4 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 19:48:17.63 ID:fY1KLw1e0
僕の店に、しぃの店が閉まることになるという話が入ってきたのは、少し肌寒くなってきた夜のことだった。
ドクオからそう聞かされたが、あまり実感がわくことはなかった。

('A`)「しぃ、今度店に来るってよ」

(´・ω・`)「そうか……、僕らが力になれればいいけど」


5 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 19:51:16.80 ID:fY1KLw1e0
僕はドクオにそう答えたが、本心ではしぃの力になれる自信はなかった。

彼女はVIPホテルに雇われているとはいえ、自分の実力で店を構えるまでになった。
かたや僕は、回り道をしたあとで、なんとかこうして店を開いている。

店の椅子がすべて埋まることなど滅多にない僕の店に比べ、彼女の店は連日満席で、テレビの取材が来るほどだ。
決して短くはない付き合いから、しぃが大きなミスを犯すようには思えないし、そんな彼女が店をたたむ理由など、考えもつかなかった。


6 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 19:56:43.96 ID:fY1KLw1e0
きっと何か事情があるのだろう。
だがそれなら、事情を知らない自分には、いったい何ができるのだろうか。

しかしそこまで考えたところで、僕の思考は中断された。

ξ゚ー゚)ξ「ショボン、来てあげたわよ」

(*゚ー゚)「ひさしぶり、だね」


7 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 19:59:31.57 ID:fY1KLw1e0
ドアベルも響かないほど勢い良く扉が開かれ、ツンがどかどかと入ってくる。
後ろからはしぃが静かに続いた。

そんな対照的な二人の様子が少し面白くて、口元が緩む。

そのせいかは分からないが、久し振りに会った彼女の顔は、予想に反して心なしか明るく見える。
想定外のことに僕とドクオは完全に面食らっていたが、おずおずとしぃに尋ねた。

11 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 20:04:52.26 ID:fY1KLw1e0
(;´・ω・`)「お店を、やめるんだよね……?」

(*゚ー゚)「あ、もう誰かから聞いたの?今日はそのことをショボン君達に報告にね」

コートをかけながら、しぃがにっこりと微笑む。
すでに席についていたツンが続けテ言った。

ξ゚听)ξ「忙しいんだから、向こうで落ち着いてからにした方がいいって言ったんだけど。しぃがどうしてもって言うからね」


12 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 20:06:55.01 ID:fY1KLw1e0
漫画ならば、頭のうえに疑問符がいくつも浮かんでたであろう僕とドクオに、しぃは楽しそうに微笑みながら言う。

(*゚ー゚)「私、アメリカに行くことになったの」

彼女は尚もいたずらっぽく言った。
僕はますます訳が分からなくなったが、ドクオは納得がいったように『あぁ』と一言呟いてから、グラスを傾けながら言う。

('A`)「ギコ、だろ」


13 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 20:09:02.39 ID:fY1KLw1e0
(*゚ー゚)「そうなの!オファーがあってね、『来年からはメジャーリーグだ!』って張り切ってるよ」

楽しそうに話すしぃを見ていると、僕もうれしくなった。

(´・ω・`)「そうだったのか、それは良かった。
       遅くなっちゃったけど、このテキーラはサービスだから、これで乾杯しよう」

そうして、皆でグラスを響かせあった。


14 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 20:11:52.38 ID:fY1KLw1e0
テキーラで乾杯した後は、それぞれ思い思いの酒で、話に花を咲かせていた。

(´・ω・`)「順調にいってたから、どうしたのかって心配したよ。結局また、僕の杞憂に終わっちゃったみたいだけどね」

(*゚ー゚)「そんなことないよ。わたし、ショボン君にたくさん助けてもらったし」

(´・ω・`)「いや、そんなことはないよ」

そうやってお互いに言いあいながら、僕らを顔を見合せて笑った。

しかし、僕の『そんなことないよ』は本当に彼女に何も僕はしていないという思いからだったが、
彼女の言うその言葉には、僕はまったく身に覚えがなかった。

16 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 20:14:40.91 ID:fY1KLw1e0
その思いを素直に口にすると、しぃは言った。

