3 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:20:16.73 ID:UhkipeCL0
〜ヴィップの兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 中将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城

●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
46歳 中将
使用可能アルファベット:U
現在地:ヴィップ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:カノン城
6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:20:48.56 ID:UhkipeCL0
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ハルヒ城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城
8 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:21:20.04 ID:UhkipeCL0
●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ヴィップ城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ヴィップ城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ハルヒ城
10 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:21:57.81 ID:UhkipeCL0
大将:ブーン
中将:ジョルジュ/モララー/ミルナ/ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:ビロード/ベルベット/アニジャ/オトジャ
中尉:ロマネスク
少尉:

(佐官級は存在しません)
13 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:22:42.89 ID:UhkipeCL0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー/ファルロ
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
17 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:24:09.25 ID:UhkipeCL0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

20 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:24:56.67 ID:UhkipeCL0
【第85話 : Maid】


――ヴィップ城――

 桜色の絨毯を踏みしめ、城外に出る。
 微かにつく足跡。しかしそれも、帰って来るときには元通りになっているだろう。
 桜の花びらが、とめどなく降り注いでいた。

 手綱を握り締めて、馬を駆けさせた。
 後ろから二千の騎兵がついてくる。I隊だ。
 統率に乱れはなかった。

 アルファベットを二度振り上げ、横に払った。
 騎馬隊全体が、素早く反転する。

 再び駆け出し、最高速に至る。
 できる限り早くだ。緊急のとき、撤退のとき、重要になる。
 以前は反転するだけでももたついていたが、ようやく人に見せても恥ずかしくないレベルになってきていた。

( ^ω^)「休憩だお」

 皆に告げ、馬から降りた。
 汗ばんだ首筋を撫でてやると、馬は嬉しそうに頭を動かした。

 思い思いの地点で休息を取る兵たち。
 ヴィップ城から、十里ほど離れた場所だった。
 ひたすら草原が続いている。調練には最適で、大抵騎馬隊はここで鍛えられていた。
25 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:26:31.54 ID:UhkipeCL0
 二千の騎馬隊は、元東塔の兵と元西塔の兵が、合わさって構成されていた。
 無理に併呑したわけでなく、単純に能力を見て再編成をおこなったのだ。
 別れていたときには妥協せざるをえなかった部分も、一緒となったことでずいぶん納得がいった。

 二つの寮塔は今も使っているが、部屋の割り振りは大きく変わって、バラバラになった。
 編成も混ざり合って、今や東と西に別れていた頃の形は見えない。
 ただ、だからといってすぐに打ち解けられるわけではないようだった。

 現に今も、数人で固まっている者は元々同じ寮塔に属していた同士だ。
 やはり数十年の歳月は重かった。それは、最初から分かっていたことだ。
 だから、覚悟もしていた。

 しかし、中には違う塔に属していた者に話しかけている兵もいる。
 一緒に休息を取る、とまではいかないようだが、普通に喋るくらいはしていた。
 義務的なものであれ、暇つぶしであれ、とにかく交流はあった。

 そうやって、少しずつ打ち解けていけばいい。無理をする必要はない。
 戦いが始まれば結束は深まるだろうし、信頼も生まれてくるはずだ。

 今のところ、一緒になったことによる弊害はないようだ。
 一番警戒していたのが、最初期だった。つまり、東西統合を宣言した直後だ。
 不安や警戒で、何か事が起きるのではないか、と懸念した。

 しかし、東も西も昔から、一つだけ同じ部分があったのだ。
 それは、ヴィップの天下のために戦っている、ということ。

 目的を同じくする者同士である以上、協和できないはずはなかった。
 ただ制度によって交流が制限されていただけなのだ。
 それは互いの塔で切磋琢磨できている部分も確かにあったが、やはり力はひとつに併せるべきだった。
28 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:28:02.41 ID:UhkipeCL0
 一丸とならなければ、強大なラウンジには絶対に敵わないからだ。

( ^ω^)「調練終わりだお、みんなお疲れ様だお」

 太陽が色を変え始めたころ城内に戻り、具足を解いた。
 侍女がすぐに身体を拭きに来る。布からは微かに湯気が立っていた。

リ|*‘ヮ‘)|「熱くありませんか?」

( ^ω^)「平気だお」

 手の先から足の先まで拭かれる。
 汗まみれの気持ち悪さが払われ、快い気分になった。

リ|*‘ヮ‘)|「お着物のほうを」

(;^ω^)「それは自分で着るからいいお。他の仕事をお願いだお」

 衣服を受け取り、部屋の奥へと消える侍女の背を見送った。
 最近やっと慣れてきたが、やはり自分で汗を拭ったほうが楽だ、と今も思う。

 最初は自分でやると断っていたが、仕事なのでと何度も言い張られ、結局は自分が折れた。
 まだ二十にもなっていない若い侍女だが、仕事ぶりに不満はない。
 むしろ、気が利きすぎるほどだ。

