2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:47:05.08 ID:DiZZDF8U0
 
 〜 〜 〜

 ロマネスクはひとまず、ギコをさきほどの子供部屋と思しき隣室に運び込んだ。
 ギコをベッドに横たえると、彼はひとつ大きな溜息をついた。


( ФωФ) 「毛布も大分汚れてはいるが……少々寝かせておくのである」

( ><) 「はい……」


 その頃には、辺りに立ち込めていた悪臭はすっかり消えていた。
 しばらくはこの場に留まっていても問題はないだろう。

 本来、” 臭い ” による攻撃が再開される可能性を考えると、
 すぐにでも屋敷を出るのが賢明な判断なのかも知れない。
 ロマネスクは、不安そうに見つめる少年に頭を下げながら言った。


( ФωФ) 「かたじけない。
        友人が回復次第すぐにでも退去するのである。
        あともう少しだけここに居させてほしいのである」

(; ><) 「そ、その事なんですけど……」

( ФωФ) 「ん?」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:49:31.80 ID:DiZZDF8U0
 
( ><) 「ごめんなさいなんです。
       ぼく、嘘をついてたんです」


 少年はそう言って、しゅんと下を向いた。


( ФωФ) 「嘘?」

(; ><) 「は、はいなんです」

( ><) 「もう、ここはぼくのおうちじゃないんです……
       ぼくがここに住んでいたのは、ずっと前のことなんです」

( ФωФ) 「ふむ?
        では、ひょっとしてこの部屋は」


 ロマネスクは辺りを見回し、それから床の算数ドリルに視線を移す。


( ><) 「そうなんです。
       僕のおへや……だったんです」

( ФωФ) 「……左様であるか」


 それはどことなく、ロマネスクにとって合点のいく答えだった。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:52:05.71 ID:DiZZDF8U0
 
●第一三話 『 M's ms. ── V.S ワカッテマスB 』


( ><) 「僕、稚内(わっかない)ビロードといいます。
       おじちゃんは?」

( ФωФ) 「我輩は怪人ロm……いや、内藤ホライゾンである」

( ><) 「ホライゾンさん?」

( ФωФ) 「ブーン、もしくはロマネスクと呼んで欲しい」

(; ><) 「ど、どうしてそんなにお名前たくさんなんです? わかんないんです!」


 それからは、ロマネスクの投げかける疑問と、返答の応酬が繰り返された。

 ビロードの説明を要約すると、
 彼はここ 『 旧稚内邸 』 に両親と住んでいたが、ある時急に引っ越すことになった。
 今はこのラウンジ市(ロマネスク達は隣のVIP市からここまでやってきた)のそのまた隣、
 シベリア市の郊外にある施設にて療養中である。

 噂をもとに想像で補完するなら、事業の失敗などなんらかの原因により、
 資産家であった両親は凋落し、館をそっくり手放す羽目になったのだろう。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:55:06.81 ID:DiZZDF8U0
 
 療養中、というのは、彼は元々からだが弱く、今は自宅と病院の往復ばかりらしい。
 今日この場所を訪れたのは、以前から気に掛かっていた 『 忘れ物 』 をどうしても回収したく、
 病院から移動する途中のごたごたに乗じ、こっそり車を抜け出してきたとのこと。

 それが本当であれば、大変な騒ぎになっている筈。
 もはや ” こっそり ” も何もないだろう、というロマネスクの言葉に、少年は照れくさそうにはにかんだ。


( ФωФ) 「御両親には連絡したのか? きっとお主を探しているのである」

( ><) 「パ……お父さまは出張中なんです。
       お母さまとはしばらく会っていないんです」

( ФωФ) 「むぅ……?」


 ビロードの説明はたどたどしいものだったが、
 それでも、同年代の子供の中ではしっかりしているように思える受け答えであり、
 口調の端々から、彼の聡明さが垣間見えるようだった。

 だが同時にその内容は、ロマネスクの中に新たな疑問を浮かび上がらせた。
 ビロードの正確な年齢は定かではないが、
 年端も行かない、さらには病弱という子供にとって、ここまでの道のりは大冒険ではないか。

 簡単に来れるような距離であれば、
 とっくの昔に保護者もしくは病院関係者の手が回っていてもおかしくはない。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:58:28.85 ID:DiZZDF8U0
 
( ФωФ) 「それで、そうまでして手に入れたかった ” 忘れ物 ” は見つかったのか?」

(; ><) 「それが……見つからないんです。 おかしいんです。
       ぼく、確かにここに入れておいたんです……」


 そう言うと、ビロードはテレビボードとキャビネットの足元に手を差し入れる。
 ほどなく家具の隙間から、木製のシンプルな装飾の宝石箱を取り出すと、
 空の中身を示して見せた。


(; ><) 「ぼく、帰ってきてすぐにおへやに戻ったんです。
       そしたら、箱が……開いてたんです」

( ФωФ) 「わざわざ元通り隠して行ったのか、律儀だな。
        して、その中にあったのは何なのである?」

( ><) 「……小瓶なんです」

( ФωФ) 「小瓶?」

( ><) 「そうなんです。
       オレンジ色の、透き通った……とっても綺麗な瓶なんです」

( ФωФ) 「ふむ。 既に盗られてしまった後なのかも知れないな」

(; ><) 「うう……」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:01:19.39 ID:DiZZDF8U0
 
