝ`) 「ひとまず目的地には着いたんだ、ガムでも食って落ち着こうぜ……」
一応弁解しておくが、俺が停車させた路肩のガードレールは元々ひしゃげており、
事故ったわけではない。
まあ……いつそうなってもおかしくなかったというか、
下手な絶叫マシン顔負けの数十分だったけど。
( ゚A゚) ……アリガトウゴザイマス
依然前を向いたまま、やけに薄いガムを受け取る。
開きっぱなしの口に運ぶと、甘酸っぱいいちごフレーバーが広がった。
(*'A`) (あ、おいちー)
いやに口どけのいいガムだ。
舌の上でとろりと柔らかくなったそれを、噛むことなく飲み込んだ。
(メ;´_ゝ`) 「なんじゃこりゃ? ソッコー溶けたぞ。 味もち悪ぅ〜〜」
('∀`) 「……」
('A`) 「ん!?」
.
- 226 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:25:31 ID:8ijslF5w0
- .
(メ ´_ゝ`) 「なんだかんだ言いつつ、もう一枚もらうんですけどね」
パク
('A`)
……そして気づく。
俺はこれを、何度も口にしたことがあるという、その事実に。
('A`;) 「……アンタ、これ、どこから……」
(メ ´_ゝ`) 「ん? ガム? おまえの上着のポケットだけど?」
('A`)
……。
……。
それはガムじゃねええっ。
そう言ったつもりの声は、言葉として成立していなかった。
呂律が回っていないことに気づき、口元を抑える。
(゚A゚l|l) 「う、ぐっ!?」
次の瞬間。
内側から揺さぶられるような感覚をおぼえ、俺はシートに前かがみになる。
.
- 228 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:28:13 ID:8ijslF5w0
- .
ああ、これは。
目の前がスパークし、世界はぐにゃぐにゃと歪んでゆく。
全身を襲う、寒気と、熱と、痛みと、快感と。
体をバラバラにされ、再構築されるような、なんとも言えない感覚に襲われる。
『 う、ぐ、あああっ 』
( メ´_ゝ`)?
『 ああっ、うあ……ああああっ 』
て
( メ ゚_ゝ゚) そ !?
『 やめ……見るなっ、……あああぁぁ!
』
;(;;;゚_ゝ゚);
===
==
=
.
- 229 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:29:22 ID:8ijslF5w0
- .
─── ようやく眩暈が収まったところで。
伸びた髪をかき上げ、僕は兄者に食ってかかった。
从 □ ;リル 「勝手に! 何っ! ……食わせてんだぁっ!」
(メ _ゝ ) 「生命の神秘を見た……」
襟を掴まれ揺さぶられる兄者は、
呆けた表情で僕のほうを見ている。
从 △ ;リル 「……はぁ、はぁ……ああもぅっ」
手を離した。
両腕を交差させ、ふた周りほど小さくなった身体を抱えこむ。
先ほどまでなかった弾力が、窮屈そうに、二の腕を押し返してくる。
背もたれに身を投げ出した。
衣の擦れる不快感に身を捩る。
こんなタイミングで……なんて、聞いてない。
.
- 230 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:32:24 ID:8ijslF5w0
- ,_
从゚、゚;リル 「動きにくい身体にしてくれて。 責任とれっ」
(メ ´_ゝ`) 「責任て……まっこと意味がわからないんだが……」
从'、`;リル 「服装とかサイズとか……こう、色々あるんだよ、このカッコは」
(メ ´_ゝ`) 「あ、思い出した」
兄者はぽんと両手を打つ。
(メ ´_ゝ`)つ¬ 「実はだな!
こんな時のためにって、服なら預かってたんだった」
从゚△゚;リル 「はぁ────!?」
なんだそりゃ。
わからん。
本気で意味がわからない。
兄者は、後部座席から一枚の手紙と紙袋を掴み上げた。
首を傾げつつそれを受け取ると、僕は手紙を開いた。
.
- 231 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:34:50 ID:8ijslF5w0
- .