 大抵、将校の侍女というのは、妾であることが多い。
 好色で知られるジョルジュなど、ヒッキーが何人いるのかと問いたくなるほどの妾が居るらしいのだ。
 ジョルジュに限らず、妾として侍女を雇う将校は多かった。
30 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:29:33.74 ID:UhkipeCL0
 しかし、自分は一度たりとも侍女に自ら触れたことがない。
 この侍女は実は、元々プギャーが囲っていた女だ。プギャーから何も知らされておらず、城に残された。
 帰る家もないと泣き喚いていたところを、自分の侍女として部屋に連れてきた。

 侍女は当然、プギャーのときと同じような扱いを受けると思っていたらしい。
 だが自分が一向に手を出さないので、かえって不安になったそうなのだ。

リ|*; -;)|「私に魅力がないからですか? ブーン様のお役には、立てないのですか?
      私、家族も誰もいなくて……もしここを追い出されたりしたら……」

(;^ω^)「ちょ、待つお! そんなんじゃないんだお!」

リ|*; -;)|「じゃあ私、いったいどうすれば……どうすればいいんですか……?
      何もできないならやっぱり、ここに置いていただくわけには」

(;^ω^)「追い出したりもしないお! お願いだから落ち着いてほしいお!
      仕事ならいっぱいあるお! ブーンはメンドくさがりだから部屋は汚いし、料理もできないお!
      だから普通に侍女として働いてくれればそれでいいんだお!」

 溢れ出した涙は、そこでようやく止まった。
 まさかそんな相談を受けるとは思わず、とにかくフォローするので精一杯だった。
 一応は納得したようだが、今でも違う役割を果たす準備だけはしているらしい。

 身の回りの世話さえしてくれれば、それで良かった。
 見目は、誰もが美しいと口を揃えるだろう。しかし、さほど興味はない。
 異性に関しては、ここ最近、自分でもはっきり分かるほど淡白になっていた。

 やはり、あの人のことは忘れられそうもない。

( ^ω^)「…………」
33 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:31:31.00 ID:UhkipeCL0
 衣服を着込んだ。
 最近、二枚ほど重ね着していれば寒さを感じることはない。もう冬からかなり遠ざかった。
 雨季特有の纏わりつくような湿気もなく、快適な日が続いていた。

 部屋から出て、数十歩歩いて、すぐに足を止めた。
 窓数個分。つまり、隣の部屋だ。
 もう十数年、モララーが自室として使っている。

( ^ω^)「お怪我は」

( ・∀・)「変わんねーなー。ぴくりと動かすだけでイテーんだよ、腹立つことに」

( ^ω^)「それが怪我ってもんですお」

( ・∀・)「初めての経験だ、こんなの。もどかしいな」

 暇を持て余しているようだった。
 寝床の隣には、何十冊もの本が積み上げられている。
 どうやら従者か侍女が読んで聞かせているらしい。

( ^ω^)「えーっとじゃあ、これお願いしますお」

 抱えてきた書類の束を、卓上に置いた。
 以前処理を頼んだ書類は既にない。仕事を終えてしまったようだ。
 ちょうどいいタイミングと思って次の仕事を持ってきたが、いささか遅かったらしい。

( ・∀・)「もっとあっていいぞ。倍くらい」

( ^ω^)「そこまで迷惑かけられませんお」
37 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:33:29.38 ID:UhkipeCL0
( ・∀・)「俺がやりたいんだよ。暇すぎるからな。
     それに、国に貢献してない自分が嫌なんだ」

