5 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:35:15.78 ID:5tb6Rp/c0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:オオカミ城とオリンシス城の中間地点

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
46歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:オオカミ城とオリンシス城の中間地点

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:カノン城
12 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:36:18.27 ID:5tb6Rp/c0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:カノン城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:O
現在地:オオカミ城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城
14 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:37:17.83 ID:5tb6Rp/c0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:カノン城

●プー゚)フ エクスト=プラズマン
32歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:カノン城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
24歳 ミルナ中将配下部隊長
使用可能アルファベット:K
現在地:ウタワレ城
20 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:38:08.21 ID:5tb6Rp/c0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:ビロード/ベルベット/アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/エクスト
少尉:

(佐官級は存在しません)
24 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:39:07.32 ID:5tb6Rp/c0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:ルシファー
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ/カルリナ
Q:
R:プギャー/ベルベット/フサギコ
S:ニダー/ファルロ/ギルバード
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
27 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:39:47.78 ID:5tb6Rp/c0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

 

34 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:40:55.00 ID:5tb6Rp/c0
【第92話 : Joint】


――オオカミ城とオリンシス城の中間地点――

 できる限り早く、シャッフル城へ。
 ラウンジが準備を進めているはずだ。猶予はない。
 五千の兵と共に、直走っていた。

 率いてきたのは全て騎兵だ。
 進軍速度は悪くない。
 馬を潰さず駆ける注意だけは忘れないようにしていた。

( ゚д゚)「ブーン、どうする?」

( ^ω^)「何がですお?」

 隣に馬を並べてきたミルナ。
 かなりの長駆になっているが、汗ひとつ掻いていない。
 さすがに行軍には慣れたもののようだった。

( ゚д゚)「お前が切望していた、アルファベット職人だ。この近くに住んでいる」

( ^ω^)「ッ……!」

( ゚д゚)「会うだけなら、大して時間はかからんと思うが」

 今は、一刻を争う事態だ。
 しかし、優れたアルファベット職人を得るのも、また大事だった。
48 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:43:30.86 ID:5tb6Rp/c0
 難しいところだ。
 が、悩むことはなかった。

( ^ω^)「シャッフル城へ、このまま向かいますお」

( ゚д゚)「いいのか? また後でとなると、二度手間だが」

( ^ω^)「今は戦を優先すべきと思いますお」

 ミルナ自身は、少しだけ時間を割いて、職人に会ったほうがいい、と考えているようだ。
 しかし、その僅かな時が勝敗を左右するかも知れない。
 そう考えると、やはり自分は大将として、戦場に駆けつけるべきなのだと思う。

( ゚д゚)「そうか、分かった。だが、ひとつだけ」

( ^ω^)「なんですかお?」

( ゚д゚)「オオカミにいたときから連れ添っているやつが二人いる。
    その二人を、職人の許へ向かわせたい」

( ^ω^)「接触しておく、ということですかお?」

( ゚д゚)「あぁ。そのほうが、後々やりやすいだろう」

( ^ω^)「是非お願いしますお」

 ミルナの背後から、瞬時に二人の兵が離反した。
 素早く反転し、南へと駆けていく。
56 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:45:44.55 ID:5tb6Rp/c0
 ミルナにのみ忠誠を誓った兵なのだろう。
 他のヴィップ兵とは、やはり有する空気が違っていた。

( ^ω^)「……少し、進軍速度を上げますお」

 手綱を力強く握った。
 引き締め、大腿に力を込め、馬は加速していく。

 まずはオリンシス城に入って、またすぐにシャッフル城へ向かう。
 そして、ショボンらと戦うのだ。

 ショボンとは、これが、初めての戦いになる。



――フェイト城――

 あまり時をかけたくなかった。
 だから、戦の準備も併行していた。

 後ろから追うように次々と兵糧が送られてくる。
 コードギアス城やリリカル城といった城からも物資をかき集めた。

 文官には多くの苦労をかけた。
 輜重兵も全身に汗をかいて働いている。

 しかし、穴はない。
 戦の準備が整うまでに、不備はないはずだ。
63 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:47:50.20 ID:5tb6Rp/c0
 シャッフル城攻略戦。
 ラウンジは、十五万の兵でそれに臨む。
 ひとつの城を攻める兵力としては、過去最大となる。

