3 名前:名も無きAAのようです:2014/08/13(水) 22:47:12 ID:aqE7LG6E0
.


(l|l* □ ) 「  」



(l|l* ο ) 「  」



(l|l*゚皿゚) 「 〜〜〜〜〜〜っ! 」


 さ ・ む ・ いぃぃぃぃっ。
 絞り出す少女の声は、身を裂くような冷気にかき消された。

 クーのバイクは、夜を駆る。
 ライトアップされたウッドデッキを横目に。
 光のシャワーを、そして時に、カップル達の奇異の視線をボディいっぱい浴びて。


川 ゚ -゚) 「ちったぁ我慢しろ……と言いたいが、
      ま、その格好じゃあな」


 つぶやくクーの背中で、少女、猫塚しぃは身を縮ませた。
 無理もない。 季節は冬、12月の夜。
.

4 名前:名も無きAAのようです:2014/08/13(水) 22:47:54 ID:aqE7LG6E0
.
【 しぃ ・ クーサイド : VIP港ベイエリア ・ ウォーターフロント ・ ロード 】


 しぃはフルフェイスに制服姿といういでたちだ。
 クーのジャケットを羽織っているが、
 吹き付ける風を防ぐには、いささか頼りない。

 横からの潮風は容赦なく、華奢な体に襲い掛かる。
 しぃは震えながら、セミタンデムシートの両脇を、腿でぎゅっと挟みこんだ。


(((l|l*´−゚))) 「でも、なんで!?」


 国道へ抜けた。
 沿岸道路をかっ飛ばす二人に、
 きらめくハーバー ・ イルミネーションの遠景を楽しむ余裕はない。


川 ゚ -゚) 「何がだ」

(((;*゚−゚))) 「あの人を追いかける理由です! ……さ、むいぃっ」

川 ゚ -゚) 「愚問だな」
.

5 名前:名も無きAAのようです:2014/08/13(水) 22:48:37 ID:aqE7LG6E0
.
 エンジン音が鋭さを増した。
 鮮やかなライディングで、車線を斜めに突っ切る。


川 ゚ -゚) 「手がかりが欲しいんだろ? 両親の」

(* − ) 「────!」


 信号をすっ飛ばし、二人はビルの隙間へ吸い込まれてゆく。


(* − ) 「……」


川 ゚ -゚) 「しっかり掴まっていろ」


 まばらな車の間を縫い、稲妻さながら縦横無尽に疾駆する。


(*゚−゚)


(*゚ー゚)


 遙か前方に、目的のスカイラインを捉えたまま。
.

6 名前:名も無きAAのようです:2014/08/13(水) 22:49:24 ID:aqE7LG6E0
.
(*゚ー゚) 「───はいっ!」 ギュッ

       て
川;◎-◎) そ 「うお!?」


 回した腕に力が込められると、クーの尻が座席から浮いた。


川;゚ -゚) 「前言撤回! お、落ちない程度に掴まってろ!」

(;*´−`) 「すみません……」



 〜 〜 〜
.

7 名前:名も無きAAのようです:2014/08/13(水) 22:50:26 ID:aqE7LG6E0
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【 ブーンサイド: VIP港 埠頭エリア 】


 一方。

 タムラを追う高校生たちは、
 倉庫群の四つ角を折れたところで、はたと立ち止まった。


(l|l;◎ω◎) 「ぶひ、ふひぃ、ひぃ……」

(,,;゚Д゚) 「はぁ、はぁ……おい、ブーン!?」


 息を切らし、前屈姿勢になるブーン。
 汽笛がゆるやかに響いた。
 少し遅れてサダコが到着する。


川;д川 「あの……これから……どうしたら……?
       とっくに……見失ってます……けど」


 ブーンの背をさすりながら、サダコは聞いた。
.

8 名前:名も無きAAのようです:2014/08/13(水) 22:51:09 ID:aqE7LG6E0
.
 ギコは鼻を鳴らしたあと、


(,,-Д-) 「だいじょーぶ!  “ ロックオン ” してあるぜ!
      奴らの会話は、まだ耳に……!」


 目を閉じ、神経を両耳に集中させる。


 〜 〜 〜


 さらにこちら、追われる誘拐犯サイド──。

 タムラ達は大型トレーラーを降り、
 幌つきのトラックへ乗り換えようとしているところだった。


「……妙な車だな」

爪;゚〜゚) 「【 どりあん運送 】……。 聞いたことのねぇ運び屋だな。
      備えあれば、ってことで手配させてたんだが……。
      小型トラックたぁ、聞いてなかったわ」


 二人して乗り込み、グラサン男が刺さったままのキーに指をかける。
 シートからエンジンの振動が伝わる。 そのままトラックは発進した。
.

9 名前:名も無きAAのようです:2014/08/13(水) 22:51:56 ID:aqE7LG6E0
.
「ところで」

爪 ゚〜゚) 「あん」

「良かったのか?
 大事な大事な依頼主さまを助けなくて」

爪 ゚〜゚) 「まーいいさ。
      取りそこなった報酬くらい、自分で補填してやらぁ」


 助手席にふんぞり返るタムラは、
 『 箱 』 を取り出し、しげしげと眺めた。


爪 ゚〜゚) 「ひとまずジャンヌと合流し、こいつを徹底的に調べ上げる。
      ポセイドンのガキがわざわざ保管させてたくらいだ。
      ただのオモチャじゃねえな。 カネのニオイがする」

「お、俺もその……」

爪 ゚〜゚) 「取り分? はん、そりゃぁこれからの働き次第だな」


 滝沢は小さく舌打ちし、ポケットから煙草を取り出す。
 港湾の鉄扉を抜けると、前方に青い表示板が見えた。
.
11 名前:名も無きAAのようです:2014/08/13(水) 22:52:59 ID:aqE7LG6E0
.
「ところで、どこへ向かえばいい」

爪 ゚〜゚) 「落ち合う場所は決まってる。 いいか、この先の────」


 〜 〜 〜


(,,;-Д-) 「────廃ビルか!」


 叫びつつ、ギコはぱっと顔を上げた。


(,,-Д゚) 「ソーサク1丁目だッ!
     奴らはそこに向かってる!」


 耳に届く声は徐々に小さくなり、やがて途切れる。
 トラックが “ ロックオン ” の有効範囲を脱したらしい。
.

12 名前:名も無きAAのようです:2014/08/13(水) 22:53:50 ID:aqE7LG6E0
.
(,,#゚Д゚) 「うっし、すぐに行こうぜ! 回り込んでやらあ!」

川д川 「あの……」

(,,゚Д゚) 「あん?」

川д川 「……どうやって?」


 サダコは当然の疑問を呈する。
 ギコは周囲を見回した。


(l|l;^ω^) ハァ ハァ フゥ


(,,゚Д゚)


 貨物運搬用の車両は点在しているものの、
 当然ながら、キーが刺さって放置されているものなどはない。


川д川 「……移動の……手段は……?」
.

13 名前:名も無きAAのようです:2014/08/13(水) 22:55:14 ID:aqE7LG6E0
.
(,,゚Д゚)


川д川


(,,;゚Д゚)


川д川


川д川 (; ^ω^) (,,;゚Д゚)  チーン



(,,; Д ) 「あー、え─────っと……」



 『 こ、こっからタクシーっていくらかかるっけ……? 』



 三人は財布を取り出し、恐る恐る中身を確認し合った。

.
24 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:24:55 ID:D9mWpQHU0
.
 〜 〜 〜


【 ドクオサイド: 第三倉庫内 】


 庫内を静寂が支配した。

 ふと気づいた。
 可視領域が狭まっている。
 奥に行くにつれ、蛍光灯の光量が減っている気がする。

 空間を包む緊迫感ゆえか、
 それとも、彼の持つ特異性が、関係しているのか。


/ ゚、。 / 「しょーぶの前に、言っておくことがあるケド」


 ゆらり、揺らめく人影。
 幽霊のように現れた “ 電気系念動力者(エレキネシスト) ” は、
 指先に花札を弄びつつ、言った。


(;'A`) 「な、なんだ?」
.

