2 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:28:30.20 ID:kuyn/dle0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:国境線上の幕舎内

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヴィップ城
5 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:29:28.58 ID:kuyn/dle0
〜西塔の兵〜

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:国境線上の幕舎内

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:カノン城

●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヴィップ城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
7 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:30:09.29 ID:kuyn/dle0
●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ヴィップ城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ヴィップ城
10 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:30:58.22 ID:kuyn/dle0
〜東塔〜

大将:ブーン
中将:モララー
少将:

大尉:ビロード/ベルベット
中尉:ロマネスク
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
15 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:31:55.12 ID:kuyn/dle0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー/ファルロ
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
17 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:32:17.44 ID:kuyn/dle0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

25 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:33:33.24 ID:kuyn/dle0
【第84話 : Sun】


――国境線上の幕舎――

(´・ω・`)「俺は欲した。従順な手駒を」

 ショボンの声だけが、空間を舞っている。
 ところどころに当たって響き渡る。

 重く、鈍い声が。

(´・ω・`)「将校のなかに、ラウンジの手先が欲しかったのさ。
      先の戦のときと同じように、国軍へ被害を与えたかった」

(´・ω・`)「最初にプギャーが手駒となった。あいつはバカだからな、操りやすかった。
      まぁ、俺と同じようにクラウン国王によって送り込まれた刺客だし、何の問題もなかった。
      ただ俺たちと同じ手でヴィップ国に潜り込ませるのも、限界があったらしい。戸籍を奪う必要があるからな」

(´・ω・`)「だから俺は、ヴィップの人間を手駒にすることを考えた。
      従順に仕立て上げるのは難しくないと思ったさ。実際、兵卒レベルならそんなやつは多く得た。
      ――――そこで俺が考えたのは、アルファベットに関して才のない人間を得たい、だ」

 ジョルジュの眉が動いたのが分かった。
 自分はただ、意味と意図が理解できずにいる。

(´・ω・`)「ヴィップの人間は誰しもが愛国心を抱いている。軽重に差はあろうともな。
      となると当然、裏切られる恐れを考慮しなければならない。
      不意な攻撃を喰らった場合のことだ」
29 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:35:27.30 ID:kuyn/dle0
( ゚д゚)「だから、ブーンの才能を偽造したというのか?」

(´・ω・`)「端的に言えば、そうなる。どう頑張ってもJの壁を突破できないような人材が欲しかった。
      I程度の使い手なら、例え不意を打ってきてもどうとでも対処できる。
      裏切られても大丈夫、というのは単純なようで大きい。安心感もあるしな」

(´・ω・`)「頭の良し悪しはまぁ、どっちでも良かった。それぞれに使い方はある。
      肝要なのは才能のなさだ。それを、才能があるかのようにして扱う、というのが大事だった。
      大将である俺に目をかけられれば、俺に対する尊敬は深まるだろうし、恩義も覚えるだろう」

(´・ω・`)「入軍試験で異彩を放たせれば周りも注目する。
      そうすればいずれ将校に上げるときもやりやすい、と考えたのさ」

(;^ω^)「……モララーさんに対しても、同じだったのかお?」

(´・ω・`)「あぁ、同じだ。お前とは事情が違ったがな。
      あいつは最初から無類の才があると分かっていた。だから目をつけたんだが……。
      しかし、俺に匹敵するほどの才があるというのは、危険だと思った。裏切られたときがな」

(´・ω・`)「そのときの反省を活かして、才のない人間に目をつけたわけだ。
      たまたま向かった入軍試験で、Aを握れないやつがいたのは、実に幸運だった。
      ――――しかし、誤算があった」

(´・ω・`)「お前はどうやら、本当に才のある人間だったらしい」

 ショボンの鋭い眼光が、ゆっくりと向けられた。
 頭の頂から足の先まで、鳥肌が立つような。
33 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:37:17.32 ID:kuyn/dle0
(´・ω・`)「あのときAを握れなかったのは間違いない。俺が触れたとき、Aに熱はなかったからな。
      となると、こう考えるのが自然になるだろう。
      『俺が発破をかけて多量の訓練を与えているうちに、本当の才能が芽生えてしまった』」

(´・ω・`)「モナーの話によれば、お前の父親にもそれなりの才があったそうだな。
      人によっては序盤、アルファベットの成長が遅くとも、後になるにつれ才能を発揮する場合がある。
      アルタイムやドラルのような、大器晩成型だ。恐らくは、お前もそうだったのだろう」

(´・ω・`)「まさかAに触れられないような人間が、二つの壁を突破するにまで至るとは、想像もしなかったが……。
      ともかく誤算だった。お前をせめてIにまでは到達させようと思って本気で訓練させたが、失敗だったな。
      Iなら兵たちからも将校として受け入れられる、というのはフィレンクトが証明してくれた通りだが……」

(´・ω・`)「まぁ、対オオカミの駒として見れば嬉しい誤算でもあった。
      抜群の才を持った将が現れたわけだからな。
      ラウンジに寝返らせることを諦めたあとは、むしろお前の成長を願ったよ」

( ゚∀゚)「ブーンに才能があると分かってからは、裏切る際に消すことを考えた、ってわけか?」

(´・ω・`)「いえいえ。そんなすぐには切り替えられませんでしたよ。
      最初はそのまま裏切らせるつもりでした。ブーンは僕に絶大な信頼を寄せていましたからね。
      ただやはり、アルファベットが上がるにつれ不安が増したのと……」

(´・ω・`)「側で見ているだけで分かるほど、ブーンはヴィップを愛しすぎていました。
      ヴィップを天下に導きたいという思いが、強すぎたんですよ。
      だから諦めて、モララーと同じように殺すことを考え始めましたね」

