- 2
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:04:48.34 ID:+8rXUn9O0
-
またも “ ちゃねらー ”
絡みの事件が起きたという、ギコからのコール。
ドクミ(女体化ドクオ)とブーンは、VIP学園へ向かう羽目になる。
夜の学園は、精神汚染災害(サイコ・ハザード)ともいうべき事態に陥っていた。
事態の原因である能力者がいるという、旧校舎へ乗り込む三人組。
だがすぐに、“ 感染者 ” である男子生徒の襲撃を受け、
サダコ編
● あらすじ
ドクミはギコ・ブーンとはぐれてしまった。
どうにか危機を退けた彼女が、
2階の教室で出会った人物は、意外にも。
一方、ブーン達は視聴覚室で、オカルト研究部の部員らしき女生徒を発見する。
しかし、錯乱した女生徒は、手にしたカッターナイフを振り上げて──。
- 6
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:10:05.41 ID:+8rXUn9O0
-
【ブーンサイド: 2F 西側教室棟 ・
視聴覚教室 】
川ili ; ウ;) 「ぴゃぁぁああぁああ」
女生徒は、自らの左腕目掛け、カッターを大きく振りかぶった。
(illi ゚ω゚)そ 「ああああ!?」
三(,,ili゚Д゚) 「くっ……そおおおッ!!」
ギコが “ 感染 ” の腹を決め、彼女のもとへダッシュする。
だが、彼らと女生徒の間には、瞬時には埋めることのできない、無情なる距離があった。
(illi >ω<) 「──!!」
──間に合わない!
目の前で展開されるであろう惨劇の予感に、ブーンは視界を覆った。
- 7
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:13:18.11 ID:+8rXUn9O0
-
「うピャっ!?」
直後。
女生徒の短い悲鳴に続き、どさ、という音が教室内に響く。
(((illi >ω<))) 「!!」
ブーンは目を瞑ったまま、その場で身じろぎした。
血しぶきで全面彩られた、最悪のイメージが瞼の裏に浮かぶ。
しかし。
川illi` д´)゙ 「え? え??」
∩ ∩
(,,;゚Д゚) 「なっ……!」
続けざま、からんからん、という落下音が聞こえてきた。
立ちすくむブーンの “ 後方から ” 。
- 8
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:16:01.96 ID:+8rXUn9O0
-
::(illi >ω゚):: 「……お?」
ブーンはおそるおそる瞼を開いた。
その眼前に広がっていた光景は、
血を噴出す女生徒でも、刃物を巡る揉み合いでもなく。
面食らった様相で、空の両手を眺める女生徒と、
足元に転がった彼女を見つめる、ギコの呆けた表情だった。
(; ゚ω゚) 「……へ?」
やにわに音のしたほうへ振り返る。
暗がりへ目を凝らすと、
女生徒が掴んでいたはずのカッターナイフが、ブーンの足元に落ちていた。
振り下ろす際にすっぽ抜けたのだろうか。
唐突に刃物を失ったらしき女生徒は、勢いのままバランスを崩したのだろう、
壁際へ倒れ込み、目をぱちくりさせていた。
- 11
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:20:03.23 ID:+8rXUn9O0
-
川illi` ゥ´) そ 「ピャ! そ、それぇっ」
だがそのうち、ブーンの足元に転がるナイフの存在に気づくと、
這い寄るようにして迫ってきた。
(,,;゚Д゚) そ 「ブーン、カッターを!」
(; ^ω^) 「おおおっ」
ギコの声にあわせ、ブーンはそれを、教室の入り口側に思い切り蹴飛ばした。
川illi д )⊃:: 「あああ、何するピャ! 悪霊がぁああ」
(; ゚ω゚) 「落ち着くお! 僕たちは幽霊なんかじゃないお!」
(,,#゚Д゚) 「助けに来たんだよ! なあ、正気に戻ってくれ!」
川illi` ゥ´) そ 「え……?」
女生徒ははっとして顔を上げた。
二人のほうを交互に見つめるうち、釣り気味の目尻にじわじわと光る雫が溜まってゆく。
- 12
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:22:23.85 ID:+8rXUn9O0
-
川illi` ゥ´) 「ピャ……? あんたたちが……アタイを……?」
(,,゚Д゚) 「そうだよ! お前、オカ研の部員だよな?」
川; ゥ ) 「ピャー……アタイ……」
(; ^ω^) 「いったい何があったんだお? 話してくれお」
ひどく取り乱してはいたものの、会話が通じるだけ
“ 症状 ” としては軽度だったのだろう。
女生徒はゆっくりと立ち上がり、スカートの膝をはたいた。
乱れた髪をかき上げると、その頬はほんのり赤く染まっている。
正気を取り戻したらしき彼女の素振りに、ブーン達もほっと胸を撫で下ろした、その瞬間。
三∩川* ; ゥ;)∩ 「怖かったピャァアアアア!!」
どす、どす、どす。
女生徒は、めっちゃいい笑顔を振りまきながら、両手を挙げて二人のほうに駆け寄ってきた。
- 13
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:26:07.69 ID:+8rXUn9O0
-
Σ(; ^ω^)⊂ヽ )) 「ひッ」
(( (゚Д゚;,,)ノノ 「やべっ、ちょ、触んじゃねェ!」
……弾かれるように、両者いっせいに愛のタックルをかわす。
勢いあまった女生徒は、
三∩川* ; д;)∩ 「ピャ!?」
そこに積まれていた、機材の入ったダンボールの山にダイブすると、
三 川illi` д´) ⊃ 「ピェェェエエエェエ──!?」 ゴガシャァ
上半身から突き刺さり、
:::川川illi )ノ:: 「 」 ピク...ピク....
:::川川illi ):: チーン
……しばしの痙攣を経て、完全に沈黙した。
- 14
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:30:02.75 ID:+8rXUn9O0
-
(,,;゚Д゚) 「……なんだったんだ?」
(; ^ω^) 「あうあう……貴重な証言者が」
結局、事件の概要についても “
チャネラー ” についても、何一つ情報は得られないままだった。
気絶した女生徒を見下ろし、ブーンは深々と溜め息を漏らした。
そんな彼の横を素通りすると、ギコはカッターを拾い上げながら訊ねた。
(,,゚Д゚) 「ま、いっか。 んなコトよりブーン!
