42 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:52:42.75 ID:jnob0Use0
僕が開いたバー、『バーボンハウス』は、細々とだが軌道に乗りつつあった。

もともと料理は好きだったし、趣味でお酒の知識は人並み以上にあった。
バイトの大学生を一人雇っているだけだったから忙しさはあったが、それよりも夢をかなえられた喜びの方が大きかった。

('A`)「でも驚いたぜ、まさかいきなり飲食店をやるなんてな」

(´・ω・`)「子どもの時からの夢だったからね、お店を持つことは」


43 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:53:00.01 ID:jnob0Use0
僕ははにかみながらドクオに答えた。
彼は開店からほとんど毎晩、足しげく通ってきてくれていた。

1千万ほどの開店資金の半分は、ドクオが出した。
僕は最後まで断ろうとしたのだが、結局は彼の熱意に負けてしまった。

なんでも、これも恩返しの一環とのことらしい。
申し訳ないと思う気持ちもあったが、最終的には嬉しさの方が勝っていたのだろう。


44 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:53:11.98 ID:jnob0Use0
('A`)「にしても、何でバーなんだ?もっと、ほかになかったのかよ」

(´・ω・`)「もともとお酒が好きだったしね。
       それに―――――」

僕はいったん区切ってから、続ける。

(´・ω・`)「―――――これからも、みんなの悩みみたいなのを、聞いてあげレたらいいなと思ってるから」


45 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:53:42.01 ID:jnob0Use0
僕がそう言うのを聞くと、ドクオはまたニヤリと笑った。

('∀`)「その調子だぜ。なんだかんだで、みんなお前のことを頼りにしてるんだからな」

その言葉だけでも、僕が店を開いた甲斐があるというものだ。
感謝の気持ちを伝えようかと思ったそのとき、不意にドアベルが鳴る。

時刻ももう遅く、これが最後のお客さんかなと思いそちらを振り返ると、そこには意外な人物が立っていた。


46 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:53:57.99 ID:jnob0Use0
(`・ω・´)「まだ、開いてるかな?」

(;´・ω・`)「兄、さん」

僕は予想外の来客に一瞬我を忘れて呆けてしまったが、ドクオが心配そうにこちらを見ているのに気づき、すぐにいつもの調子を取り戻す。

(;´・ω・`)「やぁ、バーボンハウスへようこそ。
       このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ちついて欲しい」

(`・ω・´)「落ち着くのはお前じゃないのか?
       とりあえず、いただこうかな」


47 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:54:15.99 ID:jnob0Use0
グラスを傾ける兄を見つめながら、僕は内心ではまだ混乱していた。
前の会社を退職したことも、新しくここで店を開いたことも、家族には一言も告げていなかったからだ。

そうやっていろいろと思いを巡らせていると、兄に先を取られた。

(`・ω・´)「会社、辞めたらしいな」

(;´・ω・`)「ッ……!」

(`・ω・´)「父さん、怒ってたぞ。
       お前が医学部じゃなくて、文系の学部に行くって言った時ぐらいな」
49 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:54:30.13 ID:jnob0Use0
分かってはいた、ただでは済まないことなど。

僕の実家は、医者だ。
それも、親戚のほとんどが医療職についているほどの。

当然、周囲の期待を受けながら育ち、その道を選びとることを望まれていた。
兄は現役で医学部に入ったことで、自分への期待はさらに高まった。

そして僕は、逃げ出した。


50 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:54:48.84 ID:jnob0Use0
僕のコンプレックスのいわば元凶とも言える兄は、静かに続けた。

(`・ω・´)「誰にも言わなければ、ばれないとでも思ったか?
       まったく……勝手な事をしやがって。
       そんなことをして、一族に迷惑がかかるんだからな」

兄はその言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、思いっきり殴り飛ばされていた。

僕はただ、兄の言葉を歯を食い縛りながら聞くしかなかった。
その怒りを彼にぶつけたのは、他ならぬドクオだった。


51 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:55:08.82 ID:jnob0Use0
床に殴り飛ばされた兄を、ドクオは必死の形相で睨む。

(#'A`)「てめぇッ……!!」

カウンター越しに見る、拳を震わせるドクオの姿。

(;´・ω・`)「ドクオ!!!」

(#'A`)「お前なんか、ショボンの気持ちも知らないくせによ……!!」


52 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:55:33.03 ID:jnob0Use0
兄さんはしばらく寝そべったままだったが、静かに上半身だけ起こした。
そしてドクオの方を見つめると、ゆっくりと言った。

(`・ω・´)「鬱田ドクオ、だな。
       その喧嘩っ早さは、弁護士には不向きじゃないのか?」

(;'A`)「!?」

(`・ω・´)「まぁ、別に訴えたりはしないから、安心しな」


53 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:55:53.94 ID:jnob0Use0
さっき殴られたことなど微塵も感じさせないまま、こちらに向き直ると、ニッと笑いながら言う。

(`・ω・´)「ショボン、いい友人を持ったな」

呆気にとられる僕とドクオに向け、なおも続ける。

(`・ω・´)「まぁ、なんだ、父さんはまだお前がこんな店を開いたなんて知らないよ。
       今のところ俺だけだ、安心しろ」


54 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:56:05.36 ID:jnob0Use0
昔から、そうだった。
僕が逃げ出したときも、そうやって事もなげに味方に付いてくれた。

(`・ω・´)「父さんには上手いこと言っといてやる。
       好きなようにやればいいさ」

(´・ω・`)「兄さん……」


55 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:56:16.60 ID:jnob0Use0
立ち上がりスーツの皺を直すと、コートを羽織り、

(`・ω・´)「夢だったんだろ、こういう店。お前にしかできないこと、頑張れよ」

そう言って店を後にした。
57 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:56:26.44 ID:jnob0Use0
店に取り残された僕たちは少しのあいだ茫然としていた。
嵐のように来て、嵐のように去って行った兄だが、そのあとの心は晴れやかだった。

(´・ω・`)「ドクオ」

('A`)「……あ?あ、ああ」

(´・ω・`)「ありがとね。僕の気持ち、代弁してくれた」


58 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:56:37.92 ID:jnob0Use0
僕がそう伝えると、照れくさそうに頭を掻きながら答える。

('A`)「いや、でもなんか、知ってたっぽいじゃん、お前の兄ちゃん。
    殴っちゃったしまずいことしたかも」

(´・ω・`)「……気にしなくていいと思うよ」

不安げにしているドクオをしり目に、僕はドアの方に向き直る。


59 名前:第二話 ◆KAKASHIqlM :2008/03/29(土) 04:56:55.44 ID:jnob0Use0
ありがとう、兄さん。

きっとうまくやれるよ。

こんな最高の友人がいるし、何よりも―――――




これが僕がこの店で得たかったものだから。

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