5 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:33:39.43 ID:OlwNOOV/0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:シャッフル城

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
46歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:オリンシス城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:カノン城
15 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:34:50.33 ID:OlwNOOV/0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:カノン城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:シャッフル城
19 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:35:22.06 ID:OlwNOOV/0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:カノン城

●プー゚)フ エクスト=プラズマン
32歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:カノン城
21 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:35:54.29 ID:OlwNOOV/0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:ビロード/ベルベット/アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/エクスト
少尉:

(佐官級は存在しません)
23 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:36:15.89 ID:OlwNOOV/0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー/ファルロ
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
27 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:37:31.81 ID:OlwNOOV/0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

29 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:38:10.26 ID:OlwNOOV/0
【第88話 : Side】


――ピエロ川・北岸――

 八千ほどの兵を失っていた。
 やはり、あの撤退戦が痛すぎた。

(´・ω・`)「隊列を乱すな」

 船から降りたあとは、粛々とラウンジ城への道を辿った。
 何もかも上手くいかなかった。そのための、撤退だった。

 ニダー率いる三万の軍を、攻め切れなかった。
 序盤から要領よく攻め込めず、時間を稼がれ、援軍の到着を許したのだ。
 今にして思えば、あれが良くなかった。

 だから本陣を攻め切れなかったのだ。
 もっと早く決着していれば、嵐により撤退させられることもなかっただろう。
 天に毒づいたところでどうにもならないが、悔しさは相当にあった。

 だが、本当ならラウンジ城まで引き返す必要はなかったのだ。
 滞陣できるだけの兵糧は運んできた。ピエロ川を背にして、一ヶ月は腰を据えられるはずだった。

 しかし、運が悪かった。
 船から積荷を下ろし、滞陣の準備を進めていたところで、嵐がやってきたのだ。
 そのせいで氾濫した川に兵糧が飲み込まれ、とても十万の軍を留めておくことはできなくなった。
38 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:39:57.47 ID:OlwNOOV/0
 勝っていたはずの戦だ。
 だからこそ、悔恨が多く残る。
 突き詰めれば責任は自分にあるが、やはり嵐さえなければという思いが拭えない。

 まだ時期ではなかった、ということだろうか。
 今回は天がヴィップに味方した。ただそれだけのことだ。
 次はラウンジに寄与する可能性もあるだろう。

 次こそは、という固い意思はあった。
 しかし、此度の戦の結果を受けて、ヴィップも防備を強化してくるだろう。
 カノン城はもはや最重要地だ。今後は兵が増員され、罠なども多数仕掛けられるはずだ。

 となると、カノン城を攻めるのは得策ではない。
 すぐさま再戦となれば話も違うが、十万を超える軍を動かすには、やはり時間がかかるのだ。
 今回の出陣も、ブーンらとの話し合いを終えてすぐ計画したにも関わらず、これほどの時を費やされた。

 一ヶ月もあればヴィップの体勢は万全になり、防備も磐石なものになるだろう。
 それに、あの鉄槍を防ぐ手立ても考えなければならない。
 ならばやはり、カノン城よりも他の城を考えたほうがいい。

 現在シャッフル城とオリンシス城は、元からラウンジにいた将たちが攻め込んでいる。
 細かい作戦は聞いていないが、本城から率いていった軍は十三万だ。
 落とせる見込みは充分にある。

 地理的に見て、自分が他に攻められる城は、パニポニ城かヒグラシ城。
 パニポニ城は諦めたほうがいい。位置的には攻めやすいが、城としては攻めにくい。
 軍議でも、パニポニ城を攻めようと言い出す者はいなくなっている。
43 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:41:54.40 ID:OlwNOOV/0
 だが、ヒグラシ城を攻めるのも危険が伴う。
 あそこは、ギフト城からもエウレカ城からも離れすぎているのだ。
 それに要害のハルヒ城も近い。カノン城から背後を突かれる恐れもある。

 どちらも攻められない。
 そうすると、次に思い浮かぶのは、西方面の城になる。

 戦の結果を聞かない限り分からないが、もしカルリナたちが城を落とせていない場合、体勢を立て直す必要性に迫られるだろう。
 そこに自分がいけば、敵に隙を見せることもなく、磐石の体勢で再戦に臨める。

 今回は二正面作戦を取ったが、一箇所に集中する攻めも試してみるべきだった。
 二十万を超える軍で、一つの城に押し寄せる。かつてオオカミ城を襲ったときのように。
 そうすればヴィップの戦意も削げるかも知れない。

 引っかかるのは、カルリナだ。
 自分に対し、快い感情を抱いていない。
 碌に会話を交わそうともしない。

 人間である以上、相容れない相手がいるのは致し方のないことだ。
 自分もやはり、ヴィップではジョルジュを好きになれなかった。
 当然といえる出来事が数多くあったからでもあるが、それを抜きにしても、好意は持てなかったのだ。

 ジョルジュに媚びて仲良くしたほうがいい、と思うときもあった。
 だが、自分の感情がそれを許さなかった、という部分も少なからずあったのだ。
 だから、カルリナの今の態度を、自分は理解できているし、仕方がないとも思っていた。

