- 4 :登場人物
◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月)
23:39:05.57 ID:owm23D0f0
- 〜ヴィップの兵〜
●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:キョーアニ川上流
●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城
●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城
●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
46歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:オオカミ城
●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:カノン城
- 8 :登場人物
◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月)
23:39:55.95 ID:owm23D0f0
- ●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:カノン城
●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城
●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:O
現在地:オオカミ城
●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城
●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城
●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城
- 14 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月) 23:40:43.20 ID:owm23D0f0
- ●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:カノン城
●プー゚)フ エクスト=プラズマン
32歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:カノン城
- 18 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月) 23:41:59.57 ID:owm23D0f0
- 大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー
大尉:ビロード/ベルベット/アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/エクスト
少尉:
(佐官級は存在しません)
- 20 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE
:2008/01/21(月) 23:42:44.45 ID:owm23D0f0
- A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー/ビロード
P:アニジャ/オトジャ/カルリナ
Q:
R:プギャー/ベルベット/フサギコ
S:ニダー/ファルロ/ギルバード
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
- 26 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE
:2008/01/21(月) 23:43:57.41 ID:owm23D0f0
- 一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml
(現実で現在使われているものとは異なります)
---------------------------------------------------
・全ての国境線上
- 29 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月) 23:44:28.91 ID:owm23D0f0
- 【第89話 : Steal】
――キョーアニ川――
形を乱した月が浮かぶ。
キョーアニ川の水面に、揺蕩いながら。
船底が進み、月は姿を消した。
しかし、空を見上げれば変わらずに光を放っている。
あの月の光を感じなくなる頃には、オリンシス城に着けるだろうか。
( ^ω^)(ミルナさん……)
舳先から離れ、用意された寝床に向かった。
この中型船に乗っている兵は、百名にも満たない。
ラウンジに襲われる心配はさほどないため、可能な限り早く移動する術を選んだのだ。
ミルナからの伝令が来て、すぐに出発した。
誰でもいいから将校をオリンシス城に送ってほしい、といった旨だった。
悩むことなく、自分がオリンシス城に向かった。
シャッフル城にはベルベットとサスガ兄弟がいる。
ならば、アルファベット上位であり、大将でもある自分が行くべきだろう、と思ったのだ。
何をすべきかも分からない。
ミルナは、オリンシス城に来てくれとしか言わなかったのだ。
恐らくオリンシス城に行けばやるべきことが分かるのだろうが、多少なり不安はあった。
- 33 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月) 23:46:46.04 ID:owm23D0f0
