5 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:39:07.47 ID:3c63Xrfz0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:ローゼン城

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
46歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:シャナ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:カノン城
12 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:40:08.74 ID:3c63Xrfz0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:カノン城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:シャナ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ローゼン城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ローゼン城
18 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:41:22.64 ID:3c63Xrfz0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:カノン城

●プー゚)フ エクスト=プラズマン
32歳 中尉
使用可能アルファベット:?
現在地:カノン城
21 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:41:59.70 ID:3c63Xrfz0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:ビロード/ベルベット/アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク/エクスト
少尉:

(佐官級は存在しません)
24 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:42:38.68 ID:3c63Xrfz0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー/ファルロ
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
29 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:43:32.95 ID:3c63Xrfz0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

31 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:44:02.62 ID:3c63Xrfz0
【第87話 : Negotiate】


――カノン城付近――

 一瞬にして、倒される。
 それも、次々と。

 ラウンジが、城壁のD隊を封じるために立てた櫓。
 簡単に倒壊するようなものではなかったはずだ。
 しかし、いとも容易く薙ぎ倒されていく。

 さすがに想定外だったのだろう。
 未曾有の、大規模な嵐だった。

<;`∀´>「混戦にならないよう注意するニダ!」

 叫んだが、側近の兵にさえ届いたか分からない。
 それほど強烈な雨と風が戦場を襲っている。

 確かに先ほどまでも雨は降っていた。風も吹いていた。
 だが、突如として嵐は激しさを増し、戦場を乱し始めたのだ。
 一瞬の静寂は、予兆だったのかと思うほどに。

 完全に戦局は乱れきっていた。
 視界は横殴りの雨に塞がれ、敵兵との距離さえ掴めない。
 分かるのは、ラウンジの櫓が傾いていっていることだけだ。
36 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:45:21.23 ID:3c63Xrfz0
 両軍の攻撃は止んでいる。
 というより、とてもまともにアルファベットを振るえる状態ではない。
 だが、好機だ。上手く戦えれば、苦境を打破できるかも知れない。

 そして、同じことを考えていた部隊があった。
 M隊からの牽制が止んだことにより、自由になった城壁上のD隊だ。

 吹き荒れる強風のなか、二つ目の雨が降り注いでいた。
 大量のF。狙いなど、全く定まっていない。
 だが、可能な限り遠くへ放てば、ラウンジの兵に当たる可能性のほうが高い。

 二人の少尉の判断は、そんなところだろう。
 的確だった。実際、Fはラウンジの兵を次々に倒していく。
 突然の嵐により、状況を把握できていない。その上で、Fに襲われているのだ。

 何よりラウンジが不安がっているのは、北に残してきた船だろう。
 あれが全て流されたとしたら、ラウンジは撤退の術を失う。
 退路を断たれることを恐れ、ヴィップとの戦いに集中できていないように思えた。

 ショボンの判断は、分からない。
 自分がショボンなら、ここはかなり迷うだろう。

 このまま攻撃を継続した場合、ラウンジはカノン城を奪えるかも知れない。
 しかし、下手に粘って奪えなかった場合、甚大な損失を被ることになるのだ。
 ショボン自身の命さえ危ぶまれる。

 ラウンジの包囲陣は乱れている。
 何と言っても、城壁上のD隊によるFが大きい。
 戦が始まったとき、G隊を押し出してFを塞ぎながら前進してきたときとは、状況が違いすぎるのだ。
42 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:47:14.37 ID:3c63Xrfz0
 特に騎馬隊はどうしようもないだろう。
 こんな状況下で馬をまともに扱えるとは思えない。

 つまり、ショボンが誇る精強な近衛騎兵隊も、機能を果たせない。
 何もかもヴィップにとって有益な嵐だった。

 城壁からのFは、闇雲だろう。
 しかし、射ち下ろしである以上、方向は逸れても敵兵には当たる。
 何せラウンジは十万の軍だ。風に煽られようと、誰かには命中するだろう。

 きっと、意地だ。
 この強風のなか、D隊がFを射れているのは。
 カノン城を渡したくない、負けたくない、という意地がFを放たせているのだ。

 だから、あの絶望的だった戦局が、好転しているのだ。

<ヽ`∀´>「最後の力を振り絞るニダ!!」

 馬から降りて、自分の足で敵に迫った。
 強風に逆らうようにして、アルファベットを振るう。
 惑うラウンジ兵の首を飛ばす。

 ここでラウンジの背中を押してやればいい。
 それだけで、撤退への道を加速して進んでいくはずだ。

 強烈な雨と風にさえ負けなければいい。
 ラウンジは、抗う姿勢をまるで見せていない。

 やがて、ラウンジの兵は少しずつ後退しはじめた。
 心の中では、自らの咆哮が谺していた。
50 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:48:44.05 ID:3c63Xrfz0
――ラウンジ軍側――

 怒りの、ぶつけどころがない。
 あまりにも、無情だった。

(´・ω・`)「防ぎつつ後退しろ!」

 撤退。やはり、そうせざるをえなかった。
 突然の嵐により櫓が倒れ、D隊からの集中砲火を浴びることになってしまったからだ。

 いや、突然ではなかった。
 予兆は確かにあったのだ。強風や、降り出した雨など。
 だが、ここまで強まるとは予測できなかった。

 櫓はかなり頑丈な固定を施してあったにも関わらず、簡単に崩壊させられた。
 上にいたM隊の安否は気がかりだが、それよりも十万近い大軍の撤退が先だ。
 躊躇していると、いたずらに犠牲を増やしかねない。