25 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:26:35 ID:D9mWpQHU0
.
/ ゚、。 / 「わかると思うケド、これ」


 細い毛糸のような、しかし鮮やかなる閃光が、札の間を駆ける。


/ ゚、。 / 「一部の札には、ちょーのーりょくが封じ込めてあるケド」


( 'A`) 「!」

( ´_ゝ`) 「やっぱそーか」


 先ほど投擲された三枚について思い返す。
 俺の記憶が正しければ、“ 松に鶴 ”、“ 桐に鳳凰 ”、“ 芒に月 ”。

 これらはつまり、奴の操る玩具──超能力アイテムだということらしい。


/ ゚、。 / 「のーりょくを閉じ込めた札は10種。
       “ 鶴 ” “ 鶯 ” “ 桜 ” “ 蝶 ” “ 猪 ”
       “ 月 ” “ 杯 ” “ 鹿 ” “ 柳 ” “ 鳳凰 ”」


 無表情だが、おしゃべりな “ ねらー ” 、
 鈴木ダイオードは悠然と続ける。
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26 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:28:13 ID:D9mWpQHU0
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/ ゚、。 / 「のーりょくはそれぞれ、
       “ リプロデュース ” “ グリントキネシス ” “ パイロキネシス ”……」

     て
(; ´_ゝ`)そ 「はぁ? な、なんだって?」


 驚いた兄者が聞き返すも、お構いなしだ。


/ ゚、。 / 「“ テレポート ” “ リフレクス ” “ エレキネシス ” “ ツイスター ”
       “ マグネティクス ” “ シンクロノス ” ……“ ブローフ ” 」

(;'A`) 「多っ! てか覚えきれねー!」

/ ゚、。 / 「簡単だケド。
       音、光、爆炎、瞬間移動、反射、
       電撃、回転、磁力、同期、そして……」

(;'A`) 「そ、そして?」

/ ゚、。 / 「“ ブローフ ” は “ 吹き飛ばす能力 ” 」


 そう言って、
 さきほど跳ね上がったひとつの段ボールを、札で指し示した。
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27 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:30:03 ID:D9mWpQHU0
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(; A ) 「……どんだけだよ」


 身構えつつ、俺は辺りを見回した。

 数えるほどのパレットラック、パイプ椅子、プレジデントチェア、
 横倒しになった簡易テーブル……。
 あとは入り口脇に、ダンボール箱が数個、崩れ落ちている。

 こうしてみるとモノはけっこう散乱しているのだが、
 もともと積み荷そのものが少なく、
 奥に陣取っていたトレーラーも、すでにいない。


( ´_ゝ`) 「能力のバーゲンセールだな」


 庫内はがらんとした印象だ。
 超能力者同士の戦闘には、おあつらえ向きのステージかも知れない。


/ ゚、。 / 「ウリモノじゃないケド」


 スーツのポケットに手を差し入れ、花札の束を取り出すダイオード。
 最低でもワンセット分のストックはあると考えていいだろう。
 冷や汗が出る思いだ。
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28 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:31:43 ID:D9mWpQHU0
.
 ヤツは左手から右手へぱらぱらと札を繰る。
 後ずさる俺の代わりに、兄者が半歩前に出た。


( ´_ゞ`) 「さて……」

/ ゚、。 / 「お手並み拝見だケド」


 ヒーロー男とサムライ野郎。
 二人の長身は、簡易テーブルを隔てて対峙する。
 唾を飲む瞬間、放たれた言葉は。


/ ゚、。 / 『 ─── “ リレイト ” 』


 小さく、しかしはっきりと、庫内に残響した。


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29 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:33:40 ID:D9mWpQHU0
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●第三八話 『 CHASE!! ── VS. タムラ&ダイオード@ 』


 動いたのはほぼ同時だった。
 兄者の右手が空を薙ぐ。
 対して、ダイオードはバックステップで距離をとる。

 兄者の挙動がサイコキネシスによる攻撃動作だとわかったのは、
 側方のスチールラックから、硬質な打音が奏でられた瞬間だった。
 ダイオードは壁近くまで離れると、腕を交差させ、澄んだ声で言う。


/ ゚、。 / 「 “ 表菅原 ” 」


 両の手それぞれの指先。  摘まれるは計3枚の札。
 一瞬溜めたあと、ヤツはそれを手裏剣のように投げ放った。


( ´_ゝ`) 「!」

(;'A`) 「!!」


 兄者は今までに見たことのない機敏な動きで、
 上体を逸らし、投擲された札をやりすごす。
.

30 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:36:22 ID:D9mWpQHU0
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 俺はその場にしゃがむのがやっとだ。
 ひっと情けない声が漏れる。

 直後、右方より轟く爆発音。
 まばゆい光が周囲に広がり、反射的に顔を覆う。
 その時だった。


(; ´_ゝ`) 「 ぐぁ!? 」

(;゚A゚) 「あっ、づぅ!?」


 視界が緋色に染まった。
 浴びせられた熱は痛みに変換され、脳を焦がす。


(;'A`) 「な、なんだ!?」


 花札が爆発した。 おそらくこれは “ パイロキネシス ”。
 単純な話だ。 が、理解に納得が追いついていない。

 爆発は “ 右側 ” で起こったはず。
 なのに、灼熱が襲ってきたのは、“ 左後方から ”。
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31 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:39:48 ID:D9mWpQHU0
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 俺はその場によろめいた。

 幸い炎は上体を撫で付ける程度で済んだが、
 発生源に近かった兄者のほうは、服の左肩部分から焦げ臭い煙が上がっている。
 兄者はたまらず上着を脱ぎ捨てる。


(; ´_ゝ`) 「な、なにが……?」

/ ゚、。 / 「 “ リプロデュース ”  ──音を操作する、のーりょく。
       “ グリントキネシス ” ──光を制御する、のーりょく」


 無表情。 そして無機質な返答。
 交差する腕の先、さらに二枚の札が、指先で翻る。

               リ レ イ ト
/ ゚、。 / 「 ふたつを “ 関連付けた ” 」


 ピンとこない。 が、言わんとすることはわかった。
 右から発生した派手な光と音。
 これらは超能力による “ 現象 ” であり、おとりだ。


/ ゚、。 / 「 そして、単体の “ パイロキネシス ” 」


 左方向へ投擲された札───ホンモノから発せられる爆炎の、カムフラージュとして。
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32 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:41:10 ID:D9mWpQHU0
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(; ´_ゝ`) 「梅、松、桜……!」

/ ゚、。 / 「そゆこと」


 答えが返ると同時、第二弾が放たれた。


(;'A`) 「うわっ……!」

(#´_ゝ`) 「ふっ!」


 俺のほうへ飛んできた一枚の札は、数メートル先で鈍角に軌道を変えた。
 兄者が反射的に弾き飛ばしてくれたのだ。
 本人めがけて放たれたエモノも、サイコキネシスで難なく叩き落とされる。


('A`;)彡 「!?」


 が、その直後。
 急ブレーキのようなけたたましい音が右から響き、
.

33 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:43:55 ID:D9mWpQHU0
.
(;゚A゚) 「うわっ」


 足元から閃光。
 顔を覆った俺の袖元を、何者かが、ぐいっと引っ張った。


(; ´_ゝ`) 「惑わされるな! 上だ!」


 それが兄者だと理解した瞬間、目の前に赤いシャワーが降り注いだ。
 火の粉がぱちぱちと、生き物のように踊り、爆ぜる。
 俺たちは頭部を守りつつその場から離れる。


/ ゚、。 / 「今のは、“ 関連づけてない ” 」


 爆音、閃光、そして熱波。
 全てがズレたタイミングで発生したため、対処が遅れた。
 兄者が袖を引いてくれなかったら……考えると背筋が凍る。


/ ゚、。 / 「どんどん行くケド。 ── “ 表菅原 ”」

::(l|l゚A゚):: 「わ、うわ、うわわわっ」


 ダイオードの手には、すでに次の札が握られていた。
.

34 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:47:34 ID:D9mWpQHU0
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 マズい。
 こんな連続攻撃聞いてない。
 対抗策など用意できるはずがない。

 サムライ野郎は両腕をひねると、最小限の動きで、それらに推進力を加えた。


 〜 〜 〜
.

35 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:48:58 ID:D9mWpQHU0
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【 しぃ ・ クーサイド: VIP市沿岸地域 ・ 公営団地周辺 】


(;*゚−゚)】 「うん、うん……わかった。 ありがとう」


 しぃは派手な装飾の施された携帯を閉じる。
 水色の外装にこびりついた煤を、ハンカチで間単に拭き取ると、
 クーのほうへ差し出した。


(*゚−゚) 「行くべき場所はわかりました。
     あの、そっちは……!?」

川 ゚ -゚) 「問題ない。 シートが若干、破れはしたが」


 立ち上る焦げ臭いにおいに顔をしかめつつ、
 クーはバイクから向き直った。

 結論から言うと、ジャンヌには逃げられた。
 つい先ほど見た、彼女の挑発的な表情を思い返し、しぃは歯噛みする。
 ……ああ、もうちょっとだったのに。

 事実二人は、ジャンヌの乗るスカイラインまであと数メートルにまで迫っていた。
 だがそこで、追跡を中断せざるを得ない事情が発生した。
 スカイラインを追って路地に入った途端、眼前に火の手が上がったのだ。
.

36 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:50:52 ID:D9mWpQHU0
.
 クーははじめ、無謀にも燃える壁に突っ込もうとしたが、
 突っ切るには、炎の奥行きと、勢いがありすぎた。
 ミディアムレアに炙られたところで、短い悲鳴、そこからクイックターン。

 転倒こそしなかったものの、二人は我先にバイクから降り、
 消火活動に追われる事態となる。
 バイクと服の両方だ。


川 ゚ -゚) 「お前こそ大丈夫か。 制服」

(*゚ー゚) 「いいんです、ボロボロなのはお互い様です」

川 ゚ -゚) 「……言ってくれるな」


 クーはポリタンクを捨ててきたことを悔やんだが、
 幸いというべきか、水を必要とするほどの事態には至らなかった。

 セダンの姿が小さくなるにつれ、
 路地を包む炎はだんだんと勢いを弱め、やがて鎮火した。

 服の火をようやく消し止めたところで、ギコからのコールだ。
 電話はクーの携帯にかかってきた。
 そこでしぃは、携帯含め、荷物をすべて倉庫へ忘れてきたことに気づく。
.