- いったい、ミルナは何を成そうとしているのか。
何故、将をオリンシス城に呼んだのか。
胸の奥が、ざわめいた。
ラウンジは大人しくしている。
再戦に臨む準備を始めているようだが、まだ時間はかかりそうだ。
北ではニダーらがショボンを退けている。今のところ、怖いくらいに順調だった。
ショボンが裏切って既に半年近い。
その間、勢力図に動きはなく、落ち着いていると言ってもいいほどだ。
が、動き出すとすればこれからだろう。
防備を固めなければならない。
そして、攻められる時期を計らい、攻め込まなければならない。
ヴィップの逆転の道は、まだ見出せていなかった。
ぼんやりと、何かが浮かんではいる。姿が見えかけている。
だが、それを明確にする術がないのだ。
何か、きっかけがあれば。
些細なことでもいい。何か取っ掛かりがあれば、見出せる気がする。
しかし、そう易々といくはずもない。
約七百年前にあった大戦に、ヒントを得たかった。
アルファベットが用いられ、全土を戦火に晒した大戦。
その戦は、いかにして終焉を迎えたのか。
参考にはなるはずだ。
終焉の形を、知りたい。しかし、ヴィップ城の文献には記載されていなかった。
- 39 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月) 23:48:27.85 ID:owm23D0f0
- もっと古い城を、あるいは広大な書物室を。
いずれかを探し、答えを知りたい。
自分には、ヴィップを天下に導く義務がある。
そのための努力を、怠ってはならないのだ。
皆の命を、預かる立場なのだから。
志を、預かっているのだから。
( ^ω^)「ちょっとだけ、休むお」
側近の兵に伝え、寝床に入った。
船の揺れは、ほとんどない。上手く操船されているようだ。
充分な休息を取ることができそうだった。
――オオカミ城・地下――
埃に塗れた、荷物室だった。
物が雑多に放り込まれた部屋と言い換えてもいい。
扉の上に何か置かれている可能性は高い、と思ったが、妨げにならない小物程度だった。
これがもし押し上げられないほどの重量を持っていたら、作戦は頓挫していたかも知れない。
が、今のところは何ら障害なく進めていた。
穴の中ほどではないが、暗い部屋だった。
光がない。物の影で辛うじて明暗が分かる程度だ。
- 42 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月) 23:50:32.68 ID:owm23D0f0
- 人がいる気配はない。
自分がオオカミの将だったときも、ここに入ったことなどほとんどなかった。
あまりに物が多すぎて、整理する気にもなれないからだ。
( ゚д゚)「俺を見失うな。ついてきてくれ」
具足の一部を後ろのフサギコに掴ませながら、進んだ。
この部屋に入ったことは数えるほどしかないが、構造は記憶している。
暗闇の中であろうと、出口には辿り着ける。
物の隙間を縫うようにして、出口を目指した。
途中、踏みつけてしまったものもあるが、気にしている余裕はない。
やがて、扉に手が触れた。
取っ手を捻り、開く。その先もまだ、暗闇は晴れなかった。
目の前に薄っすら見える階段を昇れば、光を浴びれるはずだ。
慎重に一段一段、踏みしめていった。
徐々に、明るさが増す。自分の手先も鮮明になってくる。
同時に、不安と緊張にも襲われた。
城内の構造を詳細に把握している自分は、まだいい。
勝手知ったる、というやつだ。この程度の不安など、軽いものだろう。
しかし、後ろの三人は、果たして。
この城について、ほとんど知らないはずだ。
事前に内部についての説明をおこなったが、イメージは固まらなかっただろう。
三人とも、この城がヴィップ領だったときに、入城した経験がないというのだ。
- 45 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月) 23:52:17.95 ID:owm23D0f0
- 文字どおり、異国の地だった。
見たこともない城に入り、敵将を探すという行動に対する感情は、不安などという言葉では表せないだろう。
恐怖、という感情にさえ到達しているかも知れない。
それを和らげてやれるのは、自分だけだ。
自分だけでも、毅然とした態度のまま、三人を引っ張らなければならない。
階段の最上段が、見えてきた。
( ゚д゚)「俺が導く。皆、最善を尽くしてくれ」
小さく、それだけを言った。
後ろから、声ではなく気迫で、答えが返ってきた。
階段から、身を乗り出した。
( ゚д゚)「…………」
今は、正午頃だろうか。
陽は中天に差し掛かって見える。
その陽が作り出す人影は、ない。
誰もいない。
予測していた。ここには、誰もいないだろうと。
よほど用事がなければ、地下への階段がある場所には近づかない。
が、誰かに出くわす可能性は、先ほどまでよりも格段に上がっている。
アルファベットを、抜いた。
大きな刃を持する、U。このアルファベットなら、そう簡単にやられはしない。
- 54 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月) 23:54:04.50 ID:owm23D0f0
- 小型のアルファベットを持ち、隠しながら移動する方法も最初は考えた。
素知らぬ顔で歩けば、敵を欺けるかも知れないからだ。
が、思い直した。
どうせ自分の顔は知られている。顔を隠して移動しても、即座に怪しまれる。
無論、アルファベットもそうだ。何故携行していないのかと問われれば、言い訳が利かない。
自分だけではなく、フサギコやビロードも顔は覚えられているだろう。
唯一、レヴァンテインだけが無名に近いが、背中のLは隠しきれない。
Lの所持者など、たかが五千しかいない軍内では、周知の存在に決まっている。