お前、どうやってあいつからコレを奪ったんだ?」
(; ^ω^) 「お? 奪った? え?」
ブーンは首をかしげる。
カッターナイフは、彼が気づいたときには既に後ろに落ちていたのであって、
女生徒から無理やり奪い取った、というわけではない。
( ^ω^) 「いや、僕は別に──」
何もしてないお。
そう答えようとした時、校舎のどこかから身を揺るがすような音が響いた。
床や壁からも僅かに振動を覚え、二人は顔を見合わせる。
- 15
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:32:31.38 ID:+8rXUn9O0
-
(,,;゚Д゚) 「おい、なんの音だ、今のっ」
(; ^ω^) 「僕に聞かれても! もう本当にわからないことだらけだお」
(,,゚Д゚) 「何かがあったのは間違いねえな。 行くぞ!」
( ^ω^) 「行くぞって言われても……今の音、どっから聞こえたか解るのかお?」
(,,;゚Д゚) 「いや、わかんねーけどさ。
……とにかく廊下に出ようぜ。 ここは暗くて落ちつかねえ」
(; ^ω^) 「……把握」
言うが早いか、ギコは教室の入り口へすたこら向かってゆく。
機材の山から生えた女生徒を一瞥すると、
疑問符をいっぱいに顔へ貼り付けたまま、ブーンはギコに続いて教室を出た。
(((; ´ω`) 「……???」
ごく近い将来、彼はカッターナイフが消えた理由を、身をもって知ることとなる。
──甚だしい痛みと引き換えに。
〜 〜 〜
- 18
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:35:25.34 ID:+8rXUn9O0
-
【ドクミサイド: 3F 東教室棟 ・
地学教室 】
薄暗く、埃臭い教室の床に伏し──。
すんでのところでピアノの追突を避けた僕は、
教卓の側面を押すようにしながら、やおら体勢を起こした。
从/□/リル 「痛っつつ……」
もう片方の手で、びりびり痺れる額を抑えつつ、周囲を見回す。
その部屋は、なんらかの特別教室のようだった。
教卓は普通教室の倍ほどの大きさがあり、
3〜4人用の古めかしい長机が二列に並んでいる。
ヽiリ; □ ノi 「………」
女の子は教卓正面の床で、さきほどと同じく尻餅の姿勢、同じ表情のまま固まっていた。
……暗くてよく判別できないけど、おそらくピンク。
- 20
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:38:16.05 ID:+8rXUn9O0
-
しょせん、僕の再現した “ 滑らせる能力
” は、劣化コピーだ。
オリジナルに比べて、ごく短い距離しか
“ 滑らせる ” ことはできない。
だが、今回はそのことが幸いしたらしい。
それなりの勢いで教室に放り込んだつもりだったが、
効力は室内の端まで持続しなかったのだろう。
女の子がどこかにぶつかったという様子はなく、怪我もないようだ。
ほっと胸を撫で下ろした。 ……のも、束の間。
そこで辺りが急に暗くなった。
ヽiリli゚□゚ノi 「ぁ……あ……あ」
从゚、゚;リル 「ん?」
ドアから差し込む淡い光を、人影が……遮ってる?
僕は四つんばいの姿勢のまま、首だけ後ろへ向ける。
(*:: -゚)
ざっ。
从゚皿゚;リル 「っっ!」
- 23
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:41:32.80 ID:+8rXUn9O0
-
そこには。 ドアの端に手をかけ、仁王立ちで我々を見下ろす一人の少女がいた。
彼女のまとう影は、その矮躯と釣り合わない、非常に巨大なものに感じられた。
ヽiリli゚д゚ノi 「し、しぃちゃん!?」
尻餅状態の女の子が口を押さえて叫んだ。
──知り合いだったのか。
だが、今はそのことについてどうこう考えている余裕はない。
ヽiリli゚听ノi 「しぃちゃん、私よ、スパム!
ねえ、お願いだから正気に戻って!」
从゚Ο゚;リル 「だめだ! 危ない、逃げなきゃ!」
ヽiリ;>ο<ノi そ 「きゃあ!?」
僕は飛び掛るようにして、スパムと名乗った女の子を正面から突き飛ばした。
彼女の体は後方の壁に向かって滑ってゆく。
从゚皿゚ilリル 「!!」
はっとして振り返る。
目の前には既に、巨大な長方形のシルエットが迫っていた。
- 24
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:44:23.52 ID:+8rXUn9O0
-
从゚□゚ilリル 「うっっっっひゃぁあぁあああ!?」 ズバン
避けることはかなわず、僕はその場で頭を抱え込むように身を縮めた。
直後、けたたましい音が鼓膜に突き刺さり、思わず全身が強張る。
ガラスの破片が、両脇にばらばら降り注ぐ。
新たな圧殺凶器──取り外されたドア板は、
背にしていた教卓の天板に炸裂し、
辛うじて僕に届くことなく、頭上数センチの位置で止まった。
从;皿;リル 「ひ、ひいぃっ!」
空いた右脇の隙間から即座に飛び出した。
僕は目の前の長机を飛び越えると、そのまま教室後方へ向かって走り出した。
(*゚−゚) 「待……ちな……さ……」
振り下ろされたドア板と教卓の隣。
しぃちゃんは直立姿勢のまま、ゆっくりと首をこちらに傾けた。
ぎぎぎ、と音がしそうな、それはもう機械的な動きで。
- 25
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:47:43.26 ID:+8rXUn9O0
-
(* −゚) 「い……ぎ……」
「がががががっがっがあががががが
ががががガガガががガガガガがが
ががっがががががががががgggg」
ヽiリli;ο;ノi て 「ひぃっ!?」
从゚皿゚ilリル 「……」
その場でしばし痙攣し、奇声を発したのち。
うつろな表情のまま、長机の間を抜けてこちらに向かってくる。
从゚д゚;リル 「くっ、そおっ!」
とはいえ、教室内において移動するスペースは限られている。
僕は傍らの椅子をつかむと、
ふらふら迫るしぃちゃん目掛け、“
射出 ” した。
- 26
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:50:14.19 ID:+8rXUn9O0
-
が、彼女の反応は想像以上に早かった。
滑走する椅子を難なく両手でキャッチすると、
次の瞬間には、バスケットボールのパスさながら、こちらに投げ返してきたのだ。
Σ从 □ ;リル 「ぎゃぁあ!」
つまづきそうになりながら、辛うじてそれを避ける。
後方の棚から地球儀が弾き落とされ、椅子とともに床へ転がった。
スライダー
しぃちゃんに対し、正面からの “
滑走物攻撃 ” は逆効果だった。
ダメージどころか、足止めにもなりゃしないのだ。
わかりきっていたことじゃないか。
彼女はデパートにおいて、凶悪犯の打ち放ったガラスショーケースを、
そっくり投げて反撃したんだぞ。
ヽiリli;□;ノi 「しぃちゃん、やめて! お願い!」
从゚Ο゚ilリル 「逃げろ! いいから早く!」
教壇から女の子が叫んだ。
だが、しぃちゃんは彼女の声に反応を示すことなく、静かにこちらへ歩み寄る。
あくまでも狙いは僕だということなのか。
- 27
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:53:24.19 ID:+8rXUn9O0
-
从゚□゚ilリル 「西棟のほうに僕の仲間がいる!
そいつらを呼んできてくれ! 早く!」
ヽiリli;ο;ノi 「あ、あぅぅ……」
がたん、がたたん。
背もたれのない木製椅子をかきわけつつ、窓側へと移動する。
スパムちゃんは蒼い顔で何度も頷き、慌てて教室を出て行った。
从゚皿゚;リル 「くっ……」
僕も廊下へ逃げるつもりだが、あいにく後方のドアは棚で塞がれている。
つまり、ここから出るには、いま一度教室の前方へ引き返す他ないのだ。
正直なところ、半分追い詰められてしまったに等しい状況だ。
二列に並ぶ長机の間、教室中央のスペースを蟹歩きで移動する。
ここでどうにかして、しぃちゃんをまかなければ。
まかな、
从゚。゚リル 「ま?」 ブオン
- 29
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:56:14.17 ID:+8rXUn9O0
-
Σ从 ◇ ilリル そ 「うっひゃぁあああああ!!」 ガシャン
空を切る音に続き、もはや聞きなれた感もある窓ガラスの破砕音。
“ 長机そのものが ” 横薙ぎに振るわれ、投擲されたのだ。
咄嗟にしゃがんで避けたものの、
もしもスパムちゃんのほうから視線を戻すのが一瞬遅れていたら……。
僕はいま、胸のあたりから半身に分断されていたかも知れない。
恐ろしい、恐ろしすぎる。
気を抜くと死ぬ。 しぃちゃんの豪腕で、力任せに惨殺される!
