2 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:03:32.12 ID:nVxYAMOx0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:シャッフル城

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
46歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:シャッフル城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:T
現在地:カノン城
6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:04:39.98 ID:cMy6UIjl0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:カノン城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:O
現在地:オオカミ城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城
13 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:05:26.65 ID:cMy6UIjl0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:カノン城

●プー゚)フ エクスト=プラズマン
32歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:カノン城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
24歳 ミルナ中将配下部隊長
使用可能アルファベット:K
現在地:ウタワレ城
17 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:06:26.65 ID:cMy6UIjl0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:ビロード/アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/エクスト
少尉:

(佐官級は存在しません)

18 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:07:24.56 ID:cMy6UIjl0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:ルシファー
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ/カルリナ
Q:
R:プギャー/フサギコ
S:ファルロ/ギルバード
T:ニダー/アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
21 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:08:41.32 ID:cMy6UIjl0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

26 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:09:45.57 ID:cMy6UIjl0
【第94話 : Town】


――ラウンジ城――

 フェイト城からの移動は、やはり大がかりなものとなった。
 十二万の行軍となると、動きも鈍重だ。
 やはり、撤退は正解だった。

 焦らずに、フェイト城からラウンジ城まで行軍した。
 後ろからヴィップに追われる心配はなかったためだ。

(´・ω・`)「できれば、シャッフル城は奪いたかったが」

( ’ t ’ )「致し方ありません」

 カルリナと二人で、国王室に向かっていた。
 戦勝の報告をしなければならないためだ。

 久方ぶりに、クラウンに会える。
 しかも、戦勝を報告できる。
 それが何よりも、嬉しい。

 扉の前に立って、二度叩いた。
 中から声が返ってくるのを待って、入室する。

( ´ノ`)「おぉ、よく帰ってきてくれた」
36 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:11:45.11 ID:cMy6UIjl0
(´・ω・`)「再びこの場に参じることができ、嬉しく思います、国王」

( ´ノ`)「そうか、そうか。座ってくれ、二人とも」

 国王室の真ん中に、長大な卓が置かれていた。
 そしてその上に、数十という数の料理が並べられている。
 ちょうど昼食時だ。自分たちの到着を、待っていてくれたらしい。

( ´ノ`)「シャッフル城を奪えなかったのは残念だが、仕方あるまい。
     まずは戦勝に乾杯することとしよう」

 三人が杯を手にとって、前に出した。
 そして口元に近づけ、杯を傾ける。

( ´ノ`)「兵糧の問題ばかりは、どうしようもないか」

 クラウンが口から杯を離し、話を切り出した。
 まだここからでも、杯の中身が見える。
 一口程度に留めたようだ。

(´・ω・`)「はい。大軍を遠隔地であるフェイト城に留めておくとなると」

( ’ t ’ )「膨大な兵糧を要し、懸案事項が多数出現します」

( ´ノ`)「兵站を断たれると、一気に苦しくなってしまうのだな」

(´・ω・`)「はい。ひとつ糧道を乱されるだけで、被害は甚大です」

 クラウンが料理に手をつけたのを見てから、自分も料理に手を伸ばした。
 手のひらにちょうど収まる程度の大きさのパンを、普段は一口で食べるが、今日は二つに千切る。
41 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:13:47.57 ID:cMy6UIjl0
(´・ω・`)「兵糧に不安を抱えてからの撤退となると、ヴィップも強気に攻め込んできます。
      空腹では満足に力も発揮できません」

( ´ノ`)「大軍というのも、いいことばかりではないな」

(´・ω・`)「理想は、少数精鋭です。一万の軍で、二万の力が出せれば良いのです」

( ´ノ`)「その点に関しては、ヴィップに劣っているか?」

(´・ω・`)「正直に申しあげまして、そのとおりです」

 牛の肉を分厚く切って焼き、野菜とともに盛りつけられた皿を引き寄せた。
 小刀を使って三つに分け、口に運ぶ。
 肉汁を落とさないよう気をつけた。

(´・ω・`)「一部はヴィップに優っている自信がありますが、全体となると、まだまだです」

( ’ t ’ )「特に、歩兵隊の錬度には大きな隔たりがありますね」

( ´ノ`)「ふむ。どう違うのだ?」

( ’ t ’ )「進軍速度から統率力まで、全てに至ってヴィップのほうが上です」

( ´ノ`)「アルファベットに関しては、どうだ?」

( ’ t ’ )「そこが、最も大きな差です」

 カルリナの前にある料理は、肉だけがやけに余っていた。
 野菜類を多く摂っているようだ。
50 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:15:54.78 ID:cMy6UIjl0
(´・ω・`)「カルリナ中将の言うとおりです、国王。
      ヴィップは昔からアルファベット職人の質が高く、兵の技術も優れています」

