2 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:06:17.42 ID:bcMzd67N0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:オリンシス城

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
46歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:オオカミ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:カノン城
8 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:07:20.34 ID:bcMzd67N0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:カノン城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:O
現在地:オオカミ城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城
13 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:08:26.38 ID:bcMzd67N0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:カノン城

●プー゚)フ エクスト=プラズマン
32歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:カノン城

●(‐λ‐) レヴァンテイン=ジェグレフォード
24歳 ミルナ中将配下部隊長
使用可能アルファベット:L
現在地:オオカミ城

●(个△个) ルシファー=ラストフェニックス
24歳 ミルナ中将配下部隊長
使用可能アルファベット:K
現在地:???
16 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:10:02.94 ID:bcMzd67N0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:ビロード/ベルベット/アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/エクスト
少尉:

(佐官級は存在しません)
23 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:11:06.16 ID:bcMzd67N0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:ルシファー
L:ロマネスク/レヴァンテイン
M:
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ/カルリナ
Q:
R:プギャー/ベルベット/フサギコ
S:ニダー/ファルロ/ギルバード
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
26 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:12:06.15 ID:bcMzd67N0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

31 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:13:13.63 ID:bcMzd67N0
【第90話 : Handle】


――オオカミ城・三階――

 足が竦んで、体勢が崩れた。
 それが奇しくも奏功した。

 鼻先を掠めるアルファベットR。
 死が、目の前を横切った。そう思えた。
 直後、自分に圧し掛かるは、恐怖。

 そして、戦慄。

(;‐λ‐)「う、うああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 形などまるで整っていなかった。
 ただ、必死でアルファベットを突き出した。

 リディアルは後ろに飛んで躱した。
 若干の、距離。瞬間、自分の体が動いた。

 更に、距離を取るべく。
 逃げるべく。

(;‐λ‐)「ハァ、ハァ、ハァ……!!」

 武人としての、恥も外聞も捨て置いた。
 敵将に背を向け、無様な逃走を見せている。
37 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:15:18.30 ID:bcMzd67N0
 敵わない、と瞬時に悟った。
 普通に戦えば、ではない。例え、相討ち狙いであろうとも、だ。
 それさえ、リディアルは許してくれない、と悟ってしまったのだ。

 逃げは、軍人としての本能だった。
 自分ひとりでは、どうしようもないからだ。
 冷静になってここは、逃げなければならない。

 そうやって気持ちを落ち着かせようとした自分を、強烈な悪寒が襲う。

〔 `゚ 」゚〕「無様な……恥を知りなさい」

 背後に、迫る。
 リディアル=ロッド。

 振り返らなかった。
 少しでも速度を緩めれば、やられる。
 振り返ることが、できなかったのだ。

 Rのリーチは短い。
 が、リディアルの腕は長い。

 二つが組み合わさればどうなる。
 自分に届くか。それとも、躱せるか。

 頭のなかに様々な思考が去来する。

 不意を打てば、どうか。
 愚かな考えが一瞬、自分の身を包む。
 それさえ通じない、と直後、僅かばかり冷静な自分が言う。
43 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:17:27.26 ID:bcMzd67N0
 どこに逃げればいいのかなど、分からない。
 分かるはずもない。
 ここは敵地だ。味方は、たった三人しかいない。

 ――――だが、それぞれ、あまりに頼もしい味方だった。

( ゚д゚)「レヴァンテイン!」

 四階へ通ずる階段から降りてきた。
 真紅に染まったアルファベットUを携える、ミルナ=クォッチ。

 世界が、希望に満ちて見えた。
 同時に、自分の惨めさに、気付いてしまった。

 本当は最初から分かっていた、惨めさに。

( ゚д゚)「ッ……ここにいたか、リディアル」

 ミルナに気付いたリディアルの、足が止まる。
 全土屈指の将、ミルナ。しかし、リディアルに動揺はないようだった。

 むしろ、喜んでいるようにさえ見える。

〔 `゚ 」゚〕「特上の馳走が、血化粧を施して歩いてきた。
      そんな状況に対し、嬉しい気持ちと、悲しい気持ちがあります」

( ゚д゚)「下らん」

 自分に浸るリディアルを、ミルナは一蹴する。
 自分はただ、ミルナの大きな背中を見つめていた。
46 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:19:27.59 ID:bcMzd67N0
( ゚д゚)「外にいると聞いて降りてきたんだがな。あれは、惑わしか?」