37 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:53:15 ID:D9mWpQHU0
.
 バイクを点検するクーの代わりに、しぃが電話を受けた。

 『 あんちゃん達、学生か? こんな時間にンなとこ行って何しでかす気だ? あん? 』
 『 そんなこといいですお! いいから急いでくださいお! 』

 『 あーん? いいかぁ、俺がおめェらくらいの頃はなぁ…… 』
 『 い、今そこ……右だったんじゃ…… 』
 『 ちょ、赤! 信号赤っぁあぁ前ぇえ! 』

 車内だろうか。 周りが騒がしく聞き取りづらかった。

 何度もギコに聞き返しながら、しぃは誘拐犯たちの行き先と、
 タムラ達の乗るトラックの特徴を知った。
 そして、


(*゚−゚) 「ソーサク一丁目、工場地帯にある廃ビルらしいです。
     クーさん、わかりますか?」


 ギコの 『 箱 』 がタムラに奪われたという事実も。


川 ゚ -゚) 「だいたいな。 ここから40分。 私なら30分」

(;*゚−゚) 「さすがですね。でも、廃ビルって」

川 ゚ -゚) 「心当たりはなくもない。 行ってみればわかるだろう」
.

38 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:57:45 ID:D9mWpQHU0
.
 クーは頬を掻き、周囲を見回す。
 立ち並ぶ住居群は、四角い光をまばらに散らしている。

 繁華街に続く、商店の立ち並ぶメイン通り。
 そこから住宅区域を結ぶ直線、
 ちょうどその中間あたりに、この団地は位置する。

 道幅に対し、街路灯の明かりが乏しく感じられる。
 不気味なほどの静けさだ。

 が、人気のなさが逆に幸いだったというべきか、
 さきほどの発火現象も、騒ぎには発展しなかった。

 とはいっても、ボヤが発生したことは紛れもない事実。
 滞留する薄煙で夜空も曇っている。
 周囲の住人がすでに通報している可能性も、なくはない。


川 ゚ -゚) 「とにかく、のんびりしてる暇はないぞ。
      場所はわかったからいいが、早く見つけないと色々厄介だ」


 タムラとジャンヌはまだ合流していないだろう。
 戦力が分断しているうちにカタをつけたい。
 しぃは小さく頷く。
.

39 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 18:58:43 ID:D9mWpQHU0
    て
(*゚−゚) そ 「そうですね。 先回りできれば、車を目印に……あっ」

川 ゚ -゚) 「?」

(*゚ο゚)σ 「いた」


 彼女の指差す方向、
 住宅脇の道と交差する広い道路を、一台のトラックが通過していく。

 緑色の幌に、大きく 『 どりあん運送 』 とあった。
 文字の中央に、飛脚姿のキャラクター 『 どりあんくん 』 が描かれている。
 ぶつぶつの丸い玉から手足の生えた、不可解なイラストだ。

 まさに今、ギコから聞いた、トラックの特徴ぴったりだった。


川 ゚ -゚)


(*゚−゚)σ
.

40 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:00:44 ID:D9mWpQHU0
.
川 ゚ -゚) 「……マジで?」


(;*゚ー゚)゙

     て
川;゚ -゚) そ 「早く乗れ!」


 再びシートにまたがるクーの後ろで、
 しぃはあたふたとフルフェイスを被りなおした。


 −−−


川 ゚ -゚) 「うおおおおおお!」

(;*゚□゚) 「ひゃあぁぁああっ」

川 ゚ -゚) 「んどぉおしたああぁぁああ」

(l|l* □ ) 「さむむっ、いぃい──っ、ですっっ」
.

41 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:02:41 ID:D9mWpQHU0
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 少女を後ろに乗せて、バイクは走る。
 なんか凄い轟音となんか凄い煙を噴き出しながら、
 なんか凄い曲がって、たまに止まって、色々走って、なんか、その……

 それもこれも描写のしようが無いのだ。
 どうしてか、単純にバイクの知識に疎いからだ。

 そして上の5行は、
 かの名作 “ ドクオは棺桶売りのようです ” 五話のコピペ改変だ。


川 ゚ -゚) 「───見えた。 アレだな」


 標的を遠くに捉えると、クーはアクセルグリップをさらに引き絞る。
 唐突にあらわれた対向車をかわし、歩道の縁石を踏み越え、
 路地をジグザグに抜けてショートカットする。


(;*゚□゚) 「や、山越えですか!?」

川 ゚ -゚) 「近道だ」


 峠に差し掛かった。
 ときおり蛇行し、時に車体をめいっぱい傾かせながら、
 暗い道路を突き抜ける。
.

42 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:05:21 ID:D9mWpQHU0
.
 しぃははらはらしながら、流れる景色を眺めていた。
 弓なりの山道は、わずか十数メートル先も見通せないかわりに、
 向こう山の様子は見て取れた。

 “ どりあんくん ” 付きのトラックが、山沿いの道を進んでいく。
 数百メートルほど先だろうか。


(;*>□゚) 「──いた!」

川 ゚ -゚) 「経路は同じか。 なら、純粋な追いかけっこだな」


 木々のシルエットの隙間から現れるたびに、トラックのテールランプが、
 闇に光る赤い目となって、追跡する二人を睨みつける。

 あちらはあちらで、ドライバーの実力は確かなようだ。
 ゆるやかなカーブの続く道を、ほとんど減速することなく、すいすい駆けていく。

 距離は少しづつだが縮まりつつある。
 しぃは “ 力 ” を出さないよう気を払いながら、
 クーの腰に、メットの前部を押しつけた。
.

43 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:06:49 ID:D9mWpQHU0
.
 −−−


 林を抜けると、視界が一気に開けた。
 田園地帯をしばし進み、踏み切りを越えると、別の県道と合流する。

 家々に店が混ざり、ビルが現れて。
 やがて辺りは町となり、街となる。

 ロードサイドには、飲食店といわずガソリンスタンドといわず、
 どこかで名を見聞きしたことのある店舗が散見されるようになった。
 片側一車線から二車線へ。 車の往来も激しくなる。


川 ゚ -゚) 「あいつら……ネタスレ町を経由し、国道△△号線に抜けるつもりだな」


 ガードレールすれすれを飛ばす。
 車線を分ける白線の上を通行し、
 並んだ大型車の車輪部分、わずかな隙間を抜ける。

 荒いライディングに、しぃの心は揺さぶられ続ける。 
 だが、クーのテクニックは確かだった。

 右から左から、次々に車両を追い越し、すり抜け、
 確実にトラックとの距離を詰めていく。
.

44 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:09:04 ID:D9mWpQHU0
.
 やがて信号に阻まれる。
 黄色のランプが点灯するのを見た途端、クーは強引に車線を変更し、わき道へ反れた。
 ぐねぐねした路地を抜けると、ちょうど数十メートル先に、トラックの幌が見えた。


(*>−゚) 「すごいっ、ばっちりです!」


 彼女の進路選択の的確さに、しぃは感嘆の声をあげた。


川 ゚ -゚) 「準備はいいか?」

(*>−<) 「えっ?」

川 ゚ -゚) 「この道はバイパスへ続いている」

(*゚−゚) 「それって……」

川 ゚ -゚) 「立体交差の直前。 そこで勝負をかける」


 駅へと伸びる直線。
 道の脇、夜間作業中の現場に差し掛かった。
 オープンを間近に控えた飲食店のようだ。
.

45 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:11:43 ID:D9mWpQHU0
.
 外装工事の最中、そして今は休憩中らしい。
 数人の作業員と、交通整理らしき警備員が、店舗の外壁に腰掛けて談笑している。
 歩道に乗りあげる形で、一台の軽トラックがハザードを点滅させていた。

 バイクは弾丸のようにその横を駆け、続く四つ角を左に折れた。


川 ゚ -゚)゙ (……む?)


 幾度となく繰り返してきた急旋回だった。
 だがクーはそこで違和を感じ取る。

 バイクの車体が、わずかに揺れた。
 ハンドルを通して伝わる重量感も、シートからの振動も、
 先ほどまでとはどこか違っているように思える。

 軽トラックの荷台を見て、作業員たちが悲鳴をあげるのは、
 それからほんの少し後のことだった。


 〜 〜 〜
.

46 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:13:59 ID:D9mWpQHU0
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【 ドクオサイド: 第三倉庫内 】


(; ´_ゝ`) 「焦るな! よく見ろ!」


 兄者が俺の前に躍り出た。
 彼を取り囲む三方から、札は無慈悲に襲い掛かる。

 サイコキネシスを警戒しているのだろうか。
 ダイオードは常に俺たちと一定の距離を保っている。

 そして札投げのコントロールは抜群。
 飛んでくる方向も、位置も正確。

 が、それゆえに、


(#´_ゝ`) 「おらぁっ!」


 兄者にとっても、念動力で防ぐには難くない条件だった。
.

47 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:15:59 ID:D9mWpQHU0
.
(; ´_ゝ`) 「どぅおおっ! んでっ……!」


 真っ直ぐ飛んでくる札を、一度、二度と払いのける。

  _, ,_
(#´_ゝ`) 「3枚目! こいつだ!」


 そして。
 次に投擲された札を、兄者は思い切り左へ弾く。


(;'A`)と 「!」

( ´_ゞ`) 「走れっ!」


 俺と兄者は同時に駆け出した。
 響く炸裂音。 上から注ぐ眩い光。
 俺がそいつらを掻い潜った直後、兄者はすでに攻撃のモーションに入っていた。


( ´_ゝ`) 「メイン ・ ウェポンがわかっていれば───」


 右手を引いた体勢でぐっと腰を落とす。
 空間の歪みが、念動力の発生を示していた。
.