( ’ t ’ )「具体的に言えば、I兵の数がラウンジとほぼ同数です。
    兵数に大差があるにも関わらず、です」

( ´ノ`)「ふむ……それは由々しき事態だな」

 クラウンが再び杯に手を伸ばした。
 が、一瞬傾けただけで、また杯を置く。
 あまり酒を飲みたい気分ではないのだろうか。

( ´ノ`)「では、次の戦にも不安が残る、ということか?」

(´・ω・`)「いえ、そうではありません」

( ´ノ`)「勝算はあるのか?」

(´・ω・`)「ありすぎるほどに」

 率直な言葉が出てきた。
 クラウンは、珍しく好々爺のような表情を浮かべている。
 普段は威厳に満ち溢れて見える人だ。

(´・ω・`)「シャッフル城戦にて、二万以上の兵と、ベルベットを討ちました。
      これでヴィップは西から動けません」

( ’ t ’ )「多少の援軍がこちらへやってくるかも知れませんが、それでも兵力では圧倒的に上回ります」

( ´ノ`)「カノン城の奪取は目前、か」
62 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:18:14.92 ID:cMy6UIjl0
 次なる目標はカノン城、と早めに決めていた。
 シャッフル城を継続して狙うのが難しくなったためだ。

 カノン城攻めなら兵站を繋ぐのは楽だ。
 乱される心配もない。
 兵糧は苦しい状態だが、一戦くらいは保てるだろう。

(´・ω・`)「遠隔地となると、途中で兵糧が失われる可能性も考え、かなり多めに運ぶ必要がありますが」

( ´ノ`)「カノン城攻めならそんな予備を用意する必要もない、か」

( ’ t ’ )「そう考えるとやはり、攻め込むべきはカノン城かと」

( ´ノ`)「あまりヴィップに時間を与えたくはないしのう」

 今のヴィップは大敗の傷を負っている。
 拭うまでに、時間はかかるだろう。
 癒える前に次の手を繰り出し、更に傷口を広げてやりたかった。

 さすがにカノン城攻めが終わったあとは、秋の収穫を待たなければならないだろう。
 だからこそ、今このタイミングで、城を奪うことが大事なのだ。

( ´ノ`)「しかし、カノン城には鉄槍を発する厄介な仕掛けがあると聞いたが」

( ’ t ’ )「その対策については、既に講じてあります」

 カルリナが、即答した。
 初耳だった。
71 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:20:21.09 ID:cMy6UIjl0
 あの鉄槍には、前回かなり苦しめられた。
 あれさえなければと思うような仕掛けだったのだ。

 カルリナは、もう対策を立ててあるという。
 虚勢で物事を処理するような男ではない。本当に、何かあるのだろう。
 後でそれを聞くのが、楽しみだった。

( ´ノ`)「兵数はどうするつもりだ?」

(´・ω・`)「十二万を使います」

( ´ノ`)「それはまた、大軍じゃのう」

( ’ t ’ )「兵糧を考慮すると、それが限界数です」

( ´ノ`)「二人とも、カノン城奪取に賭ける思いは強いか」

(´・ω・`)「無論です」

 カノン城がある限り、常にラウンジ城は敵の脅威に備えなければならない。
 クラウンも気構えを崩せないのだ。
 できれば快く眠ってほしい、と思うのは忠臣として当然のことだった。

 カノン城は、喉元に打たれた楔のような存在だ。
 奪ってしまえばラウンジは一気に楽になる。

 ヴィップの領土もかなり縮退するだろう。
 パニポニ城、ヒグラシ城、ハルヒ城を繋いだラインで落ち着くはずだ。
 ピエロ川以南を取られている現状から考えると、ラウンジの兵糧も多少はマシになると見ていた。
80 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:23:25.19 ID:cMy6UIjl0
(´・ω・`)「必ずや、奪ってみせます」

( ’ t ’ )「自分も、同じ気持ちです」

 クラウンの手が、スープの入った小さな器に触れていた。
 ゆっくりと持ち上げて啜っている。
 こちらの言葉に対する反応は、ない。

(´・ω・`)「国王?」

 反応がないだけではなかった。
 言葉を、まるで聞いていないように見えた。

 自分が改めて言葉を出すと、はっとしたようにこちらを向いた。

( ´ノ`)「すまん、なんだったか?」

(´・ω・`)「いえ」

 少し、気が抜けていたようだ。
 クラウンは忙しい日々を送っている。疲労も溜まっているはずだ。
 上の空だった理由は、そんなところだろう。

( ´ノ`)「そろそろ、終わりにするか」

 クラウンが席を立った。
 目の前の料理は、まだほとんど手つかずで残っている。
90 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:25:30.57 ID:cMy6UIjl0
(´・ω・`)「そうですね」

( ’ t ’ )「では、失礼することにします」

( ´ノ`)「二人とも、次の戦も楽しみにしておるぞ」

 国王室の奥へと、クラウンは消えてゆく。
 その背中を、ゆっくりと見送ってから、カルリナと共に国王室を去った。



――オリンシス城・西――

 ラウンジ撤退の報が間違いないものと聞いて、すぐにシャッフル城を発った。
 件のアルファベット職人に会うためだ。

 ブーンは伴わなかった。
 最初は、大将としてついてきてもらう予定だったが、気落ちしている状態だ。
 それに、シャッフル城で為すべき仕事も多い。連れていかないほうが良さそうだ、と判断したのだ。

