324 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:29:18 ID:YnUWvF4c0
.
  《〉 《〉 《〉 《〉 《〉 《〉 《〉 《〉  <<  第7セット  >>  〈》 〈》 〈》 〈》 〈》 〈》 〈》 〈》

.    _______________________________
   |┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓|
   |┃                                              ┃|
   |┃          ('A`) : 25           (-[]3[]) : 37          ┃|
   |┃                                              ┃|
   |┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛|
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 これ以上のミスは許されない。

 だが、いくら完璧に対応していったとしても。
 ミスしないこと = 負けに遠ざかる、であり、
 『 勝ち 』 そのものとイコールではない。

 12枚の差がついてしまった今、
 勝利を得るためには、どこかでヤツの裏をかく必要がある。
 そろそろ切り札を使うべきか……いや、まだだ。


(;'A`) (……)


 そんな思いに息を荒くし、迎えるトーキング・タイム。
.

325 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:30:08 ID:YnUWvF4c0
.
    [4]⊂ヽ
 (-[]3[])ノ丿


 ポセイドンの掲げたハンドは
 またしても [ 4 ] だった。

  _,
(;l|l'A`) (なんの試練だよこれ……)


 4〜5セットの、連続 [ A ] といい、
 こういった……流れ? 因果? 本当に連鎖するのだろうか。

 困惑すると同時、
 『 んなわけねー、偶然だ 』 そう冷静に諭す自分もいる。

 ひょっとしたら、
 フォルドが頻発したために確認できなかっただけで、
 俺が連続同ハンドを引いた展開だって、今までにあったかもしれない。

 それを見つめるポセイドンは、
 内心、俺のハンドにうんざりしている、
 そういう可能性も無くはない。


( A ) (かもしれない、かもしれない、か)


 カードを持つ手に力が籠もる。
.

326 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:31:06 ID:YnUWvF4c0
.
 どうせわかりゃしないのだ。
 この手を翻し、その数字を目に入れない限りは。
 確認できない過去の事に、気を揉んでもしょうがない。


( 'A`) (大事なのは、今だ)


 台札は [ 2 ] 。
 俺はすぐに勝率を計算する。
 もちろん、ベットの進行に併せ、修正していくことを前提に。



           (-[]3[])
             │                    【 WIN !! 】
             ↓├────────────────→
    .[A] [■] [3] 【4】 [5] [6] [7] [8] [9] [10] [J] [Q] [K]
   ←─────┤
  【 LOSE... 】


 9/11 = 約82% 。
 状況は俄然、俺の方が有利。
 問題は、あいつが俺のハンド── “ 何を ” 見ているか、ってことだ。
.

327 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:35:27 ID:YnUWvF4c0
.
 無論、ここで割り出した確率は現時点での目安にすぎない。
 互いのベット選択によって、
 勝負の様相はいかようにも変化していくことを、すでに俺は学習している。
 痛烈なダメージと引き替えに。


(-[]3[]) 「おや? さっきとは目の色が違うねぇ。
      尻に火がついたお陰かな?」
 _,,
( 'A`) 「……けっ」

(-[]3[]) 「真剣にプレイすることは素晴らしいと思うよ。
       ま、往々にして、そんな努力は徒労に終わるもんだけど」


 俺はこれまで避けていた、
 “ 相手の反応を読む ” 作業をこころみていた。

 ポセイドンの口調には癖がある。
 ヤツは人間観察の分野に長けているが、
 ポーカーフェイスを徹底できているかというと、そうではない。
.

328 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:36:33 ID:YnUWvF4c0
.
(-[]3[])σ 「くくっ。 ダメだよぉ? ちゃんと返答してくれなきゃさあ」


 それが証拠に、ヤツは笑う。
 フォルドの際はいちいち負け惜しみを言う。
 喜怒哀楽を隠し切れていない。

 個々の勝負結果について……、
 特に “ 喜び ” については、露骨に態度であらわしている。

 そういう部分だけは、年相応の未熟さを感じることがある。
 可愛げはまっっっっっっっっっっったく無いが。


( 'A`) 「うるせーな……」


 1枚ベットのセオリーが崩壊したわけではない。
 むしろ、さっきのターンのポセイドンの台詞で、
 揺るぎ無い確信を得た。

 “ 1枚ベット = チェック ” は、正しいと。

 が、同時に気付かされた。 それだけでは足りない。
 ベット判断を違えなければ、そこそこの勝負ができる──。
 そう考えていた己の甘さに、心中で舌打ちする。
.

329 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:37:34 ID:YnUWvF4c0
.
 無数に転がる情報。 これらを生かす努力をしなければ、負ける。
 新たな “ 作戦の基盤 ” を作ろうと、必死だった。

 チップ半減からの再スタート。
 暗中模索の第7フェイズ。

 この迷走自体、ヤツの術中にはまっているってことなのでは?

 ……その事実については考えないことにした。


( 'A`) 「ベット。 2枚」


 ベット ・ ラウンドに移行したあと。
 開口一番、俺は宣言した。


(-[]3[]) 「……へぇ」


 それから、目の前のあばた顔を穴の開くほど凝視する。
 本当に穴が開けばさぞかし愉快だろう。

 ── しぃちゃん達の両親を手に掛けた、殺人チャネラー。
 脳裏によぎるが、すぐに振り払う。
 今は目の前の勝負に集中しなければ。
.

330 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:38:42 ID:YnUWvF4c0
.
 さあ、ポセイドンはどんな反応を示すのか。
 口を開けばどうせ強がりか皮肉しか出てこないのだろうが。
 視線が、仕草が、その胸中を物語ってくれることに期待して。


(-[]3[]) 「2枚かあ。 なんか中途半端だね」

( 'A`) 「どうでもいい。 お前のベット番だ」


 ハッタリ ・ ベットを戦術として採用しない以上、
 相手がハイ ・ カードを引くと、こちらは防戦一方になる。
 容赦なくアンティが食い込み、チップは着実に減っていく。

 とすれば、さすがにここでの即フォルドは無い。
 せっかく相手がロー ・ ハンドなんだ。
 前を向いて進まないと、道は拓けない。


(-[]3[]) 「それってつまり、僕のハンドも中間くらいって意味かなぁ?
      ね? ね? どうだいそこんとこ?」
 _,,
(;'A`) 「……」


 ……が。

 6セット目の展開により、
 俺は “ 1枚でのベット ” に、
 得も言われぬ気持ち悪さを感じていた。
.