48 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:18:39 ID:D9mWpQHU0
.
(#´_ゝ`) 「対応くらいできるってなもんじゃよ!」


 押し出し、波動の渦を放つ。
 ダイオードはアクロバティックな動きで回避するが、


/ ゚、。 / 「!?」


 避け切れなかったらしい。 腕に被弾。
 紙鉄砲のように、乾いた音が響く。
 ダイオードは右手からばらばらと札を取り落とし、たたらを踏んだ。


( ´_ゝ`) 「お前のやってるのは所詮、奇襲攻撃にすぎないからなっ」


 光と音── “ おとり ” の能力が先行し、
 ラストに着弾するのが “ パイロキネシス ”。

 そういうことか。
 ようやく理解できた。
 俺たちの左後方では、今まさに赤い炎が乱舞していることだろう。
.

49 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:20:43 ID:D9mWpQHU0
     て
(; ´_ゝ`) そ 「もらっ……ぐあ!?」

(;'A`) 「兄者!」


 追撃を試みる兄者だったが、低位置を滑空する物体に阻まれる。
 プレジデントチェア。 ──ポセイドンの。
 ガードは間に合わず、右半身に直撃。

 兄者がよろめいた隙にダイオードはダッシュし、距離をとった。


/ ゚、。 / 「あぶないあぶない」


 壁を背に、首を傾げたような、独特の角度から解説する。


/ ゚、。 / 「反撃を見越して “ ブローフ(吹き飛ばす能力) ” を撒いてたのだ」

(;'A`) 「な……!?」

/ ゚、。 / 「ま、ちょっち距離感を見誤ったことは認めるケド」


 本気なのかおちゃらけているのか。 口調では判断できそうにない。
 おそらくは素でこういうキャラクターなのだろう。
 相変わらず無表情なのが不気味さを際立たせる。
.

50 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:23:00 ID:D9mWpQHU0
.
/ ゚、。 / 「はんせい、はんせい」


 言いながら、スーツのポケットに手を差し入れる。
 まさか、と息を飲んだ直後には、俺たちにとっての絶望がヤツの両手に握られていた。


(;'A`) (も、もう1セット!?)

/ ゚、。 / 「右手に “ 月見酒 ” 左手に “ 花見酒 ” 」


 ダイオードは両手を広げ、その先に2枚ずつ札を示す。
 サイコキネシスのダメージすら感じさせない。


(; ´_ゝ`) 「ぐっ……!」

/ ゚、。 / 「かわせる?」


 手首のスナップと、わずかな肘の動きだけで。
 4枚の紙片は同時にベクトルを与えられた。


(l|l'A`) 「!」
.

51 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:25:29 ID:D9mWpQHU0
.
 マズい。
 兄者のサイコキネシスはその性質からして、
 四方から飛来する札をいっぺんに叩き落とすのは難しい。


(; ´_ゝ`) 「よけろっ!」


 それぞれに超常現象を携えた、悪夢の長方形。

 先ほどとは挙動が違っていた。
 ゆるい弧を何度も描く不可思議な軌道で、
 しかし確実に俺たちのほうへ迫りくる。


(;'A`) 「ひぃ!?」

(; ´_ゝ`) 「わぁお!」


 着弾。
 点火。
 “ 花見酒 ” ──右手方向の床から、炎の渦が巻き起こった。

 “ 菊に杯 ” と関連付け(リレイト)されたパイロキネシスは、
 広範囲に渦巻く “ 現象 ” と化し、花火のように派手な炎を撒き散らす。

 咄嗟に左へ避ける。
 倒れこみながら、どうにか炎から逃れた。
.

52 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:27:30 ID:D9mWpQHU0
.
 顔をあげると、壁際のスチールラックに体を預ける兄者の姿があった。
 勢いざま肩から突っ込んだらしく、苦悶の表情を浮かべている。


(;゚A゚) 「!」


 その頭上。
 落葉さながら、舞い降る一枚の札。

 スチールラック上部。
 着弾している。
 赤、白、深緑。  一目でわかるその絵柄。

 月は “ 電撃(エレキネシス) ” 。


(;'A`) 「マズいッ! そこから離れろ!」

(; ´_ゝ`) 「!?」
.

53 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:29:40 ID:D9mWpQHU0
.
 あっと言う間の出来事だった。
 ラックの支柱を起点として、青い火花が螺旋状に拡散した。
.
 飛び退ろうにも、間に合わず。
 兄者の二の腕を火花がかすめる。


l||(l|l ゚_ゞ゚)||l 「あがっ!?」


 瞬間、青い光の糸が、彼の全身をいびつに編み上げた。


 〜 〜 〜
.

54 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:32:29 ID:D9mWpQHU0
.
【 目撃者サイド: VIP市郊外 ・ 沿道 】


 すれ違う対向車の前照灯が、光の筋となって流れてゆく。
 暗い窓の外を一瞥し、男は大きなため息をついた。


「Ohニィサン。 私コノ道、タマニシカ通ラナイ。 アナタらっきーネ」


 彼の隣。 カタコトで話すドライバーが、黄色い歯を見せた。
 ドライバーは国籍不詳だった。 彫りが深く、もじゃもじゃのひげと鬢とが繋がっている。
 フルビアードと呼ばれるスタイルだ。 頭には白いターバンを巻いていた。


「ナンダカ疲レタ顔シテルネ。 チョコ、食ウカ?」


 男は返事の代わりに愛想笑いで応え、軽く頭を下げた。
 ああ、ひどい目に遭った。
 さっきまでの出来事を思い返し、もう一度ため息を吐く。


「遠慮イラナイヨ? ホラ、ホラ」


 この日の夕方、彼は婚約者──となるべきだった相手と別れた。
 最高の夜になるはずだった。 なのに。
.

55 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:34:57 ID:D9mWpQHU0
.
 いたずらで、高校生にエンゲージリングを奪われた。
 そこから全ての歯車が狂ったのだ。

 取り返したエンゲージリングはカラスにさらわれた。
 カラスを追ううちに階段から落ち、恋人に踏まれ、
 通りすがりの柔道部員のランニングに巻き込まれた。

 起き上がる際、Jの壁に悩んでいるような顔の女の胸に飛び込んだことで、
 痴漢の濡れ衣をかけられ、警察に追われ、側溝に足を取られ転倒。

 走るうちに財布を落とし、ぎっくり腰になり、自動販売機の角に足の小指をぶつけ、
 三輪車に跳ねられ、頭上にタライが降り、よろけて蜂の巣を蹴飛ばし、
 全身刺されて半狂乱のまま肥溜めに落ちた。


「特別製ヨ。 元気出ルチョコレートヨ」


 その後、半裸の状態でとぼとぼ歩いていたところ、
 目の前にバンが停まった。

 ダメ元で帰りの方向を告げると、
 運転席の彼が満面の笑みで「OK」のジェスチャーを返してくれたので、
 ホイホイついて……もとい、拾われてきたというわけだ。
.

56 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:37:20 ID:D9mWpQHU0
.
「オイシイヨ、ホラ、アゲアゲヨ」


 ドライバーはそう言ってニカッと笑う。
 屈託ない、今にもカレーを振る舞ってくれそうな笑顔だ。

 むげに断るのもどうかと思い、
 男はドライバーの手から、菓子をひとかけら受け取る。

 そうして三度目のため息を漏らした直後のことだった。
 銀紙を剥がし、中の固形物をかじろうとした瞬間、
 男はそのポーズのまま固まった。


「オ兄サン男前ネ。 トコロデココ、暑クナイカ?」


 右手から、ころりとチョコが落ちた。
 思わず二度見する。


「脱グカ?」


 時折こちらにちらちら視線を送る、ドライバーの男。
 心なし上気しているようにも見える、眉毛の繋がった、濃い顔。
.

57 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:39:37 ID:D9mWpQHU0
.
 問題は彼ではなく、その向こう側にあった。
 リアシートのガラスを通して、一台のバイクが並走しているのがわかった。


「ダイジョブ、ダイジョブヨ。 怖クナイヨ」


 警察ではない。
 バイパスへ続く、片側二車線の沿岸道路。
 二つの車線のど真ん中、車の間を縫って走り来るのは、ごく一般的な中型バイクだ。

 だが、理解できない。
 奇妙な光景だった。


「トコロデ兄サン、肌キレイネ」


 バイクを操る、コテコテのライダースーツ ・ レディは、ハーフヘルメットを被っている。
 後ろのシートにいる、女子高生らしき制服姿の女の子が、フルフェイスメット。

 通常は逆じゃないだろうか。
 が、そんなことは瑣末な疑問にすぎない。

 問題はなぜ、フルフェイスの女子高生の背に、
.

