8 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 22:50:43.29 ID:7zYZo4yX0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:W
現在地:ミーナ城・北

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:オオカミ城近辺

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:???

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
46歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ミーナ城・北

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ギフト城・南
11 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 22:51:14.65 ID:7zYZo4yX0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ギフト城・南

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:O
現在地:ミーナ城・北

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:オリンシス城
15 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 22:51:54.07 ID:7zYZo4yX0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:M
現在地:ギフト城・南

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
24歳 少尉
使用可能アルファベット:K
現在地:ミーナ城・北

●/ ゚、。 / ダイオード=ウッドベル
29歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:ギフト城・南

 
22 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 22:52:38.18 ID:7zYZo4yX0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:ビロード/アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/ダイオード
少尉:ルシファー

(佐官級は存在しません)
27 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 22:53:18.34 ID:7zYZo4yX0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:ルシファー
L:
M:ロマネスク
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ/ギルバード
T:ニダー/アルタイム
U:ミルナ
V:ジョルジュ/シャイツー
W:ブーン
X:モララー
Y:
Z:ショボン
33 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 22:53:52.56 ID:7zYZo4yX0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

40 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 22:54:53.24 ID:7zYZo4yX0
【第98話 : Name】


――ギフト城・南――

 ラウンジは、正面から迎え撃ってきた。
 指揮官はアルタイム=フェイクファー。見知った顔だ。
 しかし、昔に比べれば随分と逞しくなった。

(-_-)(……四万か……)

 兵糧に苦しんでいるらしいラウンジにしては、数を出してきた。
 これで遠征軍は十万を超えるだろう。
 兵糧を得たばかりでの十万は、手痛いはずだ。

 ただ、ヴィップも決して楽な状況とは言えない。
 立て続けに攻めればいつか兵糧は枯渇する。
 ブーンがギフト城攻めを指示してきたことに理由はあるのだろうが、明確には説明されなかった。

 恐らく、直接会ったときに説明するつもりなのだろう。
 ならばそれでもいい。
 今は、ギフト城を奪うことだけに集中できる。

(-_-)「…………」

 ラウンジは、城から十里ほど離れた地点に陣取ってきた。
 上手い位置取りだ。回避して城に攻めるのは辛く、こちらも守りを疎かにできない。
50 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 22:56:56.34 ID:7zYZo4yX0
 しかも、ラウンジは二万ずつに分けて陣を敷いている。
 守勢に徹するわけではない、いつでも攻め込めるぞ、とこちらに示しているのだ。
 おかげで、ヴィップとしては戦いづらい。

<ヽ`∀´>「やーな布陣ニダね」

 ニダーも、同じ感想を抱いたようだ。
 二万の兵団が、稲妻のような形を成して並列になっている。
 恐らくは、いつでも隊を分離して動けるのだろう。

<ヽ`∀´>「それでも、攻め込むしかないニダ」

 最後まで、ニダーと考えた内容は同じだった。
 攻め込むしかない。ラウンジが、どんな布陣を取ってこようとも。

 三万の軍を使って、攻め込んだ。

 まず、片一方の二万は無視した。
 兵力が分散されているため、各個撃破するのが常套手段だと判断したためだ。
 そして、それは上手くいった。

 稲妻形の陣は瞬く間に崩れ、算を乱した。
 ラウンジ兵は散り散りになり、力を発揮できないでいる。
 やはり、部隊の錬度ではヴィップのほうが上だ。

(-_-)(……しかし……)

 いかにも、脆すぎる。
 最初から、堪えるつもりなどなかったのではないか、と思うほどだ。
66 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 22:59:27.21 ID:7zYZo4yX0
 当然、攻め込まなかった二万の陣にも気は配っていた。
 しかし、僅かに動く気配を見せるだけで、こちらには近づかない。
 このまま、三万の兵で押し込むべきか。

(-_-)「ッ……!」

 だが、押しこもうとしたところで、ラウンジの反撃があった。
 散り散りになった兵は瞬時に下がり、無傷の二万が入れ替わるようにして攻め込んでくる。

 引きつけるだけ引きつけるのが、目的だったのか。
 弦を目いっぱい引いた弓矢のように、急速な攻めを繰り広げてくる。
 先頭は騎馬隊。しかも、速い。

 貫かれた。
 隊が、二つに分断される。
 だがこれは問題ない。指揮系統は最初から二つに分けてある。

 分断されたあと、一万五千を自分が指揮した。
 もう片方はニダーが指揮執っている。
 このまま合流せずに、撹乱しながらラウンジを攻める手筈になっていた。

 ラウンジの部隊は、ヴィップを分断したあとすぐに反転してきた。
 今度は、後ろを攻められる。
 勢いに乗ったラウンジの攻撃は、生半可なものではなかった。

(;-_-)「くっ……」

 更に分断されると指揮が難しくなる。
 必死で堪え、なんとか攻撃をやりすごした。
 そのままラウンジの後を追うように、反撃に出る。
72 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:01:29.94 ID:7zYZo4yX0
 自らもアルファベットを振るった。
 再びヴィップへ攻め込もうとしていた部隊に、突撃。
 重力に任せた振り下ろしで、敵兵の頭蓋を割った。

 互いに攻め合いとなっている。
 ならば、不利なのは寡兵であるヴィップ側だ。
 そしてそれこそが、アルタイムの狙いだろう。

(-_-)(……埒が明かないな……)

 いったん、兵を固めて後方に戻した。
 ニダーも呼応して戻ってくる。
 同じようにラウンジも、体勢を立て直すことに専念しだしたようだ。

<ヽ`∀´>「踏み込み切れんニダ。奥深いニダね」

(-_-)「嫌な戦い方ですね、アルタイムは……」

<ヽ`∀´>「驚くほど戦が変わってるニダ」

 そのせいで、ニダーは踏み込み切れないのだろう。
 以前よりも懐が深くなった。下手を打てば、引きずり込まれかねない。
 そんな印象を抱かせる将へと変貌している。

 カルリナを失ったことによる責任感が、戦い方を変えたのだろうか。
 今までのように、カルリナを支えていればいい、という立場ではなくなった。
 本当の意味で、アルタイムは自立しなければならなくなったのだ。

