- 1
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 23:29:19.39 ID:XGk/qsds0
-
日常活動時間のおよそ8割以上を、鬱屈とした思いの中で過ごしている。
仮にそんな人間がいたとして、
その事実を 『 不幸 』 だと定義するのであれば。
井戸中サダコは、紛れもなく 『 不幸な少女
』 の一人であった。
- 2
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 23:32:03.50 ID:XGk/qsds0
-
VIP学園2年B組、出席番号3番。
細身で猫背。 病的にも映る青白い肌。
歩くたび、無造作に伸びた黒髪が、海草のごとくゆらゆら揺れる。
近寄り難い雰囲気をまとう彼女にとって、
他人と会話を交わさず一日が終わることなど、さして珍しくもない。
そんなサダコが、一部の生徒に目をつけられるのも、無理からぬことではあった。
もとより孤独には慣れていた彼女だが、
級友たちによる陰湿な嫌がらせは、日に日にその精神を削っていった。
- 7
名前:>4訂正:2010/12/05(日) 23:37:57.47 ID:XGk/qsds0
-
自宅では、不仲な父と母の板ばさみが彼女を待っている。
家族関係はとうの昔に冷え切っていた。
頻発する両親のいがみ合い。 一度始まれば、ヒステリックな応酬は深夜まで続く。
父に罵倒され。 母に邪険にされ。
またあるときには、理不尽極まりない理由で、怒りの矛先を向けられて。
はじめのうちこそ、必死で彼らを宥めていたサダコだが、
二人の仲が険悪になるにつれ、速やかに自室へ退避するようになった。
- 10
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 23:42:45.20 ID:XGk/qsds0
-
口汚い罵声を背で受け止めながら。
鍵をかけた部屋の中、彼女はひとり、念仏のようにつぶやき続けるのだ。
どうしてなの?
どうしてわたしがこんな目に遭わなくちゃならないの?
わたしの居場所はどこにあるの?
ねえ?
答えてよ。
誰か
答えろよさっさと
- 11
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 23:43:47.86 ID:XGk/qsds0
-
ねえ。
どうして
──どうして、
あいつはわたしを裏切った?
- 12
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 23:45:19.79 ID:XGk/qsds0
-
学校では嘲笑の的となり、家に戻れば、故なき悪罵を浴びせかけられ続ける。
それが彼女の毎日。
ただ、それだけの毎日。
うつむき、歯噛みし、眉根を寄せて。
彼女は日々をじっと耐え、過ごしていた。
彼女に現状を変えるだけの力はなく、
他に悩みを打ち明けられる相手もいなかったから。
そう、
誰も。
彼女の 『 他 』 には。
- 15
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 23:47:57.40 ID:XGk/qsds0
-
そんな日常を、繰り返し繰り返し──耐え忍んだ果てに。
いつの頃からだろうか?
彼女の虹彩が、怪異の色に染まったのは。
彼女の呪詛に、しゃがれた男声が混じるようになったのは。
彼女の憤りが、瘴気となってその体を包むようになったのは。
許さない。
消えてなくなれ、なにもかも。
殺してやる。
殺しテやル。
コロシテヤル。
── だらり垂らした長い髪の奥、その瞳には、憎悪の光が揺らめいていた。
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 23:52:00.50 ID:XGk/qsds0
-
そして、彼女の夥しい怨念が “ 異能 ”
に形を変えて表出した日。
その能力の最初の犠牲者は、彼女を生み育ててきた──、
『 何が……サ、サダコ!? 』
ある意味では、
“ もう一人の彼女 ” を生み出したともいうべき相手だった。
『 あ……か、はッ 』
“ ダ マ レ ”
『 く、来るな、バケモノ! 来るなァ!
』
『 助……け……! 』
他者の肌に触れることで、幻惑と混乱をもたらす、奇怪な能力。
憎しみを糧に、彼女を突き動かす “
片割れ ” の人格。
彼女の中で分かたれた、復讐のためだけに生まれた、もう一人のサダコ。
- 18
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 23:54:09.87 ID:XGk/qsds0
-
喉元を押さえ、苦しげに床でのた打つ自分たちの姿を見下ろしながら、
立ち尽くす一人娘が何を思っていたのか。
彼らがそれを知ることは、ついになかった。
────
“ 見るな ”
けれども、確かに。
蔑むような瞳からは、雫が溢れ、二つの筋となって頬を伝っていたのだ。
そう。
彼女は泣いていた。
肩を震わせ、怒気を孕んだ表情で睥睨しながらも、涙は止め処なく流れ続けていた。
- 21
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 23:56:57.35 ID:XGk/qsds0
-
でも
“
そんな目デ ”
“
わタシを ミ ルナ ”
それは
ひょっとしたら
“
コ ロシテ ヤル ”
必然のことだったのかも、知れない。
- 24
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:01:29.89 ID:E89K3OnO0
-
=
==
===
【 ドクミサイド: 2F廊下 中央階段付近
】
从゚、゚ilリル 「……」
川:д::川 「……」
短い沈黙を破ったのは、目の前の女の子──
“ 感染能力者 ” のほうだった。
川д川 「動……かないで……!」
微動だにせず。 ぼそり、呟く。
- 26
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:04:13.13 ID:E89K3OnO0
-
川д川 「あなた……“ チャネラー” ?」
从゚- ゚ilリル 「────!」
小さい声ではあったが、はっきりと聞こえた。
“ チャネラー ” 。 ──確かに、彼女はそう言った。
その単語を耳にした途端、背筋を駆けていた悪寒が、全身の震えへ変換される。
にわかに肌は粟立ち。 膝ががくがく笑う。
土踏まずに力を込めた。
そうしてないと、立っていることすらままならないように感じられた。
从゚O゚;リル 「やっぱりキミが、この事態の首謀者なのか。
な、何の目的があって、こんなこと」
川д川 「それは “ Yes ” と……捉えて……いいのよね?」
互いに質問を質問で返しあったものの、不思議なことに会話は成立している。
- 27
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:06:42.11 ID:E89K3OnO0
-
感染能力者はやはりこちらを振り向くことなく、言葉を続ける。
川д川 「カマを……かけてみて、正解だった。
動かない……でね?