58 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:41:55 ID:D9mWpQHU0
.
        /, .
     _,,,...//〃ー,_/(.      /
  ,,イ';;^;;;;;;;:::::""""'''''''' ::"〃,,__∠_/
/;;::◎'''::; );_____         (
≧_ノ  __ノ))三=    _..、'、"^^^\ヾ
  ~''''ー< ___、-~\(
      \(


 マグロがいるのか、だ。

 ひっく、妙な音が喉から漏れた。 息をするのを忘れていたらしい。
 バイクはとうとう、運転席の真横に迫った。

 後部シートにちょこんと座る少女は、片手を女性ライダーの腰に回し、
 逆側の肩に、巨大なマグロを担いでいる。
 目を丸くする男の視線と、もともと丸いマグロのそれが、重なった。

 『 What!? 』

 ようやく気づいたのだろう、ドライバーが鋭い声をあげた。
 何故英語なのだろう。
 彼らの疑問に答えるかのように、


川 ゚ -゚) 「ばっかもおおぉぉおん、そいつがルパンだぁあぁあ」


 突然、黒髪の女ライダーが叫んだ。
.

59 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:44:07 ID:D9mWpQHU0
.
(;*゚−゚) 「な、なんですか!?」

川 ゚ -゚) 「言ってみたかったんだ」

(;*゚ー゚) 「そう、ですかっ」


 会話らしき数回のやり取りのあと、バイクは急加速する。
 二人と一匹の姿は、みるみる小さくなっていった。


『 Oh. 』


 あんぐり口を開けたままの男の横で、
 ターバン姿のドライバーが、つぶやいた。


『 イッツ、イッツ、ソウ…… 』



『 ジャパニーズ ・ マグロ ・ ガール 』


 〜 〜 〜
.

60 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:46:19 ID:D9mWpQHU0
.
【 タムラサイド:  VIP市ネタスレ町 ・ バイパス入り口付近 】


     て
爪l|l 〜) そ 「なんじゃあぁぁあありゃあ!?」
 

 鈴木タムラが、今日のMVPとも呼ぶべき驚愕の叫びを喉から絞り出した。
 その途端、彼の視界から、相手の姿は消えていた。

 ライダースーツに身を包んだ漆黒の美女。
 彼女の後ろに立つ、フルフェイスの女子高生。
 そして、マグロ。

 先ほどまでサイドミラーに映っていた物体……、
 二人と一匹を乗せたバイクは、猛スピードでトラックに接近し、
 タムラのすぐ後方へ迫っていた。


「曲がるぞ!」


 滝沢が大きくハンドルを切り、トラックは無理やり右折する。
 広い幹線道路から、農村地帯を縦断する支線道路へ降りた。
.

61 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:48:46 ID:D9mWpQHU0
.
爪l|l゚〜゚) 「ダメだ、ついて来てやがる!」


 トラックがふたたび加速するまでのわずかな間で、
 バイクはすでに、タムラの隣へぴったり張り付いていた。

 まずい、どうする。
 タムラの頬を冷や汗が伝った、その直後のことだった。


爪 ゚:::::::) 「  あ  」


 まさか、と息を飲んだ瞬間、それは現実となった。
 左サイドから派手派手しい破砕音。
 フロントドアガラスがぶち破られ、目の前に魚の頭部が出現した。

 ぎゃあ、とタムラは驚き叫ぶ。
 車体が右へ傾いだ。
 同時にマグロも引っ込んだ。
.

62 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:50:47 ID:D9mWpQHU0
.
 シートから跳ねあがり、左を確認する。

 当のバイクもバランスを欠いていた。 当然だ。
 タンデムフットレストに立つ少女は、
 巨大なる凶器──マグロ型の立体看板を、車上でふたたび抱えなおそうとしている。


     て
川;゚ -゚) そ 「おまっ、何やっ……何持ってんだ!」


 一瞬見えたライダー女の横顔は、
 今の今までマグロの存在に気づいていなかった、そういう表情にも見えた。


「この野郎!」


 滝沢が憤怒の雄叫びをあげた。
 フラつくバイクへ、めいっぱい幅寄せする。
.

63 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:53:23 ID:D9mWpQHU0
.
 タイヤが鳴く。
 サスペンションがきしみを上げる。
 昂りをクラクションが代弁した。

 女は体勢を整えるも、徐々に道路端へ追いつめられていく。
 怒気をはらんだ視線がタムラへ向く。
 ガードレールまであと数センチ。


川 ゚ -゚) 「……チッ!」


 衝突ギリギリで、女のバイクはたまらず減速した。
 滝沢はすぐさまハンドルを切り返す。
 進行を阻むように、バイクの前方へ躍り出る。

 急ブレーキ。
 タムラは慌ててダッシュボードを掴む。
 そして急加速。

 滝沢はさらにハンドルを捻り、もう片手でギアをシフトアップする。
 エンジンがうなり、トラックはさらに加速した。
.

64 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:56:11 ID:D9mWpQHU0
.
爪;゚〜゚) 「撒いたか!?」


 ひととおり走行が安定したところで、
 タムラは膝に散ったガラス片を払いのけ、
 窓から顔を出した。

 見えた。
 滝沢による妨害も大した効果はなかったらしい。
 バイクはタムラ達を煽るがごとく、左後方へぴったり張り付いている。

 幌の端からちらちら姿が現れる。
 そのたび、ハイビームがタムラの目を刺した。


「しつこい奴らめ……!」

爪 ゚〜゚) 「右だ、右に寄れ! ヤツらを誘い込む!」 


 声に弾かれたかのように、トラックはぐっと進路を変える。
 わずかに減速を伴った。
 その隙を逃すことなく、バイクが左に滑り込もうとしてくるのがわかった。
.

65 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:58:18 ID:D9mWpQHU0
.
爪#゚〜゚) 「くらえぇぇぇえぁあ!!」


 タムラはここぞとばかり、バスタオルを窓から放り投げた。
 ヘッドライトの眩しさではっきりとは見えなかったが、
 バイクがその上を通過したであろうことは、おおよそ感じ取れた。

 終わりだ。
 タムラは顔を引き、口角を吊り上げる。
 たっぷりと味わいな、俺様の能力を。


爪;゚〜゚) (あれ? 今……!?)


 が、そこで違和感が走る。
 今しがた、トラックの左に出現した、クーのバイク。

 一瞬しか確認できなかったものの、
 後ろのシートに、いるべき人物の影がなかったような。
.

66 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:00:51 ID:D9mWpQHU0
.
 『 あっひゃ〜っ☆ 』

爪 ゚〜゚)


 その時だった。
 上部から、どん、どんという、天井を踏みしめるような音が聞こえ、


  川
(*。A。)  ヒョコ

爪 ゚〜゚)


 フロントガラスという名のスクリーンに、有り得ない光景が映し出されるのと。


(*。A。)


 『 やっほー 』


 運転席二人の表情がゆがむのは、同時の出来事だった。


 〜 〜 〜
.

67 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:03:42 ID:D9mWpQHU0
.
【 ドクオサイド: 第三倉庫内 】


 短い悲鳴をともなって、兄者の長身がびくりと跳ね上がった。


::::(l|l _ゝ )::: 「ぐ……おお……っ!」


 本日二度目の感電。

 幸いスタンピースほどの威力はなかったようで、
 兄者は倒れそうになりながらもその場に踏みとどまった。


(; _ゝ ) 「うっは……ビリっと、き、たわ」

(;'A`) 「大丈夫か?」

(; ´_ゝ`) 「なん、の、これしきっ」


 そう言って、おもむろに床を蹴る。
 追撃の札をすれすれで避け、疾駆する。
.

68 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:05:44 ID:D9mWpQHU0
.
/ ゚、。 / 「どっこい、それは読んでた」


 その前方、ひらり舞う花かるた。

 声を上げる間もなく、閃光が周囲を包む。
 兄者の足が止まった。

 真正面からの“ グリントキネシス ” 発動。
 サディスティックに広がる白い闇。

 兄者は顔を覆う。
 当然、俺もだ。
 徐々に光は薄れゆくが、そのうち異変に気づく。
.

69 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:08:28 ID:D9mWpQHU0
.
(;'A`) 「なっ」


 まっさらなキャンバスの中央に、黒い影がゆらめいた。
 はじめはぼんやりと。 しかしみるみる大きくなり。
 直後、兄者の頭上から。


(; ´_ゝ`) 「ぐあ!?」


 巨大な物体が降った。


/ ゚、。 / 「鹿は “ テレポート ” 」


 簡易テーブル。 アルミ製の軽いものとはいえ、落下エネルギーは充分。
 延髄あたりをしたたかに打ち、兄者は大きくバランスを崩す。
 が、あいつもタダで起きるようなタマじゃない。


(#´_ゝ`) 「────っらぁ!」


 既にサイコキネシスの射程距離内だった。
 地面に片手をついたまま、兄者は反対の腕を掻き出すように払う。
.

70 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:11:18 ID:D9mWpQHU0
.
/ ゚、。 / 「!」


 波動のアンダースロー。
 ダイオードはサイドステップしつつ、上体を大きく傾けた。


(; ゚_ゝ゚) 「なっ」


 その時だ。
 想定外の現象に、俺たちは目を見開いた。

 まるで、放たれた念動力でスイッチを押下されたように。
 後方の柱が、ギン、と甲高く鳴いた瞬間、
 常識とは思えないスピードで、ダイオードがこちらに突進してきたのだ。


('A`;)ノノ そ 「うおっ!?」


 大砲の弾のように、俺たちの横を駆け抜け。
 反対側まで吹っ飛び、くるり、器用に体を反転させる。
 そのまま壁を蹴って静止すると、ダイオードは優雅に着地してみせた。
.