331 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:40:58 ID:YnUWvF4c0
.
 その結果が、2枚でのベット。
 ポセイドンの言うとおり、中途半端だろうか。
 果たしてこの1枚は “ 無駄な贅肉 ” なのか。

 ……まあいい。
 考える余裕はある。

 それより。
 迅速にベットを突きつけたのは、それに対するヤツの反応を観察するためだ。


( ゚A゚) クワッ


 目を皿にして、相手の動作に神経を集中した。


(-[]3[]) 「レイズ。 5枚」

  _,、_
(#'゚A゚') 「……」


Σ(; ゚A゚) 「あ、ああ……え!? 5枚!?」


 ……が。
 意表を突くことにかけては、ポセイドンのほうが一枚上手だった。
.

332 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:43:33 ID:YnUWvF4c0
.
 今まで同様の中身のない会話から、突拍子もなくレイズ宣言。
 迅速に8$ぶんのチップを用意する。


(-[]3[]) 「さ、どうするかな?」

(;゚A゚) (あ……えっと……)


 再び選択を突きつけられた。
 観察する側からされる側へ逆戻りだ。


(;'A`) (……ぶっちゃけ、なんもわからん) チーン


 結局、付け焼き刃が通用するはずもなく。

 このターンの “ 観察 ” でわかったことといえば、
 ベットを提示されたポセイドンが、
 眉間にしわを寄せた “ ような気がする ” だけだ。
.

333 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:45:06 ID:YnUWvF4c0
.
(;'A`) 「なら、せめて」


 考える余裕だけは、たっぷりいただこう。


<( 'A`)ゞ 「うりゃ」

(-[]3[]) 「!」


 俺は両耳に人差し指を差し込んだ。
 ポセイドンがなんか文句を言ってる気もする。
 でも聞こえなーい。  聞こえないからわかんなーい。

 “ ベットラウンドで、耳を塞いではダメ ” なんてルールはない。
 さらに時間制限もない。
 ポセイドンの舌打ちする様子がわかったが、関係ありませーん。

 目を閉じるのはさすがにマズいので(カードに何をされるかわからない)、
 台札へ視線を移し、そちらの一点を見つめる。
 意識を集中させた。
.

334 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:45:49 ID:YnUWvF4c0
.
<('A`::)> (5枚のベットを突きつけられた。
      俺はこのターン、どうするべきなんだ?)


 簡単に降りてるようじゃジリ貧。
 そのうちアンティに喰い殺される。

 俺の2枚ベットは、勝算を感じた上での選択だ。
 対してヤツの5枚レイズ。
 もちろん勝つ見込みはあるのだろうが、それはそれで半端な印象だ。

 さっきの10枚レイズは、
 俺が逃れられない状況を作り上げるためだった。

 だがそれ以上に、
 俺のハンドが [ 3 ] という、貧弱極まりないものだったから。


(#-[]3[]) 「──!  ────!」


 今回の5枚レイズは、根本的に意味合いが違う。
 半分は “ 勝てる ” という自信からだろう。
 だがもう半分は、チップが上回ったことによる余裕からなのでは?

 それは、俺がさっきのターンでやらかしたのと、
 同質の “ 緩み ”なのではないか?
.

335 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:47:49 ID:YnUWvF4c0
.
 そしてもう一つ。
 この第7ターンには、6ターン目と大きな相違点がある。
 台札が [ 2 ]  ── ロー ・ カードだということだ。


               (-[]3[])
                 │
                 │      【 WIN !! 】
                 ↓ ├──────→
    .[ A ] [ ■ ] [ 3 ] 【 4 】 [ 5 ] [ 6 ] [ 7 ]
  ←───────┤
  【 LOSE... 】


 ローハンドという括りの中で、
 俺の勝てるカードは [ 5 ] [ 6 ] [ 7 ] 3種。
 つまり、3/5 = 60%。

 ここが第6ターンと大きく違う。
 “ 勝てるハンドが2種 ” と “ 3種 ” では、
 勝率は天と地の差だ。

 リスクはもちろんある。  が──。
 さっきとは大いに状況が異なっているんだ。
 ヤツの余裕面に、なんとなく、つけ入る隙が感じられる。
.
338 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:54:06 ID:YnUWvF4c0
  _,
<( 'A`)> (ここは──)


 流石にレイズすべきだろう。
 このまま耳栓して唸ってたところで、思考の沼に埋没していく一方だ。

 何よりも、 “ 機会 ” を失うことになる。
 せっかくのローハンド同士(たぶん)の対決。
 勝率も上回っている、  ──そう、今回の状況は俺の方が有利なわけで。

 さっきのポセイドンと立場が逆のパターンだ。
 勝負の場にヤツを引きずり出すには、うってつけじゃないか。
 ヤツの判断を地でなぞれば、勝てる確率は非常に高いはず。

  _, ,
<(::'A`)> (そうだ、ヤツを出し抜くチャンスは今しかない。
      勇気を出さなきゃ。
      ここで勝負せずに、いつ勝負するっていうんだ)


 11回のうち9回勝てるような状況で、ひよってちゃお話にならない。
.

339 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:54:47 ID:YnUWvF4c0
.
 何枚でいく?
 ヤツがやったみたいに、MAXの10枚で勝負をかける?
 ……いや。

 7枚だ。
 うん。
 7枚レイズでいこう。

 俺もヤツも、このセットでレイズできるのはあと一回。
 レイズへの反応によっちゃ、ヤツも馬脚をあらわすかもだ。

 降りられたなら降りられたでいいじゃないか。
 その時は、5+3、計8枚の打撃を与えることができるんだから。

 俺は耳から指を抜くと、
 勢いざま、チップの箱に手を伸ばした。


( 'A`)ノ 「レ ───」


 あれ?

