1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:11:25.91 ID:KjIKMU3v0
 

「部長。 儀式の準備、出来ましたよ」


 チョークのついた手を濡れタオルで拭うと、男子生徒は傍らの女子にそう告げた。


ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 「うっし。 じゃあ早速やりましょうか!」


 声をかけられた女の子──岡戸スパムは、はつらつとした口調で答えた。
 端に寄せられた机のひとつには、
 その場所に似つかわしくないノートパソコンが一台、淡く光を放っている。


ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 「はいはい、みんな手ぇ繋いで、広がってー」

「周りの線に沿って、円陣ねー」


 ここは木造校舎の一教室であり、古びた床には彼らの手によって怪しげな模様が描かれていた。
 制服姿の男女がわらわら散らばってゆく様を、
 教室の入り口ドアの傍らで、背の低い女子生徒がひとり、ぼんやりと眺めている。


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:14:08.30 ID:KjIKMU3v0
 
(*゚ー゚) (早いなあ。 もうこんなに暗くなっちゃった……)


 秋の日はつるべ落とし。
 窓より射し込む茜のうつろいに、ドアの前に立つ彼女──猫塚しぃは、
 ほぅ、と小さなため息をついた。


ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 「あ、そこも魔法陣の一部だから。 踏んじゃダメよ」

(*゚ー゚))) 「えっ。 ああ、ごめんね」


 スパムにそう告げられ、しぃは慌てて足を引く。


ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 「今日はリハだからロウソクは使わないけど、
       本番では火事にならないよう気をつけなきゃね」

「ボロいからなー、この部室棟……燃え移ったらあっという間でしょーね」


 とある祭日、夕闇が濃くなる頃合だった。
 しぃはクラスメイトであるスパムに招待され、
 VIP学園の旧校舎の一角、オカルト研究部の部室にやってきていたのだった。


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:16:22.28 ID:KjIKMU3v0
 
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 「そうね。 ま、そのおかげで雰囲気だけはバッチリじゃない」


 そう言って周りの部員に目配せするスパムの様子は、
 どことなく、部長としての威厳に満ち溢れている。
 いつも教室でしか会わない友人の、違った一面を垣間見て、しぃは微かに頬を緩ませた。


(*゚ー゚) (スパムちゃん、しっかり部長してるんだなあ……)


 VIP学園のオカルト研究部は、30人弱もの部員を擁する文化部のひとつである。
 といっても、その大半は籍を置いているだけの幽霊部員であり、
 残りの半分は、放課後に暇を持て余し、気まぐれに遊びにくる程度の者達に過ぎない。

 生徒全員が何かしらの部に所属する義務がある当学園では、
 いわゆる帰宅部の人間にとって、格好の受け皿となっている。

 真面目に活動を行っている部員は、
 部長であるスパムを中心としたグループと、
 もともとオカルト好きな二〜三人を合わせた、ごく僅かな人数だけ。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:19:42.44 ID:KjIKMU3v0
 
川*` ゥ´) 「井戸中ー! あんたキモいから手ー繋ぐのヤなんだけど!」

从´ヮ`从ト 「くすくす……」

川*` ゥ´) 「そーそー、そっち行ってピャ!」


 とまあ、そんな按配である。
 学園祭のリハーサルという名目で行われたこの日の活動だったが、
 休日の、しかも遅い時間ということもあって、出席したのは総部員数の半分以下だった。

 日は殆ど落ち、先ほどまでオレンジに照らされていた部員たちの顔も陰っている。
 しぃは、電灯のスイッチに手を伸ばしたい気持ちを抑えつつ、彼らの様子を眺めていた。


(;*゚ー゚) (う……なんか、ちょっと怖くなってきたかも……)


 彼女は単に遊びにきたわけではなく、
 所属する生徒会の職務を兼ねてオカ研に赴いたのだった。

 会計補佐という地味な役職とはいえ、学園祭に向けて与えられた職務は、
 『 出し物に対する予算の割り振り 』 という、それなりの大役である。
 しぃには、彼らの怪しげな儀式を見届け、生徒会に報告する義務があったのだ。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:23:15.47 ID:KjIKMU3v0
 
川*` ゥ´) 「く、暗いピャー……」

从´ヮ`从ト 「井戸中さんなんて、髪に隠れてぜんぜん顔が見えませんわよ」 ボソボソ

川*` ゥ´) 「あいつキモいから、見えないくらいがちょうどいいピャwww」

从´ヮ`从ト 「入部以来、活動にはずーっと皆勤賞。
        なのに、みんなからは “ 幽霊部員 ” 扱いですものね……」 ボソボソ

川*` ゥ´) 「……うぷぷっ」


 そんな中。
 円陣の一部で、他の女子を指差して盛り上がる部員たちがいた。
 スパムは溜め息混じりに彼女らへ声をかける。


ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 「ほらほら、いーからアンタ達もちゃんと手を繋いでよ」

从´ヮ`从ト 「……はーい」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 「呪文の詠唱が終わるまでは、私たちそのものも魔法陣の一部になるんだからね。
       儀式に綻びが出ると、悪霊に取り付かれる可能性があるわよ」

从´ヮ`从ト 「ジュモンの、くすっ。 エイショウ……www」
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:25:38.96 ID:KjIKMU3v0
 
川*` ゥ´) 「てかさー。
       悪霊なら、もう、ねえ?www」 チラッ


 二人は口元を押さえながら、円陣の向かいを一瞥する。
 向けられた視線の先で、
 長い黒髪を垂らした女子部員が、ばつが悪そうに顔を背けた。

 なんだかなあ。 しぃは思った。
 どこにでもある光景かもしれない、けど。
 部外者の自分が見ている中、よくそうもあからさまな態度を示すことができるものだ。


ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 「……よし。 それじゃあ始めるわよ。 みんな目を閉じて」


 魔法円の中心から少し離れた場所に立つと、
 スパムは茶色いカバーのノートを取り出し、中ほどのページを開いた。
 魔道書の類にしては非常にお粗末だが、
 書かれた文字を目で追うスパムの表情は、至って真剣そのものである。

 それから彼女はゆっくりと、形容し難い言語の “ 呪文らしきなにか ” を唱えはじめた。
 合わせて、周りの者たちが、まじないの文句をところどころ復唱する。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:28:08.85 ID:KjIKMU3v0
 
(;*゚ー゚) 「……」


 オカルトに興味のない人間にとってみれば、珍妙な光景にしか映らないだろう。
 その上 “ 精霊の召喚 ” なんて言葉を聞こうものなら、
 両手を挙げてやれやれのジェスチャーを示すに違いない。
 実際、部員のうち数名は目を閉じることもなく、ニヤニヤ笑いを隠そうとすらしていない。


(*゚ー゚) (儀式っていってるけど、結局は、学園祭用のパフォーマンスなんだもんね)


 この内の何人が、大真面目に “ 霊現象 ” なんてものの存在を信じているのやら。
 心の中で溜め息をつくしぃにとっては、だがしかし、少しだけ安堵の気持ちもあった。


(*´−`) (ギコ君も待ってくれてるし、何事もなく終わるといいんだけど……)


 ──ところが。

 “ 儀式 ” の開始から、わずか数分後の出来事だった。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:30:27.30 ID:KjIKMU3v0
 
 円陣を組んでいた部員たちのうち数名が、
 何かに弾かれたかのように、びくんと体を震わせた。
 かと思うと、次々に口を開いたのである。


「なに? 今の声……」

「た、確かに、聞こえた」

「私も……!?」


 室内が一斉にざわついた。


(*゚ー゚) (え? な、何だろ)


 しぃは初め、部員達が口裏を合わせて、自分に悪戯しているのかとも考えた。
 だが、儀式の真似事ですらふざけ半分にしか見えなかった彼らが、
 演技でこのような驚愕の表情をできるものだろうか? と思い直す。


「やだ、えー、うそぉ……」

「怖い怖い怖い怖い」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:33:11.24 ID:KjIKMU3v0
 