 偽善でも、何でもない。
 ただ漠然とした、本心だ。
 声を聞くだけで、分かる。

( ^ω^)「……了解ですお、今度からもうちょっと量を増やしますお」

( ・∀・)「頼んだ。んで、用はそれだけなのか?」

( ^ω^)「いえ、少しお話したいことがあるんですお」

( ・∀・)「ふぅん」

 素っ気ない返答だが、いつものモララーだ、と思った。
 話を、始めやすい雰囲気にしてくれたのだろう。

( ^ω^)「ご存知の通り、ヴィップは劣勢に喘いでいますお」

( ・∀・)「なんか初っ端から回りくどいな。本題を言ってくれ」

(;^ω^)「すみませんお。本題は、ヴィップが天下を得る方策について、ですお」

 言った瞬間、モララーの表情に真剣味が増した。
 まるで軍議の最中のような。

 相談内容は、ヴィップが勝つ方法について。
 大将となってから、ずっと考えていたことだ。
41 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:35:04.73 ID:UhkipeCL0
 ヴィップがこの状況から逆転するために、何が必要か。
 それを考えるのが、大将の役目だと思っていた。

( ・∀・)「なんか妙案が出たか?」

( ^ω^)「いえ……」

( ・∀・)「ま、俺も大した策は思い浮かんでねー……難しいな、やっぱり」

( ^ω^)「一人で考えるより、二人で考えたほうがいいと思って、相談に来たんですお」

( ・∀・)「バシっと大将らしいとこを見せてほしい気もするが、ま、妥当な判断だ。
     一人より二人のほうがいいに決まってる」

( ・∀・)「しかしなぁ……何たって相手はショボンやカルリナやアルタイム……。
     陳腐な策に引っかかってくれるとは思えない。
     と、いうより……相手が必勝パターンを崩してくるとは思えない」

( ^ω^)「必勝パターン?」

( ・∀・)「ごり押しさ。とにかく真っ向からぶつかって、一つずつ城を落としていく。
     兵力や領土で大差をつけてるラウンジは、この戦法が一番強いと分かってるはずだ。
     下手な小細工も受けにくい。とにかく相手を野戦で潰せばいい」

( ^ω^)「野戦に応じればヴィップが不利、かといって篭城しても事態の好転は見込めない……。
      とにかくラウンジに攻め込まれるだけで危険ってことですかお……」

( ・∀・)「その通りだ。物資量ではまだ互角だと俺は見てるが、いずれ差をつけられる。
     となると篭城って選択肢は取れなくなる。だからヴィップは野戦で立ち向かうしかねぇ。
     が……相手はショボンだ」
45 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:36:54.43 ID:UhkipeCL0
 嫌でも頭に蘇ってくる。
 獣のような近衛騎兵隊。大地を揺るがし、進軍してくる。
 何もかも蹂躙せんとして。

 あの部隊を相手に、勝てるだろうか。
 いかに自分が二千の騎馬隊を鍛え上げているとはいっても、年季に差がありすぎる。
 何よりラウンジは、後方に数万の兵を従えてやってくるのだ。やはり、勝ち目は薄い。

 分裂していたヴィップの力が、確固たるものになれば。
 そうすれば、多少は勝機も見えてくる。
 だが、どれほどの効果を及ぼすかは、実際戦ってみないと分からないのだ。

( ・∀・)「……まぁ、勝つ方法がないわけじゃーない……とは思ってるんだけどな」

( ^ω^)「ホントですかお!?」

( ・∀・)「ただ……頭の悪い作戦だ」

 歯切れが悪かった。
 モララーは、常に自信に満ち溢れている。堂々と言葉を発する。
 なのに、今は作戦を言い淀んでいる。

 それが状況を打破できるものとは限らない、ということだろう。

( ^ω^)「どういう作戦なんですかお?」

46 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:39:08.04 ID:UhkipeCL0
( ・∀・)「いまヴィップは、北と西に兵力を集めてるよな?
     ほぼ均等に、だ。厳密には北西のシャッフル城も考慮する必要があるが、とりあえず置いておくとして……。
     俺が考えてる作戦ってのは、北と西の兵力バランスを崩すことだ」

( ^ω^)「ッ……」

( ・∀・)「察したみたいだな。これはもちろん、ラウンジには気付かれないようにやる。
     前線じゃない城にこっそり移動させるのは可能なはずだ。多少、時間をかければな」

( ^ω^)「そして、兵が少なくなったほうを捨て駒にする、ってことですかお……」

( ・∀・)「捨て駒ってのとは違うさ。あくまで作戦の肝は惑わしだ。
     事前の情報と兵数が違えば混乱するだろ? どっかに伏兵がいるかも、って思ったりする。
     つまり、寡兵でも大軍と互角に戦えるかも知れない」

( ・∀・)「もちろん、兵数が多くなったほうはラウンジとの差を埋められる。
     真正面からのぶつかりあいにだって、負けない。
     ……ただ……これを頭の悪い作戦、って言った理由は――――」