 ─── ちょっと、待て。

.

340 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:55:41 ID:YnUWvF4c0
.
( ゚A゚)ノ 「!」


    そ
(; ゚A゚) て  「こ、コール!」


 反射的に叫んでいた。


(-[]3[]) 「……へぇ。 そうくるかぁ。
      面白い展開になってきた」

(l|l ゚A゚) 「……!」

(-[]3[]) 「いいのかい?
      なんか、『 レイズ 』 って言いかけてた気がするけど」

(; ゚A゚) そ 「い、いいんだよ! それで!」


 それは。
 まさに宣言しようとしたところで、
 “ ある重要な事実 ” に気付いたためだった。
.

341 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:57:02 ID:YnUWvF4c0
.
(l|l ゚A ) (マズい。 いや……今回がどうとかじゃなく、ヤバい)


 高揚していた気分が一気にしぼんでゆく。
 靄の立ちこめる林へ迷い込んだような、胸のざわめき。

 むしろずっと気付かないままでいたほうが良かったのかも───。
 いや、それはそれで危険な予感がする。

 脳内で警鐘が鳴り響く。
 このミスは、あとあと致命的になり得る。
 こんなにも単純な事実を、見落としていたなんて。

 考えたくはない。
 ……ないのだが、渦巻く負の連想は止まらなかった。


(-[]3[]) 「さあサイアミーズ、ジャッジメント ・ タイムの到来だ」

(;'A`) (……だ、大丈夫だ。
     レイズは自重したが ─── どちらにしろ勝てば問題ない!)


 ─── どこからだろうか。

 先入観 ・ 固定観念に背中を押され、
 無意識に前のめりになっていたのは。
.

342 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 20:58:10 ID:YnUWvF4c0
.
 本人がそれを自覚するのは難しい。
 それでも俺は、気付くべきだった。


(;*゚−゚)っ〓〓


(; A ) (ヤツもこの 『 コール 』 は予想外のはず。
     頼む……きてくれ!
     ヤツを倒す裁きの雷!  [ 5 ] 以上!!)


 はじめ “ 推察 ” “ 理論 ”  だと呼んでいたそれは、
 いつの間にか “ 偏見 ” に取って代わられ、

 最後には。


             『  オ ー プ ン  』


 ただの “ 希望的観測 ” へ、すり替わっていたことに。

.
344 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:00:41 ID:YnUWvF4c0
.
 ___ ___ ___ ___ ___ ___ ___ ___ ___ ___
 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ |
 |        S H O W     D O W N          |
 |___ ___ ___ ___ ___ ___ ___ ___ ___ __.|
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                 ┌───┐
                 │(⌒⌒)│
                 │ .\/ .│
          (-[]3[])  │  4   │
                 └───┘
       \_人_人∧从_人_∧_人_从_//
       )                  >
      <       V  S       >
       <                 (
       /^Y ̄∨ ̄∨^Y^⌒Y^YY^^Y^
        ┌───┐
        │(⌒⌒)│  ('A`)
        │ .\/ .│
        │  A   │
        └───┘


    て
(;*゚□゚)そ 「───っ!」

( ゚A゚) 「なっ」


 絶句。

 5枚ベットのショーダウン。
 ポセイドンの [ 4 ] を倒すべく、翻った俺のハンド。
.

345 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:01:55 ID:YnUWvF4c0
.
 その数値は…… [ A ] 。


(*-[]3[]) 「くはっ。 はははははは!!」


 高笑いが、部屋の壁を震わせる。


(;* □ ) 「ぁ、ぁぅぅ」

(;l|l ゚'A) 「う……そだ……」


 なんだ、これ。
 ふざけんじゃねーよ。
 ……有ってたまるかよ、こんなこと。

 アンラッキーなんて一言じゃ済まされない。
 ロー ・ カード同士のぶつかり合いで。
 よりによって、[ A ] 。


(l|l A ) 「かっ……はッ……!」


 完全に勝率は上回っていた。
 選択は正しかった……はずなのに。
.

346 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:04:16 ID:YnUWvF4c0
.
 蓋を開けてみれば。
 無常、無慈悲、理不尽まみれの現実が待ち受けていた。

 考えうる最小の可能性が、目の前にある。
 ぽたりと落ちた一滴の血、ハートのエース。

 2 連 続 、 敗 北 。


(*-[]3[]) 「ははははははは!
       どうだい! 僕の言った通りになったろう!」


 もはや強がりも出なかった。
 ただ、何かを懇願するように、しぃちゃんの方を見た。

 彼女は口を開けたまま、蒼い顔で俺のカードを見ていた。
 その肩はわなないていた。

 耐えきれず、そいつを拾い上げる。
 紛れもなく [ A ] 。
 決定的敗北へと俺を誘う、悪魔の最弱ハンド。

 中央にひとつのハートをあしらったカードは、
 ポセイドンと一緒に俺をあざ笑っているように思えた。
.

347 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:05:37 ID:YnUWvF4c0
.
(-[]3[]) 「もう止まらないよ、負けの連鎖は。
      ようこそ、地獄へ続く急行列車へ」


 『 まずは運賃をお支払いください 』


 皮肉の意味を解するのに数秒を要した。



 ======== 【 STAGE 7 RESULT 】 ========

    Up Card : [ 2 ]

            ('A`) : -8       (-[]3[]) :  
       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     1st    BET  2
                        RAISE  5
      ..2nd   CALL

    Final

    Ante        3              0

   Hands        [ A ]            [ 4 ]

 ============================
.

348 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:09:13 ID:YnUWvF4c0
.
(l|l A ) (いや、違う……良かった。
     レイズしなかっただけ。 思いとどまって、正解だった。
     まだだ、まだいける。 まだ、まだ……)


 無情にカウントを減らすデジタルボード。
 赤いスコアに向かって、呪詛さながら繰り返す。

 俺のレイズに辛うじて歯止めをかけた、一つの懸案事項。

 それは “ 残チップの価値 ” という、
 無視できない、そして避けようのない問題についてだった。

  i|l!
 (; A ) (あ、あああああッ……!!)