見知らぬLの使用者がいれば、怪しまれるのは当然だ。
つまり、この四人は誰も、ラウンジの兵に成りすますことができない。
だから誰にも見つからずに進まなければならないのだ。
至難を極める。ルシファーが首尾よくやってくれたとしても、相当に。
しかし、それも最初から覚悟していたことだ。
リディアルの居場所は、分からない。
自分が大将室として使っていた場所が、可能性としては高いが、あくまで推測に過ぎない。
フィラッドが飯と女を食べていた部屋も考えられる。
ルシファーがオオカミ城に近づいた際、リディアルが出て行くことは想定していなかった。
リディアルは危険を極端に嫌う男だ。討伐に出向けば罠に掛かるかも知れない、と考えるだろう。
出撃は部下に任せ、自身は城内に留まるはずだ。
頭脳の明晰さで、大国ラウンジの少将にまで上り詰めた男だ。
それを利用してやるのが、最善だった。
- 62 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月) 23:56:23.33 ID:owm23D0f0
- 階段から離れ、走った。
廊下から死角になる位置へと移動する。
ここは、一階。人の往来は最も多い。
城内への入り口点に近づけば近づくほど、人は増えていく。
心臓の鼓動は、治まることを知らなかった。
(;゚д゚)「ッ……」
人が、いる。
間違いなく、ラウンジの兵だ。
四人組が、談笑しながらこちらへ近づいてくる。
緊迫感はない。ルシファーはまだオオカミ城に近づいていないようだ。
しかし当然、アルファベットは携行していた。
落ち着け。何も焦る必要はない。
自分たちがいる場所は死角であり、後ろに逃げ道もある。
近づいてくるようなら、後方へ下がればいい。見つかる恐れはない。
分かっているのに何故か、汗が止まらなかった。
いま見つかってしまうと、五千の兵を丸ごと相手にしなければならなくなる。
いかに自分たちがアルファベットで多くの兵より優位に立っているとは言え、苦戦は必至だ。
全滅の可能性など、ありすぎるほどにある。
四人の兵は、こちらに近づくこともなく去っていった。
それでもやはりまだ、心臓の鼓動は激しく胸を叩いている。
- 72 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/21(月) 23:58:37.63 ID:owm23D0f0
- 物陰に隠れてやりすごしたが、まだ動くことはできなかった。
いま動き出して音でも立てたら、先ほどの兵たちが戻ってくる可能性もあるのだ。
いや、音など城内ではいくらでも立つ。
何も不自然なことではない。
多少の物音など、気にする必要はないのだ。
やはり、自分は焦燥に包まれている。
冷静さを、欠いてしまっている。
振り払うように、膝を伸ばして立ち上がった。
( ゚д゚)「……行こう」
小声で伝え、動き出した。
二階へ通じる階段は、遠い。
リディアルがいると思われる部屋は、四階にあるのだ。
そちらは、更に更に遠い。
五感を研ぎ澄ませて、進まなければならない。
一階の真ん中を通っている廊下を突っ切れば、すぐ階段に到達する。
オオカミ城の構造は、単純だ。建物の真ん中に大きな通路がある。
その途中にいくつも階段が設けられている。
大木に対する枝のように、大きな通路からいくつも小さな通路が伸びていた。
いま自分たちがいるのも、そこだ。人の往来は、大通りに比べれば少ない。
- 79 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:00:28.63 ID:2gPejqbv0
- 大通りを使えば階段に辿り着くのも容易だが、十中八九見つかってしまう。
複雑に入り組んでいる小さな通路を使って、階段へと向かうのが最善だった。
一階にある階段は全部で六つ。
最寄りの階段を、頭で探す。かなり近くにある。
が、やはり大通りを使わなければならない。
大通りを使わずに行くとなると、相当に遠い階段になる。
仕方がなかった。小さな通路を使うより他ないのだ。
( ゚д゚)(……とりあえず、二階に行かなければ……)
ルシファーがオオカミ城に近づくまで、じっとしていたほうがいい。
単純に、人が少なくなるからだ。
しかし、一階にいるのは危ない。出陣の際、人の流れが激しくなるだろう。
二階に到着したあと、しばらく隠れ、ルシファーの動きを待つ。
しかる後にリディアルの所在を探り、四階を目指しつつ移動する。
今後の流れは、そういう塩梅になりそうだった。
だがやはり、不安は依然としてあった。
いや、新たに出現したと言ってもいい。
四人での行動が、想像以上に窮屈なのだ。
小さな物陰に隠れるとき、誰かが食み出しかねない。
移動の際も目立ちやすい。
( ゚д゚)(しかし……)
- 136 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:14:46.06 ID:2gPejqbv0
- 建物の構造を詳細に把握しているのは、自分だけだ。
別れて行動するとなると、他の三人は不安だろう。
そう考えるとやはり、四人で行動せざるをえない。
ミ,,゚Д゚彡「ミルナ中将」
一瞬の間に様々な思考を巡らせていた。
それが停止したのは、フサギコの声が飛び込んできたからだ。
驚くほど小さく、自分たち以外には絶対に聞こえない、という程度の声だった。
ミ,,゚Д゚彡「四人でいるのは合理的じゃない。離散しよう」
簡潔な言葉だった。
そして、自分が考えていたことだった。
一度、ビロードとレヴァンテインにも目をやった。
どうやら、考えていることはフサギコと同じなようだ。
返答に悩んでいる余裕はない。
頷いた。
( ゚д゚)「大通りには出るな。とにかく、階段を上がって四階に到達してくれ」
それだけを伝えた。
