- 3 :第六話
◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金)
21:23:11.10 ID:ZPxWVDuC0
- 秋もだんだんと深まってきていたその晩、長岡を表のバーカウンターに出して、僕は厨房で料理をしていた。
長岡にもカウンターでの接客を経験させたいというのもあったが、先日しぃが店に来てからというもの、
僕の料理熱が再燃してしまったということも理由にあった。
客もドクオをはじめとした馴染みの面々だったから、あまり心配する必要もなく、
また、長岡の話は人をひきつけるような魅力があり、なかなかにうまく行っていると思った。
今では彼も、バーボンハウスにはなくてはならない存在になっていた。
- 6 :第六話
◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金)
21:25:07.00 ID:ZPxWVDuC0
- _
(; ゚∀゚)「ショボンさん、ちょっといいですか?」
なにやら不安げな顔の長岡が顔をのぞかせた。
(´・ω・`)「ん、どうしたんだい?」
_
(; ゚∀゚)「それが、ちょっとワケアリっぽい客が来てて……」
店内をのぞくと、コートの下に病院着を着た、明らかに中学生ほどの少年がカウンターに座っていた。
- 7 :第六話
◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金)
21:25:53.14 ID:ZPxWVDuC0
- (;´・ω・`)「確かに、ワケアリっぽいね……」
思わずそうつぶやいた僕と、少年の目が合う。
すると、その少年はよほど驚いたのか、店内に響くほどの大声で叫んだ。
(;-_-)「しゃ、シャキン先生!?」
(´・ω・`)「誰だい、それ。僕の名前はショボンだけど」
機転を利かせてそう返すと、彼はびっくりしたように『すいません、知ってる人に似てたから、つい』と
謝ってきた。
どうやら悪い子ではないらしい。
- 9 :第六話
◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金)
21:28:34.38 ID:ZPxWVDuC0
- 厨房に戻ろうとする僕の袖をつかんで、長岡が小声で訴えかけてくる。
_
(; ゚∀゚)「ちょ、行かないでくださいよ。
俺、どうすればいいんですか」
(´・ω・`)「まぁまぁ、君が表に出ているときに来たお客さんだろう。
なら君が最後まで相手をするんだ」
恨めしげな長岡の視線を無視して、僕はそのまま事務所兼休憩室として使っている小部屋にいく。
コートに手を伸ばし、ポケットから自分の携帯電話を取り出した。
- 11 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 21:31:50.38 ID:ZPxWVDuC0
- 電源を入れると、僕は電話帳から目当ての番号を呼び出す。
三回ほどコールすると、受話口から慌ただしい声が聞こえてきた。
(;`・ω・´)「こんな時間にどうしたんだ、ショボン?
いまちょっと忙しいんだ、重要でない用事なら明日にしてくれないか」
本当に切迫した感が電話越しにも伝わってきていたので、僕は手短に用件を伝えることにする。
(´・ω・`)「兄さんの病院の患者が、抜け出したんでしょ?