〔 `゚ 」゚〕「先ほどまで外で馬を駆けさせていたのですよ。
      終わった後、しばらく城門に留まっていたのですがね」

( ゚д゚)「なるほど。窓からの視界に入らんわけだ」

〔 `゚ 」゚〕「こちらも聞きたいのですがね。私がいた城門以外は全て閉ざされていたのに、いったいどうやって」

( ゚д゚)「答える義理はないな」

〔 `゚ 」゚〕「ごもっとも。易々と教えるほど無能ではないことくらい、存じておりますよ。
      たとえ国の滅亡を防げなかった大将だとしても」

( ゚д゚)「……よほど俺に喉を貫いてもらいたいと見える」

〔 `゚ 」゚〕「やってごらんなさい。貴方の相手は、城内五千の兵ですが」

 四階から、数十人の兵が駆け下りてきた。
 止め処なく続く。更に、数十の兵。
 これでもまだ百には足りないだろう。城内には、その五十倍の兵がいるのだ。

 最初から覚悟していたことでも、目の当たりにすると、自分の全てを揺るがされる。

( ゚д゚)「なるほど。実に、お前らしい。
    自分が優位と分かると、不要なほど余裕を見せる」
54 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:21:26.05 ID:bcMzd67N0
〔 `゚ 」゚〕「私の分析などせずとも、分かることでしょう。
      この状況が、圧倒的不利ということは」

( ゚д゚)「実に、下らない」

 落ち着いている。
 見せ掛けだけではない。

 ミルナには、勝機があるのだ。
 そう思えるほど、自然な冷静さだった。

( ゚д゚)「ここにいる全員、早めに最後の言葉を考えておくことだ。
    言う暇もなく斬ってしまうかも知れんが」

〔 `゚ 」゚〕「……貴方の声には早くも飽きてしまいました。
      身体と頭を斬り離して、黙らせることにしましょう」

 二人同時に、アルファベットを構えた。
 距離はある。衝突には、ならない。
 ラウンジの兵卒もいる。

 リディアルの後ろからもラウンジ兵がやってきた。
 やはり、数人程度ではない。時間が経つにつれ増えてくる。

 自分が、自分が何とかしなければ。
 兵卒くらいは、何とか片付けなければ。

 ミルナがリディアルを討ち取ってくれる。
 自分は、それを手助けしなければならない。
56 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:23:38.18 ID:bcMzd67N0
 しかし、相反するように、握り締めたアルファベットは下がっていく。
 まるで、重石でもつけられたかのように。

( ゚д゚)「レヴァンテイン」

 重みに抗っていた自分の耳に、言葉が入ってきた。
 激情を露わにした獣を、宥めるような声。

( ゚д゚)「俺の背中を、守ってくれ」

 ふっと、腕が軽くなった。

 アルファベットを握り直し、構える。
 そして、敵を見据えた。

 やるべきことは、たったひとつ。
 ミルナ=クォッチの背中を、守り抜くこと。

 自分にしか、できないこと。

(‐λ‐)「はい!」

 無様な姿を晒した。
 醜態を見せた。

 そんな自分にも、やれることは、ある。
 ここに、ある。
68 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:26:21.50 ID:bcMzd67N0
――オオカミ城・二階――

 状況が掴めない。
 だが、たったひとつだけ確かなことがある。

 今の自分の、窮境だ。

ミ,,;゚Д゚彡(くそっ……)

 やはり、見つかってしまった。
 ひとりの兵を斬ったことにより、城内に騒ぎが起きたのだ。
 そして、警戒していた敵兵に姿を見られた。

 即座に斬ったが、もう隠れることさえできなくなった。
 次々に敵兵が沸いてくる。前からも、後ろからも。
 さほど広くない通路上で、完全に挟まれていた。

 既に三十人は斬った。
 それでも、敵兵は怯まない。
 自分の首を、何がなんでも取ろうとしてくる。

ミ,,#゚Д゚彡「うるぁ!」

 上体を捻って、二人の首を飛ばした。
 その隙を狙ってくる。後方。そして、側方。

 アルファベットを引き戻した。
 突き出されたIを破壊する。退く間を与えずに、首を取る。
 二人同時に首から血が噴き出し、自分と廊下を赤く染め上げた。
73 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:28:24.91 ID:bcMzd67N0
 既に返り血は飽きるほどに浴びている。
 独特の臭さに鼻も慣れた。
 あとは徐々に溜まる疲労さえなければ、全く問題なく戦える。