後は、各自が最善を尽くしてくれるだろう。
自分は少し、皆のことを心配しすぎていたのかも知れない。
それぞれが、力のある男たちだ。頭も働く。
自分が思っていたよりも、頼りがいがある。
- 144 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:16:51.15 ID:2gPejqbv0
- すぐに、その場から離れた。
不安はある。依然として。言葉に、できないほどの。
しかし、不思議と上手くいく気もしてきていた。
三人から離れ、階段へと少しずつ近づいた。
最も早く二階へ到達するのは、自分だろう。
できれば、他の三人を置き去りにして、四階へ行きたいところだ。
他の三人の誰かがリディアルとぶつかるより、自分がぶつかったほうがいい。
( ゚д゚)(……右にはいかないほうがいいか……)
なるべく大通りから離れたい。
大通りから遠ざかれば遠ざかるほど、人は少なくなる。
階段が、見えてきた。
自分がオオカミ城にいたころは、ほとんど使うこともなかった階段だ。
こんな風にありがたみを感じることになるとは思わなかった。
階段を駆け上がった。
自分の姿を見られれば、怪しまれる。アルファベットUは隠しようがない。
俊敏に動いて、できる限り視認されないよう努めるべきだ。
二階に、上がった。
( ゚д゚)(…………)
思ったとおりだ。
人は少ない。一階よりも、はるかに少ない。
これなら、先ほどまでよりは動きやすい。
- 151 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:18:33.83 ID:2gPejqbv0
- ルシファーの到着を待つまでもないかも知れない。
自分ひとりで、このまま駆け上がってリディアルを討ち取ればいい。
そうすれば、他の三人に危険が及ぶこともない。
辺りを窺いながら、慎重さを忘れずに、三階への階段を目指した。
――オオカミ城・一階――
事前にミルナから説明は受けている。
細部まで、図に書き出してもらっている。
初めて入った城だが、何ら問題はなかった。
ミ,,゚Д゚彡(ミルナとは別の道を取るか……)
ミルナが進んだ道は確認している。
大通りから最も離れた階段へ向かっていった。
目を瞑ってでも歩けるのではないか、と思えるほど軽快な動きだった。
自分はその手前の階段を使う。
大通りには近いが、さほど人がいるとは思えないからだ。
ミルナと同じ道を辿った場合、罠でもあったら一網打尽にされる。
例えばミルナが行く手を塞がれていたら、敵の背後を突いて打開させてやるべきだ。
だから、違う道を進んだほうがいい、と思った。
やるべきことは、原野での戦と何ら変わりない。
- 158 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:20:34.68 ID:2gPejqbv0
- 恐らくレヴァンテインがミルナと同じ道を行くだろう。
ミルナの背後は守ってくれるはずだ。
違う道を選ぶことのデメリットはない。
階段に近づいた。
人はいない。問題ない。
思い切って、一気に駆け上がった。
二階。
やはり階下よりも、気配は少ないように感じる。
どこかに身を潜め、ルシファーの攻めを待つ。
それが最善だ。
辺りを見回した。発見されにくいであろう場所を、探す。
右に曲がった先。
確か、あそこは小規模な休憩室があったはずだ。
中に誰もいなければ、絶好の隠れ場所となる。
――――もし、誰かがいたら。
どうする。
ミ,,゚Д゚彡(……斬るか……?)
悲鳴のひとつでも上がれば、絶体絶命の危機に陥るのは間違いない。
危急の際、城中に音を鳴らすような仕組みをラウンジは作っているかも知れない。
いずれにせよ、人がいるのに中へ入るのは危険だ。
- 171 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:22:42.64 ID:2gPejqbv0
- 部屋の前まで行って、気配を窺う。
中に誰もいないようなら、部屋でしばらく待機しよう。
そう決めた。
そして、一呼吸のあと、動き出した。
その、一歩目だった。
ミ,,;゚Д゚彡「ッ!!」
(兵;ゝ_ゝ)「ッ!?」
兵との、遭遇。
アルファベットGを持つ、ラウンジ兵だった。
逡巡している余裕などなかった。
(兵;ゝ_ゝ)「フサギッ……!!」
自分の名前を、叫びかけた。
その口は、回転しながら高く舞い上がる。
アルファベットGで防ぐ時間など、与えなかった。
瞬時にアルファベットRを振るい、首を刎ね飛ばした。
宙に浮いた首を掴み、体を抱えた。
血が噴き出す。オオカミ城の廊下を、赤く汚していく。
できる限り急いで、血の滴りを軽減させた。
- 183 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:24:48.87 ID:2gPejqbv0
- 目的としていた部屋の前に立つ。
音はない。気配もない。
すぐに扉を開け、室内に入った。
兵の体と首を放り投げる。
そこで、やっと息を吐けた。
ほんの少し走っただけなのに、異常なほど呼吸が荒い。
考え事をしていた。
だから、敵兵の気配に気付けなかった。
自分の失策だ。
角から飛び出した後、お互い、驚きで一瞬静止した。
見合ったあとに動き出したのは、明らかに自分のほうが早かった。
一般兵卒との差が出た、ということだろう。
驚きの度合いも、ラウンジ兵のほうが大きかったはずだ。
突然現れた敵将。錯乱したことだろう。
敵と出くわすかも知れない、と思っていた自分のほうがまだ衝撃は小さかったはずだ。
ラウンジ兵が自分の名前を叫び終わる前に討ち取れたが、誰かに気付かれただろうか。
声は小さかった。近くにいなければ、聞き取ることもできなかったはずだ。
そして誰かが近くにいたとすれば、とうに気付かれ、追われているだろう。