 供としたのは百の騎兵。
 自軍領の移動なら、これで充分すぎるほどだ。

 見通しのいい草原を駆けていた。
 昨晩はオリンシス城に泊まり、まだ夜が明けきらないうちに出立した。
 早ければ、日が落ちる前には職人の許へ到達できそうだ。

 将校が使うべき、良質なアルファベットを用意することは、急務となっていた。
 ヴィップ軍内にも、一応TやUを作れる職人はいるそうだが、どうしても劣ってしまうという。
 世界一と言われたツン=デレートのアルファベットに比べると、だ。
97 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:28:19.51 ID:cMy6UIjl0
 比較された職人も可哀想だが、今まで握っていたものより劣化していると、気にかかるのは当然だろう。
 痛痒感のようなものがあったはずだ。

 自分がいま使っているUを作ってくれた職人の技術は、高い。
 ツンには及ばないだろうが、今や全土最高かも知れないと思うほどだ。
 ベルのWを作った実績もある。

 ただ、少し気難しいところがあるため、多少の不安があった。
 だからこそブーンを伴いたかったのだ。
 あいつには、不思議と人を惹くところがある。

( ゚д゚)「……ん……」

 百騎で小さく固まり、進行を続けていたところ、遠景に町が浮かんだ。
 あれは、メルトという名の町だ。

 オオカミ城の城下町ほどではないが、それなりの規模で、人も多く抱えている。
 昼前で、市場が盛り上がっているのだろう。近づくたびに、活気が伝わってきた。

( ゚д゚)「ちょうどいい。寄るぞ」

 進行方向を曲げて、町に向かった。
 途中で九十騎は離し、十名だけを連れて町に入る。
 あまり大勢で向かえば警戒されてしまうだろう。

 アルファベットUは布で隠した。
 顔が知られているかどうかは分からないが、一応頭巾を目深に被る。
 これで、ミルナ=クォッチだと知れることはないだろう。
103 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:30:34.05 ID:cMy6UIjl0
 馬は町外に繋ぎ留めておいた。
 七名は馬を守らせるために置いておく。つまり、町内に伴ったのは三人だけだ。
 これくらいが最も動きやすい。

( ゚д゚)「さて……」

 町に入った理由は、調達だった。
 とはいっても、自分たちの兵糧などではない。
 アルファベット職人に持っていく土産だ。

 土産の有無が何かに影響するとは考えていないが、礼儀として用意すべきだろう。
 今まで世話になった恩もある。

 銭は国軍から支給されていた。
 そんなものは要らないと最初は言っていたが、無理やりにブーンから受け取らされたのだ。

 オオカミ国軍の許で戦っていたときの蓄えも、多少なりある。
 多くはオオカミ城に残したが、念のため、常に金目のものは持ち歩いていた。
 滅亡直前の戦のときも、嵩張らない程度の品を懐に入れていたのだ。

 その気になれば、市場のものをほとんど買い占められるであろうほどの銭が、いま手元にあった。
 将校職に就けば誰しも、相応の銭を得ている。
 それを兵に分からせることで、上を目指そうという気持ちも生まれるのだ。

 市場を歩き回りながら、何を持参すべきか考えていた。
 あのアルファベット職人は、アルファベット以外にまるで興味がない。
 食や珍品に拘るような分かりやすい人間ではないのだ。

( ゚д゚)「ふむ……」
110 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:32:43.31 ID:cMy6UIjl0
 とりあえず、肉でも持っていくべきか。
 食糧なら、あって困ることはないだろう。

6|`レ´ノ3「お、何をお買い求めで?」

 露店の奥から、こちらに気づいた店主が声をかけてきた。
 三十代半ばといったところだろうか。口周りに見事な髭を蓄えている。
 手入れも行き届いているようだ。

( ゚д゚)「肉が欲しいんだが」

6|`レ´ノ3「色々ありますぜ! 牛も豚も、羊も鶏も」

( ゚д゚)「旨ければ何でもいい」

6|`レ´ノ3「でしたら、ウタワレ城近郊の牧場から仕入れたこの牛肉なんかどーですかい?」

 卓上に音を立てて置かれたその肉は、お世辞にも旨そうとは言えない状態だった。
 全体が黒ずんでおり、ところどころに白いカビが生えているのだ。

( ゚д゚)「……これがか?」

6|`レ´ノ3「この肉はいったんカビが生えるまで特殊な環境に置いといて、熟成させるんです。
     あとで外を削ぎ落として、中心部を食べるんでさぁ」

( ゚д゚)「ほう」

 外の肉がもったいないが、そうやって熟成させることにより旨味が増すのだろう。
 聞いたことのないやり方だ。
119 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:35:09.27 ID:cMy6UIjl0
6|`レ´ノ3「これに塩を塗して食うと絶品ですぜ!」

