9 名前:登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:39:43.54 ID:dwVE7Rkc0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヒグラシ城付近

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヴィップ城
12 名前:登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:40:15.45 ID:dwVE7Rkc0
〜西塔の兵〜

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヒグラシ城付近

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:カノン城

●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヴィップ城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
16 名前:登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:40:56.73 ID:dwVE7Rkc0
●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ヴィップ城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ヴィップ城

17 名前:階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:41:34.23 ID:dwVE7Rkc0
〜東塔〜

大将:ブーン
中将:モララー
少将:

大尉:ビロード/ベルベット
中尉:ロマネスク
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
20 名前:使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:42:36.14 ID:dwVE7Rkc0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー/ファルロ
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
22 名前:この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:43:47.37 ID:dwVE7Rkc0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

27 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:45:02.62 ID:dwVE7Rkc0
【第83話 : Lie】


――平原――

 会談の場は国境線上だった。

( ^ω^)「ジョルジュ大将、体のほうは」

( ゚∀゚)「何ともねーよ。心配すんな」

 例え異常があったとしても、それを平気な顔で隠す人だ。
 答えは分かっていた。しかし、何となく聞いてしまった。

 ヴィップ城に来た三人の使者が先導する形で、走っていた。
 六頭の馬が軽めに走る。騎乗の人間が、会話できる程度の速度だった。

( ゚∀゚)「馬から落ちそうになったらミルナに拾ってもらうとするさ」

( ゚д゚)「気付かず放置するかも知れんが」

( ゚∀゚)「つれねぇなぁ」

 初めて、見た。
 あの冷徹無比なジョルジュが、こんな風に会話するところを。

 きっと、ハンナバルがいたころのジョルジュは、こんな感じだったのだろう。
 そう思うと、少し気分が明るくなった。
33 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:46:49.28 ID:dwVE7Rkc0
 一度ヒグラシ城に拠った。
 会談の場はギフト城の近辺だ。ここからそう遠くない。
 今のジョルジュの体調でも、何とかなるだろう。

( ^ω^)(……もうすぐ、かお……)

 自分の気持ちを、言葉で表現できない。
 心の底に、澱のようなものが溜まっている。だからだろうか。
 自分という存在が、濁って見えるのだ。

( ゚∀゚)「まぁ……お前の……」

( ゚д゚)「いや……そういうわけではなく……」

 ミルナとジョルジュの言葉も、上手く耳に入ってこなかった。
 断片的な言葉が漂ってきて、自然と掻き消えている感じだ。
 いや、自分の精神的な問題が、掻き消しているのか。

 晴れやかな気分であろうはずもない。
 国軍を統べる者同士の会談。何を言ってくるのかも分からない。
 気負いはないが、明朗な振る舞いができるとも思えない。

 無理をするつもりもないが、分からないのだ。
 自分が、何をすればいいのか。どういう心構えでいればいいのか。

 悩んだところでどうしようもない、ということしか、分からないのだ。
 そしてそれでも、悩んでしまう。

( ゚д゚)「顔つきが強張っているぞ」
36 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:49:04.18 ID:dwVE7Rkc0
 さりげなく、馬を並べてきた。
 ミルナとジョルジュは同じ馬に乗っている。ミルナが手綱を引いて、ジョルジュを抱える形だ。
 ジョルジュ一人では、長駆できない。

( ゚∀゚)「ひとつだけ確認しておくぞ、ブーン。
     あいつが何を言ってきても決して惑わされるな。
     言葉を弄してくるはずだからな。動揺するなよ」

( ^ω^)「もちろん、分かってますお」

( ゚∀゚)「ならいいんだ」

 ミルナが軽く手綱を引いた。
 前を走るラウンジの使者と、少し距離が開いている。
 その距離を詰めるべく、自分も同じように手綱を引く。

 やがて、国境線上に近づいてきた。



――ラウンジ城――

 準備は、進んでいる。
 着実に。堅実に。

 確実に。

(`・ι・´)「カルリナ、長官がお前を探していたぞ。兵糧に関して話し合いたいことがあるそうだ」

( ’ t ’ )「何故自分に?」
40 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:51:24.11 ID:dwVE7Rkc0
(`・ι・´)「お前のほうが計算は得意だからな」