(´・ω・`)「城外に並べてみたいものだな。きっと、壮観だろう」

( ’ t ’ )「えぇ」

 カルリナの相槌が返ってくる。
 それだけで、僅かばかりの安堵を覚える自分がいる。

( ’ t ’ )「数日後には、並べることができるでしょう」

(´・ω・`)「あぁ、楽しみだ」

 屋上から、景色を眺望していた。
 今は数千の兵がいるだけだ。それでも、調練の音が聞こえてくる。
 これが、何十倍にも膨らむのだ。想像しただけで高揚してくる。

(´・ω・`)「本当は二十万を使いたかった。それだけあれば、どうやっても城を落とせる」

( ’ t ’ )「しかし、兵糧が厳しいですね」

(´・ω・`)「戦が続いているからな。これが終わったら、カノン城を攻めたいところなんだが、兵糧がな」

( ’ t ’ )「ミーナ城とヒトヒラ城にも兵を割く必要があります。二十万は、やはり難しいですね」

(´・ω・`)「まぁ、十五万でも圧勝する自信はある」

( ’ t ’ )「私もです」
68 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:49:45.19 ID:5tb6Rp/c0
 ヒトヒラ城とミーナ城には、それぞれ二万の兵を置いた。
 篭城すれば、一ヶ月は保つだけの兵糧もある。

 守っているのはアルタイムとギルバード。それぞれ中将だ。
 ヴィップが攻めてくるとは思えないが、念入りに警戒した。

 フェイト城から四万の兵が発ち、十六万となった。
 城を守るのに一万の兵を残す。だから攻め手は十五万だ。
 ヴィップの倍以上の兵数。これで負けようものなら、国内からの批判は免れない。

 そんな心配を抱えているわけではなかった。
 何といっても、隣にいるのはカルリナ=ラーラスだ。
 ベルが才を見込み、自身の手で育て上げた智将。その力は戦績によって証明されている。

 自分は、猛将と呼ばれることが多かった。
 知略もないわけではないが、やはり注目されるのはアルファベットZだ。
 つまり、カルリナとの組み合わせは、猛勇と英知の融合だった。

 上手く嵌まるかは分からない。
 戦ってみれば存外、馬が合わないかも知れない。
 だが、楽しみだった。

 自分の力を何倍にも引き上げてくれる。
 カルリナには、そんな性質がある。
 勝手に、そう考えていた。

(´・ω・`)「具体的な戦についての展望だが」

( ’ t ’ )「頭の中には、あります」
72 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:51:53.30 ID:5tb6Rp/c0
(´・ω・`)「誰を想定している?」

( ’ t ’ )「とりあえずは、ベルベットです。侮れません」

(´・ω・`)「モララーの代役として活躍しているな。武将としての気質が似ている」

( ’ t ’ )「モララーほどの柔軟性はない、とも聞きますが」

(´・ω・`)「確かに、モララーは犀利さばかりが際立つが、驚くほど考えや姿勢が柔らかい。
      あの柔軟性がモララーの鋭さを支えているんだろうな」

(´・ω・`)「一方のベルベットは、お前の言うとおり固さがある。
      かなり深いところまで見ているが、視野の広さに欠けているな。
      俺がヴィップにいたときは、ビロードと組み合わせるのが面白いと思っていたが」

(´・ω・`)「だが、一点のみに集中すればベルベットは恐ろしいほどの力を発揮する。
      これは確かに侮れない。ブーンかミルナあたりが上につけば、最高の副将となるだろう」

( ’ t ’ )「気質が似ている、とはそういうことですか」

(´・ω・`)「あぁ。二人とも副将という地位が最も適している」

 ヴィップで過ごした時間のなか、最も長く語り合ったのはモララーだ。
 自分の正体を知っていたプギャーよりも、はるかに多くの時間を共有した。
 共に立った戦場の数も、群を抜いて多い。

 モララーの考えに触れることで成長できた部分もあった。
 下から押し上げられるように、アルファベットも成長できた。
 ヴィップの軍を指揮した自分がオオカミを潰せたのは、モララーによるところがかなり大きい。
78 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:53:56.52 ID:5tb6Rp/c0
 そのモララーの、代わりなどいない。
 いないだろうが、ベルベットはかなり近いところまで迫っていた。
 このまま成長させれば厄介なことになるだろう。できれば、この戦で討ち取りたかった。