 問題は、どうカルリナに接すればいいのか、という点にある。
 カルリナが不満を抱いているのは、アルタイムを押しのけて自分が大将になったからだろう。
 しかし、だからと言って、大将を辞することはできない。
49 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:43:42.59 ID:OlwNOOV/0
 カルリナはラウンジに欠かせない人材だ。
 表面上だけでいい。事務的な付き合いでもいい。
 とにかく、軍に支障を来さない程度に接してくれればいいのだ。

 クラウン=ジェスターによる天下のために。

(´・ω・`)(……やはり、一度……)

 カルリナと共に、戦ってみるべきだ。
 戦場に並び立てば分かり合えることも、きっとあるはずなのだ。
 自分たちは、軍人なのだから。

 しかし、カルリナは受け入れてくれるだろうか。
 いや、多少強引にでも、受け入れさせなければならない。
 膠着したままではヴィップに隙を見せることになる。

 何か、カルリナに対する策を用いる必要がありそうだった。



――オリンシス城――

( ゚д゚)「オオカミ城を攻め落とす。そうすれば、今後のラウンジ戦における不利を多少解消できるはずだ」

 口から放った言葉を、二人は呆然とした表情で受け止めていた。
 もちろん、理由は理解できている。

 オオカミ城は、全土屈指の堅城だ。
 城自体の大きさは、ラウンジ城に次ぐ。
53 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:45:38.46 ID:OlwNOOV/0
 約七百年前の戦のときも、この城は使われていたという。
 長年にわたり、要点として存在してきた大城だ。
 奪うことができれば、大きい。だが当然、容易であろうはずもない。

ミ,,;゚Д゚彡「ミルナ中将……アンタ、自分が何言ってるか、分かってんのか?」

( ゚д゚)「無論だ。呆けた老将と思われては困る」

(;><)「無謀としか言いようがないんです」

 さすがに、ビロードの言葉も強かった。

(;><)「例え四万五千、全てを使ったって、あの城は落とせません。
     守兵は五千程度と聞いていますが、篭られたら手が出せないんです」

( ゚д゚)「確かに篭られるのは良くない。だから、四万五千などという大軍は使うべきではない」

ミ,,゚Д゚彡「どういう意味だ?」

( ゚д゚)「使うのは一千の騎馬隊。それだけでいい」

 二人の口が、塞がらなくなっていた。
 自分が突然違う言語を話し始めたら、そのときもきっとこんな顔が見れるのだろう、と思った。

( ゚д゚)「準備を進めよう。この城にいる部隊長格は、確か二人だな?」

(;><)「……ルシファー=ラストフェニックスと、レヴァンテイン=ジェグレフォードなんです」
56 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:47:32.39 ID:OlwNOOV/0
( ゚д゚)「呼んできてくれ。大事な話があると。
    それと、シャッフル城に伝令も出してくれ。
    将をひとり、こちらに寄越してほしいと」

 困惑した表情のままビロードは頷き、駆けていった。
 その場に残ったフサギコは、やはり怪訝そうな目でこちらを見ている。
 頭がどうかしてしまったのか、と問われても不思議ではない状況だ。

( ゚д゚)「まぁ、言いたいことが雲の上にまで積み重なっていることと思うが」

ミ,,゚Д゚彡「単刀直入に言うぜ。アンタ、愛しのオオカミ城を取り返したいだけだろ?」

 フサギコの表情が、変わった。
 峻厳、そのもの。まさに、軍人としての顔だ。
 いい顔だ、とも思った。

ミ,,゚Д゚彡「どう考えたって無茶だ。カノン城からラウンジ城攻めるほうがまだ現実的だぜ。
      しかも、たった一千の騎馬隊で、だと?」

( ゚д゚)「策はあるさ」

ミ,,゚Д゚彡「それさえ疑わしいもんだ。いや、策の存在が、じゃない。
      俺がいま疑ってるのは、アンタの魂胆さ」

 触れてきた。
 それが、率直な感想だった。
 腫れ物のようなものに、フサギコは、素手で触れてきたのだ。
61 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:49:37.06 ID:OlwNOOV/0
ミ,,゚Д゚彡「かつてアンタが根城としていたオオカミ城。
      それを取り戻して、どうするか。気になるとこだ」

( ゚д゚)「今回、俺が取る策の肝は、そこにある」

 意外な返答だ、とフサギコは感じたようだった。

( ゚д゚)「お前たちが俺を信じられるかどうか。
    かつてオオカミの大将だった俺が、オオカミ城を取り返す。
    その行為が果たしてラウンジを討ち滅ぼすのに役立つか」

( ゚д゚)「俺が二心を抱いていないと信じられるかどうか、に全てがかかっている。
    逆に言えば、お前たちが俺を信じることができたのなら、この作戦は成功する可能性が高い」