( ゚∀゚)「……じゃあ、もうひとつ質問だ。
     ブーンが最初に握っていたE、そしてG。
     あのへんのアルファベットは、もしや」
37 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:38:50.30 ID:kuyn/dle0
(´・ω・`)「お察しの通りです。本当に、何もかも勘付いていたようですね。
      あれは僕がツン=デレートに作らせた偽りのアルファベットですよ」

(;^ω^)「なっ……!!」

(´・ω・`)「最初のEは少しだけα成分を込めたもの。Gはもう少しα成分を込めたもの。
      Iも本来の機能を持ったものではなかったんだったかな。忘れてしまったが。
      まぁ、そうやって段階的にレベルアップさせたわけだ。思った以上の成長をお前は見せたが」

( ゚∀゚)「……やっぱり、ブーンのアルファベットには細工を施してあったのか……」

(´・ω・`)「あぁ、今頃分かりましたよ、ジョルジュ大将。
      アンタがツンの小屋を頻繁に訪っていたという噂は、僕の策に勘付いていたからなのですね」

( ゚∀゚)「……可能性のひとつとして、探っていた。
     ブーンがアルファベットを発熱させた理由は、最初ひとつしか思い浮かばなかった。
     類稀なる才能があるから、という理由だ」

( ゚∀゚)「だが、疑いすぎるほどに疑ってみれば――――お前が何か細工している可能性もあると思えた。
     だからツン=デレートに問いただしてみたんだ。
     『ショボンから何か変な依頼を受けたことはないか』と」

(´・ω・`)「しかし、ツンは口を割らなかったでしょう」

( ゚∀゚)「あぁ。頑として守秘義務を貫いた。
     ツンはアルファベット職人であることに誇りを持っていたからな。
     ショボンについて話してくれる見込みは薄かったが、それでも何度か小屋を訪ねた」

(´・ω・`)「結局は、徒労でしたか」
39 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:40:37.51 ID:kuyn/dle0
( ゚∀゚)「そうなる。ツンは心からショボンを信じてたみたいだしな」

(´・ω・`)「だからこそ、ツンに頼んだのですよ。ブーンのアルファベットを。
      生産所の人間に頼むのは少し危険性があった。アンタと繋がってる可能性も。
      徹底的に守秘義務を貫き、尚且つ僕を信頼しているツンが一番安全だと判断した結果です」

( ゚∀゚)「ハッキリとは言わなかった。ショボンが叛意を抱いているかも知れない、とは。
     だがツンは、俺がそう考えていることに薄々気付いていた。多分な。
     だからいずれ喋ってくれることを期待したんだが……」

(´・ω・`)「何もかもが無駄、ということですか。ご苦労なことですね」

( ゚∀゚)「……最終的には、何もかもお前に上回られた。
     ツンを殺されたことも、そうだ。警戒はしてたのに」

(´・ω・`)「僕がYを受け取りにいった夜、無理に引きとめようとしたのも、警戒が理由でしょう」

( ゚∀゚)「あぁ。何となく危険な気がした。
     しかし冷静に考えれば……あの晩に殺す気なら、俺にわざわざ言うわけはない。
     だから放っておいたが、やっぱり、最終的にお前はツンを狙ってきた」

(´・ω・`)「Zを完成させたらもう、用済みでしたからね。
      いくつか予備も作らせた。三日触れずに消えることにさえ注意していれば、Zを失う恐れはもうない」

( ゚∀゚)「……こっちにとっちゃ、最悪のパターンだ」

 ショボンの後ろに覗くアルファベットZ。
 今日、初めて見た。巨大で、刃の真ん中を線が走っている。
 あそこで分離するであろうことは、見ただけで分かる。
41 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:43:10.50 ID:kuyn/dle0
 最強のアルファベット、Z。
 いずれあれに、立ち向かわなければならない。
 全力を以ってして。

(´・ω・`)「和平交渉が決裂した以上、いずれ戦になる。
      そう遠くないうちにな。後から泣き喚かんことだ」

( ^ω^)「同じ言葉を返すお……泣きついたってお前を許すつもりはないお」

(´・ω・`)「お前の秘密を明かしたことで、多少動揺してくれればと思ったが、無駄だったか。
      まぁいい。戦は全力の相手を叩き潰してこそだ」

( ^ω^)「必ずヴィップを天下に導いてみせるお。ヴィップ国軍の、大将として」

(´・ω・`)「手足をばたつかせて、もがけ。滑稽な舞を踊ってみせろ。
      ジョルジュ、モララーという主力を失っている今、ヴィップにできるのはそれだけだ。
      俺は高みで、腹を抱えて笑わせてもらう」

( ゚∀゚)「粋がるのが趣味になったのか。そっちのほうが笑えるぞ、ショボン」

(´・ω・`)「弱者の吠えは、雑音にしか聞こえませんね」

( ゚∀゚)「あぁ、そうやって耄碌していけ。そのうち何も聞こえなくなって、何も分からなくなる。
     待ってろ、ショボン。いつか必ず、お前の喉を掻っ切ってやる。
     ドクオやギコや、フィレンクト……お前に討たれた者たちの仇を、討つ」

(´・ω・`)「病床の夢の中でですか? 楽しみですね、ジョルジュ大将」

( ゚д゚)「……下らん」
44 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:44:43.19 ID:kuyn/dle0
 腕を組んだミルナの声には、重々たるものがあった。
 険悪な空気を、上から押し潰すような声だった。