 他にも、シャッフル城にはサスガ兄弟がいる。
 属城との連携で二人に動かれると、面倒だった。側面や背後を突かれかねない。

 南のオリンシス城から援軍も動いている。
 最終的には、ヴィップも七万か八万ほどの軍勢になるだろう。
 ラウンジは倍数で挑むことになる。

(´・ω・`)「ブーンが戻ってくるまでに、城を奪いたいところだ」

( ’ t ’ )「そうですね。オオカミ城からミルナを伴ってくる可能性もありますし」

(´・ω・`)「準備を進めようか」

 戦の詳細については、これから詰めていけばいい。
 お互い、既に構想はある。それを複合させるだけでいいのだ。
 陣容が固まっているのだから、二人の思いが大きく外れていることはないだろう。

 背中に風を受けながら、二人で屋内へと戻った。



――ヴィップ城――

 最近、起きたときに寝汗を感じることが多くなっていた。
 侍女や従者は薄着になっている。太陽の日差しも強まっているように感じる。
84 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:56:03.95 ID:5tb6Rp/c0
 夏の到来。
 ショボンの裏切りから、もう半年が経っていた。

( ・∀・)「水くれ、水」

 侍女に言いつけ、持ってこさせた。
 ガラスの器に、なみなみと注がれている。
 少しずつ口に含んで、口中の粘り気を取り払った。

 腕は軽く動くようになっていた。
 以前と感覚は違うが、骨を折ったため仕方がない。
 これから戻していけばいいだけの話だ。

( ・∀・)「ぷはー」

 空になった器を侍女に渡した。
 眠気はまだ少し残っている。だが、今日も暇な一日が始まる。
 もどかしい一日が、始まる。

 仕事は多くあった。
 今、ほとんどの将校が出払って戦っている。
 ヴィップ城に残っているのは、自分と、病を得ているジョルジュだけだ。

 戦える者は皆、戦っている。
 そうでなければ、ラウンジには抗えないからだ。
 勝てないからだ。

( ・∀・)「くっそー」
93 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 00:58:03.45 ID:5tb6Rp/c0
 悔しさで声が漏れることも増えた。
 国の大事に、自分は部屋での仕事しかできない。
 軍人としての本分を果たせないでいる。

 戦いたい。
 戦場に、立ちたい。
 アルファベットを振るいたい。

 毎日、そう思っていた。
 起床してから、就寝するまで。
 いや、夢の中でさえも。

( ・∀・)「持ってってくれ」

 目を通した書類を従者に渡す。
 文官が書いた、今秋の収穫の見通しだ。
 国が管理している農地による分のみの試算。

 兵糧はかなり辛い。
 このまま戦い続けると、保てなくなるかも知れない。

 先日までそう思っていたが、ミルナらの活躍があった。
 巧みにオオカミ城とウタワレ城を奪い、一気に領土を増したのだ。
 あのあたりは人口も多い。税収は大幅に上がるだろう。

 その調査も行わせる必要があった。
 ミルナなら既に文官に命じているかも知れないが、自分からも指令を出すべきだろう。
 不備があってはならない。
104 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:00:42.00 ID:5tb6Rp/c0
 二城を得たことで兵糧の不足は解消されそうだが、今後の展開によっては分からない。
 ラウンジがどこまで連戦を続けてくるか、によるだろう。

 ラウンジは今、二十五万を超える兵を抱えているという。
 年間、必要となる兵糧も膨大だ。
 十万規模で軍を動かせば、一ヶ月の滞在でさえ目も眩むような量を要するだろう。

 ラウンジも際どいところを歩いているはずだ。
 お互いに、厳しい戦いとなっている。

 それでも戦う理由は、人それぞれだ。
 単純に勝ちたいと思う兵もいれば、恨み辛みによって動いている兵もいるだろう。
 無論、自国を天下に導きたいと思っている兵も多い。

 ひとつだけ確かなのは、それぞれに戦う理由を抱えているということだ。
 でなければ、とうに戦場から逃げ出しているだろう。
 命を賭するだけの理由が、実に多種多様な形で存在している。

