- 4 :登場人物
◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火)
00:37:52.53 ID:+0DrIgcS0
- 〜ヴィップの兵〜
●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:ローゼン城
●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城
●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城
●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
46歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:シャナ城
●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:カノン城
- 10 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:38:58.47 ID:+0DrIgcS0
- ●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:カノン城付近
●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:シャナ城
●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城
●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城
- 17 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:39:37.56 ID:+0DrIgcS0
- ●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ローゼン城
●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ローゼン城
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:カノン城付近
- 23 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:40:16.02 ID:+0DrIgcS0
- 大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー
大尉:ビロード/ベルベット/アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク
少尉:
(佐官級は存在しません)
- 26 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE
:2008/01/01(火) 00:40:52.92 ID:+0DrIgcS0
- A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー/ファルロ
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
- 35 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE
:2008/01/01(火) 00:42:00.18 ID:+0DrIgcS0
- 一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml
(現実で現在使われているものとは異なります)
---------------------------------------------------
・全ての国境線上
- 40 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:42:31.74 ID:+0DrIgcS0
- 【第86話 : Menace】
――カノン城付近(カノン城まで三十里地点)――
小細工は要らない。
正面から堂々と、突き破っていけばいい。
それが成せるだけの力は、ある。
(´・ω・`)「準備は整ったな」
陣形をもう一度見回した。
従えるは八万の兵。側方を一万ずつが固めている。
合計、十万。
船を守らせるのに一万を割いたため、これが限界数だ。
最初から全力で。まずは、機先を制すことが大事だからだ。
ヴィップに脅威を与えることもできる。
そのヴィップが城外に出しているのは、僅か三万。
残りの一万は城内だろう。話にならない兵力差だった。
しかし、侮れない。
差を分かっていながら、ニダーは兵を出しているのだ。
何か策を抱えている可能性もある。
が、まずは真正面からのぶつかりあいで、敵を試してみたかった。
(´・ω・`)「行くぞ」
- 52 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:44:32.24 ID:+0DrIgcS0
- 配下の将、兵に伝えた。
打ち鳴らされる鉦。ヴィップに緊張が走ったのが見える。
敵陣との距離を詰めるべく、陣を進ませた。
三十里を挟んで向かい合っているが、三里までは迫っていい。
どうせ堅陣を敷いているヴィップは動けない。
東から、全身を叩くような強風が吹いていた。
髪が乱れないよう、防具は被っている。しかしその防具が吹っ飛びそうな風だった。
強まらないよう、祈るばかりだ。
ヴィップ軍三万は、城壁の下で陣を構えていた。
城内の一万と連携し、城壁からDでFを射るつもりだろう。
城門が近いというデメリットもある戦法だが、野戦にかける思いは強いようだった。
そのほうが、戦いやすい。
恐らく、お互いに、だ。
三里の地点で、一度進軍を止めた。
ヴィップはやはり、動かない。
元より、こちらから攻め込む予定だった。
存分に構えろ。全力を見せてこい。
それを上回ってこそ、自分は大将に相応しいのだと皆に示せる。
ラウンジを背負って立つに適した男だ、と誰もが納得するはずだ。