ミ,,゚Д゚彡「……疑いたくはねぇさ。だが、状況からするに、それも詮無いことだと思わないか?」

( ゚д゚)「存分に疑えばいい。しかし、軍人としての本分は見失うな、フサギコ少将」

 フサギコの顔が、紅潮したように見えた。
 胸に抑え込んでいた熱さが、顔に上ったようだ。

ミ,,゚Д゚彡「軍人としての本分だと? よく言えたもんだな、ミルナ中将よ」

( ゚д゚)「何が言いたい?」

ミ,,゚Д゚彡「その本分を果たせなかったから、アンタが大将を務めてた国は滅んだんじゃねぇのか?」

( ゚д゚)「ッ……」
64 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:51:30.86 ID:OlwNOOV/0
 僅かながら動揺したのは、事実だった。
 隠そうとしたが、フサギコには感じ取られてしまっただろう。

ミ,,゚Д゚彡「そんなアンタに言われる筋合いはねぇ、ってことだよ」

( ゚д゚)「……お前の思考を糺そうとは思わんさ。無意味なことだ。
    確かに、オオカミを守れなかった俺に言われれば腹も立つだろう。
    だが、間違ったことは言っていない」

ミ,,゚Д゚彡「軍人云々は、とりあえず抜きにして話そうぜ。
      俺は今、アンタがオオカミの復興を狙ってるんじゃないかって思ってんだからな」

( ゚д゚)「オオカミは死んだ。オオカミを成した男たちも、死んだ。
    死骸に紐をつけて立ち上がらせるのか? そんな傀儡に何の意味がある?」

ミ,,゚Д゚彡「俺だって、一度滅んだ国を蘇らせるなんて馬鹿げたことだと思ってるさ。
      だが、アンタの思考までは分からない」

( ゚д゚)「恐らく、その疑問は最後まで拭えないだろう。
    お前は常に俺を疑える状態だ。変わることはない。
    だから、肝要になってくるのは、俺を信じられるかどうか、なんだ」

( ゚д゚)「無理に信じろとは言わない。俺が、信じてもらうための努力をすることもない。
    信頼を抜きにしても、お前やビロードが軍人としての務めを果たせば何ら問題はないんだ。
    本分を見失うなとは、そういう意味だ」

 そこで、会話が途切れた。
 フサギコからの返答が、なくなった。
69 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:53:35.06 ID:OlwNOOV/0
 二人の間を流れる、空白色の時間。
 その色を塗り替えたのは、駆け戻ってきたビロードだった。

(;><)「連れてきたんです」

 ビロードの後方に、二人の男が見えた。
 見覚えはある。名前が長く覚えにくいが、印象的ではあった。
 頭の中に残っていた理由は、そんなところだ。

(;‐λ‐)「レヴァンテイン=ジェグレフォードです」

(;个△个)「ルシファー=ラストフェニックスです」

 二人揃って、緊張した面持ちだった。
 まだ若い。入軍して十年は経っていないだろう。
 戦の経験も豊富ではないはずだった。

( ゚д゚)「わざわざすまなかったな。早速だが、二人に頼みたいことがある」

(;‐λ‐)「何でもします!」

(;个△个)「ちょっと怖いけど、戦う覚悟ならあります!」

 いい兵だ、と思った。
 二人の根幹にあるのは、忠義だ。国への忠誠だ。
 力強い言葉は、国を想うからこそ発せられたものなのだ。

 指示を与えているのが自分であることは関係ない。
 ただ、ヴィップのことだけを考えている。
 こういう兵は、相手の陥穽に嵌まらない限りは無類の強さを発揮する。
77 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:55:22.59 ID:OlwNOOV/0
 いける、という思いは高まりつつあった。

( ゚д゚)「二人の役割は全く異なる。どちらが適切か、を今から見極めよう。
    まず、アルファベットが上位なのは――――」

 聞くまでもなかった。
 ルシファーがK。そしてレヴァンテインがLだ。
 たった一つであれ、差は差だった。

 だが、一つ程度であれば役割を入れ替えてもいい。
 次の質問で答えを得たかった。

( ゚д゚)「隊の指揮の経験は?」

(;‐λ‐)「一千を二度ほど」

(;个△个)「僕は、一千以上となると一度しかありません」

 こちらにも大した差はなかった。
 となれば、役割の割り振りに迷う必要はない。

( ゚д゚)「決まりだな」

 機は、今を置いて他ない。
 アルタイムがフェイト城に戻っている今しか。

 もたついていると、ラウンジの再攻撃を許してしまう。
 それよりも前に、オオカミ城を攻め落とす必要があるのだ。
 今すぐにでも出発しなければならなかった。
82 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 18:57:28.42 ID:OlwNOOV/0
( ゚д゚)「準備を整えたら、すぐに出立するぞ」

(;><)「ちょ、ちょっと待ってくださいなんです!
     まだ作戦の内容を全く聞いていないんです!」

ミ,,゚Д゚彡「実行を前提のように話を進めてるが、俺たちはまだ承諾しちゃいないんだぜ」

 捲くし立てる二人。
 不安と、苛立ち。双方が混じりあっているようだ。
 しかし、心配はしてなかった。

( ゚д゚)「無論、今から話そう。一千の兵と、ここにいる五人だけでオオカミ城を奪う手立てを」

 息を呑んだ四人に対し、言葉を解き放っていく。
 だが、頭の中は既に、作戦の詳細の構想に移っていた。



――フェイト城――

 自分はどこか、おかしい。
 それは、分かっていることなのだ。

 だが、戦は否応なく自分を引っ張り出す。

( ’ t ’ )(……アルタイム中将に、何て言おうか……)