いや、それよりも大きな問題は、血の痕を残してきてしまった、ということだ。
この部屋まで点々と続いている。一滴でも見つかれば、この部屋に到達されてしまう。
その場に死体を放置しておく、というのは頭になかった。
血の痕だけなら、ただの怪我かも知れない、と普通思うはずだ。
即座に城内が騒がしくなることはない。
- 192 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:27:00.42 ID:2gPejqbv0
- だが、この部屋を探されてしまえば、結局は同じことだ。
やはり、下手を打ってしまった。
討ち取ったのは最善だと今でも思うが、気配に気付けなかったのがいかにも痛い。
ミ,,゚Д゚彡(……こうなったら、もう……)
割り切って行動したほうがいい。
騒ぎになったときのことを考えて、今後は動くべきだ。
騒ぎを聞きつけたリディアルが出てくる。
内応者がいる可能性を探ってくる。
予測できるのは、概ねそんなところだ。
リディアルの所在は掴みやすくなるが、犯人を捜索されると、動きにくい。
自分の顔など、誰にでも知られているはずだ。
とにかく今は、すぐにでもこの部屋を出るべきだった。
ミ,,゚Д゚彡(……誰もいないな)
血の痕とは逆方向に向かって駆け出した。
オオカミ城が騒然となるときは、近い。
少しでも、休憩室から離れなければ。
リディアルの居場所さえ分かればいい。
あとは形振り構わず突撃するだけだ。
刺し違えてでも、リディアルを討ち取ってやる。
それだけの価値はある城だ。
- 200 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:29:32.03 ID:2gPejqbv0
- あとは、ミルナが何とかしてくれるだろう。
この城のことだけではなく、今後のヴィップをも、だ。
自分などより、はるかに才のある男だ。
ミルナに危険を及ぼすくらいなら、自分が被ったほうがよほどいい。
誰のためでもない。
ヴィップという、国のために、だ。
――オオカミ城・二階――
静穏そのものだった。
自分の心音のほうが、よほどうるさく聞こえる。
三階へ通じる階段には、人がいた。
しかも、話し込んでいて動く気配がない。
( ゚д゚)(くそっ……)
違う階段に向かうしかない。
二階へ通じていた階段から、最も近かったのはここだが、運が悪かった。
斬り倒して進めれば楽だ。
階段にいたのは、たった三人。何の苦にもならない数だ。
だが、まだ騒ぎを起こすのは早い。
最善は、誰にも気付かれずリディアルを討ち取ることだ。
しかし、困難だろう。途中で必ず、誰かには発見される。
そのとき、リディアルが遠い場所にいると、苦しいことになる。
- 214 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:31:59.03 ID:2gPejqbv0
- 自分を討ち取ろうとするなら、誰が出てくるだろうか。
アルファベットの最上位使い手はリディアルで間違いない。
あとは、Jの壁を越えている兵が数人いる程度のはずだ。
アルファベットIまでなら、何とかなる。
例え数が多くとも、だ。
しかし、J以上になると難易度は急激に高くなる。
そこにリディアルが来た場合、さすがにUを使う自分でも厳しいかも知れない。
他の三人はもっと、だろう。特にレヴァンテインは危ない。
やはり、自分がリディアルと一騎打ちを行うのが最善だ。
誰も居ない階段を発見し、素早く三階に上がった。
二階よりも、人の気配は多い。訓練室が集中しているためだろう。
神経を研ぎ澄まして進む必要がありそうだった。
リディアルは訓練を指導しているかも知れない。
ふと、そう思った。
これだけ人の気配を感じるのだから、将校が指揮執っていても不思議ではない。
だが、とりあえずは四階に向かうべきだった。
四階にリディアルが居なかったとき、またここに戻ってくればいいだけの話だ。
最寄りの階段は、ここを左に曲がって、突き当りを右に行った先にある。
辺りを確認して、進んだ。
室内からは音が漏れてくる。
しかし、廊下には誰も居ない。
- 225 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:34:03.81 ID:2gPejqbv0
- かえって怖かった。
いつ誰が出てくるか分からない。
しかも、中には大勢の兵がいるのだ。
死ぬ気で戦えば、例え大勢のなかにリディアルが居ようと、討ち取れる。
それだけの力がアルファベットUにはある。
刺し違える覚悟なら、守りを気にしないのなら、リディアルの首は取れるはずだ。
しかし、自分はまだ死ねない。
ショボンを討ち果たすまで、死んではならない。
この城を奪ったところで、ショボンを討つことには到底繋がらない。
まだ、やるべきことは多く残っているのだ。
( ゚д゚)(……確実な方法で、討ち取るべきだ)
最初にこの策を考えついたときから、その思いは変わっていなかった。
突き当たりに向かって、駆けた。
そう暑い日でもないのに、既に具足のなかは湿りきっている。
緊張が汗を生じさせているのだ。
いくつもの訓練室を通り過ぎる。
突き当たりの壁が、徐々に近づいてくる。
速度を緩めた。
丁字路。ここを右に曲がれば、階段はすぐそこだ。
遂に、四階へと到達することになる。
人は、いない。
- 240 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:36:11.46 ID:2gPejqbv0
- ( ゚д゚)(……よし)
右足に力を込めた。
重心が、前に傾く。
通路の影から、頭を出した。
だが、踏み出した瞬間。
右方に見えるは、人影。
それも、一つ二つではなかった。
(;゚д゚)(くっ……!!)