 アルタイムは苦笑していた。
 同じような笑いを返して、自室から出る。

 文官の長は、俗に長官と呼ばれていた。
 権限はさほどない。武官なら尉官程度のものだ。
 基本的に、文官がやるべき大事な仕事は、クラウンがこなす。

 戦の準備は、着々と整えられていた。
 各地の情報も報告されている。整理されてきている。
 どこに攻め込むにせよ、問題はない状況だ。

 ただ、自分の中の士気は、依然として低いままだった。

( ’ t ’ )(……日が暮れるな……)

 長官と兵糧について話し終え、再び自室に戻った。
 空気が朱色に染まっている。何となく、感傷的な気分になった。
 昔を、思い出したい気分だった。

 本棚から適当に資料を漁って、寝床でそれを眺める。
 初めてジョルジュに勝ち、ギフト城を奪ったときの戦。
 それについての詳細な情報が、書き留められた資料だった。

( ’ t ’ )(懐かしいな……)

 この戦だけは、自分を褒めることができた。
 今や最も古参の将であり、経験も自分とは比べものにならないジョルジュ相手に、完勝したのだ。
44 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:53:10.56 ID:dwVE7Rkc0
 資料を見ずとも、鮮明に思い出せる。
 大きく迂回した道から攻めると思わせて、堂々真ん中を突っ切った。
 呆気に取られたヴィップ軍は、何もできずにただ引き返していった。

 懐かしい、とさえ思えるが、あれからまだ二年程度しか経っていない。
 ヴィップと最後に戦ったのも、あの戦だ。

 その後、共同でオオカミを攻め、滅亡させ、遂に二国のみの状態となった。
 そして直後、ショボンがラウンジに寝返ってきた。

( ’ t ’ )(……今頃は……会談をやっているか……)

 資料を閉じ、机に放り投げた。
 しかし上手く乗らずに、奥の椅子に落ちたようだった。

 ヴィップと話し合いの場を持ちたい、というショボンの提案を、クラウンはあっさり了承した。
 断る理由などあろうはずもないし、ラウンジにとって損もない。
 なのに何故か、ショボンが話し合いに出向くことが、気に食わなかった。

 ひどく個人的な理由であり、きっとアルタイムに話せば窘められるだろう。
 だから誰にも言わなかったが、やはり蟠りが残ってしまったのだ。

 こんな状態で、果たして戦ができるのか。
 不安は口にしないでも、恐らくアルタイムは感じているだろう。
 自分はあまり、感情を隠すのが得意ではない。

 いつの間にか陽が落ちていた。
48 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:54:55.44 ID:dwVE7Rkc0
( ’ t ’ )(……夕食を……)

(`・ι・´)「カルリナ、晩飯を食べよう」

 今まさしく、そうしようと思って部屋を出るところだった。
 まるで見計らったようなタイミングで、アルタイムは部屋に入ってきた。

( ’ t ’ )「はい」

 身を起こして、扉へ向かって歩く。
 アルタイムは笑って、そこで待ってくれていた。

 ショボンが来て以来、アルタイムはずっと自分を気遣ってくれている。
 ありたがくも思い、情けなくも思った。
 やはり自分は、軍人として未熟なのだと思い知る。

(`・ι・´)「人は多いな」

( ’ t ’ )「時間が時間ですから」

 食堂に出向いて食べるのは久方ぶりだった。
 普段は部屋に持ってこさせる。仕事をしながら食べるからだ。
 仕事と食事を分けると、非効率的だった。

 ただ、いま戦の準備が一時的に、文官により主導されている。
 長官には事細かに指示を与えてある。
 今晩は、ゆっくりできそうだった。
54 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:56:27.99 ID:dwVE7Rkc0
 給仕から食事を受け取る。
 煮込まれた鴨肉が卵と絡み合って揺れるスープから、湯気と共に匂いが立ち上っていた。
 兵卒には出されない、将校用の品目だ。