 痛恨の認識不足だった。
 気付いた時には既に、箱の中身は1/3近く消え失せていた。
.

349 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:10:28 ID:YnUWvF4c0
.
 チップ50枚からはじまる “ 消耗戦 ” 。
 デッドラインは0枚で、
 減り続けるチップは、テレビゲームのHPみたいなもの──。

 そう言われるとなんとなく、
 50枚から0枚の “ 均一な幅 ” を考えてしまう。

 たとえ持ち枚数が一ケタ ─── 7枚、6枚、5枚と減っても、
 スレスレの勝負ができるような、ぎりぎり粘っていけるような、
 そんな錯覚に陥ってしまう。

 赤信号が灯るのは、
 せいぜい、ベットのミニマム1枚にアンティ3枚を加味した、
 実質上のアウトライン ── “ チップ4枚 ” からだと考えがちだ。


Σ(;* △ ) 「ドクオさん、あきらめちゃ……!
       ら……ぁ、ぅぁ!」


 実態はまるで違う。

 チップが減る。
 それは取りも直さず “ 負けが近づく ” ことに相違ないが、
 同時に “ ベット枚数の選択肢が減る ”ということ。

 これは、チップを巡る駆け引きにおいて、
 圧倒的不利な要素なんだ。
.

350 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:12:37 ID:YnUWvF4c0
.
 << “ 13枚 ” の壁  >>

                 リ ミ ッ ト
 14枚以上チップが無いと、最高額でのベット時に
 一撃で勝負終了の可能性──。

        MAX BET
 相手の “ 10枚賭け ” に圧殺される危険が生まれてくるのだ。


(-[]3[]) 「けなげだねェ。
      こんな状況でもまだ、しぃはあんたに何かを伝えようとしている。
      現実が見えてない、とも言うけど」

(l|l A ) 「……」

(-[]3[]) 「もはや反論する気力もなしか。 ははは、愉快愉快!」


 さらに進んで10枚を割ると、
 こちらからMAX BETを仕掛けることが不可能になる。
 8枚なら8枚しか賭けられないし、3枚なら3枚だけ。
.

351 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:14:20 ID:YnUWvF4c0
.
 残り1枚ともなれば、
 毎回1枚しか賭けられない = 相手に与えられる損害は最高4枚 となり、
 これは実質虫の息、死んでいるも同然の状態だ。

 チップはライフゲージであると同時に、
 かけがえのない “ 攻撃力 ” でもあったんだ。

 数ターン前の、ヤツの言葉が思い起こされる。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  (-[]3[]) 『 また、相手から残り枚数以上のベットを持ちかけられた場合。
         レイズはできないが、コールしていい。
         もちろん、ショーダウンで負けるとそのまま…… 』

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 残りチップは17枚。
 あと4枚減ると、MAX BETに一撃で殺される “ レッドゾーン ” へ突入してしまう。
 常に敗北を意識しながらベット選択を行わなければならない。

 まして10枚以下ともなれば、もはやまともに戦うことは出来ないだろう。
 攻撃力という意味でも、精神的な側面においても。
.

352 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:15:30 ID:YnUWvF4c0
.
(; A ) 「ううっ……ぐっ……!」


 肩の上でずっと鎌首をもたげていた “ そいつ ” 。
 一度大口を開けると、俺の体を呑みこむのはあっと言う間だった。
 不安の消化液は全身を蝕み、いびつな心の器をどす黒い汚水で満たしてゆく。

 “ 敗 北 ”
 その2文字が、脳内をぐるぐる回る。

 これは単純なシーソーゲームじゃない。
 チップの減少。
 13枚の壁を崩された者は、物理的な選択肢だけではなく、
 心理的にも、著しく不利な立場に叩き落とされる。

 今だってそうだ。
 壁が迫っていると認識しただけで。
 腕が、足が、震えて止まらない。

 まともな思考ができない。
 間違いなく、今の俺は “ 敗北 ” にリーチがかかっている。
.

353 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:16:21 ID:YnUWvF4c0
  _,
(;*><) 「ど……く……さ……!」

(l|l ゚A::) 「……だいじょう、ぶ。 次で挽回する」


 告げた言葉の、空虚なこと。
 しぃちゃんに届く声量ではあるが、その実、自分に言い含めている。

  _,
(l|l*>−) 「……」


 それが証拠に。
 もはや俺は、見守る彼女の顔を直視できなくなっていた。

  l|l
 ( ゚A゚) 「……」


 17 対 37 。
 大差で迎える、8回目の戦場。


(-[]3[]) 「くくっ。 さあ、続けようか!」


 突きつけられていた。
 こめかみに、氷の銃口が。
.

354 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:21:36 ID:YnUWvF4c0
.
●第三三話 『 Wall of DEATH. ── VS. ポセイドンG 』

 
  《〉 《〉 《〉 《〉 《〉 《〉 《〉 《〉  <<  第8セット  >>  〈》 〈》 〈》 〈》 〈》 〈》 〈》 〈》

.    _______________________________
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   |┃          ('A`) : 17           (-[]3[]) : 37          ┃|
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 戦意というものが、戦場を翔るための翼だとしたら。
 すでにその大半をもがれてしまったような心地だった。

 カードをシャッフルする間も。
 テーブル上に広げられたそれに、手を伸ばす間も。
 戦っている実感そのものが、乏しくなっていた。


(;i|l A ) 「ううっ……」


 未だ37枚を残すポセイドン。 とうとう17枚となった俺。 
 その差20。 絶望的、大差。
.