(´・ω・`)(ちっ……)

 ヴィップ軍の動きを見て、舌打ちしたくなった。
 決して厳しくはないが、かといって緩くもない。
 上手い追撃のやり方だ。

 強引に攻めすぎると、飲み込まれかねないのを分かっているのだろう。
 さすがにニダーは熟練の将だけあって、戦い方を知っている。
 自分が東塔にいたころはあまり活躍の機会に恵まれなかったようだが、普通に戦えばやはり手強い将だ。
54 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:50:48.23 ID:3c63Xrfz0
 ヒッキーとロマネスクが援軍としてやってきたのも、痛かった。
 包囲陣の中核である自分の部隊が、攻めに使えなくなったのだ。
 援軍を相手にすることしかできなかった。

 もう少し戦うことができていれば、援軍の二人を討ち取れたかも知れない。
 つくづく、最悪のタイミングでの嵐だった。

 今や馬が満足に走ることもできない状況だ。
 それはお互いに、だが、騎馬が多いぶんこちらのほうが辛い。
 馬を捨てていくことはできないからだ。

 ヴィップの追撃を、振り切りたかった。
 となるとやはり、自分がしんがりを指揮取るしかない。
 多少の危険は伴うが、死ぬことはないだろう。

 が、自分の思惑を許さない一撃があった。
 側面。次いで、背後。
 ヒッキーとロマネスクだ。

(´・ω・`)「見るべきところを見ていたか」

 ここで自分が自由に動き回れば、ヴィップにとっては辛い展開だろう。
 ヒッキーとロマネスクの攻撃は的確だった。
 騎馬隊が使えなくなった今、不利なのは寡兵である自分の部隊のほうだ。

 先ほどまでは五千で一万を押していたが、それも遠い過去のように思える。
 やはりここは、逃げることしかできないのだ。
61 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:52:47.98 ID:3c63Xrfz0
 多少の犠牲を払いながら、船に帰るしかない。
 ピエロ川に辿り着くのは難しくない。しかし、犠牲はいったいどれほどになるのか。
 あまり想像したくなかった。


――シャッフル城――

 雨が降り続いていた。

( ^ω^)(やっと着いたお……)

 ヴィップ城から発ち、駆けに駆けてシャッフル城に到着した。
 ラウンジよりも早く、だ。
 不測の事態でも起きない限りは先に着くだろうと思っていたが、安堵できた。

( ´_ゝ`)「ラウンジはさすがに人が多すぎて移動が遅いみたいだな」

(´<_` )「ベルベットはラウンジの位置を掴んでいるだろうか?」

( ^ω^)「斥候を放ってたとしても、探れるのはせいぜい数十里ですお。
      そこまで迫ってたらきっと城も慌しくなってるはずですお。
      だから多分、正確な位置は把握してないんじゃないかなと」

( ´_ゝ`)「そうだぞオトジャ、分かりきってることじゃないか」

(´<_`;)「アニジャに言われると無性に腹が立つ」

 ヴィップ城から率いてきたのは、二万五千。
 シャッフル城には元より、三万の兵が滞在していた。合計で五万五千だ。
 同じように計算すれば、今頃オリンシス城には四万五千がいるはずだ。
64 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:55:13.54 ID:3c63Xrfz0
 兵を城内に入れたあとは、ベルベットと再会した。
 話し合うべきことは多くある。
 ありすぎるほどだ。

( <●><●>)「遠来お疲れ様です」

( ^ω^)「ベルベットこそ、前線で常に警戒しっぱなしで、疲れてないかお?」

( <●><●>)「大将の任務に比べれば、軽いものだと分かっています」

(;^ω^)「そんなことないお」

 大将に就任した旨は既に伝えてあったが、ベルベットの反応はやはり淡白だった。
 特に祝うでもなく、意見を述べるでもなく、当然のように受け入れている。
 あるいはジョルジュとモララーが戦に出れないと知ったときから、分かっていたことなのかも知れない。

 自分とベルベットとサスガ兄弟の四人で、軍議室に向かった。
 腰を落ち着けて話し合いたかったからだ。

 シャッフル城を拠点としていたことはあまり多くない。
 しかし、今でもこの城を奪ったときの苦労は思い出せる。
 初めてミルナと相対した戦でもあった。

( <●><●>)「茶を運ばせます」

( ^ω^)「あ、別にいいお。喉渇いてないお」

(´<_` )「うむ、それよりも話し合いが先決だ」

( ´_ゝ`)「俺は喉カラカラなんだが……」
69 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:57:04.28 ID:3c63Xrfz0
(´<_`;)「……空気嫁アニジャ」