( ゚д゚)「話し合いが終わったのなら、もうこの場から去るべきだ。
    建設的とも言えん。これ以上話し合ったところで、何の意味もないだろう」

( ゚∀゚)「……あぁ、お前の言うとおりだ、ミルナ。
     下らない言い争いをしたところで意味はない」

 卓に両手をつき、立ち上がるジョルジュ。
 そしてミルナ。

 話し合うべきことは終わった。
 これからはもう、ラウンジとの戦を見据えていかなければならない。

 戦いは既に、始まっているのだから。

(´・ω・`)「最後に、ひとつ――――ここに宣言してやろう、ジョルジュ=ラダビノード」

 二人に次いで、立ち上がりかけた瞬間だった。
 一貫してジョルジュに対して丁寧な言葉を遣ってきたショボンが、それを崩した。
 不敵さも不遜さも、何もかも込められた声。

(´・ω・`)「ハンナバル=リフォースらによって創り上げられ、そしてお前が必死に守ったヴィップ。
      それを、俺が見るも無残な形に変えてやろう」

(´・ω・`)「グチャグチャに踏み潰してやるから、全てが終わったあとに必死でかき集めることだ。
      泣き喚きながら、うろたえながら、狂ったように。無情な残骸を。
      ――――もう二度と、元には戻らない残骸だがな」
50 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:46:37.33 ID:kuyn/dle0
 ふんぞり返ったショボンが、全ての言葉を発し終えた、瞬間。
 卓に拳が叩きつけられ、全ての湯呑みが甲高い音を立てて割れた。

 ミルナだった。

(#゚д゚)「ショボン、俺もお前にひとつ言いたいことがある」

(´・ω・`)「ほう?」

(#゚д゚)「俺はオオカミを潰した人間はお前だと見定めた。
    ヴィップはそれに利用されただけだ、と分かった。
    だからここに宣言しよう。俺はヴィップの将としてラウンジと戦う、と」

( ^ω^)「ッ!!」

 決然と、言い放った。
 あまりに心強く、力強い言葉を。

(#゚д゚)「ジョルジュから請われていたが、俺はいまひとつ踏ん切りがつかなかった。
    礼を言おう、ショボン=ルージアル。お前のおかげで踏み出せた。
    国の仇を、戦友の仇を、戦場にて討たせてもらう」

(´・ω・`)「楽しみにさせてもらおう、ミルナ=クォッチ。
      少しは手ごたえのある戦ができそうだな」

( ^ω^)「必ず、お前を討ち取るお」

(´・ω・`)「俺も、お前を討ち取りたい気持ちでいっぱいさ。
      邂逅を楽しみに待つこととしよう」
53 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:48:23.89 ID:kuyn/dle0
 不敵な笑みは最後まで崩されることはなかった。
 席を立ち、二人と共に出口へ向かいかけても。

 今度会うときは、戦場にて、アルファベットを携えて。
 心の中でそう言った。

 何となく、ショボンが後ろで頷いたような気がした。


( ^ω^)「ジョルジュ大将、ブーンも踏ん切りのついたことがありますお」

 幕舎から遠ざかり、平原に出た。
 二頭の馬が並走して南へと向かう。
 馬蹄は静かに、しかし強く草花を叩く。

( ^ω^)「ブーンは大将として戦いますお。その覚悟が、できましたお。
      ジョルジュ大将とモララーさんから話をされたときは、戸惑ったけど……。
      これからは、国を背負って立つ意識を明確にしていきますお」

( ゚∀゚)「そうしてくれると、助かる」

 幕舎から出た瞬間、ジョルジュは疲れを隠そうともしなくなった。
 ただそれでも、自分の言葉に対する笑顔はあった。

( ゚∀゚)「ミルナ、礼を言わせてくれ。お前が戦ってくれるなら、これほど心強いことはない」

( ゚д゚)「討つべき男が、あそこにいた。存在していた。
    討ちたい、と思っただけだ。ヴィップに対する忠誠も、お前に対する義理立てもない。
    言わば客将のような存在だろう。そう思ってくれればいい」
58 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:50:09.44 ID:kuyn/dle0
( ゚∀゚)「あぁ、分かってる。でも、俺にとっちゃ同じことなんだ」

( ゚д゚)「……そうか」

 ジョルジュの笑顔に対し、顔を背けるミルナ。
 しかし何故か、その頬は緩んでいるようにも見えた。
 恐らくは、気のせいだろう。

( ゚∀゚)「ブーン、提案がある。東塔と西塔のことだ」

( ^ω^)「廃止しようと思ってますお」

 即座に答えた。
 昔からずっと、考えていたことだ。隔たりは、ないほうがいい。
 これからはやはり、協力しあわなければならないのだ。

 ジョルジュは、静かに頷いた。

( ゚∀゚)「俺の地位は中将でいい。大将はお前ひとりでいい。
     じゃないと、お前を仰ぐという方向性が曖昧になるからな。
     兵卒の間で、だが」

( ^ω^)「……了解ですお」

( ゚∀゚)「ブーン、東と西の将校の間に蟠りはない、と俺は見てる。
     だが兵卒間にはまだ残ってるはずだ。さほど深くはないだろうがな。
     兵卒たちの意識を変えてやるのも、お前の仕事だぞ」

( ^ω^)「それも、分かってるつもりですお」
60 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:51:42.21 ID:kuyn/dle0
( ゚∀゚)「頼もしいな。皮肉じゃなく、そう思う。
     お前を見てると、ヴィップは大丈夫だと思える」

