- 1
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:14:25.10 ID:yiV/HNDn0
-
さやかな月明かり 蒼昏き影を浮かせ
暗がりに滲む瘴気 截然と 映し出す
- 3
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:17:51.69 ID:yiV/HNDn0
-
繋ぐ鬼は何処
- 5
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:22:28.80 ID:yiV/HNDn0
-
〜 〜 〜
VIP学園に着いた時には、あたりはすっかり暗くなっていた。
从□ ;リル 「はぁ、はひ、ひぃ……」
正門から十数メートル離れた路上、傍らの壁にもたれて荒い息を整える。
どこからともなく聞こえる断続的な犬の鳴き声。
街灯の照らす領域は狭く、心もとない。
( ; ゚ω゚) 「ぶひ……ふひっ」 ドサ
そんな僕の後方から、ブーンがふらふらと現れた……
かと思うと、そのまま道端に倒れ込んだ。
いくら急いでいたとはいえ、さすがにこの距離をマラソンするのはやりすぎた。
以前にやって来た時とは異なり、周囲には疎らではあるがまだ人通りがある。
幾許かの安心感はあるものの、
事件の仔細について何ひとつ把握しないまま飛び出してきた関係上、
胸のもやもやは拭えそうになかった。
- 6
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:24:23.17 ID:yiV/HNDn0
-
从'△`;リル 「……ふはぁ」
わかっているのはただひとつ。
これからまた我々は “ チャネラー ”
絡みの何かに巻き込まれるのだ、という事実だけ。
にじむ汗をハンカチで拭うと、潰れたまんじゅうのように歩道にうつ伏せる肉塊へ呼びかける。
从'。`;リル 「ぶ、ブーン、ギコに連絡を取ってみてくれ」
::( ; ゚ω゚)つ【゚】:: 「ふひっ、はひっ、ぶふっ」
ブーンは未だ息を切らせたまま、ぷるぷる震える腕で携帯を差し出した。
できればブーンのほうから電話して欲しいのだが……。
ううむ、こりゃダメっぽい。 復活には今しばらくかかりそうだ。
諦めて自分の携帯を取り出し、メモリを漁ろうとした、ちょうどその時のことだった。
「ちょ……おい、ブーン!」
薄闇の先から覚えのある声が聞こえ。
同時に、小柄な影が走ってくるのが見えた。
- 7
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:26:26.77 ID:yiV/HNDn0
-
(,,;゚Д゚) 「おま、ひょっとしてもう……!?」
从゚、゚;リル 「!」
それは他でもない、我々が探していた人物。
倒れ伏すブーンのもとへ駆け寄り、ギコは目を瞬かせる。
そのうち彼は、肉塊を挟んで向かいに立つ僕に気づき、視線を向けた。
(,,゚Д゚) 「ん?」
从'。`リル 「お」
(,,゚Д゚)
从'ヮ`;リル 「ど、ども〜……」
(,,゚Д゚)
Σ(,,;◎Д◎) 「でぇっ! ど、ドクミちゃんんん!?」
……嗚呼、ふたたびその名で呼ばれる時が来ようとは。
心の中で溜め息をつきながら、驚愕する彼へ小さく手を振った。
- 8
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:28:21.78 ID:yiV/HNDn0
-
(,,;゚Д゚) 「なっ? えっ? なんで?? どうして???」
从'、`;リル 「その……ドクオの代わりにね、うん」
( ; ^ω^) 「おっ。 ニーチャンは体調不良で連れてこれなかったお。 すまんお」
疑問符いっぱいのギコに対し、ブーンが起き上がりながら口を挟んだ。
(,,゚Д゚) 「体調不良って、あのドクオさんが? 風邪か?」
( ^ω^) 「たぶんドー○ーをこじらせすぎたんだお」
从'。`#ル 「うるさいっての」
Σ(,,;゚Д゚) 「ってかブーン! お前この子と知り合いなのか!? なあ!?」
復活も束の間。
首を絞めつつ 「説明しろ!」 と迫るギコに、
ヒキガエルのような声になりながら、ブーンは自分たちの遠い親戚であることを伝えた。
……まあ、咄嗟の作り話としては上出来だろう。
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:33:53.27 ID:yiV/HNDn0
-
从'、`;リル 「あーその……そんなわけで、役に立たないだろうけどスンマセンネホント」
(,,*゚Д゚) 「とんでもなっ!
いやそのっ! ま、また会えるなんて思ってもみな、あ、あはは!!」
从'。`;リル 「ええそりゃもうこっちの台詞ですハイホント」
(,,*゚Д゚) 「まさっ、まさか君がこのガッコの生徒で、
えと、あの、下級生だったなんて!
お、俺、全然知らなかったからさ!」
从゚、゚;リル 「へ?」
ちょっと待て。
学園はともかくとして、下級生っていったいどこ情報だよ。
::(i||i^ω^)つ:: 「ニー……じゃな……ど、ドク、みちゃ……」
死にかけのブーンが、震える手で自分の襟元を引っ張ってみせた。
……ああ、わかった。 リボンか。
VIP学園の女子制服は、学年によってリボンの色が違うのだ。
- 10
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:35:35.36 ID:yiV/HNDn0
-
从'皿`;リル (く、クーの奴……)
(,,*゚Д゚) 「あの、ところでドクミちゃん、苗字はなんていうの?」
そりゃまあ客観的に見て、この姿は元のドクオより若いとは思うのだが。
クーのことを突っ込めないくらい、もの凄い勢いで実年齢を誤魔化している気がする。
从'д`;リル 「……欝だ……」 ボソリ
(,,*゚Д゚) 「 “ 内田 ”!」
゙从'。`リル 「……はい?」
(,,*゚Д゚) 「お、俺、外籐ギコ。
改めてよろしく、内田さ……」
(,,*^Д^) ゞ 「て、ていうかドクミちゃんでいいよな! ハハハ!」
从・、・;リル 「?????」 チーン
……いつの間にやら、自分は一年生の内田さんになってしまったようだ。
自らの意図しないところで、着々と “
ドクミ像 ” が作り上げられてゆく。
- 12
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:38:19.43 ID:yiV/HNDn0
-
( ; ^ω^) 「そんなことより! “
ちゃねらー ”
についてはどうなったんだお!」
と、そこで、起き上がったブーンが口を挟んだ。
そ
(,,゚Д゚)て 「あ、そ、そうだった。
とにかくお前ら、こっちに来てくれ!」
……ようやく話が進みそうだ。
駆け出したギコの後を追って、我々も学園の正門をくぐり、敷地内へと侵入した。
玄関棟を素通りし、校舎裏の駐車場方面へ移動する。
体育館の脇を抜け、グラウンドの横手にあるアスファルトの道をしばらく行くと、
灰色の古い建物が見えてきた。
東西に伸びたその施設は、VIP学園の旧校舎だ。
从゚д゚;リル 「……ふえー……」
月明かりをバックに聳え立つ、擬洋風建築の校舎棟。
木造3階建てのそれは、夜風を纏い、物々しい佇まいを見せていた。
- 14
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:42:09.81 ID:yiV/HNDn0
-
旧校舎周辺は、まるでそこだけ別の敷地であるかのように、
低い鉄柵による囲いがあり、正面に通用門がある。
裏口は本館へ伸びる渡り廊下に繋がっているが、今日は施錠されているらしい。
从'。`リル 「あれ?」
そのうち、校舎の中から複数の声が、途切れ途切れに聞こえてきた。
見れば、一階の端のほうにひとつだけ、窓から明かりが漏れている教室がある。
最初は生徒たちがふざけているのかとも思ったが、
よく聞いてみると、それぞれに甲高くて、なにか叫びのような……。
Σ从゚、゚;リル 「ちょ、今……」
( ; ^ω^) 「聞こえたお、これ、悲鳴……!」
从゚д゚;リル 「っていうか、あれっ!」
さらに。
目を凝らせば、門の付近で数人の生徒が、折り重なるように倒れているではないか。
- 15
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:44:56.22 ID:yiV/HNDn0
-
从 −i||从ト
( ∀ )
Σ( ゚ω゚) 「お……、あ、あれは」
知り合いだったのだろうか、中の一人を見た瞬間、ブーンが目を丸くする。
三( ; ^ω^) 「だ、大丈夫かお!?」
「まてっ!」
が、そちらへ駆け寄ろうとしたところを、ギコの声が制した。
(,,゚Д゚) 「そいつらはあとだ!