疾風が翔ける曇り空の下、ラウンジ軍が一斉に駆け出した。
(´・ω・`)「進め!」
- 57 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:46:13.07 ID:+0DrIgcS0
- 先頭はG隊。
まずは城壁からのFを防いで、敵陣に迫るためだ。
多少の被害は出るだろう。しかし、怯まずに突撃すればいい。
強風に流されながらも、城壁からはFが降り注いでいた。
前に押し出したG隊は上手く防いでいる。防ぎながら、前進している。
敵陣との距離は、もう半里にも満たない。
着実に前進を重ね、やがて敵陣に触れた。
ヴィップの先頭はI隊。必死でアルファベットを突き出してくるが、それも防御した。
これでいい。後方の準備が整うまで、ヴィップの気を引く必要がある。
間断なく降り注いでいたFの勢いが、緩まっていた。
ヴィップ軍に接しているためだ。下手をすれば、味方に当てかねない。
(´・ω・`)「さぁ、鉦を鳴らせ」
準備が整ったようだ。
ここからが、ラウンジの本領発揮だった。
小さく組み上げられた木の櫓。
その四方に備え付けられた縄。
数人で力強く引くと、櫓が高く昇っていく。
兵を乗せたまま、だ。
敵に櫓を組んでいることを気付かせないまま、櫓を出現させた。
(´・ω・`)「封じてやれ。城壁のD隊を」
- 61 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:47:53.78 ID:+0DrIgcS0
- 再び、鉦が鳴った。
櫓の上から放たれるF。ただしこちらは、MによるFだ。
ラウンジが誇る、M隊。僅か二十名だが、威力は凄絶たるものがあった。
城壁にいるD隊を、ほぼ完全に封じ込めている。
速射性に優れたMだ。D如きは、相手にならない。
判然とした敵軍の慄きが、直接戦っていない自分にまで伝わってきた。
このために、しっかりと調練も積んできたのだ。
櫓上のM隊の攻撃が届く距離を計算し、城壁の上から射ち下ろされるFがどの程度の飛距離かも考慮した。
それら全てを複合させたのが、この状況だ。
城壁からDによるFは、届かない。
こちらは届く。だからこそ、封じ込められている。
風は強いが、この程度なら煽られても櫓が倒れることはない。万全の状態だった。
もしヴィップがこちらの作戦に気付き、被害と危険を承知で攻め込んできたら、危なかった。
出鼻を挫かれていた。それは後々にまで影響を及ぼしかねない。
特異な策というのは、失敗したときの傷跡が深く残ってしまうものなのだ。
だからこそ、G隊を前面に押し出し、ヴィップを釘付けにした。
ヴィップは予想通りの展開だっただろう。しかしそれは、あえて相手の思い通りにしたのだ。
今や戦局は完全にラウンジが支配していた。
あとはじっくり、三万の堅陣を食い尽くしてやるだけだ。
- 65 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:49:40.47 ID:+0DrIgcS0
- ――ヴィップ軍側――
まだ耐えるしかなかった。
今はただ、じっと。
<;`∀´>「堪えるニダ! 城壁を背にしていれば囲まれることはないニダ!」
必死に檄を飛ばし、兵を鼓舞していた。
損害はさほど多くない。こちらの陣は堅い。
しかし、何と言っても敵は十万の大軍だった。
フ;゚ー゚)フ「ニダー中将、陣はこのままでよろしいのですか?」
<;`∀´>「動かすのは危険ニダよ。このまましばらく耐えるニダ」
エクスト=プラズマン中尉の声は、いかにも不安げだった。
当然だろう。これほどの大軍を相手にしたことはないはずだ。
戦の経験では相当に上回る自分も、恐怖の念は確かにあった。
配下の兵など、きっと逃げ出したい思いすらあるに違いない。
だが、それでも戦えているのは、相手がショボンだからだ。
最強最悪の裏切り者。ヴィップを、壊滅の危機に追い込んだ男。
討ち滅ぼしたい気持ちは、誰しもが抱えていた。
<ヽ`∀´>「あと少し頑張るニダ!
もうすぐ援軍が来るニダよ!」
声が嗄れても叫びつづけた。
とにかく士気を落とさないこと。それが重要だ。
今を耐え凌げば、必ず勝機が見えてくる。
- 72 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:51:35.80 ID:+0DrIgcS0
- ラウンジのM隊は予想外だった。
まさかJの壁を突破し、Mにまで至っている人間を、あそこまで集められるとは。
人数的にはおかしくない数だ。しかし、将校ともせずにただM隊として扱っている。
あれこそ、全軍で三十万近いと号されるラウンジだからこそ成しえる芸当だ。
ヴィップにはとても真似できない。
だが、勝てない戦ではない。
兵力差、七万。絶望的だ、と多くの人間が口を揃えたとしても。
自分には、ここを守る義務があるのだ。
<ヽ`∀´>「遊軍を動かすニダ、ウリが指揮するニダ」
フ;゚ー゚)フ「し、しかし」
<ヽ`∀´>「ここを頼むニダよ、エクスト」
堅陣を動かすわけではない。
陣の真ん中にいる、遊軍扱いの兵を使って、攻撃を加える。
ラウンジは守り一辺倒と高を括っているだろう。今が好機だった。
守りのための攻め。
それも、大事なのだ。
エクストでは荷が重過ぎる。
<ヽ`∀´>「敵陣を裂くニダ!」
騎馬のI隊、五千。
カノン城で鍛えに鍛えた部隊だ。
例えラウンジが精強な部隊を出してきても、互角にわたりあえる自信はある。
- 78 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:53:18.59 ID:+0DrIgcS0
- 敵の攻撃軍を怯ませた。
M隊からの攻撃は来ない。城壁に対するので精一杯のようだ。
そして予想通り、ラウンジの兵はそれほど強くない。
この部隊なら、乱せる。戦える。
アルファベットSを振り回し、次々に敵兵の首を飛ばした。
無造作に振り下ろすだけでもアルファベットは破壊される。これがS以上の強さだ。
素早く自陣に戻った。
この五千は、調練を充分に積んでいる。守りの最中、少しだけ攻めに転じる調練。
上手くいけば強い、と分かっていた。
再び打って出た。
食い荒らす。ラウンジが、攻めに対し臆病になっているのが分かった。
これは演技ではないだろう。装う意味がない。
<ヽ`∀´>(ん……?)