 二人の中将が進めば、兵は慌てて道を空ける。
 空席を見つけ座ると、アルタイムはすぐにパンを齧った。
 右手の箸では魚の切り身を上手く解している。食に関してはずいぶんと器用だった。

(`・ι・´)「……戦の準備は、進んでいるが……」

( ’ t ’ )「?」

(`・ι・´)「ショボン次第では、それも無駄になるやも知れぬな」

 器を持ち上げ、スープを啜った。
 喉を温かみが通る。次いで、旨味が。
 味わいは、濃厚だった。

( ’ t ’ )「それでも、準備は進めるべきでしょう」

(`・ι・´)「無論だ。しかしできれば、ショボンの策が成功してほしいものだ」

( ’ t ’ )「策と呼べるほど、大袈裟なものでもないでしょう、あれは」

(`・ι・´)「確かにそうだが……成功すれば効果的なのは、間違いない」

( ’ t ’ )「もちろん、分かっています。ですが――――」

(`・ι・´)「……お前の好む形では、ないだろうな」
59 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/11(火) 23:58:50.89 ID:dwVE7Rkc0
 アルタイムは、咀嚼を止めていた。
 飲み干したスープの器を置く。小さな音が立つ。
 騒々しい食堂内なのに、何故か静寂さを感じた。

(`・ι・´)「だが、この地は疲弊している。もう、長く戦をやる体力は残っていない」

( ’ t ’ )「それも、分かっています」

(`・ι・´)「俺たちは武に生きている。しかし、軍にも生きているんだ」

( ’ t ’ )「……何を、仰りたいのですか?」

(`・ι・´)「ラウンジがこの地を治められるのなら、俺は形振りに構っていられないと思う」

 それも、分かっていたことだった。
 アルタイムは、軍人としての性質のほうが強い。

 自分と相容れない部分があるとすれば、そこだった。
 武人と軍人の、比率。
 どちらが責められるべきでもない問題だ。

(`・ι・´)「だからこそ、クラウン国王の策にも、俺は納得できた。
      他国を内部から破壊するという、およそ美しいとは言えない策にも」

( ’ t ’ )「僕も理解はしています。聞き分けのない子供ではありません」

(`・ι・´)「だが、そうは見えない」

( ’ t ’ )「ッ……」
65 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:00:46.04 ID:NTHxBR1b0
 初めて、だった。

 ショボンが寝返ってきてから、一貫して優しい言葉をかけてくれていた。
 しかし今、初めて強い言葉をアルタイムは発した。

 体に感じる汗は、温かいスープを流し込んだからなのか。
 それとも、別の理由か。

(`・ι・´)「カルリナ、俺たちは軍人だ。何よりも優先すべきは、ラウンジの天下だ」

( ’ t ’ )「それを僕が理解していない、と?」

(`・ι・´)「あぁ、そうだ」

( ’ t ’ )「アルタイム中将、言葉を取り消してください。
    忠義の形はそれぞれです。例えそう見えたとしても、僕は僕なりにラウンジの覇道を見据えています」

(`・ι・´)「分かっているさ。お前がラウンジのためを想っているのは。
      だが、あくまでそれは、俺だから分かるというレベルの話に過ぎない」

( ’ t ’ )「……どういう意味ですか?」

(`・ι・´)「他の者の目には、映っていないさ。お前がラウンジの天下を、第一に考えているようには」

( ’ t ’ )「……それは……」

 はっきりとした否定の言葉が、浮かんでこない。
 他人の目からどう映っているかなど、分からないからだ。
 想像はできる。しかし、確信は持てない。
70 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:02:18.81 ID:OcvMwt7e0
(`・ι・´)「お前は見た目より不器用だ。特に、感情のコントロールに関してはな。
      今まではさして問題にならなかったが、今後は重大な意味を持ってくるぞ」

( ’ t ’ )「……どうしろと仰るのですか? 今すぐショボンと手を取り合い、轡を並べろと?」

(`・ι・´)「そうやって極端な意見を出すのも、感情を上手くコントロールできていないからだ」

 目の前に腰掛けている人物が、急に大きく見えた。
 見上げなければならないほどに。

(`・ι・´)「別に責めているわけじゃない。詮無い部分もあると理解している。
      カルリナ、ショボンの策が上手くいかなかった場合、ラウンジは再び戦をすることになる。
      そのとき、お前が今のままではラウンジの力を完全に発揮しきれないんだ」