あなたには……わかる……でしょうけど」
从'。`;リル 「?」
川д川 「わたしの…… “ もう一つ ” のチカラ……があれば。
あなたを……動けなくすることが、出来る。
いい? “ 動けなくできる ”
の……」
从゚、゚;リル 「……」 ゴクリ
彼女は語気を強めてその部分を強調した。
『 だから、それ以上近づくな 』 とでも言いたげに、左手をこちらに向け。
川д川 「わたしの目的は、ひとつだけ……」
首をがくんと垂らすと、おもむろに斜め方向を睨めつける。
- 28
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:09:04.12 ID:E89K3OnO0
-
::ヽiリil;д;ノi:: 「ひいいぃ! やめっ、やめてぇ!」
Σ从゚□゚リル (スパムちゃん……!)
能力者の視線の先には、青白い顔で後退するスパムがいた。
“ 感染者 ” たちに取り囲まれ、彼女はじりじりと壁際に追い詰められてゆく。
見たところ、未だ “ 感染 ” には至っていない様子だが、
位置関係的に、彼らと触れずに逃げ出すということはできそうにない。
逆に言えば、周りの “ 感染者 ”
たちをどうにかしない限り、
僕自身、スパムを助けることができない状況だ。
从゚、゚;リル (彼女を──スパムを襲うのが目的ってことか?
でも……)
川д川 「関係ない……あなたを、巻き込むつもり……ない」
从'。`;リル 「そ、そう、なのか?」
一応驚いたふりはしてみせたが、この言葉を鵜呑みにするほど僕もバカじゃあない。
現に、目の前の女生徒・感染能力者は、他の多くの生徒たちを巻き込んでいるではないか。
無差別に拡散してゆく、はた迷惑なその異能によって。
- 30
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:11:54.92 ID:E89K3OnO0
-
川д川 「このまま……帰ってくれれば、あなたに危害は加えない……。
無関係の “ チャネラー ”
……。
敵対するつもり……ない……」
女生徒はそう言うと、スッと身を引き、階段の下へ向かうよう視線で促した。
川д川 「忘れて……くれる?
今日のこと……このこと」
このまま帰れば危害は加えない。
それって、彼女なりの駆け引きのつもりなのだろうか。
その提案は結果的に、僕にとって利する形となるのだが、彼女は理解しているのだろうか。
从'、`illル (敵対……)
“ 超能力者 ” としての実力は、彼女のほうが数段上だといっていいだろう。
肌に触れただけで効果を発動し、人を媒介に拡散する
“ 精神汚染 ” 攻撃。
旧校舎内に限定されるとはいえ、能力の及ぶ範囲、スケール。
なにもかもが常識の範疇を超えており、
こちらの持つカードでは、対処がままならない、というのが正直なところ。
- 32
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:14:13.19 ID:E89K3OnO0
-
「ううう……」
「あああああ……!」
彼女の周りには数人の、うごめく機雷──
“ 感染者 ” が取り巻いている。
触れるだけでアウトという、非常に厄介な存在だ。
スライダー
一見したところ、僕たちの周りに “ 滑らせての攻撃
” に使えそうな機材はない。
当然、水入りのペットボトルも無いし、目の届く範囲に水道も見当たらない。
問答無用で感染者をけしかけられた場合、今の僕には、逃げる以外の選択肢が無いのだ。
周囲の犠牲を厭わぬ感染能力者の少女が、
即座にそれを実行しない理由は、ひとつ。
从 、 ;リル 「出て行くわけにはいかないっ。
僕は知り合いを、いや」
川д川 「……!」
从゚、゚illル 「友人を、助けにきたんだから」
相手の神経を逆撫でしないよう、できる限り穏やかに。
しかしはっきりと、僕は否定の言葉を返した。
- 35
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:17:15.27 ID:E89K3OnO0
-
自信のある素振りも、外さない視線も、全てはハッタリにすぎない。
けれどもこれが、敵の優位性を覆す足がかりになるのであれば。
川д川 「……」
『 カマをかけた 』 感染能力者はそう言った。
だがそれは間違いだ。
女生徒が僕から引き出したのは、彼女にとって余計な情報だったと言っていい。
(第一、誘導にもなっていやしないわけで)
確かに、チャネラーの抱える脅威とは未知数のシロモノだ。
ただでさえ厄介な超能力を、二つの人格それぞれに備えているという、異端の存在。
しかし。
憶測でしかないが、彼女は “ 能力者 ”
として日が浅く、
他の比較対象をあまり知らないのではないだろうか。
- 37
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:20:00.65 ID:E89K3OnO0
- _
从゚、゚;リル 「──」 ギュッ…
なりふり構わず目的へ邁進する意志があるのなら、
障害を排するために手段を選ばないのなら、
そして、そのための能力に揺るぎない自信を持っているのなら。
すぐに何らかの攻撃を仕掛けてくるハズ。
それをしない、いや、出来ないのは、僕の存在が怖いから。
無理もない。
自己を基準として考えるなら、相手はどんな強力な切り札を隠しているのかわからないのだ。
彼女は、“ チャネラー ” である僕に、得も言われぬ畏怖を感じ、警戒している。
強力無比な超能力を持つがゆえに、未知の相手の巨大な幻影に囚われ、動けずにいる。
川д川 「……」
- 39
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:22:31.65 ID:E89K3OnO0
-
だからこそ。
なんとかして、この事実を利用できないものだろうか。
僕のこの考えは、果たして現状分析と呼んでいいものなのか。
それとも、単に身勝手な思い込みに過ぎないのか。
わからない。
けれど。
:: ヽiリil;д;ノi ::
川:::д川
从 、 ;リル 「みんなを、解放してくれ」
怖いくらいに神経が研ぎ澄まされている。
冷静に考えれば、誰がどう見ても、詰み。
八方塞がりに近い状況だというのに。
厚い脂肪に覆われた胸は、悴む右手へ激しい振動を伝えていた。
- 40
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:24:56.03 ID:E89K3OnO0
-
●第二三話 『 パラノイド・パロット ── VS.