(-_-)(今のところは……上手くいっているようだな……)
79 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:03:34.61 ID:7zYZo4yX0
 アルタイムの戦経験はかなり豊富だ。
 勢力を伸ばしたベル指揮下、そして自らの大将時代、いずれも場数を多く踏んできた。
 その経験が、活かされているのだろう。冷静な戦運びだった。

<ヽ`∀´>「次は、守りを優先して攻め込んでみるニダ」

(-_-)「……そうですね……」

<ヽ`∀´>「ロマネスク、それでいいニカ?」

 部隊の整列を徹底させていたロマネスクが、戻ってきた。
 相変わらず多量の汗が額に浮かんでいる。

(;ФωФ)「守りに入ると膠着してしまうのでは?」

<ヽ`∀´>「かも知れんニダ。ただ、ラウンジが攻めを打ってくれる可能性もあるニダ」

(;ФωФ)「なるほど……無難性を優先させるわけでありますか」

 ロマネスクの性質とは合わないだろう、と思った。
 自分やニダーは、やはり負けないことを優先してしまう。
 武将としての根底に、敗北したくない気持ちが座り込んでいるのだ。

 だが、ロマネスクは貪欲に勝ちを求めるほうだ。
 どちらがいいとは言えない。どちらも、一長一短だ。
 ただ、問題があるとすれば、今いる将校のバランスだった。

 将官である自分とニダーが、負けない戦を優先してしまう。
 ロマネスクは中尉だ。経験も、自分たちより遥かに劣る。
 そうなると、やはり――――
86 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:05:44.80 ID:7zYZo4yX0
( ФωФ)「了解であります」

 汗を拭いながら、ロマネスクは頷いた。
 やはり、最終的にはロマネスクが折れる形になる。

(-_-)「…………」

 ロマネスクが諸手を挙げて賛成するような策を、提案しようか。
 そうも考えたが、上策は浮かんでこない。
 ニダーの策のまま戦うしかない。

 鉦を鳴らして、陣を動かした。
 ラウンジ全軍も身構えている。

 ゆっくりと接近し、牽制がてら騎馬隊を繰り出した。
 ラウンジも同じように騎馬隊を突出させてきたが、大きくは動かない。
 もう少しだけ踏み込んで、今度は歩兵隊を使った。

 しかし、ラウンジは動かない。
 見極められている。

(;-_-)(くそっ……)

 攻め込む気がない、と分かられてしまったのだ。
 だからラウンジも陣を動かすことはない。

 当然と言えば、当然だ。
 ラウンジは、ギフト城を守りさえすればいい。
 パニポニ城は奪えないと分かっているはずだからだ。
95 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:07:50.38 ID:7zYZo4yX0
 ヴィップが守勢では、やはりどうにもならない。

<ヽ`∀´>「……撤退するニダ」

 とりあえず、パニポニ城まで戻ることになった。
 既に日は落ちている。

<ヽ`∀´>「試しにやってはみたものの……失敗だったニカ」

(-_-)「そうですね……」

<ヽ`∀´>「でも、ラウンジが攻め込んでくるような隙となると……こっちが危険になるニダ」

 懐を大きく開ければ、さすがにラウンジも動くだろう。
 ただ、そのときはヴィップも相当の被害を覚悟しなければならない。
 大勝するか、大敗するかという戦いになる。

 ヴィップのほうが多く兵を抱えているのであれば、そんな戦に挑むことも可能だ。
 しかし、寡兵。同じ敗北でも、深い傷となるのはヴィップのほうだ。
 だからこそ、踏み込み切れないのだった。

 やはり将校の均整が取れていない。
 守りを重視するため、城を奪うにまで至れる策が出てこないのだ。

 おまけに、相手は攻守のバランスに優れているアルタイム。
 これではやはり、攻めきれない。

(-_-)(……どうしたものか……)
106 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:10:16.29 ID:7zYZo4yX0
 今晩、軍議を開いて皆から意見を募るべきか。
 経験の浅い将校の策を取ってみるのもいい。
 とにかく、活路を見出したい。

 そう考えていたときだった。

(-_-)「……ん……?」

<ヽ`∀´>「……あれは……」

 山上に建っているパニポニ城への道を歩いていた。
 複雑に入り組んだ山道を。

 その道の先に、立つ男。

( ・∀・)「おー、みんなお帰り。勝てなかったみてーだな」

 モララー=アブレイユ。
 ヴィップ城で療養しているはずの男が、いったい、何故ここに。

( ФωФ)「モララー中将! 何故このようなところに?」

( ・∀・)「暇だったんでな。軽くなら馬にも乗れるようになったし……。
     まだ戦場に立つのは辛いが、城には留まれる」

(-_-)「……頭だけでも……ということですか……?」

( ・∀・)「あぁ。体は使えねーけど、頭は使える」
127 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:12:32.01 ID:7zYZo4yX0
 自覚があるのだろう。
 頭脳だけでも充分、戦の役に立てる、と。

( ・∀・)「西に行くか北に行くかは迷ったんだが……まぁ、あっちにはミルナもいることだしな。
     将校も兵も手薄なこっちに来たほうがいいと思ったんだ」

 実際、心強い援軍だった。
 モララーは知勇併せ持った完全無欠型の武将だ。
 言わば、天才。感性で戦ができる、唯一の男と言ってもいい。

 ショボンが、力に知を付与して戦うのに対し、モララーは知に力を付与する。
 結果は概ね似たようなものになるが、過程で大きな違いが出るのだ。
 そしてそれこそが、唯一無二の大きな武器だった。

 加えて、モララーは勝利を考えられる。
 どう戦えば勝てるのか、という発想を常に持てる男だ。
 戦績だけで充分に分かるほど、だった。

 これで将校のバランスも整う。
 怪我の具合がよくなりつつあるとは聞いていたが、絶妙な時機に現われてくれた。
 ありがたかった。

( ・∀・)「必要なら戦に対する意見を言わせてもらおうと思うんだが……。
     ニダー中将、どうします?」

 基本的に、役職が下位であるか、年下であればモララーは敬語を使わないようだ。
 ニダーは同地位の中将であり、年上だ。だから敬語を使っているのだろうが、自分にとっては珍しく思えた。
141 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:14:44.14 ID:7zYZo4yX0
 話しかけられたニダーは、終始、憮然としているように見えた。
 突然、何の連絡もなしに現れたモララー。
 苦戦していると見るや、助言を買って出てきた。

