3 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:08:42.99 ID:znjOLW740
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:シャッフル城

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
46歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:シャッフル城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:ハルヒ城
6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:09:39.18 ID:znjOLW740
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ハルヒ城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:O
現在地:オオカミ城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城
11 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:10:56.44 ID:znjOLW740
●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:M
現在地:ハルヒ城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
24歳 ミルナ中将配下部隊長
使用可能アルファベット:K
現在地:ウタワレ城
16 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:12:01.75 ID:znjOLW740
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:ビロード/アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク
少尉:

(佐官級は存在しません)
19 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:13:06.23 ID:znjOLW740
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:ルシファー
L:
M:ロマネスク
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ/ギルバード
T:ニダー/アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
22 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:14:17.32 ID:znjOLW740
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

 

29 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:16:00.40 ID:znjOLW740
【第96話 : Blitz】


――ラウンジ城――

 嫌な予感が、しないわけではなかった。
 本当は、心のどこかで感じていたはずなのだ。

 だが、あのときの自分は、あまりに浮かれすぎていた。
 これでラウンジの覇道は完成する、と確信してしまっていたのだ。

 そして、気づけばカルリナは居なくなっていた。

(´・ω・`)「……正直言って、辛いところだ」

川 ゚ -゚)「はい」

 居室で、クーの報告を受けた。
 カルリナは城から出奔し、南へ向かって行ったという。

 ヴィップに寝返るつもりはない。
 カルリナは、はっきりとそう言ったらしい。

(´・ω・`)「寝返りなど、心配していなかったさ。ヴィップが受け入れるはずもないしな」

川 ゚ -゚)「私は不安でした。もしカルリナ=ラーラスがヴィップに入ったら、優勢をひっくり返される恐れがあります」

(´・ω・`)「まぁな」
41 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:18:30.88 ID:znjOLW740
 それほどの知力を持ち合わせていた。
 自分の武力と組み合わされば、正に向かうところ敵なしだったのだ。

 なのに、カルリナは居なくなってしまった。
 はっきりとした理由は分からない。しかし、自分のことが関係しているのだろう。
 自分が入軍したこと、大将に就いたこと。どちらにも納得できない、といった姿勢だった。

川 ゚ -゚)「岸部から、暗殺することも不可能ではない、と思いましたが」

(´・ω・`)「俺の意を汲んだんだろう?」

川 ゚ -゚)「はい」

 ベルが逝去してから、自分がラウンジに入るまでの間、ラウンジを支えていたのはカルリナだ。
 カルリナが戦い続けてくれたからこそ、今のラウンジがある。

 そのカルリナを、寝返るわけでもないのに討ち取るというのは、忍びなかった。
 自分が、ラウンジという国を愛しているからこそだ。

 クーがカルリナを逃したということは、本当にヴィップへ寝返りに行くつもりはないのだろう。
 嘘であれば瞬時に見抜く。それくらいの技術は、クーも持ち合わせている。

 自分に、正直に話してくれれば。
 もう戦意を失くした、と言って、国軍から去ることを告げてくれれば。
 何も問題はなかったのに。

 疑わしきは斬る、と言われる可能性をカルリナは考慮したのだろう。
 黙って出奔したカルリナを、責めることはできない。
51 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:21:28.50 ID:znjOLW740
 自分がこの国に来なければ、カルリナはラウンジで戦い続けていただろう。
 だから、軍人を辞めることも自分は責められないのだ。
 カルリナを討つ権利など当然ない、と思っていた。

(´・ω・`)「しかし、弱ったな。あいつを頼りにした構想も立てていたんだが」

川 ゚ -゚)「本当に、信じてらしたのですね、カルリナ=ラーラスのことを」

(´・ω・`)「あいつがいれば、すぐにでもラウンジの天下が来ると思ったからな。
      クラウン国王に、見せてあげたかったんだ。少しでも早く」

川 ゚ -゚)「……そう思います、私も」

 珍しく、クーがしょげた顔を見せた。
 いつもは表情を変えたりしない。常に、冷静さを見せつけている。
 クーの内面は分からないが、ラウンジの天下を望む気持ちは同じなようだ。

(´・ω・`)「まぁ、居なくなってしまったものは、しょうがない。
      事後処理に移るとしよう。
      早速で悪いがクー、処刑予定の罪人を一人、引っ張ってきてほしい」

川 ゚ -゚)「分かりました」

 罪人を、と言った時点で、何が目的かは分かったはずだ。
 クーならば、自分が望むように罪人を連れてくるだろう。

 暫時待ったあと、兵の身なりをした罪人が部屋に入ってきた。
 突然のことに動揺している。何も言わずに連れてきたようだ。
 そのほうが、好都合だった。
62 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:24:17.26 ID:znjOLW740
(´・ω・`)「御苦労。わざわざこんなところまで、すまないな」

〔メ`ム´〕「……何のつもりだ」

 自分が処刑されることは、分かっているだろう。
 だがそれでも、罪人は今にも噛みついてきそうな目でこちらを見ている。

 この罪人の咎は知らない。
 何故処刑されることになっているのかも、分からない。
 文官の仕事の範疇だからだ。

 言ってしまえば、自分には関係がない。
 罪人を斬るのは武官の役目だが、大抵、罪の内容は把握していないのだ。

 本来は生い立ちから経緯まで全て理解しておくべきなのだろうが、時間がもったいなかった。
 ラウンジが天下を統一した後、ゆっくりと制度を整えればいいだけの話だ。

(´・ω・`)「何も知らなくていいさ、お前は。元より、罪人なのだからな」

 立ち上がる。
 そして、アルファベットを構える。

 何も言わずに、首を刎ねた。

 Zを分離させずに使ったのは、これが初めてかも知れない。
 思ったのは、その程度のことだ。

 アルファベットZを、顔面の上で走らせる。
 幾つもの切り傷を作り、誰だったのか分からなくさせた。
 これで、文官にも罪人だと知れることはないだろう。
66 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:26:51.29 ID:znjOLW740
(´・ω・`)「首を晒しておけ、クー」

川 ゚ -゚)「はい」

 この首は、ヴィップからの刺客だ。
 カルリナに近づき、食事に毒を盛った。

 カルリナは一命を取り留めたが、恐らくもう戦に出ることはできない。
 毒は空気に乗って感染するため誰とも会わせるわけにはいかない。
 カルリナは、既に故郷へ帰っている。