( ФωФ) 「他に盗られたものはないのか?」

( ><) 「はい、たぶん、今のところは……。
       けど、ぼくが探しているのはそれだけじゃないんです」

( ФωФ) 「ん?」


 そこで一拍おくと、ビロードは肩を落として呟くように言った。


( ><) 「……ワカッテマス君。
       ワカッテマス君が、いないんです」

( ФωФ) 「ワカッテマス君?」

( ><) 「ぼくのおともだちなんです。
       大きくて、とっても綺麗な目をした男の子なんです」


 少年の言葉に、ロマネスクは首を傾げた。
 ” 廃屋敷 ” と呼べるほど荒れてはいないものの、邸内は既に無人であるはず。
 彼はここを拠点として、近隣に住む旧知の友人を訪ねるつもりだったのだろうか。

 もしくはその ” おともだち ” とやらが、
 彼の ” 別人格(アナザー) ” である可能性も考えられる。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:04:26.44 ID:DiZZDF8U0
 
( ФωФ) 「ぬう、お主の言うことがよくわから……」

「香水か?」


 ロマネスクが再度首を捻った瞬間。
 会話を遮るように声がかけられ、二人は同時に振り返った。


(,,´Д゚) 「瓶だよ。 その小瓶って、香水じゃねえのか?」

( ФωФ) 「ギコ」

( ><) 「お兄ちゃん……」

( ФωФ) 「いつ目覚めた? どこから聞いていたのだ?」


 ベッドの上、やおら上半身を起こしたギコは、片手で額を抑えつつ答える。


(,,´Д`) 「……ついさっきだよ。
     ここは……食堂の横の部屋だよな?
     オレ、どんくらい寝てた?」

( ФωФ) 「ほんの10分足らずといったところである」

(,,-Д-) 「ああ……そんなもんか。 サンキュ」


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:07:06.66 ID:DiZZDF8U0
 
( ФωФ) 「体は大事無いのか?」

(,,゚Д`)~ 「ちっとまだ……頭がずきずきするけど、
      まあ、大丈夫」


 彼は特段問題ない様子だった。
 ビロードが、そんなギコのもとへ歩み寄ると、目を輝かせて言った。


( ><) 「すごいんです! どうして香水の瓶ってわかったんですか?」

(,,゚Д゚) 「ん? ああ。 箱を開けたときにさ。
     こう、ふわって」

( ><) 「匂いですか?」

(,,゚Д゚) 「そう」


 部屋はそう広くはないが、宝石箱を開けた位置からベッドまでは3メートル以上離れている。


(; ><) 「す、すごいんです。 ワンちゃんみたいなんです……」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:09:28.75 ID:DiZZDF8U0
 
(,,゚Д゚) 「まあな。
     そうそう、自己紹介がまだだったな。
     オレはギコ。 外藤(げとう)ギコってんだ」

( ><) 「あ、ぼくは、稚内……」

(,,゚Д゚) 「よろしくな、タラちゃん」

Σ(; ><) 「タラ……!?
        ぼ、ぼくはそんな名前じゃないんです!」

(,,゚Д゚) 「んーな口調のコドモが他にいるか」

(; ><) 「と、年上の人には敬語を使わないといけないんです!
       おかあさまに叱られるんです!」

( ФωФ)-3 「……何にしろ、無事で良かったのである」


 いつもの調子を取り戻したらしいギコの様子に、ロマネスクはホッと一息つく。
 部屋の空気が弛緩した。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:12:12.15 ID:DiZZDF8U0
 
 鈍痛の残る頭を押さえつつ、ギコはビロードに聞いた。


(,,゚Д゚) 「ところでよ、その香水ってそんなに大事なものなのか?」

( ><) 「はいなんです!」

( ФωФ) 「余程珍しい代物なのだな」

( ><) 「いえ、違うんです」

(,,゚Д゚) 「あん?」


 言葉を区切ったその横顔へ、僅かな影が差す。
 下を向き、拳を握ると、ビロードは再度口を開いた。


( ><) 「……形見なんです」

(,,゚Д゚) 「……形見?」

( ><) 「……はい。 ママの……」
 _,
(,,゚Д゚) 「……!?」


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:16:12.51 ID:DiZZDF8U0
 
( ФωФ) 「お主、母上は御存命ではなかったのか」


 両親について彼に尋ねた際の、
 「母とはしばらく会っていない」という言葉を、ロマネスクは思い出していた。
 うつむいたまま、ビロードは続けた。


( ><) 「いまのおかあさまは、ぼくの本当のママじゃないんです……」

(,, Д ) 「!」


 ずきん。
 その答えを聞いた途端、ギコの頭に疼痛が走る。


( ФωФ) 「……」


 彼の様子を一瞥するロマネスクの表情は相変わらずだったが、
 その脳内では様々な思案を巡らせていた。

 ギコからは明らかな動揺が見て取れる。
 両親を殺され、その遺品である 『 箱 』 を所持している彼にとって、
 形見を探しに来た、というビロードの言に感ずるものがあろうことは容易に想像できた。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:18:31.96 ID:DiZZDF8U0
 
