4 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:42:46.89 ID:6MuHGgcp0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城・北東

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
46歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:オオカミ城近辺

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:?
現在地:パニポニ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
47歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ミーナ城・北東

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
47歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城・南
10 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:43:56.78 ID:6MuHGgcp0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
50歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ギフト城・南

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
43歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:O
現在地:ミーナ城・北東

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
45歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
45歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
12 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:44:51.09 ID:6MuHGgcp0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:M
現在地:ギフト城・南

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
24歳 少尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ミーナ城・北東

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
29歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城・南
19 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:45:57.36 ID:6MuHGgcp0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:ビロード/アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
22 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:46:49.40 ID:6MuHGgcp0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ルシファー
M:ロマネスク
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ/ギルバード
T:ニダー/アルタイム
U:ミルナ
V:ジョルジュ/シャイツー
W:ブーン
X:
Y:
Z:ショボン
26 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:47:40.64 ID:6MuHGgcp0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

28 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:48:35.66 ID:6MuHGgcp0
【第99話 : Merit】


――ミーナ城・北東――

 敗戦の傷は、数字の上では、さほど深くない。
 兵を大きく失うこともなく、最小限に留めることができた。
 ブーンが迅速に判断したおかげだった。

 が、いま最も手痛いのは、そのブーン自身の不調だった。

( ゚д゚)(どうしたものか……)

 ブーンは、成長していると思っていた。
 いや、実際成長している。確実に戦は上手くなっている。
 撤退のタイミングも、今にして思えば絶好だった。

 しかし、一騎打ちに冴えがない。
 かつて、幾多の敵将を討ち取ってきた、ブーン最大の武器でもある一騎打ちに。
 切れが失われてしまっているのだ。

 ブーンも実感しているのだろう。
 表情は暗く、淡々と為すべきことをこなしている様に、以前のような闊達さなど影もない。

 ジョルジュも言っていた。
 どことなく、不自然に思うと。

 自分は、感じ取ることができなかった。
 ブーンとの付き合いは短い。そのせいもあるだろう、と思う。
 が、やはり指揮の上達ばかりに目を奪われていたためだ。
37 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:50:36.61 ID:6MuHGgcp0
 大将らしくないところが、大将らしいと感じていた。
 それは、今も確かにそうなのだが、しかし薄れつつある。
 歴戦の大将のようになりつつあるのだ。

 ジョルジュも、同じことを感じたのだろう。
 そして、それがいいことなのか、悪いことなのか、分からないのだ。
 今の自分も、あのときのジョルジュもだ。

( ゚д゚)(……大将らしさ、か……)

 独特の大将らしさを発揮しつつあったブーンだが、何か思うところがあったのだろうか。
 武将としての質は、やはり変貌途上にある。

 そのように成長を遂げてほしいと思う自分もいれば、このままでは危険かも知れないと思う自分もいる。
 だからこそ、ブーンに何の言葉もかけられないでいるのだ。

( ゚д゚)(しばらくは、様子を見たほうがよさそうか)

 もう年の暮れだ。
 恐らく、戦を経ないまま年明けを迎えることになるだろう。
 晴れやかに新年を祝うことは、残念ながらできそうになかった。



――ギフト城・南――

 ラウンジの動きは、不透明だった。
 基本的には、微動だにしない。が、ときどき気迫を感じる。
 そうかと思えば、驚くほど消沈したりもする。
51 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:52:41.59 ID:6MuHGgcp0
<ヽ`∀´>「どうしてくるニカ……」

 ニダーが呟いた。
 角ばった顔に手を当て、顎をさするような仕草を見せている。
 もっとも、四角い輪郭のせいで、どのあたりが顎なのかは分かりづらい。

(-_-)「……撤退してほしいところですね……」

<ヽ`∀´>「ニダニダ」

 ヴィップとしては当然、撤退してくれたほうがありがたい。
 これ以上の犠牲を伴うことなく、城を落とせるはずだ。

 ラウンジ本隊が撤退すれば、ギフト城の守将は降伏するだろう。
 攻城兵器も用意しているが、使う機会はないと見ていた。

( ФωФ)「このまま睨みあう、ということにはならないかと存じますが」

<ヽ`∀´>「ニダね。それは下策とアルタイムも分かってるはずニダ」

(-_-)「……アルタイムの、性格からして……」

<ヽ`∀´>「撤退する、とは思うニダ。でも分からないニダ」

 ヴィップの兵は皆、二日ほどは滞陣できるだけの兵糧を腰袋に入れている。
 ラウンジもその気になれば二日くらいは粘れるだろうが、腹を満たしているヴィップのほうが当然有利だ。
 だから、ラウンジも滞陣してくるということは考えられない。

 ならば、撤退。
 そう考えるのが自然だった。
54 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:54:53.93 ID:6MuHGgcp0
 元よりアルタイムは、どちらかと言えば消極的な武将だ。
 安全な策を取りたがる。大国ラウンジで育った武将ならではの気質だった。
 無難な道を進んでさえいれば、ラウンジが負けることはそうそうなかったからだ。