 クーは、そんな文書を首と同時に出すだろう。
 大将ショボンからの言葉として。

(´・ω・`)「あぁ、それと」

川 ゚ -゚)「はい?」

(´・ω・`)「モララーの件は、どうなっている?」

 罪人の髪を掴み、白い袋に投げ入れるクー。
 表情は、怜悧そのものだ。

川 ゚ -゚)「少し時間がかかります。気づかれないように睡眠薬を盛るのが難しく」

(´・ω・`)「匂いで察知されてしまうか。しかし、暴れられると困るしな」

川 ゚ -゚)「はい。なので、微量の睡眠薬を複数回に分けて摂取させるつもりです」

(´・ω・`)「なるべく早めに頼むぞ」
80 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:29:24.15 ID:znjOLW740
 頷いた直後、クーの気配が消えた。
 自分は、目を閉じていた。

 カルリナが居なくなった。
 ラウンジの今後は、いったいどうなるだろうか。

 自分が、大将として存在していればいい。
 圧倒的な大軍を抱えていることに変わりはない。
 城を、ひとつずつ落としていくだけでいいのだ。

 ヴィップは、それに抗えない。
 大軍の強みを、遺憾なく発揮すれば、負けるはずはないのだ。

 そう思う一方で、どこか不安が拭えない。
 カルリナが居なくなったせいなのか。
 そうだという気もすれば、違うという気もする。

(´・ω・`)(……不安は、悪いことばかりじゃないさ)

 足元を掬われるのが、今は怖い。
 圧倒的優位に立っているからこそ、見落としがあるのではないか、と思ってしまうのだ。

 ヴィップはまだ諦めていない。
 必ず、逆転の策を引っ提げて立ち向かってくる。
 だからこそ、気を緩めるわけにはいかないのだ。

 まだヴィップが知らない秘策はある。
 切り札は、ある。
84 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:31:56.07 ID:znjOLW740
 大事なのは、勝って当然と思うのではなく、一戦一戦を必死で戦うことだ。
 戦い抜くことだ。



――シャッフル城・西――

 情報を得たあとのブーンには、迷いがなかった。

( ゚д゚)「何故、カルリナは居なくなったんだろうな」

 騎馬隊を二人で率い、西進していた。
 目指すは、アルタイムが守将であるフェイト城だ。

( ^ω^)「分かりませんお。でも、理由はどうでもいいんですお」

 ブーンの言うとおりだ。
 カルリナが軍を去ったとの情報が確かなら、理由は何でもいい。

 ラウンジが公表した事実は、ヴィップの間者に毒を盛られた、だ。
 無論、流言だった。ラウンジは、国内の士気発揚を狙ったのだろう。

 しかし、可能性としては、虚報も考えられる。
 ヴィップ軍を誘き出すため、カルリナは軍を去ったと公表した可能性だ。

 が、ブーンは躊躇せずに軍を出した。
 いつでも戦に出られる準備は整えていたため、始動は早かったが、それにしても急だった。

 確かに、虚報である可能性は低い。
 虚報だとすれば目的は誘き出すことだろうが、今のラウンジはむしろ戦いを避けたいはずなのだ。
88 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:34:18.53 ID:znjOLW740
( ゚д゚)「ラウンジの不意は突けるだろうな」

( ^ω^)「そう思いますお」

 ラウンジとヴィップの両国に、共通していた認識がある。
 それは、秋の収穫が終わるまで戦にはならないだろう、ということだ。

 両国ともに、兵糧には苦しんでいる。
 戦が続いたからだ。
 秋の収穫を待たなければ、戦などできないとラウンジは考えているはずなのだ。

 そこで、あえて出撃する。

 ヴィップの構想は、電撃戦だ。
 あまり兵糧を消費せずに城を得るためには、それしかない。
 ブーンとの間で一致した見解だった。

 ラウンジに知られないよう、全てを同時に進行させていた。
 各城への伝達を行ったも、出撃のほんの少し前だ。
 情報が漏洩すると、ヴィップの劣勢は更に極まってしまう。

 騎馬隊が先行して駆け、後ろの歩兵も全力で進軍を続けている。
 士気は高い。ベルベットらの仇を討とう、という気概が伝わってくる。
 北東の戦でカノン城を奪われたことや、エクストが討ち取られたことも影響しているようだ。

 サスガ兄弟はシャッフル城に残っている。
 守りを得手としていない二人だからこそ、双方を残してきたのだ。
 城に守兵は五千。そして、攻め手は四万だ。

( ゚д゚)(……これだけの軍、いずれはラウンジに知れるな)
96 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:36:48.97 ID:znjOLW740
 シャッフル城からフェイト城へ向かうには大きく山を迂回しなければならない。
 ここが両軍にとっての斥候ポイントとなりやすい。
 つまり、山を迂回した時点でフェイト城に進軍が発覚する恐れがある。

 が、今回はあまり休まずに進む。
 斥候より少しだけ到着が遅れる程度なら、問題はない。
 電撃戦はとにかく、敵に余裕を与えないことが大事だ。

 兵には過酷な行軍を強いることとなってしまうが、誰からも文句は出なかった。
 それだけ、此度の戦にかける思いが強いのだ。

 ショボンがいない。カルリナもいない。
 フェイト城に残った兵数も、僅か三万程度。
 攻め込むには、絶好の機だった。

( ゚д゚)(……ここから、始まるんだな)

 策が。
 ブーンの、逆転の策が、始まる。
 第一歩を踏み出す。

 初戦とも言えるこの戦に勝てるかどうかは、大きい。
 策そのものの帰趨を占うかも知れない。

( ゚д゚)(俺の目的のためにも……負けられんな)

 山を迂回し終え、また平原に出た。
 ここからフェイト城まで、存分に駆ける。
107 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:39:29.73 ID:znjOLW740
 もう見つかろうが見つかるまいが関係ない。
 一刻も早く、フェイト城に到達することだ。