 しぃはきょとんとして目の前の変事を眺めていた。
 本当に怖がっている様子の者もいれば、興味深々といった表情で周囲へ目を配る者もいる。
 薄闇による相乗効果もあるのだろう。
 不安と期待の入り混じった空気が流れ、部室内は俄かに色めき立った。


ヽiリ*゚ヮ゚ノi 「……来たわ。 来てる来てる。 精霊様のオーラがひしひしと伝わってくる!」

「ぶ、ぶちょおー、なんかイヤーな感じが……」

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 「静かに!
       ささ、ちゃんと手を繋いで。 目を閉じて──」


 そう言って儀式の再開を促すスパムだったが、
 想定外の周囲の反応に、いささか興奮を隠せない様子だった。


(;*゚ー゚) (な、なんだったのかな。 やだなぁ)


 已む無しといった感じで、元の位置に集う部員たち。
 円陣が組み直されると、ほどなく、スパムによる “ 呪文 ” が再開された。
 先ほどまでとは異なり、周囲の部員もおおむね緊張の面持ちで、彼女の詠唱に追随する。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:35:14.52 ID:KjIKMU3v0
 
(*´−`) (わたし、霊とかそういうの、あんまり好きじゃないのに……)


 輪の外で、しぃはぶるりと上半身を震わせた。


(;*゚ー゚) (スパムちゃんには悪いけど、正直……早く帰りたいかも))


 だが皮肉なことに、彼女の願いは聞き入れられなかった。
 ──想像していたより、幾分、悪い形で。


「いやあああああああああ!!」


Σ(i|i*゚−゚) 「!?」 ビクッ


 耳を劈く金切り声。
 それが、混沌の呼び水だった。


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:37:28.78 ID:KjIKMU3v0
 
「うわ、わ、うわあああ!!」

「あああああああ」

「来ないで! いや、イヤぁあ!」


 女生徒のけたたましい叫びを合図として、周囲から幾つも悲鳴があがる。
 それから、部員たちへ次々に異変が沸き起こった。
 四散した彼らは、皆一様に驚愕の表情を浮かべ、何かに怯えるように視線を泳がせている。


(;*゚−゚) 「な、何が……」

ヽiリ;゚ο゚ノi 「み、みんな!? どうしたの!?」


 部内は瞬く間にパニックへと陥った。

 発狂してしまったかのように、顔を紅潮させて泣き叫ぶ者。
 蒼い顔で倒れ伏す者。
 こめかみを両手で抑え、震えながらその場にうずくまる者。
 突如走り出す女子部員、部室の壁にガンガン頭を打ち付ける男子生徒──。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:40:14.83 ID:KjIKMU3v0
 
「おい! ちょ、これどうなって……」
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」
「うう……あああ……ああ!!」
「たすけて! だれか! だずげでぇぇえ!!」


 あまりの状況に、スパム ・ しぃともに、ただうろたえる他無かった。


ヽiリ;゚□゚ノi 「ねえちょっと! みんな! ねえ!?」

(;*゚−゚) (これ……ひょっとして)


 しぃは “ 集団ヒステリー ” という群集心理を思い起こしていた。

 集団が強いストレスへさらされ続けることによって、同じ妄想を信じ込み、
 同時にパニック・異常行動へと陥る現象だ。
 過去には、『 こっくりさん 』 などのオカルトゲームで発症した例も存在する。


「何だよコレ! ふざけ……あぎゃああ!!」
「助けて! 呪われる!! 誰かぁ!」
「あぁぁあああああ……」


 異常な光景だった。
 夕闇覆う室内に、抗いようのない恐怖が、いっぱいに充満していた。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:44:02.74 ID:KjIKMU3v0
 
「ひいぃっ! くるな、来るなあぁあっ!!」

Σ(*>−゚) 「きゃっ……!」


 そのうち、ひとりの男子生徒が、逃げ惑うようにして廊下へと駆け出した。
 ドアの横に立っていたしぃは、彼と肩がぶつかり、小さくよろめく。


(;*゚−゚) 「あ、あの、どこ行くの!?」


 ──と、その時のことだった。


『 ……ロ……テヤル 』


(*゚−゚) 「……えっ?」


 壁に手をついた彼女の耳元で、微かに、低い囁き声のようなものが響いたのである。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:46:10.85 ID:KjIKMU3v0
 
『 ゼッ……イ、コロ……ヤ…… 』


(i||i − ) 「や、やぁ、何コレ……!?」


 搾り出すような息づかいとともに、くぐもった声が幾重にも脳裏で反響する。
 ……ごくっ。
 唾を飲み込んだ瞬間、冷たい圧迫感を右肩に感じ、しぃはぎくりとその場で硬直する。

 寒い。
 足が動かない。
 歯の根が、合わない。

 全身を震わせながら、しぃはそちらへゆっくり首を傾けた。


Σ(i||;−;) 「ひっ!?」


 彼女の右肩に乗っていたのは、炭化した棒切れの如き “ 何か ” だった。
 ずしりと重く、氷のように冷たい。
 制服を通して、ひんやりとした感触がじかに皮膚へと伝わってくる。

 そして、その全体を覆う赤いまだら模様。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:49:19.15 ID:KjIKMU3v0
 
(i||;−;) 「あ、あああぁ」


 ──焼け爛れたようにボロボロで、血まみれの、腕。
 鮮血に彩られた黒い手が、自分の肩を掴み、握り締めていたのだ。

 口内は渇ききり、飲み込む唾はなくなっていた。
 顎ががちがち震えて止まらない。
 すでに周囲の喧騒は聞こえることなく、
 低くしわがれた声だけが、何度も何度も、耳鳴りのように繰り返されていた。


 そのうち、肩へ食い込む指に、ぐっと力が込められる。


 彼女は顔を引きつらせながら、恐る恐る後方へと振り返った。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:51:32.95 ID:KjIKMU3v0
 




                             『 コ ロ シ テ ヤ ル 』






26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:52:51.99 ID:KjIKMU3v0
 




 「きゃあああああああああああ!!!」





 ──ひときわ甲高い悲鳴が、夕間暮れの旧校舎を揺らした。





32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 19:58:08.04 ID:KjIKMU3v0
 
===
==



从-、-;リル 「むむむ……」

从゚皿゚リル 「はっ!」


 しばらく念を込めたあと、掛け声と同時に、俺は握る両手に力をこめた。


+从'ヮ`リル 「──どうよ!?」


 それから、目の前であぐらをかくデカブツに期待の視線を投げかける……が。


( ФωФ) 「……なんともない」 ヒュー


 肉塊は、涼しげな顔色を変えることなくそう告げた。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:00:34.22 ID:KjIKMU3v0
 
从'。`リル 「はぁ……やっぱダメかぁ」


 掴んでいたロマネスクの手を離すと、俺はちゃぶ台の湯飲みへ右手を伸ばした。
 キッチンからは食欲を誘う香ばしいかほりが漂ってくる。
 意識した途端、俺のお腹がきゅう、と、ロマネスクの腹がグゴゴと鳴った。

 日没間際、遮光カーテンの隙間から射す西日が目に痛い。
 そんな夕飯時のメゾン ・ ド ・ ビコーズ203号室。

 鍋の様子を見にゆく弟の尻を眺めながら、
 部屋の主である俺 ・ すなわち内藤ドクオは、緑茶の残りをずずずと胃に収めた。


从-、-*ル 「ふぃ〜〜〜〜……」


 日本人であることの幸せを噛み締めつつ、長ーく息をつく。


从'。`リル 「ん?」

Σ从゚д゚*リル 「あっ」


 湯飲みを抱えたまま視線を下ろすと、
 弛んだシャツの隙間から、白い双丘が呑気に顔を覗かせている。
 俺は慌てて襟元を引き上げた。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:03:12.91 ID:KjIKMU3v0
 
从-、-;リル (くそ、ロマの奴、気づいてたんなら教えてくれよ……)


