- 52 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:23:50.59 ID:n5ok9DQh0
- ドクオを始め、普段はほとんど男性客が多い僕の店だが、その日はめずらしい来客があり、
さながら店内に花が咲いたようだった。
(*゚ー゚)「さすがショボン君のお店だね。
インテリアとか、凄いお洒落。」
川 ゚ー゚)「まったくだ。そのセンスをドクオも少しは見習ってほしいな」
自分のセンスをけなされたからか、クーと一緒の時間がしぃに邪魔されたからかは定かではないが、
ドクオが不機嫌そうにグラスを煽る。
- 54 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:26:58.29 ID:n5ok9DQh0
- ('A`)「欝だ……、ショボン、もう一杯くれ」
(´・ω・`)「はいはい」
『そういえば昔からドクオはしぃ苦手そうだったな』と思いつつ、僕は氷を多めにしてジンを注ぐ。
その日は久しぶりのクーとのデートをしてからここに来たらしく、その時点ですでにかなりアルコールが回っていた。
(*゚ー゚)「なんか悪いことしちゃったかな、二人の時間を邪魔しちゃって。
何だかドクオ君、凄いペースで飲んでたし……」
川 ゚ー゚)「気にするな。しぃは私が会いたいから呼んだんだしな。
ドクオが後先考えずに飲むのはいつものことだし、自業自得だよ」
悪びれる様子もなく言うしぃに、クーは笑いながら答えた。
- 56 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:28:52.80 ID:n5ok9DQh0
- (*゚ー゚)「そういえばここって、お料理も出すの?」
自身も料理人であることからだろうか、メニューを覘いた彼女が尋ねてきた。
(´・ω・`)「まぁ、お酒がメインのお店だし、簡単なものだけだけどね。
最初は僕が作ってたんだけど、バーのマスターが裏に引っ込むのもあれだしね。
いまはバイトの子に全部任せてるよ。まだ大学生なんだけどね」
彼女は興味がわいたようで、『料理は上手か』とか『普段何をやっているのか』と、
矢継ぎ早に質問を浴びせてきた。
バイトの長岡は、よくやってくれている。
大学は大丈夫なのか、というくらいこの店で頑張ってくれているし、彼さえよければ社員として雇いたいぐらいだ。
- 57 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:29:09.09 ID:n5ok9DQh0
- 自分が話題にされていることに気づいたのか、長岡が表に出てきたが、しぃを見ると目を丸くした。
_
(; ゚∀゚)「し、しぃさん!?VIPホテル専属シェフのしぃさんですか!!?」
テレビの取材にもしぃは何度か登場しているし、ひと目見てその人だとわかったらしい。
当のしぃ本人は、最初こそばつが悪そうに照れていたものの、すぐに長岡と打ち解けて、
料理のコツだかなんだかを教えに厨房へと入っていってしまった。
川 ゚ー゚)「あの人懐こさは、昔から変わらんな」
クーが笑みを浮かべながら言う。
- 58 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:29:57.86 ID:n5ok9DQh0
- (´・ω・`)「そうだね。まぁ、君の放浪癖も同じようなものじゃないか。
この前来たときから、もう半年くらい経ってるよ」
川 ゚ー゚)「昔からそんなにふらふらしていた覚えはないが……。
しかし、もうそんなに経ってるんだな」
感慨深げに言うクーを見ていた僕は、その姿にすこし違和感を感じて、見つめる。
その心を読み取ったのか、彼女は微笑みながら切り出した。
- 59 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:30:12.77 ID:n5ok9DQh0
- 川 ゚ー゚)「今の仕事をやめようかと思っていてね」
(;´・ω・`)「え!?」
素っ頓狂な声を上げた僕を尻目に、彼女は続けた。
川 ゚ー゚)「いや、どうやらドクオも結婚したがってるようだし、今日のデートもそれを言うつもりだったらしいしな。