(;^ω^)「そうですかお?」

( ゚∀゚)「頼れるよ、お前は。これからもっと、頼れる男になる。
     ミルナ、ブーンを全力で支えてやってくれ」

( ゚д゚)「……あぁ」

( ^ω^)「そういえば、ミルナさんの地位は」

( ゚д゚)「別に要らん。報酬も要らん。寝床と飯さえあればいい」

( ^ω^)「いや、それじゃマズイんですお。
      上下関係をはっきりさせないと、判断に迷ったとき、誰が決断を下すかが問題になりますお」

( ゚∀゚)「ブーンの言う通りだ。地位は定める必要がある」

( ^ω^)「中将位で、とブーンは考えてますお」

( ゚д゚)「好きにしてくれ。俺はなんでもいい」

 何も話は聞いていなかった。突然だった。
 しかし、ミルナはヴィップの将として戦ってくれることになった。

 何度も死闘を繰り広げた相手が、仲間になる。
 複雑な気分だ。しかし、高揚していた。

 頼もしいという言葉では足りないほどの、味方が現れてくれた。
66 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:53:43.76 ID:kuyn/dle0
( ゚∀゚)「……正式にヴィップの将となってくれたところで……頼みがある、ミルナ」

( ゚д゚)「なんだ?」

( ゚∀゚)「あー、ヴィップ城に帰ってからにしよう。そのほうがいい」

( ^ω^)「……どうかしたんですかお?」

( ゚∀゚)「お前に聞かれたくねーんだ。迷惑かけるからな」

 心配りのできる人間だ、というのは最近知った。
 今までジョルジュは、そんな一面を見せようともしなかった。

( ^ω^)「了解ですお」

( ゚∀゚)「すまんな」

 ジョルジュの言葉を、素直に信じられる。
 もはや、以前のように猜疑の目を向けていた自分はいない。

 圧倒的な戦力を持つラウンジに、立ち向かう。
 そのとき、振るえる武器となるものは、果たして何か。

 結束の力。
 信頼の力。

 それら全てを、アルファベットに託して、振るいつづけるしかない。

 ラウンジが迫ってくるまで、幾許の猶予もないのだ。
69 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:56:00.66 ID:kuyn/dle0
――ヴィップ城――

( ^ω^)「ありがとだお、ロマネスク」

( ФωФ)「幼少の頃より、不可思議なことだと思っておりました。
     東と西の隔たりを取り除くことは、有益以外の何事でもありません。
     賛意は当然であります」

 ロマネスクが頭を下げ、任務に戻った。
 近々のうちにラウンジが攻め込んでくると予想されている。その迎撃の準備だ。
 前線に兵と物資を送らなければならない。

 ロマネスクはよく働いてくれた。
 勤勉の鑑のような男だ。動きにも無駄がない。
 まだ二十四と若く、今後に大きな期待を持たれている将だった。

( ^ω^)(……これで全員だお……)

 春の陽気がゆっくりと近づいてきている。
 肌寒く感じる日が少なくなり、草原には花が芽吹き始めた。
 近いうちに、ヴィップ城の周りの桜も蕾をつけ始めるだろう。

 ヴィップ城に帰ってきてからまず最初におこなったのは、将校たちに同意を求めることだった。
 東と西という、長年続いてきた隔たりを、排除しようという提案に対する同意だ。

 指揮系統が二つに分かれていては、意思の統合もままならない。
 今まで何度、二つの塔が協力しあっていればと嘆いたか。両手の指では足りない。
 やはりどう考えても、東西に分離しているべきではないのだ。
72 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:58:01.35 ID:kuyn/dle0
 ヴィップ城にいる全将校から賛同を得られた。
 特に喜んでいるように見えたのは、意外にもヒッキー=ヘンダーソンだ。
 確かにヒッキーは中立の将だったが、あれほどに表情を崩したところは見たことがなかった。

 よく決断してくれた、とまで言われた。
 東西の争いを最も憂えていたのは、実はヒッキーだったのかも知れないと思った。

 本来なら前線の守将となっているニダーにも賛否を問いたいが、余裕がない。
 ベルベットやビロードは賛同してくれるだろう。しかし、ニダーは分からないのだ。
 東西は切磋琢磨し成長しあえばいい、という持論を持っていたと聞いたからだった。

( ゚∀゚)「大丈夫だ、心配すんな。ニダーはそんな頭の固いやつじゃねぇよ」

 不安になってジョルジュに相談に行ったところ、あっさりそう返答された。
 思わず、気が抜けてしまうほどだった。
 本当にジョルジュは何も心配していない。反対するかも知れないなどと、全く思っていないようなのだ。

 しかし、ジョルジュがそう言うのなら、間違いないのだろう。
 胸を撫で下ろせた。事後承諾となってしまうのは申し訳ないが、やはり余裕がなさすぎる。
 いつラウンジが攻めてくるか分からない状況なのだ。

( ゚∀゚)「それより、兵たちの反応は?」

( ^ω^)「……うーん……」

 大将室の寝床で、ジョルジュは上半身を起こしていた。
 側に置かれている薬湯から、まだ湯気が立っている。先ほど置かれたばかりのようだ。
76 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 10:59:58.19 ID:kuyn/dle0
( ゚∀゚)「微妙か……」

( ^ω^)「いや……やっぱり混乱はあるみたいですお」

( ゚∀゚)「まぁ、そうだろうな……数十年も維持されてきた体制だからな……」

 兵卒には既に通達を出した。
 東と西の垣根を取り除くこと。自分が大将となること。
 ミルナが中将として加わること。ジョルジュが中将となること。

 大きな反応があったのは、最初のひとつだけだ。
 ミルナが加わることに対する反発は、あると思った。しかし、憶測は見事に外れた。
 どうやら兵たちの間では、ミルナがヴィップ軍に入ることは既に予想されていたらしい。

 オオカミを討つためにショボンはヴィップを利用した、と誰もが分かっている。
 ならば仇を討つべく、ミルナはヴィップで戦うのではないか、と噂されていたらしいのだ。
 そしてそうなれば、ヴィップにも希望が見えてくる、という好意的な受け止め方をされたようだった。