先に、中にいる “ ちゃねらー
” をどうにかするぞ!」
( ; ^ω^) 「あとって……」
(,,;゚Д゚) 「わかってる、けどダメだ! 触れるな!」
- 16
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:47:29.97 ID:yiV/HNDn0
-
从'。`;リル 「ギコ、それはどういう……」
(,,;゚Д゚) 「俺にも詳しいことはわからねえ。 けど、確実に言えることは──」
ギコが説明しようとした、その時だった。
「うわあああああ!!」
( ; ^ω^) 「!?」 从゚、゚;リル
校舎の入り口から、勢いよく一人の男子生徒が飛び出してきた。
顔を引きつらせ、まさしく半狂乱といった様子で。
从゚□゚;リル 「な、なん──」
( ; ^ω^)⊂ヽ 「ちょ、お、おおお?」
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:50:21.25 ID:yiV/HNDn0
-
しかし。
門の付近までダッシュしたところで、急に力が抜けたようになり、
そのままぱたりと鉄柵付近の芝生に倒れ込んだのだ。
( ; ^ω^) 「お、お……」
(,,;゚Д゚) 「……言いたいことはわかる。 でも、そいつらを助けるのは後回しだ」
从'。`;リル 「これ……これも “
チャネラー ” のせい?」
(,,;゚Д゚) 「そうだ。 正確にはわからないけど、精神攻撃の一種だと思う。
そして、その能力は人を介して伝わっていく」
从'。`リル 「人を?」
(,,゚Д゚) 「ああ」
倒れた生徒達へ渋面を向けると、ギコはたどたどしくこれまでの経緯を語った。
そもそも祭日である今日、彼が学校にやってきたのは、
しぃちゃんの所属している生徒会とその職務に関係がある。
迫る学園祭に向け、彼女は文化部の出展物チェックという任を抱えていたのだという。
- 20
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:54:04.69 ID:yiV/HNDn0
-
そんな中、共に下校するためしぃちゃんを待っていた彼らだったが、
旧校舎へ行った彼女とは連絡がつかなくなってしまった。
そこで、彼女を迎えに校舎まで出向いたところ、このような事態となっていたらしい。
( ^ω^) 「猫塚さんって、生徒会の役員だったのかお……」
(,,゚Д゚) 「知らなかったのかよ」
ギコが友人たちとともに旧校舎の中で見たもの。
それは、オカルト研究部 ・ 写真部などの文科系部員たちが、
一様に怯え、わめき暴れる異様な姿だった。
(,,;゚Д゚) 「んで……その結果、またんきは見ての通りってわけだ。
ナオのやつともさっきはぐれちまった」
( ; ^ω^) 「キューちゃんもきてたのかお……」
从'。`;リル 「そ、それで、しぃちゃんは?」
(,,;゚Д゚) 「わからねえ。 探したいのは山々だったけどさ」
ギコは下唇を噛んで言いよどむ。
彼はいったんそこで旧校舎から出たのだろうが、その判断が非情であるとは思わない。
単身校舎内を彷徨い、しぃちゃん達を捜し歩くよりは、むしろ賢明だと感じる。
- 21
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 00:57:31.16 ID:yiV/HNDn0
-
……でも。
从'、`ilリル (……なんだろ、モヤモヤする)
それからギコはずっと、馬鹿正直に僕たちを待っていたというのか?
我々が学校へ来るまでの間、他にできることはなかったんだろうか。
(,,;゚Д゚) 「ともかく!