 そして、ロマネスクは今もって少年への疑心を拭えずにいた。
 匂いを通じて精神攻撃を行うチャネラーと、香水を探して館を彷徨っていたビロード。
 漠とした共通性ではあるが、どうにも偶然の一致とは考えがたいものがある。

 ビロードが犯人なのかは定かではないが、
 たとえ他の人間の仕業だとしても、その居場所も目的も未だ不明のまま。
 屋敷に留まり続ける限り、チャネラーの脅威は去っていない。  これは事実だった。

 暫しの沈黙ののち、ロマネスクは己の結論を口にした。


( ФωФ) 「……どちらにせよ。
        存外荒らされてはいなかったとはいえ、屋敷には少なからず人が侵入した形跡がある。
        宝石箱が開けられていたのなら、
        残念ながらその中身は持ち去られてしまった可能性が高いだろう」

( ><) 「……はい」

( ФωФ) 「もうすぐ日が暮れるし、暗くなれば危険である。
        ひとまず、そのことは諦めて……」


 館からの退出を促すロマネスクだったが、その言葉に「待った」の声が重なった。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:21:40.36 ID:DiZZDF8U0
 
(,,゚Д゚) 「探そう」

( ^ω^) 『 探すお 』


 ──目の前のベッド、そして脳内より、同時に。


( ФωФ) 「……正気であるか」

(,,゚Д゚) 「オレはいつだって本気だ!」

( ФωФ) 「どこにチャネラーが潜んでいるかわからんのだぞ。
        攻撃自体、すぐに再開される恐れもある。
        お主はそれに耐えられるのか?」

(,,;゚Д゚) 「う……ちょ、ちょっと位なら大丈夫だろ」

( ФωФ) 「大丈夫ではなかったから言っておるのだ。
        それに、屋敷にその小瓶とやらが残っている保障もない」

(,,゚Д゚) 「それなら問題ねえ! ちょっくら ” 嗅いで ” 確認してみるさ」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:24:23.43 ID:DiZZDF8U0
 
( ФωФ) 「臭いを追跡するというのか?
        その間に攻撃されたら、お主……」

(,, Д ) 「大丈夫っつってんだろ!」


 その一言で、部屋はしん、と静まり返った。
 胸の奥から搾り出すような叫号だった。


( ФωФ) 「……」

(; ><) 「お、お兄ちゃんたち、喧嘩しちゃダメなんです……」


 唐突な剣幕にビロードが狼狽える。
 ギコは肩を震わせながら続けた。


(,, Д ) 「……その……オレだって、不安ちゃ不安だけどさ」

( ФωФ) 「……」

(,, Д ) 「頼む、やらせてくれ。 可能性が残っているうちは諦めたくねえんだ」

(; ><) 「あう……」


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:27:11.24 ID:DiZZDF8U0
 
( ФωФ) 「……」


 毛布の端を掴み、唇を噛み締めるギコ。
 彼を駆り立てるものの正体を、ロマネスクはおぼろ気ながら理解していた。

 沈黙ののち、ロマネスクはふうと溜息をつき、変わらずの無表情で言った。


( ФωФ) 「……絶対に無理するな。
        危険を感じても戦おうとするな。
        何かあったら、屋敷を出ることだけ考え、そこに全力を注ぐのだぞ」

(,,゚Д゚) 「……!」

(,,*゚Д゚) 「おう!」

(* ><) 「ありがとうなんです!」

( ФωФ)−3 (最初に忠告した内容とほぼ同じなのだがな……)


 組んでいた両腕を解くと、ロマネスクは告げた。


( ФωФ) 「我輩はひとまず ” 引っ込む ” ことにする。
        よって、後はお前達だけでやるのである」


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:29:27.03 ID:DiZZDF8U0
 
(,,゚Д゚) 「お? それって……」

( ФωФ) 「心配するな。 ブーンが代わりに探すと言っている」

(,,゚Д゚) 「おお、そっか!」

( ><) 「?」

( ФωФ) 「それとビロードとやら。 お主に一つだけ言っておくことがある」

( ><) 「はいなんです!」


 上着の裾に手を差し入れつつ、ロマネスクは続けた。


『 我輩は ” おじさん ” ではない 』


Σ(; ><)

(,,゚Д゚) (気にしてたのか……)


 〜 〜 〜

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:32:07.73 ID:DiZZDF8U0
 
( ^ω^) 「じゃあ、瓶がまだあるのかどうか、確かめてみて欲しいお」

(,,゚Д゚) 「おう! 任せとけ」


 元の人格に戻ったブーンが床の宝石箱を持ち上げる。
 彼から箱を受け取ると、ギコはそれを開き、鼻先にめいっぱい近づけた。


(,,-Д-)゙ □ クンクン

(; ><) 「な、何してるんです?」

( ^ω^) 「まあ待つお。 ココは彼に任せるお」

(; ><) (? なんか内藤さんの雰囲気が変わったんです)