(`・ι・´)「俺の中では、お前はショボン以上にラウンジにとって大きな存在だ。
      だから頼む。気持ちを整理してくれ。何とか、次の戦までには。
      俺から言えるのは、それだけだ」

 夕食を平らげたアルタイムが席を立つ。
 自分はまだ、半分も食べていない。後を追うことは、できない。

 いや、本当はできる。
 したくない、というだけの話なのだ。

( ’ t ’ )「…………」

 夜は深々と更けていく。
 闇に染まった空のような心で、それを感じていた。
 感じたくなくとも、感じさせられた。
76 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:04:27.01 ID:OcvMwt7e0
 ショボンが戻ってくるまで、何も考えたくない。
 しかし、考えなければならないようだった。



――国境線上――

 強い風にも、揺らされることはない。
 それほど大きな幕舎が張られていた。

 馬から降りる。
 地面をしっかりと踏みしめ、見据えた。
 幕舎の、入り口を。

 ジョルジュが馬から降りるのを補助し、肩を貸した。
 途中、ジョルジュが一人で歩き出すまでだ。

 病により顔は痩せ細っている。
 だが、それを感じさせないほどの気迫をジョルジュは見せていた。
 これぞヴィップ軍の大将だ、と肌で感じるほどに。

( ^ω^)「……行きましょうお」

 幕舎の前に、立った。
 そして手を伸ばし、中への道を開く。

 踏み入った。
83 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:06:33.88 ID:OcvMwt7e0
 瞬間、落ち着いていた心が、再びざわめきだした。
 無理やりに抑える余裕さえ、なかった。

(´・ω・`)「久しぶりだな、と言うべきか」

 中央に置かれた、木製の卓。
 その手前に、三つの椅子。

 そして奥に、ショボン=ルージアル。

 大きめの卓の奥なのに、その身体は異様なほど巨大に見えた。

( ^ω^)「……ヴィップ国軍大将、ブーン=トロッソだお」

(´・ω・`)「そうか。やはりお前が、大将となったか」

 ショボンが用意された椅子を指差した。
 着席を促しているようだ。

(´・ω・`)「しかしまさか、ジョルジュとミルナまで一緒とは思わなかったな」

 ゆっくりと椅子を引き、腰掛けるジョルジュを見つめていた。
 不敵な笑みを、浮かべたままで。

( ゚∀゚)「……ならなんで、椅子を三つ用意してあるんだよ」

(´・ω・`)「ただの予備ですよ。さすがに四人は来ないだろうと思ったので、三つにしました」
96 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:08:46.52 ID:OcvMwt7e0
 まるで、ヴィップにいたころのような喋り方。
 癇に障る。
 だが、表情には出していないつもりだった。

 全員が着座すると、すぐに茶が運ばれてきた。
 しかし、誰も手はつけなかった。

(´・ω・`)「まずは、こんなところに会談の場を設置し、足労願った理由を申し上げよう。
      会談の正当性と、公平性のためだ。つまり――――」

( ゚д゚)「下らぬな、ショボン。形式ばった会話に何の意味がある」

(´・ω・`)「相変わらず峻烈だな、ミルナ。獣の牙は錆びず、か。
      まぁ、確かにお前の言うとおりだ。回りくどいことはやめよう」

(´・ω・`)「さて、恐らく俺に対して言いたいことは色々とあろうが……まずは本題からだ」

 少し、ショボンの身体が近づいてきた。
 身を乗り出したのだ。
 反射的に、背中を背凭れに密着させた。

(´・ω・`)「俺がヴィップに提案したいのは、たった一つ。
      ラウンジ国とヴィップ国の、和睦だ」

( ^ω^)「ッ……!」

( ゚∀゚)「……ほー」
106 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:10:50.93 ID:OcvMwt7e0
 言葉を待った。まだ、何も言うべきではないと思った。
 ジョルジュは眉一つ動かさない。ミルナは僅かに、表情を変えた。
 直接見なくとも、空気で分かった。