旧校舎に残っている奴らは、ほとんどがその
“ 精神攻撃 ” に侵されているはずだ。
仮に助けを求められたとしても、今はまだ触れちゃあダメだ」
从゚、゚;リル 「ひょっとしてそれ、接触することで……」
(,,゚Д゚) 「そう。
そいつらに触れると、俺達も
“ 感染 ” しちまうんだ!」
( ; ^ω^) 「──!」 从゚、゚;リル
- 22
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:00:21.84 ID:yiV/HNDn0
-
触れることで感染してゆく “ 精神攻撃
” 。
──これじゃあ、まるで。
从゚д゚i||リル 「 “ 屋上の男 ” と同じ──」
( ; ^ω^) 「 “ ワカッテマス ” と同じ──」
ぞわっ、と。
言いようのないイヤな感覚が、背筋を走りぬけてゆく。
(,,;゚Д゚) 「のーりょくの範囲が “
旧校舎の中まで ”なのか、
それとも、ちゃねらーとの距離が関係あるのか……はっきりとはわかんねえ」
ギコはそう言って、門の周りに折り重なる生徒たちへ目を向ける。
(,,゚Д゚) 「けどとにかく、校舎から出ると
、のーりょくの効果は消えるっぽい。
……ま、同時に気を失っちまうみたいだけどな」
( ; ^ω^) 「それで門のところにあんなに人が……」
- 24
名前:>>23修正:2010/07/12(月) 01:04:38.27 ID:yiV/HNDn0
-
(,,゚Д゚) 「ドクオさんののーりょくがありゃ、ちったあ楽に片付きそうだと思ったんだけどな……。
くっそー。 いつもいつも、肝心な時に来てくれやしねえんだから」
( ; ^ω^) 「お。 す、すまんお」
从゚、゚#リル 「……」
いやいや。
前のときも今回も、我が身を削って駆けつけておりますが。
反論の言葉をぐっと飲み込む。
なんだかんだ言っても、ギコには以前河原で助けてもらった恩があるし、
助けを求める彼のコールをスルーするつもりはなかった。
だが、大手を振ってそう主張できないのが、微妙に歯痒いところだ。
あー……しかし。
こうも投げやりに言い捨てられると、正直カチンとくるものがある。
そうかいそうかい。
お望みとあらば、いっそこのまま元の姿に戻ってやろうか。
- 26
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:06:34.74 ID:yiV/HNDn0
-
从'。`#ル 「……じゃあ、寝れるとこある?」
(,,゚Д゚) 「へ?」
今のところ、僕は眠らないことにはドクオに戻ることができない。
この格好のまま男の姿に戻ろうものなら、ギコはいったいどんな顔をすることやら。
从゚ε゚#リル 「ベッドはあるかって聞いてるの」
そう言って両手を組み、唇を尖らせた……のだ、が。
(,,゚Д゚)
从'、`リル
- 28
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:08:51.65 ID:yiV/HNDn0
-
(,,゚Д゚)
(,, Д )∵;`; ブッ
Σ从'д`;リル 「なぜ!?」
── 次の瞬間。
ギコの鼻から勢いよく噴出した鮮血が、
月光照らすアスファルトに、赤い花を咲かせた。
- 29
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:13:15.41 ID:yiV/HNDn0
-
●第二一話 『 パニック ・ パニッシュ
・ パンデミック! ── VS. サダコA 』
(,,; iД ) 「と、ともかく……」
∩
ギコはティッシュを鼻に詰めながら言った。
(,,;゚Д゚) 「騒ぎの中心であるちゃねらーは、まだ旧校舎の中にいるはずだ」
( ; ^ω^) 「なんでそう言い切れるんだお?」
(,,゚Д゚) 「決まってんじゃねえか。
幽霊なんているわけねえし、だいいち、俺の勘は当たるんだよ!」
( ^ω^) 「相変わらず強引な論理展開だお……」
ブーンがやれやれと肩を落とす。
兎にも角にも、異常事態であることはよくわかった。
_,
⊂(,,゚Д゚) 「二人とも、準備はいいか? 行くぜっ!」
旧校舎の玄関口を指差すと、ギコは我々の返事も待たず、そちらへ駆け出そうとする。
- 31
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:15:50.77 ID:yiV/HNDn0
-
……が。
从'、`;リル 「……」 グイ
Σヾ(◎Д◎;,,)三 「ぐえ!?」
僕はその襟首を掴んで引き止めた。
从'。`リル 「ちょっと……待ってくれ」
ヾ(((,,;゚Д゚) 「は、はあ?」
気勢をそがれた彼は、間の抜けた表情でこちらへ向き直る。
……ギコ。
ブーンの同級生で、しぃちゃんの双子の兄で、
“ チャネラー ” である少年。
腕っ節が強くて、正義感も人一倍あって、外見も整っていて。
特異な超能力を巧みに操り、両親の仇を追い求めている。
そんな、正義の高校生。
彼の制服の背中をぎゅっと握り締めて。
僕はその場に無言で立ち竦んだ。
- 33
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:18:37.33 ID:yiV/HNDn0
-
从'、`リル 「……」
──仮に、だ。
我々の生きる世界が “ 正義の超能力少年
” を中心とした、
冒険活劇という物語の枠組みであれば、
彼は間違いなく、主人公の器なのだと思う。
ヒーローの卵だろうと思う。
でも。
でもさ。
ギコ。
(,,;゚Д゚) 「?」
正直なところ、キミは自分の力を過信していると思う。
催眠能力者を追いかけた時もだし、“
箱 ” のことにしてもそう。
ちょっと周りの力を借りれば、あとは自分中心ですっきり物事が解決すると思っている。
- 35
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:23:20.81 ID:yiV/HNDn0
-
そりゃあ僕は、キミの能力に助けられたことがある。 それは事実だ。
しかし、いつもそれが上手く行くなんていうのは、認識が甘すぎる。
勘違いもいいところだ。
世界はヒーローを中心に回らない。
世間は悪と正義の二極化構造じゃない。
勧善懲悪は保障された不文律じゃない。
キミは流石先生を紹介してくれた張本人だ。
なのに、先生の話の何を理解していたというんだ。
从 、#リル (……)
僕らを呼ぶ前に、警備員を呼びに行くとか、警察に連絡するとか……。
やるべきことは、色々とあったはずだろう?
かっこよく相手をやっつけて、それでぜんぶおわり。 一件落着。
なんて単純に考えてる彼が、なぜだろう。
今この瞬間、ひどく憎らしく思えた。
“ 屋上の男 ” は死んだ。
制御できない催眠能力に苦しんだ末の自殺なのかはわからない。
ひょっとしたら、他に理由があったのかも知れない。
だが、彼が自ら命を絶ったことは変えようのない事実で、
それが、僕らのやった “ 人助け ” の結末で。
- 37
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:27:12.17 ID:yiV/HNDn0
-
……憎らしく?
从 、#リル (……いや、違う)
ああ。
そうじゃない。
そうじゃなかった。
摩り替えてるんだ。
苦しんでいるのは自分なのに、悪夢に縛られているのは僕ひとりなのに。
それを、屋上の男の苦しみという建前に変換して、ギコにぶつけようとしているだけじゃないか。
胸に湧き上がる暗い感情。
これは、嫉妬なんだろうか。
ひとりのヒーローに対する、その他大勢の、一介の脇役としての。
きゅっと結んだ唇の裏で。
奥歯が折れそうなくらい、力いっぱい歯噛みする。
- 38
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:30:26.76 ID:yiV/HNDn0
-
(,,;゚Д゚) 「な、なに?」
从 、 リル 「……なんでもない」
……結局。
僕は何も言わず、ギコの制服からすっと手を離した。
胸のうちを伝えることなく、奥に押し留めた。
力も何も無い自分が、それを諭すだなんて、おこがましいことだから。
浅ましいにも程があると感じたから。
催眠能力者は死んだ。
“ 彼女 ” もまた、僕の目の前で落ちていった。
从 、 リル 「……」
力が欲しかった。
腕力ではない。
超能力でもない。
──強いて言うならば、説得力?