(;´_ゝ`)「あ、あぁ、そういえばさっき浴びるほど飲んだんだったな。忘れてたよ。
      いやー、四十四にもなると物忘れが激しくて敵わんなぁ……」

(;^ω^)「えー……じゃあ軍議を始めますお」

 上座に座って、皆を見渡した。
 とは言っても三人だ。あまり大将らしさはない。
 大将の視点はこうなのか、と感慨深い気持ちになることもない。

( <●><●>)「まず兵糧についてですが、これはさほど問題ありません。
        アルファベットに関しては若干Fが不足しています」

( ^ω^)「Fは運ばせてきたお。多少補えるはずだお」

( <●><●>)「助かります。地下の生産所で作らせてはいますが、規模が小さく職人も足りません」

(´<_` )「それは地方の城である以上、致し方がないな」

( <●><●>)「兵の調練は欠かさずおこなっています。もう少し馬が欲しいところですが」

( ^ω^)「うーん、北に回さざるをえなかったから、馬の不足については……」

( <●><●>)「分かりました。現状で何とかするしかない、ということですね。
        騎馬隊は七千ほどですか。野戦となると、少々厳しい戦いかも知れません」

( ^ω^)「ラウンジがこっちを攻めてきた場合は、オリンシス城から騎馬隊を回してもらうお」

( <●><●>)「でしたら多少は緩和されることと思いますが」
74 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 11:58:58.83 ID:3c63Xrfz0
( ^ω^)「ラウンジの軍勢にもよるお。ブーンの予測では、十二万くらいかなと」

( <●><●>)「私は十一万と予想を立てていますが、当然、多いほうを想定しておくべきでしょう」

( ´_ゝ`)「十二万がまるまるシャッフル城に攻め寄せてくるとなれば、苦戦は必至だな」

(´<_` )「うむ。だがオリンシス城にいる四万五千は、ラウンジも無視できない」

( ^ω^)「ラウンジが拠点とする城が重要になってきますお。
      フェイト城なら両方に睨みが利く。ダカーポ城ならシャッフル城に集中してくる」

( <●><●>)「恐らくフェイト城でしょう。オリンシス城からの援軍を牽制できる位置にあるわけですから」

( ^ω^)「どっちに攻めるか直前まで分からせないためにも、やっぱりフェイト城が無難なところかお」

(´<_` )「だが遠いな、フェイト城は。ヴィップからすれば、ダカーポ城よりありがたいが」

( ´_ゝ`)「川を挟んでいるのが難点、ということだろう。ラウンジは水に慣れていない」

( <●><●>)「いずれにせよ、トーエー川の渡渉地点で見極められるはずです。
        東寄りなら拠点はダカーポ城、西寄りなら拠点はフェイト城、と見て間違いありません」

( ^ω^)「その通りだお。ラウンジの渡河に気を配る必要があるお」

 それから話は迎撃方法に移り変わった。
 基本的には、属城を使って守る。シア城とリン城だ。
 シャッフル城の城門は固く閉ざし、敵が城を攻めようとすれば南の属城から攻撃を加える。
79 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:01:01.71 ID:3c63Xrfz0
( ^ω^)「属城からの攻撃は、アニジャさんとオトジャさんにお任せしようと思いますお」

( ´_ゝ`)「大任だな、嬉しく思う」

(´<_` )「アルタイムでもカルリナでも、俺たちが封じてみせよう」

( ^ω^)「シャッフル城からの守りはブーンが全面的に指揮するお。
      ベルベットは騎馬を用いての遊撃隊。アニジャさん、オトジャさんと上手く連携してほしいお」

( <●><●>)「把握しました」

 話し合っておくべきことは話し合い、軍議を終えた。
 これからまだ編成を整える必要があるが、ラウンジが来るまでには間に合うだろう。
 あまり焦りすぎず、適度な緊張感で準備を進めたいところだ。

 いつでも気張っていては、体も心も疲れてしまう。
 ラウンジとの戦は、苦しい。だから万全の状態で臨みたいのだ。
 幸い士気は高いが、それに体がついていかないようでは困る。

( <●><●>)「ブーン大将、お願い事が」

 軍議が終わったあと、人の往来の少ない廊下にて。
 ラウンジとの戦について、漠然と頭の中に考えを広げていた。
 そこに入り込んできたのが、ベルベットの声だった。

( ^ω^)「どうしたんだお?」

( <●><●>)「この場で構いませんので、お付き合いいただけませんか?」

( ^ω^)「……ん? 何にだお?」
84 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:03:09.46 ID:3c63Xrfz0
( <●><●>)「私の挑戦に、です」

 素早く抜かれた。
 アルファベット、R。

 傾き始めた太陽の光を、照り返している。

 何故か、心は穏やかだった。
 自分も自然と、アルファベットを構えている。
 ベルベットより数段上の、Vだ。

( <●><●>)「一撃で、済みます」

( ^ω^)「……分かったお」

( <●><●>)「では、失礼します」

 ベルベットの体が、流れた。
 まるで線の集合のようになって。

 一瞬だった。
 身を沈めながら、左方に動いたベルベット。
 勢いよくRが振るわれる。

 一瞬で、自分は全てを把握できていた。

( ^ω^)「おっ……」

 右手に走った衝撃は、さすがに軽くなかった。
 最大限の力が込められていたからだ。
92 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:05:18.38 ID:3c63Xrfz0
 衝撃を音が追った。
 小気味のいい金属音だった。