(´・ω・`)「具体的に話そう。まずは武装解除からだ。
      アルファベットは三日放置すれば消え去る。さほど難しいことではない。
      その後は、互いに協力して全土を治めていく」

(´・ω・`)「ラウンジのほうが人員は多く居る。ヴィップ単独で成せないことにも助力できよう。
      城や町の統治もラウンジが手伝えばスムーズに行える」

 やけに饒舌だ、と思った。
 別段おかしいことでもないが、僅かに引っかかったのだ。
 恐らく、以前までとは別人のように感じているからだろう。

 こんな男だとは思わなかった。
 何となく、ジョルジュやミルナも、同じことを考えている気がした。

(´・ω・`)「この地が疲弊しているのは、誰の目にも明らかだ。
      戦が始まって既に四十四年。大地は痩せ細り、民は枯れている」

(´・ω・`)「もう争っている場合ではないさ。これからは協力して全土に活力を与えよう。
      更に細かい和睦の条件については、この書類に――――」

( ^ω^)「もう結構だお」

 卓の下から持ち上げ、ショボンが中身を見せようとした書類。
 それを広げようとした手が、止まった。
117 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:13:03.46 ID:OcvMwt7e0
( ^ω^)「和睦に見せかけた臣従なんて、受けるつもりは全くないお」

( ゚∀゚)「同意見だ、ショボン」

 動きを止めていたショボンが、鼻から息を出して書類を放り投げた。
 わざとらしく肩を竦め、わざとらしく残念がっている。

(´・ω・`)「やれやれ。必死で考えて書いた書類なのにな。無駄になってしまった」

( ゚д゚)「随分、潔いな。一度拒否されただけで諦めるとは」

(´・ω・`)「顔を見れば分かるさ。受けるつもりなど、欠片もないと」

( ^ω^)「そういうことだお。提案は、受け入れられないお」

( ゚∀゚)「話を聞くだけでも、形だけの和睦だと分かる。
     書類を見れば更によく分かるだろうよ」

(´・ω・`)「仕方がない」

 ショボンが茶の入った器に手をつけた。
 傾け、一息で飲み干す。白い息が漏れる。

 湯呑みに落とされていた視線が、上がった。
 ショボンから見て左の位置に座している、ジョルジュへと向く。

(´・ω・`)「病はまだ治っていない、と聞いていましたがね。いったい何故、ここに?」

( ゚∀゚)「話したいことがあったからだ」
132 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:15:11.14 ID:OcvMwt7e0
 形式上は敬語なのに、何故か不遜な態度に見えるショボン。
 それに苛立つこともなく、冷静さをもって言葉を返すジョルジュ。
 以前、ヴィップ軍内で話していたときとは、真逆だった。

(´・ω・`)「話したいこと、ですか。僕もありますね」

( ゚∀゚)「お先にどーぞ」

(´・ω・`)「まず、いつから気付いていたのか、という点について」

( ゚∀゚)「最後まで、気付けなかった。だからこそお前の裏切りを許してしまった」

(´・ω・`)「質問を変えましょう。いつから疑っていたのか、という点について」

( ゚∀゚)「お前が頭角を現し始めた頃から。はっきりと疑ったのは、大将になったときだな」

(´・ω・`)「大したものですね、まったく。何ら怪しい素振りは見せていないつもりでしたが」

( ゚∀゚)「だから苦しんだ。お前の隠し方は、完璧だったからな。
     確証は最後まで得られなかった。怪しい、と思う部分は、あるにはあったが」

(´・ω・`)「その部分さえ、見せていないつもりでしたがね。
      ラウンジと不可侵条約を結んだときは、正直不安でしたが」

( ゚∀゚)「驚いたさ。今まであれほど周到に隠してきたのに、このタイミングで繋がりを見せるとは、と。
     逆に不安になった。却って、ヴィップのために動いているようにしか見えなくなったほどだ」

(´・ω・`)「だから、信じたのですね。オオカミを潰したあとはラウンジと戦うという、僕の嘘八百を」
142 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:17:18.59 ID:OcvMwt7e0
( ゚∀゚)「……言ってほしいと願った言葉を、そのままお前は言った。
     あのときはもう、とにかくお前を信じたい気持ちでいっぱいだった。
     だからこそ、だろうな。打ち殺したいくらい、愚かな自分だ」

