- 1 :書初め(佳作):2006/12/21(木) 19:36:44.38 ID:59DYSPfP0
- エレベーターは静かに上昇し続けている。
時折揺れるかすかな振動で、ブーンはこのエレベーターがまだ昇り続けていることを確認した。
( ^ω^)「このエレベーターいつ止まるのかお?」
ブーンは何度目かの質問を繰り返す。
ξ゚听)ξ「さあ・・・」
スーツを着たOL風の女は、うんざりしたように返事を返した。
( ^ω^)「今何階くらいなんだお・・・」
ξ゚听)ξ「・・・さあ」
設計上のミスか、あるいは故意なのか、ブーン達の乗ったエレベーターには、現在の階を示す表示盤は取り付けられていなかった。
- 3 :書初め(佳作):2006/12/21(木) 19:37:44.88 ID:59DYSPfP0
- インターネットのホームページには、99階の超高層ビルだと書いてあった。
屋上には最新鋭の設備を施したイベント施設があり、都心の新たな中心地になる予定だった。
ブーンはそのイベントスタッフの面接のためにこのビルへとやってきた。
ξ゚听)ξ「屋上直通ですよ」
エレベーターの前へ行くと、ビジネススーツを着た女がブーンの顔を見て確かめるように言った。
ブーンはうなずき、そしてこのエレベーターの『上昇』が始まった。
- 4 :書初め(佳作):2006/12/21(木) 19:38:53.37 ID:59DYSPfP0
- 通常より広いエレベーターだった。
オフホワイトの光沢のある四方の壁に、ピカピカに磨かれたシルバーのドア。
床にはブーンの足首がすっぽりと覆われてしまうほどの、毛先の長いカーペットが敷かれている。
カーペットの色は品のよいコーヒーブラウンだった。
( ^ω^)「ビル内に人っ子ひとりいなかったお・・・」
壁に背をもたせかけながら、ブーンはつぶやいた。
併設されたカフェバーはマスコミや雑誌で大々的に取り上げられ、ブーンが調べたホームページでもエレベーター前に行列ができるほど大人気だということだった。
- 6 :書初め(佳作):2006/12/21(木) 19:40:14.50 ID:59DYSPfP0
- ξ゚听)ξ「確かにあなた以外の人間を見てないわ」
( ^ω^)「このビル、なんだかおかしいお・・・」
ξ゚听)ξ「・・・・・・」
( ^ω^)「いくらなんでも時間がかかりすぎだお・・・」
時計の針は午後9時を指している。
( ^ω^)「もうとっくに面接終わっちゃったお・・・」
面接は午後6時からの予定だった。
ξ゚听)ξ「そうね・・・もう3時間以上も昇り続けてるわね」
( ^ω^)「非常ボタンは押しても止まらないし・・・」
ξ゚听)ξ「緊急連絡用の無線もつながらないしね」
( ^ω^)「携帯も県外だお・・・」
ξ゚听)ξ「昇ってるから故障ってわけでもないようだし」
( ^ω^)「打つ手なしだお・・・」
かれこれ3時間、このエレベーターは上昇し続けていた。
- 7 :書初め(佳作):2006/12/21(木) 19:42:06.04 ID:59DYSPfP0
- 必死でドアを叩くのにも、大声で助けを呼ぶのにも疲れた彼らは、同時に大きなため息をつくと再び床に座りこんだ。
エレベータは静かに昇り続けている。
時計の針が午後10時を指した。
それまで膝を抱えこむようにして座っていた女がふいに口を開いた。
ξ゚听)ξ「そうだ・・・、あの天井のパネル取れるんじゃないかしら?」
女が指差した先、エレベーターの天井には2m四方の脱出用のフタがあった。
- 8 :書初め(佳作):2006/12/21(木) 19:42:56.20 ID:59DYSPfP0
- ( ^ω^)「いいアイディアだお! さっそく昇ってみるお!」
ξ゚听)ξ「あんたの身長じゃ届かないようだし・・・いいわ肩車して。この際仕方ないわ」
( ^ω^)「オッケイだお!」