(-_-)「…………」

 ニダーは、撤退するだろうと楽観的に捉えている。
 言葉にはしないが、ロマネスクもそうだろう。
 自分も、理屈で考えればアルタイムの決断は十中八九、撤退だと思える。

 が、不思議と気持ちを緩められなかった。

(-_-)「……中将……」

<ヽ`∀´>「……分かってるニダ」

 互いに、不穏な空気を感じ取った。
 春が近付いた頃の、山中の、熊が動き出したときのような。

 ラウンジが、隊を組み換えている。

<ヽ`∀´>「攻撃……ニカ」

( ФωФ)「やはり、ギフト城を諦めるわけにはいかない、というところでありましょうか」

(-_-)「いや……これは、アルタイムの意地だろう……」

 自分でも、珍しいと思ってしまった。
 他人の意見を真っ向から否定する言葉が、自然と口から出てきた。
60 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:57:18.72 ID:6MuHGgcp0
 が、間違いない。
 アルタイムは、意地で攻撃を決断したのだ。
 理屈ではない。負けたくない、という単純な感情だ。

<ヽ`∀´>「……そうニダね。生半可な攻撃で終わってくれそうにないニダ」

 ニダーの言うとおりだ。
 まだ理屈で自分を納得させて、攻めを決断してくれたほうが良かった。
 しかし、アルタイムは武人としての意地を全面に出している。

 容易く凌げるとは思えない。

<ヽ`∀´>「陣を保つニダよ。分離を喰らわないようにするニダ」

 陣を散り散りにされては堪らない。
 もう一度、ギフト城の前に陣取るのは難しくなる。
 こちらの狙いがラウンジにも分かられてしまっているからだ。

 凌ぎきるしかない。

 ラウンジは、地響きを伴わせ、接近してきた。

(-_-)「崩されるな……!」

 配下に命令し、身構えた。
 ラウンジは、勢いに乗ったまま突っ込んでくるつもりだ。

 衝突。
 まるで、鉄砲水に襲われたかのような衝撃があった。
67 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 17:59:42.99 ID:6MuHGgcp0
(;-_-)「ッ……!」

 最初の突撃で、陣全体が揺れた。
 一点集中。ラウンジはとにかく、ヴィップの陣を突き崩そうとしている。
 余計に力を分散させたりはしない。

 アルタイムは、攻守に優れた将となった。
 それを、まざまざと見せつけられている。
 実感させられている。

 最初にラウンジと当たったのは自分の部隊。
 後ろにはニダーが控えている。
 その側方を、ロマネスクやダイオードが固めている形だった。

 自分の部隊でラウンジを組み止められれば、それが最上だ。
 しかし、粘りすぎて被害を拡大させてはならない。
 ラウンジは、陣を崩しにかかると見せかけて、兵力をじわりじわりと削ろうとしている可能性もある。

 堪え切れなくなったときは、潔く道を開けてしまうべきだ。
 ラウンジを飲み込んでしまうのも悪くはない。

(-_-)(……頃合いか……)

 ラウンジの圧力が増してきた。
 このまま抵抗を続ければ、陣を崩されてしまう。

 鉦を鳴らして、陣を動かした。
 ラウンジの通り道を作ってやる。
73 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:02:00.77 ID:6MuHGgcp0
 ラウンジは進むしかない。
 もう、引き返すという選択肢はないだろう。

 その通りに、ラウンジは奥へと入り込んできた。
 勢いは緩まっていない。決死の覚悟が、窺えた。

 猛然とアルファベットTを振るう、アルタイムからも。

(;-_-)「…………」

 鬼のような形相だった。
 あらゆる怒りを全て力に変えたかのような、そんな様子。
 戦慄を、覚えさせられた。

 ラウンジの攻めを、凌ぎきることができるのだろうか。
 次に自分が取るべき行動を模索しながら、そう考えた。



――フェイト城・南西――

 新年まで、戦になることはない。
 そうヴィップは感じているはずだ。

 だからこその、侵攻だった。

(´・ω・`)「戦勝で新年を彩ろうじゃないか」

 配下の士気は高い。
 先の戦で完勝できたことが大きかった。
79 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:04:31.37 ID:6MuHGgcp0
 満天の星が瞬いている。
 今宵は、新月だった。
 本当は曇ってくれていたほうがありがたいが、天候に文句をつけても致し方ない。

 闇に乗じて、ヴィップ軍を襲う算段だった。

(´・ω・`)「たまには夜襲も仕掛けておいたほうがいいからな」

( ^Д^)「そうですね」

 自分の言葉に対しては、同意することしかしないプギャーに、虚しくも話しかけた。
 クーは斥候となり、敵陣の情報を調べている。
 夜襲への備えがどの程度あるのかは把握しておかなければならない。