 自分とて、そうだ。

( ・∀・)「これも頼む」

 漁師から買い取っている魚介類についての報告書に目を通した。
 互いにとって適切な値段でやりとりすることが、国家にとっては大事だ。
 漁師と国軍。どちらか一方が得したところで意味はない。

 次に回されてきたのは、馬についての調査書だった。
 依然として不足しているが、これは仕方がなかった。
 無理に増やせるものではない。
109 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:02:39.36 ID:5tb6Rp/c0
 手を尽くしているが、戦のたびに馬は失う。
 敵から奪えるぶんもあるが、慢性的な不足は解消できないのだ。
 ラウンジとて同じだろう。自然と増えるのを待つしかなかった。

 牧場から馬が送られてきても、そのあと調練を施す必要がある。
 干戈の声や鉦の音に驚いて逃げ出すようでは困るからだ。
 戦場に出す前に、何度も何度も大きな音に慣れさせなければならない。

 そういった調練は、上手くやってくれる兵がいた。
 年間、数千や数万といった単位で馬は増える。
 そのたびに調練を行うのだから、手馴れる者がいるのも当然だった。

( ・∀・)(馬の買値がちょっと高いか?)

 筆を用意させ、空白に走り書きする。
 国軍が危急の事態に陥っているため、多少値が上がるのは仕方ないが、それにしても高いという気がする。
 弱みに付け込むような商売を、安易に許すわけにはいかない。

 互いに緊張感を持って取引すべきだ。
 その先にこそ、流通や市場の活性化は存在する。

 そうやって国は繁栄していくのだ。

( ・∀・)「……はぁ」

 書類を投げた。
 紐で束ねられているため散らばることはない。
 が、自分では手が届かないところへ行ってしまった。
116 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:04:33.21 ID:5tb6Rp/c0
 国の繁栄を考えるのは大事なことだ。
 今、アラマキ皇帝の容態が思っていたより芳しくない。
 快方に向かってくれるのを願っているが、国について考えるのは、自分の仕事になっていた。

 無理なことだとは分かっている。
 分かっているが、思ってしまう。
 できれば、戦のことだけを考えたいと。

 自分は、戦に生きている男だ。
 ヴィップの天下を望んでいる。戦を終わらせるために、戦っている。
 だからこそ、戦について飽きるほど考えたい。

 それが、できない。
 今の自分には、できないのだ。

 正確には、考えたところで行動できない。
 窮境に喘ぐヴィップを、希望の満ちる方向へ導く術を、思考するまでしか許されないのだ。
 もどかしさの原因は、そこにあった。

 ブーンはいい大将になるだろう。
 お世辞にも頼りがいがあるとはまだ言えないが、兵卒から慕われている。
 親しみやすい大将となり、軍内に自然と協調性を生み出すはずだ。

 それを、支えたい。
 自分の考えを伝えるだけではなく、実行も伴わせて。
122 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:06:40.67 ID:5tb6Rp/c0
 逸る気持ちはあったが、焦ったところで怪我が治るわけではなかった。
 完治にはまだ時間がかかりそうだが、無理せずに回復させることが大事だ。
 自分の力は、ヴィップにとって欠かせないものとなっているのだ。

 とにかく今は、やれることをやるしかなかった。

( ・∀・)「おーい、誰かこれ頼む」

 先ほど投げた書類を、従者に拾わせた。
 すぐに従者は部屋を出て行く。

 いつの間にか、自室内の人間はほとんどいなくなっていた。

 夕刻、夏の日差しは柔らかくなり、しかし部屋の深くにまで入り込んでいる。
 眩しさに目が痛くなり、瞼を軽く閉じた。
 眠気はない。このまま閉じつづけていても、眠りに落ちることはないだろう。

「失礼します」

( ・∀・)「ん?」

 聞き覚えのない声だった。
 寝室の扉の向こうに立っているようだ。

 扉が開かれた。
 向こう側にいたのは、湯気の立つ器を盆に載せ、運んできた侍女。
 ただ、やはり見覚えのない顔だった。

リ|*‘ヮ‘)|「薬湯をお持ちしました」
132 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:08:36.80 ID:5tb6Rp/c0
( ・∀・)「そうか」