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
( ‘ω‘)
ニーチャンへ
突然アレがソレになっちゃった時のために、服は用意しておきましたお
いざとなったら使ってくださいね ぶーん
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
从'。`;リル 「……マジか。 気が利くっつうかなんというか」
聞けば、僕が気絶していた間(28話)、ブーンが内緒で兄者に預けておいたらしい。
兄者が車で来ることがわかっていたとはいえ、用意周到すぎやしないか。
从'、`;リル 「まーいーや。 じゃあちょっと着替えて……」
ぶつぶつ言いながら紙袋の口を開き、固まった。
从・x ・リル
……服。 確かに入っている。
でも、なぜ。
普段着じゃ、ない。
.
- 232 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:36:46 ID:8ijslF5w0
- .
綺麗に折りたたまれた状態で、紙袋に収められていたもの。
それは、メイド服。
先日までバイトしていた、クーの知り合いの店の……
フレンチ仕様の、例の、あれだ。
(((メ;´_ゝ`) 「どうした? ……げっ、コレ……」
从 皿 ;リル (あのヤロ───────!)
……二度と身に着けることなどないと思っていたのに。
ご丁寧なことに、靴と下着まで入っている。
わざわざタンスから掘り出してくれたのだろうか。
ありがとう弟……後で教育的指導。
同じメイド服でも、ブーンの所持する例のアレじゃないあたりが確信的だ。
あっちのほうが布面積も広いのに。 暖かいのに。
たぶん汚されるのが嫌なんだろう。
.
- 233 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:38:32 ID:8ijslF5w0
- .
从-、-;リル 「……もういい。 着る。 今の服よりは動きやすいだろ……」
(メ ´_ゝ`) 「おう、早くしてくれよな」
从-。-;リル 「はぁ……」 グイ
从゚、゚;リル ハッ
(メ ´_ゝ`) ?
从゚皿゚;リル 「出てけっ!」
兄者を車から押し出し、紙袋に手を突っ込む。
ε-(´く_`; ) 「なんだってんだ一体……」
,_
从゚、゚;リル ガチャッ
(メ;´_ゝ`)彡゙ 「うお!? な、なに!?」
从///リル 「ごめん、ちょっと、その……」
……途中で一度ドアを開け、背中だけ止めてもらった。
〜 〜 〜
.
- 234 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:39:26 ID:8ijslF5w0
- .
【 ドクミサイド: VIP市臨海部 ・
旧工業地帯 (ソーサク1丁目) 】
背負った星空の清澄さとは対照的に、
目的の廃ビルは、禍々しい佇まいを見せていた。
荒涼とした隣の空き地から見上げる。
奥側には、似たような廃ビル、廃屋が数軒連なっている。
むろん、周囲に人気はまったくない。
四階だろうか。
一箇所だけ明かりのついた窓がある。
ヒーローおやじのぼさぼさ頭越しに、そちらへ目を凝らす。
,_
从゚、゚;リル 「……」
窓付近に人影は見えない。
メイド衣装にジャケットを引っ掛けた姿で、僕は身を震わせた。
この寒い中、なんでこうも場違いな格好してるんだろう。
公開処刑も甚だしい。
.
- 235 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:40:23 ID:8ijslF5w0
- .
(メ ´_ゝ`) 「どうする?」
从゚、゚リル 「何が?」
(メ ´_ゝ`) 「入るのか、入らないのか」
从'。`リル 「あ、ああ……」
GPSの移動反応はこのビルで止まり、その後途絶えていた。
発信機は、ここで発見 ・ 破棄されたと考えていいだろう。
それだけでは、ダイオードがビル内に留まっているかはわからない。
だが、建物の脇で例の原付を発見し、疑念は確信に変わった。
間違いない。
ヤツは今、この中にいる。
クー達からの連絡はない。
正確には着信履歴が残っていたが、何度かけ直しても出なかった。
留守録に場所を吹き込んでおいたものの、連絡があるまで待つべきだろうか。
.
- 237 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:42:48 ID:8ijslF5w0
- .