( ゚д゚)「なるほど、旨そうだな」

6|`レ´ノ3「ただし、少々値が張りやすぜ、旅のお方」

 旅人だと言った覚えはないが、見かけで判断されたのだろう。
 そう見られても仕方ない風貌ではあった。

( ゚д゚)「いや、大丈夫だ。貰おうか」

6|`レ´ノ3「へい! じゃー、どのくらいを」

( ゚д゚)「全部だ」

 店主が目を丸くして驚いていた。
 もう既に小刀を取り出して、切り分けようとしていたところだったのだ。

6|;`レ´ノ3「た、旅のお方、これ全部となると相当に」

( ゚д゚)「いいんだ。銭は払う」

 懐から銭袋を取り出し、卓上に置いた。
 店主の目が更に見開かれた。

6|`レ´;ノ3「……どっかの大商人かなんかですかい? アンタ」

( ゚д゚)「まぁ、そんなところだ」

6|`レ´ノ3「見た目は兵士のようにも見えやすが……」
128 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:37:20.94 ID:cMy6UIjl0
 店主は慌てて大袋を探していた。
 この肉が全部買われることは、想定していなかったのだろう。

6|`レ´ノ3「ガタイも、そりゃーまるで将校のようですぜ」

( ゚д゚)「旅も安全ではないからな。鍛えたんだ」

6|`レ´ノ3「へぇ、なるほど。そりゃー確かに、危険もありますわなぁ。
     しかし、アンタみたいな男を襲う盗賊もおらんでしょうに」

 思わず苦笑してしまった。
 自分を襲う盗賊などがいたら、瞬時にその首はなくなっているだろう。
 見かけに怯えて、近づきすらしないかも知れない。

6|`レ´ノ3「毎度! 塩は少量ですがサービスしときやす!」

( ゚д゚)「すまんな。塩も高価だろうに」

6|`レ´ノ3「だから少量ですぜ!」

 気前のいい店主だった。
 袋を抱えて、愛想のいい店主に見送られ、再び歩き出す。

 あとで袋を見てみると、塩の量は本当に僅かだった。
 だが、塩は貴重品だ。付与してくれただけでもありがたいことだった。

 店を後にしてからは、町を一周してみた。
 雰囲気は悪くない。税に苦しんでいる様子もない。
 しかと統治されているようだ。
136 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:39:27.02 ID:cMy6UIjl0
 少なくとも、オオカミ領だった頃よりはいいだろう。
 オオカミに在籍していたときはあまり思わなかったが、他国と比すると、文官の数が少なすぎた。
 統治にも多少なり無理が出ていたはずだ。

 ヴィップは民に優しい政治を布いている。
 温暖な気候が幸いし、課税率が低めでも国が成り立つのだ。
 恵まれていると言ってよかった。

 だが、兵糧は依然として苦しかった。
 秋の収穫を待たないと、攻め込むこともできない。

 それに、攻め手も足りない。
 ベルベットを失ったのが、やはり手痛いのだ。

 モララーかジョルジュの、どちらかが復帰すれば、穴を埋められる。
 が、まだ遠い話だ。
 当分は、現有戦力で戦うしかない。

 その現有戦力を、少しでも高めるために。
 やはり、アルファベット職人の力が必要だ。

 町から出て、再び職人の許へ向かった。
 既に陽は傾いている。予定より少し遅くなってしまった。
 もう就寝している、ということはないだろうが、早いに越したことはない。

 進路は南に向いていた。
 このまま進めば山に突き当たる。
 その山中に、職人は住んでいるのだ。
144 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:41:41.33 ID:cMy6UIjl0
 山の麓に到着したあと、町のときと同じように、馬を置いた。
 そして、九十名をその場に残す。
 野営できるだけの用意は整えてあった。

 十名で、山中に入る。
 険しくはないが、進みにくい。木々が雑多に生えていた。
 人が出入りした形跡もほとんどない。

 大木に、目印が打ってある。
 この目印どおりに進むと、深い罠にかかるようになっているのだ。
 逆方向へと向かう。

 小川を渡って、少し歩く。
 するとそこに、生活臭のする洞窟がある。
 無論、これも罠だ。

 正しい進路を、寸分違わずに取らなければ、到達できないようになっている。
 この山を捜索されることはないだろうが、もしあっても危険が及ばないよう、盤石な体制を取っていた。

 五刻ほど歩いたところで、木々の奥に幽かな光が見えた。
 あれは罠ではない。
 職人が隠れ住んでいる、小屋だ。

 木々を掻き分けて進み、小屋の前に立った。
 中から声が聞こえる。在宅のようだ。
 尤も、あの職人が外出することなど考えられなかった。

( ゚д゚)「失礼する」
152 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:44:12.39 ID:cMy6UIjl0
 供の者を小屋の外で待たせ、中に入った。
 瞬間、顔を覆いたくなるような熱気に包まれる。
 独特の臭いも鼻を突いた。
 _、_
( ,_ノ` )「なんじゃ、ミルナか」