 生粋の武人であるミルナだからこそ、だろう。
 卑劣な手を好まない。常に正々堂々と戦ってくる。
 ヴィップの兵、特に東塔の兵は、それを感覚で知っている。

 ともかく、懸念していた部分のひとつはクリアした。
 ジョルジュが中将となることには疑問もあったようだが、それはジョルジュが自ら文書を出して説明している。
 自分が大将となった理由については、いずれ自分の口から皆に伝えよう、と思っていた。

 あとはやはり、東西統合の件だ。
81 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:02:01.65 ID:kuyn/dle0
( ゚∀゚)「はっきりと方向性を違えだしたのは、ショボンの代になってからだ。
     あのときはやっぱり、東西に別れてて正解だったと思う。
     俺がラウンジに全力を傾けられた」

( ゚∀゚)「ショボンの邪魔もしやすかったし、俺も動きやすかった。
     ショボンにも利はあっただろうけどな。協力しあうべきじゃーないと思ってた」

( ^ω^)「今にしてみれば、確かにメリットもあったんだと思えますお」

( ゚∀゚)「協力しあいたいと思うやつも少なからずいただろうけどな。お前も含めて。
     ショボンの策の実行を遅らせることはできたと思う。
     まぁ、その正しさは誰にも理解されなくていいんだけどな」

( ^ω^)「何でですかお?」

( ゚∀゚)「お前だって東と西に分かれてるのはおかしいと思っただろ?
     メリットもデメリットもあった。天秤にかけても、どっちが沈むかは分かんねぇ。
     そんでもって、今は統合の流れだ。分かれてたことのメリットなんて、知られてないほうがやりやすいだろ」

( ^ω^)「……なるほどですお。分離してたことのデメリットを押し出したほうがいい、ってことですかお」

( ゚∀゚)「そういうこった。兵たちが納得するかどうかは、お前次第だけどな」

( ^ω^)「頑張りますお。感情を上手く溶かせるように」

( ゚∀゚)「あぁ、頼む」

 空を四角く切り取った窓が、風に煽られて音を立てた。
 心臓の鼓動のように、ゆっくりと小さな音だった。
86 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:03:54.83 ID:kuyn/dle0
( ^ω^)「そういえば、ミルナさんは?」

( ゚∀゚)「将校と話し合うっつってたな。交流が大切だと思い至ったらしい。
     オオカミ時代の轍を踏みたくないんだろ」

( ^ω^)「……どちらかといえば……オオカミ時代を思い出したくないから、そうしてるようにも思えますお」

( ゚∀゚)「そうかもな……なんにせよ、あいつにもお前にもだいぶ迷惑かけちまってる……。
     すまんな……国がこんなときなのに、俺は何の役にも立てない……」

( ^ω^)「しっかり療養してくださいお。決して無理はしないように、ですお。
      ジョルジュさんが居てくれるだけで、安心できますお」

( ゚∀゚)「でも、それだけじゃいけねーよな……俺も、モララーも……。
     できることは全部やるさ。もちろん、無理しない範囲で、だが」

( ^ω^)「お二人の存在は心強いんですお。だから絶対に、無理はしないでくださいお」

( ゚∀゚)「わぁーってるって。ほら、もう戻れ」

( ^ω^)「失礼しましたお」

 広壮な大将室から去り、屋上へと出た。
 ジョルジュは中将ということになったが、西塔の最上階からは動かない。
 わざわざ中将用の部屋に移動となると不便なことが多すぎて、何の利点もないのだ。

 ジョルジュとモララーには療養してもらわなければならない。
 となるとやはり、他の将校たちの働きが重要になってくる。
 特に新しく加入したミルナや、まだ将校となってから日の浅いロマネスクなどだ。
91 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:06:03.14 ID:kuyn/dle0
 そのロマネスクの声が、聞こえた。
 第二訓練室。どうやら、アルファベットの訓練を行っているようだ。
 仕事を与えたのは自分だが、頭から抜けていた。

 窓から訓練の様子を窺った。
 懸命にアルファベットが振られている。サーベル状アルファベットのBだ。
 入軍して間もない兵たちだろう。

 既に太陽はその身を沈め始めている。
 にも関わらず、調練に入れられた熱は凄まじかった。
 一人の例外もなく、顎から多量の汗が滴り落ちている。

 過剰とまでは言わないが、このままでは兵が倒れてしまうかも知れない。
 限界を知ることも大事だが、今後に影響を及ぼすような事態になっても困るのだ。

( ^ω^)「ロマネスク、ロマネスク」

 室内に入って、声を荒げていたロマネスクを呼んだ。
 指導にも相当な気合が入っている。疲労度は兵卒以上かも知れない、と思った。

(;ФωФ)「大将、如何致しました?」

 袖で額や顎の汗を拭うロマネスク。
 後ろに見える兵卒は皆、身を引き締めて直立していた。
 何故だか分からなかったが、ふと自分が大将であることを思い出して納得した。

( ^ω^)「実は、そろそろ牧場に頼んだ二百頭の馬が届く時間なんだお。
      そっちを見てやってくれないかお? ロマネスクの目なら間違いないお」

(;ФωФ)「仰せの通りに致しますが、こちらのほうは」
99 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:08:15.99 ID:kuyn/dle0
( ^ω^)「ブーンが引き継ぐお、心配しなくてもいいお。
      馬を見慣れた人間は多いけど、やっぱ幼い頃から触れてきた人間に任せたいんだお」

(;ФωФ)「承知致しました。では、こちらをお願いします」

( ^ω^)「頼んだおー」

 深々と頭を下げるもすぐに上げ、足早に去るロマネスク。
 そんなに急がなくても、と言う前に声が届きにくい位置まで走っていった。

 ロマネスクの親は馬牧場を経営していたらしく、幼い頃からそれを手伝って育ったという。
 馬の扱いには慣れたものだ。普通の者が気付かない、微妙な癖なども見抜く。
 軍馬として使うことに適していない、と判断したら輸送用に回す必要があるため、ロマネスクの目は重宝されていた。