――フェイト城――

 カルリナがラウンジ城から去った、と公表したのは、間違いではなかった。
 ショボンの決断は、正しかった。

 ただ、ヴィップの行動が、あまりに意外すぎただけなのだ。

(`・ι・´)「もう数十里にまで迫っているのか……」

 ヴィップ軍、出撃。
 フェイト城に向かって進軍中。

 その報せを受けてから、僅か数刻後には、兵を動かさざるをえない位置にいた。

(`・ι・´)「正直、完全に予想外だった。攻めてくるとは思わなかった」

( ̄⊥ ̄)「というより、そんな力があるとは思いませんでした」

 リハビリ中のファルロと共に、城壁から太陽の方角を眺めていた。
 この陽が頭上で輝く頃には、ヴィップ軍もフェイト城に到着しているだろう。

 既に指示は与えてある。
 急な防衛戦となってしまったが、自分のなかでは落ち着いているつもりだった。
115 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:41:46.94 ID:znjOLW740
(`・ι・´)「こんな急激な攻めで兵站を保てるはずがない。
      元より、そんな兵糧もないだろうしな」

( ̄⊥ ̄)「すると、狙いは電撃戦ですか?」

(`・ι・´)「だろうと思う。こちらの隙を伺って、一気に城を落とすつもりだ」

 ヴィップに兵糧がないことは分かり切っている。
 が、ヴィップも同じように、こちらの兵糧が残り僅かなことは見抜いているはずだ。

(`・ι・´)「しかし、問題はない。城から出なければいいんだ。最初から最後まで」

 ヴィップが城を囲めるはずはない。
 そんな滞陣力はない。

 敵の誘いに応じて戦ったりしなければ、ヴィップは目標を失い、引き返すだろう。
 そのときも決して追撃などしない。一歩たりとも、外に出てはならないのだ。
 ヴィップ軍は完全に野戦を狙っている。

 現在フェイト城に留まっている兵数は三万。
 ヴィップ軍の攻撃陣よりも、少ないだろう。となれば、野戦での勝ち目はない。
 相手にブーンもしくはミルナがいるだけで、勝機は消える。

(`・ι・´)「……迫ってきたな」

 騎馬隊がやや先行しているが、歩兵隊も遅れずに随行している。
 騎虎のような勢いだ。やはり、野戦狙いだろう。
 しかし、目標はない。
123 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:43:52.92 ID:znjOLW740
 いったいヴィップはどうしてくるか。
 じっくりと、見極めてみよう。

(`・ι・´)「……ん?」

 止まらない。
 ヴィップ軍が、止まろうとしない。

 城に激突でもするつもりか。
 そう思ってしまうような勢いを、保ったまま進んでくる。

(;`・ι・´)「これは……!!」

(; ̄⊥ ̄)「まさか……!?」

 攻城戦。
 ヴィップ軍が、素早く東西南北の城門を塞いできた。

 そして疎らに散り、城の角にも陣取った。
 つまり、ヴィップ軍は八点を抑えたことになる。
 円形に囲むには兵数が足りない、と見ての判断か。

 いや、そもそも包囲戦とは、いったいどういうことだ。
 明らかに兵糧はない。こんな包囲、数日も保てないだろう。

 しかも、ラウンジからすれば近々の城からいくらでも援軍が出せる状態だ。
 上手くいくはずがない。城を囲むなど。
 成功するはずがないのだ。

 だが、ヴィップは包囲を完了させた。
134 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:46:28.00 ID:znjOLW740
(`・ι・´)「……どう見る、ファルロ」

( ̄⊥ ̄)「正直……狙いが読めません」

 確かに、ラウンジも兵糧は苦しい。
 まだ秋の収穫が終わっていない。いや、始まってもいない。
 城に溜めてある兵糧は僅か。籠城戦となれば、十日で尽きるか尽きないか、といったところだろう。

 兵糧の供給はトーエー川以北に頼っていた。
 中心となるのはやはり河北であり、河南は本城から遠いため、兵糧の輸送も遅れがちになっている。
 ヴィップ軍の主力がシャッフル城に留まっている事情上、多少改善はされているが、兵糧に対する不安は常にあった。

 ヴィップの進軍がこれほど迅速でなければ、事前に情報を得られていれば。
 もう少し、城に兵糧を溜め込むことができた。
 しかし、ヴィップはそれを嫌って急激な進軍を決断したのだろう。

(`・ι・´)「ヴィップは、こちらの兵糧を予測しているだろうな」

( ̄⊥ ̄)「何日保てると見ているかは分かりませんが……」

(`・ι・´)「うむ……予測を誤っているかも知れん」

 こちらの兵糧を、本当に僅かと見たか。
 そこに、賭けてきたか。

 ヴィップは窮地に立たされている。
 逆転を狙うため、多少確実性を損ねている作戦でも、平気で取ってくる可能性がある。
 だから、この攻勢にも不自然はないのだ、と思える。

(`・ι・´)(しかし……そんなに甘い相手ではない)
140 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:48:35.18 ID:znjOLW740
 何か、他に狙いがある。
 そう思ったほうがいい。

 狙いを潰せるほどの軍勢で、包囲軍を攻撃できれば、それが最善だった。
 しかし、ショボンの援軍は期待できない。

 既に伝令は出したが、連絡は遅れてしまうだろう。
 伝令がラウンジ城に着き、ショボンの耳に情報が入るころには、もう戦が終わっているはずだ。
 例え終わっていなかったとしても、援軍を出せる余裕はないだろう。

 だが、南にはギルバードがいる。
 一万の兵で城を守っている、ギルバードが。

 いざとなれば、兵を率いて駆けつけてくれるはずだ。
 それで四万弱。ヴィップとほぼ互角になる。

(`・ι・´)(だが、ヴィップも分かっているはずだ……)

 南からの援軍を、塞いでくるかも知れない。
 そして尚、包囲を続けてくるとしたら。

 考えても、分からない。
 ヴィップの狙いがどこにあるのか。

(`・ι・´)(……こんなとき……)

 こんなとき、カルリナがいたら。
 カルリナが戦を見ていたら。
145 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:50:48.27 ID:znjOLW740
 きっと、ヴィップの狙いを看破してくれただろう。
 そして、ラウンジを勝利へと導いてくれただろう。

(`・ι・´)(……バカか、俺は……)

 軍を去った人間を心で頼ってどうする。
 何の意味がある。

 カルリナはもういない。
 今ある戦力だけで、何とかするしかない。

( ̄⊥ ̄)「中将」

(`・ι・´)「ん? なんだ?」

( ̄⊥ ̄)「伝令が――――」

 自分たちの許へ、駆け寄ってくる。
 ここまで音が届くほど息遣いは荒い。

[兵;◎_◎]「ご、ご報告申し上げます!」

(`・ι・´)「あぁ」

[兵;◎_◎]「オリンシス城より輸送部隊が発ち、北進しています!」

(`・ι・´)「ッ!!」

 そうか。
 南に、まだ兵糧があったのか。
153 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:53:06.67 ID:znjOLW740
 事前に打ち合わせておけば、シャッフル城から運ぶよりも楽で、迅速だ。
 おまけに、ラウンジに発覚しにくい。