 ニダーも、指揮官として簡単に頭は下げられない。
 いや、部下にそういった姿は、見せられないのだ。
 あくまで、ヴィップ軍のために、だった。

<ヽ`∀´>「……よろしくお願いするニダ」

 一言だけ残して、ニダーはパニポニ城へと入っていった。
 中将らしさは、充分に見せてくれた。

 本当は、嬉しいのだ。
 モララーが来たことを、喜んでいるのだ。
 長い付き合いである自分には分かる。感性の鋭いモララーも、分かっているだろう。

 国のためであれば自らの誇りには拘らない。
 それこそが、ニダーの誇りなのだ。
 憎まれ役をあえて演じることもあるが、本当は器の大きい将だった。

 そして、そのニダーに認められたモララー。
 この男は、果たして救世主となってくれるだろうか。

( ・∀・)「……なるほど……アルタイムは手強くなりましたか」

 パニポニ城に戻ってから、すぐに軍議へと移った。
 将校は全員揃っている。
160 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:16:54.03 ID:7zYZo4yX0
<ヽ`∀´>「そんなに才能がある男じゃなかったニダ。でも、経験は抜群ニダ」

( ・∀・)「時には才能を凌ぎますからね、踏んできた場数ってのは」

( ФωФ)「実感させられました。戦に対する、恐れや逡巡がありませんでした」

( ・∀・)「まさしく、経験によるもんだ。上手いこと戦馴れした将は、簡単には負けない。
     しぶとさが出てくる。結果的に、粘り勝ちすることだってある」

(-_-)「……防衛時には、大きな武器となりますね……」

( ・∀・)「そーだなぁ……俺はアルタイムと戦ったことねーけど……簡単に破れる相手じゃなさそうだ」

 もう普通に動くだけなら問題はないようだ。
 手を口に当てたり、髪に触れたりと、忙しく動かしている。
 自由に動かす訓練も兼ねているのかも知れない。

( ・∀・)「となるとやっぱり、この城を利用するしかないな」

<ヽ`∀´>「パニポニ城を、ニカ?」

( ・∀・)「えぇ」

(-_-)「…………」

 それは、自分も考えた。
 天然の要害であり、モナーが仕掛けた無数の罠の張り巡らされた城。
 これほど防備に優れていれば、必ず何かの役に立つはずなのだ。
171 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:18:55.40 ID:7zYZo4yX0
 しかし、浮かばない。
 防衛の有能さを、攻撃に活かす手立てが、思い浮かばない。

( ・∀・)「ま、一個だけあるんだけどな。危険性もない、いい戦い方が」

(-_-)「ッ……!!」

<ヽ`∀´>「本当ニカ?」

( ・∀・)「えぇ、もちろん。嘘なんかつきません」

 常に自信に満ち溢れた男だ。
 半端な嘘をつかないことくらい、分かっている。
 しかし、いったいどのような策なのか。

( ・∀・)「ただ……俺が策を考えるときは、あくまで『自分が実行する』という風に考えてるんです。
     だからこの策も俺が指揮執ることを前提にしてます」

<ヽ`∀´>「でもモララー、戦場に立てるニカ?」

( ・∀・)「アルファベットは、一応Tを持ってきてるんですけどね。
     U以上は城になかったから、今どんくらいまで下がってるか分かんないんですけど」

 モララーは元々、Xの使い手だったはずだ。
 本来ならショボンに次ぐ位置だった。
 しかし、怪我によりランクが下がっているのは間違いないだろう。

<ヽ`∀´>「Tは握れてるニカ?」

( ・∀・)「えぇ。握るだけなら問題ありません」
184 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:21:00.60 ID:7zYZo4yX0
( ФωФ)「……つまり、アルファベットを振るうにはまだ難あり、と……?」

( ・∀・)「まぁ、そういうことだ。でもそんなこと言ってられる状況でもない」

 モララーは、にやりと笑っていた。
 何故か、ロマネスクを見つめながらだ。

( ・∀・)「とりあえず、俺のことは置いとくとして……策と同時に提案したいことがあります、ニダー中将」

<ヽ`∀´>「ん?」

( ・∀・)「次の戦、指揮権をロマネスクに預けてやってくれませんか?」

 軍議室内から、音が消えた。

(;ФωФ)「……は?」

( ・∀・)「は? じゃない、お前だ、お前。ロマネスク、お前だ」

(;ФωФ)「モララー中将の仰ることの意味……低能な我輩では理解が及びませぬ」

( ・∀・)「バカなこと言ってんなよ、ロマネスク。
     で……ニダー中将、どうですか?」

<ヽ`∀´>「実はウリも同じことを考えてたニダよ」

 ニダーは、即答だった。
 本当に同じことを考えていたのだ、とすぐ分かるほどに。
199 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:23:24.55 ID:7zYZo4yX0
<ヽ`∀´>「ウリやヒッキー少将じゃ守りばっか優先しちゃうニダ。
      あんまり攻めの総指揮に慣れてないニダよ。
      だから、攻めの得意な武将に任せたほうがいいか、とは考えてたニダ」

( ・∀・)「なるほど。それなら話が早い」

(;ФωФ)「モララー中将、理由を」

( ・∀・)「自分で考えろ。そのほうがいい」

 ロマネスクは、きっと動転してしまっている。
 冷静に考えれば、何故モララーがロマネスクを指名したのか、分かるはずだ。

 モララーは、作戦を立てるにあたり、実行役を自分と想定している。
 しかし今回、総指揮を執るにはまだ体がついていかないだろう。
 だから、代役を立てなければならなかったのだ。