( ^ω^) 「げと……ギコはめっちゃ鼻がいいんだお。 警察犬もお手上げだお」

(; ><) 「やっぱりワンちゃんみたいなんです……」


 暫時ののち、ギコは箱をビロードに手渡す。


(,,゚Д゚) 「よし、覚えた。
     今からこのニオイを【検索】してみるわ」


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:34:50.30 ID:DiZZDF8U0
 
(,,-Д-) 「……」


 そうして目を閉じ、胸一杯に空気を吸い込んだ。


(,,-Д-) 「……」 スゥゥゥウゥ

(; ><) 「お兄ちゃん……?」 ドキドキ

(; ^ω^) (あ、おなら出そう。 ガマンだお……) ドキドキ


 二人が見守る中、ギコの緩やかな深呼吸は続く。
 何度かそれを繰り返したのち、彼の鼻頭がぴくりと反応した。


(,,-Д゚) 「……見つけた、ぜ」

( ^ω^) 「! 本当かお!」

(,,;゚Д゚) 「ああ。 でもちょっと、まだ……本調子じゃねえ。
      宝石箱と同じ匂いを、確かに屋敷のどこかに感じた。
      ただ、正確な場所までは……」


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:37:47.79 ID:DiZZDF8U0
 
( ><) 「あるってわかっただけでも充分です! 本当にありがとうなんです!」


 ギコのその言葉に、ビロードがぱっと顔を輝かせた。


(,,゚Д゚) 「ああ。 引き続き探索ケッテーだな!」

( ><) 「はいなんです!」

(,,-Д-) 「ちょっと待ってろよ……せめてどの方向かくらいは……」 スゥゥゥウ

(* ^ω^) 「あっ」 ブッ

( ><) 「!」


(,, Д )

Σ(,,||◎Д◎) 「:@p;_?‘|^−/@!!!」

Σ(; ><) 「おにいちゃ……くさっ」

(; ^ω^) 「す、すまんお。 すかしっぺだから勘弁お……」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:42:05.46 ID:DiZZDF8U0
 
 ひとしきり咳き込んだのち、ギコは天井を指差し、告げた。


(,,|||´Д`) 「なんとか……わかったぜ。 2階だ」

( ><) 「本当ですか?」

(,,゚Д゚) 「ああ、だと思う。 あの香りは上のほうから漂ってきた」

( ><) 「ありがとうなんです!」

  Ω゙
( ;ω;) 「お」

(,,゚Д゚) 「2階にはどんな部屋があるんだ?」

( ><) 「お父様とお母様のおへやがあったんです。
       あと、本がたくさんあるおへやも」
  Ω゙
( ^ω^) (書斎かお)

(,,゚Д゚) 「他には? それだけか?」

( ><) 「それに……ええと、
       執事さんたちの使うおへやとか、物置とかです」
  Ω゙
(; ^ω^) 「……お?」


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:45:07.46 ID:DiZZDF8U0
 
 ブーンはその言葉に引っかかるものを感じたが、
 疑問を口にすることはなく、床の算数ドリルをのんびりとローテーブルに戻す。


(,,>Д゚) 「よっし、んじゃ早速……っつ」


 そう言ってベッドを降りようとしたところで、ギコは苦しげに頭を抱え込んだ。

  Ω゙
(; ^ω^) 「お……まだ体調悪いのかお?」

(,,#-Д-) 「半分はオメーのせいだけどな」

( ><) 「頭痛のおくすり持ってるんです。 飲みますか?」

(,,゚Д゚) 「あ……サンキュ。 もらうわ」


 結局、ギコへは少し休んで行くよう促し、ブーン達ふたりが2階へ先行することとなった。
 水無しで飲む錠剤に苦戦しながら「すぐに行く」と告げたギコ。
 元の居住者であるビロードが一緒であることに加え、
 いまや屋敷から完全に 『 臭い 』 が消えたことが、彼らを無意識に楽観させていた。

 それでも一応は用心している素振りで、辺りの様子を窺いつつそろそろと廊下に出る。
 やはり悪臭が漂ってくることはなかった。


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:47:13.76 ID:DiZZDF8U0
 
 ドアを閉めると、ブーンは別の疑問を口にした。


( ^ω^) 「そう言えば、この隣は?」

( ><) 「メイドさんたちの使ってたお部屋なんです」

(* ^ω^) 「メイドさんかお?」

(; ><) 「か、家政婦さんと言ったほうがいいかもです……。 40歳くらいの」

(::::^ω^) 「ああ……」


 ブーンはノブに伸ばしかけていた手を引いた。

 それから二人は並んで歩き出す。
 玄関へ向かって経路を戻る最中、ブーンはさらにビロードへ問いかけた。


( ^ω^) 「ところで、さっき言ってた 『 ワカッテマス君 』 て、この近くに住んでるのかお?」

( ><) 「おうちはわかんないんです。
       でも、いつもぼくのところに遊びに来てくれたんです。
       ぽっぽちゃんと一緒に」

( ^ω^) 「ぽっぽちゃん?」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:49:46.49 ID:DiZZDF8U0
 