サダコB 』
感染能力者は、ようやくこちらを向くと、口を開いた。
川д川 「見たところ、あなた…… 一年生。
写真部……? いえ……違う。
“ わたし達の部 ” の、誰かの……知り合い?」
从'。`リル 「……そうだ」
わたし達の部 ── つまり、彼女もオカ研の部員だということか。
胸元のリボンの色から察するに、スパムちゃんやしぃちゃんと同じ、二年生のようだ。
川д川 「さっきも言ったけど……。
邪魔すると……あなたも、彼らと同じ目に遭う……わ。
わたしは……あなたを “ 動けなくできる
” んだから」
- 42
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:27:13.63 ID:E89K3OnO0
-
从 。 リル 「その言葉、そっくり返してあげるよ」
川д川 「……え」
今の僕には精一杯の虚勢だった。
足の震えをごまかせていないのが情けないところだが。
从゚- ゚;リル 「スパム……スパムさんをどうしたいのかは知らないけど、
これ以上無駄なことはやめたほうがいい。
もうすぐ人が来て、おそらくは警察も来て、救助活動は本格的に開始される」
川д川 「……」
暫しの沈黙。
感染者たちの発するうめきが、薄暗い廊下の不気味さを際立たせていた。
不調和なBGMに、ときおりスパムの鼻をすする音が混じる。
- 44
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:29:42.31 ID:E89K3OnO0
-
从'。`;リル 「知り合いには警備員に連絡してくれるよう頼んであるし、
校舎にはあと二人、仲間の
“ チャネラー ” が乗り込んでる。
キミ、いや、あなたの目的は、実現しないっ」
いつの間にか出来てしまった 『 一年生
』 という設定にも、いちおう配慮しつつ。
僕は少し強気に出ることにした。
……しかし。
川д川 「あなた……さっき、この階段を駆け上がっていった……」
从゚o ゚リル 「へ?」
川д川 「そして……東棟のほうから、フラつきながら戻ってきた……。
時間的に、外に出て帰ってきた……とは、思えない……」
从゚、゚;リル 「あ、それは、その」
川д川 「連絡した……? いつ……?
警察……消防……。
それなら、もう……来ていてもいい頃……よね?」
Σ从゚д゚;リル 「そ、そうっ、なんだけどっ。 えーと」
簡単に突き崩されてしまうところが僕らしいとも言える。
- 45
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:32:37.59 ID:E89K3OnO0
-
从'。`;リル 「ちょ、ちょっとばかり到着が遅れてるんだ!
……嘘じゃない。 それにっ」
川д川 「あと、ふたり……」
从'ロ`;リル 「そう。 校舎内には僕の仲間がいる。
僕にだって一応、目の前の障害を排除するくらいの
“ チカラ ” はあるし、
彼らにしても同様だ」
川д川 「チ・カ・ラ……」
_
从゚、゚;リル 「あなたも、チャネラーならわかるはずですよね?」
必要以上に挑発的になっていないか、内心ビクビクしながら言葉を紡いでいく。
さあ、どうなる。
- 46
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:35:15.54 ID:E89K3OnO0
-
川д川 「わたし……井戸中サダコ。
あなたは?」
从'。`リル 「……ドクミ。 ウチダドクミ、です」
自らフルネームを名乗ったのははじめてだ。
この瞬間、自分という型紙から、
『 内田ドクミ 』という、劣化コピー能力を持つ少女の輪郭が切り取られた気がした。
内藤ドクオの裏側、もう一人の自分。
── もう一人の “ 超能力者 ”。
川д川 「内田さん。 ……もう一度だけ、言うわ……。
お願い。 わたしの邪魔をしないで。
動けなく……なりたくなかったら」
“ 動けなくなる ” “ 動けなくなる ”
と繰り返しているが、
それは “ 感染者 ”
たちをけしかけるぞ、という脅しなのだろうか。
- 48
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:37:38.43 ID:E89K3OnO0
-
从'。`;リル 「僕が助けにきたのは別の人だけど……。
あなたがスパムさんに危害を加えようとしているのなら、
それを簡単に見過ごすことなんて、できません」
計五人の “ 感染者 ” たちが、一斉にこちらへ視線を向けた。
ある者は唸りをあげ、ある者は口の端から泡を吹きながら。
:: ヽiリill;凵Gノi :: 「ひっ! な、何なのよ!? ねえ!」
从゚ロ゚リル 「スパムさん! そいつらに触れないようにして!
彼らと同じようになりたくなかったら!」
:: ヽiリil;Д;ノi :: 「こ、この人たち何なの!? 何とかしてぇ!」
廊下の壁に追い詰められたスパムが、かぶりを振って叫んだ。
取り囲む “ 感染者 ” たちだが、すぐに襲いかかるというわけでもないようで、
今はただふらふらと、彼女の周りをうろついている。
从'、`ilリル 「ぐっ。 す、スパムさんをどうするつもりですか」
“ 感染者 ” たちを見るような素振りで、注意深く辺りに視線を走らせる。
何か、何か手はないものか。
- 50
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:40:30.73 ID:E89K3OnO0
-
川д川 「あなたには……関係、ないこと」
从 ロ リル 「関係なくなんてない!