( ・∀・)「そうやって互角に戦ったところで、なーんにもならねー、ってことだ」

 モララーが肩を竦めるような動作を行った。
 やはり身体が痛むらしく、あくまでそう見えた、という程度の小さな動きだった。

( ・∀・)「局所的には勝てる見込みがある。いや、いくらか領土を取り返せる可能性もあると見てる。
     が、全く意味がないんだ。この作戦には。
     いくつか城を奪ったところで、ラウンジの壊滅には至らない」
53 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:41:09.49 ID:UhkipeCL0
( ・∀・)「例え領土を五分にしたって、そこまでをずっと苦しい状態で戦ってきたのはヴィップのほうだ。
     押し返されるのは目に見えてる。ショボンは峻厳な戦をしてくるはずだからな。
     兵や物資を全力で注げば最初はまともに戦えるかも知れねーが、それじゃダメなんだ」

( ^ω^)「確かに、そうですお……それじゃあラウンジの領土を全部奪うのは無理ですお」

( ・∀・)「となると次に浮かぶ手は、ラウンジ城の急襲。
     俺たちにはカノン城があるからな。あそこからなら、ラウンジ城は狙える。
     しかしこれも危険だ。ラウンジは、ラウンジ城の防備に最も人員を割いている」

( ^ω^)「それに、カノン城はさほど守りに適した城じゃないそうですお。
      ラウンジに本気で狙われると、危険ですお」

( ・∀・)「まず最初に狙ってくるだろうな、ラウンジは」

 その予測は既に立てていた。
 だから、ヒッキーとロマネスクに一万の兵をつけて、北に送っている。
 今頃はハルヒ城に到達しているはずだ。

 カノン城の守将は、堅守で知られるニダー=ラングラー。
 それをヒッキーとロマネスクが固め、磐石の守りを敷く。
 易々と破られることはないはずだ。

( ・∀・)「もしカノン城が落ちればラウンジ城を狙うのは難しくなる。
     ハルヒ城まで落とされる可能性は低いが、時間の問題かも知れない」

( ^ω^)「抗いたいですお。例え時間稼ぎでも」
57 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:43:10.55 ID:UhkipeCL0
( ・∀・)「稼いでどーするんだ。時間が経てば経つほど差は広がるぞ」

( ^ω^)「……何かが、掴めそうなんですお」

 垂れ下がった両手の中には何もない。
 しかし、何かが。何かが、分かりそうな気がする。
 大将となり、国を背負って立つと覚悟した、そのときからだ。

( ^ω^)「確証があるわけではないですお……でも、何か……。
      ヴィップの天下を引き寄せられるような、何かが……」

( ・∀・)「あるんなら最上だが……とりあえず、何も掴めなかったときのことを考えるべきだ」

( ^ω^)「当面は、専守ですお。やっぱり攻める力は不足してますお」

( ・∀・)「そうだな。守りつつ勝機を見出すってとこか。
     消極的な戦法だが、それ以外に道がない」

 そうだ。やはり、今は守る以外に何もできない。
 いや、もしかしたらずっと先まで。

 モララーが言っていた作戦は、使える。
 一時的にでも押し返せば、勝機が見えるかも知れない。
 ただ、それだけでは不充分だ。

 もう一手、何かが必要になる。
 その場凌ぎではない。決定的な、何かが。

 モララーの作戦を使ったとしても、押し返せるとは限らない。
 それでも何かを探したい。
66 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:45:23.08 ID:UhkipeCL0
 モララーの部屋から去ったあと、気付けば書物室へと足を運んでいた。
 知識を得ることも必要だろう。そこから生まれるものも、あるかも知れない。
 埃っぽい本棚を漁り、様々な本に手をつけた。

( ^ω^)(これは……昔の戦について編纂したものかお……?)

 資料ではなく、本となっている。
 筋道立てて戦について記されているのだ。
 どうやら、まだジョルジュもいない頃の戦らしい。

 497年、当時ヴィップで最上のアルファベット使いはハンナバル=リフォース。
 アルファベットを使い始めてから、六年が経っている。それでも、使用アルファベットはNだ。
 モララーは五年でRに到達していた。当時、ヴィップ最強のハンナバルでも、N。

 アルファベットは成熟している。
 人のほうが、だ。

 昔はJの壁を突破することさえ国中の話題になるほどだったというし、Sの壁など見果てぬものだったに違いない。
 訓練の技術や、アルファベットの正確性も向上している。上位の者と対戦できる機会も多い。
 昔に比べれば、水準が上がっているのは当然だった。