( ><) 「ワカッテマス君のおよめさんなんです。 とっても可愛い女の子なんです!」
  ._, 、_
( ^ω^) 「???」


 ままごと遊びの延長なのだろうか。
 無理やりそう納得すると、ブーンはそれ以上問うことはせず、汗をふきふき廊下を辿っていった。

 応接間である二つのドアを通り過ぎ、やがて二人はエントランスホールへと辿り着く。
 日が暮れ始めたのか、屋敷へ侵入したときに比べて窓から差し込む陽光が弱く感じられた。

 二階へ続く階段は、廊下側から見て左方に、直角に伸びていた。
 踊り場まで上ったところで、ブーンは立ち止まって再度ハンカチを取り出した。


(; ^ω^) 「オフっ、おうふ」 フゥフゥ

(; ><) 「大丈夫ですか? ちょっと苦しそうなんです」

(; ^ω◇゙⊂ヽ 「お……思ったより、一段の幅が大きいお」 フキフキ

(; ><) (って、たったの数段上っただけなんですけど……)

っ□;^ω^) 「しかし喉が渇くお。 飲み物一本買ってくるべきだったお」 フキフキ

( ^ω^) 「……お?」
 つ□


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:52:29.58 ID:DiZZDF8U0
 
 そこで彼は気づいた。

 何気なく送った視線の先、手すりを掴むために上へ伸ばされたビロードの袖はめくれており、
 細い手首が露わになっている。
 そしてそこには生々しい傷痕が、おそらくは肘のほうまで続いていた。


(; ^ω^) 「お、それ」

(; ><) 「え? あ……」 サッ


 古傷への注視を感じ取ったのか、ビロードはそそくさと袖を戻す。


( ^ω^) 「……」
 つ□

 ブーンの脳裏に様々な想像が過ぎったが、どれも口に出すのは憚られ、
 取ってつけたような咳払いを合図として、二人はただ無言で階段を上っていくだけだった。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:55:18.92 ID:DiZZDF8U0
 
 二階へ辿り着くと、左側の突き当たりに窓が幾つか見えた。
 その下のスペースには丸テーブルと椅子があり、ホールは小規模なサロンのようになっている。
 カーテンは薄手で、光を透過し辺りを淡く照らしていた。

 向かって右側が屋敷にとっての奥側となり、
 中心に伸びた廊下の左右にそれぞれドアが見える。
 部屋の数以外は下と同じようなつくりだが、
 廊下は一階よりよほど明るく、探索への不安が紛れるように感じられた。

 ブーンは廊下を少し進むと、すぐ右にあったドアへ無造作に手をかけた。


( ^ω^) 「お……開かないお。 鍵はあるかお?」 ガチャガチャ

( ><) 「ごめんなさいなんです。 ぼく、持ってないんです」


 ビロードは小さくかぶりを振る。


( ^ω^) 「お……そうかお」


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 23:58:04.16 ID:DiZZDF8U0
 
 それは少し考えればわかることでもあった。
 ブーン達5人が屋敷へ来訪したとき、入り口である鉄扉は堅く閉ざされており、
 今もそれは変わらない。

 ビロードはブーン達より先に屋敷へ来ていたはずであり、
 彼がわざわざ内側から扉を閉ざしたのでない限りは、
 ブーン達と同じく、一階の破損したサンルームから屋敷内に侵入したのだと推察できる。
 おそらく、ビロードはなに一つ邸内の鍵を持ち合わせていないのであろう。

 その考えに行き着くと、ふと、ブーンの中に躊躇いが生まれた。
 ロマネスクが再三危惧していた、『 ビロードこそが元凶のチャネラーである 』 という可能性が、
 今さらながら、ブーンの心へ圧し掛かってきたのだった。


( ><) 「次に行くんです。 開いている部屋がないか探してみるんです」

( ^ω^) 「あ、まだ。 ちょっと待つお」

( ><) 「?」

(; ^ω^) (やっぱり、ギコを待ってからのほうがいいのかお……?) ドキドキ

( ^ω^) 「えーと……こっちも一応調べておくお」


 そう言うとブーンはサロンのほうへ引き返し、
 そこに設置されている椅子の下を仰々しく探る。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:00:35.25 ID:h9/cU8Dh0
 
(; ><) 「あ、ありますか?」

(; ^ω^) 「み、見つからないおー。 この辺りはどうかお……」


 ひとしきり調べる振りをすると、窓際に移動し、カーテンを開いて周辺を見回した。
 ビロードが射し込む西日のまぶしさに顔を覆う。

 二階は存外に明るく、ブーンの畏怖は次第に薄れていった。
 ホールとサロンに限って言えば、ここが無人の廃屋敷などとは微塵も感じさせない雰囲気だった。


( ^ω^) 「……そう言えば、ビロードの部屋はどうして下にあるんだお?
       上のほうが明るくてよさげな感じだお」


 嵌め殺しらしき大き目の連窓は、幽玄な趣のある周囲の森の一角を切り取っていた。
 近くの木から飛び立つ鳥のシルエットを目で追いながら、
 ブーンは何気なく、尽きない疑問のひとつを口にした。


( ><) 「……もともとは、ぼくのおへやも二階だったんです。
       新しいおかあさまがおうちに来たあと、
       しばらくしてから、工事したんです」