- 39
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:33:23.10 ID:yiV/HNDn0
-
今この場で、毅然と胸を張れるだけのチカラ。
背筋をぴんと伸ばすつっかえ棒。
それだけを欲していた。
そんなものですらも、僕という人間は持ち合わせていなかったのだ。
過去に誰も救えなかった自分が、
社会から爪弾きにされてきた自分が、
そんな世間と戦うことなく逃げ続けてきた自分が、
みじめで、滑稽だから。
だから。
僕は、彼に何も言えなかった。
言う資格なんてなかったんだ。
- 40
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:36:36.14 ID:yiV/HNDn0
-
从 、 リル 「……ブーン」
( ^ω^) 「お?」
从'。`リル 「その、警備員室って、新校舎のほうにあるのか?」
( ; ^ω^) 「……事務室ならあるお」
从'、`リル 「そっか」
僕はグラウンドの上、校舎棟のほうへ向き直ると、ブーンに告げた。
从'。`リル 「旧校舎には僕たちが行く。
その間に、ブーンは警備員に連絡しててくれないか?」
( ; ^ω^) 「お……警備のじーさん……果たして今夜はいるのやら……」
(,,;゚Д゚) 「ハァ? いやいや、そんなのあとでいいじゃんか!」
ギコが素っ頓狂な声をあげる。
……まあ、なんとなくそう言いそうな気はしていたけれど。
僕はつとめて冷静に反論をこころみた。
- 42
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:39:38.32 ID:yiV/HNDn0
-
从'、`;リル 「いや……三人いっしょに旧校舎へ入る必要はないだろう?
それに倒れている生徒達はどうするんだよ。
一応、救急車とか呼んどかないと、マズいかも知れないじゃないか」
(,,;゚Д゚) 「のーりょくの影響だろ? 相手のちゃねらーさえ倒せばそれでカタはつくって!
いいから急ごうぜ!」
从゚、゚#リル 「お前なぁ──」
キミの芯にある正義って、そんなに子供っぽくて、無責任なものなのかよ。
思わず拳を握り締めた、その瞬間のことだった。
「んっん〜? そこにいるの、もしかしてブーンかー?」
( ^ω^) 「お?」
新校舎の通用口のほうから、どこかで見たことのあるような男子生徒が二人、
こちらに向かって歩いてきた。
( ・3・)ノ 「あらMA、本当にブーンだったZE」
( ’e’)ノ 「奇遇だなー。 お前こんなトコで何やってんだよ?」
Σ( ; ^ω^) 「おっ、ぼるじょあ達かお。 暗くてよくわからなかったお」
- 43
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:42:34.26 ID:yiV/HNDn0
-
やってきた彼らはどうやらブーンの友人らしい。
イライラを募らせているのだろう、舌打ちするギコのほうを一瞥して表情を曇らせたが、
旧校舎の敷地に倒れた生徒達の姿に気づくと、すぐさま驚愕の叫びをあげた。
(;’e’) 「な、なんだよあれ……? 何の罰ゲームだ?」
( ; ^ω^) 「お、すまんけど説明している暇はないお。
二人とも、警備員のおっちゃんと、あと救急車を呼んでくれないかお?」
(;’e’) 「あ、ああ……わかった」
(; ・3・) 「姉さん事件だZE……!」
(;’e’) 「そ、それはともかくとしてだ」
( ; ^ω^) 「?」 ガシッ
そう言うと彼らは、ブーンの肩を両サイドからつかみ、鉄柵のほうへと引きこんでゆく。
( ^e^) 「ドゥフッ。 なぁ〜いとぉ〜ぅしぃ〜?」
( ^3^) 「つかぬ事をお聞きしてもよろしいかNA〜?」
( ; ^ω^) 「な、なんだお……?」
- 45
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:45:25.61 ID:yiV/HNDn0
-
( ^3^) ( ^e^) ニコッ
(#’e’)つ)) 「いったいどこの誰ですかな? そこなるおなごは〜?
彼女どう見ても三次元だよね〜?」 グリグリ
(# ・3・)つ)) 「HAHAHA♪ コトと返答次第では粛清を加えかねないZO♪」 グリグリ
( ; ゚ω゚)ノシ 「ぶふ……そ、それも今は説明してる暇ないお!
とりあえずお前らが勘繰ってるようなアレじゃないから安心しろお!」
(#’e’) 「へえ〜?」
(# ・3・) 「HO〜?」
从'、`;リル (余すところなく全部聞こえてるんだけど……)
げに恐ろしきはヲタ友達の嫉妬なり。
- 46
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:47:25.79 ID:yiV/HNDn0
-
(,,;-Д-) 「うし、もういいよな? 行くぞ!」
彼らのやり取りを見ていたギコが、痺れを切らしたかのように顎をしゃくった。
返事を待つことなく、柵を乗り越え、旧校舎の敷地へひらりと降り立つ。
(,,゚Д゚) 「ブーン、ドクミちゃん、早く来てくれ!」
从'。`;リル 「ちょ、ギコ……」
確かに、門の付近は倒れた生徒たちで足の踏み場もない状態だ。
気絶した人間に触れても “ 感染 ”
するのかは不明だが、
ひとまずは、触れないに越したことはないだろう。
从゚、゚;リル 「ったく……ああもうっ!」
─wwv√レ- ( ・3・) ( ’e’) ─√レww─
玄関口に向かうギコを追い、柵の低い部分へと手をかける。
- 47
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:50:16.75 ID:yiV/HNDn0
-
从'。`リル 「んしょ」 ヒョイ
↑ ↑
彡(# ゚3゚) 彡(#゚e゚) ササッ
( ^ω^)
从゚д゚;リル 「わわっ……!」
( 3 ) ( e ) !?
柵を跨ぐようにして乗り越えると、おそるおそる芝生へジャンプする。
降りる際にバランスを崩しかけたが、なんとか無事に着地できた。
- 48
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:52:40.32 ID:yiV/HNDn0
-
从'。`;リル 「あっぶねー……おいブーン、先に行ってるぞー」
( ; ^ω^) 「お、おお……」
(( ( 3 ) )) (( ( e ) ))
(; ・3・) 「……ブルマ……じゃNAI?」
(;’e’) 「……い、いや! あれは……!」
(; ・3・) 「スク水……だTO……!?」 ゴクリ
(;’e’)づ 「WHY? なあ、我々はこれをどんなプレイだと解釈すればいい?」 ボソボソ
(; ・3・)づ 「答えRO! 答えてくれよ内藤SHI!」
((( ‘ω‘))) 「……」
……などという会話が、
柵の死角で行われていたことなど、知ることもなく。
〜 〜 〜
- 49
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:55:24.09 ID:yiV/HNDn0
-
【 1F 旧職員・来客用玄関口 】
薄闇に彩られた木造の旧校舎は、内部もまた不気味な様相を帯びていた。
玄関口から歩を進める。
正面ホールを照らす蛍光灯は明滅を繰り返し、非常に頼りない状態だった。
廊下の蛍光灯は消えているが、窓のある箇所は月の光で存外明るく、
探索自体はどうにかなりそうではある。
無論、不気味であることには変わりないのだけれども。
从'。`リル 「あの、上履き持ってないんだけど……」
(,,゚Д゚) 「ん? 別にそのままいいっしょ、非常事態だぜ?」
从'、`;リル 「……むぅ」
ギコはそう言うものの、土足で上がり込むには少々抵抗感を憶える。
だいいち、フツーの非常事態(という表現も変だけど)であれば、
まずはケーサツなりショーボーなりに連絡するのが筋ってもんだろうよっ。
- 51
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:57:32.88 ID:yiV/HNDn0
-
唇を尖らせていると、ふうふう言いながらブーンがやってきた。
いつの間に買ったのか、右手に水の500ミリペットボトルを持っている。
( ; ^ω^) 「ふひ……あっついお……」
(,,#゚Д゚) 「おまっ。 んなもん買ってる暇ねーだろ、バカ」
( ; ^ω^)ノシ 「ち、違うお。 これはセントジョーンズにもらったんだお」
……そんなことより、汗と荒い息のほうが気になるが。
おそらくは柵を乗り越えたせいだろう。
从'。`リル 「で、どちらに行けばいいんだろ?」
おもむろに左右を見回して、僕は言った。
廊下は玄関口から見て西側と東側に分かれており、
正面、つまりホールの奥には階段がある。
外から見えていた、明かりのついた教室は、
左手側──つまり西側の奥にあるはず。
オカルト研究部から一つあけて隣の教室。 おそらくは写真部の部室だろうとギコは言う。
ときおりそちらから悲鳴のような声が轟くのが、
非日常の空間に迷い込んでしまったことを否応無く感じさせる。
- 52
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 01:59:25.43 ID:yiV/HNDn0
-
(,,゚Д゚) 「んー。 ホントは一人一人分かれて探したほうがいいんだろうけどさ」
( ; ^ω^) 「ぶひ!? は、離れるのは危険じゃないかお!?」
(,,;゚Д゚) 「わかってるって。 ちーと効率は悪ィが、三人で一緒に行こう。
まだ相手ののーりょくもはっきりわかんねえ段階だしな!