(´・ω・`)「この夜襲、しかも年の暮れの攻撃で、ヴィップは眠れなくなるだろうな」

( ^Д^)「ラウンジはいつでも攻め込む、ということを見せつけるわけですね」

(´・ω・`)「そうだ」

 慣例として、年の暮れや、特に年明けは戦わないことになっている。
 大抵、両軍ともに新年をゆっくりと祝いたい気持ちがあるからだ。

 自分や、ラウンジ軍にもその気持ちがないとは言えない。
 が、可能な限り戦を早く終わらせたいのだ。
 ラウンジは、兵糧のやりくりに苦心している。

(´・ω・`)「年明けは攻め込まないが、この年の暮れならまぁ問題ないだろう」
82 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:06:51.61 ID:6MuHGgcp0
( ^Д^)「しかし、自分も経験はありません」

(´・ω・`)「誰だってそうさ」

 協約によって定められているわけではない。
 場合によっては、両軍が示し合わせて一時的な不戦協約を結ぶ場合もあるが、今は関係なかった。

 どのみち、協約というのも何らかの罰則があるわけではない。
 誰もそんな罰則を国に対して与えられるわけではないのだ。
 例え賠償制度を協約に盛り込んでいたとしても、何らかの理由と共に突っぱねられるのが落ちだった。

 協約に何の意味合いがあるのかと言えば、それを遵守しているほうが兵や税を集めやすいという、ただそれだけのことだ。
 敵軍からの寝返りも、ある程度は期待できる。
 だからラウンジも表面上は協約を守り続けているのだ。

 ヴィップのように、言葉の頭に「超」がつくほど真面目に守る必要はない。
 ただ、協約違反が表面化してしまうと、国としての体面が損なわれてしまうのだ。
 言うなれば、協約を形式上で遵奉するのは国益のためだった。

川 ゚ -゚)「ショボン様」

 斥候に出していたクーが戻ってきた。
 息は乱していないが、頬に燭台の光が宿っている。

(´・ω・`)「どうだった?」

川 ゚ -゚)「警戒は標準的ですが、緊張感はさほどありませんでした。
    哨戒の数も篝火の数も、特段多いということはありません」

(´・ω・`)「充分に備えている、というわけではなさそうだな」
87 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:09:16.80 ID:6MuHGgcp0
川 ゚ -゚)「ただ、兵を伏せている可能性は考えられます」

(´・ω・`)「お前の調べた道を教えろ。それだけでいい」

川 ゚ -゚)「申し訳ありません。地図を」

 丸められた地図を渡してやると、クーはすぐに筆で道順を記し始めた。
 このあたりは平原が続いているが、兵を伏せられる深い草原や林がないわけでもない。

川 ゚ -゚)「この道の三里以内に敵兵は存在しませんでした」

(´・ω・`)「おかしな道を選択したのだな」

川 ゚ -゚)「正面切って調べに行くと、敵に勘付かれる恐れがありますし」

(´・ω・`)「まぁ、それもそうだ」

 できればヴィップとラウンジを真っ直ぐ繋いだ線についての情報が欲しかった。
 が、事前にヴィップに知られてしまうと、万全の守りを固められる。
 夜襲では、致命的な事態に陥りかねない。

(´・ω・`)「まぁ、良しとしよう。この道で」

( ^Д^)「兵数は、どうしますか?」

(´・ω・`)「一万。あまり大勢を使うと気付かれかねないからな」

 本陣の四方三里の警戒くらいはヴィップも整えているだろう。
 つまり、勝負は気付かれないように移動し、警戒網に入った瞬間、怒涛の侵攻を見せることだ。
91 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:12:47.88 ID:6MuHGgcp0
 敵将を討ち取る必要はない。
 ラウンジの圧力を見せつけ、不安に駆らせるだけでいい。

(´・ω・`)「さて、使う将についてだが……」

( ^Д^)「自分を、ご起用下さい。ショボン大将」

(´・ω・`)「……プギャーか」

 できればあまり使いたくはない。
 不確実という三文字がこれほど似合う男も居ないからだ。

 プギャーが若い将であれば、成長のために使うという選択肢も出てくる。
 が、既に三十七。ここからの急成長は、望み薄だった。

 それなら、ウィットランド=レンフェローやグレスウェン=バーナーといった若い将校を使いたい。
 特にラウンジはカルリナを欠いたばかりで、人材が不足している。
 自分やアルタイムも決して若いとは言えないのだ。

 新しい人材の育成は、急務となっていた。

 そのような趣旨の言葉を、プギャーに伝えた。
 できる限り、配慮してだ。

( ^Д^)「分かりました」

 プギャーは、拍子抜けするほどあっさり承諾した。
 覇気がないと見られるのが嫌で、一応手を挙げただけなのではないか、と思いたくなるほどだった。

(´・ω・`)(……まぁいい)
97 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:15:18.98 ID:6MuHGgcp0
 粘られるよりは、あっさり引き下がってくれるほうが良かった。
 プギャーを活かすなら、大きな野戦がいい。そこなら、プギャーもまだ普通に戦ってくれる。
 アルファベットもRまで到達しているため、そうそう討ち取られることはない。

(´・ω・`)「ウィットランドとグレスウェンは使うが……それだけでは心許ないな」

川 ゚ -゚)「いかが致しますか?」

(´・ω・`)「……ギルバードに任せようか」

 この場で自分に次ぐ将は誰か、と聞けば、誰もがギルバードの名を口にするだろう。
 やや攻めに重きを置きすぎるところはあるが、基本を決して忘れない男だ。
 頭もいい。安定感のある将だった。