ブーンがしゃがむと、女はブーンの肩にまたがり、後頭部をつかんだ。
ξ゚听)ξ「いいわ・・あげて・・・ゆっくりね」
ブーンは全身の力をこめてゆっくりと立ち上がった。
ξ゚听)ξ「・・・ちょっと、震えてるけど大丈夫?」
( ^ω^)「・・・へ、平気だお・・・」
しかしブーンの足腰は、ふらふらとどこが危なげない。
- 9 :書初め(佳作):2006/12/21(木) 19:43:50.38 ID:59DYSPfP0
- ξ゚听)ξ「そんなに重くはないはずなんだけどな」
自分で言うだけあって、女の体はほっそりと引き締まり、モデルのような体系だった。
( ^ω^)「う、運動不足なだけだお・・・」
ブーンの首にぎゅっとふとももを絡ませ、女は慎重に手を伸ばす。
(*^ω^)(・・・こんなときに何なのだけどお・・・や、やわらかいふとももだお・・・)
ξ゚听)ξ「ん・・・よし、フタが外れた・・・」
- 10 :書初め(佳作):2006/12/21(木)
19:45:11.22 ID:59DYSPfP0
- (*^ω^)(女の人の体ってやわらかいお・・・まるでマシュマロみたいだお)
ξ゚听)ξ「ちょっと上に上がってみるから、しっかり支えててね」
( ^ω^)「あ、はい、了解だお!」
女はブーンの後頭部をつかみながら、肩を足場にしてエレベーターの屋根に上がろうとした。
ブーンは必死に支えようと、女の足をつかみふんばった。
ξ゚听)ξ「あ、もう足離していいわよ。上がれそう」
- 11 :書初め(佳作):2006/12/21(木)
19:47:14.52 ID:59DYSPfP0
- その声に反応して、ブーンがふと顔を上げた瞬間、女のスカートの中身が目に飛び込んできた。
肉付きのいい下半身を包み込んだ、黒いレースの下着が見える。
(*^ω^)(うわっ・・・なんてラッキーなんだお・・・綺麗なお姉さんのパンツ・・・最高だお・・・)
ブーンは目をひんむいて、目の前の情景をしかと脳裏に焼き付けた。
ξ゚听)ξ「よいしょっと・・・ああ、暗くて何も見えないわ」
女が見上げた上空には、永遠に続きそうな闇のトンネルしかなかった。
そこに光は無く、ウイイイインというエレベーターが上昇し続ける音が耳の奥に響いてくる。
女は巻き上がる風圧に髪を押さえながら、再びエレベーターの中へと戻っていった。
- 12 :書初め(佳作):2006/12/21(木)
19:48:33.37 ID:59DYSPfP0
- (*^ω^)(パンツ・・・お尻・・むっちむち・・・ハアハア)
ξ゚听)ξ「暗くてダメ。何も見えないわ。懐中電灯でもあればいいのに・・・」
(*^ω^)(ふともも・・・マシュマロ・・・ハアハア)
ξ゚听)ξ「ちょっと・・・! 聞いてるの?」
(;^ω^)「あ、ごめんだお! ちゃんと聞いてたお!」
ξ゚听)ξ「ならいいけど・・頭がおかしくなったのかと思って心配したわよ」
(;^ω^)「だ、大丈夫だお。ちょっと考え事してただけだお」
ξ゚听)ξ「そう・・・。でも次の手考えないとダメね」
( ^ω^)「そうだお・・・いつ止まるかわかんないしお」
- 13 :書初め(佳作):2006/12/21(木)
19:52:13.58 ID:59DYSPfP0
- ξ゚听)ξ「今持ってる物で、何か役に立つ物がないか探してみましょうよ」
( ^ω^)「ナイスアイディアだお」
そう言うと二人はカバンやポケットの中に入ってる物を、床に並べ始めた。
――ブーンの持ち物
リュック、携帯電話、電池式充電器、サイフ、腕時計、飲みかけの炭酸飲料、ガム2枚、ボールペン、漫画本3冊、携帯用ゲーム機とソフト3本。
タバコに100円ライター、面接用の履歴書、イヤホン、MP3ウォークマン、バタフライナイフ。
――女の持ち物
ξ゚听)ξ「ちょっと人の物勝手に見ないでよ!」