 椅子に座って、何か記されている紙を眺めていた。
 紳士的な髭を生やし、そこに左手を当てている。

( ゚д゚)「俺以外、ここに来るやつなど居らんだろう」
 _、_
( ,_ノ` )「まぁ、そのとおりじゃが」

 アルファベットを壁に立てかけ、職人の前に座った。
 名をシブサワ=ダンディ。
 もう六十を超えている、老練なアルファベット職人だった。
 _、_
( ,_ノ` )「茶を運んでこんか」

 叱りつけるように、シブサワが言った。
 この小屋には、下人が一人いる。
 見習いと言ってもよかったが、従者にしか見えなかった。

( ゚д゚)「相変わらず、厳しいんだな」
 _、_
( ,_ノ` )「それをわかってて、あいつはここに居るんじゃろう」
168 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:46:37.33 ID:cMy6UIjl0
 シブサワが、茶の入った器を傾ける。
 どことなく、渋みがあった。
 _、_
( ,_ノ` )「それで、今日は何の用じゃ? アルファベットVを作れ、か?」

( ゚д゚)「それも頼みたいが、違う」
 _、_
( ,_ノ` )「面倒事は御免じゃぞ」

( ゚д゚)「仕事を頼みたいんだ。一つや二つじゃなく、幾つも」

 シブサワの手が、また口元にいった。
 下人から茶が運ばれてくる。

( ゚д゚)「簡潔に言うと、ヴィップ軍将校のアルファベットを作ってほしい」
 _、_
( ,_ノ` )「面倒事は御免だと、言ったばかりじゃぞ、ミルナ」

( ゚д゚)「職人としての本分だろう」
 _、_
( ,_ノ` )「ワシは、才のないやつに自分のアルファベットを持たれるのが、嫌いなんじゃ」

 その性格は熟知していた。
 シブサワは、自分の実力を高めてくれるような相手でなければ、アルファベットを作らない。

 だからベルのWもすぐに製作したのだ。
 国籍は関係ない。アルファベットに優れてさえいればいい。
 そんな考え方を持っていた。
180 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:49:00.40 ID:cMy6UIjl0
 実際、オオカミの大将として頼んでいたときも、作ってもらえた将校はごく僅かだった。
 将校となれば誰でもツンに作ってもらえる、というヴィップが羨ましかったものだ。
 _、_
( ,_ノ` )「お前には期待しておったんじゃがのう、ミルナ。
    きっとZまでいってくれると」

( ゚д゚)「期待に応えられていないのは、悪いと思っているさ」
 _、_
( ,_ノ` )「今後も、成長する見込みはあるか?」

( ゚д゚)「やってみんことには、分からんな」

 とは言え、自分も既に四十六だ。
 必ずZまで到達する、と言えるはずもない。
 シブサワも期待していないだろう。

( ゚д゚)「WかXくらいまでは、確実に到達できると思っているんだが」
 _、_
( ,_ノ` )「一般的に、五十前後になると全く成長しなくなる、と聞く」

( ゚д゚)「個人差があるだろう。ベルは四十九でWに達した」
 _、_
( ,_ノ` )「あれは、化け物じゃ。先例として用いるべきではない」

( ゚д゚)「そうかも知れんな」
187 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:50:57.20 ID:cMy6UIjl0
 _、_
( ,_ノ` )「お前ももう五十に近いじゃろう。今までの誼があるから、作ってやらんことはないが」

( ゚д゚)「自分を高みに導くような将に持ってもらいたい、ということか」
 _、_
( ,_ノ` )「うむ」

 シブサワの目標は、アルファベットZの作成だろう。
 昔はツンを追い抜くことを目標にしていた。しかし、結局上回れないまま、ツンは死んでしまったのだ。
 今でも悔しさは残っているだろう。だからせめて、追いつきたいのだ、と見えた。

 だったら、話は早い。

( ゚д゚)「ブーン=トロッソという将がいる、シブサワ」
 _、_
( ,_ノ` )「名は知っておる。ショボンに次ぐアルファベット使いじゃな」

( ゚д゚)「本当はここに伴いたかったんだが、先の戦で大敗してな。
   今、戦後処理に追われている。だから俺が代理で言うが」
 _、_
( ,_ノ` )「ブーンのアルファベットを作ってほしい、か?」

( ゚д゚)「あぁ」
 _、_
( ,_ノ` )「それなら構わん。こっちから願いたいくらいじゃ」

 思惑どおりだ。
 シブサワは、意地が悪いわけではない。ただ、優れたアルファベット使いを探しているだけなのだ。
 そしてそれなら、こちらにも手がある。
193 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:53:11.49 ID:cMy6UIjl0
( ゚д゚)「だがシブサワ、困ったことに」
 _、_
( ,_ノ` )「ん?」

( ゚д゚)「ブーンは心優しい将でな。自分だけが優秀なアルファベットを持つことを、是としないんだ」

 あくまで自分の予想だが、間違ってはいないはずだ。
 もしブーンがこの場にいたら、同じことを言うだろう。
 _、_
( ,_ノ` )「つまり……他の将校のアルファベットも作れ、ということか?」