 ヴィップの狙いは、このまま城を囲んで締め上げることだ。
 フェイト城内の物資枯渇を待つつもりだ。

 それは分かったが、しかし――――

( ̄⊥ ̄)「……打つ手がありませんね……」

 ファルロの、言うとおりだ。
 南からヴィップの兵糧が輸送されていても、フェイト城からは手を出せない。
 それは、ヴィップの目論見どおりなのだろう。

 フェイト城は籠城しかない。
 ヴィップは、それを分かっていて、南から悠々と兵糧を運んでいるのだ。

(`・ι・´)「……ここは、託そう」

( ̄⊥ ̄)「託す?」

(`・ι・´)「あぁ」

 他力本願だが、ここは動かず耐えるのが最善だ。
 あとは、働きに期待するしかない。

(`・ι・´)「ギルバードの働きに、期待して託そう」

 城壁からの景色に、背を向けた。
161 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:55:28.27 ID:znjOLW740
――オオカミ城・北――

 全てを賭けた博打。
 きっと、ラウンジは後でそう思うだろう。

ミ,,゚Д゚彡「歩兵隊は遅行していないか?」

( ><)「問題ないんです」

 最後まで斥候に見つからず駆けるのは不可能だ。
 近づけば近づくほど、発覚する可能性は高くなる。

 だから、重要なのは速く駆けることだ。
 ブーンからの伝達にも、そうあった。

 できればビロードは残しておきたかった。
 城に将校が残らないというのは、不安が付きまとう。
 信頼できる部隊長を置いてきたが、それでも、だった。

 しかし、可能な限り戦力を動員しなければ、この戦には勝てない。
 寡兵であるヴィップが城を奪える機会など、そうそうないのだ。
 逃すわけにはいかない。

ミ,,゚Д゚彡「"罠"に気づかれるまでが勝負だ、ビロード」

( ><)「はいなんです」

ミ,,゚Д゚彡「最終的には必ず知られてしまう。その前に……」

 城を、奪ってしまいたい。
167 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:57:36.49 ID:znjOLW740
 全てが急で、準備を整える時間も僅かだった。
 だが、おかげでラウンジの不意は突けるはずだ。

 罠に掛ける目標は、ギルバード=インダストル。
 果たして、策は成るか。



――ミーナ城――

 アルタイムからの指示は受けられない。
 ここは、自己判断で動くべき局面だ。

( `゚ e ゚)「ぬぅん……」

 情報は数多く入ってきた。
 ヴィップが四万でフェイト城を攻めたこと、オリンシス城から輸送部隊が動いていること。
 そしてそれよりも後に、ヴィップがフェイト城を囲んだと斥候が知らせてきた。

 完全に不意を突かれた。
 秋の収穫を待たずして、城を奪いにやって来るとは。
 しかも、劣勢に喘いでいるはずのヴィップが、だ。

 しかし、上手くやられている。
 主力が北に戻ってしまったせいもあるが、寡兵であるヴィップとほぼ同数程度の兵しか使えない。

( `゚ e ゚)(……だからこそ、この時機で動いたわけか……)
173 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 17:59:59.50 ID:znjOLW740
(兵F_F)「ギルバード中将!」

( `゚ e ゚)「ぬ?」

(兵F_F)「出陣の用意が、整いました!」

( `゚ e ゚)「よし」

 羽織った外套を翻し、城外へと向かう。
 時期的にはまだ早いが、やはりこの外套がないと落ち着かない。
 これを羽織っていてこそ、戦に向かうのだという気持ちになれる。

 ミーナ城の守兵となっている一万のうち、九千を使う。
 これで、敵の目論見を看破する。

( `゚ e ゚)(……カルリナ=ラーラスは、居なくなったが……)

 ヴィップに毒を盛られたという、唐突な理由でカルリナは軍を去った。
 真実かどうかは分からない。違う、という気もする。
 が、理由はどうでもよかった。

 カルリナのことは嫌いではなかったが、年下の指揮下で戦う、というのはやはり好ましくない。
 それに、自分が得られるはずだった戦功を奪われることもあった。

 カルリナが居なくなったのは国にとって痛手だが、自分には好機でもある。
 カルリナと比しても遜色ないほどの活躍を見せつければいいのだ。
 皆に、実力を示してやればいいのだ。

( `゚ e ゚)(相手はブーン=トロッソか……ぬはははは)
188 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:02:02.51 ID:znjOLW740
 ブーンとは一度、相見えている。
 ショボンが裏切ってラウンジに来る直前の、ウタワレ城を巡っての戦いだ。

 オオカミ城から発ったブーンが攻め寄せてきた。
 それに対し、一応の抵抗は見せたものの、犠牲を多く被らないうちに北へと逃げ去った。
 正確に言えば、逃げたように見せかけたのだ。

 ブーンがオオカミ城に引き返したあとは、悠々と兵を増やし、再びウタワレ城に戻って攻めた。
 最初から、城を一度ヴィップに明け渡すつもりで北に走ったのだ。
 兵糧などの物資は残していなかった。ヴィップの守備軍は、籠城する体力もなかったのだ。

 ショボンらが裏切ったこともその場で伝えた。
 ウタワレ城に残っていた部隊長を降伏させるのは、容易いことだった。

 アルタイムから、戦が始まる直前に教えられていたのだ。
 ショボンが、裏切ってくると。

 歓喜のみが体を支配した。
 これで、ヴィップに勝てると確信したからだ。
 負けるはずがないと思ったからだ。

 自分のなかでは、すぐにでも天下統一を果たせると考えていた。
 西塔のジョルジュは病、東塔のショボンは裏切る、となれば当然だ。
 だからこそ、ショボンもヴィップに将を残さず、全てラウンジに引き揚げさせたのだろう。

 しかしヴィップは降伏せず、無駄な抵抗を続けている。
 三十万近いラウンジ軍に、立ち向かってきているのだ。
 馬鹿馬鹿しい。勝ち目など、あるはずもないのに。

( `゚ e ゚)(諦めの悪いやつは嫌いだ)
199 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:04:04.59 ID:znjOLW740
 だから、引導を渡してやろう。
 自分が、この手で。