71 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:14:36 ID:D9mWpQHU0
.
(; ´_ゝ`) 「! ───痛っ」


 赤い置きみやげを残して。
 兄者の腕から血の糸が垂れ落ちた。


/ ゚、。 / 「……」


 ダイオードは顔の前に肘を曲げ、
 「あんた、背中が煤けてるぜ」のポーズでこちらを見ている。

 伸ばした指先に一枚の札。
 通過する際、兄者の腕を引っかいていたのだ。


(; ´_ゝ`) 「なんだ、今のは……!?」

/ ゚、。 / 「教えてやるケド」


 解説したがりのエレキネシストは、得意げに鼻先をこすった。


/ ゚、。 / 「スズキの履いてるブーツ、
       実はここにもちょーのーりょくを封じ込めてあるケド」
.

72 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:17:08 ID:D9mWpQHU0
.
(; ´_ゝ`) 「……花札(オモチャ)だけじゃなかったのか?」 イテテ


 返答代わりの軽い跳躍。


/ ゚、。 / 「 “ リアクトン ”  タムラの、チカラ。
       ── “ 反作用を操る能力 ”」

(;'A`) 「!」


 〜 〜 〜
.

73 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:20:04 ID:D9mWpQHU0
.
【 クーサイド: 県境方面 広域農道路上 】


 12月初旬の夜空は澄みわたり、さえぎる雲もない、星の大海だった。

 VIP市沿岸に位置するこの支線道路は、路面もきちんと整備されており、
 一般的な農道のイメージとは異なる、アスファルトの幅広い道だ。


「あ」


 ただ両サイドが畑というだけ。
 十数分ほど進めば、国道△△号線、バイパスの降り口付近へ復帰する。


「お」


 星の輝きがよく見える。
 夜が深まり、寒さはいっそう増したように思われた。
.

74 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:22:50 ID:D9mWpQHU0
.
川 ゚ -゚) 「      え      ? 」


 クーは飛んでいた。


川 ゚ -゚) 「………………はい?」


 比喩ではなく、バイクごと宙を舞っていた。

 トラックから投げ放たれた、一枚のタオル。
 そいつを踏んだ瞬間、その “ 現象 ” は起きた。

 軽い衝撃とともに、
 車体が、勢いよく宙へ跳ね上がったのだ。

 ファンタジー映画のワンシーンのように、空を舞う一台のバイク。

 『 オーノ〜! 』

 ハンドルを握るクーの脳裏に、
 コミカルなキャラが登場する、家庭用レースゲームの一場面が浮かんだ。
 しぃ達若い者は知らないであろう、古めの機種のゲームだ。
.

75 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:25:20 ID:D9mWpQHU0
.
川 ゚ -゚) 「Oh.....」


 そのゲームでは、ジャンプ台のトラップを踏むと、キャラクターが勢いよく飛び上がる。
 彼女の状況は、まさにそれだった。


川 ゚ -゚) 「の……」


 落ちるとスピンし、アイテムが没収される。


川 ゚ -゚)


    て
川;゚ -゚) そ 「のおおおおおおおおおおおおおぉぉぉう!?」


 が、残念ながらこれはゲームではない。
 紛れもない現実だ。
 地面に叩き落とされた場合、スピンしながら舌を出すだけでは済まされない。
.
77 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:43:40 ID:D9mWpQHU0
.
 浮遊の最高到達点から、ベクトルは下へ。

 クーは無意識のうちに腰からペットボトルを抜いた。
 ファイトで一発しちゃうドリンクCMのように、
 キャップを親指でひねり飛ばす。


川;゚ -゚) 「このっ……!」


 落ちる。 回る。
 クーは無我夢中で腕を振った。
 ボトルから水のロープが射出される。

 ボトル内の水は “ 特別製 ” だ。
 触れずとも制御でき、その強度も高い。

 間一髪、ロープは近くの木の枝に絡みついた。
 ぐい、と引き寄せ、ターザンのような振り子運動を二、三回。
 クーの体は、しなる枝と水のロープの下、ぶらりと垂れ下がった。


川 ゚ -゚) 「……ぐぅ。 あっっぶな……」


 助かった、と胸をなで下ろすクーだったが、
.

78 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:46:00 ID:D9mWpQHU0
.
川 ゚ -゚) 「  あ  」


 その目の前、己の分身であるバイクが、


川;゚ -゚)ノ 「や、ちょっ」


 スローモーションで、道路下の畑に落下してゆく姿を、


川;゚ -゚) 「Nooooooooooooooooooooooooo!!!!」


 目撃させられた。
 同時に、聞きたくない轟音が──鮮明に彼女の耳へ届いた。
.

79 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:47:55 ID:D9mWpQHU0
.
川 ; -;) 「きゃしぃいぃいぃぃぃぃぃいぃぃぃぃいいぁあぁ!!」


 その後、水の力で引き起こしたマイバイクは、
 傷だらけで、見るも無惨な姿に変わっていた。


 『 頼む、動いてくれっ 』

 『 動けよおぉぉぉおぉお 』


 泥を払い落とし、シートにまたがる。
 素直でもクールでもない雄叫びをあげ、
 必死にキーをひねる。


川 ; -;) 「おおお……お?」


 彼女の祈りが通じたのか、数回のトライで奇跡的にエンジンがかかった。
..

80 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:49:47 ID:D9mWpQHU0
.
 ちょっとだけ泣きそうになっていたクーだったが、
 気を持ち直し、ギアを入れアクセルをひねる。


川;゚ -゚) 「うぉぉおぉぉぉあぁぁあぁ」


 バイクはよたよたと発進した。
 なるべく前を──前だけを見ながら走った。
 凄惨たる相棒の姿を、できる限り目に入れたくなかった。

 幸いなことに、あれだけの衝撃を受けたにも関わらず、バイクは走行できていた。
 ハンドルが湾曲し、多少フラつくためスピードは出せないが、
 タイヤ・クラッチ・その他走行に関わる機構にはさほど問題なかったようだ。
.

81 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:52:15 ID:D9mWpQHU0
.
川 ゚ -゚) 「あっ」


 ……が。
 走っているうち、左ウィンカーがはがれ、落ちた。


川 ゚ -゚) 「げっ」


 カーブを曲がった瞬間、タイヤのフロントフェンダーが弾けた。


川;゚ -゚) 「ぽよぉ──────ッ!?」


 左ミラーが折れた。
 ビキニカウルが垂れ下がった。
 ガソリンタンクの外装が飛んでいった。
.

82 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:07:45 ID:D9mWpQHU0
.
川 ; -;) 「うごおおおおおおぉぉぉぉぉおぉぉおん」


 都市伝説みたいなボロボロの姿で、クーのバイク(元)は夜道をひた走った。

 『 リタイアしますか? 』

 レトロレーシングゲームのリトライ表示が脳裏によぎる。
 クーは歯噛みしながら駆けた。 ほんのちょっとだけ泣いた。

 選択肢などない。
 ゲームならいつ中断してもいいが、現実は終わらない。 死ぬまで地続きだ。
 纏わりつく妄想を、その都度振り払いながら、あぜ道を駆けた。

 途中から山のほうへ逸れる。 大型車には通行できない近道だ。
 バイク(らしき何か)で暗い坂を登り、駆け下りる。
 林を抜けると、郊外のニュータウンへ続く広い道路へ出た。


川 ゚ -゚) 「!」


 交差点にて制止し、右を向く。
 百メートルも離れているだろうか。
 遠くから、ヘッドライトが揺らめきながらこちらへ向かってくる。
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83 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:11:42 ID:D9mWpQHU0
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 まさにそれは、さきほどまで彼女が追っていたトラックだ。
 追いついた。

 クーは小さくガッツポーズする。
 ハンドルがブレる。
 慌てて車体を支えなおす。

 普段の彼女であれば、
 自らのライディング ・ テクと経路選択が正解だった事実に
 しばし酔いしれるのであろうが、今はそれどころではない。

 トラックにはしぃが乗り移っている。
 事前に打ち合わせたわけではない。
 あっと言う間の出来事で、止める暇などなかった。


川 ゚ -゚) 「ここで遭ったが……百年目っ!」


 クーはひらりとバイクを降り、スタンドを立てた。
 衝撃でどこかのネジが2、3本落ちた。

 ところどころ傷つき、外装のひしゃげたバイクを見る。
 彼女の視線に応えるように、ジェネレーターカバーがぱかっと開いた。 
 クーは思わず目をそらす。 もうむり。 正視に堪えない。
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84 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:13:28 ID:D9mWpQHU0
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川  - ) 「キャサリンの恨み……ここで、晴らす」


 怒りを燃やすクーだったが、すぐに違和を感じ取る。
 迫りくるトラックは、傍目に見ても異常事態であることがわかった。
 きゅりきゅりと、スリップ音を撒き散らしながら、蛇行している。


川 ゚ -゚) 「ん」


 しぃが何か仕掛けたであろうことは明白だった。
 だが、それならなぜ、トラックは止まろうとしないのだ。


川 ゚ -゚) 「!!」


 そして、クーは見た。
 彼女の貸したジャケットをはためかせる、白い制服姿。

 当のしぃが、蛇行するトラックの天井部分にあらわれた。
 四角い、銀色の何かを傍らに携えている。

 目を凝らすまでもなかった。
 あんな巨大な物体を “ 小脇に抱えられる ” のは、彼女しかいない。
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85 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:14:15 ID:D9mWpQHU0
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川 ゚ -゚) 「お、おい……!」


 ライトの眩さと夜道の暗さで、正確には確認できない。
 が、少女は運転席へ何かを告げるかのように、体を曲げたあと──。


川 ゚ ゚)


 クーは仰天し、息を飲んだ。


    て
川;゚ -゚) そ 「ま、さ、か!?」


 バイクから、ヘッドライトのカバーがころりと落ちた。
 メーターのバネがびよんと飛び出た。


 ──まさか、の事態は、おおむね現実になる。

 それが物語の鉄則だ。


 〜 〜 〜
.