 狭い通路、というのが奏功していた。
 多数の攻撃は受けにくい。
 これなら、リーチの短いRでもアルファベットIに対抗できる。

 I如きは、まともに振るえば一撃で破壊できるアルファベットだ。
 遠くから突き出されてくるのは厄介だが、刃を合わせてしまえば問題ない。

 J以上の使い手がいると少し、苦しくなる。
 それは、囲まれた瞬間に思ったことだ。
 が、今のところは見当たらない。

 そう考えたあと、思わず舌打ちが出た。

 囲みがあろうとはっきり見える。
 アルファベット、K。
 更なる困難が、微笑みながらやってきた。

(○=∀=)「のほほほ、美味しそうな首」

 遠方からの突き出し。
 弾いた。当然、Kは破壊されない。
 一撃程度では、破壊できない。

(○=∀=)「はい、皆さん一斉にー」
81 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:30:33.94 ID:bcMzd67N0
 見覚えはない。将校ではないのだろうか。
 五千の兵がいる城だ。J以上の兵が数人いておかしくない。
 だが、よりにもよってこのタイミングとは。

 統率された動きで、次々にアルファベットが繰り出される。
 細かい動きで、Iを破壊していった。およそ、十から十五。
 必死の守りだった。

 それが終わってからの、K。
 自分の隙を、的確に突いてきた。

 際どい。
 アルファベットRを、引き上げるタイミング。
 迫るK。二つのアルファベットの距離。

 全てが、刹那の間で揺れていた。

ミ,,゚Д゚彡「ッ!!」

 だが、一閃。
 鋭く、そして重い。
 瞼を開いたときのように、光が横の線になって飛び込んできた。

 アルファベットKも、胴体ごと床に落ちた。
 自分には、届かないまま。

 敵兵にとっては、背後からの一撃だった。
 盾状アルファベットのOが、数人の敵兵を裂いて現れたのだ。

 ビロードだった。
94 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:32:45.15 ID:bcMzd67N0
( ><)「大丈夫ですか!?」

ミ,,゚Д゚彡「問題ねぇ! 助かった!」

 ビロードと二人、背中合わせ。
 磐石だ。これなら、そうそうやられることはない。
 リディアルが来ようとも充分、対抗できる。

 敵に見つかるまでは、一人での移動が最上だった。
 しかし、状況が変わった。今はとにかく、人が多いほうがいい。
 できればミルナやレヴァンテインとも合流したいところだ。

 とりあえず今は、ビロードと二人で戦う。
 この窮境を、切り抜ける。

 ビロードに肘で合図を送った。
 それだけで、良かった。

ミ,,#゚Д゚彡「おらおらぁ!!」

 切り裂く。
 首が、いくつも飛ぶ。

 突き出されるアルファベットは、腕ごと弾いた。
 視界に映るものだけに集中できる。後ろには、ビロードがいる。
 自分の動きに合わせて、動いてくれていた。

 敵兵が臆しはじめている。
 自分たちに隙はない。与えるはずもない。
 だからこその、脅えだろう。
105 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:34:56.91 ID:bcMzd67N0
 このままなら、窮地を脱出できる。
 ある程度の移動は、可能だ。
 ミルナらとの合流も成せるだろう。

ミ,,゚Д゚彡(……ん?)

 ふと、窓の外が気に掛かった。
 何かが、動いた。

 分からなかったのは一瞬だけだ。
 騎馬隊。土煙を巻き上げながら、移動している。
 間違いなく、ルシファーだ。

 さすがにラウンジの兵も気付いたようだった。
 動揺が、広がる。慌てだす。
 自分たちにとっての好機は、更に拡大していく。

ミ,,゚Д゚彡(……いや、待てよ……?)

 敵兵が動揺している間に抜け出して、ミルナとレヴァンテインを探そうと思った。
 恐らく、ビロードも同じ事を考えただろう。
 ――――しかし、だ。

 このまま一階に降り、そして城門へと向かう。
 そこで門兵たちを脅かし、あるいは討ち取り、城門を開けば。

 一千の兵を入城させられる。
 今、たった四人しかいないヴィップ軍が、一気に千人以上となる。
114 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:37:00.95 ID:bcMzd67N0
 当初の予定は、ルシファーの騎馬隊が城外でラウンジ軍を惑わし、城内の兵数を減らそうというものだった。
 しかし、自分の不手際でルシファーの到着より先に見つかってしまった。
 今のままでは、ルシファーの部隊の機能が死んでしまう。