 ただ、その役目を果たせるのがロマネスク以外にいない、というわけではない。
 本当は他の者に頼むつもりだった。しかしやはり、この場は休ませたほうがいい。
 兵たちも、ロマネスクもだ。

 兵たちは明らかに疲れ果て、動きが悪くなっていた。
 それにロマネスクは気付いておらず、ただただ叱咤していた。
 少し、周りが見えていないようだったのだ。

 兵たちも、休みたいとは言い出せない。
 最近、将校たちのほうが兵の倍は働いている。
 普段なら休息を進言する者がいるかも知れないが、今の状況では口が裂けても言えないだろう。

( ^ω^)「えーっと……とりあえず休憩だお」

 言った瞬間、崩れるようにへたれこむ兵たち。
 全部で千人ほどだろうか。誰もが全身で呼吸していた。
104 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:10:23.15 ID:kuyn/dle0
 今年の終わり頃には、実戦に参加できるようになるだろう。
 そのときヴィップはいったい、どうなっているか。
 少しだけ想像して、やめた。

(;δJδ)「あの、ブーン大将……お伺いしたいことが……よろしいですか?」

( ^ω^)「お?」

 まだ呼吸は荒く、言葉も途切れ途切れだった。
 それでも聞きたいこと、というのは、夕食の献立のような軽いものではないだろう。

( ^ω^)「焦らなくていいお、息を整えてからでも」

(;δJδ)「いえ、大丈夫です。あの、東西統合の件に関してなのですが」

( ^ω^)「おっ……」

 やはりそうか、というのが正直なところだった。
 周りの者もこちらに視線を向け、一瞬で注目が集まる。

(;δJδ)「既定事項であることは存じておりますが、正直なところ、戸惑いがあります」

(;^ω^)「おっ、先に名前を教えてほしいお」

(;δJδ)「あ、申し訳ありません。アイリック=ロードスターです」

( ^ω^)「アイリックは、今年入軍したばかりかお?」

(;δJδ)「はい。まだ数ヶ月しか軍に在籍しておりませんが、それでも惑っています。
     同室の先輩が不安がっているので、余計に」
108 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:12:28.07 ID:kuyn/dle0
( ^ω^)「先輩は……入軍してから日が長いのかお?」

(;δJδ)「もう三年になると言っていました。
     『今までずっと別れて行動してきたので、一緒になるのは却って衝突を生むのではないか』
     それが先輩の意見です」

( ^ω^)「なるほどだお……気持ちは分かるお」

(;δJδ)「二つに別れていては問題になる部分が多々あるのは分かっています。
     ですから、あくまで感情的な問題です。それも全て、理解できているのですが」

( ^ω^)「アイリック、多分みんなも君と同じ気持ちだお。
      一緒になったほうがいいと理解していながら、気持ちがついていかないんだお。
      もしブーンがアイリックの立場だったら、同じことを考えるお」

(;δJδ)「ブーン大将でも、ですか?」

( ^ω^)「もちろんだお。ブーンは昔から、一緒になったほうがいいと考えてたけど……。
      理屈で簡単に納得できる段階は、もうとっくに過ぎちゃったんだお。
      およそ二十年の歳月っていうのは、重すぎるんだお」

(;δJδ)「では……ブーン大将は、いったいどうなさるおつもりですか?」

 外界から入り込んでくる夕焼けの光は、アイリックの汗を赤く染めている。
 朱色の太陽は、ほとんど真横に見えた。
 まるでこちらを眺めているように。
114 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:14:55.01 ID:kuyn/dle0
( ^ω^)「明日、みんなに話すつもりだお。ヴィップ城にいるみんなに。
      本当は各地の兵にも話したいけど、戻すわけにもいかないお。だからとりあえず、ヴィップ城のみんなに。
      精一杯、ブーンの言葉を伝えるつもりだお」

( δJδ)「……言葉、ですか……」

( ^ω^)「だおだお」

( δJδ)「お聞かせください。みんな、それを待っていると思います」

( ^ω^)「頑張るお。ありがとだお、アイリック」

 ここにいるのは全員、東塔の兵だ。
 明日からは、西塔の兵と混在させて訓練を受けさせる。

 いや、混在ではない。
 一つになるのだ。ヴィップの兵、という括りで。
 それが当然であり、あるべき姿なのだ。

 果たして、感情は理解を示してくれるか。
 不思議と不安はなく、夜、眠りに落ちるのも早かった。


――翌朝――

――中央ホール――

 初めてこのホールに足を踏み入れたとき、とんでもないところに来てしまった、と思った。
 自分があまりに小さな存在と感じるほどの広さ。数万の兵さえ、易々と収まってしまうのだ。
118 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:17:19.83 ID:kuyn/dle0
 あのときは、壇上に立ったジョルジュが別世界の人間のように見えた。
 偉大な大将。声を交わすことさえ、叶わないのではないかと思えるほどの。

 しかし今、そこに立っている。
 大将として。皆に言葉を伝えるべく。

 不思議な感覚だった。

( ^ω^)「みんな、朝早くからありがとだお。眠くないかお?」

 昨日は早めに眠れた。身体の調子もいい。
 気分も明るかった。

 寸分の乱れさえなく、兵たちは整列している。
 緊張した面持ちの兵が多かった。
 さすがに目を擦っている者はいない。

 将校たちは全員、自分の後ろに。
 怪我を押してモララー、病を押してジョルジュも来てくれた。
 純粋に、声が聞きたいのだという。

 嬉しかった。

( ^ω^)「いくつか伝えたいことがあるんだお。ちょっと長くなるかもだけど、聞いてほしいお」

 まずは大将に就いたことを、改めて知らせた。
 経緯も何もかも、全てを詳細に、だ。
 それに伴いジョルジュが中将に降格したことも。

 反発はなかった。
122 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:19:46.24 ID:kuyn/dle0
( ゚д゚)「故あってこの国に身を置かせてもらうこととなった。
    長年にわたり敵将であった自分に、快い感情を抱いてほしいなどとは言わない。
    だが、ラウンジと戦う力にはなれる、と確信している」