355 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:22:16 ID:YnUWvF4c0
.
 揺れる視界。 宙で惑う二本の指は、小刻みに震えている。
 これまでは深く考えることもなく選んでいた、
 そのたった一枚を、俺は決めあぐねていた。

 俺はまたここで、 [ A ] を引いてしまうのではないか。
 カードの呪いに吸い寄せられるように。


(-[]3[]) 「どうしたんだい? さあ、早く選んでくれよ」


 これまでのゲーム、7セット。
 数回のフォルドを挟んだおかげで、相手も無傷というわけではない。

 だが、俺の受けた傷はそれ以上に深かった。
 33枚という枚数もそうだが、
 この劣勢は、一つの、認めがたい事実の上に存在する。

 3度あったショーダウンで、 全 敗 。


(l|l A ) (あり得るのかよ、こんな事)


 いくら相手が駆け引きに長けているといっても、
 これだけの不運が、一度のゲームで起こりうるものなのか。
.

356 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:24:11 ID:YnUWvF4c0
.
 嘘だ。
 夢に違いない。
 そうでなきゃ、あいつが何かイカサマを……。


(; ゚A゚) 「!」


 イカサマ!
 その考えに行き着いたところで、視界がぱっと開けた。

 可能性は大いにある。
 なにせこのゲーム、本当にやろうと決めたなら、
 他のゲームに比べてイカサマは遙かに容易なのだ。

 ポーカーみたいに複数枚ではなく、1枚。
 自分がこれみよがしに相手に示す、
 そのたった一枚を知ることができればいい。
.

357 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:24:51 ID:YnUWvF4c0
.
Σ(-[]3[]) 「あっ、何を……」
   _,
 三(;゚A゚) 「ちょっと黙ってろ!」


 俺はテーブル上のカードをかき集めた。
 手元で一枚ずつチェックする。

 裏、それから表。 どこか変わったところはないか。
 折り目、汚れ、傷などついていないか。
 目で確認したあとは、もちろん指触りも確かめる。


(-[]3[])= 3 「やれやれ。 古典的なことを。
        下手に細工なんてしたら、バレた時、逆に利用されかねないだろう。
        それに、こいつは」


 その先は言わずともわかる。 が、あえて無視した。
 このカードは俺たちが買ってきたもの。
 我々の目の前でヤツが封を切ったもの。

 そして、


┐(-[]3[])┌ 「最初にちゃんとチェックしただろう?」


 ゲームの開始直前、二人で改めたものだ。
.

358 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:25:34 ID:YnUWvF4c0
.
(;'A`) (ゲームの最中に、ガン……印をつけていった可能性もある)


 少しでも確認しやすいよう、俺は椅子から立ち上がった。
 より照明に近づくためだ。

 だが……。
 ひとしきり眺め回したものの、それらしき印は見あたらなかった。


(-[]3[]) 「満足したかい? 第一、外で……」

(;#'A`) 「まだだ!」


 語調を強め、ポセイドンの反論を遮った。
 カードに細工はなかったが、
 俺は未だイカサマの可能性を捨てきれないでいる。
.

359 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:27:52 ID:YnUWvF4c0
.
(; A ) (不可解な点はあった。
     たとえば第6セット。 13枚の敗けを喫した屈辱のフェイズ……)


 あの勝負は紙一重だった。
 俺のハンドが [ 3 ] で、ポセイドンは [ 4 ] 。

 そのベット ・ ラウンド、2ターン目でのことだ。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  (-[]3[]) 「そう、撒き餌だよ。
        その甲斐あって、ドクオさんは見事針に食いついた。
        さあ、サイアミーズ!」

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 ベットが終わると、ハンドをオープンする前から、
 ヤツは “ 撒き餌の効果が出た ” と大層喜んでいた。

 自信たっぷりなのは結構だが、
 ヤツがそう言い出したのは、俺がコールしたすぐ後。
 勝負がつく直前のことだ。
.

360 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:28:49 ID:YnUWvF4c0
.
 ヤツは、俺のハンドが [ 3 ] であることを知っている。
 貧弱ハンドの俺が、まんまとレイズに乗ったことで、
 はやる気持ちを抑えきれなかったのだろう。

 だがあの時点では、
 ヤツが負ける可能性だって、わずかながら残っていたはず。


(# 'A`) (今考えても、あれはどこかおかしかった)


 もし自分のハンドが [ 2 ]や [ A ] だったら、
 どう申し開きしてたつもりなんだ?

 あれだけつらつら講釈を垂れておきながら、
 蓋を開けてみて “ はい負けました ” じゃあ、間抜けなこと極まりない。
 揺さぶり目的のトークとしては、完全に逆効果となる。

 それを含めてのギャンブルなのかもしれないが、
 どこか不自然な感じがする。


( 'A`) (その中でも特に……)


 『 針に食いついた 』 という一言。

 これは、 “ 自分のハンドが相手を上回っている ” 。
 その自信があるからこそ、繰り出せる言葉だ。
.

361 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:29:34 ID:YnUWvF4c0
.
(;'A`) (俺の態度から、反応から、自分のハンドを読んだ?)


 そりゃあ俺はポーカーフェイスから程遠い男だ。

 ヤツの観察眼をもってすれば、
 “ ははぁ、こいつが見ている俺のハンドは強いな ”
 または “ 弱いな ” ……程度は読めるものなのかも知れない。

 それにしたって、わかるのはせいぜい
 <ハイカード> <ローカード> の区別くらいじゃないのか。


 あるいは [ 3 ] なんかに負けるはずがない、
 という自惚れもあったのかも知れない。

 経験上、9/11もの勝率で負けることはそうあることではなく、
 揺さぶりのチャンスだ、ということで、
 ここぞとばかりに余裕を見せつけていたのかも知れない。
.

362 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:30:18 ID:YnUWvF4c0
.
 しかし、それにしてもやはり引っかかる。
 実際にカードをめくってみると、ポセイドンのハンドは [ 4 ] だった。

 わずか1ランク差。 辛勝だ。
 なのにヤツはギリギリの結果に対し、
 ホッとするような、胸をなで下ろすような様子は一切見られなかった。

 これでは、まるで。


( A ) (ヤツが、
     “ 予め、自分のハンドを知っていた ” みたいじゃないか)


 いちど萌芽した疑惑は、胸の中でどんどん膨れ上がる。

 _,
( 'A`) 「ポセイドン!」

(-[]3[]) 「うん?」

(;'A`)σ⇒ 「そっちの部屋をチェックさせてくれ!」


 ─── この一言が発端で、ゲームは一時中断する。

 俺はイカサマの証拠を探すため、
 ヤツは身の潔白を証明するために。


 〜 〜 〜
.