 ニダーや自分ではモララーの構想に適さない。
 ニダーも、それを理解しているようだった。

( ・∀・)「んじゃあ、作戦について」

 世間話でも始めるかのような口ぶりで、モララーは作戦の概要を語り始めた。



――フェイト城とミーナ城の中間地点――

 なんだ、あれは。
 いったいいつ、どうやって。
207 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:25:28.03 ID:7zYZo4yX0
 様々な疑問が脳内に去来する。
 しかし、それら全てを追いやるほどの危機感。

(;゚д゚)「ブーン!!」

 大将ブーンの前に、突如として姿を現した。
 アルファベットVを握り締める男。

 モララーに似ているが、別人だ。
 ベルの影武者だったファットマンほど酷似しているわけではない。
 ここからでも、違いは分かる。

 だが、遠い。
 一騎打ちを遮りたいが、遠すぎる。

 ブーンと、Vを握る男の一騎打ちが、既に始まっていた。

(;゚д゚)「ッ……」

 アルファベットVを自分の手前で小刻みに動かし、攻めを防ぐブーン。
 狂ったように何度も何度もブーンを襲う敵将。

 振りは大きい。小回りの利くVといえど、あれでは隙が生じる。
 しかし、ブーンは反撃しない。
 いや、できないのだ。

 敵将の振りが異様に鋭いことも影響している。
 が、それだけではない。
 ブーン自身、一騎打ちに切れがないのだ。
216 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:27:35.98 ID:7zYZo4yX0
 一騎打ちでは無類の強さを誇ってきた。
 自分が知る限りでは、負けなし。
 上位の相手や、壁突破者であるドラルとファルロさえ、一騎打ちで破ってきたのだ。

 反撃を試みようとしているのは分かる。
 が、敵将の異常とも言えるアルファベットの使い方に、ブーンは臆している。
 本来の調子がまるで出ていない。

 やはり、危険だ。

 こんなところで、突然、同等のアルファベット使いに遭遇するとは思わなかった。
 ブーンも、自分もだ。
 いったいいつ、どこでこんな人材を育成していたのだ。

 しかし、それも今はどうでもいい。
 ブーンを、助けなければ。

(;゚д゚)「……くそっ!!」

 部隊を操って敵陣を乱そうとするが、ラウンジも巧みだ。
 流れを堰き止めるようにして、こちらの攻めを防いでくる。
 ブーンと、あの敵将の一騎打ち、邪魔はさせんと言わんばかりに。

( ゚д゚)(……それなら……)

 先に、手を打ってやる。
 こちらから、敵の大将を狙ってやる。
229 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:29:50.48 ID:7zYZo4yX0
 ショボン=ルージアル。
 来い。俺がお前を、討ち取ってやる。
 憎き仇、戦場から逃しはしない。

( ゚д゚)「……ッ……」

 一際、大きな音が響いた。
 左方。一騎打ちの方向からだ。

 ブーンが、敵将から離れている。
 大きく距離を取った。一騎打ちの回避に、成功したようだ。
 自分もすぐに部隊を後方へと引き戻した。

( ^ω^)「……全軍を、下げますお」

( ゚д゚)「いいのか?」

( ^ω^)「致し方ありませんお……」

 表情は、いつもどおりだが、言葉の調子はやはり違った。
 はっきりと、沈んでいる。

 突然現れたVの使い手に、動揺してしまった。
 全軍が、だ。
 大事なフェイト城戦の、大事な初戦で、痛い切り札を出された。

 防衛線を五里下げた。
 先に下がらなければ、ラウンジに付け込まれる。
 下手に粘ると、数十里にわたって防衛線を押し込められる可能性もあった。
239 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:31:55.02 ID:7zYZo4yX0
 ブーンの判断は、無難だった。
 自分が総指揮なら、もう少し戦っただろうが、ブーンが決断したのであれば仕方がない。
 中将という地位を得てはいるが、所詮、客将のような存在に過ぎないのだ。

( ゚д゚)「…………」

 ミーナ城にはまだ戻れない。
 このまま野営し、敵軍と睨み合うことになる。

 常に気の抜けない戦いだ。
 そして、厳しい戦いでもある。
 初戦の敗北で、それは顕著になっていた。



――ラウンジ側――

 文句なしとは言えないまでも、悪くない勝利だった。

(´・ω・`)「夜襲への備えを忘れるな。篝火を絶やすな」

 当然のことも、徹底させた。
 複雑に考えすぎて基本が抜けると、大打撃を受けかねない。
 特に勝利を得たあとは、警戒しすぎだと言われるくらいでちょうどいい。

 ひととおり任務を終えたあとは、幕舎に入った。
 大将のために用意された幕舎だ。必要なものは揃っている。

 その中にいるのは、クーと、シャイツー。
 シャイツーは魂が抜けているかのように、頭を垂らしたまま動かない。
247 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:34:10.26 ID:7zYZo4yX0
(´・ω・`)「薬でも飲ませたのか?」

川 ゚ -゚)「簡単な催眠術です。普通の人間には効きませんが」

(´・ω・`)「シャイツーなら何とかなる、か」

川 ゚ -゚)「大人しくさせるだけなら、児戯のような術でも可能です」

 椅子に座って、湯気の立つ器を手に取った。
 冬が深まりつつある。少し置いておくだけで、湯は冷めてしまう。

(´・ω・`)「まぁ、今日の活躍は褒めてやれるな」

川 ゚ -゚)「はい。シャイツーはよく戦ったと思います」

(´・ω・`)「不安も大きかったが、問題ないだろう。これからも戦で使える」

 シャイツーからの反応はない。
 こうやって、黙らせることは難しくないようだが、命令に従わせるのが大変なのだ。
 落ち着かせてやるのは、自分ではなくクーの仕事だった。

 落ち着いたあとはむしろ、クーより自分の言葉をよく聞く。
 だから戦で使っていられるのだ。

(´・ω・`)「クラウン国王の努力が実ったな。長年、我慢して育てた甲斐もあったというものだ」

 報告すれば、クラウンは喜んでくれるだろう。
 早く戦を終わらせて、ラウンジ城に帰りたいところだった。
258 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:36:42.66 ID:7zYZo4yX0
 シャイツーは、クラウンが拾って育てた男だ。
 野山を駆けずり回る獣のような男がいると聞き、山中を探して、保護した。
 ひどく怯えた様子で、そのうえ暴れるため、手のつけられないような男だったという。