(´・ω・`)「ミーナ城戦での失態を、取り返したがっているだろうしな」

川 ゚ -゚)「そうですね」

( ^Д^)「期待しましょう」

 何故お前は上からの目線なんだ、と突っ込むことはしなかった。
 いちいち叱責するのも億劫だ。
 ヴィップ時代から幾度となく叱咤し、時には拳で体に教えてやったが、どうやっても有能にはならなかった男なのだ。

 三人を呼んで、任務を伝えた。
 総指揮はギルバード。だが、できるだけ二人の将を使うようにと耳打ちしておいた。
 ギルバードは深く頷いてくれた。最善を尽くしてくれることだろう。

(´・ω・`)「いい報せを待つとしよう」
109 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:17:43.05 ID:6MuHGgcp0
 木製の折りたたみ椅子に深く腰掛け、幕舎の覗き穴から見える夜空を眺めた。
 プギャーとクーは、静かに退出したようだった。



――ミーナ城・北東――

 夜襲への備えは、常にあった。
 警戒心を絶やすなと徹底させてもいた。

 それでも、実際にラウンジが攻め込んできたときは、陣内に動揺が走った。

( ゚д゚)「算段どおりに動け!」

 よりによって、ブーンがミーナ城に帰っているタイミングとは。
 兵糧の調整や城との連携を取るべく、明日までブーンは城に留まることになっているのだ。
 ラウンジがそれを知っていたとも思えないが、都合は悪かった。

( ><)「ミルナ中将、まずは僕が行くんです!」

( ゚д゚)「あぁ、頼んだ!」

 ビロードが三千を率いて駆け出した。
 守りに優れた将だ。安心して任せられる。
 こちらはこちらで、やるべきことをやれるのだ。

 しかし、まさか攻め込んでくるとは。
 年末年始は普通、何も言わずとも休戦状態となるものだが、今のラウンジはお構いなしだ。
 少しでも早く戦を終わらせたいのだろう。
117 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:20:25.23 ID:6MuHGgcp0
 四千の歩兵と共に、ラウンジ軍のほうへと向かった。
 暗闇のせいでよく分からないが、今はビロードがラウンジの攻めを防いでくれているはずだ。
 干戈の声だけが闇を裂いて届いてくる。

 ビロードの部隊が破られるときは、そう遠くないだろう。
 ラウンジはおかしな経路を選択してきた。正面ではなく、遠回りとも言えない、深い草原に囲まれた地帯だ。
 戦においては全ての要素が使い方次第で有効にも無効にもなるが、よもや夜襲に向かない、進みにくい道を選んでくるとは。

 だからこそ、ヴィップとしては焦らされたのだ。
 夜襲に向かない道を、あえて選んだ、ということだろうか。
 いずれにせよ、盤石の迎撃ではなかった。

( ゚д゚)(もう少し時間を稼いでくれ……)

 闇に向かって願いを放った。
 思いもよらぬ道をラウンジが選んだことにより、他の隊が整うまでに、少しだけ時間が必要になっているのだ。
 それはビロードも、分かってくれているだろう。

 敵軍の兵数は分からない。
 情報も入ってこない。
 闇で正確な数が把握できないためだろう。

 だが、数万といった規模ではない。
 進みにくい道を慎重に進んできたのだとしたら、一万が限度だろう。
 ショボンは、そういった数の見極めを上手くやるはずだ。

( ゚д゚)「……!」
129 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:22:45.72 ID:6MuHGgcp0
 地の揺れを感じた。
 やがて、闇に浮かび上がる銀の煌めき。
 星空が、そこにもうひとつあるかのようだった。

 戻ってきたヴィップ軍であれば、あの勢いはありえない。
 ラウンジ軍だ。

( ゚д゚)(数は……)

 七千ほどか。
 ビロードは、適度に時間を稼いだところで、道を開けたはずだ。
 ならば、多くを討ち取ってはいないだろう。

 ショボンが七千程度を送り出した可能性はある。
 が、あれほど戦の経験が豊富な男であれば、最大限の兵数を絞り出すはずだ。
 特に、相手の不意を突くための攻めであれば、尚更だった。

( ゚д゚)(……やってみるか)

 ショボンの図抜けた読みの鋭さを、逆手に取る。
 上手くいけばラウンジの被害は大きいだろう。
 やってみる価値はあった。

 鉦を大きく打ち鳴らす。
 敵軍が、一瞬速度を緩めたのが分かった。
 警戒したようだ。

 指揮官は、ショボンかギルバードだろう。
 他に何人か将校を伴っているはずだ。
 狙いは、そちらだった。
144 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:25:33.73 ID:6MuHGgcp0
( ゚д゚)「ここは破らせんぞ」