見覚えのある顔が、あった。
見たくもない、とすぐに感じた顔だった。
( ^Д^)「討ち取らせてもらうぜ、ニダー」
裏切り者の一人、プギャー=アリストだ。
相変わらず、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。
昔からいけ好かない男だった。
虚勢を張りたがるところがあり、自分の力量を把握できていない。
一度ハルヒ城攻略戦で共に戦ったときなど、あまりの心許なさに失望したものだった。
- 84 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:55:25.75 ID:+0DrIgcS0
- 当時からラウンジに忠誠を抱いていたとすると、あの頼りなさは演技だったのかも知れない。
理屈では、そう考えることもできる。
しかし、プギャーは単純に能が無いのだろう、と思える器の小ささが窺えた。
だが、アルファベットはR。
油断ならないランクだ。
互いを、見据えていた。
一騎打ちしかない。どちらも、戦う意思は満ちている。
<ヽ`∀´>「よほど首を煩わしがってると見えるニダ。ウリが斬り取って進ぜるニダよ」
( ^Д^)「言ってろ、被差別民が」
アルファベットのSとRが、衝突した。
爆ぜる音。互いの全力が込められているからこそだった。
二合目。振り下ろしをプギャーが受け止める。
( ^Д^)「噂は知ってるぜ。入軍したころ、周りから忌み嫌われてたらしいなぁ。
ま、故郷が故郷だ。仕方ねぇよな、周りから虐げられても」
<ヽ`∀´>「そんなんでいいニカ?
ショボい遺言ニダね」
プギャーの言葉など気にはならない。
今は純粋に、一騎打ちに集中できていた。
プギャーのRが突き出される。
強引に弾き、追撃。しかし、さすがに守りに入るのは素早かった。
- 90 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:57:11.91 ID:+0DrIgcS0
- 本来ならば、上位であるこちらが有利だ。
しかし、周りを考慮しないわけにいかない。圧倒的不利である、この状況を。
余裕があるのは、プギャーのほうだ。
だが、ここでプギャーを討ち取ってしまえば。
そうすれば、戦局は一気に動き出す。
ラウンジ軍に不安を、ヴィップ軍に希望を与えることができるだろう。
多少強引にでも、プギャーを斬り伏せたかった。
<#`∀´>「ニダァァァァ!!」
荒れ狂う強風を裂きながら、プギャーを狙う。
頭上。プギャーは両手でアルファベットを握り締め、堪えてきた。
閃光の走るような鋭い衝撃。両手に電流が流れるような感覚があった。
再び攻める。今度は横に払うように。
プギャーは受け止めずに、躱した。上手い体の使い方だ。
ただし、賢い選択とは言えない。
(;^Д^)「くっ!!」
腕を無理やりに引き戻し、追撃を加えた。
プギャーの焦燥が風に乗って伝わってくる。
防ぐべく出されたプギャーのアルファベットは、僅かに遠い。
が、致命傷には至らなかった。
腕を掠っただけだ。あの程度なら、プギャーは何ともないだろう。
惜しかった。しかし、確実に押しているのは自分だった。
- 94 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 00:59:22.26 ID:+0DrIgcS0
- もう少しだけ一騎打ちを続けられれば、討ち取ることも可能かも知れない。
そんな、希望を抱いた。
淡いものだ、と知るのに、時間はかからなかった。
<;`∀´>「ッ!!」
全身を駆け巡る、戦慄。
曇天の下、乱風の下。
荒ぶる吐息を撒き散らしながら、猛然と駆け寄ってくる。
ショボン。
そして近衛騎兵隊。
僅か五百と思えない威圧感。
牙が、頭上にある。既に舌の上で、転がされている。
そんな錯覚さえ抱くほどだった。
ここは、退かねばならない。
瞬時に決断した。プギャーと戦っている場合ではない。
カノン城を守ることだけに心血を注ぐべきだ。
ショボンと戦ったとしても勝ち目は薄い。
あくまで理屈で全てを処理していた。勝率の低い戦に臨むべきではないのだ。
自分の死は、カノン城を失うことと同義だ。ヴィップのために、生き延びなければならない。
すぐにプギャーから離れた。
追ってくる様子もない。助かった、と思っているようだ。
せめてあと五合打ち合えたら、討ち取れていたかも知れない。本当に、惜しかった。