 民の要望を受けて保護しただけだったため、最初は育てるつもりもなかったという。
 しかし、当時アルファベットに優れた人材を求めていたクラウンは、Aを握らせることに決めた。
 510年のことだった。

(´・ω・`)(それから十七年か)

 当時シャイツーは、自分を十六歳だと言い張った。
 本当の年齢は分からないが、クラウンは二十歳くらいに見えたらしい。

 十八歳未満にアルファベットを使わせない協定のため、クラウンが強引に十八歳とした。
 今は三十五だ。Vを扱う年齢としては、早いほうだった。

 Vにまで到達できたのは、ひたすらアルファベットのみを訓練させたおかげだった。
 どうやらシャイツーは、脳か精神に障害を抱えているようで、まともな軍人として育てるのは不可能だったのだ。

 だが、アルファベットはクラウンも舌を巻くほどの成長ぶりだったという。
 ギコの嫁だったしぃが抜群に料理上手だったように、シャイツーも他を圧倒するほどのアルファベット技術を身に付けていった。
 余計な雑念や情報が入らないせいか、ひとつのものを極めることに優れているようだった。

 だからクラウンもアルファベットを握らせてみたのだろう。
 もしかしたら、という期待を込めて。

 シャイツーは期待どおりに成長してくれたが、順風満帆ではなかった。
 人とアルファベットを合わせることを、異常に恐れてしまったのだ。
 というよりも、誰かと接することを怖がっていたようだった。
269 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:38:49.85 ID:7zYZo4yX0
 人を恐れないようになるまでが大変だったらしい。
 クーや医者が催眠療法などを使って努力し、何とか怯えないようにはなった。
 が、今度は自分の部屋から出なくなってしまったという。

 元々、自らの居場所から離れたがらない性質はあった。
 野山で生活していたこともそのせいだ。
 そのときは眠らせて連れ出したというが、戦に連れ出すときは無理やりでは意味がない。

 命令に従うようになったのは、つい最近のことだ。
 睡眠薬を盛り、そのうえ更に催眠術をかけ、ようやく戦場に引っ張り出せたのだ。

 紆余曲折を経て、この歳になって初めて、シャイツーは戦場に立つことができた。
 クラウンらの苦労が実った形だった。

川 ゚ -゚)「しかし、いい名ですね」

(´・ω・`)「ん?」

川 ゚ -゚)「シャイツー。伝説の名将と同じ名ですか」

(´・ω・`)「あぁ。ニチャン国の大将だった男だ」

 およそ七百年ほど前にあったと言われる大戦。
 資料はほとんど残されていないが、大将の名くらいは伝わっている。
 シャイツー。それと、同じ名を与えてやった。

 モララー、と長く呼ばれていた。
 容姿が似ている。ファットマンのような役割をこなせるほどではないが、確かに似ている。
281 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:41:02.66 ID:7zYZo4yX0
 510年当時、既にモララーはアルファベットの天才として有名だった。
 そのモララーのように、とクラウンが思って名付けたのだ。
 シャイツーは、マタンキという苗字だけを覚えていて、名を忘れていたためだった。

 しかし、シャイツーは嫌がった。
 モララーという名ではなく、他の名を欲しがったらしい。
 どうやら名づける際、クラウンが『ヴィップのモララーのようになってくれ』、と言ってしまったためのようだった。

 そこでクラウンは餌を与えた。
 いつか大将に認められたら、そのとき大将に貰え、と言ったらしい。
 シャイツーは素直に従った。目標ができたためだろう、とクラウンは言った。

 戦場へ出ることを嫌がったシャイツーを、最終的に引っ張り出せたのも、目標のおかげだ。
 でなければ、催眠術ごときで人間は操れない。
 目標と絡めて術を使ったからこそ、シャイツーは命令に従ったのだ。

 名前への拘りが強い理由には、親に捨てられたことが影響しているような気がした。
 ヴィップのしぃも同じだった。脳に障害を抱えていたため、親に捨てられた。
 子供が健常でないと知るや、簡単に見放す親は腐るほどいる。

(´・ω・`)(……死罪にしてしまえばいいんだ)

 子を捨てる親など、死罪にしてしまえばいい。
 何の躊躇いもなく子を見放す親が多すぎる。
 ラウンジが天下を統一したら、刑罰を厳格化させるつもりだった。

(´・ω・`)「いま起こすと、暴れるか?」

川 ゚ -゚)「大丈夫だと思います」
296 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:43:12.91 ID:7zYZo4yX0
(´・ω・`)「張ってやれ」

 クーが、両手で軽く、シャイツーの頬を張った。
 途端、目を大きく見開き、辺りを見回し始めるシャイツー。

(´・ω・`)「よくやってくれたな。初陣にしては上々だったぞ」

(・∀ ・)「夜が暗いのは当たり前だろ。バーカバーカ」

(´・ω・`)「…………」

 昔から、のようだった。
 まともな会話に、ならない。

(´・ω・`)「腹は減ってないか?」

(・∀ ・)「おう、眠たいぞ」

(´・ω・`)(……ダメか……)

川 ゚ -゚)「半眠状態にさせて催眠術をかければ」

(´・ω・`)「いや、いい。それは戦のときでいい」

(・∀ ・)「なにボーっとしてんだよー。働けよー」

(´・ω・`)「今日の任務は終わりさ、シャイツー」

(・∀ ・)「……シャイツー?」
310 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:45:24.54 ID:7zYZo4yX0
 初めて、まともな反応を示した。
 落ち着くことを知らなかった視線が、一点で留まっている。
 ただ、自分だけを見ている。