86 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:15:11 ID:D9mWpQHU0
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【 タムラサイド: 市道××号線路上 】


 時は少しさかのぼる。
 クーがバイクの空中ダイブを目撃し、悲鳴をあげているころ。

 ここ、どりあん運送所有小型トラックの運転席内でも、
 男たちの野太い絶叫が、不協和音を奏でている最中だった。

     て
爪l|l゚皿゚) そ 「ひいぃっ! お前ッ、嘘!?」


(*。A。)+


 ガラスの上部から、さかさまの少女が現れた。
 タムラ達はシートにのけぞる。

 先ほどまでバイクのタンデムシートにいたはずの、小柄な女子高生。
 猫塚しぃが、トラックの天井から、ガラスにへばり着いていた。

 しぃは、いや、しぃの “ 別人格(アナザー)” だろう。
 既にメットを外した少女は、運転席の二人を交互に眺め、蛇のように舌なめずりする。
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87 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:15:54 ID:D9mWpQHU0
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 直後、拳をぐっと握りしめ。


(*。A。) 「あっひゃぁぁあぁ!」


 ためらいなく、フロントガラスへ振り下ろした。


     て
爪;゚〜゚) そ 「なっ、なぁっ!?」

「こいつ、何を……うわっ!?」


 乱打。


(*。A。) 「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
      ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひ
      ゃひゃひゃヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」


 縦読みでも 『 あひゃ 』 になるほどの狂笑。
 第三話のコピペだが、それはまあいい。
 タムラは驚愕におののく。
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88 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:16:44 ID:D9mWpQHU0
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 『 あひゃぁッ! ふひっ、ひひぇッ 』

 ポセイドンが封じたかった──もしくは利用したかった──狂気が、目の前にあった。
 逆立つショートカットの奥に、満面の笑顔が張り付いている。

 『 くひっ、ふふ……へへ、あ、ひゃひゃっ 』

 少女は心底楽しそうに、片手で、ときおり両手をハンマーのように組んで、
 めちゃくちゃにガラスを叩き続けている。
 タムラが身を震わせたのは、恐怖のためだけではなかった。

 『 ひゃ───ッひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃぁ───ッ! 』

 こいつはヤベェ。 その気になれば、殺ることのできる人種だ。
 ジキルとハイドなんて皮肉ってはみたが、実際にここまで変わるとは思わなかった。


爪; 〜 ) (こいつ──何か、手に!?)


 拳での打音に混じって、ガシガシと、引っかくような異音。
 金属製の小さな何かを逆手に持っている。
 あれはなんだ、爪切りか。

 フロントガラスは傷がつくばかりで、
 割れはしないものの、視界は確実に狭まってゆく。
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89 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:17:54 ID:D9mWpQHU0
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 ボディチェックの際、彼女が何本もの刃物を隠していたことを、タムラは思い出す。
 巷を震わせる連続殺人鬼 “ アリス ・ キラー ” のニュースが、フラッシュバックした。


「う、うぉおおおおおぉ!」


 トラックは減速することなく、車体を揺らしながら前進する。
 振り落としてやろうという滝沢の足掻きが、結果的に功を奏した。

 しぃはバランスを崩し、前のめりにずるりと滑り落ちた。
 辛うじてフロントガラスにへばり着くと、開脚した姿がガラスへ大写しになる。
 ひゅー、セクシー、なんて軽口を叩く余裕はなかった。

 タムラはすでに相手を女子高生だとは思っていない。
 異能をたずさえた、モンスター。
 このトラックは、少女型殺戮マシンに襲撃を受けている。

 そして何より、


爪;゚〜゚) 「おまっ、ちょっ……どけっ!」


 前が見えない。

 ワイパーに足をかけ、アナザー ・ しぃは器用に体勢を戻した。
 それからふたたび、さかさまに上半身を出す。
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90 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:19:11 ID:D9mWpQHU0
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 タムラは、猫塚しぃがまたガラスを攻撃するのかと考えたが、
 そうはならなかった。
 少女は舌を出してウィンクすると、コメディ映画のように、ぴょこんと頭を引っ込める。


爪;゚〜゚) 「もういい、車を止めろ! 外でケリをつける!」


 どん、どん。
 怪物の足音が天井を移動する。

 音を追う滝沢の眼が、青く光っている。
  “ 透過式遠隔視(イントロスコピー) ” 。 発動しているのか。
 いったいそれに何の意味がある。
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91 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:19:53 ID:D9mWpQHU0
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「あ……嘘、だろ」


 その上、小さくぼそぼそと呟いている。
 いいから前を見て運転しねぇか。
 タムラが告げようとした瞬間のことだった。


「「 !!!!!!! 」」


 リアウインドウをぶち破り。


 l|l 爪l|l 皿゚) l|l



 マグロが、出現した。


 〜 〜 〜
.

92 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:20:53 ID:D9mWpQHU0
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【 ドクオサイド: 第三倉庫内 】


( ´_ゝ`) 「……概念的な話になると難しいな」

/ ゚、。 / 「操るといっても、方向は制御できないケド。
       あくまで反作用は反作用。 及ぼす力の反対側に発生するチカラ。
       できるのは “ 強化 ” “ 軽減 ” の二種類のみだケド」


   リ  ア  ク  ト  ン
 “ 反作用を操る能力 ” 。
 鈴木タムラ……あいつにそんな超能力があったとは。


/ ゚、。 / 「右足に “ 反作用強化 ”   ───跳躍。
       左足で “ 反作用軽減 ”   ───着地」


 さっきこいつが見せた、
 理屈に合わない猛スピードの正体はそれか。
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93 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:22:04 ID:D9mWpQHU0
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/ ゚、。 / 「ま、安心していーケド。
       最初に教えたとおり、スズキのアイテムに封じたちょーのーりょくは、使い捨て。
       ブーツに封じた “ リアクトン ” 、今の高速移動によって品切れだケド」


 安心などできようはずがない。
 視線を移せば、肩で息をする兄者の様子が、嫌でも目に飛び込んでくる。
 形成不利は明らかだった。


/ ゚、。 / 「よかったよかった」

(;'A`) (こいつ……)


 ダイオードはことごとく先手を打ってくる。
 頼みの綱であるヒーロー男は 札を防ぐのに精一杯。
 というより、サイコキネシスの有効範囲に入れてもらえない。

 俺に至っては、無様に逃げ回ることしかできず。
 お荷物以外の何者でもない。


/ ゚、。 / 「ところで」


 翻弄されている。
 それが肌で感じられたからこそ、続く言葉は俺たちの緊張をMAXまで引き上げた。
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94 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:24:56 ID:D9mWpQHU0
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/ ゚、。 / 「あんたに “ マグネティクス ” を発動したケド。
       ───これで、あんたは磁力の中心」
  _,
( ´_ゝ`) 「!?」


 ダイオードは指先の札をぴんと弾いた。
 庫内に、赤い “ 蝶 ” が舞う。

 兄者は反射的に腕へ視線を落とし、細い目をさらに細める。
 破れめくれた袖の下、伝うは一筋の赤色。
 先ほどの攻撃──札による一撃は、タダの引っかきじゃない。


(;'A`) (まさか、これ)

/ ゚、。 / 「“ リフレクス ” ─── “ 反射する能力 ”」


 萩に猪。


/ ゚、。 / 「“ テレポート ” ─── “ 瞬間移動 ”」


 紅葉に鹿。
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95 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:27:59 ID:D9mWpQHU0
.
/ ゚、。 / 「“ マグネティクス ” ─── “ 磁場を操る能力 ”」


 牡丹に蝶   ───これは。


         リ レ イ ト
/ ゚、。 / 「“ 関連付け ”」


 エレキネシストが告げた途端。
 掲げられた三枚の札は、怪しい輝きを帯び。


/ ゚、。 / 「 “ 猪 ・ 鹿 ・ 蝶 ” 」


 順次、飛翔した。


(; ´_ゝ`) 「くぅっ!?」


 戦慄が走った。

 投げる。投げる。投げる。
 その三枚にとどまらない。
 休む間もなく、札は次々に、ダイオードの手元から放たれる。
.

96 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:29:51 ID:D9mWpQHU0
.
 俺は飛び上がりそうになった。
 が、逃げまどう必要はないとすぐに気づかされる。

 回転する札の数々は、ただ一つの標的目指して飛んでいたからだ。


( ´_ゝ`) 「────はッ。 そうかいそうかい」


 ターゲットのサイコキネシストは、迎撃の構えをとった。
 掌の中心、空間が奇妙に歪み、渦を巻く。
 念動能力の予備動作。


( ´_ゝ`) 「むしろっ、好都合だっ……」

(;'A`) 「!」

(# ´_ゝ`) 「っっっらぁっ! っとぉぅ!」


 腕を振るう。
 粗野で原始的なモーションだが、パフォーマンスは確かだ。

 一枚の札が弾け飛び。
 返す手で別の一枚も叩き落とされる。
.