- 98 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:01:08.19 ID:+0DrIgcS0
- だが、戦況は少しだけ好転していた。
果敢に攻め込んだことにより、ラウンジの攻めに迷いが生じている。
これでいい。今はとにかく、時間を稼ぎたいのだ。
果たして、耐え切れるか。
いや、耐え切れるか、耐え切れないか、ではない。
耐え切らなければならないのだ。
策を弄して落とし、血を滲ませながら保持してきたこの城を、守り抜くために。
――ラウンジ軍側――
ヴィップの狙いは分かりきっている。
時間稼ぎだ。
南からの援軍を頼りにしている。当然の作戦だった。
援軍の数ははっきりと把握していないが、恐らく一万程度だろう。
多くとも二万。いずれにせよ、難しい数ではない。
だが、問題は援軍の到着により発奮する既存の兵のほうだ。
数の差が詰まるのも、全く影響が出ないわけではない。
現在は、十万と三万の戦い。それでもニダー率いるヴィップ軍はラウンジの攻撃を防いでいる。
攻めあぐねている、というのが正直なところだった。
(´・ω・`)(少々、侮ったか。まぁいい)
すぐに終わらせるつもりだった戦が、多少長引いた、というだけの話だ。
それも日数が、ではない。ほんの数刻程度のことなのだ。
何ら問題はなかった。
- 108 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:03:39.09 ID:+0DrIgcS0
- 被害もほとんど出ていない。
戦局は常にラウンジが支配しているのだ。
(´・ω・`)「厳しく攻めろ! 容易く守らせるな!」
ただ兵を固めて突っ込ませるという、何の捻りもない攻め方だった。
が、崩されにくい。力があるときは、単純さが武器になるのだ。
ヴィップで戦っていたときには考えることさえできなかった戦法だった。
最も犯してはならない愚は、下手に小細工を施して付け入る隙を与えてしまうことだ。
寡兵の相手は常に逆転を狙っている。かつて自分が率いた東塔がそうだったように。
だから、こんな状況で一騎打ちなどするべきではないのだ。
しかも、相手は上位。何を考えているのか、と問いたくなった。
プギャーのことだ。
相変わらず浅慮で、気ままに動く。
こちらが明確な指示を与えてやらないと何もできない男だ。
多少の期待を抱いた自分が愚かだった。
ヴィップから伴った将としては、他にオワタがいる。
こちらはプギャーより幾分か期待できた。堅実に戦っている。
調子に乗りやすいところもあるが、そこは自分が抑えてやれば問題ないはずだ。
徐々に押している。
ニダーの守りはさすがに堅いが、所詮は寡兵。
時間を稼がれてはいるが、南からの援軍はまだ遠いはずだ。
(´・ω・`)「さぁ、出るぞ」
- 112 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:05:39.67 ID:+0DrIgcS0
- ニダーを牽制し、一騎打ちを終わらせたあとは、また後方に戻っていた。
が、ここで出る。ラウンジの攻めに、少し迷いが生じている場面で。
力強くアルファベットを振り上げ、後方の兵に見えるよう掲げた。
最上の、Z。誰も自分には敵わないのだ、と教えてやるために。
ラウンジの兵にも、ヴィップの兵にも。
一斉に駆け出した。
近衛騎兵隊の五百と、後方に更に五千の騎兵。
統率は充分すぎるほどに取れていた。
大回りして、敵陣の側方を突く。
そしてそのまま、斜めに斬り込んだ。
さすがに堅陣だけあって崩れてこないが、確実に効果はあるはずだった。
両手に持ったアルファベットZで、次々に敵兵を斬り倒した。
空から見れば、きっといくつも舞う首が、水飛沫のように見えるだろう。
恐怖の色に染められたヴィップ兵の表情が、何とも滑稽だった。
必死で突き出されるI。首を防御するG。
力任せに振るわれるH。
その全てを、粉砕した。
そして、首を刎ね飛ばした。
(´・ω・`)「まったくもって、脆すぎる」
自然と言葉に出てしまうほどだった。
- 122 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:08:10.82 ID:+0DrIgcS0
- ヴィップの堅陣の一部を切り崩した。
勢いを持続させたまま反転し、再び攻め込む。
堅陣だけあって慌てている様子もないが、時間を置いて攻めるよりは効果的なはずだ。
いつの間にか振り出していた雨に、ヴィップ兵の血が混じる。