罪なき他人を巻き込んでおいて、これ以上好き勝手には……」
川゚д川 「ダ マ レ」
……が、その瞬間。
サダコの声色が明らかに変わった。
Σ从゚、゚;リル ハッ
どすの効いた恫喝。
込められた怒気を感じ取った瞬間、全身の皮膚が一斉に粟立つ。
从゚д゚il|ル (しまった、少し強く言い過ぎちゃったかも……)
僕は腰を落とし、ぐっと身構えた。
無論、戦いではなく、逃げる体勢のほうだけれど。
- 52
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:44:10.35 ID:E89K3OnO0
-
最低でも “ 感染者 ”
たちをけしかけられる覚悟はしていたが、そうはならなかった。
彼女はふうと一つ息をつくと、深く項垂れ、呟いた。
川д川 「内田さん……。 仲間……。 チャネラー……。
きっと……友達も、たくさん……」
从'。`;リル 「え?」
川д川 「恵まれた外見……。 幸せな……環境……。
わたしに無いもの……あなたは、いっぱい持っている。
……彼女と同じ」
そう言うと、スパムのほうを一瞥し、
川д川 「わたシのこと、なンて」
川゚д川 「あなタには……わかラナイ。 邪魔ヲスルナ」
ゆっくりと視線を戻す。
髪の隙間から覗いた表情は険しく、あきらかな敵意に満ちていた。
- 54
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:46:44.85 ID:E89K3OnO0
-
──そうだ。
目の前の彼女が、以前出会った “ 屋上の男
” と違うのは、
害意をもって、その “ 精神汚染能力 ”
を揮っているところだ。
そんなに憎むほどの理由が、スパムにあるというのか?
从゚、゚;リル 「ど、どうしt……」
ヽiリli゚□゚ノi 「どういうことなの!? なんでこんな事するの!?
みんながこうなったのはあなたの仕業なの!?
ねえ、サダちゃん! どうしてぇっ!?」
脳裏に浮かんだ疑問を、当の本人が投げかける。
川д川 「どうして、ですって……」
スパムの問いかけに対し、サダコは一瞬静止すると、
川#д川 「わたしは……あなたが憎い。 憎い。 憎い憎い憎い!」
感情露わに叫んだ。
- 56
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:49:32.62 ID:E89K3OnO0
-
川#д川 「あなたに、復讐するため……今日まで、耐えてきた。
知ってるでしょう? わたしには……他に、何もない。
友達も、安らぎも、居場所も、優しい家族も……」
ヽiリlii゚听ノi 「何それ、嫉妬?! 醜いわね!
サダちゃんがいじめられてたことは、別に私に関係ないじゃない!」
从'。`;リル (いじめ、復讐……!?)
なんとなく話が見えてきた気がする。
川#д川 「あなたが憎い!
わたしから、生きる気力を! 居場所を!
……希望を、奪った!」
ヽiリ#>ロ<ノi 「意味わかんない! 私が何をしたっていうのよ!」
川д川 「何を……した?」
ヒステリックなやり取りのあと、サダコは急に笑い出した。
川::∀川 「はは、あははははははは。
何をした……自分は何もしてないって、そう……言いたいの」
- 60
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:52:20.32 ID:E89K3OnO0
-
ヽiリill゚听ノi 「当たり前よ! 私があなたに何かした!?
目に付くところで笑ったわけでもなければ、
体や持ち物に触れてすらいないわ!
こないだサダちゃんの鞄にイタズラしたのだって……」
川д川 「そうね。 ……あなたは関係ない。
他の部員が……やったこと」
ヽiリ;゚听ノi そ 「そ、そうよ」
川゚д川 「知ってて……裏で、笑っテタの……ね」
ヽiリ;゚−゚ノi 「う……!」
从'。`;リル (……)
いじめられっ子による復讐劇。
それが、この事件の本質だというのか。
蓋を開けてみれば、それだけの理由で──こうも多くの生徒が巻き込まれたというのか。
いや、それだけ、というのは言いすぎか。
その怒りを目の当たりにした今となっては、
彼女がこれまでどんな扱いを受けてきたのか、察するに余りあるというものだ。
- 64
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:55:29.84 ID:E89K3OnO0
-
立ち竦む僕の視線の先、彼女はゆらゆらとスパムのほうに近づき、言った。
川д川 「以前みたいに……いけしゃあしゃあと、
“ 友達でしょう? ” ……なんて……言わないのね」
ヽiリ;゚ο゚ノi 「そ、それは、だって」
川::ー川 「まあ……今更そんな事、言い出そうものなら……。
……わたし、本当に、何するかわからなかった、けど」
くっくっと含むような笑いをこぼし、こちらへ向き直る。
川д川 「内田さん。 ……聞いての、とおり。
情けない……わよね。
あなたも、心の中で……笑ってる……でしょう?」
- 65
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 00:58:17.10 ID:E89K3OnO0
-
从゚ロ゚;リル 「笑ってなんていません!
だって、僕もサダコさんの気持ちはわかるから」
川д川 「嘘。 あなたに、無視される理由なんて……ないじゃない。
意地悪される……理由なんて、ないじゃない。
……わかるわけないじゃない」
わけないじゃないそんなわけないじゃない。
心の何かが欠けてしまったかのように、何度もそう繰り返す様は、
異様としか言いようが無い。
川д川 「でも。……いくら情けなくても、ダサくてもキモくても……。
それでも、どうしてもわたし、許せないの。
……岡戸さんが」
ヽiリ;>ロ<ノi 「だからどうして私なのよ!? 嫌がらせは全部他の子がやったこと!
私はただ止めなかっただけ! 関わりたくなかっただけ!
直接的にも、間接的にも、私は何ひとつ悪いことしてないのに!!」
- 67
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:01:15.59 ID:E89K3OnO0
-
川#д川 「……ふざケルな!」
威圧的なサダコの声と同時に。
突如、“ 感染者 ” である男子生徒が、
雄叫びを上げながらスパムのほうに殴りかかった。
とはいえ、標的の定まっていない、大ぶりなテレフォンパンチだ。
軌道は横に反れ、後方の窓ガラスが音を立てて破壊される。
反射的に顔を覆ったスパムの、短い悲鳴が轟いた。
Σ从゚ロ゚liリル 「や、やめろっ!」
川゚д川 「そレ以上近づくナ!