 毎日、疲労を取るために薬湯を飲んでいた。
 身体を動かしていないため、体力は衰えている。
 それでも執務をこなすために、薬湯で補っているのだ。

 どの程度効果があるのかは分からない。
 しかし、疲労が取れるのだ、と思うと、不思議と身体が軽くなる。
 自分の思い込みでも、何でも良かった。大事なのは結果だ。

( ・∀・)「見たことねー顔だが?」

リ|*‘ヮ‘)|「あ、実は私、モララー様の侍女ではなくて」

( ・∀・)「ん?」

 薬湯を受け取って、器を傾けた。
 一応匂いを嗅いだが、特に変わりはないようだ。

リ|*‘ヮ‘)|「人手が足りないとのことで、こちらの補佐官様から請われまして、隣から」

( ・∀・)「ブーンの侍女か。名は?」

リ|*‘ヮ‘)|「セリオットと申します」

 やはり、聞き覚えはない。
 声も、名も。
148 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:10:40.54 ID:5tb6Rp/c0
 だが、心当たりはあった。
 ツン=デレートしか見えていなかった、そして今も引きずっているであろうブーンが雇っているのだ。
 何か事情があったためだろう。

 そうなると、素性は知れていた。

( ・∀・)「あれだろ? 元々、プギャーの侍女やってたっていう」

リ|*‘ヮ‘)|「あ、はい。仰るとおりです」

 やはり、そうだった。
 プギャーが裏切った際、自室に数人の侍女が残された。
 多くは実家に戻ったそうだが、身寄りのない侍女をブーンが引き取ったという話は聞いたことがあった。

( ・∀・)「いかにもブーンらしいな。自分で引き取っちまうあたりが」

リ|*‘ヮ‘)|「ブーン様には、どれほど感謝を述べても足りません」

( ・∀・)「プギャーについてはどう思ってんだ?」

 不意な切り返しに、一瞬、動揺が見えた。
 揺らぎを炙り出したつもりはないが、結果的にそうなった。

リ|*‘ -‘)|「……もう、あまり思い出さないようにしています」

( ・∀・)「裏切る前には、何も聞いてなかったのか?」

リ|*‘ -‘)|「はい……」
156 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:12:40.94 ID:5tb6Rp/c0
 嘘ではない、という気がする。
 ただ、頭がひどくぼんやりとして、上手く思考が働かない。

( ・∀・)「プギャーは、どんなやつだった?」

リ|*‘ -‘)|「とても、優しいお方でした。何か失敗しても、叱らずに慰めてくださって……」

( ・∀・)「ふぅん」

 自分には、いまいち想像がつかない。
 プギャーの優しげな表情など、想像したくもない。

リ|*‘ -‘)|「補佐官にはいつも厳しく接されていましたが、侍女には優しくして下さり……
     奥方もとても幸せそうでした」

 プギャーの正室がどうなったのかは知らない。
 恐らくは、故郷に帰ったのだろうと思うが、ラウンジへ行っている可能性もある。
 どちらでもよかった。

( ・∀・)「そうか。悪かったな、辛いこと思い出させて」

リ|*‘ -‘)|「いえ、私は大丈夫です。今はブーン様に、優しくしていただいています」

( ・∀・)「あぁ、心配しなくていいぞ。あいつは女慣れしてないから、とびきり優しくするだろうし」

リ|*‘ -‘)|「……ですが、私の本分を果たせていない気がして、不安もありまして……」

 短めの髪で、セリオットの表情が隠れた。
 頭が少し、前に垂れたのだ。
164 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:14:44.93 ID:5tb6Rp/c0
 セリオットの本分とは、つまり妾としての役割だろう。
 プギャーのときは当然だったことが、ブーンの許では当然でなくなる。
 その変化に対し、不安を覚えたのだと思えた。

 ブーンがセリオットにその役目を望んでいる、とは到底考えられなかった。
 確実に、ツンのことをブーンは忘れていないからだ。

 その事情を、セリオットは知らない。
 自分が教えるべきでもないのだろう。
 二人の間で解決すべき問題であって、自分にはどうしようもなかった。

( ・∀・)「ま、不安ならブーンに相談するこった。
     俺の意見としては、そのままでいいと思うとだけ言っておくが」

リ|*‘ -‘)|「そうでしょうか……?」

( ・∀・)「知らねー。でも、やれることをやってくれりゃいい。それ以上は、望むべきじゃないんだ。
     人間、誰しも分相応さ。ブーンをできる限りでいいから、支えてやってくれ。
     それが一番だ」