指先が濡れても悴むことはなかった。それほどに、全身は熱に満ちている。
敵陣の一部を、掬い取るようにして攻め立てた。
ヴィップからすれば、角を削り取られた気分だろう。
無理はしない。こうやって着実に、追い詰めていく。
時間を稼がせ、逆転させる道など、ヴィップ兵の死体で塞いでやる。
それがお前らに似合いの末路だ。
今度は、言葉にはならなかった。
しかし、だからこそ愉悦が体の中に満ちていった。
(´・ω・`)「もう一度攻めるぞ。正面から破られれば、堅陣は為す術もない」
体勢を整えた。
損害はほとんどない。いても数百といったところか。
自分がヴィップから連れてきた五百は、全く欠けていないように思えた。
当然だ。比するものさえない、最強の部隊だ。
手塩にかけて育ててきた。他を圧倒するために。
ただただ、クラウンの世のために。
これからも、この部隊を率いて――――
(´・ω・`)「ッ……?」
- 131 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:10:10.55 ID:+0DrIgcS0
- 愚かだった、と気付くのはしばらくの後だった。
そうやって自責するしかないほど、そのときの光景に対し、自分は呆然としていた。
唖然としていた。
飛来する、鳥。
胴長で、飛翔速度は速い。
そして、嘴が恐ろしく尖っていた。
それが鳥でないことには、最初から気付いていた。
だが、何故か鳥のように見えたのだ。
いや、そうあってほしいと思った。
(´・ω・`)「鉄槍だ! 防げ!」
狼狽したラウンジ兵が、餌食になっている。
無数に降り注ぐ鉄槍。鈍重な音は雨を切り裂いて、戦場に響き渡っていた。
丸太ほどの太さがある。
あれは、例えHやIでも破壊できないだろう。
上からの重みが加わっているせいだ。
アルファベットGなら防げるはずだ。
強靭な鉄槍とはいえ、アルファベットに敵うはずもない。
だが、部隊を釘付けにされる。動かせない。
鉄槍による被害が報告されはじめていた。決して少なくはない数だ。
やはり、鉄槍には相当の重量があるようだった。
いかにアルファベットGと言えど、そう易々と防げるものではない。
- 138 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:12:18.21 ID:+0DrIgcS0
- これがアルファベットOなら何の問題もなかっただろう。
櫓の上にいるM隊は、ほとんどがOも使える。そいつらを地上に戻す手もある。
だが、M隊による牽制をやめるとなると、今度は城壁の上にいるD隊に苦しめられることとなる。
難しい状況だが、ここは鉄槍を躱しつつ防ぎ、敵陣に圧力をかけていくしかなかった。
(´・ω・`)「怯むな! とにかく敵陣に当たれ!」
味方のいるところには攻撃できるはずがないのだ。
だから、こうやって遮二無二攻めればいい。
だが、舌打ちしてしまうのも無理からぬことだった。
士気が下がり始めているのだ。空から飛来する、脅威の物体に対して。
快調に戦えている、と誰もが思っていた。そういうときに予想外のことをやられると、手痛い。
アルファベット技術では他国よりも優れていた。
それがヴィップだ。つまり当然、製鉄技術のレベルも高い。
ツンを殺したことで差は埋まったと思っていたが、この鉄槍を見ると、いささか隔たりを感じさせられる。
しかし何故、ヴィップはこれを最初から出してこなかった。
押されたと見せかけ、苦境になってから繰り出し、ラウンジの士気を下げるのが狙いか。
いや、それにしては犠牲を伴いすぎている。
ひとつだけ確かなのは、ヴィップが時間を稼ごうとしていた目的は、最初からこれだったということだ。
- 145 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:14:18.22 ID:+0DrIgcS0
- ――ヴィップ側――
何とか準備が整ったようだった。
時間を稼いだ甲斐があった。ラウンジの慌てぶりがここまで伝わってくる。
決して有利ではなかった戦だが、先ほどの攻撃でほぼ五分になっただろう。
本来なら最初からあの鉄槍を使う予定だった。
そうすれば、いま被っている二千ほどの犠牲もなかったはずだ。
だが、できない理由があったのだ。
ラウンジは、突然出陣してきた。
ラウンジ城から大軍出兵、との報せを受けたときには、もうピエロ川の北岸にいたのだ。
事前の準備など、まるで整っていなかった。