お前も、“ 動けなくなる ”
ゾ……!」
Σ从゚△゚;リル 「わっ!?」
駆け寄ろうとした僕の前に、“ 感染 ”
した女生徒がふらりと立ちはだかる。
反射的に跳び退り、数歩後退して距離を取る。
- 68
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:03:27.11 ID:E89K3OnO0
-
女生徒がそのまま迫ってくることはなかったが、これではっきりとわかった。
やはりサダコは “ 感染者 ” の動きを、自分の意思で、ある程度制御できるのだ。
ヽiリlii;Д;ノi 「ひっ、ひいぃっ」
川д川 「知ってるの。 わたし……全部。
あなたが……どんな風に、……わたしを、見ていたのか!
だって……見てた、聞いてたのよ、全部。
……あの日」
ヽiリli゚ο゚ノi 「あ、あの日って……?」
川#д川 「……いいわ。
覚えてないのなら……教えて、あげる」
怒りに肩を震わせながら──。
復讐に燃える一人のチャネラーは、自らの過去を語りはじめる。
===
==
=
- 69
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:06:16.06 ID:E89K3OnO0
-
去年の……そう、四月。
入学式の日のこと。 覚えている?
いえ、あなたにとっては忘れたい出来事かも知れないわね。
川д川 『 …… 』
中学の頃、周りにいじめを受けていたわたしは、
地元を避けて、隣のVIP市にある、このVIP学園に入学した。
無理に遠くの学校を受験したこともあって、親にはさんざなじられた。
思えば、その時には既に、自宅にわたしの居場所はなくなっていたの。
- 71
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:08:56.29 ID:E89K3OnO0
-
川д川 ( ……1年E組……。
高校は、一学年に7クラスもあるんだ……
)
入学式が終わって。
新しい教室には既に、同じ中学の友達同士を中心とした、
いくつかのグループができていた。
当然、わたしと同じ中学出身の人間はいない。
──いないはずだった。
意地悪な知り合いは誰も見当たらない。
けど、やっぱりわたしは怖かったわ。
新しい環境が不安で仕方なかった。
クラスに馴染めないのはもう仕方がない。
ただ、叩かれたり蹴られたり、意地悪されたり──、
そんな、以前のような扱いだけは、受けたくない。
川д川 (……ただ静かに、普通に過ごせればいい)
──けれども、わたしは。
- 72
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:11:15.96 ID:E89K3OnO0
-
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 『 あの……井戸中さん、よね?
』
川д;川 『 !! 』
あなたに出会った。
出会ってしまったの。
ヽiリ*゚ヮ゚ノi゙ 『 やっぱりそうだ!
私、同じラウンジ中学の……
』
川д;川 『 お……岡戸……さん 』
ヽiリ,,^ヮ^ノi 『 あ、知ってたんだ! よかった〜。
ここ、他に全然知ってる人いないし、
今日すっごい不安だったの!
』
一度も同じクラスになったことはなく、
辛うじて名前を知っている程度の間柄だったのに、
あなたは、まるで旧知の友人に出会ったかのように、気さくに話し掛けてきたわよね。
親の都合でこっちに越してきて、VIP市の学校を受験していた。
誰も知り合いがいなくて、一人ぼっちを覚悟してたけど、まさか井戸中さんがいるなんて。
会えて本当によかった。 ──あなたはそう言っていた。
- 73
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:14:35.26 ID:E89K3OnO0
-
出席番号のせいで前後の席になったこともあり、
それから数日の間、わたし達は一緒に過ごした。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 『 ねぇねぇサダちゃん。 怖い話とか、幽霊とか好き?
今日の放課後、オカルト研究部の見学に行ってみない?
』
川д川 『 さ、サダちゃん……って…… 』
ヽiリ*゚ヮ゚ノi 『 私さ、占いとか、魔術とか、そういうの超好きなの!
ここのオカ研ってー、意外に人数多いらしいしぃ、
どういう活動してるのか、すごーく気になってて
』
川д川 『 でも……い、いいの?
わたしなんかが……い、一緒に、……行って
』
- 75
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:17:21.88 ID:E89K3OnO0
-
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 『 何言ってるの! ぜーんぜん構わないわよ。
だって…… 』
ヽiリ,,^ヮ^ノi 『 私たち、友達じゃない!
』
川*д川 『 ──! 』
友達。
その言葉が、どれだけわたしの心を温かくしてくれたか。
トモダチ。
その希望は、わたしにとって最大の拠り所になった。
- 76
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:20:13.24 ID:E89K3OnO0
-
あなたに続けてオカルト研究部への入部を決めたわたしは、
中学の頃に比べると、はるかに充実した日々を送っていた。
──けど。
当然のこととはいえ、そんな毎日が長く続くはずはなかった。
たとえ同じ中学出身でも。 同じクラスでも。
オカルトという共通の趣味があって、同じ部活に所属していても。
『 ごめんねサダちゃん。 今日はユッコ達とお昼食べる約束してて──
』
『 え? ああ、今日は部活先に行ってていいよー
』
『 あ、サダちゃんお疲れさま。 ばいばーい。
』
『 あははは! それでね、マユったらさ──
』
- 77
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:22:54.14 ID:E89K3OnO0
-
綺麗で、人当たりがよくて、快活な岡戸さんと、
地べたを這うミミズみたいなわたしじゃあ、
ずっと一緒にいられるはずがない。
『 というわけで、3年生の送別会は18日の12時からになりました!
先輩たちはプレゼント駅前で買うんでしたっけ?