……それに、俺だってココで一人になんのはイヤだ」
本音を言わせてもらうならば、その “
相手 ” すら、居るのかどうか疑わしくなってくる。
無論、悪霊なんてものの存在を信じてるわけではないのだが……、
夜の旧校舎は、それほどまでに禍々しい雰囲気を漂わせていたのだ。
(,,゚Д゚) 「とりあえず、まずは “ 検索
” してみるわ」
ギコはそう言って長く息を吐いた。 つまり、チャネラーの呼吸を探ってみるということだろう。
改めて便利な能力だと思う。
しかし、出来ればそういうのは我々が来るまでに済ませていて欲しかったところだ。
从'。`リル )) 「うん、よろし……」
从゚□゚;リル そ 「あわっ」
気のない返答と同時に、僕はその場につまづいた。
- 56
名前:>>54訂正:2010/07/12(月) 02:06:37.09 ID:yiV/HNDn0
-
(,,゚Д゚) 「おっと」
幸い、ギコが支えてくれたおかげで転ぶことなく済んだが。
どうやらホールと玄関の境に段差があったらしい。
(,,*゚Д゚) 「だ、だいじょぶ?」
从'。`;リル 「あ、どうもありがとう……」
……はからずも、彼の胸に抱きとめられたような格好になってしまった。
心配そうに覗き込むギコの表情は、それほど迷惑そうな様子ではない。
……というか、顔、近っ。
体勢を整えようと、手でギコの体を押しのけた時だった。
从゚、゚リル 「!?」
(,,;゚Д゚) 「わっ!?」
どくん。
彼の手首に触れた途端、大きく心臓が脈打つのを感じ、やにわに身を引く。
- 58
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:08:01.28 ID:yiV/HNDn0
-
从゚、゚;リル 「え、え、え?」
なんだかさっきもこんな事があったような……。
などと考えている余裕はなかった。
今回の異変はそこで終わらなかったのだ。
『 @ざざざざ卅=ぎゃああ□;@こわいやだJJJJがががっがgg∩≡
』
从゚m ゚;リル 「──!?」
『亠卞卞叨すけておねがIBIBIBIBIΞοΕΜΦΦわあああ∞∴∬↓↓
めて≫◎╂┿┷ sにtくnいいいいEEEIII个Τθ叨了ギャギャギギギ
巛巛凵艨乂亡ΤΕ叭×∫+┤だぁぁあああああAAAあ※∇⇔¶‰』
从゚□゚i||リル (な、なんだこれ!?)
- 60
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:12:03.56 ID:yiV/HNDn0
-
頭の中を駆け巡り、そしてかき乱す、音の奔流。
飛び交うノイズに混じり、人の叫び、囁き、息遣いのようなものが、
うるさいほどに耳元で感じられる。
从゚Ο゚;リル 「──ぷはっ」
思わず耳を塞ごうとしたが、そこで音はぷっつりと聞こえなくなった。
(,,;゚Д゚) 「せ、静電気かな……?」
ギコのほうも何らかの違和感を覚えたらしいが、
僕が感じたものとは異なるようで、ただ自分の右手を見つめるばかりだ。
从'。`i||ル (わからない。 何なんだ、いったい?)
果たして、僕の体に何が起きているというのだ。
僕?