陣を敷いたり斥候を放ったりと慌しかった。
その上で、一階に置いてあった巨大な鉄槍を屋上まで運ばなければならなかったのだ。
可能な限りの人手を動員して作業を進めたが、ラウンジの接近は恐ろしいほどに速かった。
一階に鉄槍を置いていた理由は、製鉄工場が地下にあるからだ。
大抵の城も同じだが、アルファベットを作るための場は地下にあることが多い。
広いスペースが要求されるためだ。
普段はアルファベットを作っている工場を鉄槍のために作り変えた。
初めてこのカノン城に来たとき、地下に巨大な鉄を作れるほどの窯があったのを見て、今回の作戦を用いることを決めたのだ。
そして赴任して以来、多くの人手を鉄槍精製に割いてきた。
何故そんな巨大な窯があったのかは知らない。
エクストは、恐らく巨大なアルファベットを作ろうとしていたのではないか、などと推測していたが、何でも良かった。
巨大なアルファベットは、アルファベットとしての性能を持たない。だが、ただの鉄槍なら効果はある。
- 149 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:16:40.24 ID:+0DrIgcS0
- アルファベットHやIで破壊されないほどの硬度を持している必要があった。
苦心を重ねた。何度も試行錯誤し、改良を加えていった。
さすがにヴィップの職人のレベルは高かった。おかげで、満足のいくものが作り上げられた。
丸太ほどの太さと、アルファベットIほどの長さを持った鉄槍は完成した。
次に浮上したのは飛ばす側の問題だが、こちらはさほど苦労もせず解決を見た。
モナーの遺産がパニポニ城に残されていたのだ。
巨大な木槍も楽々遠くへ飛ばせる、弓のようなものがあった。
それに自分なりの改良を加えてやるだけで、敵陣へ攻撃するに充分の飛距離を得られた。
作成が全て終わったのは、まだつい最近のことだ。
調練が疎かになりがちだったため、性急な調練で何とか戦の勘を取り戻させた。
そうしているうちに、鉄槍の運搬が後回しになってしまっていたのだ。
順番としては間違いなかったが、やはりラウンジが突然攻め込んできたのが痛かった。
いったいいつ準備をしていたのだ、と思った。焦燥と共に。
若干の遅れは取ったが、堅陣が崩される前に鉄槍を繰り出すことができた。
主導権は奪いつつある。ここで守りに入らず、更に敵陣を脅かしてやるのだ。
そうすれば、ラウンジは撤退せざるを得ない。
<ヽ`∀´>「遊撃隊、鉄槍に注意しつつ攻め込むニダ!」
鉦を鳴らさせた。
今から敵陣に攻め込む。飛距離をできる限り伸ばしてくれ。
そういう指令を与える鉦だった。
- 157 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:19:14.12 ID:+0DrIgcS0
- M隊からの攻撃を避けるため、鉄槍部隊は城壁から遠い位置にいるはずだ。
戦況を視認できていない。できる限り遠くへ、という指令しかこなせないだろう。
二人の少尉に任せているとはいえ、仕方がないことだった。
ラウンジの櫓を壊せれば完全にヴィップが有利になるが、難しい。
あれは、遠すぎる。
<ヽ`∀´>「行くニダ!」
遊撃隊を率い、敵の攻撃陣に攻め込んだ。
勢いはこちらにある。そして敵は、守る姿勢が整っていない。
難なく崩せた。
アルファベットSが雨に濡れる。
血を洗い流す。
しかしすぐにまた、赤く染まる。
戦場に舞う水飛沫と血飛沫。
泥に塗れ、血に塗れ、そして死に塗れる。
蹂躙し、跨ぐものは、志だ。
互いの志がぶつかりあう。
だからこそ、戦になる。
それは、ずっと変わらないことだ。
<#`∀´>「ニダニダァァ!」
左から右に、流れるように。
一つの首。そして、刃は元の位置に返る。
二つの首。それぞれ、宙を遊泳した。
- 161 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:21:13.69 ID:+0DrIgcS0
- 血腥さも雨に溶けていく。
恐怖に顔を歪ませたラウンジ兵。アルファベットを突き出してきても、意味などない。
目の前を塞いだGは、一瞬の後に破片へと移ろった。
刎ね飛ばす首。
敵の攻撃陣は、かなり削いだ。数だけではなく、勢いもだ。
だが、足りない。撤退させるには、まだ一手足りない。
もう一度攻め込んで、その一手を繰り出してやる。
そう決めた直後、背後に感じたのは、地響きだった。
<ヽ`∀´>「援軍が来たニダ!