(;^ω^)「お・・・? だって見てみないと何が役に立つかわかんないお?」
ξ゚听)ξ「・・・仕方ないわね・・」
女はブツブツいいながら、床に持ち物を並べ始めた。
- 15 :書初め(佳作):2006/12/21(木)
19:53:58.45 ID:59DYSPfP0
- ――女の持ち物
携帯電話、サイフ、腕時計、手帳、アドレス帳、スケジュール帳、化粧ポーチ、香水、ツボ押しグッズ、サロンパス、栄養ドリンク2本、ハンカチとティッシュ。
文庫本、A4サイズの書類ケース、ビタミン剤、にぼしとキャットフード少量。
( ^ω^)「なんでお姉さんのバッグに、キャットフードとにぼしが入ってるんだお?」
ξ///)ξ「っるさいわね! ノラ猫見かけたらいつでもエサあげれるようによ!」
( ^ω^)「へえ・・・猫が好きなんだお?」
ξ゚听)ξ「あんたには関係ないでしょ! それよりあんたこそなんでナイフなんて物騒なモン持ってるのよ?」
- 16 :書初め(佳作):2006/12/21(木)
19:55:52.64 ID:59DYSPfP0
- ( ^ω^)「うーんと・・・まあ何かあったときのために、いつも持ち歩いてるんだお。特に理由はないお」
ξ゚听)ξ「あー怖い。あんたみたいのがキレてナイフで人刺したりするんだわ」
(;^ω^)「そ、そんなことしないお」
ξ゚听)ξ「一応さ、念のためにそのナイフこっちに渡してくれない?」
(;^ω^)「お・・・? 別にいいお」
そう言うとブーンは床に並べたバタフタイナイフを女に渡した。
ξ゚听)ξ「別に疑ってるわけじゃないんだけど、なんだか怖くて」
女は眉をしかめながらバタフライナイフをしばらく調べた後、ポケットに忍ばせた。
- 17 :書初め(佳作):2006/12/21(木)
19:57:32.38 ID:59DYSPfP0
- ( ^ω^)「大丈夫だお。ブーンは臆病だから人なんか刺せないお」
ξ゚听)ξ「・・・まあ、確かにその顔じゃあね・・・ところであんたブーンっていうんだ?」
( ^ω^)「お? そうだお。本名は内藤ホライゾンっていうんだけど、皆はブーンて呼ぶお」
ξ゚听)ξ「そう、私はツンっていうの。まあアンタの名前知っちゃったから、一応自己紹介しとくわ」
( ^ω^)「ありがとだお。ツンはOLさんなのかお?」
ξ゚听)ξ「わたし? うん、まあOLというか・・・まあそうね、OLね。会社の仕事でこのビルに来たんだけど・・・もうとっくに退社時間過ぎてる・・・」
- 18 :書初め(佳作):2006/12/21(木)
19:59:35.89 ID:59DYSPfP0
- ( ^ω^)「ブーンは面接に来たんだけどお・・・もう終わっちゃたお・・」
ξ゚听)ξ「あれ・・・ひょっとして内藤って・・・あんただったの!?」
( ^ω^)「お?」
ξ゚听)ξ「仕事ってアルバイトの面接だったのよ」
( ^ω^)「お! お姉さんが面接官だったのかお!」
ξ゚听)ξ「面接希望者と同じエレベーターに乗るなんて・・・面接官失格だわ・・・」
( ^ω^)「すごい偶然だお」
ξ゚听)ξ「まったく・・・ああ、これ履歴書ね」
( ^ω^)「そうだお」
- 19 :書初め(今年書くぞー):2006/12/21(木) 20:00:36.47 ID:59DYSPfP0
- 女――ツンは床に置かれた履歴書を手に取る。
ξ゚听)ξ「どれどれ・・・特技インターネット・・・趣味・・・漫画・・アニメ・・・」
( ^ω^)「特に好きなのはプリキュア、涼宮ハルヒのゆ―」
ξ゚听)ξ「ああ、聞いてないから答えなくていいわ」
( ^ω^)「失礼しましたお」
ξ゚听)ξ「ふうん・・・高卒で今は無職・・年は22か・・・」
( ^ω^)「時代の最先端をいくNEETってやつですお」
ξ゚听)ξ「あちゃー、志望動機が遊ぶ金がほしいからって、あんたこりゃいくらなんでも不合格だわ」