まだ中学生くらいに見えたけど、どこか悪いとこr」
(;`・ω・´)「ショボン!ヒッキー君はお前の所にいるのか!?」
- 12 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 21:34:24.75 ID:ZPxWVDuC0
- 全て言い終わるか言い終わらないかのうちに、兄の声に遮られた。
(;`・ω・´)「それで、まだ無事なんだろうな!?」
気付かれないようこっそりと店内の様子を伺うと、ヒッキーという少年は子供らしくストローをくわえ、オレンジジュースを飲んでいた。
なにやらドクオと長岡の二人が彼と話をしている。
(´・ω・`)「別に、普通にオレンジジュースを飲んでるけど。
あのヒッキー君は、なにか重い病気にでもかかってるの?」
(;`・ω・´)「心臓だ、出来るだけ早く手術をしたいんだがな。
とりあえず、俺はいまから店に行く。
……30分くらいか、それまで店から出さないでくれ」
- 14 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 21:38:16.49 ID:ZPxWVDuC0
- 僕は店内に戻ると、カウンターの隅からヒッキーの様子をうかがう。
どうやら今は、長岡の野球の話題で盛り上がっているようだ。
(*-_-)「やっぱり、ギコ選手はすごいですよね!」
_
( ゚∀゚)「だよな!俺、サイン持ってるぜ!!」
楽しそうに話す彼らに聞こえないように、そっとドクオに話しかける。
- 17 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 21:41:32.43 ID:ZPxWVDuC0
- (´・ω・`)「いま、どうなってるの?」
('A`)「名前はヒッキー、中学二年。
好きなスポーツは野球で、趣味はPCいじりだそうだ」
(´・ω・`)「それだけ?」
('A`)「それだけ」
僕はドクオに『ふーん』とだけ返すと、もう一度彼を見つめる。
- 18 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 21:44:23.68 ID:ZPxWVDuC0
- 長岡と話していてはしゃぐ彼には、病を患っている様子など微塵もない。
しかし、彼は歴とした病人なのだ。
気付いてないと思っているのかもしれないが、その病院着はVIP病院の見覚えのあるものであるし、
何よりも兄はいま、医師としてこの店に向かってきている。
黙っていれば彼は病院に連れ戻され、手術を受ける。
彼はそれを嫌がるだろうが、周囲の人間は彼に助かってほしいから、手術を受けさせる。
同情ではないが、僕はそこに何かを感じずにはいられなかった。
- 20 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 21:48:39.28 ID:ZPxWVDuC0
- 僕は彼に歩み寄ると、隣の席に座る。
怪訝そうな顔でこちらをうかがうヒッキーと長岡の顔を極力見ないようにしながら、僕は切り出した。
(´・ω・`)「ヒッキー君、だよね。
君がここにいるわけを、聞かせてくれないかな」
(;-_-)「……それは、どういう……」
(´・ω・`)「君、見たところどこか悪いようだね。
そうだね、心臓―――――かな?」
明らかに動揺したヒッキーは、驚きに眼を見開いた。
- 23 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 21:52:36.43 ID:ZPxWVDuC0
- (;-_-)「ど、どうしてそれを……!?」
(´・ω・`)「まぁ、バーのマスターはこれくらいできなきゃね」
_
(; ゚∀゚)(すげぇ……!この人やっぱすげぇよ………!!!)
(;'A`)(……mjd?)
羨望のまなざしを送ってくる長岡を無視して、僕はヒッキーの方に体を向ける。
(´・ω・`)「見た限り、手術するしか方法はないようだけど。
もしかして、病院を抜け出してきたのかな?」
- 25 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 21:57:40.54 ID:ZPxWVDuC0
- 僕がそう言うと、彼は眼を伏せてしばらく黙っていたが、やがて絞り出すように声を出した。
(-_-)「僕は、別に生きたくなんてないから……」
店内が急に静かになったように感じる。
僕も、ドクオも、長岡も、彼の次の言葉を固唾を飲んで待っていた。
(-_-)「病気が治ったらまた学校に行けるって先生は言ったけど、僕は行きたくなんかない。
どうせまた、いじめられて、学校なんか行きたくなくなるんだ。
家にいたってそうさ、僕の居場所なんか、どこにもないんだよ」
- 28 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 22:01:21.84 ID:ZPxWVDuC0
- (´・ω・`)「それじゃあ、このまま死んでしまうのも、いいかもしれないね」
うつむき加減でいう彼にどこか既視感を覚えた僕は静かに彼に向って言った。
長岡が驚いた顔で叫ぶ。
_
(; ゚∀゚)「な、何言ってるんですか!?
そんな言い方って……、言って良いことと悪いことがありますよ!!」
(´・ω・`)「だって彼は生きたがってないんだよ?