 充てがわれた部屋の寝床は、いい香りがした。
 フェイト城は人の入れ替わりが激しい城だ。毛布が洗われる機会も多いのだろう。
91 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:00:11.82 ID:OlwNOOV/0
 無傷の大軍を引き連れて、この城に入った。
 アルタイムはまだ戦っているだろうか。オリンシス城を落とせただろうか。
 もし落とせていたら、自分も駆けつけなければならない。

 いや、本当はシャッフル城から退いたあと、すぐ南に行くべきだったのだ。
 独断でフェイト城に入ってしまったが、この行動に利はない。
 アルタイムと合流すべきだったのだ。

 頭のどこかでは、分かっていた。
 だが、自分の気持ちが南へ向かなかったのは、やはり個人的な感情によるものだ。

 そのせいでもし、アルタイムが討ち取られでもしていたら。
 謝っても謝りきれない。申し訳が立たない。

( ’ t ’ )「くそっ!!」

 起き上がって、毛布に拳を叩きつけた。
 軽く羽毛が舞うだけで、手応えなどあろうはずもない。
 再び、倒れこむように寝転がった。

 何をやっているのだ、自分は。
 子供のような感情を振りかざして、皆に迷惑をかけている。
 これが国軍中将のあるべき姿なのか。

 どういう未来に進もうとしているのか、自分でも分からない。
 だが、ひとつだけ言えるのは、今の自分は最低極まりないということだ。

 扉を叩く音が部屋に響き渡った。
 やってきたのは、伝令だった。
94 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:02:06.59 ID:OlwNOOV/0
 アルタイムの軍がじきに帰ってくるという。
 どうやら、無事でいてくれたようだ。

( ’ t ’ )「…………」

 やはり、このまま留まっているわけにはいかない。
 何か、変わらなければ。
 自分だけの問題と言える立場ではないのだから。

 寝床から跳ねるように起き上がり、部屋の扉を勢いよく開いた。
 どこに向かっているのか、自分でも分からない。
 何をしようとしているのか、も。

 だが、じっとしているわけにはいかない、と思ったのだ。

( ’ t ’ )(……ん……?)

 階段の下に、体を震わせながら手すりに掴まる者がいた。
 必死で一段一段、昇ってくる。
 どうやら具合が悪いようだ。

 そう思ったが、違った。
 あれは、体を動かす訓練をしているのだ。

 ファルロだった。

( ’ t ’ )「ファルロ、大丈夫か?」

(; ̄⊥ ̄)「カルリナ中将ですか……お見苦しいところを……」
98 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:03:54.09 ID:OlwNOOV/0
( ’ t ’ )「いや、気にしないでくれ。傷は痛むのか?」

(; ̄⊥ ̄)「体を動かす際に、多少……。
     ですが、いつまでも寝ていては体が鈍ってしまいます」

 ファルロの言葉に、胸が痛くなった。
 誰もいなければ、自分の頬を張ってやりたいところだ。

( ’ t ’ )「そういえば、会うのは久しぶりだな。ショボンが裏切るより前か……」

( ̄⊥ ̄)「そうなりますか……」

( ’ t ’ )「ブーンにやられた傷は、大きいようだな」

( ̄⊥ ̄)「単純に、自分の力不足でした。
    互角に戦えていると思ったのは、一騎打ちの最中だけです。
    後々になって思い返してみると、常に上回られていたとしか思えません」

( ’ t ’ )「相手はVだ、力の差はあって当然だろう」

( ̄⊥ ̄)「驕りがあったのかも知れません。力を出し切れば勝てる、という。
    寝床に伏している間は、自分の力量を見つめ直し続けました。
    やはり、自分は武人としても軍人としても、まだまだです」

 それは、自分も同じだった。
 いつかはベルのように。目標として掲げ、戦ってきたが、まだ遥か遠い。
 果たして辿り着けるのか、と思うほどだ。
102 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:05:52.73 ID:OlwNOOV/0
( ̄⊥ ̄)「できればブーン=トロッソと再び相見えたいものです。
     明確な目標ができた、ということだけが収穫でしたから」

( ’ t ’ )「そうか……それは、良かった」

( ̄⊥ ̄)「ところでカルリナ中将、気に病んでいる理由は?」

 いつも通りの、朴訥とした表情のままだった。
 何の遠慮もなく、中核を突いてきた。

(;’ t ’ )「……やはり顔に出ているのか」

( ̄⊥ ̄)「それは、もう」

( ’ t ’ )「……実は、自分にもよく分からないんだ」

 階段に腰掛け、膝に肘を立てた。
 ファルロがゆっくりと、自分の隣に腰を下ろす。
 座る動作は、あまり辛くないようだ。

( ’ t ’ )「ショボン=ルージアルが大将になったのは知っているだろう?」

( ̄⊥ ̄)「はい」

( ’ t ’ )「あのときから、自分の中で何かが引っかかり始めているんだ。
    理屈では理解できている。アルタイムが大将を譲った理由も分かる。
    しかし、感情が追いついていかない」
107 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:08:03.33 ID:OlwNOOV/0
( ̄⊥ ̄)「恐らく、武人としてのカルリナ中将が、是としていないのでしょう」