( <●><●>)「……ありがとうございました」

 いつも通りの平静さを見せたまま、ベルベットはアルファベットを収めた。
 自分はとうにアルファベットを背に戻している。

( <●><●>)「何故なかなかSの壁を越えられないのか、分かったような気がします」

( ^ω^)「それは良かったお。きっかけになりそうかお?」

( <●><●>)「分かりませんが、いつまでも躓いてはいられません。
        近いうちに越えてみせます。国のためにそうしなければならないと分かっています」

( ^ω^)「期待してるお。ベルベットなら絶対越えられるお」

( <●><●>)「努力を重ね――――」

 二人同時に、気配を感じた。
 ベルベットが言葉を切ったのも、そのためだ。

 それははるか彼方の敵意でもあり、ごく近くの焦燥でもあった。
 廊下を激しく叩きながら駆け寄ってくる伝令。

 内容は聞かずとも分かった。
 ラウンジ軍の、接近だ。

( <●><●>)「東寄り、ですか」
95 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:07:23.35 ID:3c63Xrfz0
( ^ω^)「フェイト城には入らないつもりかお……」

 伝令は必死で駆けてきてくれた。
 労いの言葉をかけ、休息を取るよう言うと、他の兵に支えられながら歩いていく。
 少しでも早く伝えるべく、懸命になってくれたのだ。

 皆がこの戦に勝とうとしている。
 自分は大将として、皆の気持ちを無碍にするわけにはいかないのだ。

 編成を整えた。
 予めシャッフル城の軍との兼ね合いを考えていたため、さほど難しい作業にはならない。
 ベルベットと二人で行い、空の色が黒く変わるまでには全て終わった。

 アニジャとオトジャには、まだ夜が明けきらないうちに出立してもらった。
 率いていくのは、ヴィップ城から伴ってきた兵だ。
 シャッフル城の守備はやはり、元よりシャッフル城に留まっていた兵のほうがいい。

 ラウンジ軍の到着予測は二日後だった。

 まだシャッフル城を攻めてくると決まったわけではない。
 そのまま南下してオリンシス城を攻める可能性もある。
 だが、フェイト城に拠らなかった、ということは、恐らくシャッフル城戦の準備を既に完了させているのだろう。

 このまま攻撃してくる、と見て間違いなさそうだった。

( ^ω^)「……来たお!」

 二日間、やれる限りのことをやった。
 万全と言ってもいい状態だ。
102 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:09:39.51 ID:3c63Xrfz0
 何がなんでも守り抜く。
 もう、それしかない。
 一城たりとも渡してはならないのだから。

( <●><●>)「西、二十里地点まで迫ったのち、東門から遊撃隊を出陣させます」

( ^ω^)「頼んだお」

 ラウンジはまだ五十里ほどの位置にいる。
 だが、大兵団がこちらに迫っているのは分かる。
 肉眼では確認しづらくとも、肌で感じるのだ。

 十三年、戦に生きてきた。
 その経験が、教えてくれているのだ。

 ――――そして、呟く。
 十三年の経験が、耳元で。

 何かが、おかしいと。

(;^ω^)「……どういうことだお?」

( <●><●>)「隊を……分けましたね」

 シャッフル城の城塔からの視界には、はっきりとそう映った。
 隊がちょうど半分に分けられ、片方はこちらに向かい、片方は南下していくのだ。

 同時侵攻。
 これは、想定していなかった。
108 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:11:39.72 ID:3c63Xrfz0
( <●><●>)「変です。カルリナとアルタイムが、このような策を取るとは」

(;^ω^)「確かに、おかしいお」

 想定していなかった理由は、たった一つだ。
 この策は、ラウンジにとって何の旨味もない。
 どう考えても、一城に集中させたほうがいいに決まっている。

 正確な数は分からないが、恐らく全軍で十二万ほどだろう。
 シャッフル城には五万五千。本来なら、倍数以上で攻められるはずだった。
 苦戦は必定だったのだ。

 だが半分に分けられたことにより、六万と五万五千の戦いになる。
 これは、互角どころか地の利で優っているヴィップのほうが有利な戦いだ。
 ラウンジがそんな策を取ってくるとは思わなかった。だから想定していなかったのだ。

(;^ω^)「これでも勝算がある、ってことかお?
      一気に二つ奪いに来たのは、互いの城の連携を防ぐため……?」

( <●><●>)「分かりませんが……ともかく、警戒が必要です」

 自分もベルベットも分からない。
 ラウンジの狙いが、分からない。

 兵も予想外だろうが、ここは慌てさせてはならない。
 事前の予定通りに行動を取るべきだ。

 そう思っていたところに、更に想定外の行動が起きた。
 さすがにこれは、夢にも思わなかった。
119 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:14:06.70 ID:3c63Xrfz0
 たった一騎の兵が、こちらに向かってくるのだ。
 あまりに無防備。D隊を使えば、為す術なく討ち取られてくれるだろう。
 いったい、何のつもりなのか。