363 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:39:17 ID:YnUWvF4c0
.
 当然渋い顔はされたものの、
 思ったよりすんなり、その提案は受け入れられた。

 このトランプ遊びは、勝敗にしぃちゃんの進退を乗せている。

 が、単にそれだけのギャンブルじゃない。
 ゲームの過程そのものが
 “ 催眠状態 ”へ彼女を誘う “ 暗示 ” 植え付け作業なのだ。

 すべては、ポセイドンがしぃちゃんを手に入れるために必要な儀式。
 表面だけでも 『 正々堂々と 』 『 勝利する 』 その経過を、
 彼女に見せつける必要があるのだろう。


(-[]3[]) 「余計なチャチャで、勝ちの流れを切りたくない。
      5分だ。 5分だけやる」


 そう言うとヤツは、
 ポケットから携帯を取り出し、誰かに指図した。
 ほどなくこちらのドアが開き、サングラスの黒服が顔を覗かせる。

 パーテーションで分かたれた各プレイング ・ エリア。
 ふたつの空間は、しぃちゃんのいるジャッジメント ・ ゾーンを通じて、
 いちおう行き来できるようにはなっている。

 が、そちらの通行はポセイドンが許さなかった。
 仕切りの向こう側には、一度コンテナから出て、
 相手側のドアより進入することとなる。
.

364 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:39:57 ID:YnUWvF4c0
.
 (((;'A`) (失礼しますよ、と)


 ポセイドンサイドへ入室すると、
 サングラスとは別の黒服、金髪の男が護衛についてきた。
 ゲームにおけるそれとは違った緊張が走る。

 ポセイドンは部屋の一番奥でふんぞり返っている。
 しぃちゃんは目隠しのまま、J ・ Zの椅子で不安そうにしていた。
 ルーム内のチェックを許されたのは、あくまで俺ひとりだった。


('A`;≡;'A`) (あるはずだ。 きっと、どこかに……)


 5分に設定されたタイマーが、もはや聞きなれたスイッチ音を響かせる。
 すぐさま俺は周囲を見回した。

 一見しておかしなところはない。
 俺サイドからパーテーションを通して見えていた空間が
 そのまま広がっているだけだ。
.

365 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:40:40 ID:YnUWvF4c0
.
(;'A`)彡 (あっちは……?) チラッ


 ずっと考えていたのは、
 パーテーションがマジックミラーである可能性。

 俺サイドからは透け透けで、
 ポセイドンサイドからは鏡という、魔の二重構造。
 身を堅くしてそちらを注視する。

 ……主の消えた俺サイドの空間が、よく見渡せる。


(-[]3[]) 「やれやれ。 何もおかしいところなんて……」
 _,
(;'A`) 「ま、まだ時間はあるだろっ」


 そうだ。
 このゲームでイカサマするにあたって、
 複雑な仕掛けなど必要ない。
.

366 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:41:23 ID:YnUWvF4c0
.
 インディアン ・ ポーカーの公平性は、
 そこにたった一枚の鏡があるだけで、たやすく崩壊するのだ。


(; A ) 「ど、どこかにきっと……」


 タイマー、ボックス、テーブル。
 目に付く機材 ・ 装置を片っ端から調べ上げる。
 チップ入れ、スコアボード、もちろんコースターも。

 だがそれらは、俺サイドにあったものとほとんど変わらない。
 どれも光を反射するような材質ではなかった。

 _,
(; A ) (くそっ……)


 壁、床、天井。  一見して怪しいところはない。

 じゃあ、どうする。
 他に何か、俺の部屋と違う部分はないのか。
.

367 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:42:05 ID:YnUWvF4c0
.
 置いてるモノが同じだとしたら、異なるのは…… 人?


( ゚A゚) 「!」


 ひょっとしたら、しぃちゃんか?
 彼女の着けているアイマスクは実は反射材つきで、
 ポセイドンサイドの一定の角度から見ると……!


(*〓〓) 「?」


 ……さすがにそんなことは無かった。
.

368 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:42:52 ID:YnUWvF4c0
.
(-[]3[]) 「だーかーら。 最初に言っただろう?」


 困惑する俺を、ポセイドンがせせら笑った。
 ゲーム開始前の発言を復唱する。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  (-[]3[]) 『 もちろん、コンテナ内──ギャンブル ・ ルームに、
         イカサマ用の仕掛けはこれっぽっちも存在しない。

         ああ、中での勝負が中継できるよう、
         音響装置のほうはあとで設定させてもらうがね 』

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


(-[]3[]) 「何度も言うように、無いんだよ。 そんなものは」


 調べても無駄なのだろうか。
 タイマーの表示は残り半分ほど。
 焦燥感がこみ上げる。

 あとは、なんだ。
 他に調べておかなきゃいけない点は。
.

369 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:43:34 ID:YnUWvF4c0
.
 俺サイドからは確認できないもの。
 あっちに無くて、こちらには存在する、何か。


(;'A`) 「!」


 あった。 ひとつだけ。
 ─── それは、ポセイドン本人。


(#'A`)σ 「そうだ!
      よくよく考えたら、お前はボディチェックを受けてない!」


 俺は糾弾するように言った。


(-[]3[]) 「はぁ? だから?」
 _, ,
(;'A`) 「あの時点では、
     部屋に“ イカサマできる道具 ” はなかったかも知れない。
     だけどそのあとで、お前が何か持ち込んだ可能性だってあるじゃないか!」

(-[]3[]) 「何かって……何を?」

Σ(;'A`) 「な、何かその、怪しい機械なんかを……」
.