(´・ω・`)「いえいえ、ご立派なものですよ。
      最初からそうでした。アンタさえいなければ、もっとスムーズに策を成せた。
      裏切ったときだって、ブーンとモララーを殺せていたはずなのに、失敗しました」

( ゚∀゚)「だが結局、お前の裏切りを許したという事実は変わらない。
     全てを疑っちまった結果だ。愚かしいことだった」

(´・ω・`)「お互い、相手が裏切る心配をしていた、というわけですか。
      正直言って、怖かったんですよ。アンタがオオカミに寝返る危険性が」

( ゚∀゚)「儲けもんだ、脅えててくれたんなら。
     俺が寝返ったらヴィップは壊滅の危機。お前の策も根底から揺らぐことになった。
     もちろんそれは視野に入れていたさ。実際、寝返りも検討した」

(´・ω・`)「意外ですね」

( ゚∀゚)「お前を討つためさ。オオカミの将としてな」

(´・ω・`)「しかしそれでは、困ることのほうが多かったでしょう」

( ゚∀゚)「だから思い留まった。あんときの俺は、冷静じゃなかったな」

(´・ω・`)「精神的に追い詰められているときは、得てしてそんなものですよ。
      アルタイムを討ちたいと僕が思ったのも、およそ賢く冷静と言える状態ではなかった」
154 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:19:03.43 ID:OcvMwt7e0
( ゚∀゚)「……あんとき、お前は皇帝位の候補を辞退するって言ったな。
     あれは何故だ? 皇帝になれば国を意のままに操れたのに」

(´・ω・`)「皇帝になれると確定してたわけじゃありませんからね。
      アラマキがいつ死ぬかも分からなかった。不確定要素が多すぎたんですよ。
      それならいっそ辞退して、アンタを皇帝として国に縛りつけるほうが確実だった」

( ゚∀゚)「なるほどな。懸命な判断だ」

(´・ω・`)「まぁ、アンタが皇帝になった場合の怖さも、あるにはあったんですがね」

( ゚∀゚)「東塔の弾圧だろ?」

(´・ω・`)「えぇそうです。東塔に不当な処置を与えるのではないかと危惧しました。
      元より、皇帝位を譲ろうとしたのは、東と西の協力が目的でしたからね。
      東塔だけに厳しくされたんじゃ、何の意味もない」

( ゚∀゚)「協力とは、また夢想のような考えだな。
     ありえるわけねーだろ。あんだけ牽制しあってたってのに」

(´・ω・`)「それでも、僅かな希望に縋りつきたかったのですよ。
      アンタがオオカミに寝返るかも知れないという不安は、それほど大きかった。
      同時に、アンタから見張られているという事実が、怖くもあった」

( ゚∀゚)「お互い、脅えてたわけだ。互いの視線に」

(´・ω・`)「正しいことをやってるぶん、そっちのほうが気は楽だったでしょう」
163 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:21:18.80 ID:OcvMwt7e0
( ゚∀゚)「いーや。怖いことのほうが多かったさ。
     お前は必要不可欠な戦力だった。もしヴィップの兵だとしたら、俺の行為はとんでもないことだった。
     牽制のためにあえて不協力の体制を作ったりもしたが、あれ以上になるともう、軍として機能しなくなる」

(´・ω・`)「常に瀬戸際。それは、感じていましたがね」

( ゚∀゚)「お前がラウンジの者でない可能性を常に考える必要があった。それが、辛かった。
     後で謝りゃいいって問題じゃないからな。俺の取れる行動ってのは、幅が狭かった。
     疑ってることが表面化すれば軍内は大きく揺らぐしな」

(´・ω・`)「表面化しないよう、疑っている素振りを見せる。
      上手くやられた、と思っていましたけどね」

( ゚∀゚)「不充分すぎた。あくまで結果論だが、もっと上手くやれる道は他にあったんだ。
     やっぱり、お前が心からヴィップに忠誠を抱いている可能性を、捨て切れなかった。
     いや、捨てたくなかった。そうであってほしい、と願っていた」