从゚□゚;リル 「このぉッ!」
全力を注ぐんだ。 脱出という、ただ一つの目的に。
ならば、こいつを使うタイミングは今しかない。
僕はずっと握り締めていたペットボトルの蓋を外すと、
口の部分に人差し指を突っ込んだ。
- 31
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/22(日) 23:59:02.26 ID:+8rXUn9O0
-
微かにではあるが、指先へ痺れのような感覚が走る。
そのまま、別の長机に手を伸ばしていたしぃちゃん目掛け、放り投げた。
(*゚ -::) 「──う、ぁ?」
ボトルは、振り払おうとした彼女の左手を避けるように旋回し、
空中で、くるり、軌道をかえる。
ハイドロキネシス
トレース
从゚、゚#lル 「 “ 水を操る能力 ” の “
再現 ” ──!」
先ほど、女子トイレにおいて
自分の操れる 【 ニセモノ 】 の、効力・範囲を簡単に検証していたのが幸いした。
今はわかる。
ハイドロキネシスは、距離が近ければより多くの水量を、より精密に、“
操れる ”。
この距離 ・ この量なら辛うじて、全て
“ 制御可能 ” 。
動かし方のコツはつかんだ。
伸ばした腕を振り下ろすと、ボトルは急降下し、
しぃちゃんの頭で、ぽこん、と跳ねた。
Σ从'д`ilリル 「しょぼっ」
- 33
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:02:59.07 ID:3YlDuOTX0
-
(*゚−`)゙ 「な……に……?」
从゚、゚;リル 「まあ、端からダメージなんて期待しちゃいないけどさっ!」
そう、ペットボトルを投げた目的は殴打のためではない。
手首を返して精神を集中する。
僅かな圧迫感が右手にめぐる。
腕全体で感じる。 宙を漂う水の手ごたえを。
僕はタクトを振るうように、人差し指を宙で滑らせた。
──いけっ!
ボトルの口からうねるように水が飛び出し、
再び動き出そうとしたしぃちゃんの顔に注がれた。
(* − ) そ 「がぼ!?」
从゚皿゚リル 「っっりゃぁあ!」
続けざま、右手をいっぱいに開いて力をこめた。
水の塊がパラシュートさながら宙で広がり、彼女の顔面を覆うように静止する。
──ホールド。
(;* Ο ) 「もご……ぼがが!」
- 35
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:05:51.60 ID:3YlDuOTX0
-
怖いくらいに上手くいった。
以前、クーが我々に繰り出した “ 水のデスマスク
” 。
しぃちゃんの、苦悶に喘ぐ表情が、張り付いた水球の向こうに透けて見える。
【 ニセモノPSI 】 の効力は、オリジナルに比べて著しく劣る。
この至近距離、この量だからこそできる芸当だ。
もう2〜3メートルも離れたり、ちょっとでも気を抜こうものなら、即座に水は飛散してしまうだろう。
その上、この程度の水量ではすぐに掻き捨てられてしまうのがオチだ。
ハイドロキネシスで制御する水は、
ひとかたまりだと認識できなくなった時点で、能力の効果を失ってしまう。
ぐずぐずしている余裕はない。
足止め程度でいいのだ。
逃げるだけの時間稼ぎ。
从>、<;リル 「そぉい!」
右手は、水を “ ホールド ” したまま。
僕は左手で長机を押し、彼女の前方へ、“
滑らせる ” 。
ダメ押しだ。 この隙に逃げる。
長机は並ぶ椅子と机にぶつかって静止したものの、
少なくとも、しぃちゃんの通り道を遮ることには成功した。
- 37
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:08:33.95 ID:3YlDuOTX0
-
はずだった。
(*゚−::) 「──!」
ぱしゃり。
Σ从'。`;リル 「な!?」
その瞬間。
しぃちゃんの顔を覆っていた水が流れ落ち、彼女の上半身を濡らした。
何故だ。 突然、ハイドロキネシスの効力が……。
从゚д゚ilリル 「え? ええ!?」
精神力が途切れた?
いや、違う。
ま、さ、か。
同時にふたつの超能力は “ 再現 ”
できないのか!
- 39
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:11:18.68 ID:3YlDuOTX0
-
(;* − ) 「けほ、けほ……げほっ」
从゚□゚ilリル 「く、くっそおおお!」
なんて詰めが甘いんだ。
途中まで上手くいってたはずが。
肝心な部分を確かめることを忘れていたなんて……。
教卓前の隙間は、先ほどしぃちゃんが振り下ろしたドア板が邪魔して通れそうにない。
僕は前から二番目の長机に飛び乗ると、片方のドアが無くなったそこ──、
すなわち、教室右前方にある入り口へ向かい、しゃかしゃか移動する。
え
从゚゚、゚゚;リル ? 」
「「 」
だが、そこでぐらりと視界が揺れた。
- 40
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:14:15.91 ID:3YlDuOTX0
-
(*::−゚) 「──んんっ……」 グイン
「ああ!!?」
Σ从◎ロ◎ilリル
「あ」
「あ」
「ひゃ」
「う」
(:::: *゚)
しぃちゃんが、長机の端を掴み、持ち上げたためだった。
必死に天板の反対側にしがみつく。
彼女の体を支えに、長机がシーソーのような格好で傾き、浮き上がった。
(( 从 □ ilリル )) 「あばばばばあっあばっばああ」
まずい、まずい、まずいッ!!