 だが、一千の兵だ。
 使わない手は、ない。

 ここは、ルシファーの騎馬隊入城を優先するべきだ。

ミ,,゚Д゚彡「ビロード! 行くぞ!」

( ><)「はいなんです!」

 ビロードは、躊躇なく階段の方向に足を向けた。
 一階へと通じる階段だ。
 どうやら、自分とまったく同じことを考えていたらしい。

 敵兵を薙ぎ倒して進んだ。
 城外の騎馬隊の存在に怯み、戦意を喪失しつつある。
 斬って進むのは、決して難しいことではなかった。


――オオカミ城・三階――

 遠かった。
 やはり、リディアルは危険を嫌ってきた。

 絶対に自分との距離を詰めない。
 兵卒の後ろに隠れ、隙を窺っているのだ。
 長引きそうだった。
123 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:38:54.33 ID:bcMzd67N0
(#゚д゚)「ふんッ!!」

 斜めに裂いた。
 アルファベットGを前に出してきた敵兵。
 アルファベットごと、だ。

 更に振り上げ、そして横の一撃。
 次々に敵兵を討ち取っていく。
 死体が、重なっていく。

 リディアルに、隙は見せない。
 自分の背後を、レヴァンテインが守ってくれている限りは。

 レヴァンテインは自分の役割をこなしている。
 アルファベットLでは決して余裕のある戦いにはならないが、それでも果敢に振るっている。
 背中からでも、気迫を感じるほどだ。

 レヴァンテインはどうやら、リディアルと一対一で出会ってしまったらしい。
 その後、隙を見つけて逃げ出してきた、という風に感じた。
 表情が、恐怖から安堵への移ろいを露わにしていたのだ。

 よく逃げ出してくれた、と思った。
 意地を張ってその場でリディアルと一騎打ちでもしていたら、間違いなく討ち取られていただろう。
 こうやって、自分が隙を見せることもなくリディアルと相対することもできなかったはずだ。

 武人としての誇りに、傷はついたかも知れない。
 が、何も恥じることはない。
 レヴァンテインの決断は、最善だった。城を奪う、という大役を果たす上で、だ。
136 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:41:40.15 ID:bcMzd67N0
 これなら、リディアルを討ち取れる可能性は、ある。

〔 `゚ 」゚〕「無慈悲ですね。力なき兵卒を、力のみでねじ伏せるとは」

( ゚д゚)「俺に向かって喋りかける勇気はあるのか。評価を改めねばならんな」

〔 `゚ 」゚〕「……醜き力でなく、私は知略を持ってして、貴方を討ち取るとしましょう」

 リディアルが片手を挙げた。
 途端、後ろから現れ、隊列を組む兵たち。
 何をやるつもりなのかは、一目で分かった。

〔 `゚ 」゚〕「これで、ミルナ=クォッチの生も終わりです」

 アルファベットDを構える、D隊。
 そしてその背後に、I隊。

 D隊は一斉にFを番えた。
 そして、I隊はただ真っ直ぐにアルファベットを突き出している。

 D隊による遠距離攻撃。
 それを潰されないように、I隊が守る形だ。
 確かに、状態は悪くない。

 挙げられていたリディアルの片手が、下がる。

 一斉に、Fが放たれた。

〔;`゚ 」゚〕「ッ!!」
144 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:43:42.06 ID:bcMzd67N0
 連続した金属音。
 ほとんど、同時だった。
 重なって聞こえた、と感じた兵が多いだろう。

 Uを前に出し、小刻みに動かす。
 それだけで、全てを叩き落した。

 力なく落ちていくF。
 呆然とする、兵卒。そしてリディアル。

 瞬時に前へ出た。
 I隊が咄嗟にIを伸ばしてくる。
 が、横に払うだけで全て粉砕できた。

 D隊の首が、規則的に舞う。

( ゚д゚)「力なき知略は、脆いな。
    そう思わないか? リディアル=ロッド」

 Uの切っ先を、リディアルの喉元に向けた。
 大粒の汗が見てとれる。

( ゚д゚)「お前の知略は一人では活きん。誰かの力があってこそだ。
    そこが、違う。ショボンやカルリナとは……いや、アルタイムやギルバードといった将たちとも、だ」

 だからこそ、オオカミ城攻めを決意したのだ。
 一人では活きない将が、一人でいた。力なき状態で存在していた。
 攻めるには、最高のタイミングだった。
158 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:45:54.31 ID:bcMzd67N0
 今の作戦も、悪くはないが決定的に足りないものがあった。
 D隊の数。正確に言えば、同時に攻撃するためのスペースだ。
 この通路は広くない。一度にFを放てる数は限られている。