 この戦で、もう二度と立ち上がれないほどの打撃を与えてやる。

( `゚ e ゚)「さぁ、迎え撃ってやろうじゃないか」

 城外に出て、陣を構えた。
 城からは二里ほど離れた地点だ。
 隙を突かれて不覚を取ったりしないよう、一応の距離を取る。

 ヴィップの狙いは既に読み切っている。
 フェイト城を得ようと見せかけているが、違う。
 本当は、このミーナ城を狙っているのだ。

( `゚ e ゚)(冷静に考えれば分かることだ)

 オリンシス城から輸送部隊が動いている、という報せがあった。
 それこそがヴィップの罠なのだ。
 包囲戦をやれるだけの体力はある、と見せかけて、ミーナ城からフェイト城へ援軍を発たせるのが目的なのだ。

 そして、南のオオカミ城からヴィップ軍がやってくる。
 手薄な、このミーナ城を落とすために。

( `゚ e ゚)「……やはりな」

 ヴィップ軍が迫ってきた。
 予想どおりだ。
215 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:06:12.91 ID:znjOLW740
 オリンシス城から包囲陣に送れる兵糧などあるはずがない。
 そんなものが存在するなら、もっと安全で確実な攻め方が他にいくらでもある。
 つまり、フェイト城の包囲陣は囮なのだ。

 本隊は南からのヴィップ軍。
 それさえ見抜いていれば、対応は容易い。

( `゚ e ゚)「久々の戦……血が滾るのう」

 アルファベットSを握り締め、ヴィップ軍の接近を待った。


――ミーナ城・南(ヴィップ軍側)――

ミ,,;゚Д゚彡(チッ……)

 城外に、九千ほどの兵が陣取っている。
 こちらの狙いは看破されていたらしい。

 オリンシス城から発っている輸送部隊を、襲おうともしない。
 何も積んでいない輜重を運んでいる部隊だ、とギルバードは分かったのか。
 フェイト城戦のために動いてくれれば確実に勝てる戦だったが、これで勝敗は微妙になった。

ミ,,゚Д゚彡(ギルバード=インダストル……手強い相手だ)

 確か、自分より四つ年下の武将だったはずだ。
 位は中将。大国ラウンジでの中将となると、相当に才がなければなれない。
 そして、位に見合った才は、確かにある。
230 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:08:45.40 ID:znjOLW740
 ブーンとミルナの立てたこの策は、成功すると思った。
 大軍を囮にして、一万ほどの軍を本隊にするという発想は、ラウンジにもなかったはずだからだ。
 しかし、ギルバードたった一人に阻まれた。

ミ,,゚Д゚彡「博打の要素が、高まるな」

( ><)「それでも、戦うしかないんです」

 珍しく、ビロードが力強かった。
 しかし、そのとおりだ。

 自分たちは、戦って勝つことでしか、生き延びれない。
 戦に勝たなければ、意味がない。

 ギルバードが動いてくれなかったときの対策も、ブーンとミルナから授かっている。
 上手くいくかどうかは分からないが、やるしかない。
 戦うしか、ない。

( ><)「まだ、やれることはあるんです。勝機は、消えたわけじゃないんです」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、分かってるさ」

 まずは、このまま突っ込む。
 兵数はほぼ互角。しかし、ヴィップ軍には疲労がある。
 結果がどうなるかは、まだ分からない。


――ミーナ城・南(ラウンジ軍側)――

(;`゚ e ゚)「ぬぅぅ……」
238 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:10:55.55 ID:znjOLW740
 やはり、脅威的だ。
 ヴィップの、野戦における力は。

 直接刃を交えるのは、これが二度目。
 一度目は、ブーン=トロッソ相手にわざと負けた戦だった。
 全力をぶつけあうのは、これが初めてになる。

 そして、全力をぶつけてこそ分かること、というものもある。
 勢いに乗ったヴィップ軍の突撃。崩されないように踏ん張るだけで、精一杯だ。
 押し返すことができない。

 内部へと食い込んでくるのを、ただ必死で受け流した。
 まともに戦い続ければ、いつかは押し切られてしまう。
 フサギコ、ビロード。二人ともだが、特にフサギコは、野戦に優れた将のようだ。

( `゚ e ゚)(これが、戦に戦を重ねてきたヴィップの力か……面白い)

 この戦には、勝たなくともいい。
 負けなければいい。
 それで実質的な勝利を得られるのだ。

 ならば、兵の錬度で劣っていようと、戦いようはある。

( `゚ e ゚)「一点に留まるな! 動き続けろ!」

 小さく固めた幾つもの部隊を、不規則に動かした。
 ヴィップは攻めにくそうに右往左往している。
 休まずに、ひたすら部隊を操作しつづけた。
248 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:12:59.26 ID:znjOLW740
 疲労があるのは行軍を終えたばかりのヴィップ側だ。
 こちらは万全な体勢で臨んでいる。
 体力勝負になれば、この戦は負けない。

( `゚ e ゚)「俺のSが血に染まるのも、久方ぶりのことだな」

 騎馬隊を率い、駆けた。
 狙いは、攻撃が空振っている歩兵隊。

 柔軟にアルファベットを振るう。
 まずは勢いで気圧し、追撃するようにして斬りつけるのだ。
 可能な限り、首を取るようにした。

 損害兵数は、今のところ互角か。
 しかし、ヴィップにSの壁を越えた者はいない。
 臆せずに攻め込める。

 反転して再び突っ込み、また首を飛ばした。
 アルファベット同士の衝突で負けないことが分かっていると、戦いやすい。
 無心で突撃できる。

( `゚ e ゚)「美しい、美しいぞ!」

 鮮血を撒き散らしながら倒れる敵兵。
 あの一滴一滴が、命の源だったのだ。それが自分の前で散っている。

 命とは、実に脆い。
 だからこそ、美しくもあるのだ。

( `゚ e ゚)「……ぬ?」
269 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:15:19.11 ID:znjOLW740
 なんだ?
 ヴィップの動きが、おかしい。

 守備軍への攻撃は引き続き行われている。
 が、意識がこちらに向いていない。

( `゚ e ゚)「……なんだと?」

 不意に、ヴィップ軍の後方から、一千ほどの部隊が飛び出した。
 そして、駆け去っていく。

 向かった先は、城門だ。

( `゚ e ゚)(バカな……何の意味があるというんだ)