 腰を重くして待ち構えた。
 敵軍は、ほとんどが歩兵だ。騎馬隊の圧力には抗いがたいが、歩兵なら問題ない。
 正面から、受け止めた。

 七千弱の兵数だが、歩兵の錬度では優っている。
 四千で充分、対抗できる。

 小さな鶴翼のような陣を作り、ラウンジの攻撃を防いでいた。
 自分は右翼にいる。ラウンジの側面を突いていた。

 やはり、地に足がついていると戦いやすい。
 騎馬上よりもアルファベットの威力が増す。

(#゚д゚)「ふんッ!!」

 大きく踏み込んで、アルファベットを振り下ろす。
 闇に溶け込まぬ銀の刃が、敵兵を斜めに裂いた。
 血滴さえ、星の輝きに彩られて見える。

 陣を崩したくはないが、少しだけ敵陣に食い込んだ。
 満月から幾日か過ぎたあとの月のように、敵陣を抉り取る。

 その動きを、ラウンジが看過するはずはなかった。
 ヴィップの陣が少しだけ動き、ラウンジの本隊が攻め立てられている。
 ラウンジ本隊が、危険だと思える状態。

 ならば当然、別動隊は動く。
157 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:27:59.29 ID:6MuHGgcp0
( ゚д゚)(やはりな)

 三千ほどの部隊が、こちらを狙ってきた。
 隙を窺っていたようだ。

 本隊のみに集中させ、別動隊の一撃で崩す作戦だったのだろう。
 考えとしては悪くない。予想していなければ、危ないところだった。

 しかし今回は、自分の読み勝ちだ。

( ゚д゚)「……よし」

 ヴィップの側面を突こうとした別動隊の、さらに側面を突く動き。
 三千ほどの騎馬隊。
 ルシファー率いるI隊だ。

 文句なしの踏み込みだった。
 躊躇がない。一瞬で敵の別動隊を突き崩した。
 即座に反転し、更に乱す。

 別動隊は、あっという間に潰走した。
 それを受けてラウンジ本隊も下がる。
 どうやら指揮官はギルバードだったようだ。大声が聞こえた。

( ゚д゚)「深く追うな。この暗闇だからな」

 何かが待ち受けている可能性もある。
 今は、ラウンジの夜襲を防いだだけで良しとすべきだった。
169 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:30:31.33 ID:6MuHGgcp0
 翌朝、連絡を受けたブーンが慌てて戻ってきた。

(;^ω^)「申し訳ありませんお、大丈夫でしたかお?」

( ゚д゚)「問題ない。ルシファーがよくやってくれた」

(;个△个)「凄く怖かったけど、頑張りました!」

 嘘のつけない男だ。
 自分の気持ちを、正直に吐露する。

 いつも不安定で、将校らしさもあまりないが、戦になると果断だ。
 昨夜のように、逡巡なく敵陣に突っ込む。
 まだ成長途上の男だが、ラウンジの別動隊を率いていたらしい若い将校を、既に実力で上回っているようだった。

( ^ω^)「ルシファーありがとだお」

(*个△个)「これからも頑張ります!」

 昨晩は、突然の夜襲だったが、ほとんど損害なく打ち払うことができた。
 ビロードも、ルシファーも奮戦してくれた。

 あとは、ブーンだ。

( ゚д゚)(……しかし……)

 不調と言ってしまっていいのかも分からない。
 軍人としては着実な成長を、ブーンは遂げているのだ。
 一騎打ちでの強さが多少殺されたとしても、大将としては、指揮執りでの有能さが優先されるべきではないかとも思う。
181 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:33:29.33 ID:6MuHGgcp0
 しかし、ブーンらしさは失われるだろう。
 その先に、今のような着実性があるとは、言いきれないのだ。

 結局、自分にどうこうできる問題ではない、という考えに至る。

( ゚д゚)「……ブーン」

( ^ω^)「はい」

 今までと変わりない表情に見える。
 が、ジョルジュは違和を感じ取った。
 そう言われてから、自分もどこか平静に見える表情に、引っかかりを覚えてしまっている。

( ゚д゚)「……すまん、なんでもない」

(;^ω^)「??」

 何を言おうとしたのか、自分でも分からなくなってしまった。
 少し首を捻って、ブーンに背を向ける。

 そういえば、まだ北東からの報せが届かないな。
 新年までには、吉報を受けることができるのだろうか。
 などと考えながら幕舎に入った。
196 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:35:55.80 ID:6MuHGgcp0
――ギフト城・南――

 ヒッキーは、あえて道を開けたのだろう。
 それくらいは分かっている。
 が、引き返すわけにはいかなかった。

(#`・ι・´)「道を開けろッ!! ヴィップ!!」

 縦横無尽にアルファベットを振り回していた。
 ここは決死の覚悟で、自分が道を切り開かなければならない。

 頼れる者は、もういない。
 自分が、頼られる存在とならなければならない。

 だからこその、攻撃だった。
 決断だった。

 ヴィップを攻める、と決断したとき、オワタは難色を示した。
 両手を挙げてしばらく考え込んでいた。

\(;^o^)/「もし……もし、ヴィップを破れなかったら……最悪ですよ」

 そんなことは、言われずとも分かっていた。
 ギフト城を奪われた挙句、兵まで失う。
 ラウンジにとっては最低最悪の結果だ。

 しかし――――

(`・ι・´)「……ここで引き下がったら……俺は一生、戦に勝てなくなる気がする」
214 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:38:30.02 ID:6MuHGgcp0
 オワタも、頷いてくれた。
 後は死力を尽くすだけだった。

(#`・ι・´)「うおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」

 久々に、腹から声が出た。
 全身の力を全て、アルファベットに込めることができた。

 軍人としての判断を優先させるなら、どう考えても撤退だった。
 しかし、また違う考えを持つ自分が、心を占拠して、叫んだのだ。
 下がるな、と。

 失いつつある城を、取り戻せと。

(`・ι・´)(ニダーの部隊か……!!)