引き返すな。
瞬間、自分にそう命令した。
左に曲がった。
本来、右に曲がるべきところで、左に曲がった。
そして更に右に曲がり、敵兵からの死角へと移動した。
俯瞰的に見れば、自分がいま進んだ道は、アルファベットLのような形になっている。
自分がいた場所に戻るのは、得策ではなかった。
ラウンジ兵が歩いてくるとすれば、そちらであろうと予測されるためだ。
だから、自分が逃げ込んだ方向は正しい。
しかし、この先は行き止まり。
常に鍵の掛かっている荷物室が奥にひとつあるだけで、隠れるような場所もない。
こちらには来ない、という確信めいたものもあるが、心臓の鼓動は治まることを知らない。
- 258 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:39:29.95 ID:2gPejqbv0
- まだ見つかってはならない。
ここで見つかると、自分だけではなく、他の三人にまで影響が及ぶ。
こんなところでラウンジ兵を斬れば、すぐにでも発見されてしまうだろうからだ。
先ほど見えたラウンジ兵は、十人ほど居るように思えた。
その事実も、不安を駆り立てる。一度に十人を斬るのは無理だ。
何人かに逃げ出されると、その兵が兵を呼び、即座に包囲される恐れがある。
そのときは、自分の命さえ危うい。
(;゚д゚)(くそっ……こっちに来るか……?)
足音が近づいてくる。
話し声も、鮮明に聞き取れるようになってきた。
「そろそろ昼飯食おうぜ」
「そーだなー」
やや高めの声と、野太い声が届いてきた。
食堂は一階にある。そのまま下に通じる階段へと向かってくれれば、何の心配も要らない。
こちらへ来ることもないだろう。
心の中の祈りが、虚しく全身に響き渡る。
「じゃあまぁ、さっさと荷物室の整理終わらすか」
全身に汗が噴き出した。
アルファベットの柄を握る手に、自然と力が込められる。焦燥を押しつぶすように。
- 275 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:41:35.69 ID:2gPejqbv0
- こちらへ、向かってくる。
もう、避けようがない。戦うしかない。
リディアルの所在を掴むまでは見つかりたくなかったが、どうしようもないことだ。
できれば、一度か二度で。
全員を斬り倒したい。
そうすればここから逃げることはできるだろう。
準備は整った。
覚悟など、最初から決めている。
あとは、全力を尽くすだけ――――
「荷物整理は飯食ってからにしようぜ。力出ねーよ」
「あー、それもそうだなー。じゃ、後にするか」
声が、遠ざかっていく。
そして、足音も。
(;゚д゚)「…………」
任務を、後回しにしてくれた。
助かった。
もう少しで、無意味に騒ぎを引き起こすところだった。
今はまだ早い。四階へ近づかなければ。
四階に行ってもまだリディアルが見つからなければ、騒ぎを起こして誘き出してもいい。
とにかく今は、四階へ到達することだ。
- 291 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:43:40.91 ID:2gPejqbv0
- 心を落ち着かせた。
先ほどの兵たちは、もういない。角を曲がってくれた。
このまま階段を目指せば――――
(;゚д゚)「ッ!?」
不意に、物音がした。
何かが、床に当たった。
振り返った。
突き当たりに荷物室があるだけの、何もない場所。
だから自分はここに隠れたのだ。
だが、居た。
その荷物室から、出てきた兵が、居た。
体を震わせながら、自分を見ていた。
(兵;¢д¢)「ミ、ミルナ=クォッチだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
力の限り叫ばれた。
耳を、塞いでしまいたくなるほどに。
気付かれた。
瞬間、城内が騒然としたのが、はっきりと分かった。
(;゚д゚)「くそっ!!」
- 323 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:45:56.27 ID:2gPejqbv0
- 走り出した。
叫んだ兵から、遠ざかるように。
階段を目指して。
「ミ、ミルナが居るぞー!!」
「逃がすな!! 殺せ!!」
後ろから、追ってくる。
十人ほどで固まっていた、さっきの兵たちだ。
やはり、まだ遠くには行っていなかった。
気付かれてしまったものはしょうがない。
あとはもう、形振り構わずリディアルを探すだけだ。
途中で立ち塞がる者がいれば、容赦はしない。
四階へ通じる階段を駆け上がった。