( ’ t ’ )「そういうことかな」

( ̄⊥ ̄)「そして問題は、引っかかりである、ということですか」

( ’ t ’ )「あぁ、そうだ。それさえ分かれば、未来へ踏み出せる」

( ̄⊥ ̄)「私には、中将の心中を察することができません。
     ですが私の知っているカルリナ中将は、いつか必ず答えを出す人です。
     どれほど時がかかろうとも、必ず」

( ’ t ’ )「……あまり、そうは思わない」

( ̄⊥ ̄)「自分では気付けないこと、というのも意外に多くあるものです」

( ’ t ’ )「なるほど」

 苦笑いが、自然と口から漏れる。
 自分のことは、自分が一番、理解しているつもりだった。
 しかし、一概にそうとも言えないのかも知れない。

( ̄⊥ ̄)「噫気を吐くくらいに考え悩むのも、また一興でしょう。
     その先にしか見えない答えというのも、あるのだと思います」

( ’ t ’ )「珍しく饒舌だな、ファルロ」

( ̄⊥ ̄)「行き詰まっているようでしたから」

( ’ t ’ )「すまない。苦労をかけているな」
111 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:09:59.31 ID:OlwNOOV/0
( ̄⊥ ̄)「……私は、ショボン=ルージアルの大将就任に対する不満はありませんが――――
     最も指示を受けたいのはカルリナ中将である、という思いに変動はありません。
     ですから、苦労などいくらでもお掛けになれば良いのです。私にも、アルタイム中将にもです」

( ’ t ’ )「……煽てられても、今の自分には何もできないんだ」

( ̄⊥ ̄)「いずれ、答えを導き出すことでしょう。
     そのときは、真っ先に私に教えて下さい。
     それだけで充分です」

( ’ t ’ )「……重ね重ね、すまない」

 部下であるファルロにまで、心配をかけてしまった。
 上官失格だ、などと戒めることさえ今更すぎる。

( ̄⊥ ̄)「前に進めないなら、横に動いてみる。そんな行動も、あるのではないかと思います」

( ’ t ’ )「あぁ……そうだな」

 無理に前に踏み出すより、そのほうがいいのかも知れない。
 位置が変われば、視界も変わるだろう。
 開ける道もあるだろう。

( ’ t ’ )「ありがとう。アルタイム中将と、話をしてくる」

( ̄⊥ ̄)「お気をつけて」

 腰を上げ、階段を下りた。
 アルタイムはもう、城に着いただろうか。
 着いていなくてもいい。自分がアルタイムのところまで駆ける。
115 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:12:01.35 ID:OlwNOOV/0
 屋内から出て、城門を潜ろうとしたところで、立ち止まった。
 石段を昇ってくる。疲弊した表情の、アルタイムだった。

( ’ t ’ )「アルタイム中将」

(`・ι・´)「カルリナ、怪我はないか?」

 アルタイムの言葉に、胸が詰まった。

 まず最初に、自分のことを気にかけてくれた。
 こんな、どうしようもない、幼子のような自分のことを。

 アルタイムのためにもやはり、踏み出さなければならないのだ、と思った。

( ’ t ’ )「申し訳ありません。策は失敗に終わりました。恣意浅慮による身勝手な行動でした」

(`・ι・´)「そうか。被害は?」

( ’ t ’ )「……ありません」

(`・ι・´)「やはり、降伏勧告か」

 見抜かれているような気はした。
 時々だが、驚くほど鋭い勘を冴え渡らせることがアルタイムにはある。

(`・ι・´)「カルリナ、俺がまず言いたいのは」

( ’ t ’ )「お待ちください」
122 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:13:59.03 ID:OlwNOOV/0
 無理やりに、言葉を遮った。
 叱咤はいくらでも受ける。処罰も、下されるのであれば当然従う。
 だが、それよりも前に、言いたいことがある。

( ’ t ’ )「アルタイム中将、私はショボン大将と共に戦ってみようと思います」

(;`・ι・´)「ッ!? どういうことだ!?」

( ’ t ’ )「そうしないことには、何も分からないと思うのです。
    自分のなかに逗留する蟠りの正体も、自分が今後取るべき行動も」

 ラウンジ軍の頂点に、並び立つと言われる。
 ショボン、そしてカルリナ。

 ショボンは隣にいるのだ、と思えた。
 だから、横に動いてみたのだ。

 そうすることで、何かが分かるかも知れない、と期待を抱いた。

( ’ t ’ )「散々ご迷惑おかけして、申し訳ありませんでした。
    今後ももしかしたら、アルタイム中将には苦労をおかけするかも知れません。
    ですが、お約束します。次の戦で、必ず失態を取り戻すと」

(`・ι・´)「……そうか。分かった」

 言葉面だけを捉えれば、無愛想だった。
 だが、嬉しそうに笑ってくれたのを、見逃すわけはなかった。
125 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:15:41.48 ID:OlwNOOV/0
 前進ではない。
 しかし、座り込んでいた場所からは離れた。