( ^ω^)「ただの兵卒……かお?」

( <●><●>)「いや、あれは――――」

 近づくにつれ、判然としてくる。
 見慣れない顔。当然だ。ショボン以外の誰であろうと、見慣れているはずがない。
 だが、同時に見覚えのある顔でもある。

 似顔絵でしか見たことはないが、間違いなかった。
 あれは、カルリナ=ラーラスだ。



――カノン城付近――

 あまり深く追撃することはできなかった。
 もし途中で嵐が止むようなことがあれば、即座に反撃を受ける。

 可能な限り被害を与えたいが、最優先すべきは城の確保であり、堅持こそが至上命令だ。
 敵の牙城であるラウンジ城を脅かすためにも、失ってはならない城なのだ。

 城から、百里以上は離れられなかった。
 途中でラウンジへの追撃をやめ、城に引き返す。
 ラウンジが反撃に出てくる様子は、ない。
129 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:16:12.68 ID:3c63Xrfz0
 できるだけ馬を集めたい。
 ラウンジは頑張って馬を曳いていったが、それでも放置された馬は多いのだ。
 馬が不足気味なヴィップにとって、ラウンジの馬は魅力的だった。

<ヽ`∀´>「アルファベットの回収は後でもいいニダ! とにかく馬ニダ!」

 雨音で声がかき消されても、繰り返し叫んだ。
 やがては伝わり、その言葉は兵伝いに広がっていく。
 疲労困憊の体に鞭を打って、皆が馬の回収に全力を尽くしてくれた。

 ふと、風が弱まった。
 横から当たっていた雨も、いつしか真上から降り注いでいる。

 嵐の中心が、やってきたらしい。いわゆる、目というやつだ。
 最初から最後まで、ヴィップの味方をしてくれるようだった。

<ヽ`∀´>「一時的ニダ、でも今のうちに回収を終えるニダ!」

 今頃、ラウンジは嵐の猛威に喘いでいるだろう。
 対するヴィップは悠々と体勢を立て直せている。

 ラウンジの被害はどれほどに及んだだろうか。
 ヴィップも決して軽微ではない。

 しかし、城は守り抜いた。
 運が良かっただけの戦だが、結果を得られた。
 それが、何よりだった。
138 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:18:21.64 ID:3c63Xrfz0
(-_-)「ニダー中将……」

 雨に濡れた髪が垂れ下がり、表情が確認しづらい。
 いつも覇気のないヒッキーだが、髪のせいで余計にそう見えた。
 だが、この人が活気に満ちていても、それはそれで戸惑う。

<ヽ`∀´>「ヒッキー少将、無事だったニカ?」

(-_-)「何ともありません……援軍として率いてきた騎馬隊は、一千ほど減ってしまいましたが……」

<ヽ`∀´>「こちらの三万も、三千は討ち取られたと思うニダ。
      ただ、損害はラウンジのほうが大きいはずニダ」

( ФωФ)「天運に、恵まれましたな」

 ヒッキーの後ろからやってきたロマネスクは、袖で顔を拭っていた。
 瞼を何度も瞬かせている。猫のような目がその向こうに見えた。

<ヽ`∀´>「全くニダ。嵐が来なかったら、負け戦だったニダ」

( ФωФ)「初めて、死を覚悟致しました」

(-_-)「私もだ……活路を全く見出せなかった……」

<ヽ`∀´>「十万の大軍も、ショボンも……あまりに脅威的だったニダ。
      でも、糧になるニダよ。恐ろしさは身に沁みたニダ。
      これを発条にできる兵が、ヴィップにはたくさんいるニダ」

(-_-)「……そうですね……」
144 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:20:33.34 ID:3c63Xrfz0
( ФωФ)「更なる精進を重ね、次こそは完勝を収めたいものであります」

<ヽ`∀´>「ウリも、同じ気持ちニダ」

 ラウンジが次に打ってくる手は、まだ分からない。
 一時的に退けた、というだけの話だ。壊滅的な打撃は与えていない。
 だが、多少の猶予は得られただろう。

 守りだけではなく、今後は攻めも考えなければならない。
 ここにいる三人と、エクストと、城内の少尉二人。
 その六人で、しばらく戦っていくことになるだろう。

 此度の戦は、ただの序章に過ぎない。
 ラウンジの本領が発揮されるのはこれからだろう。

 そして、ヴィップの真価が試されるのも、これからなのだ。



――オリンシス城付近――

 戦が始まってから、既に三刻は経過していた。
 はっきりと、ラウンジが不利だ。

(;`・ι・´)「くっ……」

 ヴィップは、正面から迎え撃ってきた。
 何の小細工もない。ただ全軍で陣を敷いてきた。
 鶴翼陣形。それに対するラウンジは、魚鱗。
154 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:23:21.02 ID:3c63Xrfz0
 自分は六万を率い、南進した。
 それに比べ、ヴィップの兵数はこちらに劣る四万五千だ。
 城内に五千ほど残しているらしく、いま戦っているのはおよそ四万だった。

 なのに、攻めきれない。

 それでいいのか、と問いたくなるほど、薄い陣だった。
 一点のみに集中すれば、簡単に破れると思えた。
 だが、次々に弱まった部分を補強され、打ち破れる気配さえ今はない。

 アルファベットVのような形に、いつの間にか動かれていた。
 これも手痛かった。敵に攻め込んだ部隊が後ろに戻る際、背後を突かれたのだ。
 慌てて魚鱗を鋒矢のように組み替えたが、全てが遅かった。