彼は自分の意思で、“そうなること”を望んでるんだ。
それなら、彼の人生に口をはさむ権利は、少なくとも僕にはない」
- 31 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 22:05:47.23 ID:ZPxWVDuC0
- _
(# ゚∀゚)「マスター……!!」
('A`)「落ちつけよ、長岡」
ドクオがグラスを傾けながら、声をかけた。
いつもとは違う冷静な姿に少し感動していると、彼はヒッキーのほうに向きなおる。
('A`)「おい、ヒッキー。
なんか勘違いしてるかもしれないけどさ、世の中そんなに甘くねぇんだよ。
『助けて』、『かまって』って言ってても、誰も助けになんかこねぇ」
- 35 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 22:10:13.47 ID:ZPxWVDuC0
- ('A`)「それでも、お前に生きて欲しくて高い手術代出すような親や、親身になって治そうとする医者がいたりするんだよ。
こういうバーボンハウスみたいな店で、愚痴を聞いてもらうこともできるんだよ。
普段は気付けないような些細なことかもしれないけど、自分を受け入れてくれる場所は必ずある。
―――――だから、居場所がどこにもないなんて、寂しいこと言うなよな」
- 36 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 22:13:13.49 ID:ZPxWVDuC0
- それだけ言うと、ドクオは『変な空気になっちまったな』と言って頭を掻いた。
そして上着を羽織り、ドアに向かって歩き出す。
('A`)「つけといてくれ」
ドクオが最後にそう言い残してドアを閉めると、店内は静寂に包まれた。
ヒッキーはぼーっとカウンターの後ろに並べられた酒瓶を見つめている。
- 39 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 22:16:22.78 ID:ZPxWVDuC0
- _
( ∀ )「なんか俺、うまく言えねぇけどさ」
最初にその静寂を破ったのは、長岡だった。
_
( ∀ )「きっとこういうのは、さっきマスターが言ったように、自分で決めることなんだと思う。
けどよ、死んだら、そこまでじゃねぇか……!
さっき話してた、野球のギコ選手に会いたいっていう夢も、叶わねぇんだぞ……!!」
途切れ途切れだが、その言葉の一つ一つに力を込めて、長岡は続ける。
_
( ∀ )「最後に決めるのは、お前の意志だ。
でも、これだけは言わせてくれ、生きろ。
世の中は確かにつらいことも多いけど、楽しいことも同じくらい多いぜ?」
- 42 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 22:20:12.61 ID:ZPxWVDuC0
- (;-_-)「長岡さん……」
寂しそうな、だが輝きも取り戻したようにも見えるその瞳で、ヒッキーは長岡を見つめる。
僕は若干の申し訳なさを感じつつも、口を開く。
(´・ω・`)「盛り上がってるとこ申し訳ないんだけど、もうそろそろシャキン先生も来るころだと思うよ。
時間がなくて申し訳ないんだけど、ヒッキー君。
君は、どうしたいんだい?」
(-_-)「僕は……」
- 43 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 22:20:48.95 ID:ZPxWVDuC0
- そこで彼は、ちらりと長岡の方を見る。
(-_-)「あの、長岡さん」
_
( ゚∀゚)「ん?」
(-_-)「お願いが、あるんです」
- 45 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 22:23:49.10 ID:ZPxWVDuC0
- 閉店した店内を掃除しながら、長岡が僕に話しかけて来る。
_
( ゚∀゚)「あいつの手術、成功しますかね?」
(´・ω・`)「するだろうさ。
ヒッキー君の主治医は、僕が知る中で最高の腕を持つ医者の一人だよ」
尚も心配そうに溜め息をつく長岡に、僕は微笑みながら言った。
(´・ω・`)「それに彼と約束したんだろう?
『大人になってまた来たときに、うまい酒をつくってやる』って」
- 49 :第六話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/04(金) 22:25:59.90 ID:ZPxWVDuC0
- _
( ゚∀゚)「……そッスか。
……そッスよね!!」
彼の笑顔を見ていると、僕は心の奥が暖かくなるのを感じた。
(´・ω・`)「長岡君」
_
( ゚∀゚)「なんですか?」
(´・ω・`)「久し振りに、朝まで飲もうか」
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