 地面を掘り続けた先で、堅い地盤にぶつかったかのような感覚があった。
 勢いを、多少なり削がれてしまった。
 ニダー=ラングラー率いるI隊。

 実質、中核だろう。
 ヴィップ軍の中将であり、守りの評価が非常に高い男だ。
 ニダーを中心として、ヴィップの堅陣は形を成しているはずだった。

 惑わしはない。小細工もない。
 ここさえ破れば、ヴィップはギフト城を諦める。

 側面からの圧力は無論あった。
 ロマネスク、そしてダイオード。
 どちらも決して無理はしてこないが、確実にラウンジを苦しめに来ている。
226 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:40:57.39 ID:6MuHGgcp0
 後方ではヒッキーも動いているようだ。
 ラウンジを、閉じ込めるつもりか。
 いや、あくまで背後を攻め立て、ニダーだけに集中させないことが目的だろう。

 周囲からの圧力を受けつつ、中核を破ろうとするラウンジ。
 それを防ぐヴィップ。
 構造としては、非常に単純だ。

 容易さも難しさもない。
 単純な、力のぶつけ合い。

 自分の、真価が試されていた。

(#`・ι・´)「くおおおッ!!」

 アルファベットTを横に薙いだ。
 片手のみで、だ。
 さすがに、重さで体が揺れる。

 が、強引に持ち上げて、今度は振り下ろした。
 立て続けに敵兵を討ち取る。
 畏怖の表情を貼り付けたままの首が、鮮血を撒きながら戦場の土に塗れた。

 そして瞬時に槌で叩く。
 後方のヴィップ兵に届くよう精いっぱいアルファベットを伸ばした。
 頭蓋の割れる音は、無数の衝突音や掛け声にかき消される。

 まだ、まだ敵兵は多い。
 破れるか。破れないか。
 判断などつかない。
241 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:43:35.27 ID:6MuHGgcp0
 それでも進み続けた。
 決して、足の動きは止めなかった。

 進めば進むほど、敵兵が固くなってゆく。
 瞬時に討ち取らせてはくれない。
 中央に近づくほど精兵になっているようだった。

(#`・ι・´)「ここが勝負どころだ!! 諦めるな!!」

 自分が、先陣切って進まなければ。
 皆の、拠り所とならなければ。

 今までずっと、何かに頼り続けてきた。
 誰かを支えることこそ自分の役割だと思い続けてきた。

 継続できるのなら、それが最上だっただろう。
 分相応。適材適所。
 いずれにせよ、自分は、絶対的な存在となりえる男ではなかった。

 しかし、環境が変わった。
 ベルはこの世から去り、カルリナも軍から姿を消した。
 どちらも、致し方ないことだと納得できた。

 だからこその苦しみだ。
 あるべきではない姿で、ある必要が出てきた。

 俺に、求めないでくれ。
 そんな弱音を零すことさえ、決して許されない。
250 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:46:01.50 ID:6MuHGgcp0
 誰しもが、葛藤しているのだ。
 自分のやるべきことは何か、今の役割が本当に相応しいのか。
 自問自答しながら、今を生きているのだ。

 自分だけではない。
 きっと、過去の軍人も、同じようなことを考えたに違いないのだ。
 それこそ、ヴィップの大将となったばかりのブーンは、計り知れない重圧に襲われているはずだ。

 甘えも妥協も許されるべきではない。
 自分は、戦に生きている男だから。
 戦を終わらせるために戦っている男だから。

 ラウンジ軍の中将として、この戦に、勝たなければならないのだ。

(`・ι・´)「ッ!!」

 不意に、ヴィップの圧力が強まった。
 側方だ。ロマネスクとダイオード。
 ニダーが危険と見て、堅陣が崩れるのも構わず攻め込み始めたようだ。

 ラウンジにとっては、苦しい。
 しかし、ここでニダーを破れば、ヴィップ軍はものの見事に崩壊するだろう。
 つまりヴィップとしても、苦心の策なのだ。

(#`・ι・´)「機だぞ!! 全力を出し切れ!!」

 ニダーの部隊さえ、打ち破れば。
 そうすれば、城を取り返すのみならず、壊滅的な被害を与えることができる。
 先々まで、ラウンジが優位に立てる。
263 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:48:34.80 ID:6MuHGgcp0
 訓練でもできたことがないような、素早い振りを繰り出せた。
 二人を討ち取り、刃を返す際にもう二人を討ち取る。
 両手は既に血塗れだった。