 現に、自分が入軍した頃は全土に僅か五人しか存在しなかったSの壁突破者も、大幅に増えている。
 ヴィップだけで五人、ラウンジにも四人。ほぼ倍数だ。
 やはり、時とともに円熟味を増していることが要因だろう。

 だが、昔の戦との差はない。
 ただアルファベットの水準が上がった、というだけの話だ。
 昔の戦も、充分参考になる。
68 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:47:17.14 ID:UhkipeCL0
 多くのことを学ばなければならない。
 大将としての自覚を持って、皆を牽引しなければならないのだ。
 その覚悟は、とうに決めていた。

( ^ω^)(この戦は、ハンナバルさんの活躍によって勝利……かお)

 見事な勝利を収め、ラウンジを撃退したそうだ。
 当時、ラウンジにはベル=リミナリーという稀代の英傑がいた。
 それを破って得た勝利というのは、大きかったはずだ。

 書物を閉じ、本棚に戻した。
 視線を上下左右に回す。何か、参考になりそうな本はないだろうか。
 この地の戦を、終わらせるために。

( ^ω^)「……あっ……」

 そうだ、何故気付かなかった。
 最も参考にすべき事柄が、あるではないか。

 およそ七百年前、この地に大戦があった。
 アルファベットを用い、全土を戦火に晒したかつてない大戦だ。
 その戦は、いかにして終わったのか。

 間違いなく、参考になるはずだ。
 早速書物を探し始めた。

( ^ω^)(歴史書は……)

(;^ω^)(おっおっ、凄い冊数だお……これは骨が折れそうだお……)
71 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:49:09.71 ID:UhkipeCL0
 一人でやるのは非効率的だ。
 それに、やらなければならない仕事もある。
 大将になって初めて分かったが、課せられる任務の量が中将以下とは比較にならなかった。

 モララーが多く仕事をこなしてくれるため多少は軽減されたが、それでも膨大だった。
 寝る間を惜しんで仕事や訓練をこなす必要があるだろう。

 自室に戻り、人を集めた。
 侍女が一人と、補佐官を務める従者が三人。
 大将が部屋に置くには少ない人数だが、自分にとっては最適だった。

リ|*‘ヮ‘)|「ありませんねぇ……」

( ^ω^)「うーん……」

 侍女を伴って、再び書物室に戻ってきた。
 歴史書が並べられた本棚を二人で漁り、本の中身を確かめていく。
 古紙特有のにおいが鼻をつき、気分が悪くなったのも最初だけで、二刻もすれば気にならなくなった。

 約七百年前の戦について書かれた書物は、ある。
 あるにはあるが、どれも記述が曖昧すぎるのだ。
 戦があった。終戦後、各地で復興作業が行われ、繁栄を築いていった、など。

 戦の経過や結果について書かれたものは、全くなかった。
 『ニチャン』という国が勝った、ということくらいしか、分からないのだ。
 それでは全く意味がない。何の参考にもならない。

 次々に本を取り出しページを捲っていくも、それらしい記述は見当たらない。
 大戦だったため多くのものが失われたとは聞いていたが、これほどとは思わなかった。
 巨大なヴィップ城の書物室にさえ、答えは存在しないのだ。
75 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:51:40.62 ID:UhkipeCL0
( ^ω^)「ダメだお……ないみたいだお……」

リ|*‘ヮ‘)|「……となると、他の城を探したほうが……」

( ^ω^)「うーん、でもヴィップ城が一番じゃないかお?
      他にここより大きい城はないお」

リ|*‘ヮ‘)|「でも、古書が見つかる可能性はあります。
     パニポニ城やエヴァ城はヴィップ城より古い建物だと聞いた覚えがありますし。
     オリンシス城の地下には誰も入らない資料室があるとも」

( ^ω^)「そうなのかお? 初耳だお。確かにそれなら、古書が見つかる可能性はあるお」

リ|*‘ヮ‘)|「お役に立てましたか!?」

( ^ω^)「もちろんだお。ありがとだお」

 頬に赤みを含ませ、小躍りしながら侍女は古びた本を棚に戻していた。
 まだ二十にもなっていない、という若さが表れているような気がした。

 二十冊ほど二人で書物室から持ち出し、部屋へと運んだ。
 侍女は華奢な腕を目いっぱい頑張らせている。それでも抱えているのは八冊ほどだ。
 自分は両手が塞がった状態であり、侍女の本を減らしてやることもできない。

( ^ω^)(……あ、いったんこれ置けばいいのかお?)