あとひと踏ん張りニダ!」
最高のタイミングだ。
あと一手、と思っていた瞬間、援軍が来てくれた。
すぐに早駆けしてきた伝令が、自分に詳細を教えてくれる。
兵数、一万。
率いる将はヒッキー、ロマネスク。
元東塔と元西塔という、今までではありえない組み合わせだった。
だが、バランスのいい二人だ。
経験豊富なヒッキーと、若さと勢いのあるロマネスク。
新しく大将となったブーンは、なかなか見る目を持っているようだった。
ここは無理をする場面ではない。
遊撃隊を一度堅陣に戻し、体勢を整えた。
ラウンジは、大軍のわりに動きは俊敏だ。しかし当然、僅か三万のヴィップには劣る。
- 166 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:23:09.73 ID:+0DrIgcS0
- 援軍が来るまで、あとほんの少し。
充分だ。充分、耐えられる。
既にラウンジの攻撃陣は崩してあるのだ。
――――だが――――。
<;`∀´>「ッ……!?」
翼を広げた、怪鳥のようだった。
突如、ラウンジは陣を拡大させてきた。
陣形としては、鶴翼に近い。
今までは魚鱗のような隊形だった。
しかし、ここで突然、守りに相応しい鶴翼。
撤退を決めたのか、と思った。
だが、違った。
ラウンジは、大軍の利を徹底的に活かしはじめたのだ。
堅陣であるヴィップを、押し潰す気だ。
瞬時に悟った。しかし、こちらからはどうしようもない。
囲みを破れるほど、薄い陣ではないのだ。
最たる問題は、鉄槍の効果が薄れはじめたことだった。
鶴翼になったことで、単純に鉄槍が当たりにくくなったのだ。
敵が陣を組み替えたことは、鉄槍部隊にも伝わっているだろう。しかし、意味はない。
こちらが攻撃陣を攻めている間、後方が何もしなかった理由は、これか。
陣を組み替えるための準備を整えていたのか。
- 176 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:25:12.64 ID:+0DrIgcS0
- <;`∀´>「耐えるニダ!
援軍がもう来るニダ!」
実際、すぐ側にまで来ている。
この光景を見たら、即座に攻め込んでくれるだろう。
だが、敵は十万の大軍だった。
皮を一枚ずつ剥がされるようにして、堅陣は小さくなっていく。
厳しい。もう遊撃隊を出すこともできない。
ラウンジの攻撃を、ただ必死で防ぐことしかできない。
希望の光明を見出そうとして、空を見上げた。
しかし、雨天だ。降りしきるのは、絶望の雨だ。
全身を、無情なまでに冷やしていく。
だが、不意に敵陣が揺らいだ。
援軍だ。援軍が攻め込んでくれたのだ。
攻撃の圧力も、多少弱まった。
<;`∀´>(……まだ勝敗は分からないニダ)
果たして、堅陣が崩れきる前に、敵の包囲を破れるか。
戦は、かなり際どい局面に突入していた。
――ヴィップ・援軍側――
絶望的な状況だった。
それでも、自分たちが攻め込むことで何とかしなければならなかった。
(#-_-)「とにかく包囲を破るんだ! 一点に攻撃を集中させろ!」
- 192 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:27:36.81 ID:+0DrIgcS0
- 声を張り上げた。
加速し、土から浮いた水を叩き散らし、敵陣へと向かっていく。
率いてきた一万は、全て騎馬兵だ。
ブーンの読みは当たっていた。ラウンジは騎馬が多いと予測し、援軍も全て騎馬にしたのだ。
おかげで早く到着できた上に、ラウンジの騎馬隊とも戦いあえる。
ラウンジの包囲陣は最初、ひたすら攻撃に集中していた。
しかし、こちらが攻め込んだ瞬間、外側は守りに切り替えてきたのだ。
さすがに抜かりない。勢いに乗っていても、冷静さを失ってはいなかった。
それでも無心で突っ込むしかなかった。
飲み込まれないよう、斜めに切り込む。そして抜け出す。
鞭のような攻め方が、ここは効果的だ。
アルファベットOを振り下ろし、敵兵の頭蓋を断ち割った。
しかしあまり無理に戦わず、すぐに敵陣から脱する。
問題はない。自分の部隊のあと、ロマネスクが間髪入れずに攻め込むからだ。
車輪のように、二つの部隊で一点をひたすら攻め続けた。
ラウンジが、鬱陶しく思ってくれれば儲けものだ。陣を崩してくるだろう。
だが、やはり簡単には動いてくれない。
もたついていると、ニダーの堅陣が崩されてしまう。
早く包囲を破らねば。そう焦っても、事態は好転しない。
無理に攻め込んで、十万の敵陣に飲み込まれてしまうと全てが終わる。
何度も何度も、包囲陣を削り取るように攻撃しては、抜け出した。
ロマネスクと二人で、それを繰り返す。
- 200 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:29:31.58 ID:+0DrIgcS0
- こちらの損害はあまりない。対するラウンジは、甚大だろう。