 ……とまあ、そんな祭日の一場面。
 遠くから烏の鳴き声が聞こえる頃合だった。

 俺がその日女の姿になっていたのには、れっきとした理由があった。
 それは、一言で表現するならば、“ 超能力の検証 ” のためである。

 チャネラー達が身に宿すという “ 弱い超能力 ” 。
 無論、弱いといってもそれは “ エスパー ” の持つ能力と比較した場合であり、
 普通に生活する上では充分すぎるほどの危険を孕んでいる。
 ……まあ、普段の俺が持っている 【 アンチサイ能力 】 については例外かも知れないが。


从'。`リル (もう一つの超能力、か……)


 右手を見つめ、二、三度指を屈伸してみた。
 この細く白い指に、ひとつの可能性が。
 もしくは、度し難い災厄の火種が、眠っているかも知れないのだ。


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:05:59.20 ID:KjIKMU3v0
 
 “ 超能力 ”。
 ──暴走の危険性を有し、時には発現させた者自身を死に至らしめる、“ 不可視の暴力 ”。

 流石先生の鳴らした警鐘は、刺々しく印象的なフレーズとして頭の片隅に残っている。
 それを解放させることで、どれだけのリスクを背負うことになるのか、という懸念はもちろんある。


从'、`リル 「……」


 ……がしかし。
 喉元すぎるとなんとやら……というのか、
 結局のところ俺も、湧き上がる好奇心には抗えなくなっていた。


从-、-リル (流石オサム。 あいつ、ハインさんとは一体どういう関係なんだろ)


 先日、扱いが難しいと言われる 【 サイコキネシス 】 を難なく使いこなす、
 一人のチャネラーと出会ったことが、
 超能力への問題意識を薄れさせた原因のひとつであることは、否定できない事実である。

 さらに言うと、その彼がともすれば恋のライバルになるかも知れない、といった焦りも、
 “ 自分の状態について詳しく知りたい ” この思いに拍車をかけていた。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:08:34.94 ID:KjIKMU3v0
 
从'、`リル 「……」 チラ

从゚、゚リル

从///リル 「……!」 サッ


 ちょっとだけ襟をつかんで引っ張り、胸元に視線を落とす。
 ……で、即座に隠す。
 鼓動が早くなるのが自分でもわかった。


从'д`;リル (何やってんだろ、俺)


 ……ダメだ。 女性に免疫のない自分には、刺激的すぎて見ていられない。
 これで通算六回目の変身となるわけだが、
 その点については相変わらずで、てんで慣れる気配はない。

 だが。
 こんな情けない状態であっても、俺は俺の体質についてもっと知る必要があるのだ。

 ファンキーな能力を習得し、ボサボサ野郎とハインさんを賭けてサイキック対決や!
 ……なんて突飛な話ではなく。
 とにかく、得体の知れない能力に脅かされ続けることが、どうにも気持ち悪くて仕方ないからだ。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:11:09.76 ID:KjIKMU3v0
 
 男の俺にアンチサイという超能力が存在する以上、
 女の姿が “ 別人格(アナザー)ではない ” という考えにも確信が持てなくなってきた。
 とすると、“ ドクミ ” である自分にも、なんらかの超能力が潜伏していてもおかしくはない筈だ。


从 、 リル (……あいつも、死んでしまったんだよな)


 これは単に根拠のない憶測というわけでもなかった。
 先日、デパートで起きた立てこもり事件でのことだ。

 俺は凶悪犯と接触したが、奴の超能力を、結果的に “ 封じられなかった ” 。
 しかし、単に “ 超能力が消えてしまったから ” というだけでは、
 直後、あいつの足が “ 滑った ” ことの説明がつかないのだ。

 もちろん、大男の能力が暴発しただけ、という可能性は大いにある。
 だがもし、俺があいつの手首を握り締めていたことが、
 大男が滑った事実に関係あるのだとしたら?

 鬼が出るか蛇が出るか、予測なんてつきそうにない。
 でもせめて、自分がPSIを有しているのかどうか、
 そしてもし潜伏しているのだとすれば、その力に俺はどう対処してゆけばいいのか……
 といった事柄について、今一度考える必要があるだろう。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:13:56.58 ID:KjIKMU3v0
 
从 、 リル キュー

从'д`リル (……腹減った)


 そんなこんなで、夕食が出来るまでの間、
 ロマネスクを “ 超能力の検証 ” に付き合わせてみたわけなのだが。
 案の定めぼしい成果は得られず、諦めてお箸で茶碗を鳴らしている次第だった。


( *^ω^) 「おっおっ。 お待たせお。 ゴハンできたおー」


 と、気づけばふくよかな肉まんが目の前に立っていた。
 いつの間にやら、元の人格である “ ブーン ” に戻ったらしき我が弟。
 制服にエプロンというマニア垂涎の格好で、こちらに向かってぽてぽて歩いてくる。


从'。`リル 「腹減ったー。 腹減ったー」 チンチン

( ^ω^) 「お。 食器と麦茶を用意してくれお」

从'д`リル 「腹減ったー腹減ったー腹減ったー」 チンチンチンチン
  _,  ,_
(#^ω^)づ 「わかったから早く、冷蔵庫!」

从'、`リル 「クク……そんな物を用いずとも、我が能力をもってすれば貴様の喉を潤すくらい……」

( ^ω^) (……ドリンク系?)

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:16:22.62 ID:KjIKMU3v0
 
从゚д゚リル 「あらびっくり! 手のひらから……」

( ^ω^) 「やっぱりそこから出るのかお」

从'。`リル 「ドクターペッパーが……」

(; ^ω^) 「飲みたくねェ……もういいからさっさと準備しろお」

从'д`リル 「……ブーン、お前は気にならないのか? 自分の “ 超能力 ”」


 俺はちゃぶ台にグダった姿勢で、眼前のブーデーに問うた。
 我が弟ブーンもまた “ チャネラー ” の一人であり、
 ロマネスクという別人格を宿していることは、既知の通り。


( ^ω^) 「別にどうだっていいお。
       第一、まともに日常生活が送れなくなる可能性もあるのだろうお?」

从'。`リル 「そうだけどさ」


 ロマネスクの能力……これは後日、
 厨二病患者のサイコキネシストによって “ 無敵装甲(イージス・フォルム) ” という
 非常に恥ずかしいネーミングを頂戴することになるのであるが。

 ともかく、人並みはずれた耐久力というのか、
 殴られても蹴られてもはたまた頭が燃えようと、平然としていられるほど堅牢な肉体になる。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:19:16.41 ID:KjIKMU3v0
 
 だがやはり、その耐久力も超能力の一種には違いないらしい。
 アンチサイを持つ俺が手首をつねった際は、
 『 イテテ 』 という、顔に似合わぬ反応を得ることに成功しているのだった。


( ^ω^) 「今の僕には必要ないお。
       そんなもんより、来期のアニメを予習することのほうが遥かに重要だお」
  _, ,_
( -ω-)+ キリッ

从'д`リル 「学生の本分は……?」


 しかし、元々の人格である “ ブーン ” については、
 果たしてどういった能力があるのやら、依然わからない状態だった。
 まあ、本人もこう言っているわけだし、何も発現しないほうが幸せなのかも知れないけど。


( ^ω^)づ 「そんなことより茶碗よこせお。 御飯よそうおー」

从゚、゚リル 「うん……あっ」

( ^ω^)つ 「?」


 炊飯器に手をかけたまま、ブーンが訝しげな表情を返す。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:22:08.95 ID:KjIKMU3v0
 