(´・ω・`)「あぁ、お前の新しい名前だ。お前はシャイツーだ」

(・∀ ・)「シャイツー……」

(´・ω・`)「シャイツー、戦はどうだった?」

(・∀ ・)「悪くなかったぞ。喜べ」

(´・ω・`)「次も戦うか?」

(・∀ ・)「おう。シャイツーは戦うぞ」

(´・ω・`)「よし、今日はもう寝ろ。また明日からの戦に備えるんだ」

(・∀ ・)「分かった」

 シャイツーは一目散に部屋の片隅へと向かい、毛布を被った。
 こちらに、背を向けてだ。

(´・ω・`)「少しだけだが、まともな会話になったな」

川 ゚ -゚)「珍しいことです」

 シャイツーの寝息が聞こえてきた。
 眠りに落ちるのは、異常に早い。
325 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:47:36.83 ID:7zYZo4yX0
(´・ω・`)「何とかなりそうで、良かった。ヴィップはVの使い手に、動揺しているだろうな」

川 ゚ -゚)「当然です」

 本物のモララーでも連れてこれたら、動揺どころではなかっただろう。
 が、いかにクーと言えど、敵将を拉致するのは不可能だ。
 そんなことができるのであれば、ラウンジはとうに天下を得ている。

(´・ω・`)「この戦、勝てるぞ」

川 ゚ -゚)「シャイツーが使える、というのは大きいですね」

(´・ω・`)「それに、ブーンは調子を落としているようだ。
      戦は上手くなったが、一騎打ちに冴えがなかった」

川 ゚ -゚)「戦の上手さと引き換えに、一騎打ちの強さを落としましたか」

(´・ω・`)「まぁ、一概には言い切れんがな。あいつはまだ、成長の余地を残しているだろうし」

川 ゚ -゚)「調子を取り戻さないうちに、勝利を得たいところですね」

(´・ω・`)「あぁ」

 たった五里だが、ヴィップは防衛線を下げた。
 戦の中期であればどうということもない距離。しかし、初戦はわけが違う。

 これから徐々に押しこんでいく。
 そして、ミーナ城を取り返す。
338 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:49:59.17 ID:7zYZo4yX0
――ギフト城・南――

 ヴィップのニダーやヒッキーに、才で勝っているとは思わない。
 しかし、この戦に限れば、二人を上回れる自信がある。

(`・ι・´)(もう年の暮れだというのに……)

 前回同様、ヴィップは三万の軍で攻め寄せてきた。

 一度軍を出した以上、簡単には諦められない。
 ヴィップの気持ちはよく分かる。
 が、ここは諦めてヴィップ城に帰ってもらいたかった。

 何度か退ける必要があるだろう。
 ヴィップの士気と兵力を奪わなければ、撤退を決断させることはできない。

(`・ι・´)「何か、策を引っ提げてきたかな」

\(^o^)/「無策ではないと思います」

 主だった将校は自分とオワタだけ。
 主力はほぼ、フェイト城に集結している。
 ヴィップもそちらに注力しているため、当然と言えば当然だった。
347 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:52:25.80 ID:7zYZo4yX0
\(^o^)/「しかし、下手に相手の隙を狙って攻め込んだりしなければ、盤石かと」

(`・ι・´)「あぁ」

 しかし、前回の戦も同じ戦法だった。
 フェイト城に篭り、相手の隙を狙うような真似をせず守備に徹した。

 結果、ミーナ城を落とされてしまったのだ。
 だからこそ今回は、何がなんでも負けられない。

(`・ι・´)「ダカーポ城を狙ってくることは……まぁ、ないと思うが」

\(^o^)/「問題ないでしょう。ダカーポ城を狙ってくるなら、後ろを突けば良いのです」

 パニポニ城からダカーポ城を狙う際、邪魔になるのは鉱山だ。
 ラウンジ所有の鉱山がダカーポ城の南東にあり、行く手を塞ぐ。
 そのため、もし狙うのであれば、山を大きく迂回しなければならない。

(`・ι・´)「それに、ダカーポ城はパニポニ城と一緒だ。天然の要害と言える」

\(^o^)/「パニポニ城ほどではありませんが、ヴィップを苦しめるでしょうね」

 山上に立つパニポニ城とは違い、山の麓に立っている。
 が、南東に山があるおかげで、ラウンジとしては非常に守りやすい城だ。
 一千を置くだけで充分、守りきれる。

 ヴィップも危険を冒しにはこないだろう。
 やはり、単純にギフト城を狙ってくると見るべきだ。

 三里ほど離れたところに、ヴィップが陣取った。
362 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:54:38.58 ID:7zYZo4yX0
(`・ι・´)「……ん?」

\(^o^)/「……え……」

 徐々に、距離を詰めてくる。
 陣を保ったまま。

 その、先頭に立つ男。

(;`・ι・´)「モララー!?」

\(;^o^)/「モララー=アブレイユ……!!」

 復帰していたのか。
 先の戦では姿を見せなかったが、まさかパニポニ城に入っていたとは。

 背から大きく突出しているアルファベット。
 T。どうやら、Xからは大きく下がったようだ。
 しかし、戦場に戻ってきていた。

(;`・ι・´)「ぐっ……」

 まずい。モララーほどの男が加わっていたとは。
 一人で数万の兵に相当するとまで言われる将だ。ラウンジにとっては、あまりに手痛い。
 配下の兵たちも皆、一様に士気が下がっていた。

 一度目の戦は、あえて出てこなかったのだろうか。
 二度目以降、優位に立つために、衝撃を与えるために。
382 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:56:48.50 ID:7zYZo4yX0
 いずれにせよ、不気味だ。
 何をしでかしてくるか、分からない。

(`・ι・´)「……怯えることはない。モララーひとり加わったところで、ラウンジの優位は揺るがん」

 配下の兵たちを、宥めるように言った。
 自分にも、言い聞かせるように。

 しかし実際、モララーひとりで大きく変わりはしないはずだ。
 警戒するとすれば、策。何らかの策を用いてくる可能性はある。

\(^o^)/「……作戦を変える必要はないと思います」

 オワタは、思ったよりも冷静なようだ。
 が、自分と同じように、極力覆い隠しているだけかも知れない。

(`・ι・´)「うむ……そうだな。城から離れすぎないよう……確実に守るんだ」

 城門は、将校の顔が確認できない限りは開けるなと言ってある、
 前回、ミーナ城を奪われたときの教訓を活かした形だ。
 またラウンジ兵を装って城を奪われたのでは堪らなかった。

 モララーが如何なる策を取ってこようとも、落ち着いて守りに徹する。
 その気持ちだけは確固たるものにしておくべきだった。

(`・ι・´)「……ん?」

 ヴィップとの距離は、もう、一里。
 堅陣を敷いたラウンジに対し、鋒矢で挑んでくるヴィップ。
397 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/11(火) 23:58:53.88 ID:7zYZo4yX0
 しかし、先頭に立っていたモララーが、突然後ろに下がった。

(`・ι・´)(どういうことだ……?)