 至極単純なことに気付き、本を床に下ろしかけた。
 そんなとき、ふと向かい側の闇に人の姿が浮かび上がった。
 ミルナだった。
79 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:53:31.14 ID:UhkipeCL0
( ^ω^)「ミルナさん、どうかしたんですかお?」

( ゚д゚)「ん? いや、城内を把握するために歩いていただけだ。
    オオカミ城ほどではないが、さすがに広大だな。
    把握するだけで疲れてしまった。まだやるべきこともあるというのに」 

 疲労の色が浮かんでいるミルナの背には、アルファベットU。
 どうやら訓練を行うつもりらしい。
 ミルナは既に四十六だが、まだこれからもアルファベットは成長するはずだ。

 今まではオオカミという国を一人で支えていて、碌に時間も取れなかったと聞く。
 しかし、これからは訓練を心置きなくこなせるはずだ。
 いずれ、VやWに達するだろう。

( ^ω^)(あっ……そういえば)

 不意に、思い出した。
 ミルナに言おうと思っていたことを。

 侍女には、先に部屋に帰るよう告げた。
 待たせるのも申し訳ないし、何より両腕が辛そうだったからだ。

( ^ω^)「ミルナさん、ちょっといいですかお?」

( ゚д゚)「なんだ?」

( ^ω^)「実は、お願いしたいことがあるんですお」
83 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:55:22.52 ID:UhkipeCL0
 そんなありきたりな言葉に、ミルナは不自然なほど大きく反応した。
 身構えた、と言ってもいい。
 思わずこちらが身構えたくなるような反応だった。

(;^ω^)「ど、どうかしたんですかお?」

( ゚д゚)「いや……何でもない。聞こう」

( ^ω^)「えっと……実は探してほしい人が」

 言った瞬間、またも特異な反応を見せた。
 首を傾げたくなった。

(;゚д゚)「……お前もか? ブーン」

(;^ω^)「ほぇ? どういう意味ですかお?」

( ゚д゚)「あぁ、いや……すまんな。何でもない。少し疲れているだけだ。
    続けてくれ」

( ^ω^)「えーっと……ご存知の通り、ヴィップには今、将校用のアルファベットを作ってくれる人がいませんお。
      地下の生産所に高位アルファベットを作れる人もいるけど、不充分で……。
      S以上のアルファベットとなると、不安が大きいんですお」

( ゚д゚)「つまり、オオカミで有能だったアルファベット職人を探してほしい、と?」

( ^ω^)「ベル=リミナリーのWを作った職人がいたと記憶してますお。
      それに、ミルナさんのUも」
86 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:57:13.87 ID:UhkipeCL0
( ゚д゚)「頼んでみよう。実のところ、居所は把握している。
    モララーとビロードを助けたときに使ったMは、その職人に作ってもらったものだからな」

( ^ω^)「そうだったんですかお。じゃあ、お願いしますお」

( ゚д゚)「オリンシス城からそう遠くないところにいるはずだ。
    だからブーン、近いうちに俺を」

( ^ω^)「オリンシス城に。そのつもりですお」

( ゚д゚)「それなら、いいんだ。ビロードとも話し合いたいところだしな」

( ^ω^)「ラウンジが攻めてくるのは間違いない城ですお。
      将の充実のため、フサギコさんと一緒に。それで構いませんかお?」

( ゚д゚)「構わん。オリンシス城の勝手は知っている、問題ない」

 礼を言って、ミルナと別れた。
 アルファベット職人に関しては憂慮していたが、ひとまず解決への道はできた。
 あとは道の向こう側からやってくるのを待つだけだ。

 いずれ、自分のアルファベットもW以上になるだろう。
 いかにツンが作ってくれたものとは言え、Vに固執しているわけにはいかないのだ。
 何せ相手はZを操るショボン=ルージアル。ひとつでもランクを上げなければ、対抗できない。

 だが、ツンがいたからこそ、ここまで来れた。
 二つの壁も越えられた。
 それは、紛れもない事実だ。

 一生忘れない真実だ。
92 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 13:59:11.90 ID:UhkipeCL0
( ^ω^)「持ち帰ってきた本の中に、何か新しい発見はあったかお?」

リ|*‘ヮ‘)|「いえ、特には……」

( ^ω^)「やっぱり、なさそうかお……」

 本を左手で捲りながら、侍女と共に食事を取っていた。
 最近、食堂ではなく自室で侍女の手料理を食べることが多い。
 盛り付けから味付けまで何もかも一流だ。何ら不満はなかった。