 俺は、凶悪犯との揉み合いの末、“ 足が滑った” 際のことを思い出していた。
 よくよく考えると、あの時俺は男の手ではなく、肘の部分を掴んでいた気がする。


"从'、`リル (ひょっとしたら、手首より上じゃなきゃダメなのかも?)
 σ

 くだらないと言ってしまえばそうなのだが、
 仮説を思いついた途端、試してみたい欲求に駆られる。


从'。`リル 「なあブーン、ご飯の前にあと一回だけ」


 そう断ると、俺はブーンの袖をいそいそとめくり、風船のような腕へと両手を伸ばした。


( ´ω`) 「別にいいけど……何度やっても変わらんと思うお」

从'、`リル 「手のひらより心臓に近いほうが効果発揮しそうじゃね?」

( ^ω^) 「それは止血だろうお……」

从'。`リル 「まあいいや。 よし」 フニ

( ^ω^) 「!」

从゚、゚リル 「お?」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:24:24.28 ID:KjIKMU3v0
 
 手首を掴んで引っ張った途端、ブーンの体が僅かに硬直した。
 今までになかった反応である。


(; ^ω^)づ 「ちょ、ちょっと待つお。 ネ……ニーチャン」

从゚ー゚リル 「なんだなんだ? いきなり汗なんてかいちゃって」 ムニュ…

(; ^ω^) 「いや、だからその……」


 何故かブーンが慌てて体を引こうとしたので、
 逃がさないよう右手で二の腕を掴み、引き寄せた。
 ううむ。 ひょっとしたらコレ、期待できるかも知れない。


从-、-リル 「よし、やってみよう」

(i|| ^ω^) 「お……いや、ちょまっ」



::(;;^ω^):: 「……ムネが……手に」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:27:09.26 ID:KjIKMU3v0
 
 俺は大きく息を吸い込むと、
 ブーンの腕を抱き寄せるようにして、いっぱいに力をこめた。


从>皿<#リル 「ちえええぇすとぅおおおおおお!!」 ギュウウウウ

Σ(;* ゚ ω ゚) 「☆@ΔΦθαΘ!?」





「アッ──!!」



 〜 〜 〜

 
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:30:26.04 ID:KjIKMU3v0
 
(  ω ) チーン

从'д`リル 「はぁ……ダメか」


 何故か真っ白になっているブーンを横目に、俺はひとつ溜め息をついた。
 ブーンにも、それから俺自身に対しても、何かすごい能力が表出した、という実感はない。
 俺は抱えていた太ましい腕を放すと、諦めてちゃぶ台のほうへ移動した。


从'。`リル 「いただきまー……」


 そうして茶碗にご飯を盛り付け、手を合わせた時のことだった。

 ピンポーン。


从'、`リル 「ん?」

( ‘ω‘) 「なんだお……」


 玄関から突然チャイムの音が響いた。
 こんな時間にいったい誰だろう。


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:33:19.59 ID:KjIKMU3v0
 
从'。`;リル 「管理人さんかな? 俺あの人苦手なんだよな……」


 このアパート(メゾン ・ ド ・ ビコーズ)の管理人は
 非常に無口で、何を考えているかわからない人なのだ。
 ブーンと顔を見合わせ、玄関へ向かうことを躊躇していると、再度チャイムが鳴った。

 ピンポーン。


从'、`;リル 「ブーンさん、あなたのほうがドアに近いですよね?」

( ^ω^) 「あんた部屋の主だろお……」


 ピンポピンポピポピピピポピンポーン。


从゚□゚;リル 「だああ! 誰だいったい!」
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:35:30.65 ID:KjIKMU3v0
 
 チャイムを連打したのち、遠慮知らずな訪問者はさらにドアをバンバン叩く。


从'。`;リル 「はいはい、今出ますよっ……と」


 ピピピピピピピピピンポピポピポ\1UP/ピンポポピポーン


从゚皿゚#リル 「うるせー!」


 俺は急いで立ち上がり、玄関へと向かった。




「ゴメンクダサイ」



 ──それが、波乱の夜の幕開けとも知らずに。

 
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:38:09.06 ID:KjIKMU3v0
 
●第二○話 『 パッシヴ ・ パパラッツォ ── VS. サダコ@ 』


 〜 〜 〜


川 ゚ -゚) 「ふむふむ。 これはまた、なかなかどうして……」 モグモグ

(*-@∀@) 「おおお! ヒラメが舌の上でシャッキリポンなのかい?」 ムシャムシャ


 目の前で豪快にどんぶり飯をかっこむタイトスカートの女。
 その隣では、メガネにワイシャツのひょろひょろした男性が、彼女に負けじと箸を動かしている。


川 ゚ -゚) 「うまっ。 なんだこれ。 クソうまっ」 ヒョイパク ヒョイパク

(-@∀@) 「嗚呼! まったりとしてしつこくなくホウジュンなフウミが!」 ムシャムシャムシャムシャ

(; ^ω^) 「ちょ、それは僕のおかずだお! 取るなお!」

从'皿`i||ル (なんだこの状況)


 ……どうしてこうなった。
 ちゃぶ台の三方より進撃する、クー、ブーン、メガネの男。
 食卓を席巻せしフードファイターズを前に、俺はただ溜め息をつくしかなかった。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:40:37.58 ID:KjIKMU3v0
 
 そのうち、タイトスカートの女……クーが、空のどんぶりをずいっとこちらに差し出した。


川 ゚ )-゚)゙っ∪ 「おう、おかわり」 サッ

从゚皿゚リル 「そんな物はない!」

川 ゚ -゚)っ 「お前の意見なぞ聞いておらん。
       さあブーンよ、この超絶美人にジャーの中の米、米、米を寄越すのだ」

从'。`i||ル 「ちったぁ自重しろよ……」


 モグモグしつつどんぶりを突きつけるクーに、横の男がうっとりとした視線を絡ませる。


(-@∀@) 「ああクーちゃん、食べてる顔もカワイイよ……君は咀嚼する天使だ……!」

从'皿`;リル 「どんな天使だよ」

川 ゚ -゚)ノシ 「うるさいプー!
       ンモー! ごはんおかわりったらおかわり!」

( ^ω^) 「これ以上は勘弁してくれお……」


 無表情のままダダを捏ねるアラサーと、その様子に眉を顰める肉まんじゅう。


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:43:31.17 ID:KjIKMU3v0
 
川 ゚ -゚)っ 「HEY! Please me, your rice!」

( ^ω^) 「今日はもう打ち止めですお」

川 ゚ -゚)っ 「少年よ、水臭いことを言うんじゃない。 一緒にアレをつつき合った仲じゃないか」

Σ(;-@∀@) 「ええっ!? うぞっ!? クーちゃんボクという者がありながら!?」


 クーが何気なく呟いた言葉に、隣の男がぽろりと箸を取り落とした。

  _,
川 ゚ -゚) 「は? 何言ってんの? そもそもお前誰?」

(;-@∀@) 「ひどいっス! ボクだってクーちゃんと色々つっつき合いたいっス!」

川 ゚ -゚) 「死んで生き返ってまた死ね」

     そ
(-@∀@) 「待てよ……この少年をつつけばクーちゃんとの間接……ゴクリ」

(; ^ω^) 「ご、誤解ですお! 鍋だお鍋!」

从'皿`;リル 「紛らわしいんだよ言い方が」


 まったくもって意味がわからない。
 けして広くないダイニングキッチンは、ちゃぶ台を囲む4人もの人間でひしめき合っている。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:46:16.72 ID:KjIKMU3v0
 
 今日この夜、再び相まみえしインチキセールスレディ ・ 砂緒ヒトミ。
 本日の彼女は、胸元の大きく空いた、どちらかというとラフな印象のスーツを着込んでいる。

 隣にいるヒョロメガネは恋人か何かだろうか。
 柔和な物腰ではあるが、初対面の相手の御家庭で遠慮なくタダ飯にありつくところといい、
 図々しさにかけては横の女と負けず劣らずである。


川 ゚ -゚) 「ところでさっきから気になっていたんだが……」

( ^ω^) 「お?」

川 ゚ -゚)σ 「ブーン、そこの腐女子は誰だ? 私の食う分が減ってかなわんのだが」

(-@∀@) パクパクムシャムシャ

从'、`;リル 「それはこっちの台詞だろ……。
       というか、箸で指すのやめろって」


 ご飯を諦め、ポテトサラダの大皿を独り占めしていたクーが、ふいに俺のほうを指し示した。


川 ゚ -゚) 「どういう関係だ。 クラスメイトか?」

(( ^ω^)) フルフル


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:49:10.12 ID:KjIKMU3v0
    ?
川 ゚ -゚) 「セフレ? ホムンクルス?」