 飛んできたのは十発にも満たなかった。
 その程度なら、何度放たれようが防げる自信はある。
 リディアルは、仮にも一国の大将だった男を、少し見縊っていたようだ。

 アルファベットUを突き出した。
 G兵の腹を貫き、そのまま振り回す。
 死体からUを抜き、また左右に振った。

 背には、ぴたりとレヴァンテインがついている。
 不安はない。このまま、戦える。
 戦っていける。

 だが、決定打に欠けた。

 リディアルは後ろに隠れて、戦おうとしない。
 足元に積み重なるのは、兵卒の死骸だけだ。

 危険を極端に嫌う男だ、とは分かっていた。
 死にたくはない、という一心だろう。それはそれで、軍人としては悪くない。
 そして今の自分たちにとっては、厄介としか言いようがなかった。

 一手、必要になる。
 それさえあれば、リディアルを討ち取れる。
175 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:49:22.84 ID:bcMzd67N0
 が、いつまでも見出せないままだと、苦しいのはこちらのほうだ。
 数の圧力に抗うのも限界がある。

 このまま隙を与えず、戦いながら、模索していくしかない。


――オオカミ城・一階――

 薙ぎ倒して進んだ。
 行く手を塞ぐ兵卒。その、全てを。

ミ,,#゚Д゚彡「どけ!!」

 大きく踏み込んで、アルファベットを振り下ろす。
 首から脇にかけてを裂き、崩れる死骸を手で撥ね退けて進んだ。

 背後からは数百の兵が迫っている。
 止まってはならない。後ろを突かれるのは苦しい。
 勢いに気圧され、満足に迎撃体勢を取れていないままのラウンジ兵を、このまま蹂躙して進むのが最善だ。

 地の利がまったくないのは痛かった。
 頭のなかでルートを探って進んでいるが、咄嗟の判断はつきにくい。
 そして、ラウンジ兵は城門への最短ルートを的確に塞いでいる。

 今は怯えてくれているが、時間が経つとどうか。
 何がなんでも、という姿勢で阻止してくるかも知れない。

ミ,,゚Д゚彡「ビロード! 直進だ!」

( ><)「はいなんです!」
189 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:51:32.73 ID:bcMzd67N0
 岐路になれば必ず自分が指示を出した。
 一瞬でも迷って速度が落ちれば、致命的な事態を招きかねない。
 的確な指示は、上官である自分の役目だ。

 大通りから少し逸れた道を、ひたすら直進した。
 一度、大通りに出る必要がある。でなければ城門には到達できない。
 目下、最大の難関となりそうなのは、そこだった。

ミ,,゚Д゚彡(人は多いだろうな……)

 ただでさえ、兵卒の往来が激しいという大通り。
 今はルシファーの騎馬隊が攻め寄せてきたことによって、城門を固める動きが出ているだろう。
 数百の兵がいると考えておいたほうが良さそうだ。

 ミルナとレヴァンテインは、どこにいるのだろうか。
 俄かに、情報は入ってくる。兵たちが叫んでいるからだ。
 どうやら二人も見つかっているらしい。所在については、上のほうにいる、ということくらいしか分からない。

 一度発見されると、再び隠れるのは困難だ。
 恐らくミルナもレヴァンテインも窮地に追いやられているだろう。
 その救出のためにも、自分たちが城門を開かなければならない。

 大通りが、近くなってきた。

ミ,,゚Д゚彡「躊躇するな! 一気に城門へ近づくぞ!」

 隣で懸命に駆けるビロードに言った。
 息を切らせ、肩を上下させ、それでも顎は上がっていない。
 多少の疲労は、きっと、気迫が勝手に吹き飛ばしているのだろう。
198 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:53:39.58 ID:bcMzd67N0
 ――――その、ビロードの動きが、鈍った。

ミ,,;゚Д゚彡「ッ!!」

(;><)「ッ!!」

 打ち込み。
 天からの、一撃。

 そう思えるほど高みから、アルファベットが振り下ろされた。

 ビロードの反応は速かった。
 右手のOで、咄嗟に身体を守ったのだ。
 そして、敵兵のアルファベットはOと衝突した。

 巨漢の兵が、横の狭い通路をいっぱいに塞いでいた。
 そちらは、進路ではない。が、無視できない。
 アルファベットPを力強く握り締めている。まだ、こんな兵がいたのか。

 Jの壁を突破した兵は、三人か四人程度いるだろう、と予測していた。
 千人に一人の確率で突破する、と言われているからだ。
 が、まさかPにまで達している兵がいたとは。