( ゚∀゚)「だが結局は、中途半端なことをしてしまった。
     せめてあと数人に打ち明けていれば良かったんだが、
     打ち明けた人間がお前の腹心である可能性も考慮せざるをえなかった」

(´・ω・`)「ヴィップを守り抜く。たったそれだけのことに、障害は多すぎた、というわけですか」

( ゚∀゚)「あぁ、何もかも最低のクソヤローのせいでな」

(´・ω・`)「やれやれ。僕は僕なりに正義を貫いただけなんですけどね」

( ゚∀゚)「真っ当な正義か? お前のそれは」
176 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:23:23.63 ID:OcvMwt7e0
(´・ω・`)「幼稚なことを言わないでくださいよ。
      善悪の定義なんて曖昧なもんでしょう?
      誰しもが自分なりの正しさを抱えているんですよ」

( ゚∀゚)「まぁな。でも、諸手を挙げて賛成されるようなもんじゃねーのは確かだろ」

(´・ω・`)「生憎、そうされたいと思っておりませんので」

( ゚∀゚)「憎らしい口ぶりは、まったく変わってないな」

 ジョルジュが小さく舌打ちした。
 そこで初めて、二人の会話が途切れた。

 ヴィップで軍議していたときと、同じような会話にも思えた。
 だが、違いすぎる点が多々あった。

( ゚∀゚)「聞くが、ショボン」

 ジョルジュの声の調子は、何ら変わりなかった。
 病による疲労も、あるようには見えない。

( ゚∀゚)「お前はブーンをどうするつもりだったんだ?
     ラウンジに連れていく気があったらしいことは、ブーンから聞いたが」

(´・ω・`)「えぇ、その通りですよ。ヴィップを裏切らせるつもりでした。
      入軍試験のときから目をつけていましてね。
      結果的には、諦めることとなったわけですが」

( ゚∀゚)「上手く操るつもりだった、というわけか?」
190 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:25:42.29 ID:OcvMwt7e0
(´・ω・`)「そのつもりでしたが、やはり難しいと判断せざるを得ませんでしたね」

(´・ω・`)「……そうだ、ブーン」

( ^ω^)「……なんだお?」

 手を組んでじっと話を聞いていた間に、心は自然と落ち着いていた。
 ショボンが唐突に話を振ってきても、乱されないでいる。

(´・ω・`)「大将室の引き出しは、開けたか?
      あそこに入っていた手紙は、まさしくお前を操ることに関するものだったんだが」

( ゚∀゚)「……手紙?」

( ^ω^)「…………」

 衣服のなかに、手を突っ込んだ。
 迷わない。すぐに、掴む。

 無言で、手紙を卓上に置いた。

( ^ω^)「返すお」

(´・ω・`)「なんだ、要らないのか? 数日かけて書いた、苦労の結晶なんだが」

( ^ω^)「読みたくないお」

(´・ω・`)「……読んでもいないのか?」
207 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:28:27.21 ID:OcvMwt7e0
 手紙を掴んで、裏返すショボン。
 開封されたかどうかを、確かめているようだった。

(´・ω・`)「残念だな。せめて読んでもらいたかったが」

( ^ω^)「そんな気にならなかったんだお」

(´・ω・`)「まぁ、読んだら憤激していただろうな。
      ブーン、俺が死んだら引き出しを開けて欲しい、と言ったことは覚えているか?
      あれはつまり、俺がもし死んでしまったとしても、ラウンジの天下は成せるようにと考えたからなんだ」

(´・ω・`)「だが、直接的な表現は避けてある。
      まずはオオカミを潰すこと。そして然る後に、ラウンジと和睦すること。
      まぁ、今回俺が提案したこととほぼ同じ内容だな」

(´・ω・`)「お前はジョルジュより遥かに若い。いずれジョルジュが消えたらそうしろ、と書いておいた。
      言葉選びには細心の注意を払ったつもりだ。恐らく、お前なら騙されてくれただろう。
      あの当時のお前なら、だが」