( ゚д゚)「ブーンは、それを望んでいる」
 _、_
( ,_ノ` )「厄介な男じゃのう。珍しいタイプじゃ」

( ゚д゚)「大将らしくないところが、大将らしい。そんな男だ」
 _、_
( ,_ノ` )「見たことない形の大将じゃな。さて……」

 背凭れを軋ませ、シブサワが考え始めた。
 思い悩むのは当然だろう。Zに到達する、という見込みがなければ、作りたがらない男だ。
 無論、将校の中には、Sの壁突破さえ危ういやつが何人もいる。

( ゚д゚)「はっきり言おう、シブサワ。ヴィップの中でZに到達できるとしたら、ブーン以外にはいない」
 _、_
( ,_ノ` )「……それを聞いて、余計イヤになったんじゃが」
204 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:55:27.84 ID:cMy6UIjl0
( ゚д゚)「だが、ブーンに作らないのであれば、もうZを作る機会はあるまい。
    他に見込みのあるやつが、いないのだからな」
 _、_
( ,_ノ` )「むぅ……なるほど」

 駆け引きだった。
 お互い、譲れない線の前に立っている。
 どちらかが譲歩しない限り、この戦いは終わらない。

 シブサワが、また杯を呷った。
 卓に置いた音が、軽い。飲み干してしまったようだ。
 _、_
( ,_ノ` )「……よし、分かった」

 シブサワが、卓の下から箱を取り出した。
 依頼書を受ける木箱だ。
 _、_
( ,_ノ` )「ヴィップ軍将校のアルファベットを、作ってやろう。
    ブーン=トロッソのためにな」

( ゚д゚)「助かる、シブサワ」

 胸を撫で下ろせた。
 これで、将校のアルファベットは何とかなる。
 _、_
( ,_ノ` )「まずはお前のアルファベットか。Vだな」

( ゚д゚)「Wも作ってくれ。ブーンはもう、Vを超えるはずだ」
216 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 00:58:37.90 ID:cMy6UIjl0
 シャッフル城を発つ前夜、ブーンが屋上で一心不乱にアルファベットを振るっていた。
 悲しみを、振り払うように。

 Vに上がってから、まだ多くの時間は経っていないだろう。
 だが、あの気迫ならば、すぐに超えてくれると思える。
 _、_
( ,_ノ` )「それとな、ミルナ」

( ゚д゚)「なんだ?」
 _、_
( ,_ノ` )「できれば、この小屋から移動したい」

 その発言には、驚かされた。
 今まで頑なに動こうとしなかった場所から、動くというのだ。
 何の心変わりか。

( ゚д゚)「どういうことだ?」
 _、_
( ,_ノ` )「ここからでは、ヴィップの将校に渡すのは不便じゃろう。
     オオカミの将に渡すときはここで良かったが」

 それは、確かにそうだった。
 ここはオオカミ城に近い。だから、三日でアルファベットが消えることも気にしないで良かった。
 が、ヴィップ軍の将校に渡すとなると、そうはいかない。
 _、_
( ,_ノ` )「それに、ツン=デレートの件もあるしのう……」

( ゚д゚)「ッ……」
228 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 01:00:50.52 ID:cMy6UIjl0
 ツンは、殺された。
 ラウンジによって、暗殺された。
 優れたアルファベット職人であったが故に、だ。

 いかにアルファベットに優れているとは言え、ショボンのを作ろうとしない理由は、そこにある。
 シブサワにとって好敵手であったツンを、ショボンは殺しているのだ。
 さすがに人間的な感情が働いたようだった。

 シブサワは、命が惜しいわけではないだろう。
 ただ、Zを作れないまま果てるのが我慢ならないのだ。
 ツンに追いつけないままでは、悔いが残る、と考えているのだ。
 _、_
( ,_ノ` )「お城暮らしであろうと我慢しよう。アルファベットを作れる環境があれば良いのじゃ」

( ゚д゚)「それなら、何も問題ないさ」

 職人を城で保護できるのは、国としてもありがたい。
 この山には盤石の仕掛けを施してあるが、やはり一抹の不安は拭えないのだ。
 ブーンも、城に来てくれると知ったら喜ぶだろう。

( ゚д゚)「今晩はここに泊って、明日出立。それでいいか?」
 _、_
( ,_ノ` )「うむ」

( ゚д゚)「じゃあ、飯を食おう。いい肉を買ってきたんだ」

 外で待たせていた兵も中に入れ、皆で夕食を囲んだ。
 あの店主が言っていたとおり、塩を塗して食うと絶品だった。
245 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 01:03:17.55 ID:cMy6UIjl0
 アルファベット職人を、無事に得ることができた。
 あと、この近辺で為すべきことは――――

( ゚д゚)(……老医、か……)