370 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:44:35 ID:YnUWvF4c0
.
(-[]3[]) 「機械なら持ってるよ」
   _,
Σ( ゚A゚) 「!?」

(-[]3[]) -3 「ったく……」


 ため息ひとつつくと、
 ポセイドンはズボンのポケットに手を差し入れ、
 先ほどの携帯を取り出した。


(-[]3[])っ】 「外部との連絡用。
        ゲーム中、逆上した落伍者に襲われでもしちゃたまらないからね。
        今のドクオさんみたいにさ」

( ゚A゚) 「じゃ、じゃあそれだ!」  喰ってかかる俺。

(-[]3[]) 「なんだよ。 じゃあ、って」
  _, ,
(; ゚A゚) 「電気を流すことで、
     透明状態と鏡状態を切り替えるマジックミラーがある!
     き、きっとそいつを操作すれば、こっちのパーテーションが……」
.

371 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:45:20 ID:YnUWvF4c0
.
 やれやれのジェスチャーとともに、ポセイドンは頭を振る。

   _, 、_
┐(-[]3[])┌ 「そんな仕掛け、ギャンブル・ルームには無いって言ってるだろ。
         それに僕は、今までずっとこいつをポケットに仕舞っていた。

         ゲームの間は、操作はもちろんのこと、取り出してもいない。
         というより、僕は一度もポケットに手を入れてすらいない。
         ……違うかい?」


 俺の無言を肯定と受け取ったのだろう。
 「さ、もういいだろ」
 そう言って、ヤツはメガネをくいっと上げてみせた。


( ◎A◎) 「!」


 メガネ……メガネ!?

           て
  ≡三 (; ◎A◎)そ  「メガネを見せろ! そのレンズに秘密が……ぐえ!?」


 思わず手を伸ばしかけたところで、強い力に引き戻された。
 黒い袖が二本、俺の両脇からにゅっと生える。
 どうやら金髪男に羽交い締めされたようだった。
.

372 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:46:15 ID:YnUWvF4c0
.
(-[]3[]) 「……まったく。
      いつもの事とはいえ、
      敗北の決まったプレイヤーは実に醜く足掻くねえw
      哀れだ。 そしてとても、滑稽だ」


 身動きを封じられた俺に、ポセイドンは指をつきつける。


(-[]3[])9m 「いい加減にしてくれるかな。
        僕がイカサマできないのはポリグラフで確認済み。

        外の奴らにも、手出しできないよう、
        『 ロッカー 』 による処置を施している。
        全て、その目と耳で確認しただろう?」


 さすがに耐えかねたのだろう。
 笑みは消えている。


(-[]3[]) 「ドクオさん。
      あなたはそれら全てを受け入れた上で、ゲームに挑んだはずだ。
      これ以上、難癖をつけてゲームの進行を妨げるようなら、
      ペナルティを課させてもらうよ?」

Σ(;'A`) 「そ、そんな……」
.

373 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:48:59 ID:YnUWvF4c0
.
(∵゜3゜)つ┌[]-[]  「女々しいものだね。 ほら」


 これで最後だ、との一言で、メガネをテーブルに置く。
 同時に拘束が解かれ、俺はそいつに飛びついた。

 レンズを通して周囲を見る。 度がキツい。 世界が歪む。
 高価そうなフレームには、怪しいスイッチも、赤外線受信装置もない。

 頭脳は大人の少年探偵よろしく、横にツマミでも……と思ったが、
 やはりそんなものは見あたらない。

 ……レンズの分厚い、ただのメガネだ。
 (あとなんか油っぽい)

 顔を上げたところで、後方のタイマーがけたたましく鳴り出した。
 ポセイドンはひったくるようにしてメガネを回収し、言った。

  _, ,_
(∵゜3゜) 「僕のほうこそ警戒しているんだぞ。
[]-[]┐と  ゲームの最中、僕はドクオさんだけでなく、
       しぃの動きにも重々注意を払う必要があるんだ。

       邪魔できないよう万全を期しているつもりだが、
       まだ彼女は完全に僕のものになったわけじゃないからね」
.

374 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:52:01 ID:YnUWvF4c0
.
 警戒、という意味では、奴の言う通りだった。
 カードシャッフル時、ヤツは俺と直接接触しないよう注意しているし、
 ゲームの最中、しぃちゃんの方にちらちら視線を配る様子もあった。


 『 部屋にはイカサマ用の仕掛けはなく、それを使うつもりもない 』

 『 僕の持っている超能力は正真正銘、別人格と合わせて一つだけ。
  そしてこいつは、しぃちゃんの心身拘束にのみ使い、
  トランプでの勝負、ひいてはイカサマなんかには一切用いない」


            ポ リ グ ラ フ
 これらの言動は、嘘発見器によって保証されている。


(;'A`) (あと疑うとすれば、ポリグラフの信憑性だが……)


 このメガネボーイは甚だ信用できない。 しかし、ダイオードは別だ。
 ヤツは自分やポセイドンの超能力に関して、
 驚くほど惜しみなく、手の内を晒してきた。

 ああいった行動が全て、俺の不信感をぬぐい去るための下準備───、
 つまり、演技である可能性は、否定できない。
.

375 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:53:11 ID:YnUWvF4c0
.
        ., -―=''''''¨¨´ ̄ ̄ ̄ ̄"゛'''=―-、
 ―-=三        / ゚、。 /         三=-─
        .`‐―= ..,,,,______,,,,..=―‐´


 だが俺は、ダイオードの言うことに偽りはない気がしていた。

 加えて、疑惑を決定づける証拠が何もなく。
 ゲームを拒否する手だてもなく。
 ─── ゆえに。


(-[]3[]) 「ゲームを再開する。
      プレイヤーは速やかに自分の席へ戻ること。
      異論は認めない」

(;'A`) 「……わかった」


 それ以上、挟む言葉はなかった。


 〜 〜 〜
.