 城門は閉ざしてある。
 近づいたところで、城内に侵攻できるはずがない。

 城外の部隊のために、九千を使った。これが、瀬戸際の数だった。
 だからD隊は配備していない。しかし、城門を閉ざしているだけで充分だ。
 ヴィップが、たった一千の兵が、城を攻められるはずはないのだ。

 しかし――――

( `゚ e ゚)(……そんなことは、ヴィップも分かっているはず……)

 なのに、あえて城門に近づいた。
 まったくの無策と見ていると、予想だにしない手を打たれる可能性がある。
283 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:17:30.13 ID:znjOLW740
( `゚ e ゚)(小型の攻城兵器でも持っているのか……?
     いや、そんなものが城門を破れるはずがない……。
     ……しかし、ヴィップには発明に優れていたモナーの遺産がある可能性も……)

( `゚ e ゚)(……万全を期すべきか、ここは)

 鉦を鳴らさせた。
 一千ほどを、城門に戻す鉦だ。
 戦わずとも、兵を城門に近づけるだけでヴィップ軍は退くだろう。

 その予想どおり、ヴィップの別動隊は本隊に戻った。
 何の狙いがあったのかは分からないが、どうやら城門を破る策を持っていると見て間違いないようだ。
 ならばもう、あんな風に城門へ向かうことは許さない。

 不規則に動く陣は変えないが、不意な動きにも対応するよう指示を与えた。
 これで、大外を回って城門に接近するような真似は看過しない。
 ヴィップの攻めは、全て防いでみせる。

( `゚ e ゚)(……攻めが緩まったな)

 こちらの対応に、気づいたようだ。
 先ほどまでよりも更に、攻めづらそうにしている。
 及び腰だ。

 城からは二里半離れた。
 これなら、大きく迂回して城に近づくことは不可能だ。
 盤石の体勢だった。

 が、しかし。
304 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:20:28.63 ID:znjOLW740
( `゚ e ゚)「……なんだ?」

 ヴィップ軍の動きが、またおかしい。
 攻撃陣を、組み換え始めている。

 上下左右に動き、斑模様のような陣になった。
 いや、違う。あれは――――

( `゚ e ゚)「ラウンジと同じ陣……だと?」

 ラウンジと同じように、不規則に動く陣を作ってきた。
 不規則な相手には不規則で対抗、ということなのか。
 しかし、それで本当に攻めとして成り立つのか。

( `゚ e ゚)「……面白いじゃないか」

 同様の陣でぶつかれば、大混戦になる。
 両軍入り乱れた、紛うことなき死闘だ。

 望むところだった。

( `゚ e ゚)「殲滅してやろうぞ」

 思い切って、軍を突っ込ませた。
 互いが互いを把握できないような、まともな戦とは思えない混戦だ。
 しかし、愉悦がある。

 右方の敵を攻めたと思ったら、左方から攻められる。
 しかしその左方を下方のラウンジ軍が攻め立てる。
 そんな、戦っている側も混乱するような戦だ。観戦している者など、何がなにか分からないだろう。
322 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:22:51.04 ID:znjOLW740
 ヴィップの望みは、潰し合いか。
 それもいい。
 どちらが勝つか分からない戦というのも、興奮させられるものがある。

 鉦が鳴った。
 先ほどと同じ、一部隊を城門に戻す鉦だ。
 確かにこの局面、城門を守ることが大事に――――

(;`゚ e ゚)(……いや?)

 待て。
 この状況、城門を守ることが優先されるはずはない。
 確かにそれも大事なことだが、今やるべきことではない。

 そもそも、そんな指示を自分は下してない。
 城門に戻れ、などと命令するはずがない。

 では何故、あんな鉦が。

(;`゚ e ゚)(無意識のうちに指令を出してしまったのか?)

 そんなことも、一瞬考えた。
 その、直後。

 混戦から抜け出した部隊があった。
 およそ、一千ほど。

 違う、先ほどの指示は誤りだ。
 戻れ、行くな。
 そう叫んだ。
338 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:25:00.75 ID:znjOLW740
 しかし、飛び出した部隊は、ラウンジ軍ではなかった。

( `゚ e ゚)「ぬ……」

 あれは、ヴィップ軍だ。

(;`゚ e ゚)「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃぃッ!?」

 悠然と駆けていく。
 騎馬隊。

 しまった、外から回られることばかり警戒しすぎた。
 混戦の中から堂々と中央を破り、飛び出していくことへの注意が、足りていなかった。
 先ほどヴィップが外回りで城門を目指したことが、頭に残っていたのだ。

 すぐに追っ手を出そうとした。
 しかし、それはヴィップが許してくれない。
 背後から執拗に攻め立てられ、身動きが取れない。

 が、突然攻めが弱まった。
 まるで、疲労を露呈したかのように。
 ごく、自然に。

 機を逃すわけにはいかなかった。
 瞬時に追撃隊、およそ一千を出し、城門へと駆けさせる。
 ヴィップ軍との距離は、既に一里。

 城内のラウンジ軍は、あのヴィップ軍をヴィップ軍と判断できない。
 混戦から抜け出した、ラウンジと同じような軍だからだ。
 このためにヴィップは陣を組み換えたのか、と今さら気づいてももう遅い。
354 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:27:09.13 ID:znjOLW740
 混戦にしたのも、飛び出したのがヴィップ軍と分かりにくくするため。
 そして、抜け出しやすくするため。
 ヴィップは、最初から潰し合いなど望んでいなかったのだ。

(;`゚ e ゚)「ぐっ……!」

 追撃隊が勢いに乗り始めた頃、もうヴィップ軍は城に着いていた。
 それは敵軍だ、と知らせるために、散々鉦を鳴らさせている。
 が、ヴィップも同じように鉦を鳴らしているため、指示が伝わらない。

 城門に近づいたヴィップ軍が、手を挙げて合図していた。
 何度も何度も振りかざしている。

 ラウンジに、あんな合図はない。
 あれで城門を開こうというのか。
 馬鹿な、そんな策、通るはずは――――

(;`゚ e ゚)「……まさか!!」

 背後から迫っているラウンジ軍を、指し示している。
 あれがヴィップ軍だ、追ってきている。早く城門を開けてくれ、と。
 城内のラウンジ軍に、そう伝えているのか。

 混戦から、ラウンジの追っ手を出させたのも、ヴィップの狙いどおりだったのか。
 あえて攻撃を緩ませ、追撃隊を出させることによって、ヴィップ軍だと勘違いさせる。
 そうやって城内の守備兵を焦らせ、判断力を奪ったのか。