あれ、僕は──。
- 62
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:14:28.84 ID:yiV/HNDn0
-
( ; ^ω^)つ 「あの……飲むかお? まだ開けてないお」
いつの間にか、こめかみから油汗を流している自分に気がついた。
僕は無言で頷くと、ブーンの差し出したペットボトルの蓋をひねり、
中身を喉に流し込んだ。
从'、`;リル 「……さんきゅ」
( ^ω^) 「そのまま持ってていいお」
渇きは癒えたものの、喉の奥に張り付いた違和感はぬぐえそうになかった。
〜 〜 〜
- 64
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:16:48.70 ID:yiV/HNDn0
-
【1F 西側教室棟廊下 ・ 階段付近】
結局、ギコの能力では敵チャネラーの声・居場所は特定できなかった。
しぃちゃんや、校舎内ではぐれたというギコの友達を先に保護することも考えたが、
二人とも錯乱している可能性が大きい上、
何より “ 触れることができない ”
というのが多大なネックとなる。
結論として、我々はチャネラー本人を探し出すほうを優先することにした。
ギコの仮説が正しければ──つまり、この異変がチャネラーの仕業であるのならば、
能力者をどうにかすることが、ひいてはしぃちゃん達を救うことにも繋がるだろう。
スタンド能力解除のために本体を叩くというアレだ。
( ; ^ω^) 「あの、あれ……写真部お?」
(,,゚Д゚) 「ああ、たぶんな」
玄関から左へ向かった僕たちは、オカルト研究部を目指して歩いていた。
とはいえ、角さえ曲がってしまえばあとは一直線だ。
遠くに明かりの漏れているドアを見つけるまで、いくらもかからなかった。
あの奥にオカ研の部室があるのだという。
しぃちゃんが向かい、行方を絶ったという、おそらくは事件の発端となった教室だ。
- 67
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:20:26.40 ID:yiV/HNDn0
-
旧校舎の床部分は木造ではないため、歩くたびに足元がきしるということもない。
明るい教室に近づくにつれ、いくらか緊張が和らいでゆく気がした
……のも、つかの間。
从'。`;リル 「……誰かいる」
ドアから漏れる明かりのちょうど途切れた部分。
廊下の窓側、暗がりのところに蠢く複数の影が見える。
_,
(,,゚Д゚) 「気をつけてくれ。 絶対に “
触れちゃダメだぜ ” 。」
( ; ^ω^) 「お……おお」 ゴクリ
おそらくは写真部かオカ研の部員なのだろうが……。
「うう……」
「やめて……もう……」
「あああああ!!」
彼らがひっきりなしに発する独り言とうめき声。
廊下の奥からはときに悲鳴が混ざり、それらが重なって絶望の不協和音を奏でる。
──明らかに異常だ。
- 71
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:23:42.52 ID:yiV/HNDn0
-
( ; ^ω^) 「苦しそうだお……」
从'。`;リル 「ほ、本当にここにチャネラーがいるのか?」
(,,;゚Д゚) 「わかんねえけど……。
“ 感染 ”
してるぽいやつらも、俺が最初にきたときよりだいぶ人数が減ってる。
そいつらがどこに行ったのかは知らねえが、まずはオカ研の部室を探してみようぜ」
从'。`リル 「探すったって……」
廊下の幅はけして広いという程ではないし、教室だってそうだろう。
第一、いくつもの悲鳴が漏れ聞こえるオカ研部室に、
はたして何人の “ 感染者 ”
がいるのかすらも把握できていない。
門のところで見た、玄関口から飛び出してきた男子生徒のことを思い出す。
あんなに錯乱するような “ 症状 ”
であれば、
いつなんどき暴れ出すやらわかったものではないだろう。
たとえ “ 感染者 ” の人数が減っていたとしても、
彼らに接触することなく、部室を探るなどということが可能だとは思えない。
从'、`;リル 「無理じゃないか? そんなの」
触れずに相手を押しのける……。
それこそ、サイコキネシスのような超能力があるのなら別だろうけど。
- 72
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:26:36.62 ID:yiV/HNDn0
- _,
(,,゚Д゚) 「ああ、いざってときの武器が必要だな」
そう言うとギコは、写真部のすぐ手前を左に折れた。
見ると、左手には二階へ続く階段、その脇に掃除用具を入れるロッカーがあった。
(,,゚Д゚) 「ほい」
( ; ^ω^) 「え、いや。 ほいって」
呑気な掛け声とともに、ギコがブーンへ長箒を差し出した。
ブーンは不安そうな表情でギコを見つめ返したが、
彼はおとがいを上げて箒を押し付けるばかり。
やがてブーンは肩を落とし、こわごわとそれを受け取った。
(,,゚Д゚) 「ありゃあ? なんだ? ホーキ一本しか入ってねえのか?」
正直なところ、こんなものひとつで何がどうなるとも思えない。
我々の呆れた表情を背に受けながら、
ギコはなおも薄暗いロッカーをがちゃがちゃと漁っている。
──そして。
ふいに視線を逸らした瞬間、僕は気づいてしまった。
- 74
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:29:23.79 ID:yiV/HNDn0
-
Σ从゚□゚リル 「ひっ!?」
( ; ゚ω゚)そ 「ぎ、ギコ! 後ろっ!」
(,,゚Д゚)彡 「あん?」
見つめていたのだ。
ロッカーの陰。
階段の真下。
暗がりの奥で、誰かの光る目が。
「あばばああああああ!!!」
湧き出した唾を飲みこむ暇もなかった。
次の瞬間。
ロッカーの裏に隠れていた人影が、
長いエモノを振り上げ、襲い掛かってきた。
- 76
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:33:07.93 ID:yiV/HNDn0
-
(,,i||゚Д゚) (i|| ゚ ω ゚ ) 「どわあぁぁああ!!」 从゚□゚i||リル
打ち降ろされたモップを、ブーンが咄嗟に箒でガードする。
手に入れたばかりの武器は、乾いた音をたてて柄の中心からへし折れた。
「あ、あ、うあああああ!!」
言わんこっちゃない。
いや、まだ口には出していなかったが──そんなことはどうでもいい!
襲ってきた男子生徒は、叫びともつかぬ声を上げながらモップを構えなおす。
口を開け、涎を垂らし、醜く表情を引きつらせて。
(,,i|| Д ) (i|| ;ω;) 「ひぃいいいいい!!」 从;皿;i||ル
それはまさしく、鬼の形相と呼ぶにふさわしい顔つきだった。
- 77
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:35:26.94 ID:yiV/HNDn0
-
(,,;゚Д゚) 「に、逃げろ!」
( ノ;ω;)ノ 「おおおおおん!!」
モップをかわすと、我々は即座に逃げ出していた。
──ギコとブーンは階段を駆け上がり、
从;□;リル 「うわああああ!」
僕は、廊下を引き返す、といった形で。
- 80
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:38:02.07 ID:yiV/HNDn0
-
从゚皿゚;リル 「げっ! そんな……!」
一目散に廊下をダッシュする。
必死で逃げながら、僕はその事実に気づき、顔をゆがめた。
薄暗く不気味な旧校舎の中。
当然このまま三人で探索してゆくつもりだった。
なのに、ものの5分か10分そこら。
ソッコーで、
はぐれた。
「あばばああらぁぁぁぁあああ!!」
Σ从;□;i||ル 「うぎゃぁああああぁああ!?」
しかも。
何故だろう。 男子生徒は僕のほうを追ってきている、ときたもんだ。
- 83
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:40:57.91 ID:yiV/HNDn0
-
「うがぁぁっぁあああああああ!!」
从;□;i||ル 「あああぁああぁああ!!!」
「あがぁぁああぁぁぁああぁあ!!」
从;□;i||ル 「ぎゃぁああああぁああ!!!」
「うごぼろおぇあがああぶぁぁあああ!!」
从;◇;il#ル 「ひぃぃぃぃぃいいぃぃぃぁあぁあ!!!」
……逃げる。 逃げる。 逃げる。 逃げる。
振り返るまでもなく、男子生徒の奇声は数メートル後方まで迫ってきている。
ずるい。 やばい。 卑怯だ。 無理ゲーだ。
巷のゲームやゾンビ映画じゃ、基本となる敵の足は遅いというのが定番じゃないか。
全力疾走のプレイヤーキャラを血眼で追いかけるリビング・デッドなんて、
序盤に配置するべきモンスターじゃないだろう。
- 85
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:43:47.04 ID:yiV/HNDn0
-
角を曲がり、前方右に玄関口が見えてきた。
もう少しだ。
出ればなんとかなる!