彼女はこの程度の重量、ものともしない。
僕がその先に引っかかっていようと、そんなことは関係ない。
- 43
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:17:12.66 ID:3YlDuOTX0
-
ついさっき、彼女によって投擲された長机は、
ブーメランのように回転しながら窓ガラスを突き破っていった。
まじい。 やべえ。 こりゃちょっと振り回すなんてレベルじゃねーぞ。
長机ごと “ 投げられ ” ようものなら、絶対に無事ではすまない。
(*::−゚) 「──ふっ!」
逃げる間もなく。
すぐさま真横にベクトルが変換され。
それは、反動をつけるための “ 引き ”
だった。
僕はとっさに、教卓斜め上にある、吊り下げ式蛍光灯へと手を伸ばした。
从゚Ο゚ilリル 「うおおおおおお!?」
辛うじてぶら下がることに成功。
後ろへ反った瞬間、巨大な凶器が体の正面スレスレを、猛スピードで通過した。
ぶらん、ごつんと教卓に背中を打ちつけながら、
今の今まで乗っていた長机が、棚のほうへ吸い込まれていくさまを見た。
地響きとともに、教室の後部がむちゃくちゃに破壊されてゆく様子を、
宙ぶらりんのまま眺めていた。
- 45
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:20:13.14 ID:3YlDuOTX0
-
(:::::::*゚) 「ふぅ、ふぅ……」
Σ从゚皿゚ilリル 「ひいっ……!」
しぃちゃんもまた、肩で息をしつつそれを見ている。
もはや無敵だとばかり思っていたが、疲れを知らないというわけではないようだ。
(:::::::*゚) 「やっつ……けて、な……い?」
(( 从>皿<|lリル )) 「や、やめっ、話せばわかる、わかるからぁっ!」 ジタバタ
死亡フラグの立った雑魚キャラのような叫びをあげながら、僕は両脚をばたつかせた。
その時。
真下にあった長机が、足にぶつかって
“ 滑った ” 。
(*::−゚)彡 「──!」
从゚д゚;リル 「あっ」
(;* Ο ) そ 「かはっ!?」
- 46
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:23:12.58 ID:3YlDuOTX0
-
不意打ちだった。
僕にとっても、彼女にとっても想定外の一撃。
振り返ったところに机が激突し、しぃちゃんはたまらずその場に倒れ込んだ。
从 □ ;リル 「うおおおおお!」
チャンスだ。
体をひねって、教卓に引っかかったドア板へ背を乗せ、
まるで滑り台のようにして、入り口の方向へ飛び降りる。
Σ从 皿 ;リル 「うげっ」
そのまま格好よく着地できれば満点だったのだが、
やはり途中でバランスを崩し、ドア板ごと無様に床へずり落ちた。
跳ね起きると同時に、僕は命からがら廊下へ飛び出したのだった。
〜 〜 〜
- 47
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:26:12.97 ID:3YlDuOTX0
-
【ブーンサイド: 2F 西側教室棟 ・
階段付近 】
暗幕に覆われていた視聴覚室から出ると、
薄暗いはずの廊下は侵入当初より明るく感じられた。
歩きながら、ブーンはギコにさきほどの疑問をぶつけた。
( ^ω^) 「お、ちょっと聞きたいんだけどお」
(,,゚Д゚) 「あん?」
( ^ω^) 「それって、ギコが弾き飛ばしたんじゃないのかお?」
彼の視線を追ったギコは、
(,,゚Д゚) 「俺が?」
( ^ω^) 「お」
(,,;゚Д゚) 「いや、俺はなんもしてねーぞ。
なんかいきなり消えたような気がしたが……。
つーか、そのおかげであいつの体に触れずに済んだんだけどさ」
そう答え、手にしたカッターナイフをまじまじと眺め回す。
- 48
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:29:40.37 ID:3YlDuOTX0
-
(,,゚Д゚) 「ま、武器も手に入ったってことで、さ」
(; ^ω^) 「物騒なアイテムゲットだお」
ギコはくるりとカッターを回し、呟いた。
半ば冗談で言っているのだろうが、刃物を指先で弄ぶ姿は、妙に様になっている。
ブーンは頼もしさと不安の両方を感じた。
( ^ω^) 「ところで、こっからどうしようかお?」
適度に緊張がほぐれていたのだろう。
ふたたび階段の辺りまで戻ってくると、ブーンはのんびりとギコに問いかけた。
立ち止まったギコに対して、階段のほうへと視線を流し、
三階へ行くのか、この階を探すのか、といった選択を無言で促す。
(,,゚Д゚) 「二階を調べるほうがいいと思うが……なんなら、もう一度
“ 検索 ” してみるか?」
( ^ω^) 「ぜひお願いするお」
今更述べるまでもないことだが、旧校舎は広い。
仮に “ ちゃねらー ” が潜んでいたとしても、同じ場所に留まっているという確証はない。
相手が移動しているとすれば、闇雲に探索しても埒があかないし、
なにより “ 感染者 ” の脅威に晒される可能性も大きくなる。
- 51
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:32:36.06 ID:3YlDuOTX0
-
(,,-Д-) 「……」
異音を探るべく、ギコは深呼吸のあと、両耳へと精神を集中させる。
が、彼が目を閉じた、ちょうどその瞬間だった。
遠くのほうから、爆発でも起きたかのような音響が轟いたのは。
Σ(,,;゚Д゚) 「なっ!?」
Σ(; ゚ω゚) 「ぶひ」
二人は思わずその場に立ち竦んだ。
ギコが “ 検索 ” するまでもなく、ブーンの耳にもはっきりと伝わった、鳴動。
_,
(,,゚Д゚) 「廊下の奥……いや、上方向。 三階のどこかだ!」
(; ^ω^) 「何が起こっているんだお……?」
さらに。
音の発信源があると思われる三階のほうへ、視線を移した、
刹那の出来事だった。
〜 〜 〜
- 53
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:35:50.75 ID:3YlDuOTX0
-
【ドクミサイド: 3F 東教室棟 ・
廊下 】
廊下へ飛び出す際、下を向いてはっとした。
長机が振り回された時にかすめたのか、
ちょうどブラウスの胸部分が裂け、水着の濃紺が露出している。
从゚皿゚;リル 「ひぇぇ……」
あと数センチきょぬーだったら、僕の胸部はごっそり抉り取られていたかも知れない。
── デンジャラスすぎて、思わず笑いが漏れそうになった。
当然だが、あんな少女型モンスター相手に、
教室内で直接対決を挑むのは、自殺行為以外の何物でもない。
周りには、彼女の武器となりうるような学習機材がいくらでも存在する。
ああ。 僕がいま、ドクオの状態であったなら。
【 アンチサイ 】 が健在であったなら。
捨て身の覚悟で突進すれば、彼女の怪腕を無力化できたかも知れないのに!
いや、ダメか。
しぃちゃんは、 “ 感染 ” の被害者であり、体に触れることはできないんだった。
- 55
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:38:56.44 ID:3YlDuOTX0
-
从'□゚;リル 「ぐぅ……どっちだ!?」
“ 感染 ” する “ 精神攻撃 ” 。
いったい、元凶であるチャネラーの目的ってなんなんだ。
本当にそれは実在するのか。
いるとすれば、この旧校舎の、どこに潜んでいるというのだ。
从'д`;リル 「下に行くべきか……? いや、でも」
右、すなわち階段の方向へと目を向ける。
暗くてはっきりとは見えないものの、奥にある特別教室の入り口が、
激突したピアノのせいで凄まじい状態になっているのはわかった。
今はブーン達と合流することが第一目的だ。
スパムちゃんもそちらへ向かわせたことだし、西棟方向へ戻ったほうがいいだろう。
从゚、゚リル 「!」
そう結論づけ、左へ走り出そうとした刹那、事態認識の甘さを痛感させられた。
──ああ、僕はホンモノの大バカだ。
- 57
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:42:14.69 ID:3YlDuOTX0
-
差し当たっての第一目的は、
チャネラーでもブーン達でもなく、『
逃げること 』 に他ならない。
瞬間的な迷いは、命取りだった。
小さな掛け声のあと、教室の奥から高速で何かが飛んできたのだ。
咄嗟に腕を上げたものの、そんなものが防御の意味を為すはずもなく。
从 □ リル て 「ぐぁ!?」
全身を揺さぶる衝撃。
僕は勢いよくその場に倒れ伏した。
从゚□`;リル 「痛づっ……ぐ……」
壁を支えにどうにか起き上がる。
肩から腰にかけて鋭い痛みが迸った。
見れば、近くに木製の椅子が転がっている。
──とうとう喰らってしまった。
- 58
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:45:23.03 ID:3YlDuOTX0
-
いや、椅子程度で済んだのは不幸中の幸いだった。
黒板、ドア、グランドピアノ……。
他の飛び道具は全てが超必殺技で、一投のもとに相手を葬り去る威力を備えている。
頼みの綱である “ 水 ” を使い切り、ペットボトルを失ったいま、
僕には最初から、『 命の限り逃げる 』
以外の選択肢など残されていなかったのだ。
(*::−::) 「待……ち、なさ……」
从 皿 ;リル 「うああああああああ!!」
ダッ
二度目は、
ない。
触れたら終わり。
喰らったら致命傷。
捕まれば、ジ・エンド。
狂 競 協 凶
騒 走 奏 葬 。
生死をかけた、旧校舎での鬼ごっこ。
- 59
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:48:40.72 ID:3YlDuOTX0
-
【3F 東教室棟 ・ 階段付近 】
从'□゚;リル 「うぐ……くっ」
休みなく肩を襲う鈍痛。 腰も、脇腹も激しく疼く。
わずか数メートルが限りなく遠いものに感じられる。
歯を食いしばって走り、ようやく階段のある曲がり角に着いたときだった。
壁に手をかけ、痛みによろめいた瞬間、頭上を何かが通過した。
三二─
从゚、゚リル 「えっ」
<ゴガシャア 从゚ ゚'ilル
直後、前方より激しいクラッシュ音が響き渡り、大小の木片が四方へ弾け飛ぶ。
Σ从 ◇ilリル ノノ 「ひいいいいいい!?」
今回の凶器は、さっきの教室にあったサイズの大きい教卓だった。
あぶねええええ!