(-@∀@) 「意地でも “ 彼女 ” という答えは避けるんだね」

   ???
川 ゚ -゚) 「じゃあやっぱり親類か。  いとこ? はとこ?」

从'。`;リル 「スタート四親等からなんだ……」


 しきりに首をひねっていたクーだったが、そのうち手をぽんと叩き、大きく頷く。

    !
川 ゚ -゚) 「おお!」

从'д`リル 「うん」

川 ゚ー゚)゙ 「デリヘルか」

从゚皿゚;リル 「ばッッか野郎! ドクオだよドクオ!」

川;゚ -゚) 「えっ?」

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:51:29.50 ID:KjIKMU3v0
 
 間の抜けた声をあげるクーに対し、俺は立ち上がって主張する。


从'□`;リル 「“ 別人格(アナザー) ” になると、俺はこんな姿になっちゃうんだよ!」

Σ川 ゚ -゚) 「なっ」

从/□/リル 「わ、笑いたきゃ笑えっ!」

川;゚ο゚) 「なんだと……!」


 クーはぽかんと口を開け、俺のほうをまじまじ凝視する。


川 ゚ο゚)


从 □#リル


川 ゚ -゚)

     ポム
川 ゚ -゚)づ从'、`リル そ


从゚、゚*リル 「え?」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:54:09.50 ID:KjIKMU3v0
 


川 ゚ -゚)


从'。`リル


川 ー ー)゙


从'、`リル





川 ; -;) 9m 「ぶわ───っはははははは!!」


 ……ええと、やっぱりこいつ叩き出していいですかね。

 
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 20:57:08.58 ID:KjIKMU3v0
 
 ひとしきり爆笑したあと、
 ポテトサラダへ伸びたメガネ男の箸を、手刀で叩き落しつつ、クーは言った。


川 ゚ -゚) 「ドゥフッ。 しっかしまあ、信じ難い現象ではあるな」
 _, ,_
从 、#リル 「……何がだよ」

川 ゚ -゚) 「なんやねんなその姿。
      元のオマエを考慮に入れれば、ブフッ。
      普通は 川'A`川<ドクミデース ←こんな感じであるべきだろうが」

从'、`;リル 「俺だってそう思うけど、例えそうなったところで誰も得しないだろ……」
  _, 、_
川 ゚ -゚) 「……」 ジロジロ

(( 从゚、゚リル 「な、なに?」


 続けてちゃぶ台から身を乗り出すと、俺の胸元をじろじろ眺め、
  _, 、_
川 ゚ -゚) 「……………」

川 ー) -3 フッ

(; ^ω^) 「ちょ、テーブルに足を乗せないでくれお!」


 見下げるような表情で、ぐい、とおのれの胸を強調する。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:00:10.88 ID:KjIKMU3v0
 
从'д`i||ル (……めんどくせー)


 ……女社会ってこういうのばかりなんだろうか。
 ……そうではないと信じたいところだが、どちらにせよ、色々と大変そうである。

 というか、さっきからまったく話が進んでいない気がする。
 クーはなおもちゃぶ台の横で、腰に手をあてて様々なポーズを決めている最中だ。
 ひとりファッションショーを展開するアラサーを無視し、俺はメガネの男に素性を聞いた。


(-@∀@) 「ボクは五十嵐(いがらし)コウタロウ。 よろしくね!」

从'、`リル 「はぁ……ええと、内藤ドクオです」

(-@∀@)b 「アサピーって呼んでくれ!」

从'。`リル 「はい。 ……え?」

(-@∀@)b 「アサピーって呼んでくれ!」

从'。`;リル 「はあ。 あの、アサピー……さん?」

(-@∀@)ノシ 「ははは! さんはいらないよ! アサピーでオッケー!」


 オッケーらしい。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:02:58.67 ID:KjIKMU3v0
 
 名刺代わりに差し出したキャバクラのメンバーズカード、
 その名前欄には、数多のハートマークに混じって、確かに
 『 毎度御来店ありがとうございます 五十嵐コウタロウさま 』 と記載してある。

 部屋に入ってきたとき、首からカメラを下げていたことでなんとなく想像はしていたが、
 五十嵐さ……アサピーは、クーの知り合いのフリーカメラマンらしい。
 ただのカメラ小僧でないだけまだ信用はあるかも知れないが、名刺くらいは常備しておけよと。


从'、`;リル 「どうも……というか、なんなんですかこの会員証」

(-@∀@) 「そりゃあもちろんクーちゃんのお店だよ!」

从'。`リル 「へ?」

(-@∀@) 「いやー、今日はオフだったからお店に行こうと思ってたんだよ。
       それがまさか、当のクーちゃんにこんなところで会うなんてね!」

从'д`;リル 「え……意味が……」

(*-@∀@) 「やっぱり運命なのかなー? ね、クーちゃーん?」


 驚いたことに、クーはインチキ訪問販売員であると同時に、
 週二回ほど、夜のお仕事をなさっている方らしい。
 ……ウォータービジネスに従事するハイドロキネシスト。 まるで冗談にもなっていない。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:05:27.15 ID:KjIKMU3v0
 
 それで、お気に入りであるクーにばったり出くわした彼が、
 出勤の前に食事でもどう? と持ちかけたところ、
 ちょうど近くにあったウチへタダ飯を食いに行こうと提案されたのだという。


川 ゚ -゚)σ 「そいつは盗撮マニアだからな。 オカマとはいえお前も油断しないことだ」

从'。`;リル 「いや、オカマじゃないからね、一応」


 珍妙な決めポーズのまま、クーがアサピーのほうを指差す。
 当の彼は大袈裟なジェスチャーで首を振った。


(;-@∀@) 「ひどいよークーちゃん。
        ボクはキミの美しい姿をシャッターへ収めることに至上の喜びを……」

川 ゚ -゚) 「うっせークソメガネ」

Σ(;-@;ж;@);:゙;` ブッ

从'д`;リル 「ぅおい!」

(; ^ω^) 「きたなっ」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:08:46.95 ID:KjIKMU3v0
 
 アサピーはしばらくむせたあと、茶碗を持ったまま立ち上がり、激昂した。


(#-@∀@) 「ボクのことならいくらバカにしたっていい!」

(#-@Д@) 「だがしかし!
        メガネに対する悪口だけは、たとえ相手がクーちゃんであろうと許すことはできない!」

从'д`リル 「あんたメガネの何なんだ……」

 ともかくも、この男がカメラマンかつ変人であることはよくわかった。
 フリーではあるが、最近は某出版社によく出入りし、
 とある宗教団体に関する特集記事の仕事をメインにしているのだと、彼は語った。

 一応俺も、“ 箱 ” のことは伏せつつ、ブーンを含めて簡単に自己紹介する。
 面倒な気配を感じたので、クーとの関係については特に気を払って説明した。
 アサピーは笑顔を絶やすことなく、気さくに握手を求めたあと、眼鏡のレンズを光らせた。


(-@∀@) 「よろしくねー。 ところでドクオちゃん」

从'。`リル 「はい」

(-@∀@)b 「ヌードとか撮らせてみない?」


 俺が 『 うへぁ 』 という表情を返す前に、クーの後ろ回し蹴りが炸裂する。
 アサピーは笑顔のまま壁に激突。 部屋全体が大きく揺れた。 
 ……やめてくれ、隣の住人が怒鳴り込んでくるだろうが。
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:11:38.35 ID:KjIKMU3v0
 