私も一緒に行っていいですか〜? 』
『 あ、えーと…… 』
『 さ、サダちゃんも、来る? 』
『 ……そっかぁ 』
わたし達は、少しづつ少しづつ、疎遠になっていった。
- 79
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:25:15.65 ID:E89K3OnO0
-
『 ちょっ、エリ待ってよ。 早いってー
』
『 あ、知ってる。 大通りに新しくできた店でしょ。 行く行くー
』
誰からも好かれるあなた、 誰にも好かれないわたし。
他に友達はいなくて、ともすれば奇異の視線に晒されている、
そんな一人ぼっちのわたし。
『 サダちゃんもお疲れ、じゃーねー 』
『 あはは……カズ君そんな事言ってたの? やだぁー
』
あなたの態度が少しづつ変化していっても、
わたしはそれを、半ば当然のこととして受け止めていた。
- 81
名前:>80訂正:2010/12/06(月) 01:30:34.01 ID:E89K3OnO0
-
月日はのんびり過ぎ去って。
二年生になって少し経った──。
確か、五月の半ば頃だったと記憶している。
クラスも変わったことで、わたしたちは、
部活でも、挨拶を交わせばいいほう、程度の関係になってしまった。
三年生や新入部員にも慕われ、オカルトの知識も行動力もあるあなたは、
既に、次期部長候補としての風格に満ちていた。
いつも部室の隅で、ひとりカタカタとパソコンをいじっているだけのわたしじゃあ、
話しかけることすら躊躇われるような、遠くて、輝かしい存在だった。
- 82
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:33:16.16 ID:E89K3OnO0
-
川д川 『 …… 』
そして、思い出すのも忌々しい、あの日。
放課後のことだった。
部活は休みだったけど、わたしは忘れ物を取りに、部室へ立ち寄ったの。
『 ねーねー、岡戸ぉ。 前から聞こうと思ってたんだけどぉ
』
川д川 『 ! 』
……そして。
入口のところで、聞いてしまったの。
あなたと佐藤さんの会話を。
- 83
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:35:42.31 ID:E89K3OnO0
-
川*` ゥ´) 『 あんた、あの井戸中と同じ中学だったんピャ?
』
ヽiリ,,゚ο゚ノi 『 え? ええ、そうよ
』
川*` ゥ´) 『 ふーん。 あんたあいつの友達なのピャ?
』
ヽiリ,,゚−゚ノi 『 ……私が? 』
川;д川 『 …… 』
嘲るような、小ばかにするような、そんなノリの問いかけ。
心臓が跳ね上がったわ。
調子がよくて八方美人なあなたのことだから、適当にお茶を濁すのかと思ってた。
- 86
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:38:52.93 ID:E89K3OnO0
-
ところが。
一瞬の静寂のあと、あなたが放った言葉は──、
『 そんなわけないじゃない 』
川;д川 『 ! 』
笑っちゃうくらいの、即答。
- 91
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:42:03.66 ID:E89K3OnO0
-
『 気持ち悪くないのかって?
キモいに決まってるじゃない。
まあ、そりゃ……ね? 』
『 ええ、中学のときから、ずーっとあの調子だったみたい
』
『 ダサいし、どもるし、まともに話もできないよね
』
『 逃げてきたんじゃないかな? 彼女 』
『 いじめられてたみたいだから 』
『 そうそう。 確か、中学のときのあだ名は……
』
- 92
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:45:11.70 ID:E89K3OnO0
-
聞くに堪えない、ひどい話だった。
あなたはできるだけソフトに伝えたつもりだったんでしょうけど、
結局それは、当人であるわたしにすれば、陰口以外の何物でもない内容だった。
頭がくらくらして、すぐにでも逃げ出したかった。
けれどわたしは、一語一句漏らさないように、
最後まで、あなたと佐藤さんの会話を聞いていた。
あなたは言っていたわ。
一年生のときは付きまとわれて迷惑だったとか。
相手は友達だと思い込んでるだろうから、今でも気を使うのが大変だとか。
『 中学時代の友達伝いに聞いた 』
という前置きで、
わたしが受けていた仕打ちまで──ぺらぺらと。
- 96
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:48:11.78 ID:E89K3OnO0
-
川illд川 『 …… 』
滑稽でしょう。
あなたの言うとおり、わたしはまだ、あなたを友達だと思っていたの。
信じていたの。
勝手に、一人で、……思い込んでいたの。
だから。
その全てがポーズでも、いつわりだったとしても、
本当はこれっぽっちもそう思っていなかったとしても。
『 ソンナワケナイ 』
友達だと、言ってほしかったんだ。
- 98
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:50:59.96 ID:E89K3OnO0
-
不気味だと思われてもいい。
気持ち悪いと言われるのも、きっとしょうがない。
どこかで突き放されても文句は言えない。
けれど。
たとえかりそめの、数いる友人の端っこの端っこ、
どうでもいい存在だったとしても──。
ヽiリ,,^ヮ^ノi 『 私たち、友達じゃない!
』
わたしに希望を与えてくれた、
これからは、少しづつ変われるんじゃないか?
そう思わせてくれた、ひとこと。
川#;-::川 『 …… 』
それだけは、否定して欲しくなかったの。
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:53:30.73 ID:E89K3OnO0
-
それからのわたしは、中学のころに逆戻り。
おそらくは、人気者であるあなたとの微かな繋がりが、精神的な枷になっていたのね。
あなたに 『 友達じゃない 』 と聞かされ、悪口を共有したことで、安心したんでしょう。
佐藤さんを中心としたグループは、クラスでも、部活においても、
わたしを陰湿にいびるようになり、その行為は段々とエスカレートしていった。
持ち物を隠される程度ならまだいい方。
昼休みに呼び出されて体育倉庫に閉じ込められたり、お弁当に虫の死骸を詰め込まれたり。
部室で、ちょっと目を離したすきに、パソコンのデータをいじられたこともあった。
まるで坂を転げ落ちるかのように、
周りのわたしへの態度は、どんどんひどいものになっていった。
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:56:29.40 ID:E89K3OnO0
-
ヽiリ,,^ヮ^ノi 『 私が部長だなんて──感無量です!
はい、精一杯頑張ります!
』
わかってたんでしょ。
わかってたわよね。
わかってたはずよ。
別に助けてなんて思ってない。
見ないふりでも一向に構わない。
──けどね。
そのきっかけをつくったのは、間違いなく、
あの時の、あなたの一言なのよ!