 頭の中に地図を思い浮かべながら、シブサワの出立準備を手伝った。



――カノン城・北――

 一方的な戦になりつつあった。

 機先を制したのはラウンジだ。
 可動式の櫓から、ヴィップの鉄槍を潰した。

 ショボンから話に聞いていただけだったが、予想どおりだった。
 発射台は遠くにあったものの、頑強な造りではなかった。

(´・ω・`)「まったく、大将をそんな風に使うとは」

 ショボンは皮肉のようにそう言ったが、嬉しそうにも見えた。
 これで鉄槍を潰せる、と確信したのだろう。

 カノン城からのDも、Mも、鉄槍も、全て届かない位置。
 そこから、ショボンは構えた。

 アルファベットW。
260 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 01:05:12.49 ID:cMy6UIjl0
 発射台を次々に破壊していった。
 無論、ヴィップの抵抗はあった。Fを防ごうとして前に立ちはだかったりもしてきた。
 が、Wの前では、I以下のアルファベットなど何の意味も成さない。

 充分な飛距離と威力を持つWなら、発射台を潰すことは可能だと見ていた。
 思惑どおりにいくかどうか、多少なり不安もあったが、これで確信が持てた。
 この戦、必ず勝てると。

 夏の日差しが、十二万の人影と、四万五千の人影を作っている。
 そして、影は交わる。

 正面から、堂々と攻め込んだ。
 こちらは大軍だ。力を見せつけてやるのが一番いい。
 ヴィップ軍を、押し潰してやる。

( ’ t ’ )(……そんな陣じゃ、ラウンジの攻撃は防げないぞ、ニダー=ラングラー)

 ヴィップは鶴翼を敷いてきた。
 どうやら、鉄槍と城壁にいるD隊を頼りにしていたらしい。
 寡兵である以上、危険の少ない兵に力を与えるのは当然だった。

 ヴィップのD隊は、こちらのM隊から潰されないよう考慮されていた。
 シャッフル城のように、女墻という小さな穴からFを射てくるのだ。
 だが、こちらも対策を考えなかったわけではない。

 M隊にはとにかく穴を狙えと言ってある。
 上手く射れるかどうかは分からない。が、射れなくともいい。
 牽制でも効果はある。
277 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 01:07:12.01 ID:cMy6UIjl0
 それに加え、ラウンジは俊敏に攻め込んだ。
 敵軍と刃を交えた状態では、弓状アルファベットは使えない。
 実際、今はもう、D隊の役割がほとんど死んでいた。

 休まずに攻め込む。
 ショボンの騎馬隊も、後ろから加わった。
 指で摘むように、軽々と敵兵を討ち取っていく。

 ヴィップの鶴翼が、乱れはじめた。
 左翼と右翼が、中核から離れていっているのだ。
 そして中核も、追うように離散していく。

 カノン城への道が、開いた。

( ’ t ’ )「前進!」

 歩兵を前に出して、駆けゆく。
 城門までの道を塞ぐものは、何もない。

 できれば、もっと楽しみたかった。
 鎬を削るような戦がしたかった。

 しかし、ヴィップがあまりに不甲斐ない。
 こちらのほうが圧倒的な大軍だ。だから、当然の結果とも言える。
 圧勝して当然の戦。

 だから、こんな見え見えの罠に嵌まるわけにはいかないのだ。

( ’ t ’ )「鉦を!」
292 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 01:10:01.08 ID:cMy6UIjl0
 即座に鉦が打ち鳴らされる。
 ラウンジの歩兵が、左右に分かれ、乱れた鶴翼を追った。

 城門の前、地中から、多数の槍が飛び出してきた。
 話に聞いたことがある。モナーが開発したという罠だ。
 騎馬隊を討つのに、特に有効だという。

 あと数拍遅れていたら、罠の餌食になっていただろう。
 上手くタイミングを計ることができた。

 罠は潰した。
 そして、敵軍の背後を取った。

 散々に追い、討つ。
 反転させる隙は与えない。

 北からは、攻城兵器が進んできた。
 雲梯がかかれば城内に侵入できる。

 城門にも接近させた。
 守備隊がいるが、あれを破れば破壊槌が使える。
 アルファベットよりも強大な、城門を破るための兵器だ。

 多くの攻城兵器は、アルファベットが出現するまでは大いに活躍していた。
 しかし、木製のものであれば簡単に破壊できてしまうアルファベットに、攻城兵器は抗えなくなったのだ。
 大規模であり、アルファベットで壊せないものも壊せるが、そのぶん的にもなりやすい。

 アルファベットに壊されないよう全て鉄製にすると、コストがかかり、持ち運べなくなる。
 木製の利点は解体して運搬できることだ。
 しかし、そうするとアルファベットの餌食になる。ジレンマが生じるのだ。
302 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 01:11:53.76 ID:cMy6UIjl0
 それでも、攻城兵器に使い道はあった。
 敵軍からの攻めを防いでさえいれば、敵城を落とせるのだ。
 敵が降伏しない限りは、無理やりに落とす必要がある。そのときに用いるのだ。