いま前屈みになっていなかったら、ヘタすりゃ後頭部から丸々持って行かれていた……!
- 62
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:52:29.26 ID:3YlDuOTX0
-
(*:::−゚) 「待……てぇ!!」
しぃちゃんは、先刻までの緩慢な動きが嘘のように、軽やかに廊下を疾走する。
闇を駆る破壊の妖精。
両の腕(かいな)に稀有な力を宿す “
金剛力(ハーキュリアン) ” 。
これまでは、重量のある凶器のせいで早く走れなかったのだろうか?
なんにせよ、事態は思った以上にマズい方向に向かっている。
从゚皿`;リル 「痛っ……ぐぅうっ!」
先ほどのダメージもあって、僕のほうはあまり機敏に動けそうにはない。
このままじゃ、追いつかれてしまうのは時間の問題だ。
──捕まれば、死。
僕はすぐさま身を翻し、手すりに手をかけた。
- 65
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 00:56:29.94 ID:3YlDuOTX0
-
【2F 東教室棟 ・ 階段付近 】
階段を一段飛ばしに駆け下りてゆく。
「うぅっ」 「くっ」 「あがっ……!」
着地のたび、体に電流のような衝撃が迸った。
漏れ出る苦痛の息は止めようもない。
骨は折れていないと思うが……いや、そう信じたい。
間もなく二階へ辿り着いた。
東棟から中央、三階を経由してここに戻って来た……、
ということはつまり、東棟の二〜三階を、ぐるっと一周してきたということになる。
从 皿 ;リル 「くぁ……っっ痛ぇ」
そして僕は、ここで即座に決断しなければならない。
右は旧校舎中央を経由し、西棟へ繋がる廊下。
左奥には行き止まりに特別教室。
後ろはそのまま一階へ続く階段。
おそらくは命運を分ける、最後の選択肢。
どうするのが最良だ。
どこへ逃げるのが正解なんだ。
- 66
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:00:13.88 ID:3YlDuOTX0
-
从゚、゚;リル 「──!!」
だが、目の前を四角く照らす明かりを見た瞬間、決心がついた。
三階にいたときからおぼろげに考えていた、第四の選択肢。
漏れ出ずるは人工的な白色。
それはかそけき希望の光。
不思議な感覚だった。
背後にはもうすぐそこに死が迫っているというのに。
心臓は飛び出しそうなほどバクバクいっているのに。
これまでで最も、のっぴきならない状況に追い込まれているのに。
今の僕は、本当に僕自身なのか?
テンションはフルスロットル。 けれど、視界はクリアーだ。
脳のどこかに落ち着き払った自分がいる。
──人は、
恐ろしいほどに冷静な “ 誰か ” が、指令を下した。
- 67
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:03:00.95 ID:3YlDuOTX0
-
从 、 リル (これ以上は逃げられない。
戦うしか、ない)
今の僕にはその力がある。
例えそれが勘違いでも。 驕りと呼ばれても。
──特別な力を手にすれば
ふと、昔読んだ本の一節を思い出した。
力は力を生かせる場を求めている。
そして、その流れで世界は動いているのだ。
後方から、だぁん、と大きな音が響いた。
(* − ) 「──」
手すりを乗り越えてジャンプしたのだろう。
しぃちゃんは片手を着いた姿勢で、踊り場の端に膝立ちしていた。
- 69
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:05:44.86 ID:3YlDuOTX0
-
──行使せずには いられない
んなショートカット、有りかよ。
というか、まだそんな体力が残っていたのか。
从 o リル 「──う」
从゚□゚;リル 「おおおおおっ!」
一か八かの賭けだった。
立ち上がろうとする彼女の姿を横目に、
僕は勢いよく、その場所へ飛び込んだ。
〜 〜 〜
- 70
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:08:24.16 ID:3YlDuOTX0
-
【しぃサイド: 2F 東側教室棟 ・
????】
猫塚しぃの魂は、深い闇の狭間を彷徨っていた。
彼女が見ている世界は、現実と虚像の入り混じった、暗く長い迷路だった。
そこは旧校舎であって旧校舎ではない。
恐怖と憎悪の根源である 【 闇の怪物 】
が支配する場所。
(* − ) 「はぁ、はぁ、はっ……」
彼女を追い込んでいる闇は、彼女の両親を殺害した【
何者か 】 だった。
それが誰なのかはわからないし、そもそも相手は人間の形すらしていない。
だが。
焼け爛れ、ところどころ炭化したその腕は。
喉元より搾り出すうめき声は。 赤い血をしたたらせて助けを乞う姿は。
あの日、燃え盛る炎の中で目の当たりにした、母の面影を──。
- 71
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:12:13.40 ID:3YlDuOTX0
- _,
(;* −::) 「ゆ……るさ……な……い」
怪物はただ、彼女の敵として、打ち倒さなければならない巨悪として、そこに存在していた。
機敏に逃げ回りながらも、右往左往する彼女のことをあざ笑っている。
汚い言葉で耳元へ囁きかけ、執拗に、狡猾にその心を追い詰めてゆくのだ。
恐ろしくてたまらない。
けれど、奴を逃がしてはならないのだ。
いま、ここでこの怪物を倒さなければ。
おとうさんが。
おかあさんが。
(*;−;) 「ぁ……あああああ!!」
──殺される!
駆り立てるのは恐怖。
両親を殺され、家を焼かれた過去を持つ少女の、心を蝕む闇の部分。
二階へ降り立ったしぃは、ふらふらとそこに近づき、扉に手をかけた。
- 72
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:15:38.57 ID:3YlDuOTX0
-
(::* −゚) 「!?」
途端に感じる眩しさに顔を覆った。
室内は明るいが、視界はさほど明瞭ではない。
もとより彼女は、絶え間なき歪みの世界にいるのだが、
この部屋はそれに輪をかけて見通しが悪く感じられる。
そして、何かひっきりなしに雑音が響いている。
生理的に受け入れ難い、どちらかというと不快音。
これは、なに。
あたまがいたいよ。
なんのおとなの? おかあさん。
怪物の姿は見えない。
けれど、この場所のどこかに居るのは間違いない。
ここで仕留める。
おとうさんを、おかあさんを、まもるんだ。
- 73
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:19:55.36 ID:3YlDuOTX0
-
(* − ) 「あぅ……ぁあぁ」
しぃは壁にもたれ、ぎょろりと目を光らせた。
室内には一見して武器になりそうなものは見当たらない。
またドア板を外す?