 しばらくのち、彼は四つんばいでフラフラこちらに戻ってくる。
 それでもやはりスマイリーな表情は変わらない。 よくわからないが、謎のプロ根性を感じた。


(-∀@) 「まあ脱ぐか否かは別としてさ。
        ボクのツテで出版社に売り込んであげようかな、ってね?」

从'д`;リル 「……全力で遠慮しときます」

(-@∀@) 「マジで? メガネアイドルとかに興味ない?」

从'。`;リル 「ないですし、そもそも俺、普段は男ですから」

(-@∀@) 「残念だなあ……君ならいいメガネグラビアが撮れそうだと確信してるんだけど……」

从'、`;リル 「なんでメガネ前提なんだよ……」


 驚きだったのは、アサピーもまた “ チャネラー ” であったことだ。
 ということは、このダイニングでちゃぶ台を囲んでいる4人は、
 いずれも超能力者だということになる。
 チャネラーのバーゲンセール状態だ。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:14:18.46 ID:KjIKMU3v0
 
 彼の超能力は、別人格との複合能力として発現する “ 念写(ソートグラフィ) ” 。

 健康的な食事と適度な運動、充分な睡眠を維持し、万全の状態であれば、
 数日に1度の割合で発現させることができたりできなかったり……
 とまあ、聞く限りはかなりアバウトなPSIである。

 しかし。
 後で調べてわかったのだが、千里眼とサイコメトリーの複合能力であるそれは、
 原始的な力を発現するだけの能力とは一線を画す、かなりの高等技術らしい。


从'、`;リル (盗撮マニアってのもあながち間違っていない気が……)


 嘘か真か、彼はこの能力を利用してスクープ写真をいくつもすっぱ抜いてきたのだという。
 念写によって得られる写真は、画質より、スキャンダラスなその内容がウリとなる。

 かつては風景写真や人物中心に活動していた彼が、
 現在、報道系で仕事を得ているのは、この能力のもたらした恩恵なのだとか。


(-@∀@)b 「とにかく、無性に脱ぎたくてたまらなくなったらいつでも言っておくれ!
        綺麗に撮ってあげるからね!」

从'。`;リル 「だからいいですって」
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:16:53.75 ID:KjIKMU3v0
 
 しつこく食い下がるアサピーに対し、クーが虫けらを見るような視線で唇を尖らせた。


川 ゚ -゚) 「……オマエな、ソイツの普段の姿を見たことないからそんな事が言えるんだぞ。
      男のドクオを見たらアレだぞ。 ヌードなんて言葉は間違っても出やせんぞ。
      胃潰瘍になって腸捻転起こして吐瀉物にまみれて七転八倒しかねんぞ」

从'д`;リル 「なんつー言い草だ……」

(-@∀@) 「さっきからずいぶん突っかかってくるねぇ……はっ!?」

川 ゚ -゚) 「あ?」


90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:18:38.76 ID:KjIKMU3v0
 
(*-@∀@) 「クーちゃん、やっぱりキミはボクのことを!」


 そう言うと、アサピーはぱっと表情を、そして眼鏡を輝かせ、


(-@∀@) 「とぅっ!」

从゚皿゚;リル 「!?」


 流れるようにスムーズな動きで、ルパンダイブを敢行した。


(@Д@- )彡 「メガネダイブだ!」


 ……振り向きざまに訂正を促す彼の向かいで、
 当のクーは既にアッパーカットの体勢に入っていたのだが。


 〜 〜 〜


91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:21:28.82 ID:KjIKMU3v0
 
  ┌
 ::ヽ :::(ε(# ):: 
    ┐


 数分後。
 パンツ一丁で失神するアサピーを踏みつけながら、クーは長い黒髪をかき上げた。


川 ゚ -゚) 「さあて。 私はそろそろ失礼しよう。 これから仕事があるからな」

从'。`;リル 「結局本当に飯食いに来ただけかよ」

川 ゚ -゚) 「例のアレか? それ以降、大した情報は得ていないぞ」

从-、-リル 「い、いいよもう……期待してないから」


 そう答えてみせたものの、俺は内心肩透かしを喰らった気分だった。
 わざわざウチに来たということは、何かしら “ 箱 ” に関する情報を伝えてくれるのかと、
 期待を持っていた部分は否定できない。

 そんな俺の落胆を感じ取ったのかはわからないが、
 ふいに彼女は、「ああ、そうだ」 と切り出した。


川 ゚ -゚) 「ドクオ、お前にちょっと聞きたいことがあるのだが」

从゚、゚リル 「ん?」
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:24:18.59 ID:KjIKMU3v0
 
川 ゚ -゚) 「お前 “ マンイーター ” って聞いたことはあるか?」

从'。`リル 「何それ。 キャバクラ用語?」

川 ゚ -゚) 「……そうか。 いや、忘れてくれ」


 しかし、それも僅か一言で打ち切る始末。
 俺は首をひねったが、クーはそれ以上その話題を引っ張ろうとはしなかった。


川 ゚ -゚)b 「そうそう。 言っておくが私の勤務先はキャバクラではないぞ。 ガールズバーだ」

( ^ω^) 「どう違うんですかお?」

川 ゚ -゚) 「要は客について接待するかどうか……だが、まあコドモは知らなくていい」

(-@∀@)b 「キャバクラは風俗営業許可店、バーはあくまで深夜営業の飲食店だよ」


 いつの間にか生き返っていたアサピーが補足する。


从'、`リル 「ガールズバー……」
 σ

川 ゚ -゚) 「そうだが、何か?」


96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:27:14.06 ID:KjIKMU3v0
 
从'。`リル 「……ガール……?」
  _,、_
川 ゚ -゚) 「 な に か ? 」

从'、`;リル 「……なんでもないです」


 クーはギヌリと俺を睨みつけると、大き目のバッグを抱えて席を立った。
 見送りついでに食器をかたそうと、俺も彼女に続けてその場に立ち上がる。

 と、ちょうどその時のことだった。
 ブーンの携帯から軽快な曲調のメロディ、続けて甘ったるい声の女性ボーカルが流れてきた。


( ^ω^) 「お? ギコからだお?」

川 ゚ -゚) 「なんだこの鳥肌級にサブい歌は」

从'д`リル 「 “ 魔法少女デレ ” の挿入歌……。
       お前、友達の番号をアニソンに設定すんなよ」

( ^ω^)っ【゚】 <〜〜〜♪


 が、ブーンが我々の冷たい視線を意に介すことはない。
 それどころか、わざわざ周りに聞かせるようにワンコーラス流したあと、
 ようやく通話ボタンへ指をかけた。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:30:04.12 ID:KjIKMU3v0
 
( ^ω^)】 「お、もしもしお」
  _, ,_
( ^ω^)】 「……おお?」

Σ( ゚ω゚)】 「お!? おおお?」

(; ^ω^)】 「お? お? おおー。
        お……おっお!? おー。 おおっお……」

( ^ω^) -3
  つ【゚】 Pi


 通話を終えるや、ブーンは慌てた様子で声を荒げた。


(; ^ω^) 「ニーチャン! 大変だお!」

从'。`リル 「へ?」

(; ^ω^) 「なんか知らんけど、ギコが “ ちゃねらー ” に襲われてヤバいから、
       ニーチャンを連れてすぐに学校へ来て欲しいとのことだお」

从゚д゚;リル 「は、はぁ!?」

川 ゚ -゚) 「……!」

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:33:04.74 ID:KjIKMU3v0
 
(-@∀@)+ 「むむ〜? なんだか事件のニオイがするねぇ……」


 ……待て待て。
 なんだそれ。 あまりに突拍子がなさすぎる。
 呆気に取られる俺の横で、アサピーの眼鏡が怪しい輝きを放っている。


(; ^ω^) 「とにかく学校に行ってみるお」

从'。`;リル 「そんなコト言われても! この姿じゃあ、ちょっと……」

( ^ω^) 「なんだお?」

从'、`;リル 「えーと、その、服とか靴とかさ……持ってないし……」


 以前、ブーンの通う学園に侵入成功した経験はあるが、
 あれは時間が遅かった上、ギコによって警備員が眠らされていたお陰である。

 対して、今はまだ18時を半分すぎた程度だ。
 祭日とはいえ、部活動帰りの生徒や教師が残っているやも知れないし、
 格好次第では、行く途中でも充分目立ってしまうことだろう。