 肝心なのは、次。
 ショボンと共に戦う、次の戦だ。



――原野――

 黒い馬を選んだ。
 黒い布も纏った。

 よほどのことがない限り、発見されないはずだ。
 これが千名の移動ならまだしも、今いるのは、たった四人だからだ。

( ゚д゚)(……逸れてはいないな)

 後方から微かに響く馬蹄の音に、聴覚を集中させた。
 三頭分、聞こえる。ちゃんとついてきている。
 ビロード、フサギコ、レヴァンテインだ。

 先頭切って、走り慣れた道を駆けていた。
 漆黒に染まっていようと、この先に何があるかは分かる。
 どう駆ければ敵に見つかりにくいかも、分かっている。

 直走って目指すは、オオカミ城だ。
131 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:17:33.12 ID:OlwNOOV/0
 オリンシス城から、既に百里は離れただろうか。
 夜が明ける前までに、もっと南下したい。
 オリンシス城とオオカミ城を直線で繋ぐと、途中で関所にぶつかるからだ。

 大きく迂回する道が安全で、ある意味では最短距離だった。
 本当は北から行ったほうが早い。が、そちらの道は使えない。
 ルシファー率いる一千が使うことになっているからだ。

 四人全員が、作戦を了承してくれた。
 とても確実とは言えない。むしろ、大博打だ。
 それでも、やろうと言ってくれた。

 提案者として、そして主導者として、自分には最善を尽くす義務がある。

 空が白みはじめたあとは、森に入って休息を取った。
 地形は全て把握している。日中でも、低速ならば移動は可能だ。

 一千の進軍速度も把握しているつもりだが、読み違いがあるとまずい。
 こちらが早く到着するぶんにはいいが、一千が先に到着するようだと計画そのものが崩れかねないのだ。
 できる限り早く、オオカミ城へ到達したかった。

ミ,,゚Д゚彡「いまどこらへんだ?」

( ゚д゚)「およそ半分、といったところか。今晩中には着く」

( ><)「ここから先は、確か……」

( ゚д゚)「昨晩中よりは走りやすい原野が続いている。
    思い切り駆けても問題はないだろう」
137 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:19:37.35 ID:OlwNOOV/0
(‐λ‐)「しかし、敵領深くになっております」

( ゚д゚)「無論、警戒は怠らんさ」

 日中は速度を抑え、日が落ちてから再び歩幅を広げさせた。
 見覚えなどありすぎるほどの景色。何度も何度も、駆けた地だ。
 オオカミの残り香を、感じるような気さえする。

 夜闇の中を、四人で一体となって駆け続けた。
 さすがに少人数での移動は速い。
 脚の速い馬を選んだおかげでもあるが、順調だった。

 だが、問題はこの先だろう。
 懸念すべきことは、多くある。
 いま考えたところでどうしようもないが、頭に浮かんでくるのを消し去ることはできなかった。

 月が優しげな光を放ち、空に浮かびはじめてから十刻は経過していた。
 もう、近い。目的地は、近い。
 自分の願いどおりの状態であることを、祈るばかりだった。

 やがて、到着した。

ミ,,;゚Д゚彡「なんだ?」

(;><)「え……?」

(;‐λ‐)「こ、ここですか?」
143 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:21:30.62 ID:OlwNOOV/0
 馬を止めた場所は、オオカミ城から八里ほど離れた森の中だった。
 よくここで、森の中における戦いの訓練をおこなったのを思い出す。
 そういう場所での戦いが得意だった、ベル=リミナリーへの対策だった。

( ゚д゚)「これだ、この岩だ」

 少し奥に入って、触れた。
 何の変哲もないただの岩。

 アルファベットUを抜いた。
 素早く横に払い、岩の上部を切り取る。
 岩の中に何かあるわけではない。重量を減らすのが目的だ。

( ゚д゚)「どかすぞ、手伝ってくれ」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ」

 四人で横から押して、転がした。
 その岩自体には、やはり何の仕掛けもない。
 しかし、大事なのは岩が隠していたものだった。

ミ,,゚Д゚彡「なるほど……これなら見つからんな」

 ぽっかり空いた穴。
 穴の直径は、八尺ほどか。
 自分も、これを直接見たのは初めてだった。

( ゚д゚)「時間が惜しい。早速だが、入るぞ」

(;><)「明かりは持っていかないんですか?」
151 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:23:25.91 ID:OlwNOOV/0
( ゚д゚)「中は一本道だ。かえって邪魔になる」

 足を中に入れた。
 しかし、足が地につかない。若干深くなっているようだ。
 両足を入れて滑り込むと、穴から頭だけが出ているような状態になった。

( ゚д゚)「ついてきてくれ」

 それだけを告げて、穴の奥へと入っていった。

 四つん這いになって、這い進んでいく。
 荷物はさほどない。僅かな飲食料だけだ。
 八里あるとはいえ、数日もかかるような距離ではないからだ。

ミ,,゚Д゚彡「しかし、こんな穴……よく掘ったもんだな。大将任務の傍らで」

( ゚д゚)「俺が作ったわけではない。オオカミ国王の嫡男だった、ディアッド=ウルフが作ったんだ」

 提案されたときは、驚いたものだった。
 オオカミ城の地下に、囲まれた際のための逃げ道を作りたい、とディアッドが言い始めたからだ。

 脱出地点はオオカミ城から遠くに設置。
 森の中、岩を置いて隠す。
 ディアッドの提案は、概ねそんなところだった。

 悪くない案だ、と思った。
 篭城戦になった場合、救援があれば勝利の見込みはあるが、自力で勝つことは難しい。
 そのとき役に立つのは、敵に予測されない脱出ルートだ。
154 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:25:12.35 ID:OlwNOOV/0
 敵に発見されれば最悪だ。
 みすみす城への侵入を許すことになる。
 だが、城内から穴に入る地点に見張りさえ置いておけば、万全だともディアッドは言った。