──いや。
彼女の超能力は、単純に筋力を増大させるようなものではなく、重力操作系の
“ 何か ” である。
黒板の止め釘は錆びていたし、教室のドアはレールのついたスライド式だったので、
持ち上げるということが、必然的に取り外すことへと結びついた。
だが、このドアのような開き戸を、蝶番を破壊して取り外すのは、
それらに比べて、ほんの少しではあるが、骨の折れる作業だ。
朦朧とした意識下にありながら、彼女はわずかな躊躇いに足を止めていた。
(*:::−゚) 「──!」
──中にある物で攻撃できれば。
そう考えた直後のことだった。
視線の先、部屋の奥にあるドアがゆっくりと開いてゆく。
そこでしぃは思わず息を飲んだ。
ドアの隙間から、怪物のにごった瞳が覗いている。
ぐずぐずに溶け、赤黒く崩れかかった顔が、徐々に徐々に露わになる。
- 74
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:23:07.45 ID:3YlDuOTX0
-
異形の怪物は醜悪な笑みを浮かべていた。
続けて、泥だらけのブラシに撫でられたような、おぞましい声が耳元で響く。
コロシテヤル。
オマエモ。
オマエノキョウダイモ。
オマエノリョウシンモ。
ミンナコロス。
ヒトリノコラズコロス。
シネ。
ミナゴロシ。
シネ。
シネ。
(*il|i− ) 「あ……あぁ……!!」
ソノニクヲ クイチギッテ。チギッテギッテギッテ。
ハイニナルマデ モヤシテヤル。
テヤル。
ヤシテヤル。
シテヤルモヤシテヤルシネ。 モエテシネ。 ノタレジネ。
- 75
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:25:23.15 ID:3YlDuOTX0
-
ヒヒヒヒ。
ヒヒヒヒヒヒヒッヒヒヒヒヒ。
ヒヒ。シネ。シネ。ミナゴロシ。
ロシ。コロシゴロコロシ。 シネシネグチャグチャニナッテシネ──。
(*;−;) 「あああぁあああああ!!!」
少し先の床に何かがある。
目の前が歪んで判然としないが、金属製のホースリールのようだ。
これを叩きつける。
怪物に叩きつけて、やっつける。
やっつけて、なくさなければならない。
おかあさんをおそう脅威を、わたしをころそうとする悪鬼を、
完全にこの世界から消し去らなければならない。
みんなをまもらなければ!
しぃの精神はこの上なく磨耗していた。
彼女は泣き叫びながら、その場所にぐっと足を踏み入れた。
- 76
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:27:36.66 ID:3YlDuOTX0
-
(*;−;) 「!?」
だがすぐ、右足首に圧迫感を感じ取り、つんのめるようにしてその歩みを止める。
いや、静止せざるを得なかった。
──というよりも。
足に根が生えたかのように、動かなくなってしまったのだ。
〜 〜 〜
- 77
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:29:26.21 ID:3YlDuOTX0
-
【ドクミサイド: 2F 東側教室棟 ・
女子トイレ】
从゚□゚;リル 「くっ……おおおおお!」
膝立ちの姿勢で、しぃちゃんの足首を
“ 掴んだ ” 僕は、
握る両手にさらなる力を込めた。
正気を失っているはずのしぃちゃんが、思ったより慎重だった事には肝を冷やした。
彼女が “ タイル張りの部分まで足を踏み入れること
” が、
奇襲成功の絶対条件だったからだ。
从>皿<;リル 「ふんぬうううううう──!」
本当に一か八かだった。
個室から出た以上、僕としぃちゃんの間に遮蔽物などない。
トイレの入り口から有無を言わさず物を投げられていたら、
個室ごと潰されていたら、為す術もなくジ・エンド。
(;* − ) 「な、なっ……!?」
- 78
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:31:34.64 ID:3YlDuOTX0
-
入り口横の洗面台、壊れた蛇口からは絶えず水が噴き出している。
異常な水圧で、かつ滅茶苦茶にそこらを乱舞していた。
さらにトイレの奥、清掃用具入れに設置された水道からも、ホースで水を撒き散らしている。
つまり。
女子トイレの内部は、壁といわず天井といわず水浸し状態。
そして当然、タイル張りの床上も。
排水溝はハンカチで塞いだ上に “
ホールド ” している。
そう。
僕は、タイル部分を薄く浸す、床に溜まった水を介して、
しぃちゃんの足首を “ 掴み ” 、拘束したのだった。
从 、 ;リル 「ぐっ……、くっ」
鈍い痛みが半身を襲ったが、その程度で集中を切らすつもりはない。
精神は研ぎ澄まされている。
僕の胸中は、奇妙なまでに “ できる ”
という自信で満ちている。
水道水で溢れかえった狭いトイレは、
【 ハイドロキネシス 】 の独壇場。
ホースリールを放置したのは、中へ誘導するための、一種のおとりだ。
いま、彼女の手の届く範囲に、投擲可能な機材はない。
地形効果的に、こちらへ大きく分がある。
この手は絶対にはずさない。
- 79
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:33:24.68 ID:3YlDuOTX0
-
もともと、中空における水のコントロールというものには、限界がある。
おまけに僕の 【 水を操る能力(ハイドロキネシス)
】 は、ニセモノなのだ。
射程距離はひどく短く、水の塊に及ばせることのできる力も、たかが知れたもの。
辛うじて宙を動かす程度が精一杯。
少し離れれば、攻撃はおろか、その制御すら困難になる。
そんな程度の “ 再現性 ” 。
ただし、だ。
水そのものを介してさえいれば。
コントロールする対象の水が、ひとかたまりとして繋がっていれば、
そしてそれが相手に接触しているのであれば、話は別だ。
僕が水に直接触れている限りは、
ある程度の距離があっても、“
制御可能 ” なのだ。
及ぼすことのできる力も、宙に浮かせる場合の比ではない。
- 80
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:34:38.80 ID:3YlDuOTX0
-
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
川 ゚ -゚) 「逃がさんと言っちょるだろうがー!」
('A`;) 「ひぃぃぃぃいいい!?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
川原でクーがやってのけた “ 水の触手
” 。
川の流れに右手を突っ込むことで、
十メートル近くも離れた場所から、僕を無理やり拘束した、アレだ。
流石にあんな、海坊主のようなシロモノを作り出すことはできないが……。
水を通して “ 足を掴む ” 程度の水圧なら、作り出せるのだ。
从>□<リル 「こなくそおおおお───ッ!!」
水場において、【 ハイドロキネシス 】
は真価を発揮する。
量があるほど、水は強力無比な武器となる。
- 81
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 01:36:16.87 ID:3YlDuOTX0
-
(;* − ) 「ぐ……ぅっ」
しぃちゃんの腕がドアへと伸びる。
彼女の怪力はイヤというほど味わわされた。
ドア板を掴まれたら、どんな反撃があるかわからない。
从゚△゚;リル 「させないッ!」
まるで地引網を引くかのごとく、僕は足元の水を、力いっぱい
“ 引っ張り上げた ” 。
(;* Ο ) 「きゃっ!?」
僕の手の動きにあわせて、
しぃちゃんの足を拘束した水が、ぐい、と引き絞られ。
勢いのまま、彼女の体が後方に傾く。
文字通り、両足を突然掬われた彼女は、背中を打ちつけながらその場に転倒した。
浸かった肘の部分で、水が枷となって腕を拘束する。
これは単純な力では外れない……はずだ。
もともと水浸しに近い状態だったが、それに加えて、
洗面台、そして奥のホースから、尋常ではない勢いで水が撒き散らされているトイレ内の床は、
今や靴がぎりぎり浸かるほどの深さまで水が溜まっている。
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 04:53:07.94 ID:3YlDuOTX0
-
从 、 リル 「しぃちゃん──ゴメン」
キミの目にはいま、どのような世界が広がっているの?