97 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:30:56 ID:D9mWpQHU0
.
(# ´_ゝ`) 「ぃよいしょおおおぉぉっ!」


 薙ぎ払う。 幾度となく。
 一枚の札が勢いを失い、落ち葉のようにひらひら地面へ。
 もう一枚は明後日の方向へ進路を変えた。


( ゚A゚) (す、げ)


 冷静に、投擲される全ての札に対処している。


     て
(l|l;゚_ゝ`)そ 「どっこい……うぐ!?」


 ───ように見えたのは、一時のことだった。
 ふいに兄者は小さく声を漏らし、前屈みによろめいた。

 その肩に一枚の札が突き刺さっていた。
 脳内を違和が駆ける。
 あり得ない方向からの被弾。
.

98 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:33:23 ID:D9mWpQHU0
    て
(;'A`) そ 「横っ!!」


 俺の叫びに反応し、兄者はがむしゃらに腕を振りかざした。
 飛来していた別の札が、くるくる回ってその場に落下する。
 ───ところが。


     て
(l|l; ゚_ゝ゚) そ 「がはっ!?」


 その瞬間。
 兄者の体がくの字に折れた。

           サイコリフレクション
/ ゚、。 / 「……“ 念 動 力 反 射 ” 。
       どう? 自分ののーりょく、味わった感想は」


 目を凝らして、何が起こっているかようやくわかった。
 無秩序に撒かれる札に混ざって。
 実に不可解な “ 現象 ” が、兄者に牙を剥いていたのだ。


/ ゚、。 / 「今のアンタは磁場の中心。
       そいつは勝手に引き寄せられるケド」
.

99 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:38:05 ID:D9mWpQHU0
.
 『 そいつ 』 とは当然、超能力をパッケージングした札のこと。

 “ リフレクス ” “ テレポート ” そして “ マグネティクス ” 。
 名称だけ聞けばとても攻撃用とは思えない、
 そんなPSI3つの “ 関連付け(リレイト) ” 。

 だがしかし、この合成技は、兄者に対して効果覿面だった。
 投擲されるいくつもの札のうち、ふいに数点の札が “ 空中で姿を消す ” 。


(; ´_ゝ`) 「くっ!?」


 その直後、見失った札は周辺の空間からランダムに出現。
 “ マグネティクス ” に関連付け(リレイト)された札は空中にて軌道修正され、
 磁石が引き合うように、彼の肉体めがけて直行する。

     て
(;  _ゝ )そ 「ぐあ!?」


 ホーミング性能に加え、死角からの急襲だ。
 対応が間に合わない。
 掠めれば無邪気に皮膚を裂き。
.

100 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:40:22 ID:D9mWpQHU0
.
(; ´_ゝ`) 「くっそ、この……!」 バチン

      て
(゚く_(# )そ 「うぶ!?」


 サイコキネシスで叩き落とそうにも、
 “ リフレクス ” により、不可視の波動は兄者のほうに返る。
 ひるんだところへ、魔弾は容赦なく食らいつく。

 消える札以外のそれらは、 “ カス札 ” だ。
 特殊効果なし。  だが数が多すぎる。
 当たれば皮膚は裂け、場合によっちゃ肉を抉る。

     て
(l|l;゚_ゝ`) そ 「がっ……はっ……!」

         リフレクション
 五度目の “ 反射現象 ” を腹部に受けたところで。
 兄者はとうとうその場に膝をついた。

                            リ レ イ ト
/ ゚、。 / 「あっけない幕切れだケド。 ──“ 関連付け ”」


 札の輪郭がほの白く輝いた。
 掲げた三枚を青い糸が紡ぐ。
.

101 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:43:41 ID:D9mWpQHU0
.
 ダイオードの動きに、躊躇はない。
 無慈悲に、無表情に抛られる、とどめの “ 猪鹿蝶 ” 。


≡(;'皿`) 「く、くっそぉぉおぉぉ!」


 意を決し、俺はその場を駆け出した。
 兄者の前へ仁王立ちになる。

      て
(l|l; _ゝ ) そ 「……!」

/ ゚、。 / 「お」


(l|l'A`) (やっちまっ……!)


 勢いって恐ろしい。
 体中を抉られるビジョンに、思わず目を閉じる。


(;l|l>A<) (くそッ! なるようになれぇ!)


 大丈夫だ。 チャンスだ、ほら今だ。
 頼む兄者!
 俺が盾になったこの隙に、脇をすり抜けて前へ出ろ。
.

102 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:46:24 ID:D9mWpQHU0
.
 以前暴漢をのした時のように、サイキック全力パンチをお見舞いしてくれ。
 目の前のスーツ野郎に。

 そして俺を救ってくれ。 いや、割とマジで。


『 ………… 』


 あの、だから。
 今のうちに、早く行って、やっちゃって。
 ねえちょっ、ちょ、ちょっと! ほら何やってねえちょっと待っおい早


l|(l|l゚A゚)|l 「やっぱ怖えぇぇえぇええぇ!!」


 結局耐え切れず。
 俺は目を開け、渦巻く感情を絞り出した。


l|(l|l゚皿゚)|l 「あんぎゃぁあぁ!!」


 三枚の凶器が、俺のすぐ眼前にあった。


 〜 〜 〜
.

103 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:48:39 ID:D9mWpQHU0
.
【 タムラサイド: 市道××号線路上 】


 叫喚が車内を揺るがす。


(*゚:::::::)


 破れた幌のシートと、粉々になったリアウインドウの隙間から。
 ショートカットの悪魔が覗いていた。


爪l|l 皿 )


(*゚∀゚) 「おいっす」


 喉が嗄れそうだ。
 少なくとも、悲鳴に使うリソースなど残っていない。
 タムラはそう思った。
.

104 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:51:09 ID:D9mWpQHU0
.
 冷たい無表情から一転、ドヤっと頬をほころばせる怪物チャネラー。
 やはりマグロごとトラックに乗り移ってきていた。

 ウィンドウの隙間から、後方の様子が垣間見えた。
 幌の上部がずたずたに裂かれている。
 ここから天井へ移動したのだろう。 つまり、刃物を持っている。

 狭い車内において、荷台にいる怪物の攻撃を避け続けるのは不可能だ。
 ましてや相手は凶器を所持している。
 タムラはマグロの頭越しに、運転席へ指示する。


爪l|l゚〜゚) 「止めろっつってんだろうが! おい! 何やってやが……」

「聞け」


 が、滝沢の強い口調が先んじた。
.

105 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:52:54 ID:D9mWpQHU0
.
爪;゚〜゚) 「あぁん!?」

「……わ、悪いニュースが二つある」


 何を言い出すのだ、こいつは。
 現在進行形で最悪の事態だ。


(*゚∀゚) 「あっひゃ〜〜ン? にゅーすゥ?
     オレサマ警報発令中ゥ〜〜☆?」

爪;゚〜゚) 「話は後だ! まずは車を……」

「……ひとつ。 俺の意識は、そろそろ、限界だ」


 滝沢はかまわず話し続ける。
 様子がおかしい。
 明後日の方向を見つめ、声を出さない間も、口をぱくぱく動かしている。

 まるで魚ですギョ。
 横のマグロがそう語りかけてくる。
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106 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:54:47 ID:D9mWpQHU0
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「普通、こんなことは、起こり得ない。
 ……が、よくあるシチュエーションには、違いない」


 亡霊でも見たような表情で、ぶつぶつ呟く。
 体全体を小刻みに震わせつつ、滝沢は続けた。


爪;゚〜゚) 「何意味わかんねぇコト言ってやがんだ! いったい何が……」

「悪いニュース、残りの、ひとつ」


 顔全体を青く染め、声を上ずらせて。


「ブレーキが、利かない」


 そこまで告げると、青い目玉がぐるりと反転した。
.

107 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:55:47 ID:D9mWpQHU0
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爪 ゚〜゚) 「えっ」

(*゚∀゚) 「えっ」


 そのままずるずると、ハンドルに沈み込んでいく。
 見れば背中にガラスが突き刺さっている。
 ──黒いスーツに、血の染みが、少しづつ広がっていく。

 滝沢はクラクションに上半身を横たえた。
 ホーンの音が田舎の夜を引き裂く。
 そのうち車体が左右に揺れはじめた。


    て
爪;゚〜゚) そ 「ちょっ、なっ、危ねえええ!!」


 タムラはすぐさま、ハンドルの下から右足を突っ込み、
 滝沢の靴ごとブレーキペダルを踏みつける。


爪 〜 ) 「           」


 だが。
 伝わるのは、スカスカとした感触だけ。
.

108 名前:名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:59:23 ID:D9mWpQHU0
.
 『 ……嘘、だろ 』


 坂に差し掛かる。
 流れる景色の速度が、早まる。
 街路灯が光の点から、線に変わる。

 何度目だろうか、心臓が大きく跳ね上がる。

 車体のきしむ音、クラクション、
 ブレーキともスリップともつかない、甲高きタイヤの摩擦音。


     て
爪l|l 〜 ) そ 「うぎゃああぁぁぁあぁあ!?」

(;*゚∀゚) 「マ──ジかよ───!?」



 ─── さまざまな音を立てながら。


 ─── 事態は、加速する。



(続く)

.

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