 やはりまだ戦えないのか。
 それとも、何らかの策か。

 考えても分からない。
 モララーの動きは不可解だが、今は無視しておくべきだった。
 目を向けるべきは、眼前の敵軍だ。

(`・ι・´)(……衡軛に組み替えるべきか……?)

 鋒矢を誘い込んで殲滅するのなら、衡軛が適していると言われている。
 しかし、突破力を持つヴィップには通じないかも知れない。
 ここはやはり、堅陣を保つべきだ。

 ヴィップ軍の頭が、堅陣に衝突した。

(`・ι・´)(下がるつもりはなしか)

 一気に貫こうとしている。
 陣形から考えられたことだが、博打だ。
 堅陣を破り切らなければ、ヴィップ軍は大損害を受ける。

 純粋な、力と力のぶつかりあい。
 それもいい。

 久々に、武人としての血が騒ぐ。
416 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/12(水) 00:01:16.42 ID:Cc5PbZRz0
 前陣は厚みがない。破られるのにそう時間はかからないだろう。
 だが二段目、三段目となるにつれ、徐々に兵数が増していく。

 自分で考え出した形だが、効果は覿面だった。
 ヴィップ軍の勢いが、目に見えて衰えている。

(`・ι・´)(……しかし)

 それでも、中央付近までは到達されるだろう。
 だが、問題はない。自分が正面から受けて立つ。

 迫ってくる敵将は誰か。
 誰でもいい。ニダーかモララーならアルファベットは同等、他は自分以下だ。

 討ち取ってしまいたい。


――ヴィップ軍側――

 単純な力比べ。
 小細工は、不要。

(#ФωФ)「ふんッ!!」

 自ら道を切り開いた。
 振り回すは、アルファベットL。
 一般兵卒ならば充分、圧倒していける。
433 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/12(水) 00:03:43.69 ID:Cc5PbZRz0
 留まってはならない。
 モララーの取った策は、堅陣を破ることが大前提だ。
 ここだけは何の助けもなしに、力のみで打ち破らなければならない。

 モララーが、自分を信じて起用してくれた。
 ニダーも同調してくれた。
 二人の信頼に、応えなければ。

 徐々に厚くなる敵陣の装甲を、一枚一枚剥がすように。
 勢いに乗って突き進んだ。

 二段目までは、それほど辛くなかった。
 が、三段目になると、人の群れが勢いを削いでくる。
 足を止めてはならないという焦りも生まれる。

 三段目を破った。
 待ち構えている四段目。これを破れば、中央に到達する。
 堅陣は中心さえ打ち崩せば後は脆いはずだ。もう一押しだった。

(#ФωФ)「ハァッ!!」

 Lを長めに持って、振り下ろした。
 敵兵の肩口から脇の下までを、斜めに斬り裂く。
 頭がずり落ちる前に側方を通過した。

 しかし、気が遠くなるほどの敵兵。
 血の匂いが充満する戦場を、埋め尽くしているとさえ思える。

 思わず、目が眩むほどの――――
447 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/12(水) 00:05:46.49 ID:Cc5PbZRz0
(;ФωФ)「ッ……!?」

 頭が、揺れた気がした。
 視界が先ほどまでより、白みを増しているように感じる。

 何も問題はない。
 そう言い聞かせて、更に突き進んだ。

 無心でアルファベットを振るっていた。
 いつの間にか、第四段は突破していた。

 何も考えられないまま、中央へと突っ込んだ。
 アルファベットを左右に振るう。敵兵を薙ぎ倒す。
 しかし徐々に、感覚が薄れていく。

(;ФωФ)(……ぐっ……)

 こんなときに、疲労が出てきた。
 戦が始まる前から少し、感じてはいたが、戦場に立てば何とかなると思った。
 しかし、否応なく疲弊は体の感覚を奪っていく。

 倒れるな。
 ここで倒れれば、討ち取られるのは自分ひとりではない。

 ――――しかし、目が眩んでいた、その瞬間に。

(;ФωФ)「ッ!!」

 襲い来る。
 アルファベット、T。
484 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/12(水) 00:08:01.60 ID:Cc5PbZRz0
 突如、眼前に現れた。
 そう思えた。
 実際には、自分が見えていなかっただけだった。

(`・ι・´)「Lか……討ち取らせてもらうぞ」

 ランクも、リーチも。
 何もかも、Tには敵わない。

 それでも、抗わなければ。
 モララーやニダーの信頼に、応えなければ。

 しかし、相反するかのように、腕から力が抜けていく。

 アルファベットLを、前に出した。
 アルタイムの攻撃は、見えない。

 衝突音。
 アルファベットと、アルファベットが、ぶつかった。

 だが、手応えがない。
 アルファベットを一撃で粉砕されてしまったのか。

 そう思ったが、違う。

 目の前にあったのは、アルファベットT。
 ひとつではなく、二つ。

<ヽ`∀´>「ここはウリに任せるニダ! ロマネスク、先に行くニダ!」
537 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/12(水) 00:10:17.48 ID:Cc5PbZRz0
 ニダー。
 アルタイムの攻撃を、横から防いでくれた。