( ゚д゚)「俺は戦場でショボンを討ちたい。皆も同じ気持ちだろう。
    共に戦ってほしい。それだけだ」

 新たにヴィップ軍に加入したミルナは、大きな歓声と拍手を以って受け入れられた。
 頼もしいと誰もが感じたはずだ。戦場でショボンを討つ、という明確な目標があるため、裏切られる心配もしないでいい。
 それは裏切りという言葉に過敏になっているヴィップにとって、重要なことだった。

 ミルナが中将となることも伝えた。
 あとはもう、東西統合の件だけだ。

 兵たちも分かっているようだった。
 空気が、表情が、変わりはじめたからだ。

( ^ω^)「……東と西に別れて戦うこの国の体制は、ショボンが大将になった頃――――およそ二十年前から続けられてきたお」

 遠くまで届くように、はっきりと声を出した。
 どこからも物音ひとつしない。自分の声だけが、ただ存在している。

( ^ω^)「ハンナバル総大将がご存命だった頃も、確かに東と西の違いはあったらしいお。
      だけどそのときは協力するのが当たり前で……明確な差なんてなかったんだお」

( ^ω^)「でもショボンが大将になってから、方向性が違いだして……。
      当然のことだったんだお。ショボンは、ラウンジと戦えなかったから。
      だから二つに別れてる状態は、ショボンにとって最善……つまり、ラウンジにとって最善だったんだお」

( ^ω^)「そして、ヴィップにとっては最善じゃなかったんだお」
125 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:21:40.02 ID:kuyn/dle0
 ざわめきも起きない。
 皆、唇を固く閉じて、こちらを見つめている。

( ^ω^)「ショボンは、特にジョルジュ中将を敵視していたお。そして逆に、ジョルジュ中将もショボンを敵視してたんだお。
      そうなれば大将同士が仲良くできないのは当然だお……これはみんなも知ってることだと思うお」

( ^ω^)「大将がいがみあって、やがてそれは将校や兵にまで伝染して……。
      多分、ショボンの思惑通りに、東と西の間にある溝は深まっていったんだお」

( ^ω^)「ショボンの思惑を見抜けなかったのは、ブーンにも責任があると思ってるお。
      ずっと一緒にいたのに、利用されてただけなんて……本当に、申し訳ないお。
      でも、できればブーンはラウンジとショボンを討つことで、その失態を取り戻したいと思ってるお」

( ^ω^)「ミルナ中将も同じ気持ちだと言ってたお。きっとみんなも、同じ気持ちだと思うお。
      そのためにはやっぱり、一つにならなきゃいけないんだお」

( ^ω^)「昔のように。ヴィップが、本当の信頼で繋がっていた頃のように」

 朝の空気は沈むこともなく、皆の周りを舞っている。
 色で例えるなら、青。清々しいまでの、青だ。

( ^ω^)「少し、話は変わるけど……ブーンは昔、こんな話を読んだことがあるお。
      『太陽を取り合ったもの』っていう題名の本だお。知ってる人もいるかもだお」

( ^ω^)「太陽は毎日、東から昇って西に沈むお。
      だから優しい太陽はいつも東と西に感謝してたんだお。
      君たちのおかげで僕は生きていられる、って」
132 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:23:35.69 ID:kuyn/dle0
( ^ω^)「でも、あるとき東と西が意見を異にしはじめたんだお。
      東は『太陽さんが昇れるのは自分のおかげだ。自分がいなけりゃ姿を現せない』。
      西は『太陽さんは自分がいないと姿を消せない。休むこともできない』って」

( ^ω^)「やがて東と西は口も利かなくなって……太陽は悲しんだお。そして憂えたお。
      だから太陽はこう言ったんだお」

( ^ω^)「『私は東と西、双方がいなければ充分な役割を果たせない。
      東から姿を現し、西に沈む。どちらが欠けても、私ではなくなる。
      上も下もない。双方ともに、大切だ。だから喧嘩せずに、仲良くしてほしい』って」

 太陽が昇って、大窓から光が射し込み始めた。
 四角い線となって照らし出す。兵たちの表情、姿。
 輝かしい、と思えた。

( ^ω^)「東と西、両方が協力しあって――――
      ――――初めて、この世に光が生まれるんだお」

 背から、アルファベットを抜いた。
 屈折した刃を持するV。不規則に光を照り返す。
 腕を精一杯伸ばし、掲げた。

( ^ω^)「だから……もう、東とか西とか、新参とか古参とか……そんなことで争ってる場合じゃないんだお。
      ヴィップは一つにならなきゃいけないんだお。天下を得るために。
      ラウンジに勝つために」
138 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:25:52.12 ID:kuyn/dle0
( ^ω^)「みんな! 一緒に戦ってほしいお! みんなでヴィップの天下を掴むんだお!!」

 兵たちから次々にアルファベットが掲げられた。
 刃の先。そこから生まれる、無数の光。

( ^ω^)「ヴィップに、栄光を!」

 歓声が、気勢が上がった。
 中央ホールに揺れを感じるほどのものだった。

 太陽は一つでも、アルファベットを突き出すだけで、また別の光が生まれる。
 その光はまた別の光を生むだろう。そうやって、輝きは増していくのだ。
 だから、迷わずアルファベットを振るえばいい。