(*゚ー゚)「ほら、今回みたいにギコ君と一緒に行けるのも、ショボン君のお陰だよ?
     あの時ショボン君にお願いしてなかったら、今頃ギコ君となんて付き合えてなかっただろうし。」

その言葉で、僕は高校時代を思い出す。

『手紙を代わりに渡してきてほしい』と言われ、軽々しく了承したせいで校門の前で右往左往していたのが、
なんだか懐かしく思えた。

だが、ちょうどあの頃くらいにしぃの家は―――――


17 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 20:18:28.71 ID:fY1KLw1e0
(*゚ー゚)「でも、私のお父さんが死んじゃったせいで、あの手紙はうやむやになっちゃったけどね」

あっけらかんと話す彼女だったが、その表情は確かな暗さもはらんでいた。

(´・ω・`)「だから僕は、何も力になれてなかったと思うよ。
       しぃがいまギコと付き合ってるのは、間違いなくしぃ自身が頑張ったからだよ」

それは、本心だった。
しぃは見かけによらず芯の部分で強い人で、彼女が夢を叶えたのもその力によるものであるのは、間違いないだろう。

19 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 20:27:05.48 ID:fY1KLw1e0
(* ー )「そう……、かな」

しぃのトーンが明らかに変わり、僕はグラスを持つ手を休める。

少しの間しぃは黙っていたが、やがて顔を上げると、僕の瞳を見つめた。

(*゚ー゚)「……私もね、一人で夢を叶えられるなら、その方がいいと思うよ。
     でも私は、本当は皆なんかより、ずっとずっと弱いから。
     たくさんの人に助けられて、やっとここまで来れた」

静かに、ゆっくりと、しぃは続けた。


20 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 20:28:04.56 ID:fY1KLw1e0
(*゚ー゚)「だからね、正直今でも迷ってるんだよね。
     自分一人の力で得たものじゃないのに、勝手にそれを捨てて、ギコ君と一緒に行こうとしてる」

(´・ω・`)「……」

彼女が話し終えるまで、僕は口を挟んではいけないような気がして、僕は彼女の瞳を見つめ返す。

(*゚ー゚)「私、どうすればいいのかな。こんな気持ちのまま、行っていいのかな」

そう彼女が言うと、また俯き気味になり、グラスの氷を見つめているようだった。


21 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 20:29:16.13 ID:fY1KLw1e0
ふと彼女が顔を上げ、僕とまた眼が合うと、気まずそうに舌を出した。

思いもしなかった彼女の悩みを聞き、僕はまったく困惑していた。
しぃの口元は微笑んでいるが、こちらを見つめてくる瞳は潤んでいる。

僕にできることは、一つしかない。というよりも、最初から決まっていた。

(´・ω・`)「実現できる夢が、たくさんあるのはうらやましいことだよ。
       それでも、することは同じだよね。」


22 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 20:29:28.63 ID:fY1KLw1e0
僕は彼女から目を逸らさずに言った。

(´・ω・`)「いつだってやることは同じさ。
       叶えたい夢に向かって、頑張ればいいんだよ。
       しぃは、どんな夢を叶えたい?」

しぃは、考えるまでもなく、すでに答えを持っているようだ。

やはり彼女は、微笑みながら言った。

(*゚ー゚)「私は、ギコ君と一緒にいたいな。
     ありがとう、ショボン君、やっぱりまたお世話になっちゃった」


23 名前:第七話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/11(金) 20:32:54.58 ID:fY1KLw1e0
(´・ω・`)「つらくなったら、いつでも言ってよ。
       僕も、ツンもドクオも、みんなしぃの助けになりたいんだから」

ξ゚听)ξ「そうよ!変に気を遣わなくても、いいんだからね」


自分一人の力で生きていける人なんて、きっとほとんどいない。


だからこそ、そうでない人を手助けするために―――――



支えるために、バーボンハウスを開き続けたいと思った。

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