376 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:55:11 ID:YnUWvF4c0
.
(-[]3[]) 「ベット。 1枚」


 ゲームが再開するも、俺はどこか上の空だった。
 へらへらと挑発を繰り返すポセイドンに対し、
 どういうリアクションをしたのかすら、よく覚えていない。

 気づけばセンターテーブルに戻され、
 もはや嫌悪感すら覚える、その駆け引きの渦中にいた。


(l|l'A`) 「……うぅ」


 ポセイドンの施した事前策により、イカサマの入る余地はなし。
 これまでの結果は、正真正銘、ヤツの実力によるものだった。

 分厚い仕切りの向こう、さらに分厚いメガネの奥から、
 濁った目玉がぎょろぎょろと、こちらの動向を伺っている。
 俺は思わず目を逸らした。
.

377 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:55:56 ID:YnUWvF4c0
.
 ヤツの観察眼は、判断力は、怪物じみている。
 ただの緊張ではない。
 俺ははじめて、“ 恐怖 ” で身を強ばらせていることを自覚した。


  (-[]3[])


 勝てるのか、こんなヤツに。

 台札は [ 10 ] 。
 ヤツのハンドは [ 7 ] 。
 どっちだっけ。 ええと……。


                  (-[]3[])
                    │            【 WIN !! 】
                    ↓├───────────→
    .[A] [2] [3] [4] [5] [6] 【7】 [8] [9] [■] [J] [Q] [K]
   ←──────────┤
  【 LOSE... 】


 ああ、ハイカードだ。
 そんな事もわからなくなるくらい動揺しているのか。
.

378 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:57:08 ID:YnUWvF4c0
.
 勝率は5/11で……あああ、正確な数字がわからない。
 40パーセント台には間違いない。
 たぶん。 いや、きっと。

 [ 6 ] [ 7 ] [ 8 ] あたりは、ただでさえ判断に迷うハンドだ。
 こういう微妙なケースを目の当たりにした時こそ、
 プレイヤーの個性が問われる部分だと思う。

 ハッタリ ・ ベットに代表されるベットの駆け引き。
 トーキング ・ タイムでの卓外戦術。 トリックの応酬。 

 繰り出されるフェイクと付随する情報戦によって、
 勝敗は右に左に、多様な姿を見せゆくのだろう。

 ─── 通常ならば。


(l|l A ) (勝率半分以下、勝率半分以下、勝率半分以下───!)


 しかし。
 その時にはもう、追い込まれた俺の精神は、
 後退へ向け舵を切る手を躊躇わなかった。
.

379 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:58:03 ID:YnUWvF4c0
.
 勝率50%未満。
 勝てる確率半分以下。
 負ける可能性、確率以上。


 ::(l|l A ):: (う、ぐ……!)


 まともにやりあえば、負ける。
 負けてしまう。
 ならば選択は一つしかない。

 逃げなきゃ。
 降りなきゃ。
 負けを回避しなければ。

 この状態では、方法はそれしか……。


(l|l::A ) (フォルド。 言うんだ、その一言を)


 『 フォ 』 まで喉から出かかった ─── そこで、チップの箱に目が留まる。
 箱の蓋は上開き。 鼠色の天井に向けて、だらしなく口をあけている。
 これじゃあ中身がどんどん出ていくのも仕方がない。

 ほら。
 現にもう、中のチップは17枚。
 1/3にまで減ってしまった。
.

380 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:58:58 ID:YnUWvF4c0
.
(l|l'A`) 「こッ」

(-[]3[]) 「え?」


 なのに。
 まるでチップの箱に逃げ道を塞がれてしまったかのように。
 逃げろ! と叫ぶ胸中の何者かに反抗するかのように。


(l|l'A`) 「こッ、けッ、コ!?」

(-[]3[])

(;'A`) 「……コー、ル?」


 口をついて出た宣言は 『 コール 』 だった。
.

381 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 21:59:39 ID:YnUWvF4c0
.
 降りたい。 けど、降りたくない。
 レイズまではできない。 今にも負けそうなのに、とんでもない。
 ……でも、一方的にチップを減らす選択も、したくない。

 気の小ささが。
 愚かさが。
 優柔不断さが。


 :::<(; A )>::: (あああ……)


 俺の弱さが、その一言に集約されていた。
 思考停止─── それも、一つの逃げの形だった。


<(;゚A゚)>  ハッ

(-[]3[]) 「……ふーん、そう」


   て
(;゚A゚) そ (……違う! 何やってんだ俺!
       ここは “ 1枚レイズで様子見 ” がセオリーだったろ!)
.

382 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 22:01:02 ID:YnUWvF4c0
.
 何を選んでも、後悔ばかりが渦を巻く。
 子方1枚ベットに対する、親番の、セオリー。
 ……が。 今となってはその信憑性も疑わしい。

 よしんば判断を先延ばししたところで、
 より多くのチップを持っていかれるだけだ。

 1枚レイズすれば、
 ハイ ・ ハンドのポセイドンは、待ってました、とばかり、
 ベットの枚数を吊り上げてくるに決まっている。

 俺の迷いを、弱さを。 全て見透かしたような余裕面で。


(;*゚−゚)っ〓〓


 しぃちゃんがアイマスクを外す。
 黒目がちの潤んだまなこ。 投げかけられる視線。

 いつもは吸い込まれそうになる、澄んだその瞳の色が、
 今はとても辛い。

 ああ、怖い。 そんな目で俺を見ないでくれ。
 カードをめくる瞬間など見たくもない。
 俺も厚手の布で両目を覆ってしまいたい。
.

383 名前:名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 22:01:54 ID:YnUWvF4c0
.
((l|l A )) 「……う、くっ」


 素人だからしょうがない。
 ハイハンド相手だからしょうがない。
 ジリ貧だからしょうがない。
 壁が近づいてるからしょうがない。

 既に俺は、勝つための方法ではなく、負けた時の理由を探していた。
 逃げ道を求め、都合のいい言い訳にすがろうとしていた。

 マズい、これじゃ、もう……。



             『  オ ー プ ン  』



 負けを覚悟し、俺は歯を食いしばった。



 (続く)
.

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