(`・ι・´)「一騎打ちを横から邪魔立てとは、随分なことだ」

<ヽ`∀´>「アルタイムは仲間の危機を見過ごすことができるニカ? 薄情ニダね」

(`・ι・´)「……それとこれとは、話が別だ」

 ニダーとアルタイムの、打ち合いになった。

( ФωФ)「忝い!」

 一気に駆け出し、敵陣を裂いた。
 視界は明朗だ。体の感覚も、戻っている。

(#ФωФ)「うおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」

 もう、留まらない。
 アルファベットを振るって、進むべき道を切り開く。

 後方はやはり、脆かった。
 厚みがない。力押しで、破っていける。

 やがて、堅陣を突破した。

 そのまま駆ける。
 敵陣から離れるように。

 ギフト城へ、接近する。
561 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/12(水) 00:12:19.84 ID:Cc5PbZRz0
 城から一里ほどの地点で止まり、陣を組み換えた。
 兵を小さく固め、ラウンジと同じように、堅陣へと。

<ヽ`∀´>「よくやったニダ、ロマネスク!」

 ニダーも無事だった。
 どうやらアルタイムと、本格的な一騎打ちは行わなかったらしい。

 将校は全員生きていた。
 敵陣を上手く破ることができた。

 しかし、本当の戦いはここからだ。


――ラウンジ軍側――

 前回の戦とは、突破力が段違いだった。
 指揮官はロマネスク。モララーでも、ニダーでも、ヒッキーでもなかった。
 だからこその、突破力だったのだろう。

(;`・ι・´)「くっ……」

 二万五千ほどの兵が、堅陣を突破していった。
 残りは、パニポニ城方面に残っている。
 どうやらモララーが率いているようだ。

 ヴィップは、二手に分かれた形だった。
 多くはギフト城の近くに。一部は、パニポニ城の側に。
591 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/12(水) 00:14:29.46 ID:Cc5PbZRz0
 そして、モララー率いる数千は、城へ帰っていく。
 挟撃されるのかと思ったが、違うようだ。

(`・ι・´)(……しかし、何故……)

 何故、崩れた堅陣を狙わないのだ。
 堅陣を突破したあとは反転し、再度攻撃を仕掛けるのが普通だ。
 しかし、ヴィップはそのままギフト城へと駆け寄った。

\(;^o^)/「どういうことでしょう? 城を囲むわけではなさそうです」

(`・ι・´)「あぁ。攻城兵器も持っていない。城攻めではなさそうだな」

\(^o^)/「では何故、ギフト城に接近したのでしょうか……?」

(`・ι・´)「しかも、一里という微妙な距離を取って……」

 城門は、将校からの指示がない限り開くな、と言ってある。
 城内の兵がヴィップ軍へ攻め込むことはない。

 挑発して誘き出すのをモララーが得意としていた。
 そんなことを思い出しもしたが、モララーはパニポニ城へ帰っている。
 やはり、目的が分からない。

(`・ι・´)「だいたい、ヴィップは兵糧なんか碌に持っていないはずだ。
      長く滞陣するのは不可能だろう」

\(^o^)/「そうですね。僕たちも、ギフト城に帰らないと――――」

(;`・ι・´)「……ッ!!」
605 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/12(水) 00:16:35.53 ID:Cc5PbZRz0
\(;^o^)/「あっ……!!」

 そうか。
 そういうことか。

 ヴィップの狙いが、読めた。
 読めてしまった。

 ヴィップは、塞ぐつもりなのだ。
 ラウンジがギフト城へ帰るのを、阻止するつもりなのだ。

 ラウンジも兵糧は持っていない。
 このまま滞陣して長期間睨み合うことは、できない。

(;`・ι・´)「普通なら、こんな策は実行できない……」

\(;^o^)/「相手にも自軍領の城を攻められるだけですからね……」

 しかし、ヴィップが拠点としている城は、パニポニ城。
 天然の要害であり、無数の罠が仕掛けられているという、難攻不落の堅城だ。
 四万程度の兵で、落とせるはずもない。

 このまま滞陣するのであれば、西のダカーポ城から兵糧を運ばせる必要がある。
 が、一日や二日では届かない。
 それほど長期間、留まることはできない。

 他城に援軍を頼んでも一緒だ。
 どうしても数日という時間がかかってしまう。
628 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/12(水) 00:18:38.79 ID:Cc5PbZRz0
 四万の陣をまるごとダカーポ城に移したりすれば、パニポニ城から攻城兵器が運ばれてくるだろう。
 いや、モララーならもう準備だけは整えているはずだ。
 姿が見えなくなった瞬間、攻城兵器を運んでギフト城を落とすに違いない。

 しかし、中途半端に軍を残し、他をダカーポ城へ移動させても、打ち破られる。
 現状の兵数で何とかヴィップと互角なのだ。
 兵を減らせば間違いなく付け込まれてしまう。

 ギフト城内からの攻めには期待できない。
 残っているのは、たった五百。城門を閉ざしていれば問題ない数だが、ヴィップ軍を攻めることはできない。
 ヴィップは一里ほど距離を取っているため、D隊の攻撃も届かないだろう。

(`・ι・´)「……ヴィップも、長く滞陣するのは不可能なはずだ」

\(^o^)/「そう思います。だから、つまり……」

 撤退するか、ヴィップ軍を攻めるか。
 その二択しかないのだ。

 簡単に諦めていい城ではない。
 かつてはヴィップに奪われたこともあったギフト城だが、苦心して取り返したのだ。
 カルリナが鮮やかに奪い返してくれた城なのだ。

(`・ι・´)「……しかし……今度は、ニダーやヒッキーが全力を出してくる」

\(^o^)/「守備ですからね……得意分野での勝負に持ち込まれた、ということでしょう……」

(`・ι・´)「あぁ……元々、守備に優れた将だ、二人とも……」
639 :第98話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/12(水) 00:20:57.03 ID:Cc5PbZRz0
 無理に攻め込んで、散々に打ち破られた場合、信じがたいほどの損害を被る可能性がある。
 だが、全軍を撤退させれば当然、ギフト城はヴィップの手に落ちる。

 兵さえ残っていれば、また城は取り返せる、とも思う。
 同時に、ニダーらの堅い守りは城を得ると、一層辛い形でラウンジにぶつかってくるのではないか、とも思うのだ。

 選びきれない。
 どちらを選択しても、賭けになる。

 それでも、自分が、迅速に決断しなければならない。

 もう、頼れる友はいないのだから。
 軍を、去ってしまったのだから。














 第98話 終わり

     〜to be continued

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