 だが、ときどき不恰好な料理を思い出すのは、我ながら詮無いことだと思っていた。
 切なさと侘しさで、心が満ちるのも。

( ^ω^)「違う城で探してみるお。意外なところにあるかも知れないお」

リ|*‘ヮ‘)|「そうですね……。
     ところでブーン様、その書物はいったい?」

( ^ω^)「あ、これはただの軍学本だお。単に勉強してるだけだお」

リ|*‘ヮ‘)|「食事の間も惜しまず努力なさるのですね。さすがです」

(;^ω^)「そんな大層なこっちゃないお。元々の次元が低いから勉強しなきゃなんだお。
      ブーンは将として、まだまだジョルジュさんやモララーさんに及ばないお。
      だからたくさん勉強して、二人に少しでも近づかなきゃいけないんだお」

リ|*‘ヮ‘)|「ご謙遜なさるお姿も、素敵です」

(;^ω^)「いや、だから……そういうんじゃなくて……」
97 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 14:01:05.38 ID:UhkipeCL0
 どれだけ否定しても無駄だ、とようやく悟った。
 嘆息を吐き出して、スープを啜る。芋を細かくすり潰し、調味料を加えて味付けを施したものだ。
 舌の上を細かい粒が撫でていく。

 本の中頃まで読み進めた。
 内容は、防衛戦での留意点。どの書物にも書いてあるようなことだ。
 兵糧の節約について、物資の有効活用について。

 今のヴィップは、防衛戦でラウンジを凌ぐより他ない。
 戦を優位に展開し、敵を疲弊させ、然る後に反撃に出るのだ。
 頭の中で何度も反芻した。もう分かりきったことだ。

 だが、やはり次の一手に欠けている。
 然る後に、反撃。その反撃をおこなったあと、どうするのか、だ。
 策を張り巡らせれば多少は押し返せるかも知れない。しかし、それはラウンジ全土を食い尽くすほどなのか。

 答えは、否だろう。
 やはり、次の一手が必要だ。

 それよりも先に、まずは防衛戦で敵を疲弊させること。
 遠征してくるラウンジのほうが兵糧の消耗は激しい。兵の疲労も溜まる。
 兵数で劣っていても、やれることはたくさんある。

 パニポニ城には人員を割かなくとも問題ない。
 あそこは天然の要害だ。ラウンジが二十万を動員すれば話は別だが、ありえないことだろう。
 となると、次に危ういのはシャッフル城かも知れない。

 まだしばらくラウンジが動きを見せてこないようなら。
 そのときは、自分がシャッフル城に行こう、と決めていた。
 伴う将はサスガ兄弟。守りは不得手と聞いているが、ベルベットもいる。問題ないだろう。
103 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 14:03:28.53 ID:UhkipeCL0
 陣容は固まってきた。
 次第に、戦の気運も高まってきた。
 もう少し準備が整えば、問題なく戦ができる。

 そう考えていた、矢先だった。

(伝;エ_エ)「ご報告申し上げます!」

 部屋に飛び込んできた、伝令。
 逼迫した表情。額に浮かんでいる汗。
 肩を揺らしながらの呼吸。

 ラウンジが、動いたのだ。
 それはほとんど、確信に近かった。

(伝;エ_エ)「ラウンジ軍、一斉出撃! 十一万が既にカノン城に迫っているとのことです!」

(;^ω^)「他は!?」

(伝;エ_エ)「オリンシス城、もしくはシャッフル城に向かったものと思われます!
      東のカノン城にはショボン=ルージアル、西にはカルリナ=ラーラスとアルタイム=フェイクファー!」

 予想外だ。
 逆を想定していた。オリンシス城のほうにショボン、カノン城にカルリナとアルタイム。
 しかし、予想は脆くも崩れ去った。

(;^ω^)「即座に全将校と全兵に通達! 出陣の用意を!」

(伝;エ_エ)「了解致しました!」
106 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 14:05:27.28 ID:UhkipeCL0
 下げた頭を上げきらないうちに、伝令は駆け出していった。
 飲みかけのスープをその場に置き、すぐにアルファベットを背負う。
 侍女も慌てて具足を用意してきた。