僕を襲おうとしたことが、苦しみの果ての行為であるのなら。
あの涙の結果に過ぎないのだとしたら。
ほんの少しだけ、待っていてほしい。
助ける方法が見つかるまでの辛抱だから。
「ぶはっ、た、たすげ、あ、あああ」
飛沫を跳ね上げながら、床の上でもがき苦しんでいるしぃちゃん。
彼女の周囲が波打ち、その体を包むように水が盛り上がってゆく。
从 □#リル 「う あ あ あ あ あ あ あ !!」
力を込めた。
仰向けのしぃちゃんの全身へ、覆いかぶさるように、小規模な津波が襲い掛かった。
(ili* Ο ) そ 「ごぼぉっ! がぼ、ごぼぼぼ……!」
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 04:54:57.37 ID:3YlDuOTX0
-
床に溜まった水は、そのほとんどが彼女の周りに集まり、
漣を形成して、引いては押し返す。
その全てを “ 制御 ”
できているわけではない。
見えない “ 水圧 ” の薄い壁を作り出し、その膜をあちら側に移動させることで、
ワイパーのように彼女の周囲へ寄せ集めているのだ。
ほどなく、倒れたしぃちゃんの上半身を包むように、奇妙な立体プールが出来上がった。
彼女の頭部は完全に、深い水の底へ沈み込んだ。
「ぐ……ぐぼ、げほ、が……!」
激しく暴れ回るしぃちゃんを攻撃し続けるのは、正直言って辛かった。
体力的な意味でもそうだが、
水圧を通して、その苦しみが嫌になるほど伝わってきたから。
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 04:56:26.83 ID:3YlDuOTX0
-
「……ぶはっ! げほ、げほ、た、たずげ」
僕は歯を食いしばって痛みをこらえた。
体の痛みと、心の痛み。
「たすけて! おかあ……さ! ごぼっ」
両手を浸す水はとても冷たかった。
頬を伝うしずくの熱さとは、裏腹に。
===
==
=
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 04:57:55.96 ID:3YlDuOTX0
-
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 05:03:33.48 ID:3YlDuOTX0
-
【2F 東側教室棟 ・ 廊下】
十数分後。
力を使い果たした僕は、壁に手をつきながら、ふらふら廊下をさまよっていた。
从 、 ;リル 「はぁ、はふ、ふぅ……」
ずぶ濡れの背に圧し掛かるのは、疲労ばかりではない。
僕の心は罪悪感と無力感に押しつぶされそうになっていた。
ちょっと気を抜けば、そのまま床にずるずるへたり込んでしまいそうだ。
しぃちゃんを攻撃したあと、僕はすぐに彼女のもとへと駆け寄った。
さすがに “ 溺れさせる ”
のはまずいと思い、水圧による殴打に切り替えた直後のことだった。
もちろん、これだけでも充分に酷いとは思うけれど……。
ほぼ一撃での決着。
水中において、しぃちゃんが陥落するのはあっという間だった。
壊れた水道からは、もはや止め処なく水が溢れてきていた。
当然ながら、彼女をこのままトイレ内に放置しておくわけにはいかない。
とはいえ、彼女に直接触れることはできない。
僕はゴムホースと “ 水 ” を使って、トイレから彼女を引っ張り出した。
正直なところ、これが実に骨の折れる作業だった。
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 05:06:55.23 ID:3YlDuOTX0
-
しぃちゃんは水を多量に飲んでおり、それこそ人口呼吸でもしなきゃならないかと、
内心焦りまくっていたのだが、幸い大事には至らなかった。
廊下の壁にもたれさせたところで、彼女は激しく咽び、水を吐き出した。
……だというのに、背中をさすってやることすらできない自分が、歯痒くて仕方なかったが。
从 、 ;リル 「……」
しばらく咳き込んだのち。
彼女は、震える唇から小さく言葉を漏らしたのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(illi − ) 「ぅ……うう……」
从゚、゚リル 「!」
『 ど……くお……さん? 』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ふたたび脱力したしぃちゃんを前に、
僕がなんとも言えない想いに駆られたのは、言うまでもない。
いちおう、つーに対しても呼びかけてみたが、返答はなく。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 05:09:38.92 ID:3YlDuOTX0
-
さすがにしぃちゃんを連れてゆくことは出来なかった。
“ 感染 ” の危険性とは関係なく、背負って歩く体力そのものが残っていなかった。
紙のように白い顔をしたしぃちゃんに
『 必ず助けにくる 』 と言い残すと、
僕は重い体を奮い立たせ、
そうして、今に至るというわけだ。
ムダに格好つけてはみたものの、こっちはもはやボロボロの状態だし、
肝心の台詞も、彼女に聞こえてはいなかっただろうけど。
- 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 05:13:21.26 ID:3YlDuOTX0
-
【2F 中央棟 ・ 階段付近】
角を曲がり、しばし壁伝いに歩くと、階段のある中央ホールが見えてきた。
スパムと名乗った女の子は、無事にギコ達と合流できたのだろうか。
保健室の霊がどうこう言ってたが、そこへ向かえば、何か解決の糸口でも見つかるのか。
从゚、`;リル 「はぁ、はっ……ふぁ」
そういえばこの先の階段は、しぃちゃんから逃げる際、“
感染者 ” たちに遭遇した場所である。
奴らが三階へ追ってきたような様子はなかった。 ならばいったいどこへ向かったのだろう。
ブーン達は無事なのか? とにかく西棟に向かえば会えるだろうか──。
結論は出ない。 しかし、ふたたび三階へ上るのは御免被りたい。
やはり西棟へ向かうべきか、それとも一度校舎から出るほうが利口か。
逡巡しつつも、今の僕にはただ、機械的に足を動かすことしかできない。
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 05:15:12.21 ID:3YlDuOTX0
-
壁から手を離し、肩を押さえながらそちらへ向かおうとしたときのことだった。
从'。`;リル 「!」
中央階段の曲がり角から、見覚えのある人影がふらりと現れるのが見えた。
ああ、よかった。
やっと見つけた。
ひとつ安堵の溜め息をつくと、僕は覚束ない足取りのまま、そちらへ歩を進めた。
〜 〜 〜
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 05:20:22.57 ID:3YlDuOTX0
-
【ブーンサイド: 2F 西側教室棟 ・
階段付近 】
『 ああ、よ……かったぁ 』
(,,゚Д゚) 「へ?」
三階を見上げていた彼にとっては、まさに不意打ちも不意打ちだった。
(; ^ω^) 「お……? あっ」
廊下の奥より唐突に誰かが躍り出た。
かと思うと、ギコの背中から勢いよく両腕を絡ませたのだ。
人影はそのまま、後ろから抱きすくめるようにして、彼に体をよせる。
(,,;゚Д゚) 「なっ」
ギコは仰天して視線を落とした。
その瞬間、ブラウスの袖が鞭のようにしなって、彼の胸を拘束する。
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 05:23:44.02 ID:3YlDuOTX0
-
Σ(,, Д ) 「 」
むにゅ。
。 。
/ /
(,, Д )
絡ませた腕から体温が伝わると同時に、
彼の背中に、丸く、柔らかな、ふたつのふくらみが押し当てられた。
Σ(; ^ω^) 「ちょっ」
Σ(;,,*◎Д◎) 「ど、ど、どどド度怒奴、ドクミちゃん!?」
『 やっと……見つけたぁ…… 』
ギコは驚きに体を強張らせる。
身じろぐと、肩甲骨の下にそれが擦り付けられ、マシュマロの弾力で彼の背を押し返す。
(,,*゚゚Д゚゚) 「お、お、おおおおおお」
- 115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 05:27:29.76 ID:3YlDuOTX0
-
(((,,* Дi))) (お、思ってたより── な い !)