 外見の逞しさだけはショボンなみだ。
 特に横幅が広い。凄まじい贅肉だった。
 筋肉である部分も存在しているのだろうとは思うが、動くたびに腹の肉が揺れている。

 そして、見るからに鈍重そうなのに、アルファベットの扱いは巧みだった。
 一撃が、速い。小刻みな動きで何度も攻撃を見舞ってくる。
 それでいて威力はあるのだ。腕力は相当なものなのだろう。
214 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:55:49.53 ID:bcMzd67N0
 ビロードは苦戦していた。
 元々、一騎打ちは得意ではない。アルファベットの才に恵まれているとも言えない。
 上位アルファベット使い相手に勝てるほどの力量はないのだ。

 自分が、巨漢の兵と戦うべきだ。
 それは分かっている。

 しかし、立ち止まってしまった。
 勢いよく駆け、敵の怯みに乗じて進んでいたのに。
 立ち止まり、包囲を許してしまったのだ。

 そちらを防ぐので手一杯だった。
 Rは上位アルファベットだが、リーチに恵まれない。
 包囲されたとき、一閃で破れるような力はないのだ。

 自分がせめてSの壁を越え、Tに達していたら。
 それなら、この囲みを瞬時に破れたのに。
 しかし、無力さをここで嘆いても仕方がなかった。

ミ,,;゚Д゚彡「ビロード!! 堪えろ!!」

 後ろからの攻めに対応できる余裕は、今のビロードにない。
 自分が背後を守るしかない。

 代わりに戦いたいが、ビロードは一騎打ちから抜け出せないだろう。
 兵卒が自分に襲い掛かってくる限り、二人の戦いに割って入るのも無理だ。
 ビロードが、あの巨漢を打ち破ってくれることを期待するしかなかった。

 そして、揺れる床。
228 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 22:58:00.51 ID:bcMzd67N0
 自分の足が、浮いた。そう思えた。
 強烈な振動だった。

 巨漢の兵が、仰向けになって倒れこんでいる。
 ビロードは、肩を上下させながら血の滴るアルファベットを握っていた。

 巨漢は、絶命している。
 ビロードが、勝った。

ミ,,゚Д゚彡「踏み越えろ! そっちだ!」

 瞬時に指示を出した。
 巨漢の兵が塞いでいた道を使えば、包囲から抜けられる。
 死骸を乗り越え、狭い通路を駆けた。

 多少遠回りになるが、問題ない。
 一気に駆け抜ければいい。

ミ,,゚Д゚彡「よくやってくれた、ビロード」

(;><)「う、運が良かったんです。途中、あいつが焦れて大振りになったから……」

ミ,,゚Д゚彡「お前が上手く凌いだからこそ、隙ができたんだ。大したもんだ」

 負けはしない、と思った。
 防御に優れたアルファベットOだ。ひとつ上のPが相手なら、そうそうやられることはない。
 が、勝つのは難しいかも知れない、と考えていたのだ。
255 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:00:14.32 ID:bcMzd67N0
 ビロードは意地で上位アルファベット使いを倒してくれた。
 この勝利を、大事にしたい。
 一気に活路を開きたい。

 大通りに出た。
 やはり、留まってはならない。駆け抜ける。
 アルファベットを、力強く振るいながら。

ミ,,#゚Д゚彡「うらぁ!!」

 一度に二人を斬り倒した。
 速度は緩めない。駆けながら、更に三人、四人。
 ビロードには疲れが見える。自分が、ここは切り開かなければ。

 駆けに駆けた。
 敵兵の数を、正確に把握できないほど速く。
 アルファベットが突き出されても、一瞬で破壊できた。

 気力が満ちる。
 身体に、心に。
 全てを打ち壊していける気さえする。

 屋内から、外へ出た。
 目の前にすぐ城門が見える。
 そしてその向こうに、ルシファーの騎馬隊。

 動きを止めてはいないが、城に近づくこともできないようだった。
 城壁の上からD隊に狙われているためだろう。
272 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:02:21.08 ID:bcMzd67N0
 上手くラウンジの騎馬隊を装えれば、城内に入れたかも知れない。
 そう思いもしたが、やはり無理だろうか。
 不意に一千の騎馬隊がやってくることなど、普通はありえない。

 それに、自分が先に城内で見つかってしまった。
 順番が逆なら、騎馬隊は城門を潜れたかも知れないが、城内に侵入者がいるとなっては無理な話だ。
 自分のしでかした失敗の傷は、大きかった。

ミ,,゚Д゚彡(だからこそ、だ!)