リ|;‘ヮ‘)|「どうか、ご無事で……」

( ^ω^)「大丈夫だお、きっと元気で帰ってくるお」

 あえて落ち着いた声で言った。
 まだ若いこの侍女を、不安にさせたくなかったのだ。

 具足を身に纏い、部屋から飛び出した。
 既にミルナやフサギコは外に出てきている。

( ゚д゚)「もう少しかかると思っていたがな……巨体のわりに、動きは俊敏、ということか」

( ^ω^)「準備は、九割がた終わってますお。今から出発すれば、ラウンジより先に城に着くはずですお」

ミ,,゚Д゚彡「俺はミルナ中将とオリンシス城に。それはさっき聞いたが、ブーン大将は」

( ^ω^)「シャッフル城に向かいますお。ただ、ラウンジの目がオリンシス城に向くようなら、そっちに」

( ゚д゚)「もしシャッフル城が狙われているようなら、オリンシス城からも援軍を出そう」

( ^ω^)「お願いしますお」

 城中から慌しい音が聞こえていた。
 突然の出撃。ラウンジは、何の前触れもなく動いてきた。
109 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 14:07:20.26 ID:UhkipeCL0
 本来なら、出陣の準備が行われている、という報が先に来るはずだった。
 しかし、それは秘匿されていたようだ。上手く欺かれた。
 ただ、先手を打たれたのは苦しいが、大局に影響を及ぼすほどではない。

 躊躇なく出陣し、守りに入れば凌げるはずだ。
 ともかく今は、城から出ることだった。

 全将校が揃い、兵卒を集めた。
 編成はとうに決まっている。さほど時間はかからない。
 肝心の馬が若干足りてないが、仕方がなかった。今あるもので、何とかするしかない。

 日付が変わるまでには、全て終わった。
 出陣前の発破をかけることもなく、進発する。時間が惜しいのだ。
 もし本隊が到着するまでに西の城に到達されると、苦しいことになる。

( ^ω^)「急ぐお!」

 先頭に立ち、馬の尻を叩いた。
 景色の流れが速まる。風も強く自分の身体にぶつかった。

 後ろにはアニジャとオトジャ。
 緊迫した表情で手綱を握っている。
 戦に臨む覚悟は、十二分にあるようだ。

 とにかく疾駆して、一刻も早く城に到着すること。
 そして戦うこと。

 今は、それだけを考えなければならなかった。
113 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 14:09:13.67 ID:UhkipeCL0
――ピエロ川・北岸――

 カノン城の隻影が見える。
 既に空は白みだしていた。

 引き連れたラウンジ軍、十一万。
 対するヴィップ軍は、せいぜい四万といったところだろう。
 兵数差では、圧倒していた。

(´・ω・`)(だが……)

 油断ならない相手だというのは、自分が一番分かっている。
 ヴィップという国は、何度も寡兵で勝利を収めてきた。
 ハンナバルが総大将だったころからの特色だ。

 その色を、薄める努力はしてきた。
 何より大きいのは、ツンを消したこと。アルファベットの優位性を損なわせたこと。
 今やラウンジと大差はないだろう。

 兵の錬度ではどうか。正直、はかりかねていた。
 西塔の兵がどんな動きをするか、碌に見たこともないからだ。

 しかしそれも、戦ってみれば分かることだ。

(´・ω・`)「迅速に渡河しろ。南からヴィップの援軍が来る前に、カノン城を落とすぞ」

 兵に告げ、ピエロ川の渡渉を急がせた。
 ここでもたついていては、みすみす援軍の到着を許すことになる。
116 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 14:10:51.46 ID:UhkipeCL0
 しかしやっと、戦える。
 ヴィップとの交渉は失敗に終わったが、それならそれで、いいのだ。
 力で押し潰せば、それでいい。

 ラウンジの天下は、圧倒的な武力をもってして、掴み取ればいいだけだ。

(´・ω・`)(カノン城の守将は、ニダーだな……)

 黒く淀んでいた川の水も、日の出と共に明るさを取り戻してきた。
 静かに揺れる水面。それを切り裂きながら進む、大型船と中型船。

 カノン城の姿も、はっきりと見え始めていた。

(´・ω・`)(ヴィップ軍きっての堅守を誇る将。守りなら右に出る者はいない、か)

 乗り込んだ船から、見下ろした。
 澄んだ水。反射する光。
 だが、ここがヴィップ兵の血で染まるときは、そう遠くないだろう。

 自然と、口角が釣りあがった。

117 :第85話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/27(木) 14:11:12.60 ID:UhkipeCL0
(´・ω・`)「中将、ニダー=ラングラー。相手にとって、不足はない」

 誰に言うでもなく、そう呟いた。















 第85話 終わり

     〜to be continued

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