(^ω^ )゙ 「お? どうしてそんなこと……?」

( ><) 「” 病気にさわるから ” って言ってたんです」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:03:22.91 ID:h9/cU8Dh0
 
 ビロードは椅子の埃を手で払うと、窓に背を向けるようにして腰を下ろす。
 ブーンはそちらを振り返り、次の瞬間、目を丸くした。


(゚ω゚ ) 「……」


 どうして今まで気づかなかったのか。
 いや、ここが明るいからこそ、それがはっきり見て取れたのであろうが──。

 シャツの襟から覗く後頭部の下、首筋から肩にかけて青紫の大きな痣があった。
 それだけではない。
 ビロードの首周りには、火傷だろうか、ケロイド状の傷痕が点在している。
 まるで煙草かなにかを押し付けられたかのように。


( ><) 「懐かしいんです。 この椅子に座るの、久しぶりなんです」


 ビロードは足をぶらぶらさせながらそう呟いた。
 彼の肩越しに、ブーンは廊下のドアへと視線を移す。
 ドア同士の間隔は広く、中へ入らずとも、部屋はそれなりの広さを有していることが窺い知れる。

 ここ二階には、書斎、執事の部屋、それから両親の寝室があるとビロードは言っていた。
 執事の部屋とは、寝室というより執務室のようなものなのかも知れないが。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:07:03.84 ID:DiZZDF8U0
 
 どれが何の部屋なのかは、入室してみないことにはわからない。
 しかし、少なくとも──。
 一階に存在する唯一の家人の寝室、すなわちビロードの部屋に比べると、
 どれも余裕のある間取りであることは明らかだった。


(; ^ω^) (あう……これって)


 彼の言う 『 あたらしいおかあさま 』 とは、当然ながら、両親が再婚したことを示しているだろう。
 後妻の命により、ビロードは部屋を下へ移されたという。
 食堂の奥、裏口近くの狭く薄暗い部屋。  おそらくは家政婦の使うものと同じつくりの部屋。

 ……たとえそれが、本当に病気の療養に必要な行為だったのだとしても。
 手首を覆う古傷は、肩口に残った火傷の痕は、病による結果ではない筈。
 青痣については定かではないが、最近できたものなのだろうか。
 ……どうやって?

 病院関係者の仕業だろうか。
 まさか。  こんなに生々しく残る傷痕を見て両親が黙っているわけがない。


(; ^ω^) (ビロード……君はひょっとして……)


 それらの事実は、自然、一つの暗い憶測へと帰結する。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:10:50.96 ID:h9/cU8Dh0
 
( ><) 「内藤さん」

Σ( ゚ω゚) 「ほひゅ!?」

(; ><) 「どうしたんです?」

(; ^ω^) 「な……なんでもないお。 ここで日向ぼっこしたら気持ち良さそうだなーと……」

( ><) 「はいなんです。 すごくいい気持ちなんです。
       新しいおかあさまがいらしてからは、ぼくが二階へ来ることはなくなったんですけど。
       それでも、お外でママとこうしていた事を思い出すんです」

( ^ω^) 「……」


 外のテラスには、引き倒された丸テーブルと白い椅子が無残な姿を晒していた。
 それらを見て来たであろうビロードの胸中は量りかねるものがある。


( ^ω^) 「……瓶、見つかるといいお」


 自然に口をついて出た言葉は、無論、ブーンの本心であり、


( ><) 「……はいなんです」


 彼の気遣いに、ビロードは穏やかな笑みで返した。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:13:15.20 ID:h9/cU8Dh0
 
( ^ω^)b 「余程大事なものなんだお?
        もし見つかったら、二度と忘れないようにしなきゃだお」

(((; ><))) 「忘れていったわけじゃないんです!
         急にお引越しが決まって、持っていく時間がなかったんです……」

(; ^ω^)b 「お、お……」


 精一杯和まそうとして加えた軽口だったが、
 殊の外険しい表情でかぶりを振るビロードの姿に、ブーンは多少の後悔を覚えた。


( ><) 「……たったひとつ」

( ^ω^)b 「……え?」

( ><) 「その瓶は、ママとぼくの、この世に一つだけの」


 そこまで言うと、不意にビロードはテーブルに視線を落とす。
 一瞬間を置き彼は続けた。


「たったひとつの、思い出の品なんです」


 そして少年は噛み締めるかのように、とつとつと過去を語り始めたのだった。


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:16:14.71 ID:h9/cU8Dh0
 

 ( ><)

 ──ママがいなくなってすぐ、おとうさまは女の人……
 いえ、新しいおかあさまを、おうちに連れてきました。


 ママとはちがって、とっても厳しいおかたなんです。
 きちんとした言葉づかいじゃないと、すごくおこられるんです。


 おこるとご飯を食べさせてもらえないんです。
 くらいおへやに閉じ込められるんです。
 ぼくはそれが、とっても怖かったんです。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:18:19.41 ID:h9/cU8Dh0
 

 それから。
 新しいおかあさまは、ママの持ち物をみんな捨てちゃったんです。
 ティーカップも、おようふくも、ブローチも……みんな、みんな。


 ママの使っていたお道具は、
 ママのぬくもりを残すものは、
 ママの面影を映すものは、ぜんぶ。

 ぼくの家から、なくなっちゃったんです。


 ( 。><)