あそこから出れば、旧校舎から脱出さえすれば、
“ 感染能力 ” の効力は失われる。
助かるはずなんだ。
Σ从゚□゚i||リル 「うわっ!?」 ガッ
──が、しかし。
安心した途端のアクシデントだけは、パニック映画のお約束に倣っていた。
Σ从;皿;リル 「いっだぁぁああああ!!」 ドザザザッ
玄関までもう残り数メートルのところで。
足がもつれ、僕は盛大に廊下へすっ転んだ。
かこん、こん、ぽこん。
水の入ったペットボトルが投げ出され、まぬけな音を響かせながら前方へ転がっていった。
- 88
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:46:41.92 ID:yiV/HNDn0
-
「ひょげぁぁぁああああぁああ!!」
从;◇;リル 「にょわぁああああっ!!」
半身を捩って振り返ると、もうすぐ眼前に、モップを振りかざす狂気の男が迫っていた。
起き上がりざま、近くに置いてあった長机へ手を伸ばすと、
僕は無我夢中でそれをひっつかんだ。
ずるり。
从;□;リル 「!?」
──だが。
途端に感じる、拍子抜けするほどの手ごたえのなさ。
天板の向こうを掴み、立ち上がろうとした瞬間にそれは起こった。
目の前の長机が、掴み、引き寄せた勢いのまま、後方へと滑り飛んだのだ。
Σ从;皿;リル 「だぁあ!?」
体重を預けた物体がすっぽ抜けたということは、必然、著しくバランスを崩すということ。
支えを失った僕は、再び倒れこみ、みじめに床を舐める羽目になった。
- 90
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:50:34.70 ID:yiV/HNDn0
-
終わりだ。
うつぶせ状態のまま、首だけ後方へかたむける。
そこには。
細長い凶器を勢いよく打ち下ろす、狂気の男がいる──
──はずだった。
「ぐぁ!?」
Σ从;□;i||ル 「!?」
しかし。
その時僕が見たのは、走馬灯でも、人生最後の光景でもなく。
吹き飛ばされた長机が、男子生徒の下半身目掛けて衝突するシーンだった。
从゚□゚i||リル 「あ……ぁ……!?」
足を取られた “ 感染者 ” は、つんのめるような形で床に転倒した。
- 94
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:53:27.37 ID:yiV/HNDn0
-
「ああぁ……がぁああ……!!」
苦悶に顔を歪ませる男子生徒。
だが、呆気に取られている暇はなかった。
そのうち彼は、モップを杖代わりにして、よろめきながら起き上がろうとする。
从゚д゚;リル 「ひっ……」
((((( 三从゚□゚;リル 「う、うわぁぁあ!!」
尻餅をついた姿勢のまま、僕は手足をしゃかしゃか動かして情けなく後ずさりした。
腰が抜けていたため、そうせざるを得なかったというのが正確なところだが。
脇には、さっきと同じ形状の長机が、壁に沿って立てかけてある。
もはや無我夢中だった。
僕はそれを、両脚を使って思い切り蹴飛ばした。
──瞬間的に、そうなるだろう、という予感が脳裏を過ぎった。
いや、確信と言い換えてもいい。
- 97
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:56:23.88 ID:yiV/HNDn0
-
从゚□゚;リル 「──!!」
立ててあった長机は床を滑走すると、
「ぐっがぁ!?」
鈍い音とともに、膝を折った姿勢の男子生徒へ、勢いよく命中したのだった。
从 □;リル 「はぁ、はぁ……!」
なおも早鐘をうつ心臓を両手で押さえつける。
気を失ったのか、“ 感染者 ” の生徒は大の字になって床に脱力し、
そのまま起き上がってこなかった。
从 д;リル 「はぁ──ふはぁ」
対して僕のほうも、しばらくは力が入らず、呆然とへたり込んでいた。
- 98
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 02:58:51.14 ID:yiV/HNDn0
-
荒い息を整え、精神を落ち着けたのち。
壁に手をつきながら、僕はふらふらとその場に立ち上がった。
体を包む疲労感に反し、意識は明瞭で、感覚は驚くほど研ぎ澄まされている。
从゚д゚;リル (これ──ひょっとして──)
何が起こったのか。
何故そうなったのか。
僕はおぼろげながら理解していた。
从'。`;リル 「……」
両手をみつめて立ちすくむ。
そう。
気づいたときには、それはまるで当たり前のようにそこに存在していたのだ。
カッコウの托卵行動のように。 蜘蛛が空中へ幾何学模様を描くように。
あえて意識せずとも、誰に教えられずとも。
まるで動物の本能行動の如く、当然のこととして、脳にインプットされていた。
〜 〜 〜
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 03:01:25.07 ID:yiV/HNDn0
-
【1F 玄関ホール】
从'、`;リル 「── 経験したから?」
お尻をはたいて埃を払うと、東棟の方向へゆっくり歩を進める。
廊下の脇に、古びたダンボールが積み上げてあるのが見えた。
僕はそのひとつに手をかけると、神経を集中させ、前方に向かってそろりと押し出した。
箱は慣性に従うかのように、つつーっ……と床を滑り、
数メートル先で急にその動きを止める。
从'。`リル 「── それとも、“
チャネラー ” に触れたから?」
それから僕は、靴箱の並ぶ生徒玄関口のほうへ戻った。
ホールの奥、中央階段の片隅に、さきほど落としたペットボトルが転がっている。
落下時の衝撃だろう。
側面がひしゃげ、少々不恰好になっていたが、中身に別状はないようだ。
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 03:04:16.56 ID:yiV/HNDn0
-
僕はそれを拾い上げると、蓋をひねり、中の水をぐびりとあおった。
一口飲んだところで、ふと妙な予感が頭を過ぎり、ボトルを左手に持ち替える。
从'、`;リル 「……まさか……」
そのまま逆さにして、右手に水を落とす。
── 想定していた通りの現象が、目の前で湧き起こった。
手のひらに落ちた水は、飛び散ることも、指の間をすり抜けることもなかったのだ。
まるで見えない膜がそこにあるかのように、右手にとどまり、丸い形で溜まってゆく。
そのうち塊となってふわりと漂い、奇妙に揺れ動きながら、目の高さまで浮かび上がった。
意識を別のほうへ向けた途端、水の球は力を失って、ぱしゃりと床に零れ落ちる。
跳ねた水が靴下を濡らしたが、全く気にならなかった。
僕の心臓はふたたび、踊り狂うように激しく脈打っていた。
从゚、゚;リル (……わかった。 いま、はっきりと)
スライダー
ハイドロキネシス
【 滑らせる能力 】 そして 【 水を操る能力
】 ──。
どちらも、他人の持っている能力。
僕がその肌に触れたことのある “
チャネラー ” の超能力だ。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 03:08:00.40 ID:yiV/HNDn0
-
イミテーション
【 劣 化 模 倣 】 。
──後日、厨二病患者な念動力者によってそう名付けられることとなる、僕の能力は。
これまでに “ 経験した ” 他人の超能力を、
“ 至極不完全な形で ” “ 再現(トレース)する
” というものだった。
从゚、゚ilリル 「……」
从゚、゚ilリル 「……さっきの、ひょっとして、ギコの……?」
ボソリ
僕は大きく深呼吸すると、目を閉じ、両耳に神経を集中した。
从-、-;リル
静かな闇の中に、幾つもの音の流れを感じる。
そのうち、蛍光灯の発するぶぅん……という音が、はっきり聞き取れるようになってきた。
さらに意識を深く落とし、聴覚刺激の判別のみに全霊をかたむける。
旧校舎全体に照準を合わせ、音を吸い込むレーダーのようなイメージで、
ブーンの声を探るよう試みた。
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 03:11:23.68 ID:yiV/HNDn0
-
『 @ざざざざ卅=ぎゃああ□;@こわいやだJJJJがががっがgg∩≡
』
亠卞卞叨すけておねがIBIBIBIBIΞοΕΜΦΦわあああ∞∴∬↓↓
めて≫◎╂┿┷ sにtくnいいいいEEEIII个Τθ叨了ギャギャギギギ
巛巛凵艨乂亡ΤΕ叭×∫+┤だぁぁあああああAAAあ※∇⇔¶‰』
Σ从 皿;リル 「くっ……!」
だがすぐに、めちゃくちゃなノイズにかき回されるような感覚を覚え、頭を抱え込んだ。
雑音がトゲのついたボールとなって脳内で暴れ回る。
うるさい。 気持ち悪い。 頭が割れるように痛い。
──もういい、もう聞こえなくていい!