 一里の距離、というのも絶妙だ。
 急いで城門を開けて閉めれば、背後の軍は城に入れない。
 そんな距離。
368 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:29:13.22 ID:znjOLW740
(;`゚ e ゚)「その距離さえも計算尽くだったというのかぁぁぁぁ!!」

 睨んだ先のフサギコが、不敵に笑っていた。

 城門が、開かれる。
 ラウンジ軍を装ったヴィップ軍が、悠然と城内に侵入していく。
 そして背後からのラウンジ軍は、城門に阻まれる。

 もう、遅い。

 油断した城内のラウンジ軍は、ヴィップ軍の攻めに抗えないだろう。
 不意を突かれ、為す術なく討ち取られてしまうはずだ。

(;`゚ e ゚)「クソォォォッ!!」

 幾つも重なる鉦の音が、無情に響いていた。

 混戦を利用し、一瞬でラウンジ軍になりすましたヴィップ軍。
 防ぐ手立ては、なかった。

 具足や馬など、身なりに両軍の差があるわけではない。
 おまけに、ラウンジ軍の鉦を完全に真似し、偽の指示を出したあとでヴィップ軍は飛び出したのだ。
 見抜けるはずがない。

 ミーナ城を、失った。

 すぐに、頭を切り替えなければ。
 敗戦のあと、何を為すべきか考えなければ。
386 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:31:45.81 ID:znjOLW740
 この場には留まれない。
 北に逃げるしかない。

(#`゚ e ゚)(……許さんぞ……!!)

 ここまでの敗北を喫したのは初めてだ。
 完全に、策で上回られた。
 憤怒で頭が熱を帯びている。

 それでも戦のことは冷静に考えられる。
 まず、フサギコたちはこの場に留まるだろう。
 城の確保。そして、南のオオカミ城への道を塞いでくるはずだ。

 オオカミ城は今、手薄になっている。
 できれば攻め取ってしまいたいところだ。
 しかし、遠すぎるうえに、ヴィップは南へ行かれることを警戒している。

 だから、北へと進むのだ。
 そして、フェイト城を囲んでいるヴィップ軍を攻め立てる。

 討ち取ってやる。
 ブーン、そしてミルナ。
 どちらか、いや、双方ともにだ。

 手勢はまだ八千ほど残っている。
 フェイト城内のラウンジ軍と協力すれば、包囲陣を蹴散らせるはずだ。

 が、しかし。

(;`゚ e ゚)「何故だぁぁぁぁぁッ!!」
420 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:34:04.88 ID:znjOLW740
 北から、ヴィップ軍がやってきた。
 間違いなく、フェイト城を包囲していた軍だ。

 何故だ、と思ったのは、そのヴィップ軍を誰も追撃していないことだ。
 背後が隙だらけだというのに。

 そこで、本当は冷静になりきれていなかったのだ、と気付く。
 アルタイムは、フェイト城に篭っているのだ。
 決して動いてはならない、と思っているはずなのだ。

 アルタイムの判断は正しい。
 包囲陣がいきなり囲みを解いて、動きだした場合、考えられるのは誘き出しだ。
 あえて追撃させ、隙を突いてフェイト城を奪う、といった展開が最も考えられる。

 何がなんでも篭る、というアルタイムの判断を責めることはできない。
 フェイト城は、万が一にも失ってはならない城だからだ。

 いや、今はそれよりも。
 それよりも、考えなければ。
 絶体絶命の危機から逃げる方法を。

(;`゚ e ゚)(……そうだ!!)

 あれがある。
 あれを使えばいい。

 逃げ切れるかは分からないが、今はやるしかない。
442 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:36:21.41 ID:znjOLW740
――ミーナ城・北(ヴィップ軍側)――

 フサギコとビロードは、策を完遂してくれたようだ。
 ミーナ城の守将だったギルバードが、慌てて逃げ惑っている。

( ゚д゚)「討ち取りたいところだな、ギルバードは」

 大胆な作戦の筋を立てたブーンに、話しかける。
 ブーンは真剣な表情で頷くだけだった。

 歩兵隊は、ほぼ置き去りと言ってもいい位置にまで遠ざかっている。
 それでいい。歩兵隊は、フェイト城への牽制になる。
 まだフェイト城を狙っている、という姿勢を見せておけば、アルタイムは動けない。

 最初は、フェイト城から動くつもりはなかった。
 ギルバードがミーナ城から発って包囲陣を襲うのを待つ必要があったからだ。
 しかし、ギルバードは中々やってこなかった。

 そこで瞬時に機転を利かして動いたのは、ブーンの決断だった。
 フェイト城外に留まるべきだったかどうかは、微妙なところだったが、ブーンは早かった。
 そして、早めの決断が奏功したのだ。

( ゚д゚)「西に逃げる気か? ギルバードは」

( ^ω^)「そうみたいですお」

 討ち取りたい、と思うが、実現するかどうかは微妙だ。
 ギルバードも経験豊富で、幾度も死線を潜り抜けている。
 戦才はアルタイムよりも上だろう。簡単に討ち取らせてくれるはずはない。
456 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:38:30.13 ID:znjOLW740
( ゚д゚)「……ん?」

 ギルバードは、西の城に逃げるのだと思った。
 しかし、進路を緩やかに北西へと曲げ始めたのだ。

( ゚д゚)「……そうか」

 ミーナ城には、属城があった。
 城というにはあまりに頼りないが、エスカルティン城だ。
 ミーナ城から離れているため、あまり戦略的な価値はない城だった。

 ギルバードと配下の兵は、急いで属城に駆け込んだ。
 どうやら城門も固く閉ざしたようだ。
 城に、篭るつもりらしい。

( ゚д゚)「しまったな、先に属城を落としに行くべきだったか」

( ^ω^)「……でもブーンたちには、フサギコさんたちがミーナ城を落とせているかどうか、分かりませんでしたお」

( ゚д゚)「それもそうだな。分からないうちから属城に行くより、ミーナ城に駆けつけるのは当然だ。
    エスカルティン城に駆け込まれたのは、致し方ないか」

 時間があれば、属城如きは落とせる。
 いや、ギルバードも長く留まるつもりはないのだろう。
 フェイト城のアルタイムが、全ての事実に気づくまで、時間を稼ぐつもりなのだ。