 たったひとつだけ、
 ママのつけていた香水のびんを除いては。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:21:40.66 ID:h9/cU8Dh0
 

 ──みかんみたいに、ほのかに甘くてすっぱいその匂い。

 とってもいい匂いなんです。
 抱きしめてくれたとき、ママのむねからその香りがいっぱいに広がるんです。
 ママの匂いなんです。 ぼくはそれがだいすきだったんです。


 (* ><)

 毎晩、びんを取り出して眺めるんです。
 あったかいんです。 ママの匂いがするんです。
 そして、やさしかったママのことを、
 たくさん、たくさんおもいだすんです。


 ──ママにあえるのは、おかあさまが家に居ない日と、夜だけだったんです。
 朝までにその匂いがとれないと、見つかっちゃうから。
 見つかったら、ママのびんも捨てられちゃうに決まってるから。



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:24:12.94 ID:h9/cU8Dh0
 
( ><) 「……みかんの香水は、ママの香りが残る、たったひとつの思い出の品なんです」


 話し終えた途端、ビロードは静かに目を閉じた。
 かける言葉が見つからず、ブーンはただその姿を見つめ続ける。


( ^ω^) 「……」

( ><) 「ぽっぽちゃんも、その香りが大好きだったんです。
       あ、ワカッテマス君はそうじゃなかったみたいですけど……」

( ^ω^) 「……」


 寸刻ののち、ブーンはどうにか返答を搾り出した。


( ^ω^) 「……きっと、おませさんだったんだお」


 目の前で憂いに沈む小さな肩。
 少年の境遇を慮ると、ブーンの口から自然に溜め息が漏れた。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:26:34.80 ID:h9/cU8Dh0
 
 しかし、それは嘆息ではなく、決意の篭った吐息だった。
 屋敷のどこかにあるとわかった以上、出来ることならばビロードには瓶を持ち帰って欲しい。
 そうすれば、少年は僅かばかりの笑顔を取り戻すことができるだろうか。

 いや、やるしかない。 やってやる。
 探すお。
 きっと見つけ出してやるんだお。


( -ω-) 「……うーむ、お」


 ブーンは腕組みし、目を瞑って現状を勘案した。

 まだ全て調べたわけではないが、殆どの部屋は施錠してある可能性が高い。
 場合によっては強行手段も考えられるものの、滅多矢鱈にドアを破壊しようというのも気が引ける。

 流石に 『 二階にある 』 という情報だけでは心許ない。
 大まかな場所、せめてどの部屋にあるのかくらいは把握しておきたい。


( -ω-) (……よし)


 そんなブーンの出した結論は、
 やはりギコの到着を待ち、瓶の場所を【探知】してもらった後に動くことだった。
 目を開けると、待機を促すべくビロードに声をかける。


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:29:14.57 ID:h9/cU8Dh0
 
( ^ω^) 「もうすぐギコが来ると思うお。 そしたら改めて……」

Σ( ゚ω゚) 「って、おお!?」

( ><)っ゙ 「やっぱり開かないんです……」 ガチャガチャ


 が、しかし。
 ビロードは既にサロンから離れ、右奥のドアの前でノブを回していた。


三(; ^ω^) 「ちょ! 待ってくれお。
         物事にははひゅ、手順というもふひゅっ」


 それを見たブーンは、ビロードのもとへ慌てて駆け寄ったが、
 

三Σ(; ゚ω゚)ノノ 「ふおっ」


つ; ^ω)つ そ 「わっぷ」


 びたん。
 そのまま足がもつれ、カーペットにダイブする形となった。


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:32:54.64 ID:h9/cU8Dh0
 
(; ><) 「だ、大丈夫ですか?」

つ;−ω)つ 「お……一命は取り留めたお」


 ブーンは倒れた姿勢のまま答えた。
 本当に自分は何をやっても様にならないな……などと、心中にて自嘲する。
 そうして、立ち上がろうとした際のこと。


つ ^ω)つ 「……お?」


 きい、きい。
 どこからか、微かにきしむような音がブーンの耳に届いた。


( ^ω^)ヾ 「……突き当たりの、奥からだお」

( ><) 「え?」


 むくりと起き上がると、ブーンは正面の様子を確認した。
 廊下は奥から左右に分かれている。
 うろたえるビロードを尻目に、彼は廊下の角に向かって歩を進め、右方向へ目を向けた。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:35:19.98 ID:h9/cU8Dh0
 
 少し先に洗面所と思われるドアがあり、
 さらに廊下はくの字に折れて屋敷の奥へと続いている。
 先は仄かに明るい。 あちら側にも窓、ともすればバルコニーなどが存在するのかも知れない。

 次にブーンは逆側、左方向へと振り向いた。


( ^ω^) 「!」


 右とほぼ対称的なつくりではあるが、
 向かってさらに左の位置にドアがあり、僅かに開いていた。


( ^ω^) 「ここは……?」

( ><) 「!  あ、【 開かずの物置 】の扉が……」

( ^ω^) 「開かずの、物置?」

(; ><) 「はい、おかあさまが改修を……それからはずっと鍵が掛かってたんです」


 改修、という単語にブーンはハッとした。
 もしかするとそれは、ビロードの部屋を下に移したのと同時期のことなのだろうか。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:38:31.22 ID:h9/cU8Dh0
 