 失態を、取り返す。
 今、ここで。

 城門を開いてみせる。

 城門を守っている兵は、まだ自分たちに気付いていない。
 外の騎馬隊に気を奪われているようだ。
 今のうちに、指揮官を探さなければならない。

 見つけるのに苦労はなかった。
 鉦を持っている兵、あるいはその側にいる兵。
 それを探すだけでよかったのだ。

 城壁の上にいるD隊に、指示を与えている兵がいた。
 鉦を使って、だ。
 背のアルファベットはL。Jの壁突破者は、まだいた。

 ここからは、俊敏さが何よりも重要になる。
 それでいて、確実性も必要だ。
 自分の力を信じるしかなかった。
283 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:04:16.73 ID:bcMzd67N0
 一気に接近し、指揮官の後ろの兵を片付ける。
 数は多くない。たった三人だ。
 しかし、その三人目を斬ったところで、指揮官がこちらに気付いた。

 声を上げる余裕も、身構える余裕も、与えなかった。
 即座に身体を左腕で拘束して、右手にあるRの刃を開く。
 そして、刃で首を覆う。

ミ,,゚Д゚彡「D隊に下がるよう指示を与えろ。
     守兵には、城から打って出て騎馬隊を殲滅する、と」

 指揮官は、声が出ていなかった。
 身動きひとつ取らない。

 時間がない。一瞬たりとも、無駄にできない。

ミ,,#゚Д゚彡「早くしろ」

 囁くように、しかし力をこめて言った。
 即座に打ち鳴らされる、鉦。

 兵たちが、すぐ命令に従うはずはなかった。
 突然の命令だ。何があった、と思って当然だろう。
 しかし、それでいいのだ。

ミ,,゚Д゚彡「上出来だ」

 Rの刃を閉じた。
 指揮官の首が、捩じ切れる。
308 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:06:35.13 ID:bcMzd67N0
 多くの兵が命令に驚いて振り向き、こちらを確認したときには、指揮官の首が飛んでいた。
 同時に、ビロードが隠れて叫ぶ。
 フサギコがいる。外へ逃げろ、と。

 悲鳴が上がった。

 城内の兵は、今やっと追いついてきたところだ。
 遅い。遅すぎる。
 こちらにとっては、嬉しい遅行だった。

 城門は、開かれようとしている。
 D隊もまともな統率は取られず、慌てふためいていた。

 敵兵の行動意思は、錯綜していた。
 城門を開き、逃げようとする兵。
 それを止めようとする兵。

 自分を狙ってくる兵も、無論いた。
 跳ね除ける。縦横無尽に動き回って。
 身体は驚くほど軽い。

 兵卒の攻撃は苦にならない。
 何人でも打ち払える。
 残る問題は、城門だけだ。

 自分やビロードの圧力に、脅えている。
 そんな兵が城門を開き、逃げ出そうとしてくれればいい。
 が、城門を開くのはいささか時間がかかる。
325 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:08:50.71 ID:bcMzd67N0
 今、城門は開きかけだった。
 しかし、人がせいぜい一人か二人、何とか通れる程度の隙間しかない。
 やはり完全に開ききらなければ、この戦い、優位には立てない。

ミ,,;゚Д゚彡「ちっ……!」

 予想していた事態が、起こりつつあった。
 城門を開くのに手間取り、その場から逃げ出す兵が増えだしたのだ。
 自然と、敵兵の足は城内へと向かっていく。

 こうなれば、自分たちで城門を開けるしかない。
 できる限り早く、だ。
 城内の敵兵が増えると、ミルナたちが危ない。

 開城の仕組みは、単純なものだった。
 取っ手を何回か回すだけでいい。
 が、城門ほどのものを開くとなれば当然、取っ手は信じられないほど重いはずだ。

 一人で回す作りにはなっていない。
 本来、三人か四人がかりで回すものだ。
 それでも、自分がやるしかなかった。

 回している間は、ビロードが守ってくれる。
 信じて、託せる。

 取っ手を掴んだ。

ミ,,#゚Д゚彡「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 渾身の力を込めた、が――――しかし。
346 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:10:55.40 ID:bcMzd67N0
 最初から、回るようにできていないのではないか。
 一瞬、本気でそう考えたほど、凄まじい重さだった。
 取っ手が、びくともしない。

 全身の力を、両手に集めている。
 それでも取っ手は動こうとしないのだ。

 これが、勝利の重みか。
 滅亡の危機にさえ瀕していた国が、ひとつの城を得るのは、困難の限りを極める。
 分かっていたことだ。しかし、改めて思い知らされた気分だった。

 勝利こそが全てだ。
 今の、ヴィップは。
 どんな形でもいい。勝たなければならない。

 重く苦しいことなのは、当然理解している。
 それを、押しのけなければならない、ということも。

 ヴィップの兵として戦い、果てていった兵のためにも。
 自分のような兄のことを思いながら、殺された弟のためにも。

 自分は、ここで、勝利を得なければならないのだ。

ミ,,#゚Д゚彡「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 腰を落とし、足に力を溜めた。
 そして一気に、取っ手を引く。