 そうすればきっと、栄光は近づいてくるはずだ。


――夜――

――西塔最上階――

 ヴィップは、温かい国だな。
 自分の声に呼応してくれた兵たちの顔を見て、そう思った。

 忠誠が、オオカミから動くことはない。
 ヴィップで何年戦ったとしても、変わらないだろう。
 ただ、この国のことを、嫌いではない。それで充分だ、と思えた。

 新しい大将も、その地位に相応しい、と今日は感じた。
145 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:28:11.26 ID:kuyn/dle0
( ゚∀゚)「ブーンに任せてよかった。あいつは、大将の器だ」

 微笑みながら寝床で食事を取るジョルジュの、隣に座っていた。
 左手の器には、粥が入っているようだ。飲むようにして啜っている。
 あまり固いものは食べられない、とは以前に聞いていた。

( ゚д゚)「兵の感情は、上手く溶けたようだな。ひとつにまとまった、という感じだった」

( ゚∀゚)「実際一緒になれば、多少引っかかる部分も出てくるさ。
     でも問題ねぇ。ブーンのおかげで、ひとつになる気持ちが固まったはずだ。
     そこまでいけばもう、些細なことは軽く吹き飛ばせる」

( ゚д゚)「あとは、戦うのみか」

( ゚∀゚)「将校たちと話してきたんだろ? どうだった?」

( ゚д゚)「元西塔の将たちとは、ほとんど面識もなかったが、気軽に話してくれたな。
    特にサスガ兄弟は、まるで昔からの友のように」

( ゚∀゚)「あー、それがあいつらのいいところだからな。気が楽だろ」

( ゚д゚)「ヒッキーやフサギコも、好意的だったと思う。二人とも、頭の切れる有能な将だ」

( ゚∀゚)「元東塔の将は?」

( ゚д゚)「ロマネスクとしか話せなかったが、やはり才気ある将のようだ。
    まだ若さゆえの未熟さも感じられたが、円熟を見れば中軸となりえるだろう」
153 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:30:31.88 ID:kuyn/dle0
( ゚д゚)「できれば、今まで直接的に戦った将と話がしたかった。
    前線にいるベルベットとビロード。どういう反応を示されるのか、知りたかった」

( ゚∀゚)「いずれ言葉を交わす機会はあるさ。
     俺も二人についてはよく知らねぇけど、大丈夫だろ。不安がる必要はない」

( ゚д゚)「ロマネスクが俺を信じてくれた。それで随分、心は安らいだ」

( ゚∀゚)「そりゃきっとブーンのおかげだ。信じる心が生まれたんだろ」

( ゚д゚)「お前のおかげでもある、と思うがな」

( ゚∀゚)「俺は何にもできねー病人さ。情けないことにな。
     ……っと、そういえば、言い忘れてたな」

 最後の一滴までしっかりと救い上げ、粥の入っていた器は空になった。
 ジョルジュから器を受け取り、卓に置く。器に熱は全くなかった。

( ゚д゚)「会談のあと言っていた、頼みごと、か?」

( ゚∀゚)「あぁ、そうだ。お前にしか頼めない」

( ゚д゚)「聞きたいような、聞きたくないような、だな」

( ゚∀゚)「ま、聞いてくれ。大事なことだ」
162 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:32:43.52 ID:kuyn/dle0
 不意に、ジョルジュの表情が険しくなった。
 何も変わっていないようにも見える。しかし、感じた。
 肌で、変動した空気を。

( ゚∀゚)「ラウンジが攻めてくる日はそう遠くないはずだ。明日でもおかしくない。
     そこから長い戦が始まる。数年、いや数十年に至るかも知れない。
     楽な戦でないことは確実だ」

( ゚∀゚)「お前が加わってくれたことは大きいが、もうそんなに若くねぇ。
     いつまでも戦えるとは限らないだろ?」

( ゚д゚)「まぁ、そうだな」

( ゚∀゚)「とにかくヴィップには戦力が足りない。
     これじゃあ、よほど頑張らないとラウンジ相手は苦しい」

( ゚д゚)「やってみせよう。お前の予想を裏切る形で」

( ゚∀゚)「いや、そうじゃねぇんだ、俺が言いたいのは。
     お前たちなら苦しい局面もひっくり返せると見てる。個々人に、それだけの力はある。
     ただ、質は驚くほど充分でも、やっぱり量が足りねぇんだ」

( ゚д゚)「何が言いたい、ジョルジュ」
175 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:34:57.72 ID:kuyn/dle0
( ゚∀゚)「自惚れと取ってもらってもいいが、やっぱり俺の力は必要になると思うんだ」

 ジョルジュが一度、目を伏せた。
 じっと、考えるように。何かを思い出すように。

 ――――まさか。

(;゚д゚)「ジョルジュお前、まさか」

( ゚∀゚)「だから言っただろ。お前にしか頼めねぇ、って」

 聞かなければ、よかった。
 こんな話、聞かずに戦場へ飛び出せばよかった。

 しかしもう、遅い。
 遅すぎる。

 ジョルジュは、口を開いてしまう。
 そして自分は、その頼みを置き去りにはできないのだ。

 頼みを、受け入れるしかないのだ。
180 :第84話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/24(月) 11:35:19.73 ID:kuyn/dle0
( ゚∀゚)「かつて命を費やして最後の力を取り戻し、戦場に立ったベル=リミナリー。
     そのベルの手助けをした、伝説とまで言われている老医を、探しだしてくれ」

 ジョルジュはまた、目を伏せた。
 やはり何かを、思い出すかのように。

 目を伏せずとも浮かんでくる。
 Wでショボンを狙ったベル。その側にいた自分。

 そして、力尽きたベル。

 信じられないほど軽かったベルの身体の感覚が、両手に蘇っていた。












 第84話 終わり

     〜to be continued

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