リ|*‘ヮ‘)|「……はい」

 ようやくセリオットに笑顔が戻った。
 笑うと、見目の美しさが増す。そういった性質の顔だ。
 ツン=デレートとは少し違う。何となく、安心できた。

( ・∀・)「あー……なんか、やけに眠いな……」

 セリオットとの会話が一段落し、仕事に戻ろうと思った。
 しかし、やけに視界がぼやけ、頭の中も白くなっていく。
180 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:16:44.31 ID:5tb6Rp/c0
 ここ最近、あまり深く眠れなかった。
 加えて今日は、仕事を多めにこなした。その二つのせいだろうか。

 そう思ったが、違った。

リ|*‘ヮ‘)|「あの、実は近頃、モララー様があまり眠れていないとの話を伺いまして」

( ・∀・)「補佐官からか?」

リ|*‘ヮ‘)|「はい。なので、よく眠れるようにと」

 匂いはいつもと変わりなかった。
 おかしなものが入っていれば、すぐに気付ける。
 それくらいの嗅覚はある。

 どうやら、少しだけ眠りを誘う薬草か何かが入っていたようだ。
 久方ぶりに、瞼が重い。

( ・∀・)「すまなかったな。俺は寝るから、下がってくれ」

リ|*‘ヮ‘)|「はい。おやすみなさい」

 セリオットが、深々と頭を下げた。
 その頭が上がり、退出するまでの短い間に、自分の意識は薄れていった。
189 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:18:48.92 ID:5tb6Rp/c0
――シャッフル城――

 地が、動いていた。

( <●><●>)「…………」

 じっと見据える。
 ただ、遠景を。

 ただ、ラウンジの進行を。

( <●><●>)(分かっていたことではありますが……)

 凄絶たる大軍だった。
 覚悟していたことでも、目の当たりにすると、やはり肌に粟が立つ。
 全軍で、十五万と伝えられていた。

 ひとつの城に対する軍としては、史上最大とも言われている。
 その城に立っている将は、自分ひとりだ。
 他には誰も居ない。たった一人で、大軍を見据えていた。

 サスガ兄弟は、属城であるシア城とリン城に留まっている。
 こちらへは来ない。そのほうが、大軍を相手にするときにはいいだろう。
 差が一万や二万なら固まっていたほうが強いが、八万もの兵力差があるのだ。

 限りなく手薄。
 これでも、今のヴィップにしては兵を集めたほうだ。
 北東のカノン城は五万だった。自分はまだ、恵まれているとさえ思える。
204 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:20:56.01 ID:5tb6Rp/c0
 しかし、ラウンジの軍勢が、カノン城のときとは違う。
 五万増え、そしてショボンとカルリナが結託している。
 事実上、最強の布陣を敷いてきたと見ていい。

 それを、迎え撃つ。
 他の誰でもない、自分が。

 様々な感情が混ざり合い、上向いたり下向いたりしている。
 だが、自分自身がぶれることはない。

 確固たる意思を、保てている。

( <●><●>)(止まりましたか)

 ラウンジの動きが、いったん止まった。
 陣を整えてから攻め込んでくるつもりだろう。
 時間は置かないはずだ。ラウンジは、他に援軍が来ることを恐れている。

 逆に、こちらとしては援軍を待ちたい。
 南からブーンが戻ってきてくれるはずだからだ。

 ミルナらが二城を奪ったことは、この戦にも大きく影響していた。
 ラウンジは南方に兵を割かざるを得ず、シャッフル城には十五万しか向けられなかったのだ。
 減った数万は、大きい。これが二十万なら抗いようもなかっただろうが、十五万なら微かな希望も見えてくる。

( <●><●>)「出ます」

 部隊長に短く伝えて、城外に出た。
 既に兵は外で構えさせている。
 城外に出すのは、四万五千だ。
210 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:22:58.44 ID:5tb6Rp/c0
 恐怖の色を露わにしている兵もいる。
 何が何でも跳ね返してやる、と考えているであろう兵もいる。