 ギルバードは既に伝令を飛ばしているはずだ。
 アルタイムが事態を把握するのに、そう時間はかからない。
466 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:40:34.06 ID:znjOLW740
 包囲してもアルタイムに後ろから包囲陣を乱される。
 それに、本当の包囲戦を行えるだけの兵糧はない。
 攻城兵器を充分数用意するとしても、時間が相当にかかってしまう。

( ゚д゚)「どうする、ブーン。無茶を覚悟で、属城を囲んでみるか?」

( ^ω^)「いえ、このままミーナ城に入りますお」

 自分と同じ意見だ。
 まずは城の安定に務めたほうがいい。
 属城に近づかなければ、ギルバードは勝手に出て行ってくれるだろう。

 ギルバードの追撃を諦め、ミーナ城に向かった。
 戦が、終わった。


――ミーナ城内――

 ラウンジ軍の半数ほどはヴィップに降ったようだった。
 城門の傍は血で彩られており、ラウンジを欺いて城を奪ったのだと一目で分かる状態になっている。

( ゚д゚)「いい戦だったな、フサギコ」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、完勝だった。危ない場面もあったけどな」

( ゚д゚)「それを感じない勝利だったさ」

ミ,,゚Д゚彡「ま、勝てて何よりだ」
477 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:42:40.91 ID:znjOLW740
 ミーナ城の統治はそれほど難しいものにはならなかった。
 城の規模が小さく、以前はヴィップが治めていた城でもあるからだ。

( ゚д゚)「鉦の音を真似してラウンジ軍を装う、というのは上手くいったようだな」

ミ,,゚Д゚彡「ニダー中将のお株を奪う真似っぷりだったぜ、我ながら」

( ゚д゚)「そうか、ヴィップには模倣のニダーがいたな」

ミ,,゚Д゚彡「あの人に影響されて俺も上手くなったのかもな。
     ここ最近、何かに成りすますことが増えた」

 フサギコは苦笑しながら言ったが、それ以上を語ろうとしなかった。
 自分も深くは聞けず、暫し室内の声に耳を傾ける。

(*><)「ブーン大将、お久しぶりなんです! 戦勝バンザイなんです!」

(*^ω^)「おっおっおっ、何もかも嬉しいですお」

 ミーナ城の一階にある広間の端で、ビロードとブーンは喜びを分かち合っていた。
 自分とフサギコも同じだが、二人ほど大きく騒いでいない。

ミ,,゚Д゚彡「やれやれ、もーちょっと大人の渋みってもんが欲しいところだな」

( ゚д゚)「あの二人にか? それはそれで、不気味な気もするが」

ミ,,゚Д゚彡「はは、違いねぇ」

( ゚д゚)「……だが、貫禄は出てきた」
497 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:44:55.86 ID:znjOLW740
 広間の窓を占拠する月が、輝かしい。
 ガラスでできた器に、そして揺れる酒に、煌めきを与えている。

( ゚д゚)「ベルベットらの死を乗り越え、またひとつ成長したようだ。
    この戦で、感じ取ることができた」

ミ,,゚Д゚彡「大将って職に慣れてきたんじゃねぇか?」

( ゚д゚)「それもあるだろうが、あいつは感情が成長に大きく関わってくる男だ。
    正直、今回ほどの戦を見せてくれるとは思わなかった。予想以上だったな。
    あいつはアルファベットももうWに達するはずだ。驚異的な早さで」

ミ,,゚Д゚彡「成長しつづける大将か。そりゃいい」

( ゚д゚)「今回の策も、ほとんどがブーンの発案によるものだ。
    ミーナ城を奪ったところについては、お前やビロードの知恵もあったようだが」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、わざとラウンジから追撃隊を出させたり、とかな」

( ゚д゚)「しかし、ブーンは戦の経験がかなりある。それが、今になって活き始めてきたんだ。
    あいつは知将ではないが、経験と機転で戦ができる。
    今のヴィップでは、随一だろうな」

ミ,,゚Д゚彡「随分、評価が高いんだな。俺もあいつに敵う気はしねぇけどよ」

( ゚д゚)「もう先を見据え始めているんだ、ブーンは。
    それが、今までのブーンにはなかったところさ。
    だから俺も評価を高めた」
511 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:47:10.82 ID:znjOLW740
ミ,,゚Д゚彡「つまり、秋の収穫が終わったあとのことか」

( ゚д゚)「あぁ。今度は、ラウンジも主力が勢揃いする」

ミ,,゚Д゚彡「フェイト城戦、か……」

 シャッフル城からフェイト城を攻めるにあたって、厄介だったのは西の山脈だ。
 あれに進路を塞がれるため、大軍を動員するのが困難だった。
 敵に動きを読まれやすくもあった。

 しかし、ミーナ城を奪った。
 ここからフェイト城までの間に、遮るものは何もない。

 直前になるまで詳細は分からないが、敗北濃厚な戦にはならないはずだ。
 必ず、城を奪ってみせる。

 そしてできれば、ショボンを刃を交えたいところだ。

( ゚д゚)「そういえばフサギコ、知っているか?」

ミ,,゚Д゚彡「ん?」

( ゚д゚)「"アルファベットは何故、三日触れなければ消えるのか?"」

 器を傾け、残っていた酒を一息で飲み干した。
 自分の手で再び酒を注ぎ、杯を満たす。

ミ,,゚Д゚彡「……いや、知らねぇな。疑問に感じたこともなかった」

( ゚д゚)「俺もだ。しかし先日、ブーンが面白い仮説を立てたんだ」
538 :第96話 ◆azwd/t2EpE :2008/03/03(月) 18:50:48.24 ID:znjOLW740
 ブーンとビロードも酒盛りになっているようだ。
 城内の兵にも、少量だが酒は振舞ってある。
 戦勝に浸るのは、いつでも悪くないものだ。

ミ,,゚Д゚彡「へぇ、聞きてぇな」

( ゚д゚)「直接ブーンから聞くとしようか。何の根拠もない仮説だが、中々に興味深いぞ」

 二人でブーンらのほうへ移動し、語りあった。
 ブーンから仮説を聞いたフサギコは、驚いたような、懐疑を抱いたような、不思議な顔をしていた。

 四人で、実に様々なことを、酒とともに話し合えた。

 そうやって、戦勝の夜は更けていった。













 第96話 終わり

     〜to be continued

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