从 、 ;リル 「……行こう」
(メ ´_ゝ`) 「だよなっ」
口から出た言葉に、自分で驚いた。
以前であれば、わざわざこんな、危険に飛び込むような決断はしなかったと思う。
無謀は重々承知の上で、湧き上がる好奇心を止められなかった。
ポセイドン一味が、しぃちゃんの両親を手にかけた犯人だとは思えない。
だが、チャネラーや超能力について、僕たち以上の情報を握っていることは間違いない。
だから、ヤツを追う。
しぃちゃん達のためにも、
……いや。
从 、 リル 「……」
僕だってそうだ。
結局のところ、手がかりを求めているのは、誰のためでもない。
少年少女の手助けを──巻き込まれた風を装いながら。
その実、僕は僕自身のために、糸口を欲している。
知りたい。
あのクスリは何なのか。
僕のこの状態は─────僕は、誰なのか。
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- 238 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:43:35 ID:8ijslF5w0
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从'、`;リル 「……オジャマシマス」
(メ;´_ゝ`) 「いーから早く入れよ」
枠だけの入り口ドアを開け、僕たちは中に踏み込んだ。
階段の電灯は点いたが、エレベータは使用できないようだ。
唾を飲み込み、こわごわ階段をのぼっていく。
結局、明かりが生きていたのは二階までで、三階以降は暗闇だった。
兄者にくっついて進む。
从 □ ;リル 「わひっ!?」
(メ;´_ゝ`) 「ちょっ!? ……どんだけポンコツなんだ」
たまに暗がりでコケそうになりつつ。
窓が明るかったからといって、ヤツが四階にいるとは限らない。
踊り場を含め、途中の暗闇に潜んでいる可能性だって充分ある。
旧校舎を探索したときの記憶がよみがえり、足がすくむ。
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- 239 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:44:34 ID:8ijslF5w0
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目的の階層へはすぐに着いた。
廊下は左右に伸びている。
壁際にスイッチを発見したが、電灯の点く気配はない。
携帯のライト機能を頼りに進むほかない。
(メ;´_ゝ`) 「!!」 ガタン>
从゚皿゚l|lリル 「ひょわ!?」
その時、左方向から音が聞こえた。
仰天した兄者が立ちすくみ、僕はその背中にひたいをぶつけた。
从゚□゚';リル 「ちょっと! 脅かすなよっ!」
(メ; ゚_ゝ゚) 「んなこと言っても! おれだって怖いもん!」
从 △ ;リル 「もんとか言うなよオッサン……」
明かりのついていた部屋は、確か右側だ。
どうする。
どちらへ向かう。
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- 240 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:46:36 ID:8ijslF5w0
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あーだこーだ言い合ったのち、兄者先導のもと、左へ進むことにした。
手分けして……とも考えたが、今ここで離れるのは得策ではない。
僕は彼の後ろを、少し距離を空けて着いてゆく。
きょろきょろと、後ろ側を何度も振り返りつつ歩を進める。
いくら音がしようと、明かりのあった部屋は後ろ方向に間違いないのだ。
背後からいきなり襲われてはたまらない。
从 、 ;リル (それにしても)
この建物は何なのだろう。
雑居ビルにしてはいささか大きい。
露出した鉄筋と薄汚れた壁は廃墟としての雰囲気ばっちりだが、
そもそもの用途がわからない。
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- 241 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:47:19 ID:8ijslF5w0
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廊下にはいちおう採光用の窓がある。
ドアの形状はオフィスビルを思わせる。
だが、その並びはアパートのようでもあり、ホテルのようでもある。
(メ;´_ゝ`) 「まだ奥があるのか……」 ボソ
考えている間に、兄者との距離が開いてしまっていた。
兄者は今にも廊下の角を折れようとしている。
半身が暗闇に吸い込まれ、それに合わせて明かりも乏しくなる。
从'。`;リル 「あ、待って……」
その時だった。
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- 242 :名も無きAAのようです:2014/10/13(月) 20:48:05 ID:8ijslF5w0
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/ ゚、。 / カチャッ
从゚、゚リル 「 」
あまりにも、唐突に。
て
从゚□゚|lリル そ 「─────!!」 バタン
横のドアが開いたかと思うと。
(メ ´_ゝ`)彡 「え? ……あれ?」
悲鳴を上げる間もなく、僕はそいつに、部屋へと引きずりこまれたのだった。
(続く)
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