 柄を握る手の感覚が薄れる。
 素手で握っているためだ。
 だが、手から離れるようなことがあれば、即座に自分の首が飛ぶだろう。

 アルファベットだけは、絶対に離さない。
 たとえ自分の首が刎ねられようとも。
 最後まで、握り続けてやる。

 攻め込んでから既に二刻は経過していた。
 疲労はある。自分だけではなく、ラウンジ兵にもだ。
 そして、ヴィップ兵にもあるだろう。

 ニダーの姿は見えない。
 精神的な疲労は、間違いなくラウンジのほうが大きい。

(#;`・ι・´)「あと少しだ!! あと、少し……!!」

 まだ、柔らかくならない。
 それどころか、もっとヴィップは固くなってきている。

 中心へと、少しずつ迫っている。
 しかし、ニダーはあまりに遠い。
 遠すぎる。

(#;`・ι・´)「踏ん張れッ……!!」
280 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:51:12.61 ID:6MuHGgcp0
 誰に言っているのか、もはや定かではなかった。

 頭から雑念が消え、ただアルファベットを振るうことのみに集中していた。
 敵兵は、的確に凌ぎながら、時間を稼いでくる。
 もう、序盤にあったラウンジの勢いは、皆無だった。

(#;`・ι・´)「……クソォッ……!!」

 ニダーは、遠い。
 いつまで経っても、遥か彼方だ。

 破れない。

 ヴィップ軍を破ることは、できない。

(#;`・ι・´)「クソオオオオォォォッ!!」

 撤退の決断を、下すしかなかった。



――フェイト城・南西――

 明け方になって戻ってきた夜襲部隊は、悲壮な顔つきだった。

(´・ω・`)「結果は、聞かずとも分かるが」

 俯いたギルバードが、更にその顔を沈めさせた。
 もう黒い髪と鼻の頭しか見えない。
305 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:53:52.52 ID:6MuHGgcp0
(´・ω・`)「まぁ、相手にとって恐怖となってくれていればいい。
      が……もし、相手を調子づかせるようなことになっているのだとしたら」

 その先の言葉は、あえて言わなかった。

(´・ω・`)「……とりあえず、経過を聞かせてもらおうか」

 ギルバードは、ゆっくりと顔を上げた。
 相変わらずはっきりとした顔立ちだ。
 男前ではないが、印象に残る面構えだった。

( `゚ e ゚)「……七千と三千に部隊を分け、本隊でビロード隊を破ったあと、ミルナ隊と戦いました」

(´・ω・`)「ほう」

 部隊を分けるのは悪くない案だ。
 夜襲を受け、ヴィップは少なからず焦っただろう。
 ならば、別動隊にまで頭が回らない可能性は高い。

( `゚ e ゚)「ミルナ隊は精兵揃いであったようで、打ち破るのに苦心しました」

(´・ω・`)「そこで、別動隊を使ったわけか」

( `゚ e ゚)「はい。しかし、瞬時にヴィップは別動隊を潰しに来ました」

(´・ω・`)「読まれていたのか。別動隊を潰したのは誰だ?」

( `゚ e ゚)「新しく将校となった、ルシファー=ラストフェニックスという話です」
325 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:56:36.07 ID:6MuHGgcp0
 別動隊を率いていたのは、ウィットランドかグレスウェンだろう。
 それぞれ、将校として既に数年を過ごしている。
 経験では間違いなく、ルシファーを上回っているはずだ。

( `゚ e ゚)「ルシファーは動きが良く、瞬時に別動隊は破られてしまいました」

(´・ω・`)「で、どっちだ?」

 一瞬。
 たった一瞬だが、ギルバードは、言葉に窮したようだった。
 背中を押すように、はっきりと言い直す。

(´・ω・`)「どっちが別動隊を指揮していた?」

 ギルバードの後ろで縮こまっている二人を一瞥した。
 視線を逸らしている。失態の責任を問われ、斬られるとでも思っているのだろうか。

 場合によっては、そういった処置も考えなければならない。
 が、今はそのときではなかった。

( `゚ e ゚)「……ウィットランドです」

(´・ω・`)「そうか」

 話しかけることも、責任を問うこともしなかった。
 が、逆にそれが、ウィットランドには重圧となるだろう。
 その重圧が、どういった形でウィットランドに反映されるのかは、次の戦まで分からない。

(´・ω・`)「ブーンはどうしていた?」
332 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 18:59:01.26 ID:6MuHGgcp0
( `゚ e ゚)「分かりません。が、動きは見えませんでした」

(´・ω・`)「その場にいなかった可能性もあるな」

 だとすれば、最悪の結果だ。
 ブーンを欠いたヴィップ軍に打ち払われたのだとしたら。

 調子を落としているようにも思えるが、戦運びは以前より遥かに上手くなっている。
 夜襲を防いでくるとしたら、ブーンだろうと思っていたのだ。
 結局はミルナが指揮執ったようだが、ブーンがたまたま居ないときだったのであれば、ラウンジとしては失態もいいところだった。