踊り場、前方で驚いた表情のままアルファベットを構える兵卒。
情報がもう知れ渡っているのは、先ほどの兵の声が大きすぎたためだろう。
(#゚д゚)「どけ!!」
アルファベットUを横に払った。
Iで、防ごうとしてくる。無駄なことだ。
一撃で破壊し、そのまま首を刎ね飛ばした。
その後ろにいた二人も、一撃をもってして討ち取る。
斜めに切り裂かれた胴が床に接するときには、既に横を通り抜けていた。
- 346 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:48:05.18 ID:2gPejqbv0
- 駆け上がった先の四階も、騒然としていた。
兵が、集まり始めていた。
(;゚д゚)(リディアルは、いないか?)
冷静に見回した。
リディアルがもし居れば、すぐに分かる。特徴的な外見の男だ。
いま自分の視界に移っている男のなかには、いない。
自分を包囲しようとする動きがあった。
身動きが取りづらくなると不利だ。迷わずに、斬り込んだ。
二つ三つと首が舞う。
自分がかつて、大将室として使っていた部屋へ。
そこへ、行かなければ。
いま居るかは分からないが、きっとリディアルはあの部屋を使っているはずだ。
アルファベットUを左右に振り、道を切り開く。
ラウンジ兵は、さすがに慄いていた。当然だろう。
突然現れた敵将に、味方が薙ぎ倒されていっているのだ。
このまま手を拱いていてくれれば、ありがたい。
「くおおおぉぉぉッ!!」
勢いよく飛び込んでくる敵兵。
迫力はある。力強さもある。
そして、隙も。
- 362 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:50:06.89 ID:2gPejqbv0
- 胴を両断した。
ラウンジ兵は、更に戦慄し、声を震わせていた。
「や、やばいぞ……!!」
「誰か、誰かリディアル少将を!!」
「ダメだ!! リディアル少将は城外にいる!!」
(;゚д゚)「ッ!?」
リディアルは、城外。
一瞬、耳を疑った。
確かに可能性としてはありえた。
城外で調練をおこなっている可能性だ。
だが、前線ともいえない城で城外調練など、頻繁にあることではない。
いや、滅多にないことだ。たった五千の兵しかいない、という面から考えても。
しかし、リディアルは外に出てしまっている。
オオカミ城内に入ったあと、様々な方角から外を確認したりもした。
ルシファーが来ているのではないか、と思ったからだ。
しかし、その景色のなかに、人など存在しなかった。
オオカミ城から見えないほど遠く離れたのか。
ありえない。五千しかいない城の守兵を遠出させる意味がない。
いったいリディアルは、どこへ行ってしまったのか。
- 381 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:52:48.09 ID:2gPejqbv0
- とにかく、まずいことになった。
リディアル=ロッドが、城内に居ない。
帰ってくるまでこの場を凌ぎつづけなければならない。
数で圧倒されればさすがに不利だ。
リディアルが城外にいるとなれば、ルシファーの一千も意味を為さなくなる可能性が高い。
窮境、という言葉がこれほど相応しい状況もなかった。
――オオカミ城・三階――
城内が、俄かに騒がしくなった。
やがて喧騒は広がり、ラウンジ兵の怒号が飛び交うようになった。
(;‐λ‐)(これは……)
誰かが、発見された。
そう見て間違いなさそうだった。
自分がいま居るのは、三階の資料室。
最初はミルナの後を追っていたが、次第に離れていってしまったのだ。
考えを整理し、気持ちを落ち着かせるため、この部屋に入った。
誰もいない部屋だが、ここに留まっていても意味はない。
少し休んでから出ようとしたが、室外が騒がしくなりはじめたため、出にくくなってしまったのだ。
今は人のいないタイミングを計っている状態だった。
いっそのこと、躍り出てしまおうか。
敵兵が居ようとも、お構いなしに。
- 393 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:55:00.64 ID:2gPejqbv0
- そんな気持ちにもなるが、やはり無謀だ。
自分のアルファベットはL。多勢の敵には、抗えない。
(‐λ‐)(……いや、本当の敵は、自分の弱気だ……)
一緒にここまで来た三人は、いずれもN以上の使い手だ。
ミルナに至っては、アルファベットU。自分では一生、到達できないのではないかと思える。
そんな上官たちに対し、ずっと引け目を感じていた。