 見張りは一人でいい。人員を大きく割かれることはない。
 ならば、脱出のための道を確保しておくのもいい、と思ったのだ。
 ディアッドにはすぐ許可を出し、地下に穴を掘らせた。

 脱出路の存在を知っているのは、ディアッドとその側近、そして自分だけだ。
 ディアッドは死んだ。側近たちも、死んだ。
 城内図に記録を残したりもしていない。

 つまり、ラウンジがこの道を把握している可能性は限りなく低い。
 ありえるとすれば、側近が生きているか、城内探索のときに発見したか。
 どちらも可能性としては低かった。容易く知られないよう、様々な面から考慮したためだ。

 この道ができたのは、オリンシス城を奪われてから半年ほど経ったときだった。
 ディアッドは、そのときの戦にヒントを得たというのだ。
 つまり、マリミテ城の地下に穴を掘り敵陣に躍り出てきた、ドクオ=オルルッドの策に、だ。

 奇しくも今回は、ドクオの助けも借りた形になっている。
 本当にまだ奪えるか分からないが、もし成功したときは、二人に礼を言わねばならないだろうか、とも思った。

( ><)「なんだか……大きい穴なんです」

( ゚д゚)「あぁ……そうだな」

 ビロードの声が遠くから聞こえた。
 自分の後ろにはフサギコ。その後ろに、ビロードはいる。
 最後尾はレヴァンテインだ。
162 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:27:19.24 ID:OlwNOOV/0
 この穴が大きめに作られている理由は、たったひとつしかない。
 ディアッドが脱出路を用意しようと言ったのは、父であるフィラッド国王のためだったからだ。

 金を喰う人間、と自分は揶揄していた。
 それほどにフィラッドは肥え、全身で贅肉を揺らしていたのだ。
 常人が通るサイズを想定していては、フィラッドの腹の肉が閊えることとなる。

 愚劣で猥雑で、国王たる男ではなかった。
 それは、嫡男であるディアッドも薄々ながら感じていたはずなのだ。
 だが、ディアッドはフィラッドのために、この道を用意した。

 優しく、周りを思いやれる人だった。
 器量もあった。賢明さも持っていた。
 つくづく、ディアッドが国王になっていれば、と思う。

 あのまま成長しつづけていれば、戦う王になっていただろう。
 将としての才覚もあった。経験を重ねれば、かなりの武将に育ったはずだ。
 万能武将だったギコに並ぶほどの男に。いや、穏やかさを加えたモララーのような男になれた可能性もある。

 いずれにせよ、有能だった。
 だからこそ、ディアッドが育ちきるまでオオカミを守れなかったことが、悔しくて堪らなかったのだ。
 自分の無力さが、憎くて堪らなかったのだ。

 オオカミ時代のことを悔いても仕方がなかった。
 今は、ヴィップ軍に籍を置いている。ショボンを討ち取るべく、動いている。
 考えるべきは、未来のことだ。

ミ,,゚Д゚彡「……ミルナ中将、オリンシス城でのことは、すまなかった」
168 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:29:00.97 ID:OlwNOOV/0
 後ろから、呟きのような声が聞こえた。
 フサギコだった。

ミ,,゚Д゚彡「疑いたくはなかったし、批判もしたくはなかったんだが……つい、言葉がそうなっちまった」

( ゚д゚)「気にしてはいない。俺のほうこそ、言葉が過ぎた部分があった。非礼を詫びよう」

ミ,,゚Д゚彡「作戦を聞いて、思ったよ。アンタは純粋に、ショボンを討ちたいだけなんだってな。
     そのためにオオカミ城が必要なんだって理解できた。
     だから、アンタを信じられたんだ」

( ゚д゚)「そうであれば、俺としても助かる」

 フサギコの性格が、少しずつ分かってきた。
 要するに、思ったことは素直に言ってしまいたいタイプなのだ。
 抱え込んだ、無理に抑え込んだりすることはできないのだ。

 ヴィップ城でもそうだった。
 ブーンと一度、軍議の場で激しく言い争っていた。
 自分は詳細を知らないが、あのときも思ったことを率直にぶつけたのだろう。

 でなければ、気が済まないし、相手とも打ち解けられないのだ。
 正直な人柄だった。
 最初の衝突で分かり合えれば、あとは上手くやっていける、といった塩梅だろう。

( ゚д゚)「ぶつかりあってこそ、生まれる信頼もあるさ」

 かつて、自分とリレントがそうだったように。
 いかにも遅すぎたが、最後の最後で信頼関係が芽生えた、自分たち二人のように。
 その言葉は、口にせず飲み込んだ。
173 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:30:40.38 ID:OlwNOOV/0
 壁を探りながら、進んでいた。
 一里ごとに用意された窪みを、手で確認できる。
 そうやってオオカミ城との距離を測っていく。