 敵の攻撃は防いでいる。
 このままヴィップが大人しくしていてくれれば、カノン城は落とせる。

 が、そう上手くはいかない。

<#`∀´>「ニダアアアァァァァァァァッ!!」

 雄叫びをあげている。
 ヴィップ軍中将の、ニダー=ラングラー。

 アルファベットTを、猛然と振るっていた。
 ラウンジ兵の打ち倒されていく様が見える。

 早めに封じないと、被害が拡大する。
 たった一人でも大勢の兵を討ち取れる力が、ニダーにはある。
 この城を守りたいとする気持ちが、力を増幅させているのだ。

 だが、不安はなかった。

( ’ t ’ )(……よし)

 自分の隊が下がったことにより、後方の部隊は右方に逸れた。
 それにより、ニダーの部隊へ近づいた騎馬隊がある。
 ショボンの、近衛騎兵隊だ。
316 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 01:13:53.08 ID:cMy6UIjl0
 ニダーもさすがに大人しくなった。
 いったん下がって、機を伺おうという姿勢だろう。
 だが、それは後手だ。

 もう、城門は既に叩いている。
 カノン城は、防備に優れているとは言えない。ニダーらに強化されたとしてもだ。
 城門の強度も、大したことはないはずだった。

 衝突音が、城門から半里ほど離れたこの場所にも響いてきた。
 破壊槌を使うのは久方ぶりだが、不備はないようだ。

 やがて、城門のほうから大声が上がった。
 門が開いたのだ、と分かった。

 即座に、伝令が入る。
 城門は確かに開いた。しかし、無理やりに開けたわけではない、と。
 ヴィップのほうから開けてきたのだと。

 迎え撃ってきたのだ。
 あえて門を開け、こちらの軍を撃滅しにきた。

 それも、想定していた範囲内だ。
 破壊槌での城門破りを優先させながら、アルファベットを握ることも徹底させていた。
 突然、敵軍が門の向こうから攻め込んできたとしても、対抗できるように。

 また伝令が入った。
 ヴィップ軍の急襲を防ぎ、城内に侵入したという報せだった。

 何度も何度も鉦が鳴る。
 ヴィップ軍が、撤退していく。
329 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 01:15:46.96 ID:cMy6UIjl0
 城の南門から、既にヴィップ兵が逃げ出しているという。
 野戦をおこなっていた部隊も、背中を見せた。
 ショボンは機敏に動き、討てるだけを討っている。

 五里ほどの追撃を終え、ショボンは引き返してきた。
 あまり深く追いすぎた場合、万一、罠にかかると抜け出せなくなる。
 そういった確実性も攻城戦では考慮すべきだ。

(´・ω・`)「上々だな」

 ショボンが、擲った。
 僅かに血を撒き散らしながら、転がる。
 エクスト=プラズマンの首だ。

 将校を一人討った。
 更に、城も奪った。
 誰からも文句はつかない、大勝だった。

 城内に罠がないことを充分に確認してから、兵を入城させた。
 一部はすぐにラウンジ城へ送り返す。この城の守兵は、二万か三万で充分だろう。
 ラウンジ城が近くにあるためだ。

 カノン城戦が、終わった。
 満足のいく戦だった。

 やはり、自分とショボンの組み合わせは、最強だ。
 穴がない。危なげがない。
 二人が組んで一つずつ城を狙っていけば、ラウンジの天下は成る。
358 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 01:17:47.64 ID:cMy6UIjl0
 確信だ。
 今まで、曖昧で分からなかったものが、やっとわかった。

 ショボンと共に戦うことを決心して、良かった。
 ずっと思い悩んでいた、正体の見えなかったものが、見えたのだ。
 心が、晴れやかになっていた。

(´・ω・`)「カルリナ、よくやってくれた」

 城内に入ったあと、ショボンから労いの言葉を貰った。

(´・ω・`)「お前がいてくれて良かった。心からそう思う。
      お前がいれば、俺の力は何倍にもなる」

 兵たちは皆、獅子奮迅の活躍を見せたショボンを称えた。
 自分も、ショボンの力の凄まじさは、心から称賛できた。

(´・ω・`)「ラウンジの天下は近い。もう、何も恐れるものはない。
      クラウン国王の、そして俺達の悲願は、遠くないぞ」

( ’ t ’ )「はい」

 いい戦だった。
 自分で、そう思えた。

 きっと、ラウンジは天下へ向かうだろう。
 クラウンが国王で、ショボンが大将の、ラウンジ国は。

 天下へと、邁進するだろう。
365 :第94話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/25(月) 01:18:28.43 ID:cMy6UIjl0
 自分の中の楔は、抜けた。
 靄がかっていたものの正体は、見抜いた。

 すべて、分かった。

(´・ω・`)「ともにゆこう、カルリナ。ともに、ラウンジの覇道を歩もう」

 ――――分かったのだ。

( ’ t ’ )「はい」

 ――――自分は、この国にいるべきではない、と。















 第94話 終わり

     〜to be continued

戻る

inserted by FC2 system