 それぞれが、内なる自分と戦いながら、ラウンジに立ち向かっているのだ。

( <●><●>)「!!」

 ラウンジが、隊を分けた。
 南へと大きく移動していく。

 およそ五万ほどだろう。
 あれは、属城を抑えるための部隊と見て間違いない。

 属城にはサスガ兄弟がいる。
 それぞれ一万を率いている。

 属城の防備は強化していた。
 この城に赴任してから、怠らずに続けていたことだ。
 ビロードに色々と教わり、倍数の相手も防衛できるようになっている。

 が、ラウンジは倍数を少し上回る数を出してきた。
 際どいところだ。サスガ兄弟は守りを得手としていない。
 上手く五万を引きつけてくれるかどうか、がシャッフル城にも関わってくる。

 こちらへ向いたのは、十万の軍。
 ラウンジ軍の旗が、夏風に煽られて翻っている。

 先頭に押し出されているのは、騎馬隊。
 あれが、ショボンの近衛騎兵隊だろうか。
 威圧感はない。後方にいるのかも知れない。
219 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:25:15.42 ID:5tb6Rp/c0
 四万五千にて、迎え撃つ。
 城外に陣を敷いたのは、圧倒的大軍に囲まれると不利だからだ。
 D隊の攻撃が届かないほど遠巻きに包囲される可能性がある。そうなると、抗いようがない。

 ラウンジは攻城兵器も用意している。
 一万や二万の犠牲を覚悟されると、どうやっても城への侵入を許してしまうのだ。
 そしてラウンジは、一万や二万を失ったところで大差ない、と考えられる兵力を持っている。

 だから、不本意だが、野戦を行うしかないのだ。
 全て、策としては下策だった。それでも、やるしかない。

( <●><●>)「じっと耐えましょう。動けば不利です」

 カノン城防衛戦で、ショボンを退けたニダーのように。
 堅陣を敷き、城壁の上からD隊を使って牽制する。

 それだけではない。
 D隊と上手く連携し、不意に射るのをやめさせ、反撃に出る手も考えている。
 そのための調練は充分に積んでいた。

 堅陣は、不動にこそ味を持っている。
 だから、反撃に出るのはあくまで最終手段だ。おまけに、時間稼ぎにしかならない。
 が、それでもいい。ブーンが到着すれば戦況はまた違った顔を見せるだろう。

 とにかく今は、ラウンジの攻めを凌ぐことだ。

( <●><●>)「……来ます」

 鉦が幾重にも打ち鳴らされていた。
 呼応して、騎馬隊が駆け出してくる。
225 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:27:28.97 ID:5tb6Rp/c0
 まずは、勢いに乗って堅陣を揺るがすつもりか。
 それならば、D隊が存分に力を発揮できる。
 格好の餌食だ。

 だが、ラウンジは騎馬隊を反転させた。
 二手に別れ、側方へと駆けていく。

 その後方から、歩兵隊が現れた。
 着実に進んでくる。
 どうやら、G隊を前に出しているようだ。

 騎馬隊の動きは撹乱狙いか。
 しかし、そんなものに惑わされて動くほど愚かではない。

 D隊にFを射させた。
 G隊で防ぎながら前進してくる。常套手段だ。
 やはり、多少の犠牲は厭わない姿勢をラウンジは見せていた。

 側方に散った騎馬隊は、そのまま側方で忙しく駆け回っていた。
 何のつもりだろうか。牽制か。
 Fの嵐が降り注いでいる今、騎馬隊は攻め込んでこられないはずだ。

( <●><●>)「ッ!」

 違う。あれは、牽制ではない。
 策を隠しているのだ。

 カノン城戦でラウンジが用いたという、可動式の櫓。
 そして、M隊。
237 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:30:00.08 ID:5tb6Rp/c0
 一斉に射込まれる。
 そこで、ひとつの余裕と、ひとつの動揺が自分のなかに生まれた。

 ラウンジの手には、既に対策を打ってあった。
 城壁のD隊には、小さな穴から射させ、向こうからの攻撃を防げるようにしてある。
 これで、D隊が封じられる恐れはない。

 だが、M隊の狙いはそちらではなかった。
 堅陣に向かって、MによるFが射られはじめたのだ。
 これは、想定していなかったわけではないが、即座に対策を出せる状況でもなかった。