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 01:59:12.29 ID:E89K3OnO0
-
元々折り合いの悪かった両親の仲が、本当に険悪になったのも、ちょうどこの時だった。
引き倒されて殴られたことも、髪を引っ張られて蹴られたこともあるわ。
あんたなんて産んだのが間違いだった、気持ち悪くて仕方がないって、
何度も何度も罵られたわ。
何度も何度も。 何度も何度も何度も何度も!
学校でもひどい扱いを受けているのに、家にいても心休まることなんてない。
わたし、何か悪いことした?
なぜわたしがこんな目に遭わなくちゃならないの?
……それにしても、女子のいじめって本当に狡猾で陰湿よね。
男子の前ではいい顔して、何も知らない天使のように振舞って。
裏では、わたしをゴミのように扱って。
暇つぶしの材料に。 ストレスのはけ口に。 おもちゃにして楽しんでいるの。
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:02:20.94 ID:E89K3OnO0
-
それでもわたしは、一日たりとも学校を欠席しなかった。
部会には必ず顔を出すようにしたし、
割り振られた仕事は妥協なく、全てきちんとこなしてきた。
舌打ちされても笑われてもなじられても。
教室の隅で、部室の傍らで────
じっと耐えていたのよ。
なぜだか、わかる?
わたしの耐え忍んできた毎日は、
全部、
全部、
ぜんぶ!
今日、あなたに復讐するためにあったんだから!
- 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:05:03.18 ID:E89K3OnO0
-
=
==
===
両手で頭を抱え、サダコは腹の底から搾り出すように、憎しみを吐き続けていた。
川#皿川 「誰にでもいい顔して……愛想を振りまいて……いい人ぶって。
その実……わたしを……わたしだけを、見下して!
他のヤツラに……どんな意地悪をされるより……!
あなたの……偽善にまみれた、嘲りの視線が、一番辛かった!」
ヽiリli;д;ノi 「サダ……ちゃん……」
川#Д川 「わたしが気持ち悪いなら! 嫌いだって言うのなら!
なぜ……最初から、ほっといてくれなかった!
どうして中途半端に友達ヅラなんてした!
どうして……どうして、どうして!!」
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:08:41.94 ID:E89K3OnO0
-
ヽiリli;д;ノi 「ち、ちが……。
私は、ひっく、本当に」
川#皿川 「嘘よ! ……あなたの言うことは、みんな嘘ばかり!」
わたしには、あなたのようなルックスもなければ、カリスマもない。
仲間もいない、好きになってくれる人なんていない。
人間としての魅力がひとつたりともない。
わたしに足りないものを全て持っている。
そんなあなたに嫉妬を覚えなかったかといえば嘘になるわ。
けど、そんなことは大した問題じゃない。
川#д川 「……あなたは、わたしのことを裏切った。
自分の地位を築くまでの足がかりとして、……勝手に、友達ヅラなんてして。
……用がなくなったら、笑い話のネタにして。 陰でわたしをあざ笑って」
川#ロ川 「利用するだけ利用して……最後には、わたしの心を踏みにじった。
それが。 ……そのことだけが、許せない!」
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:12:07.09 ID:E89K3OnO0
-
サダコの悲痛な叫びは、僕の胸で残響する。
从 - ilリル (……)
心を抉られる思いだった。
『 おいドクオ、パン買ってこいよ。 ダッシュな
』
『 あれ? こいつひょっとして泣いてんじゃね?
』
『 きゃははっ。 きもーい 』
『 うわっ、寄るなって。 ドクオ菌がうつるから
』
その昔、“ ある事件 ”
がきっかけとなって友達を失い、塞ぎ込んでしまった僕は、
中学高校と、思い出したくもない、ひどい扱いを受け続けてきた。
从 、 リル (彼女は……)
そう、同じだ。
目の前にいる少女は、僕と同じ種類の人間なんだ。
サダコは、僕なんだ!
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:15:07.12 ID:E89K3OnO0
-
川д川 「知ってる? ……いや、知ってるわよね……。
副部長も含めた、オカ研の中枢、数人……」
ただ、ほんの少しだけ違うのは。
川д川 「聞いたの……次の、学園祭で……、
わたしに、ステージ上で、ひどい恥をかかそうとしていた……」
ヽiリli;凵Gノi 「……!?」
川#д川 「……わたしが、これ以上オカ研にいられなくなるように……。
自ら退部したくなるように、
わたしを嵌める、計画……練っていた」
ヽiリli;凵Gノi 「そ、そんな話、わたし一言も」
川#ロ川 「とぼけないで!
計画の中心……副部長と……仲の良い、あなたが!
知らないわけ、ない!」
いじめに対抗し得る、反則的な力を手に入れてしまったこと。
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:19:00.04 ID:E89K3OnO0
-
川д川 「それを知ってもなお、わたしが部活に……オカ研に残っていたのは……、
全部、あなたたちに復讐するため。
今日、この日のためだけに……! わたしは……」
でも、その方法は。
从 ロ リル 「──もう、やめてくれ!」
川д゚川彡 「……!?」
思わず叫んでいた。
サダコは口を止め、こちらに怪訝な顔を向ける。
川д川 「内田さん……。
あなたには……わたしの気持ち、なんて」
从>ロ<リル 「わかるよ! だって、僕もあなたと同じだから!
友達なんていなかったから。
……ずっと、いじめられていたから!」
川;д川 「……え」
- 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:21:29.91 ID:E89K3OnO0
-
黒髪がふわりと靡き、彼女は僕の正面に向き直った。
川д川 「嘘よ。 ……話、合わせようとしても無駄。
……だってあなた、さっき言った。
仲間を……」
从 、 リル 「ええ、今は仲間がいます。 友達と呼べる人もいます。
けど、昔はそんなもの、誰もいなかった。
クラスメイトには罵られ、暴力を振るわれることもしょっちゅうだった」
生き地獄のようだったあの日々。
何度も死にたいと思った。 毎日が絶望に塗りたくられていた。
それでも。
耐えて、耐えて、卒業した後、僕は出会うことができた。
こんな自分でも、分け隔てなく接してくれる、本当に素晴らしい人。
心の底から尊敬できる他人。 ハインさんという女性に会えた。
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:24:14.56 ID:E89K3OnO0
-
川д川 「そんな……なら、わたしの気持ち……、
わかってくれるんじゃ……」
理解できる。
理解できるがゆえに──。
从 ロ リル 「今の環境を変えようとする努力。
それを続ける忍耐力、実行に移す行動力。
本当に凄いと思う。
僕が昔、出来なかったことだから」
川д川 「……」
从゚□゚;リル 「だからこそ、こんな形の復讐なんてダメだ!