(; ^ω^) 「ちなみに、この部屋は、ひょっとして」

(; ><) 「……」


 質問の意図を察したのか、数度の瞬きを挟み、ビロードはその答えを口にした。


( ><) 「ママのお部屋、だったんです。 ……改修前までは」

( ^ω^) 「──!」


 ブーンはノブを引っつかむと、勢いよくドアを押し開いた。


 〜 〜 〜


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:42:06.95 ID:h9/cU8Dh0
 
 ふたりが二階で物置を発見する少し前のこと。
 未だ子供部屋に留まるギコは、配膳室にて経験した出来事を思い返していた。


(,,-Д-) 「……」


 最初、五人での侵入時に、屋敷の危険性は理解したつもりでいた。
 自分だって幼稚な好奇心だけで戻ってきたわけではない。
 欲しかったのは唯一つ、手がかりだ。

 トラウマを掘り起こす禍々しい臭気。
 人の意識の根源から、増幅した【恐怖】【不快感】を掬い取る 『 ちゃねらー 』 。

 接触してどうなるものでもないという事は頭の隅でわかっていた。
 剥き出しの敵意にただ翻弄されるのが落ちであろうとも。

 それでも……それでも何か一つ、【あの日】の出来事に関連する糸口が得られるのなら。
 ギコはそれ程までに件の出来事に執心している。 彼はただ、渇望していた。


(,,゚Д゚) (けど……俺は向き合うことができなかった)


 あの情景を、あんなにまざまざと見せつけられるなんて。
 手がかりも何もあったものではない。 それを使った【攻撃】に耐えられなかった。

 なんだかんだと理由をつけたところで、自分は恐れに屈して真実から目を逸らそうとしたのだ。
 ギコは唇を噛み締めた。 今はそれが悔しくて仕方なかった。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:46:31.98 ID:h9/cU8Dh0
 
(,, Д ) 「……行こう、あんま待たせるわけにはいかねえ」


 敢えてはっきりと口に出して言った。 自身を説き伏せるかのように。
 鈍痛の残る頭を抱えてベッドから降りる。
 そうして、ドアのノブに手を伸ばした瞬間のことだった。


(,,゚Д゚) 「──!?」


 結果的には、全ての見通しが甘く軽率だったと言えるだろう。
 何故あの時即座に屋敷を出なかったのか。
 ギコは一向に学習しない自己の暗愚を呪ったが、後悔先に立たず。

 ふわり。
 鼻腔をくすぐる甘酸っぱい匂いが、鼻先へと漂ってきたのだ。


(,,;゚Д゚) 「し、しまっ……」


 香気の発生は唐突で、当然のように発生源は見当たらない。
 間違いない、 【 ちゃねらー 】 による攻撃の再開だ。
 ギコがそう理解したときには、柑橘系の芳香は既に辺りを包み込んでおり──。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:49:26.48 ID:h9/cU8Dh0
 
Σ(,,゚Д゚) (このニオイは……!?)


 そしてそれは、今までの ” 攻撃 ” とは似て非なるものだった。
 彼はその香りにはっきりと覚えがあった。
 他でもない、ビロードが探し求めている筈の芳香。 先程嗅いだあの宝石箱の──。


(,, Д ) 「──ッ!」


 フラッシュバックの訪れもまた、唐突だった。

 目の前がぼやけ、脳裏へ断続的に、強制的に鮮明な映像が割り込んでくる。
 ギコはすぐに異変を察知したが、抗うことは叶わない。

 強烈な閃光とともに、イメージカットの不規則配列が視界をかき乱す。
 配膳室の出来事と同じ現象だった。

 しかし、はっきりと異なる点が二つあった。
 この匂いと映像には、あの時嫌になるほど味わわされた
 【恐怖】や【圧迫】という重苦しく粘質な不快感が伴っていないのだ。

 全身を包み込むのは浮遊感。 直立したまま遠い世界に飛ばされるような感覚。
 それはマイナスな感情とは対称的なものだった。
 加えて、瞼の裏に乱舞するのは憶えのない視点からのイメージ。
 見たことのない、けれども懐かしく胸に染み入る夢心地の光景。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/11(木) 00:52:37.70 ID:h9/cU8Dh0
 
(,, Д ) 「な……、ち……が」


 これは自分の記憶ではない。
 ギコがそう理解する頃には、視界は乳白色に、意識は混濁の渦中にあった。

 耐えられず壁にもたれると、力なくずるずる滑り落ちてゆく。
 へたり込む感覚はなかった。
 床を経て部屋は反転し、そのまま天井へ。 どこまでもただ落ちてゆくだけ。


「あ……」

「……あああ……!」


 そして、白亜のスクリーンへ徐々に浮かび上がるモノクロームの立体感。



 映像の中、ギコはひとり、瀟洒な洋館を見上げていた。




 (続く)
 

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