ミ,,#゚Д゚彡「回れえええええええぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
369 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:13:29.81 ID:bcMzd67N0
 更に、更に、引く。
 体重をかけて、両腕に力を込めて。
 全力で。

 不意に、足の力が弱まった。
 滑りそうになる。身体のバランスが、崩れた。

 手の位置が、動いた。
 だから、体重も後ろへとかかったのだ。

 取っ手が、回っていた。

ミ,,#゚Д゚彡「おらあああぁぁぁぁッ!!」

 引き、そして押す。
 何度も、それを繰り返す。

 取っ手が、回転する。
 城門が徐々に開いていく。

 三回ほど回したとき、首の裏側に血を感じた。
 鮮血が、後ろから飛来してきた。
404 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:15:31.89 ID:bcMzd67N0
 しかし、ビロードの血ではない。
 敵兵のものだ。
 振り向かずとも、分かる。

 ビロードは自分を守ってくれた。
 だから、城門を開くことができたのだ。
 これは、二人で開いた城門だった。

 外から溢れてくる光が、眩しかった。

ミ,,゚Д゚彡「ルシファー!! 来い!!」

 言わずとも、ルシファーはこちらへ向かって駆けていた。
 城壁のうえから、微かな抵抗。D隊だ。
 騎馬隊は、若干の損害を受けながらも、城門を潜ることができた。

 敵兵の悲鳴は更に大きくなる。
 混乱も、広がっていく。

 ルシファーの騎馬隊、入城。
 これで、戦局は大きく動くはずだった。
435 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:17:30.73 ID:bcMzd67N0
――オオカミ城・三階――

 時の流れが、非常に緩やかだった。
 一瞬一瞬が、止まって見えた。

 時間にして、どれほどだろうか。
 呼吸、数回分。
 三人か四人を討ち取れる程度の時間でしかなかった。

 始まりは、報せだった。
 敵兵卒が、慌てて駆け込んできて、叫んだのだ。
 ヴィップの騎馬隊が、城内に侵入した、と。

 リディアルは一瞬、その報に気を取られた。
 生じたのは、隙。無論、自分が見逃すはずはない。
 アルファベットUを振るい、リディアルを守る敵兵を裂いた。

 かつてないほど、リディアルに迫った。
 だが、さすがにリディアルの反応も早い。
 即座に反撃を見せ、体勢の整っていなかった自分に、アルファベットの刃が襲い掛かった。

 それは、防いだ。
 そしてすかさず、二歩下がって距離を取った。
 周りの兵卒から、追撃を受けかねなかったからだ。

 だが、しかし。

 下がった自分に、違和感を覚えた。
 あるべきものが、ない。
 そこに、いない。
471 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:19:26.94 ID:bcMzd67N0
 自分の後ろに、絶えずくっついていた、レヴァンテインが。
 自分の後ろから、消えていたのだ。

 そして何故か、視界に映っているのだ。

 世界の流れは、更に緩やかなものとなった。
 残酷なほどに。

 アルファベットLを、振り上げている。
 その先にいるのは、他ならぬリディアル=ロッド。

 あまりにも、時の動きは、遅すぎた。
 だからこそ、状況を理解できてしまった。

 嘆きさえ許されない状況を。

(;゚д゚)「よせッ!! レヴァンテインッ!!」

 声が、届いていないはずはないのに。
 なのに、レヴァンテインは止まらない。
506 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:21:14.78 ID:bcMzd67N0
 リディアルの体勢は、少し崩れているが、悪くない。
 そして、レヴァンテインの攻撃をしっかりと見ている。

 攻撃は、通らない。
 レヴァンテインでは、相討ちさえ叶わない。

 それを、自分は理解できてしまった。
 この、緩やかな時の流れの中で。

 レヴァンテインの、打ち込み。
 それを躱すリディアル=ロッド。

 時の流れが加速していく。
 空振り、全身に隙を見せるレヴァンテイン。
 アルファベットを振り上げるリディアル。

 自分のアルファベットは、届かない。
 リディアルの攻撃を、妨げることは、できない。
528 :第90話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/30(水) 23:23:09.15 ID:bcMzd67N0
 見慣れたはずの血飛沫が、痛切さを覚えるほど残酷なものに見えた。
 その血を浴びた、リディアルの表情までも。


















 第90話 終わり

     〜to be continued

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