……だから今日は、しぃを呼んでそれを避けたってのもあるんだが。
まぁ、彼と結婚して幸せな家庭を作るのも、悪くないと思ってるんでね」
すでに酔いつぶれたドクオを愛しそうに見つめる彼女は、とてもきれいだった。
僕はなんだか嬉しい気持ちになったが、ドクオの呑気な寝顔を見ているとなんとなくむかついたので、
いつものお返しとばかりに一発殴っておいた。
- 60 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:30:44.94 ID:n5ok9DQh0
- (*゚ー゚)「彼、いいね。見込みあるよ」
満足げな顔で戻ってきたしぃに、新しいグラスを渡す。
一息ついて、僕を見つめながら話し出す。
(*゚ー゚)「うらやましぃな、ショボン君」
(´・ω・`)「何がだい?」
(*゚ー゚)「こんないいお店を持てて、すごいうらやましぃよ。
ドクオ君にさっき聞いたけど、けっこういい調子らしぃじゃない。
前途有望なシェフもいるしね。」
最後はいたずらっぽくそうつけ加えると、彼女はグラスを両手で包みこむように持った。
- 61 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:31:02.31 ID:n5ok9DQh0
- (´・ω・`)「でも君なら、店を出してもやっていけるんじゃないかな」
素直な気持ちで尋ねると、見る見るうちに表情が曇る。
僕はその理由がわからず、無神経だった自分の言葉を悔やんだが、そのまま彼女の次の言葉を待った。
(*゚ー゚)「私は、料理人になるしかなかったから。
私の家庭の事情、知ってるでしょ」
僕は、黙って頷く。
(*゚ー゚)「料理を作るしか能がなくて、それがいつの間にか仕事になってた。」
- 62 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:31:13.43 ID:n5ok9DQh0
- (*゚ー゚)「今の仕事が嫌なわけじゃないの。やりがいのある仕事だし。
自分の好きなことを仕事にしているのは、とてもうれしぃことなんだと思う」
グラスの氷を見つめながら言う彼女は、どこか寂しげにも見えた。
『ごめんね、湿っぽくなっちゃった』と笑ってグラスを傾ける姿を見ていると、
言いようのない切なさが胸にこみ上げてきた。
彼女がうらやましいと言ったのは、僕が自分の店を持ったことじゃなく―――――
- 63 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:31:30.57 ID:n5ok9DQh0
- 僕は、しぃを見つめる。
いまの僕には、まだ彼女にこんなことを言う資格などないかもしれない。
それでも、ここで何もしなかったら、僕自身、これから一生夢を叶えることなどできなくなる気がした。
僕のおかしな様子に気づいたのだろうか、しぃは微笑んで首をかしげる。
(´・ω・`)「しぃの夢って、何かな」
(*゚ー゚)「私の、夢……?」
しぃは困ったように黙ってしまった。
その様子を見て、僕は再び自分の言葉の無神経さを呪う。
- 64 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:31:49.16 ID:n5ok9DQh0
- そんな僕の杞憂を見透かしたように、しぃが言った。
(*゚ー゚)「私の夢は、私の料理でみんなを幸せにすることかな。
ショボン君の夢と、ちょっと似てるね」
そんなやり取りを見ていたクーが、久しぶりに口を開く。
川 ゚ー゚)「そうだな、しぃの料理にはその力がある。
もちろん、君のこの店にもね」
クールにそう笑うクーと、にっこりとしているしぃを見ていると、つくづく自分の力不足を感じた。
- 65 :第五話 ◆KAKASHIqlM :2008/04/01(火) 01:32:04.79 ID:n5ok9DQh0
- 僕なんかが何もしなくて、しぃならきっと自分の中でうまく整理することができただろう。
それでも―――――
(*゚ー゚)「私はもう、夢をかなえられてるのかもしれないね。
ありがとう。ショボン君のおかげで、少し気が楽になったよ」
そう笑ってくれる彼女のおかげで、なんだか悪くない気持ちになった。
戻る