 暗く長い道は、何か目印がないと心が折れそうになるのだ。
 その対策のためだった。
 無論、これもディアッドの提案だ。

 今、三里ほど進んだ。
 まだ遠い。時間はかかる。

 一度、休憩を取った。
 点呼を取る。誰も遅れてはいない。
 士気が下がっている気配もなかった。

( ゚д゚)「……出発」

 短く言って、再び進みだした。
 オオカミ城を奪い取るべく、長く、暗い穴の中を。

 作戦の、概要。
 それは、脱出用に作られた道から内部に侵入し、城を占拠する、というものだった。
 そのために、この四人が隊となって進んでいるのだ。

 オオカミ城にいるのは、およそ五千ほどだという。
 しかし、対するこちらは、たった四人。
 アルファベットには優れているが、Sの壁を越えているのは自分ひとりだ。
176 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:32:21.35 ID:OlwNOOV/0
 五千を丸ごと相手にするつもりはなかった。
 敵を、外に誘き寄せる。城内の兵数を減らす。
 その役目を負ったのが、ルシファーだ。

 一千の騎馬隊を率い、オオカミ城に接近する。
 敵は訝しがるだろう。たった一千で攻めて来るなど、おかしなことだ、と。
 何か罠を仕掛けているのかも知れない、くらいは考えるはずだ。

 だが、城内に篭る可能性は低い。
 見える敵はたった一千だ。普通は殲滅に動く。
 さほど城から離れなければ問題はない、とも思うだろう。

 ラウンジは城門を固めるはずだ。
 万一、敵が城門に迫っても、遺漏ないように、と。
 だが、城門をいくら防護したところで意味はない。本当の敵は、地下から侵入してくるのだ。

 ルシファー率いる一千には、かなりの危険がある。
 無論、それは伝えた。ルシファーも把握していた。
 全てを理解した上で、ルシファーは頼みを引き受けてくれたのだ。

 本当は、フサギコかビロードに任せるべきかも知れなかった。
 が、城内へ攻め込むほうに、なるべくアルファベットの上位者を置きたかったのだ。
 フサギコはR。ビロードはO。いずれも兵卒とは比べものにならない。

 敵に発覚すれば一巻の終わりだ。
 だから、大人数を連れてくることもできなかった。
 ひとりひとりが精兵である必要があったのだ。

 目標は、ただひとり。
 オオカミ城の守将である、リディアル=ロッド少将だ。
187 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:34:21.08 ID:OlwNOOV/0
 リディアルを討ち取れば城内の兵は降伏するだろう。
 ラウンジ軍内では、ギルバードに次ぐ五番手の武将だ。
 衝撃は計り知れないほどのものになる。

 が、困難であることは言うまでもなかった。
 どこにリディアルがいるのかさえ分からない。敵の監視を潜って、探し出さなければならない。
 それに、リディアルも手錬だ。易々と討ち取られてくれるはずもないのだ。

 リディアルに勝てる可能性が一番高いのは、自分だ。
 自分が探し出し、戦わなければならない。
 重圧は、多少なりあった。

 だが――――。

( ゚д゚)(……やってやろう)

 気概は、誰よりもあった。
 知り尽くした城。おおよその予測もついている。
 自分の働きが、肝要になってくる。

 重圧さえ力に変える。
 それくらいの気概は、ある。

 七つ目の窪みに触れた。

 視界には何も映らない。
 ときどき声を掛け合わなければ、言い知れない孤独感に包まれるだろう。
 だが、いる。三人とも、ちゃんと後ろについてきている。
200 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:36:46.18 ID:OlwNOOV/0
 この三人と共に、オオカミ城を奪う。
 必ず、奪ってみせる。軍人としての誇りにかけて。
 皆が作戦に賛同してくれたときから、気持ちは高ぶっていた。

 そして、八つ目の窪み。
 つまり、ここが到着点だった。

 手を、上に伸ばした。
 取っ手の感触がある。これを上に押し上げれば、城内に入れる。
 遂に、ここまで来た。

( ゚д゚)「皆、最後にひとつだけ言っておく」

 後ろを振り返っても、何も見えない。
 だが、呼吸を感じる。気配を感じる。
 素直に、頼もしいと思える。

( ゚д゚)「例え誰かが倒れても、惑うな。
    そして、再びこの穴に戻ってこようなどと思うな。
    この城を奪う。それだけを、常に考えてくれ」

 三人から、声が返ってきた。
 覇気が、込められている。今更言うまでもないことだったようだ。

( ゚д゚)「行くぞ」

 取っ手を掴んで、押し上げた。
 上には何も乗っかっていない。障害は、ない。
213 :第88話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/14(月) 19:38:53.52 ID:OlwNOOV/0
 長く暗かった穴から、抜け出した。
 オオカミ城内に、侵入した。














 第88話 終わり

     〜to be continued

戻る

inserted by FC2 system