 できることなら、あまり女の姿で出歩きたくないというのが本音だ。
 またメイド服を着てゆくというのも流石に気が引ける。

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:36:54.10 ID:KjIKMU3v0
 
(; ^ω^) 「そんなの気にしてる場合かお! 急ぐお!」

从'。`;リル 「で、でもさ……」


 が、そうやってまごついているうちに。


(-@∀@)っ 「大丈夫だよ。 ほら」 ニュッ

Σ川 ゚ -゚) 「なっ」

从゚、゚;リル 「!?」


 アサピーが、クーの抱えていたバッグに手を突っ込んだかと思うと、
 女子用の学生服上下一式を取り出したのである。
 ……おあつらえ向きに、VIP学園の制服そのものを、だ。


从゚д゚;リル 「な……?」

(; ^ω^) 「く、クーさん……?」

从゚皿゚;リル 「何故貴方がこんなものを……?」

川;゚ -゚) 「うるさい! 今日は月に一度のコスプレデーなのだ! しょうがないだろう!」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:39:18.06 ID:KjIKMU3v0
 
 どうやって入手したのか、上着、ブラウス、スカート、ご丁寧に製靴までもが揃っている。
 アサピーから制服を受け取ると、ブーンはニコニコ顔で俺にそれを押し付けてきた。


( ^ω^)つ 「助かったお! ニーチャンもこれなら文句ないだろうお?」

从'。`;リル 「ま、まあ、サイズが合うのなら……」

川;゚ -゚)ノ 「ばかもにょ! こっちは大有りだ!
       そいつを貸しちゃ私が店で困るだろうが!」


 当然のことながら、クーは制服を奪還すべくつかつか歩み寄ってくる。
 ……と。
 その時、またしても。


(-@∀@)っ彡|o 「それなら心配なさそうだよ!」 ガチャッ

川;゚ -゚)ノ 「……あん?」

(-@∀@)っ 「代わりに、ほら!」 サッ

Σ(; ^ω^) 「ちょっ」


 いつの間に侵入していたのやら、
 アサピーが、例のアレを抱えてブーンの部屋から出てきたのだ。

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:42:08.50 ID:KjIKMU3v0
    そ
川 ゚ -゚)ノ 「おお、なんだそれは。 何故こんなところにメイド服があるというのだ」


 彼の手からそれら一式をむしり取ると、
 クーはすぐさまカチューシャをかぶり、フリフリのエプロンをその身にあてた。


川*゚ -゚) 「むっふっふ。 どうだどうだ? ご主人様〜?」

(*-@∀@)b 「ヒュー! たまんないね!」

从'д`リル (メイド怪人アラサー……)


 調子に乗ってターンする彼女の横で、アサピーが鬱陶しく何度も指笛を鳴らす。
 慌てたのはブーンのほうだ。


三(; ^ω^)ノ 「や、やめてくれお! 返しておー!」

川 > -゚)ゞ⌒☆ 「な? 美人は何を着ても似合うだろう?」

(; ノω^)ノ 「まだ着てないし、そもそもお腹周りのサイズが合ってないお! 服が伸びちゃうお!」


川 ゚ -゚)  「似合うか?ではなく、似合うだろうと聞いている」
⊃<;^ω^>⊂ ギュウウウウ
109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:45:09.00 ID:KjIKMU3v0
 
(*-@∀@) 「クーちゃん素敵! メイド姿キュートすぎ! 最高!」

川 ゚ -゚) 「そうだろうそうだろう。 跪くがいい」

(*-@∀@) 「ワーオ! たまんなーい! ご奉仕させてー!」


 ……なんかもう無茶苦茶だ。
 必死でメイド服に手を伸ばすブーン、彼を足先で軽くあしらうクー、
 そして、その姿をローアングルでパシャパシャ撮っている一人のひょろメガネ。

 三人のどうしようもない掛け合いを横目に、
 俺は全身鏡の前で、VIP学園の制服を体にあててみた。


从'。`;リル (今更だけど、着るの? 俺こんなん着るってぇの?)

从'д`;リル (うわ……かなりスカート短いな。 下からトランクスはみ出すんじゃないか?)


 流石にもう、以前メイド服を着たときのような、
 下に何も履いてなかったという事態は避けたいところである。


(-@∀@)っ 「下にこれを着るといいよ。 ほら」 サッ

从゚д゚リル 「へ……?」

Σ(; ゚ω゚) 「ああっ! それは!」
111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:47:56.29 ID:KjIKMU3v0
 
 と、いつの間にかアサピーが俺の横にきていた。
 クーの持つメイド服にしがみ付いていたブーンが、こちらを見て素っ頓狂な声を上げる。

 それもそのはず。
 差し出されたアサピーの手には、微かに光沢を帯び、伸縮性のある濃紺の生地……。


(-@∀@)b 「ね。 下着代わりにさ!」

从 д リル チーン


 どう見てもスクール水着です。
 女子用です。 本当にありがとうございました。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:51:11.19 ID:KjIKMU3v0
 
 これまたどこからそんなものを……という俺の視線に対し、
 アサピーは満面の笑顔で親指を立て、そのままクイッと後方を指し示す。
 ……当然、俺の部屋ではない、もう片方を、だ。


从'д`i||ル 「ブーン……」

川 ゚ -゚) 「……お前……」



  ( ‘ω‘)



(-@∀@) 「はっはっは。 まあ、若いうちは色々ね!」


 俺は無言で水着を受け取ると、すごすご自室へ戻り、後ろ手に扉を閉めた。

 ──肉塊のすすり泣く声を、ドアの向こうに小さく感じながら。


 〜 〜 〜
116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:54:08.22 ID:KjIKMU3v0
 
 数分後。
 アパートの外に降りた俺達は、駐車場の入り口付近でてんやわんやしていた。


川 ゚ -゚) 「だからな、さっきのは本当に私じゃないんだ。
      信じろ。 な?」

(; ^ω^) 「わ、わかったお……。 わかったからあとで絶対返してお? 頼むお?」


 メイド衣装と交換に貸してもらった制服は、
 少々袖が余りはするものの、さほど問題なく着ることができた。


从'、`;リル 「……」


 問題はスク水で……なんといったらいいのかもう、非常に妙な感覚だ。
 肌に張り付く裏地の独特の感触。 そのくせ腿のあたりはスースーして仕方ないのだが。


(i||-@∀@) 「はぁ……厄日だぁ……」


 ブーンとクーがごちゃごちゃ言い合う脇で、アサピーががっくりと肩を落とした。
 我々に着いて来る気満々だった彼だが、
 編集部から急な呼び出し電話があったとかで、
 これからまた現場に直行しないといけなくなったらしい。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 21:57:08.58 ID:KjIKMU3v0
 
(i||-@∀@) 「うう、なんてタイミングが悪いんだ……。
        ドクオ君たちとスクープ写真をゲットして、
        夜はクーちゃんのお店で乱痴気騒ぎするはずがぁ……」

从'、`;リル 「あーその……が、頑張ってください」

(-@∀@) 「と、その前に。 せめて一枚だけ」 パシャッ
 ⊃【◎】

Σ从゚□゚;リル 「おわっ」


 抗う暇も与えぬまま、アサピーは不意打ちでシャッターを切った。
 ……肖像権を主張したところで、普通に笑ってあしらわれるのだろうなあ。


(;-@∀@) 「クーちゃんごめんね。 また今度お邪魔するからね」

川 ゚ -゚) 「来なくていい。 金だけ寄越せ」

(;-@∀@) 「くそー、今日もはりきって店の娘を視姦するつもりだったのに!」

川 ゚ -゚) 「オマエもう死んだほうがいいと思うぞ」
120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 22:00:08.11 ID:KjIKMU3v0
 