身の程は弁えているつもりだ。
過剰な自信を抱く必要はない、とも思う。
が、こんな心構えで、果たしてこの大役をこなせるのか。
ミルナが、自分を選んでくれた。
フサギコやビロードといった、尊敬すべき将たちも、自分を信じてくれている。
こんなところで臆していては、三人の気持ちを裏切ることになりかねない。
(‐λ‐)(……行こう)
誰かが見つかった、ということは、危機に陥っているかも知れない、ということだ。
自分が行くことで、それを救えるかも知れない。
とにかく、ここに留まっているよりはずっといい。
部屋の扉を、勢いよく開けた。
光とともに見えたのは、壁。敵兵はいなかった。
が、廊下に出た瞬間、心が熱を帯び始めた。
ラウンジ兵。三人。
それぞれが持つアルファベットは、I。
- 417 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 00:57:35.76 ID:2gPejqbv0
- (#‐λ‐)「うおおおおおぉぉぉぉッ!!!」
瞬時に動いた。
敵兵が、怯みを見せたのが分かった。
アルファベットLを薙ぐ。
Iで防ぐ隙など、与えなかった。二つの首が飛ぶ。
残る一人はアルファベットを出してきたが、身を屈めて躱し、腹部を裂いた。
(;‐λ‐)「ハァ、ハァ、ハァ……」
すぐに駆け出した。
なるべく死体から離れたい。
そして、仲間の許へ到達したい。
走っている間、ずっと、興奮が収まらなかった。
こんな風に人を斬るのは、初めてだ。
今までずっと、戦の流れのなかで、皆と同じようにアルファベットを振るってきた。
自分だけを敵が狙ってくる、などという状況はありえなかったのだ。
いま味わっている感覚は、形容できない。
しかし、さほど嫌な気分ではない。
何人でも、斬り倒していけそうな。
そんな、浮揚感さえあった。
(#‐λ‐)「うおおッ!!」
- 440 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 01:00:07.83 ID:2gPejqbv0
- 行く手を塞いできた二人を、一撃で斬り倒した。
アルファベットはH。リーチで優っている。
二人程度なら、難しくはない。
物陰にいったん、身を潜めた。
騒音は上階から聞こえる。三人のうちの、誰かが居るのだろう。
恐らくは、ミルナだ。
アルファベットUを扱うとはいえ、数十人に囲まれれば苦しくなるだろう。
助けに行かなければ。ミルナでない他の誰かなら、もっと危険な状態なのだ。
自分のアルファベットランクは高くないが、一助にはなれるはずだ。
(‐λ‐)(階段を素早く駆け上がって……なるべく、包囲されないように……)
(‐λ‐)(今なら人は少ない……できるだけ早めに)
〔 `゚ 」゚〕「"城内を歩くときは、周りを窺いながら慎重に"」
不意、だった。
背筋が、凍るような、固まるような声。
身動きが、取れなかった。
〔 `゚ 」゚〕「私の部下に、そんなことを教えた記憶はないのですがね」
首が、ゆっくりと回る。
ぎこちなく。
壊れかけの、人形のように。
- 473 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 01:02:29.46 ID:2gPejqbv0
- 〔 `゚ 」゚〕「見知らぬ顔ですが、その不審な挙動からも明らかなことです。
あなたが、ヴィップの将であるという事実は」
細く長い手足。
身を屈めた自分を、見下ろす怜悧な瞳。
流れるような銀の髪。
ラウンジ軍、少将。
リディアル=ロッド。
見紛いようなど、あろうはずもなかった。
〔 `゚ 」゚〕「矮小な存在であろうと、ラウンジに仇なす者は殲滅します。
無論、覚悟の上でしょうがね」
背から、ゆらりと姿を現す。
アルファベット、R。
リディアルの右手に、しかと、握られていた。
無心で一瞬、周りを確認した。
しかし、誰もいない。
敵も、そして味方も。
全身が、震えだしていた。
- 502 :第89話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/22(火) 01:04:31.54 ID:2gPejqbv0
- 〔 `゚ 」゚〕「侵入者に、相応の報いを」
リディアルの右腕が、動く。
しゃがみこんだ自分の身を、狙って。
リディアルのアルファベットが、無情なほど素早く、自分に迫っていた。
第89話 終わり
〜to be continued
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