 Mによる攻撃を防ぐのは、Gでは無理だ。
 J以上のアルファベットが必要になる。
 そして、壁を突破している兵は僅かしかいない。

 櫓は遠い。D隊の攻撃は届かない。
 おまけに、前方からは歩兵隊が迫っている。
 騎馬隊も体勢を整えていた。

 駄目だ、堅陣は保てない。
 ある程度維持するのは可能だが、早晩潰されるだろう。
 ならば、今すぐに諦めたほうがいい。

 相手は大軍だ。
 堅陣が潰されることも想定していた。
 動く道は、まだある。

 一気に動き出した。
 ラウンジは、微かに動揺したようだ。早めの決断が奏功した。
 D隊に攻撃停止の命令を出して、迫っていた歩兵隊に襲い掛かる。
244 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:32:12.43 ID:5tb6Rp/c0
( <●><●>)「立ちふさがるのであれば、容赦はしません」

 ラウンジのG隊に斬りこんだ。
 振るうアルファベットR。怯むラウンジ兵を蹂躙する。
 突き出し、払い、道を切り開いていく。

 一気に歩兵隊を断ち割った。
 素早く反転し、隊を二つに分け、再び攻め込む。
 歩兵隊を四つに分断した。

 いい緩衝材ができた。
 乱れに乱れた敵歩兵隊が、上手くラウンジの騎馬隊を邪魔してくれている。
 あれが立て直されるまでの間、主導権はこちらが握っていられるのだ。

 だが、悠長に構えている余裕はない。
 素早く隊を固めて、再び歩兵隊へ突っ込んだ。
 体勢の立て直しを阻害する必要がある。

 しかし、ラウンジ騎馬隊の動きは速かった。

( <●><●>)(そちらへ行くのですか)

 一気に隊を広げてきた。
 西の城門を塞ぐように構えていた自分たちの、両横へ。

 北門と南門が手薄と見たのだろう。
 そちらまでカバーできる余裕は、ヴィップにない、と。

 ――――作戦どおりだ。
254 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:34:27.18 ID:5tb6Rp/c0
 両門を手薄にすることは、最初から決めていた。
 ラウンジは是が非でも城を求めるだろう。手薄にすれば、城門を狙うのは当然だ。
 だが、そこに罠がある。

 傍目からは分からない。
 しかし、門の側は極端に地面が柔らかくなっている。
 歩兵でさえ進みにくいほどだ。騎馬兵など、駆けられようはずもない。

 泥濘しやすいこのあたりの土に、多量の水を含ませた。
 そのうえに砂と草を被せてある。ラウンジが気付くはずはない。

 馬脚を取られている間に、こちらは背後から存分に攻め込む。
 全て、作戦どおりだ。

 ――――その、はずだった。

( <●><●>)「!?」

 何故だ。
 何故、騎馬隊は城門に向かわない。

 罠に気付いたのか。
 いや、あの罠に遠目で勘付くはずはない。
272 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:36:36.63 ID:5tb6Rp/c0
 何かある、と悟ったのだろうか。
 それにしても、ラウンジは城門などまるで考えていないようだった。
 ただ、城門の方向へと駆けただけだ。そして、また反転して戻ってきた。

 思えば、ラウンジの兵は、ヴィップ軍の周りから動こうとしていない。
 攻城兵器も用意しているのに、何故か北や南、大回りして東に向かおうとはしないのだ。

 騎馬隊は不可解な動きを繰り返している。
 まるで、何かを確かめるかのように。

 いったい、ショボンやカルリナは何を考えているのだ。

( <●><●>)(……そういえば……)

 肝心の二人に、全く動きが見えない。
 どこにいるのかもまるで掴めない。
 大軍の中に埋もれてしまっている。

 だが、初めて二人が協力した戦だ。
 もっと活発に動いてくると予想していた。
 しかし、大人しい。不気味なまでに。
280 :第92話 ◆azwd/t2EpE :2008/02/18(月) 01:38:40.86 ID:5tb6Rp/c0
 不安を駆り立てられる。
 惑わしは充分に受けている。
 だが、ラウンジの動きは緩やかと言ってよかった。

 おかしい。
 この戦、何かがおかしい。

















 第92話 終わり

     〜to be continued

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