 俺はふたたび自分の姿を眺め、眉を顰める。


从'、`;リル (はぁ……なんだろこの羞恥プレイ)
σ゙κ

 当たり前のことだが、女の子の制服を着るなんて初めての経験だ。
 見本があるわけでもなく、かつ急いで着替えたため、
 果たしてこの格好が正しいのかどうかもわからない。
 強いて言うなら、下にスクール水着を着ているところからすでに間違っているだろう。

 溜め息混じりに首元のリボンを引っ張っていると、高飛車なヒールの音が隣で響いた。


川 ゚ -゚) 「おい、ドクオ」

从'。`;リル 「え?」

Σ从゚ε(゚リル 「うぶ!?」


 言うが早いか、クーは両手で俺の頬を挟みこみ、顔をぐいっと鼻先に近づける。
 ファンデーションのキツい匂いが鼻を刺す。  ……目尻に小じわ発見。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 22:02:50.69 ID:KjIKMU3v0
 
川 ゚ -゚)ノノ 「いいな。 その制服は私そのものだと思って、大事に大事に扱えよ。
       破ったり汚したりドクオ汁を染み込ませたりしようものなら承知せんぞ」 グググ

ヾ从゚ε(゚;リル 「わ、わくゎっ……ふぁ」


 そっちこそメイド服を……と返そうとしたが、そこで頬を圧迫する力が強まった。
 一方的に理不尽な注文をつける彼女は相変わらず無表情で……。


从゚ε(゚i||ル (……ん?)


 どくん。

  _,
川 ゚ -゚) 「!?」

Σ从'д`;リル 「ぷぁっ」


 ほんの一瞬、大きく心臓が脈打つのを感じた。
 同時にクーが手を離し、顔面サンドイッチから解放される。


124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 22:05:11.86 ID:KjIKMU3v0
 
川 ゚ -゚) 「……お前、今何かしたか?」

从'皿`;リル 「やってねーよ! 何かしてたのはそっちじゃないか!」

川 ゚ -゚) 「……?」
 η ∩


 俺が唇を尖らせる横で、クーは自分の両手を見てしきりに首を傾げていた。

 ──そこでの小さな違和感が、のちに我が身を助けることになるのだとは、
 当然ながら、今の自分には知る由もなかったが。


126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 22:07:42.92 ID:KjIKMU3v0
 
 そうこうしているうち、ブーンのポケットから聞き覚えのある歌が流れてきた。


(; ^ω^) 「おっ、こうしてる場合じゃないお! 行くお!」


 取り出した携帯のディスプレイを確認すると、
 我が弟はこちらに向かって目配せし、出し抜けに学校の方向へと駆け出した。


Σ从'д`;リル 「わ、ちょ、待てよブーン!」

川 ゚ -゚)ノシ 「いってらー」


 ……なぜ俺の休日は、常に全力疾走とセットになっているのだろう。
 短い溜め息を挟み、俺もふらふらと弟のあとに続く。
 ちょうど街路灯が点きはじめる頃合だった。


从'д`;リル 「ひっ、ひっ」


 遅刻寸前の朝ではなく、いやそもそも学生でもないのに、
 制服姿の “ 僕 ” はひとり、通学路を駆けてゆく。
 パンをくわえる余裕もなければ、曲がり角でぶつかる相手も美少女ではなさそうだけど。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 22:10:10.04 ID:KjIKMU3v0
 
 坂道をひたすら駆け下りる。 道沿いのガードレールが白い帯となって流れてゆく。
 その奥には薄暮の西空。
 山の稜線へ僅かに残った茜色と、手前に広がる町のシルエット。


从゚□゚;リル 「はぁ、はぁ、はひっ……」

( ; ゚ω゚) 「ぶひっ、ぶふっ」


 豊満な肉を揺らし、我が弟は路上に汁を撒き散らしながら走る。
 ようやくその隣に追いつくと、僕は大きく息を吸い込んだ。

  _, ,_
从 □;リル 「ぐっ」



「ぐっぞおおおぉぉぉお──!」



 呪詛をいっぱいに込めた渾身の叫びが、薄闇覆うアスファルトの向こうへ溶けていった。


===
==


132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 22:13:10.89 ID:KjIKMU3v0
 
 ドクオ達が学園へ向かう一方、
 旧校舎の片隅では、ひとりの女生徒が途方に暮れていた。


ヽiリi||゚ -゚ノi (あ、あああ……)


 オカ研部員たちによるものであろう、悲鳴混じりの喧騒を遠くに感じる。
 辺りを覆う闇が濃くなる中、
 スパムは三階廊下、もとは美術室であった空き教室の前で、膝を抱え、震えていた。

 普通であればすぐにでも校舎を飛び出し、警備員のもとへ助けを求めに行くところだ。
 事実、奇声を上げながら逃走する部員を追い、彼女も玄関口から出るつもりだった。


ヽiリi||゚ -゚ノi (呪われちゃった呪われちゃった呪われちゃった)


 ──が、今もって彼女は校舎内にいた。
 いや、留まらざるを得なかったのだ。

 旧校舎は来年には取り壊しが決まっているが、
 現在のところ、文化系の部室棟として使用されている。
 当然ながら、殆どの教室は施錠されており、中に入ることはかなわない。

 オカ研の部室は一階の端にある。
 スパムは、“ この事態を引き起こした者 ” から逃げた結果、三階のこの場所にいた。

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 22:16:48.34 ID:KjIKMU3v0
 
ヽiリ,,; -;ノi (お願い……。 お願いです……)


 後悔の念に頭を抱え込む。
 私が悪いんだ。 私のせいでみんな狂ってしまった。
 やっぱり、遊び半分であんなことをしてはいけなかったんだ。
 精霊様がお怒りだ。

 それに、“ あの噂 ” は本当だったんだ。


ヽiリ,,; -;ノi 「うっ、ううっ……」


 ── 知ってる? 旧校舎の噂。
 ── そう、騒ぎを起こしちゃダメ、ってやつ。
 ── いわゆる七不思議のひとつなんだけど。


ヽiリ,,;д;ノi 「どうして……」


 ── 一階の保健室でね、昔、自殺した生徒がいたの。
 ── 手首を切って、眠るように死んでいたのね。
 ── それ以来、彼は悪霊となって、ずっとベッドで眠っているの。


138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 22:20:09.02 ID:KjIKMU3v0
 
 ── あはは、怠惰な幽霊もあったものね。

 ── 茶化さないの。 とにかく、旧校舎で騒ぎを起こしちゃダメよ。 

 ── ふうん、で、起こした生徒はどうなるの?


ヽiリ|i|;д;ノi 「ああああ……!」


 ── 呪いによって、校舎に死ぬまで閉じ込められるらしいよ。


 出られない。
 出口までは行けるのに。
 他の部員は大丈夫だったのに。
 私だけが。
 騒ぎを起こした、私だけが。
 
 玄関口から足が踏み出せない。
 窓が開かない。
 力が入らない。

 旧校舎から、逃げられない。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 22:23:17.73 ID:KjIKMU3v0
 
「誰か……おねがい」


 出られない出られない。
 逃げたいのに、逃げられない。
 私だけ。
 ずっと。
 この恐怖から、のがれられない。


「……私を……ここから出してぇ……!」


 ──涙混じりの懇願に、手を差し伸べるものはいなかった。




 〜 〜 〜

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 22:25:59.51 ID:KjIKMU3v0
 


『 どこ? 』

『 ええ、今行くわ 』

『 どこへ行っても同じ 』

『 許さないから 』

『 償わせてやるから 』





『 ──ロス 』

『 ──コロシテヤル 』


 
147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/24(木) 22:28:10.82 ID:KjIKMU3v0
 


 夜の帳が下りてくる。


 狂気の黒は学び舎を覆う。




「…ああぁぁあ…………!」




 暗い地の底へ、沈みゆくかのように。





 (続く)


 

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