たくさんの人を巻き込んで……事件なんて起こしてどうなるっていうんだ。
ここでキミ自身が未来を閉ざしちゃあ、元も子もない!」
川; д川 「う……」
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:26:59.29 ID:E89K3OnO0
-
从 、 ;リル 「今は辛い毎日かも知れない。
けど、キミにもきっとこの先、本当に素晴らしい出会いがあるから
……絶対!」
だが、少女は心の迷いを払うがごとく、かぶりを振る。
川liд川 「……おためごかしなんて、聞きたくない。
あなただって、“
チャネラー ” の力で、
今の環境を手に入れたんでしょう?」
,_
从'、`;リル 「……違います」
川д川 「嘘よ……。 やっぱり、信じられない。
いじめられる理由が、あなたにあるなんて……思えない……。
有り得ない。 ……どん底の状態から、そんなに変われるなんて」
- 122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:29:17.05 ID:E89K3OnO0
-
从 、 リル 「嘘じゃない。
今だって、いじめていた相手を許せるかっていうと、許せません。
思い返すだけでハラワタが煮えくり返りそうになる」
こいつを刺して俺も死んでやろうか。
奇声とともに教室中へエアガンでも乱射してやろうか。
毎日そんな妄想に明け暮れていた。
そうしないとやっていられなかった。
実行に移す勇気なんてなかったけど、そんな事をしなくて本当によかったと思える。
今の自分に満足しているわけではないが、
学生の頃よりは、ずっとマシな日常を手に入れたはずだから。
そう思わせるほど、あの頃は本当に毎日が苦痛だったんだ。
- 127 名前:SARUTTA:2010/12/06(月)
02:47:02.27 ID:E89K3OnO0
-
川liд川 「ちょっと……悪口を言われたとか……その程度でしょう?
あなたみたいに……キレイな子が……」
从 ロ#リル 「本当なんだ!
だって、そいつは……」
中学時代、輪の中心となって、内藤ドクオを苛め抜いた人物。
忘れられないその名前。
許し難いその仕打ち。
そいつは。
その男は──
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:53:02.86 ID:E89K3OnO0
-
……あれ?
- 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 02:59:09.01 ID:E89K3OnO0
-
唖然。
从゚□゚リル 「……」
叫ぼうとして、固まっていた。
僕の心に深い憎しみを刻んだ、許し難いあの出来事が。
忌々しいあいつの名前が。
从 □ ;リル 「そ、そいつ、は」
……どうして?
そんな。
なぜ。
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:00:35.29 ID:E89K3OnO0
-
思い出せない。
- 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:04:31.91 ID:E89K3OnO0
-
出てこない。
忘れたくても忘れられなかったはずの、それが。
トラウマになった痛みが。
川д川 「なぜ……言えないの?」
高みから僕を笑う、憎憎しいあの表情が。
从゚□゚;リル 「……わから、ない」
川;д川 「?」
从゚、゚;リル 「殴られ……あれ、違う。
え、誰、だっけ」
川д川 「……何それ」
顔が思い出せない。
名前もよくわからない。
霞がかかったように、ぼやけている。
記憶のパズルから、1つのピースが抜け落ちてしまっていた。
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:11:45.33 ID:E89K3OnO0
-
川#д川 「やっぱり嘘だった!
また……嘘。 嘘。 嘘ウソ嘘つきばっかり!」
Σ从゚ロ゚liリル 「ち、違う、ウソなんかじゃあ」
川#゚д川 「わたシは……モウ、騙さレなイ!」
長い黒髪をゆらゆらと立ち昇らせ、サダコはがなるように声を張り上げた。
低いしゃがれ声には怒りの色が滲んでいる。
はっとして振り向いた。
彼女の一喝を合図とばかり、“ 感染者
” の女子生徒が、すぐそばまで迫っていた。
慌てて体をかわす。
だが、さっきとは違って、女生徒はその歩みを止めることがなかった。
真っ青な表情。 焦点の合わない視線。 小刻みな痙攣──。
何かを求めるように前に手を伸ばしながら、
ふらふらとこちらへ近づいてきている。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:14:13.32 ID:E89K3OnO0
-
从 皿 ;リル 「くっ……!」
武器が無い以上、彼女達を退ける手段はない。
どうにかすり抜けたところで、サダコのそばにはあと四人もの
“ 感染者 ” が控えている。
廊下をじりじりと後退する。
移動は遅くとも、女生徒は確実に僕を目指して進んでくる。
空手ではどうしようもない。
このままトイレまで逃げ戻り、ダメ元で水の塊を運んで来ようか……?
そう考えていたときのことだった。
从゚、゚;リル 「!」
横の教室の扉が勢いよく開いたかと思うと、
そこから伸びた手が、僕の手首を捕獲する。
Σ从゚△゚;リル ( しまった! )
こんなところにも、潜んでいたなんて。
- 140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/06(月) 03:17:09.79 ID:E89K3OnO0
-
从 ロilリル ( まずいっ。 “ 感染 ”
した!?)
抗う暇すらない。 完全なふい打ちだった。
開いたドアから飛び出した人物は、そのまま肩を引き寄せる形で、
僕の体を薄暗い教室へ引きずり込む。
「うっ、うわっ! わあああぁああ……!」
悲鳴と、扉を閉める乱暴な音が、混じり合い。
薄闇を裂くように、大きく響き渡った。
(続く)
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