フニフニ
女の子の腕が、ぎゅう、とギコの体を締め付けた。
温かさと柔らかさが渾然一体となって、脳をとろかしてゆく。
(;,,* Д )::,`;:゙;`;,`;:゙;`; (……けど、これ、これはぁああぁ)
ブバババババ
カッターが音を立てて床に落下した。
無論、今のギコにとってはそんな瑣末事なぞ、論外、埒外、問題外。
祭りだ。
太鼓だ。
手拍子だ。
皆の衆、笛を吹きならせ。
ハイパーおっぱいタイムのはじまりだ……!
(ふおおおおおおお!!!!!)
──彼は全霊・全サイキックパワーをもって、背中の二点へその神経を集中させた。
〜 〜 〜
- 117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 05:30:51.79 ID:3YlDuOTX0
-
【ドクミサイド: 2F 中央階段付近
】
从゚□゚ilリル 「す、スパムちゃ──!」
“ 彼ら ” の動きは早かった。
階段のほうから後ずさりで現れたスパム。
彼女の逃げ場を塞ぐようにして、複数の影が、あっという間に廊下へ踊り出る。
::ヽiリli;д;ノi:: 「い、いやぁああぁ」
あまりにも出し抜けで、あまりに異様な光景が、眼前に展開された。
血の気の引いた彼女を、こちらも怯えた表情で取り囲んでゆく生徒たち。
男子生徒が三人、女子生徒がふたりの、計五人。
皆一様に挙動がおかしい。
この距離においても一目でわかる。
やつら、“ 感染者 ” だ。
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 05:34:05.80 ID:3YlDuOTX0
-
从゚Ο゚;リル 「ちょっ、お前ら何を……」
かつん、かつん、かつん。
从゚□゚ilリル 「──ッ!?」
そしてすぐに、彼らの後からもう一つの影が姿を現した。
猫背気味の異様な風体ではあるが、しっかりと、悠然たる足取り。
周りの “ 感染者 ” たちとは明らかに様子が異なる。
細長い影は、壁に背をぶつけたスパムちゃんを睨めつけるようにして、
一歩一歩彼女のもとへ詰め寄ってゆく。
川::川川 「……」
窓からの明かりがその輪郭を浮かび上がらせる。
一見したところ、女生徒だ。
膝を覆う丈の長いスカート。 そして、腰まで届くほどの黒髪を前後に垂らしている。
ゆらゆらとスパムちゃんへ迫るそのシルエットは、不気味以外に表現のしようがない。
- 124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 06:00:14.78 ID:3YlDuOTX0
-
川::川川
かつん。
川::: ゚リ川 「 だ れ 」
Σ从゚□゚;リル 「ひぅ……」
廊下の中心までくると、女生徒は首だけ曲げて、こちらへ顔を向けた。
“ 感染者 ” たちの呻き声をBGMに、長い髪に隠された片目がぎょろりと光る。
川::: ゚リ川 「……見るな」
从゚、゚;リル 「……き、キミは、まさか」
川:д゚'川 「……ロス ……ッチヲ」
(( 从 。ilリル 「!?」
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 06:03:44.91 ID:3YlDuOTX0
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肌が俄かに粟立つのを感じた。
怪異の隙間から覗く、深淵の如き瞳。
その相貌を目の当たりにした瞬間、即座に理解できたから。
彼女こそ、この事態の元凶──、
『 コ ッ チヲ ル ナ 』
ミ
黒幕の “ チャネラー ” 。
“ 感染能力者 ” なのだと。
〜 〜 〜
- 126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 06:06:20.95 ID:3YlDuOTX0
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【ブーンサイド: 2F 西側教室棟 ・
廊下 】
一方、ブーンは目の前の事象を、ようやく認識しようとしていた。
(illi ゚ω゚) 「ぎ……ギコ、お」
顔面蒼白でわななくギコと、彼を後方から抱きしめる、ひとりの女の子。
大方想像通りではあろうが──。
彼女は当然ながら、ギコの想定する相手ではなかった。
(((,, Д ))) 「ぐっ、ああ、ああああ」
(; ゚ω゚) 「だ、大丈夫かお!? しっかりするお!」
- 127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 06:09:14.66 ID:3YlDuOTX0
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o川*;ー;)o 「ギコぉぉ……」
残念──。
(,,ili゚Д゚) 「ひ、ひっ、ひッ」
o川*;д;)o 「こぁいよぉ……!
し、死体が追いかけてくるよぉ……!」
キューちゃん
“ 感 染 者 ” の、おっぱいでした──。
(; ゚ω゚) 「きゅ、キューちゃん! ギコを離すんだお!」
o川*;д;)o 「たすけてぇ……! ひっぐ、食べられちゃうよ……!」
::(,,illi゚Д゚)ノ:: 「ぶ、ブーン、行けっ……早く……!」
おぼろな光に晒され、ギコの顔は見る見るうちに青ざめてゆく。
回された腕を解くと、口元を引き攣らせながら、苦しそうに声を絞り出した。
- 128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 06:13:19.93 ID:3YlDuOTX0
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(,,illi Д ) 「俺に構わ……ず……」
(illi ゚ω゚)))) 「あう、あううう」
o川*;д;)o 「ない……とうくん、うぐっ、だずげでよう」
ギコから突き放されたナオは、
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ブーンのほうへと両腕を伸ばす。
(illi ω ) 「お、おおおお──!!」
触れてしまえば、“ 感染 ”
はまぬがれない。
彼らを助けることができなくなる。
ブーンは短い雄叫びを上げると、廊下の奥へ向かって駆け出していった。
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 06:16:22.29 ID:3YlDuOTX0
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三(illi ;ω;) 「ぶひ、うう、あうううう……」
走る、走る。 ひたすらに走る。
汗を振りまき、何度も何度もつんのめりながら。
「あああああぁあああ……!」
後方にて木霊する、友人たちの悲痛な絶叫を、振り切るために。
- 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/23(月) 06:18:16.16 ID:3YlDuOTX0
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── 悪夢の夜は続く。
( ;ω;) 「──────!!」 从゚□゚iliリル
恐怖は伝播する。
妄想は肥大化する。
怨嗟の渦潮が、螺旋状に加速してゆく。
(続く)
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