だが、元の数が違いすぎる。ラウンジは、まだ九万以上いるはずだ。
それでも、こうやって削っていくしかなかった。
時間の勝負になる。
ニダーの堅陣が崩れるのが先か、ショボンの包囲陣が崩れるのが先か。
際どいところだ。今はとにかく、全力を尽くすしかなかった。
――――だが、予測できていなかった。
ひとつの、可能性を。
ひとつの、恐怖を。
(;-_-)「ッ!!」
包囲陣が、崩れたように見えた。
しかし、違った。ひとつの部隊が、抜け出してきたのだ。
こちらの攻撃を、潰すべく。
その抜け出してきた部隊というのが、最悪だった。
ショボン率いる、近衛騎兵隊。そしてその後ろに、およそ五千の騎馬隊。
雨音がうるさく響くこの戦場でも、その馬蹄音はけたたましかった。
ちょうど、敵陣への攻撃を終えたところを、狙われた。
抗いようもない。ほぼ同数である上、隊の錬度ははるかに敵のほうが上だ。
一瞬にして、数百を抉り取られた。
寒気が全身を襲ったのは、雨に濡れたせいではなかった。
あんな部隊に、敵うはずがない。今までの経験が、そう教えてくれた。
何もできなかった。ただ敵の攻撃を見て、受け止めることしか。
- 207 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:31:33.79 ID:+0DrIgcS0
- 背後の五千も相当に調練を積んでいる。
こちらが一万でも、厳しい。それはすぐに分かった。
だが、戦うしかないのだ。
(;-_-)「怯むな! ロマネスクの部隊と連動して戦うぞ!」
二つの部隊を上手く使えば、勝機はある。
かつてハンナバルがやっていた、鋏のような動きで敵を裂く攻撃。
あれをやろう。ロマネスクに自分が合わせれば、できるはずだ。
右からロマネスクが攻め込んだ。
反対側から切り込むようにして、ほぼ同じタイミングで自分も攻め込む。
だが、ショボンの部隊は加速し、軽やかに攻撃を回避した。
そしてすぐに反転。背後を、突かれた。
またも、数百が地に倒れた。
(;-_-)「くっ……!」
すぐに体勢を立て直すも、再びショボンに攻め込まれる。
そしてまた体勢が崩れる。これでは、攻めようがない。
しかも、ショボンは同じことをロマネスクにもやっているのだ。
攻めも移動も、速すぎる。自分たちの部隊とは、比べものにならない。
何もかも、敵のほうが上だ。
勝てない。このままでは、勝てない。
裏切りの将、ショボン=ルージアル。これほどの相手とは。
- 218 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:33:40.85 ID:+0DrIgcS0
- 自分はまだ戦える。
だが、配下の兵の心が、完全に折れてしまっているのだ。
覇気もない。士気など、地面の上にまで落ちている。
距離を取って、作戦を考え直す余裕さえない。
ただこのまま、ショボンの部隊に削り取られるのを待つしかないのだ。
あまりに無力だ、情けない、と自分を責める暇さえない。
(;-_-)(クソッ……!!)
何とか、何とかできないのか。
いつだってあるはずだ。逆転の手は。
どれほど難しかろうが、時間がかかろうが、必ず道は残されているはずなのだ。
しかし、気付いた。
ショボンは、その道さえ塞いでいるのだ、と。
圧倒的な武力を持ってして。
策を弄しているわけではない。
ただ純粋に、自らの部隊の強さのみで、ヴィップを封じている。
それは、崩すことのできないものなのだ、と。
気付いた瞬間、悟った。
この戦はもう、負けていることに。
カノン城は落とされ、自分もニダーもロマネスクも、討ち取られる。
エクストやカノン城内にいる二人の少尉も、ここで散る。
それら全てを、悟ってしまったのだ。
- 243 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:36:56.60 ID:+0DrIgcS0
- (;-_-)「クソォ!!」
先ほどまでは心の中で留まっていた言葉が、口から溢れ出た。
死が悔しいのではない。完膚なきまでに叩きのめされ、全てを失うのが悔しいのだ。
どうしようもない、と戦の最中に悟ってしまったのが、悔しいのだ。
何も、何もできない。
脅威的な攻めに虐げられ、そしていずれ地に伏せるのを待つ。
ただ、それだけしか――――
(;-_-)「ッ……!?」
恐らく、真っ先に気付いたのは自分だった。
しかし一瞬遅れて、ショボンも気付いたようだった。
(´・ω・`)「……?」
<;`∀´>「ッ……?」
- 246 :第86話 ◆azwd/t2EpE :2008/01/01(火) 01:37:17.62 ID:+0DrIgcS0
- 戦場から、音が消えた。
自分たちより更に一拍遅れて、皆が感じたようだった。
不意なる、来訪者に。
第86話 終わり
〜to be continued
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