 恐らく、ヴィップを多少なり勢いづかせてしまっただろう。
 無益な攻めだったと判断せざるをえない。

( `゚ e ゚)「申し訳ありません。失敗は、私の責任です」

 毅然とした声だ。
 ギルバードは、本当に責任を感じているようだった。

 おかしな面も見せるが、根は真面目な男だ。
 だからこそ、意気消沈してしまってもいるのだろう。
 感情を隠すのも上手くはない。

(´・ω・`)「まぁいいさ。俺の判断が甘かったということだ」

 その言葉に対し、ギルバードは何かを言いかけた。
 が、手を前に出して言葉を封じ込める。

(´・ω・`)「次の戦での活躍を、三人には期待する」
344 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 19:01:31.52 ID:6MuHGgcp0
 三人は強く頷いた。
 敗北を糧として、更なる成長を遂げてくれればそれでいい。
 夜襲の失敗も、無駄なものではなくなる。

 三人を退出させたあと、入れ替わるようにしてクーが入ってきた。
 兵の身なりだ。三人は、ただの伝令と思い、気にも留めなかったようだった。

川 ゚ -゚)「北東から報せがやってきました」

 開口一番だった。

 いつもどおり冷静な口調だが、自分には分かる。
 決していい報せではない、と。

 ギフト城を巡る争いは、決着がついたようだ。
 こちらより短くなるだろう、とは思っていたが、予想を超えていた。
 だからこそ、不安にも駆られたのだろう。

(´・ω・`)「聞こうか」

 あらゆる結果を覚悟して、クーの言葉に集中した。



――リリカル城・南西――

 ヴィップ軍は、陣を崩さなかったが、しかし最大限追撃してきた。
 眩暈を覚えるほどの犠牲。
 八千、いや、一万は下らないだろう。
357 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 19:04:01.51 ID:6MuHGgcp0
 自分を生かすために多くの兵が奮戦してくれた。
 それでも危難は項まで迫り、そっと指先で触れてきた。
 ヴィップが城を優先せず、返り討ち承知で追撃してきていたら、首はなかったかも知れない。

 自分の背後に、死屍累々。
 何度も味わってきたはずなのに、違う。
 世界が、霞む。

(`・ι・´)「…………」

 指揮官が、揺らいではならない。
 その思いから、配下の兵にはいつもどおり接した。

 しかし、話しかけてくる者は少ない。
 気遣われているのだろうか。
 いや、責められているのだろう。

 攻撃を決断した挙句、ヴィップを破れず、撤退する破目になった。
 城は取り返せず、兵さえも大きく失い、得たものなど何もない。

 敗残者となったラウンジ軍は、霜の降りた道を粛々と歩き続けている。

 誰が、兵に惨めな思いをさせているのだ。
 多くの仲間を失わせたのだ。

 自分だ。

 自分以外の何者でもない。

(`・ι・´)(……ここまで、とはな……)
368 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 19:06:33.45 ID:6MuHGgcp0
 才がないことなど、とうに自覚していた。
 人の上に立つべき男ではないと分かっていた。

 つもりだった。

 本当は、どこかで、自分自身に期待してしまっていたのだ。
 長年の経験がある。アルファベットもTに達している。
 そんな半端な自負が、狂わせていた。

 自分の、冷静さを、
 あったかどうかも分からない、冷静さをだ。

 才のなさは自覚しているつもりだったが、ここまでとは思わなかった。
 酷いものだった。

 負けたくないという自分の意地で、攻撃を決断した。
 結果、失わずに済んだものまで失ってしまったのだ。
 しかももう、死んだ兵は帰ってこない。

 自分の身勝手な決断で、死んだ兵は数多くいる。
 何を、やっているのだ。
 無謀な決断などして、いったいどう責任を取るつもりなのだ。

 誰もが責めるだろう。
 後ろ指をさして笑うだろう。
 そして自分は、それを受け入れなければならないのだ。

 後ろから、オワタの声が聞こえた。

\(;^o^)/「中将……その……あまり、気に病まれないほうが」
381 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 19:09:17.69 ID:6MuHGgcp0
(`・ι・´)「……オワタ、悪いが……」

 心配してくれているのは、分かる。
 分かるが――――

(`・ι・´)「……少し、一人にさせてくれ……」

\(;^o^)/「……!」

 意識が朦朧とする感覚。
 足もとが、覚束ない。
 視界は不透明だ。

(`・ι・´)(……価値は……あるのか……?)

 霜を踏みしめる音が幾つも重なっている。
 穏やかな響き。しかし、静かに心を叩く。

 皆が、敗戦の傷を抱えている。
 自分が、抱えさせてしまっている。

(`・ι・´)(勝てない軍人に……価値は、あるのか……?)
398 :第99話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/26(水) 19:12:04.03 ID:6MuHGgcp0
 朔風は強く、全身にぶつかって、耳に音を残す。
 夜は静穏と共に更けていく。

 激動の一年が、終わろうとしていた。














 第99話 終わり

     〜to be continued

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