(;^ω^)「おっ!? やっぱダメかお?」
ξ゚听)ξ「いい? まず字が汚すぎるの。もっと丁寧書きなさい、それに――」
その時――
- 28 :書初め(今年書くぞー):2006/12/21(木) 20:11:56.32 ID:59DYSPfP0
- ガクン、とエレベーターが大きく揺れたかと思うと、急に下降し始めた。
そのスピードは徐々に上がっていく。
(;^ω^)「うわっ! やばいお! 落ちてるお!」
ξ;゚听)ξ「大変・・・! 早く何かにつかまって!」
ブーンはあわてて手すりを探したが、そんなものはどこにも見当たらなかった。
(;^ω^)「つかまるものなんてないお! まだ死にたくないお!」
ξ;゚听)ξ「あたしだって・・・イヤアアア!!」
胃がぎゅっと締め付けられる感覚にブーンは思わず嘔吐する。
(;^ω^)「おえええ!!」
ブーンの吐瀉物は白い壁に飛び散った。
ξ;゚听)ξ「ああ・・・お願い神様助けて・・・」
ツンはぎゅっと目を閉じて一心不乱に祈った。
- 31 :書初め(今年書くぞー):2006/12/21(木) 20:16:06.37 ID:59DYSPfP0
- ツンの祈りが通じたのか、エレベーターは急に動きを止めた。
その衝撃にふたりはバランスを失い倒れこむ。
そしてドアが開く。
永遠に開くことはないと思われたドアは、何の前触れも無く、ゆっくりとしかし確実に開いた。
( ^ω^)「ドアが開いたお!」
ξ゚听)ξ「ホントだ・・・止まってる・・・」
二人は急いで立ち上がると、先を争うようにして外へと出た。
- 32 :書初め(今年書くぞー):2006/12/21(木) 20:17:06.65 ID:59DYSPfP0
- ( ^ω^)「・・・・・・・お」
ξ゚听)ξ「なにここ・・・・」
そこは巨大な部屋だった。
二人は呆然としたまま、辺りを見回した。
学校の体育館ほどは軽くある広さの部屋は、一面真っ白な壁に覆われ、不自然に明るかった。
窓は一個も見当たらない。
天井を見上げると、何本もの蛍光灯がびっしりと設置されており、一本一本が不気味なほどの眩い光を放っている。
- 33 :書初め(今年書くぞー):2006/12/21(木) 20:18:44.02 ID:59DYSPfP0
- ( ^ω^)「・・・ピッカピカな部屋だお」
ξ゚听)ξ「部屋っていうより、何かの会場ね、ここ・・・」
ツンはキョロキョロしながら、部屋の中央に向かって歩いていった。
ハイヒールの乾いた音が、大きく響き渡る。
( ^ω^)「とにかく、出られてよかったお」
ブーンは先ほど嘔吐した口の周りを袖でぬぐうと、ツンの後を追った。
- 36 :書初め(今年書くぞー):2006/12/21(木) 20:20:54.77 ID:59DYSPfP0
- ξ゚听)ξ「ここ何階かしら? パーティー会場なのよきっと」
( ^ω^)「窓がないからわからないお。でもあれだけのスピードで落ちてきたから案外下のほうかもお」
ξ゚听)ξ「やっぱエレベーターの故障だったのね。ここの管理者に文句いってやらなきゃ」
( ^ω^)「ここのビル、2ちゃんに晒してメチャクチャにしてやるお」
ξ゚听)ξ「あ、ドアがある」
ツンが指差した先に白いドアがあった。
白い壁に同化しているためよく目をこらさないと、それがドアだとは容易にわからなかった。
- 37 :書初め(今年書くぞー):2006/12/21(木) 20:22:58.43 ID:59DYSPfP0
- ( ^ω^)「あっちにもあるお」
ξ゚听)ξ「あ、向こうにも」
ブーン達の乗ってきたエレベーターを含むと、ドアは全部で4つあった。
四面の壁のちょうど中央に、それぞれドアが設置されている。
ξ゚听)ξ「行ってみましょうよ」
二人はエレベーターの向かいにあるドアへ近づき、ノブに手をかけた。
( ^ω^)「おっ・・・」