僕は目を開けると、耳を塞いでかぶりを振った。
从゚д゚;リル 「……ぷ、はぁっ」
耳鳴りはすぐに霧散し、あとには静寂が残った。
現実に引き戻された途端、切れかけの蛍光灯の明滅が、存外明るく感じられた。
だめだ。 やっぱり無理だった。
感覚を鋭敏にするようなイメージは構築できた。
だが、目的の声を選り分けることができない。
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 03:15:10.96 ID:yiV/HNDn0
-
从 。 リル (思うほどには滑らない、思うままには動かせない……)
从 、 リル (そして、思ったように聞き取れない……)
从 、 リル (……)
从 、;リル 「ニセモノ……」 ポツリ
まさにそれが、僕に発現した “ 超能力
” を形容するに相応しい言葉だと感じた。
某RPGの魔法で例えるなら、ドクオの能力は接触時限定のサイ○ス。
女の姿での能力は、残念な青魔法……とでも言えばいいのだろうか。
一見するとオールマイティのようで、その実、非常に扱いづらい超能力。
所詮は劣化コピーにすぎないのだ。
発現したPSIの効力は、オリジナルに比べて著しく劣り、使い勝手も宜しいとは言い難い。
モノによっては全く役に立ちそうにない、そんな程度の
“ 再現性 ” 。
これらは後に判明することだが、
ちょっとやそっと能力を見ただけでは、“
再現 (トレース)”できないところに難がある。
他人の能力を実際に肌で体験し、その本質を理解しているほど、
再現できる可能性が高まるらしい。
- 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 03:19:42.16 ID:yiV/HNDn0
-
インスピレーションというのかなんなのか、ふいに、“
出来る ” というイメージが湧くことがある。
まるで体を動かすかのように、意識した瞬間、“
出来る ” という確信が走れば、
それは“ 再現可能 ” の合図だ。
いや、実際にチョーノーリョクの本質なんてものを理解しているのかどうかは定かでないのだが。
兎も角、明確なイメージとして頭で描くことができれば、
ニセモノの超能力はその効力を発動する。
案の定、相手に触れることによって、より
“ 再現 ” できる確率は高まるようだった。
ドクオの 【 アンチサイ 】 とは違い、肌への接触は必須条件というわけではないようだ。
……と、以上は後日の検証によるものなので、この時にはよく理解していなかったのだが。
ともかくとして。
从'、`;リル 「……」
僕はいま一度自分の右手を見つめた。
唐突に発現した、もう一つのPSI。
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 03:22:50.38 ID:yiV/HNDn0
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それは、
無神経厚顔無恥オンナの 超能力。
死んだ凶悪犯の チョーノーリョク。
愚直なヒーロー高校生の ちょうのうりょく。
他人の能力の。
オリジナリティ皆無の。
粗悪な模造品。
劣化著しい、ただのニセモノ。
異能力のおもちゃ。
それはやはり、思い描いていた “
ヒーロー像 ” とはほど遠く。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 03:25:18.09 ID:yiV/HNDn0
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从 、 リル 「」
何故だろう?
あんなに気になっていたはずなのに。
自己の有する超能力の実態がわかっても、高揚感は感じなかった。
それよりも、むしろ。
僕は。
僕は──。
- 122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 03:27:33.86 ID:yiV/HNDn0
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:::::川:::::::川:::::
Σ从゚、゚;リル 「!」 ハッ
──と、そこで。
顔を上げた瞬間のことだった。
その事実に気付き、息を飲む。
東教室棟へと続く短い廊下。
その角、さきほどダンボールを滑らせたあたりに、何者かの人影が。
奥へ向かって、すっと動いたのだ。
【 嘘選択肢発生 】
1. 影を追って東教室棟へ進む!
2. ひとまずブーン達と合流しよう、西教室棟へもどる!
3. このままじゃW杯決勝に間に合わない。 ここで投下を打ち切ろう!
>>124
- 126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/12(月) 03:30:45.71 ID:yiV/HNDn0
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l> 1. 影を追って東教室棟へ進む!
从'。`;リル (もしかしたら、今の、
し、しぃちゃん、か……?)
从'、`;リル 「……」
从゚、゚ilリル (行こう。
たとえ、待ち受けているのが幽霊だろうとゾンビだろうと──)
ちくしょう、出るなら出てみやがれ。
今の僕には怖いモノなんて──死ぬほどたくさんあるけれど。
でも。 きっと。
退ける力がある。
あるはずなんだ。
『 人は、特別な力を手にすれば行使せずにはいられない
』
どくん。
心臓が大きく律動した。
下着代わりのスクール水着は、汗ばむ肌にじっとりと張り付いていた。
- 129 名前:>>128訂正:2010/07/12(月) 03:40:31.00 ID:yiV/HNDn0
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校舎のどこかで金切り声が響いた。
今までに聞いたどの悲鳴より、長く、甲高く、悲痛な叫びだ。
从 、;リル (ギコ、ブーン──)
从 、 リル (……しぃちゃん)
男子生徒が振り回していたモップを拾い上げると、
月明かり差し込む廊下を正面に見据える。
ごくり。
唾を飲み込む音がやけに大きく感じられた。
そうして僕は、恐る恐る足を踏み出したのだった。
暗く妖しい闇の奥へと。
狂気漂う伏魔殿へと。
(続く)
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