 敵陣を指揮しているのは、ミルナ=クォッチ。
 そしてビロード=フィラデルフィア。
 フサギコの姿は見当たらない。どうやら城内に留まっているようだ。

 ヴィップ軍に入ったという報せは聞いていたが、やはりミルナは手強い相手だった。
 隙がない。そのうえ、大胆だ。
 寡兵の相手に、何故か圧迫感を覚えさせられる。

 全体をまとめあげているのはミルナだが、細かい指示を与えているビロードも手錬だった。
 今まで戦ったことはなかったが、視野が広い。戦局眼に優れている。
 こちらも気付かぬ間に陣を動かしたのはビロードだ。恐ろしかった。

 さして犠牲があるわけではない。
 まだ、戦える。
 しかし、押されている事実はなかなか動かない。
158 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:25:25.56 ID:3c63Xrfz0
 やはり、隊を分けるべきではなかったのだ。
 一つの城に対し、全軍で当たるべきだった。

 カルリナが、分けようと言ってきた。
 実行したい策がある。シャッフル城は任せてほしい。
 アルタイム中将は、オリンシス城をお願いします、と。

 上手くいけば一度に二つ落とせる。
 そのメリットは、確かに大きい。勢いに乗って、更に内部へ食い込むことも可能だろう。
 だが、双方落とせない可能性も出てくるのだ。

 カルリナの様子は、明らかにおかしかった。
 出陣する前から、だ。
 覇気がない。士気もない。戦う意欲を、まるで見せない。

 叱咤したこともあった。
 状況の変化を受け入れられない、カルリナに対してだ。
 発奮してくれればと思ったが、逆効果だったのかも知れない。

 繊細な男だ、というのは分かっている。
 だから今まで、厳しい言葉をぶつけることはなかった。
 しかし、それではカルリナが乗り越えられない壁も生じてくる、と思えたのだ。

 自分はあくまで、カルリナやショボンの手助けをしていればいい。
 上に立つべき男ではない。
 そう思ったからこそ、カルリナを前に押し出したかったのだ。

 だが、現状は厳しいと言わざるをえなかった。

(;`・ι・´)「手早く攻めるんだ! 遅々としていては付け入る隙を与えかねないぞ!」
165 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:27:29.16 ID:3c63Xrfz0
 何度も何度も鉦が打ち鳴らされていた。
 敵陣も同じだ。両軍の鐘の音が混ざり合って、聞き取りづらくなっている。
 あるいは、それが目的で、闇雲に鳴らしているのかも知れない。

 やはり、攻めきれない。
 ここは一度退いたほうがいい。

 撤退の鉦を鳴らした。
 すぐにラウンジ軍は後退を始める。ヴィップ軍の追撃も、始まった。
 しかし、たった数里でヴィップは追撃を諦めた。どうやら、こちらが隊を分けたことを警戒しているらしい。

 犠牲は二千ほどだろうか。
 ヴィップも同数程度のはずだ。しかし、大軍だったのはラウンジ側。
 損害数では、ヴィップを下回らなければならなかった。

 一度フェイト城に入る。
 そこで、カルリナの帰りを待つ。

 内容を聞いてもいないカルリナの策が、成ることを祈りながら、フェイト城への道を辿った。



――シャッフル城付近――

 単騎での接近。
 それも、国軍の中将が、だ。

 普通ならば、ありえないことだった。
180 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:29:55.11 ID:3c63Xrfz0
 ベルベットと二人で、城外に出た。
 迫ってくるカルリナを、ただ見据え、じっと待つ。
 アルファベットは背にある。それは、カルリナも同じだった。

 近づくにつれ、はっきりとしてくる。
 やはり、カルリナに間違いない。

 自分たちから数歩離れた距離でカルリナは馬を止めた。
 そして、軽く頭を下げ、鐙から腰を浮かす。

 同じ視点で、向かい合った。

( ’ t ’ )「ラウンジ軍中将、カルリナ=ラーラスです」

( ^ω^)「ヴィップ軍大将、ブーン=トロッソですお」

 美麗な顔立ちで、線の細い将だった。
 自分よりいくつか年上のはずだが、かなり若く見える。
 二十歳だと言われても違和感などない。

 アルファベットを抜いてくる気配はなかった。
 仮に抜かれても、たかだかP。こちらにはベルベットもいるのだ。
 負けようがない相手だった。

 一騎打ちなど、望んではいないだろう。
 あえて危険を省みず、単騎で駆け寄ってきたのだ。
 これは、話し合いを所望していると見て間違いなさそうだった。

( ’ t ’ )「ヴィップ国に、提案したいことがあるのです」
190 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:32:41.91 ID:3c63Xrfz0
( ^ω^)「お聞きしますお」

 心がざわめくことはなかった。
 何かを、持ちかけられる。事前に、そう覚悟していたおかげだろうか。
 沈着だった。

( ’ t ’ )「単刀直入に申し上げます。降伏していただけませんか?」

( ^ω^)「ッ……」

 カルリナの口調は、決然としていた。

 それ以外にはないだろう、という予感はしていた。
 だが、やはり不可解さは拭えない。

( ^ω^)「お断りしたはずですお。ショボン=ルージアルから、同様の提案を受けたときに」

( ’ t ’ )「その内容を、私は詳しく知りません。ですが、再度ご提案したいのです。
    ヴィップ国民を不当に虐げたりは致しません。無論、ヴィップ国軍の兵もです。
    穏便な和平を望んでいます」