( ^ω^)「……どういう意味だお」

(´・ω・`)「思った以上に鈍くなかった。もっと、戦だけを考えるバカになってくれると思ったんだが。
      まぁ、俺のミスだな。下手に知恵をつけさせすぎたか。
      俺だけを盲目的に信じるような男に仕立てあげるべきだった」

 自然と、苛立ちが募り始めた。
 嘗められきっていた。分かっていたことだが、屈辱的だった。

 だが、そんな気持ちも全て吹き飛ぶような言葉が、すぐに出てきた。
226 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:30:37.60 ID:OcvMwt7e0
(´・ω・`)「入軍試験のときから、予感のようなものがあった。お前はきっと、俺を支えてくれる存在になると。
      モララーがそうだと思った。あいつは、図抜けた才能があったからな。
      しかしお前と違って、あいつはいきなりHを握るという器の違いを見せた」

(;^ω^)「……え?」

(´・ω・`)「モララーもあぁ見えて愛国心は強い男だったし、何より頭が切れた。
      あいつを裏切らせることは諦め、いずれ討ち取ろうと考えて――――」

( ゚∀゚)「ちょっと待て、ショボン」

 静かな言葉の中に、隠しきれない動揺。
 しかし自分はもっと、動揺してしまっている。

 ショボンは今、何を言ったのだ。
 分からない。理解できない。

 ただ、ありえない言葉を発した。
 それだけしか、分からないのだ。

( ゚∀゚)「どういう意味だ? お前、まさか――――」

(´・ω・`)「……あぁ、きっとお察しの通りですよ」

 錯乱する頭に浮かんでくる言葉はない。
 震える手先を止める術もない。

 ショボンの言うことの、理解できる部分とできない部分が、絡まりあっている。
 そしてその絡まりが形成するものは、やはりありえないと判断するしかないのだ。
235 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:33:08.15 ID:OcvMwt7e0
 では何故、ショボンは――――

(´・ω・`)「覚えているか? ブーン。入軍試験で、お前がAを発熱させたことを」

(´・ω・`)「あのとき俺はお前に予備のAを差し出し、触れさせ、試験を通過させた。
      そして入軍したあとは、こう言ったよな。
      『お前はもしかしたら、天賦の才があるかも知れない』と」

 鮮明すぎるほど鮮明に、思い出せる。
 だからショボンは目をかけて自分を育てたのだ。
 今更反芻されずとも、分かっていることだった。

 その、はずなのに。

 何故いま、過去を反芻したのか。
 本当は分かっているのに、理解したくなかった。

(´・ω・`)「だが――――俺はお前に、嘘をついた。
      あのとき俺は、欠片も思っちゃいなかったんだ。
      お前に天賦の才があるだなんて」

(´・ω・`)「何故なら、あのとき俺が差し出したAは、全くα成分が込められていないものだったからだ」

 広い、と感じていた幕舎なのに、圧迫感があった。
 息が、詰まるような。
249 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:35:31.05 ID:OcvMwt7e0
 あのときの感覚が、蘇ってくる。
 Aに触れた。熱はなかった。
 ただ無邪気に、喜んだ。

 しかし、あれが全て――――

(´・ω・`)「俺の仕掛けた策だった。そのために、入軍試験を見に行ったんだ。
      全ては、ラウンジのために。手駒のために」

(´・ω・`)「α成分のこもっていないAを持ち、入軍させ、そのあとも細工したアルファベットを持たせた。
      あたかも抜群の才がある、という風にして、実際には他の兵より低い基準にいさせた」

 そんな、はずは。

 ない。ないに決まっている。
 それなのに、反する言葉を出せないでいる。

 ショボンの言葉を前にして、聞きたくもない言葉を前にして、呆然としてしまっているのだ。
254 名前:第83話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/12(水) 00:36:33.38 ID:OcvMwt7e0
(´・ω・`)「つまりな、ブーン。お前のアルファベットの才能は――――」

(´・ω・`)「俺によってでっちあげられたものだった、というわけだ」








 第83話 終わり

     〜to be continued







(´・ω・`)「だがしかし――――誤算があった。失敗も、あった」

(´・ω・`)「だからこそ、俺はブーンを諦めることを考え始めたんだ」

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