 美しい言葉を並べ立ててきた、というのが率直な感想だった。
 ある意味、常套手段だ。しかし、聞きたくもない言葉だった。

( ^ω^)「それは、ラウンジの総意じゃないはずですお。
      言ってしまえば、カルリナ中将の独断。違いますかお?」

( ’ t ’ )「……違いません。ですが、賛同いただければ必ずや実現させてみせます」
203 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:35:46.81 ID:3c63Xrfz0
( ^ω^)「保証がありませんお」

( ’ t ’ )「でしたら、私の首をかけてでも」

 一陣の風が、二人の間を駆け抜けた。
 その音が、はっきりと聞こえる状態だった。

( ^ω^)「カルリナ中将の首をいただいたところで、この地が平和になるわけでもありませんお。
      こちらが懸念しているのは、ショボン=ルージアルの存在ですお」

( ’ t ’ )「……話し合って、説得してみせます」

( ^ω^)「確証のない提案は、受け入れられませんお。お帰りくださいお」

( ’ t ’ )「ブーン大将、あなたはこの地に更なる血が流れることも厭わないというのですか?」

( ^ω^)「……御為倒しは、もう充分なんですお」

(;’ t ’ )「ッ……!」

 カルリナが言葉を詰まらせた。
 どうやら、本音を突いていたらしい。

( ^ω^)「中将、自らの利益のために人命の尊さを持ち出すのは、やめてくださいお。
      この地の戦を終わらせるのは、そんな浅薄な言葉じゃないはずですお」

( ’ t ’ )「……ですが、事実です」

( ^ω^)「もう、引き下がれないんですお。戦いによる決着でしか、納得しないんですお。
      他の誰よりも、ショボンやクラウンが、そう思ってるはずですお」
210 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:38:04.31 ID:3c63Xrfz0
( ^ω^)「ヴィップ国民を同等の地位に、という条件をあの二人が呑むはずありませんお。
      何故なら、国境線上で会談をおこなった際、ショボンはそんなことを一言も言わなかったからですお。
      もし同等の地位でいいと思っているなら、あのとき絶対にその条件を、真っ先に提示したはずですお」

( ’ t ’ )「……それは……」

( ^ω^)「ブーン個人の考えでは、例えヴィップが天下を統一しても、ラウンジの民を虐げるつもりはありませんお。
      でも、ラウンジは同じ考えを持っていないはずですお。だから、相容れないんですお。
      戦うしかないんですお」

( ^ω^)「確約がない以上、中将の提案は受け入れられませんお。
      ……いや、例え確約があったとしても、多分もうショボンに対する不信は拭えませんお。
      ショボンの言葉を信じるのは、恐らく不可能ですお」

( ^ω^)「カルリナ中将がどれだけ真意を並べようとも、こちらはショボンとクラウンの存在を看過できない。
      その事実をご理解いただいて、そのうえで尚また提案したいことがあれば、再度お聞きしますお」

( ’ t ’ )「……そうですか……」

 カルリナが俯いた。
 気落ちしているようにも、次の言葉を探しているようにも見える。

( ^ω^)「カルリナ中将に戦意がなかろうと、ヴィップは戦いますお。
      それは、決して揺るがない未来ですお」

 顔を上げたカルリナの顔は、やはり秀麗だった。
 ただ、だからこそ気落ちしているときは表情に出るのだろう、と思った。

( ’ t ’ )「……今日は失礼するとします」
217 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:40:22.52 ID:3c63Xrfz0
 カルリナが、深々と頭を下げた。
 そして素早く、馬に飛び乗る。

 別れ際、何かを言ってくると思った。
 しかしカルリナはそのまま馬首を返し、馬を駆けさせていく。

 カルリナの背が小さくなっても、ずっと遠くを眺め続けていた。

( ^ω^)「ベルベット……どう思ったお?」

 カルリナとの会話中、ベルベットは一言も口を挟まなかった。
 話している間は気にも留めなかったが、終わってふと、何を考えていたのだろうかと気になった。

( <●><●>)「覇気が感じられません。カルリナは、単に戦いたくなかったのだと思います」

( ^ω^)「同じだお。だから御為倒しだと感じたんだお」

( <●><●>)「ですが、一時的な錯乱によるものでしょう。此度の提案は、およそまともなものとは言えません」

( ^ω^)「聡明と言われるカルリナらしくない話だったお。内容も、不確実で……」

( <●><●>)「今は冷静でない精神状態なのでしょうが、いずれはヴィップに立ち向かってくるはずです。
        ラウンジはこのままフェイト城に向かうようですし、引き続き警戒が必要かと」

( ^ω^)「だおだお、ブーンもそう思うお」

( <●><●>)「……見違えましたね、ブーン大将。少将だった頃と比べて。
        国を背負って立つ覚悟が窺えます」

( ^ω^)「お?」
223 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:42:23.90 ID:3c63Xrfz0
( <●><●>)「毅然とした様は、まさに大将に相応しい、と分からせてくれます」

(;^ω^)「そ、そうかお? よく分かんないお」

( <●><●>)「勝ちましょう、大将。先ほどの対応は、全てが正しいものだったと思います。
        あとはラウンジに勝つだけです」

( ^ω^)「もちろんだお」

 やがて遠景に、ラウンジが引き返していくのが映った。
 ベルベットの予測どおり、このままフェイト城に向かうつもりらしい。

 すぐにサスガ兄弟に伝令を送った。
 事の始終を説明しなければならないし、また新たに体勢を整える必要がある。

 とりあえず今は、衝突を避けられたことが何よりだった。



――オリンシス城――

 ラウンジの行動は不可解だったが、こちらにとって不利には働かなかった。
 だからこそ、難なく退けることができたのだ。

( ゚д゚)「助かった」

 戦を終え、城内に戻ったあと、ビロードにそう言った。
 幼い感じのする将だが、広い視野を活かした戦展開には、正直言って感服させられた。
228 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:44:23.35 ID:3c63Xrfz0
( ><)「勝てたことが何よりなんです」

( ゚д゚)「あぁ、全くだ」

 ビロードとは以前から何度も会話を重ねていた。
 モララーがプギャーに嵌められ、窮地に陥っていたとき、自分が助けたあとのことだ。
 ちょうどこの城にたどり着くまで、様々なことを話した。

 オオカミの将として見ていたときは、堅実な尉官という印象だった。
 決して将官にはなれないが、期待を裏切るような戦もしない。
 言わば、計算の立ちやすい将だ。

 だが、今日の戦を見るに、防衛戦に限れば全土でも無類の力を発揮する男だ。
 そう認識を改めるべきだった。

 ラウンジに攻められる機会が、確実に多くなる。
 ビロードの力は、重宝されるだろう。

( ゚д゚)「守りはさほど心配せずとも良さそうだな。心強い将がいてくれた」

(;><)「そんなことないんです。ミルナさんのおかげなんです」

( ゚д゚)「お前の謙遜は、美徳だな。驕らないところが、将としての長所だ」

(;><)「よ、よく分かんないんです!」

 ビロードとの間に、蟠りなどなかった。
 今回の戦も、自然な流れで自分に指揮権を預けてくれたのだ。
 最初は固辞したが、ビロードの意思は固かった。
235 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:46:25.07 ID:3c63Xrfz0
 総指揮は、慣れている自分のほうがいい。
 そう思っていたが、自分からは切り出しにくかった。
 ビロードが指揮権を預けてくれて、助かった部分も大きかったのだ。

 城を守ってくれたフサギコは、将としての欠点がない。
 会話しているだけでも分かる。攻める気持ちも守る気持ちも、バランスよく持ち合わせている。

 当然と言えば当然かも知れないが、ヴィップではギコに似ていた。
 直接話したことはないが、ギコもオールラウンダーであり、隙のない将官だった。
 二人は兄弟だというから、似ているのも不思議ではないことだ。

 将校はたった三人だが、均整は取れていた。
 これならば、倍数の相手でも退けられるかも知れない。
 北のシャッフル城と連携すれば、十二万を率いるアルタイム、カルリナの軍とも張り合えるだろう。

 こんな風に考えられたことが、オオカミ時代にあっただろうか。
 一瞬考えて、すぐにやめた。

 いま考えるべきは、もっと肝要なことだ。

 ビロードと二人で、フサギコに会いに行った。
 表情は明るい。ラウンジを相手に勝利を収められたからだろう。
 フサギコにとって、ラウンジは弟の仇だ。是が非でも勝ちたかったはずだった。

ミ,,゚Д゚彡「次の攻めはいつになるかな」

( ゚д゚)「分からん。北のシャッフル城を攻めたカルリナがどうなったか、によるだろう」

( ><)「何の連絡も来ないってことは、多分勝ってるんです」
242 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:49:10.57 ID:3c63Xrfz0
( ゚д゚)「だろうな。カルリナが英邁な武将とは言え、ブーンやベルベットが城を奪われているとは考えにくい」

ミ,,゚Д゚彡「次こそ全軍で来るはずだ。大事なのは、次の戦だ」

( ゚д゚)「あぁ、だからその前に、やっておくべきことがある」

( ><)「?」

 オリンシス城に来る前から、ずっと考えていた。
 誰にも相談はしていない。ブーンにも言っていない。
 軍令違反だと言うなら甘んじて受けるつもりだ。

 だが、実行してみるべきだと思った。

ミ,,゚Д゚彡「やっておくべきこと?」

( ゚д゚)「無論、攻めだ」

 二人の顔色が、変わった。
 何を言い出すんだ、とでも言いたげに。

 守りに守って、敵を疲弊させる。
 いまヴィップが取っている基本戦略に、間違いはない。
 だが、それはラウンジが予測していることでもあるのだ。

 意表を突きたい。
 それも、中途半端な形ではなく、三日三晩は眠れないような衝撃を与えたいのだ。

 そのためにはやはり、この策しかない。
256 :第87話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/07(月) 12:51:24.55 ID:3c63Xrfz0
(;><)「どういうことですか?」

ミ,,;゚Д゚彡「ミルナ中将、アンタいったい、どうしようってんだ?」

 動揺を隠そうともしない二人。
 考え直せ、と言われるだろう。だが、もう自分のなかでは決定している。
 あとは、作戦を実行するだけだ。

( ゚д゚)「攻め込む先は――――」

 必ず、成功させてみせる。
 誰のためでもない。自分のために。

 最終的に、ショボンを討つために。

( ゚д゚)「――――全土屈指の堅城、オオカミ城だ」











 第87話 終わり

     〜to be continued

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