3 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 00:53:39.64 ID:18612oqi0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 少将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヴィップ城
7 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 00:54:20.21 ID:18612oqi0
〜西塔の兵〜

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:カノン城

●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヴィップ城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
10 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 00:54:58.71 ID:18612oqi0
●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ヴィップ城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ヴィップ城
12 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 00:55:34.42 ID:18612oqi0
〜東塔〜

大将:
中将:モララー
少将:ブーン

大尉:ビロード/ベルベット
中尉:ロマネスク
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
15 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 00:56:07.92 ID:18612oqi0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー/ファルロ
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
19 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 00:57:20.19 ID:18612oqi0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

22 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 00:57:56.49 ID:18612oqi0
【第82話 : Snowfield】


――ヴィップ城――

 混乱と、動揺。
 そして不安。

 皆の表情からは、それらの感情が伺えた。
 恐らく自分も、同じだろう。

(;^ω^)「兵たちに、全力で探し出すよう指令を与えてくださいお!
     将校の皆さんは指揮に!」

 軍議室から慌てて飛び出していく将校たち。
 無論、自分も同じように駆け出す。

 ラウンジが、使者を送ってきた。
 そして、しぃが居なくなった。

 芳しいとは言い難い状況だった。

(;^ω^)「ジョルジュ大将とモララー中将は、ここに!」

 首だけを後ろに向けて言った。
 ジョルジュは病、モララーは怪我。
 とても指揮取れる状態ではない。

( ゚∀゚)「ちょうどいい。お前とミルナとの三人で、話したいことがある」
28 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 00:59:27.64 ID:18612oqi0
( ・∀・)「……?」

( ゚д゚)「…………」

 扉を閉める直前に、そんなジョルジュの声が聞こえた。
 少し気にかかったが、そのまま取っ手を押し込んだ。

( ФωФ)「ラウンジの使者は、いったい何用ですか?」

(;^ω^)「分からないお。でも、それは後でもいいんだお。
     それより今は、しぃさんを」

( ФωФ)「……誠、その通りであります」

 軍議室の外から一緒に走ってきたロマネスクが、曲がり角を右に曲がった。
 一緒に居てもあまり意味はない。自分は左に曲がって、更に加速する。

 ラウンジが使者を送ってきたことは、予想外だった。
 有無を言わさず攻め込んでくるものとばかり考えていた。
 今更、何を話し合うことがあるのだろうか。

 だが、用向きは今は何でも良かった。
 問題は、ラウンジの者が城内にいる、という点だ。

(;^ω^)(しぃさん……)

 何故しぃが突然消えたのか。
 判然とは分からない。だが、みな同じ予測を立てている。
 そしてそれが的中していた場合、最悪の事態に発展しかねない、とも考えている。
32 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:01:02.16 ID:18612oqi0
 しぃは最愛の人であるギコを失った。
 ラウンジに寝返ったショボンにより、失ってしまった。

 そのラウンジの者が来ているのだ。
 しぃがその情報を、何らかの手段で得ていた場合。
 仇を討ちに行く可能性がある。

 ラウンジからの使者をもし斬ったとなれば、面倒なことになりかねない。
 しぃにその力があるかどうかも分からないが、とにかくしぃを探し出す必要があった。
 このタイミングで姿を消したというのは、不安すぎる。

 兵の波を掻き分け、猛然と駆けた。
 しぃがどこに居るか、見当もつかない。城内か、城外か。
 それさえ、分からない。

 逸る気持ちと焦る気持ちだけが、足に絡みつく。

ミ,,゚Д゚彡「ブーン!」

 真横から、声が飛んできた。
 すぐに止まれず、足をばたつかせながら何とか引き返す。
 息ひとつ切らせていないフサギコの許へ。

(;^ω^)「……どうしたんですかお?」

 気まずさは、あった。
 フサギコには先ほどの軍議で、散々疑われたからだ。

 信じてほしい、と願った。
 それでも、言葉はあまりに儚いと知った。
41 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:02:32.25 ID:18612oqi0
 辛辣な声が頭の中に蘇る。
 峻厳な表情が視界のどこかにちらつく。

 言うなれば、恐怖。
 だが、それら全てをかき消す声があった。

ミ,,゚Д゚彡「……謝りたいんだ、お前に。さっきのことを」

 一瞬、懐かしい顔を思い出した。
 思い出させるような、優しい声だった。

ミ,,゚Д゚彡「すまなかった……お前を、疑いすぎた……。
     こんな状況なのに、更に混乱させるようなことを……申し訳ない……」

(;^ω^)「……フサギコ少将の気持ちは、分かりますお。
     疑われても仕方ない、と頭では理解してますお」

ミ,,゚Д゚彡「いや……本当は多分、ただの八つ当たりだったんだと思う……。
     ギコが、ショボンに殺された……それに対する怒りを、ただお前にぶつけてしまっただけなんだ……」

 フサギコが唇を噛み締めながら、俯く。
 悲壮な顔つきだった。

ミ,, Д 彡「俺はあいつと一緒に戦いたかった……共に、ヴィップのために……。
     なのにあいつは東塔に行っちまって……一緒には戦えなくて……。
     ……やり場のない気持ちをギコにぶつけたって、どうしようもないことくらい……分かってたのに……!」

ミ,, Д 彡「後には引けなくなって……謝ることもできなくなって……。
     俺が、子供だったから……下らないことしかできねぇ、ガキだったから……!!
     だから……あいつを悩ませたし、傷つけた……」
44 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:04:01.45 ID:18612oqi0
ミ,,;Д;彡「たった一言、謝りたかった……俺が悪かった、って……。
      でももう、それさえ叶わない……あいつは死んじまった……。
      いつかは、昔のように仲良くしたい、ってずっと思ってたのに……! 俺のせいで……!」

(;^ω^)「悪いのはショボンですお! フサギコ少将じゃありませんお!」

ミ,, Д 彡「俺のせいさ……それは間違いない……誰かに言われて、考えを改める気もない……」

 フサギコが必死で涙を拭っていた。
 衣服の左腕部分が、水に濡れて色を深める。
 黒に、近づく。

ミ,,゚Д゚彡「……だから、俺は……少しでもあいつに償いたい」

 涙が消えたその瞳に宿ったのは、力強い意志。
 自分には、そう見えた。

ミ,,゚Д゚彡「俺の自己満足かも知れない……でも、ひとつの命を救いたいんだ。
     しぃの居場所については見当がついてる。ほぼ確信している。
     だからブーン、ひとつだけ協力してほしいことがあるんだ」

(;^ω^)「……?」

 切実な思いが言葉に込められている。
 いつしか、フサギコとの蟠りは薄れていた。
50 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:05:29.03 ID:18612oqi0
――第一軍議室――

 会談の場を持ちたい。
 ラウンジの使者は、それだけを伝えてきた。

 何のための会談かは、一切言及してこない。

( ゚∀゚)「今更何を話そうってんだろうな、ショボンは」

 ジョルジュが姿勢を崩していた。
 やはり、疲れはあるのだろう。

( ・∀・)「降伏勧告が妥当なとこだと思いますが」

 ジョルジュと向かい合った位置からの発言だった。
 その後ろにいるミルナは、声も出さずにただじっとこちらを見つめている。

( ゚∀゚)「まぁ、そんなとこだろう」

( ・∀・)「受けるしかなさそうですね、会談は。
     ヴィップにとっちゃありがたい。僅かながら時間を稼げます」

( ゚∀゚)「お前の言うとおりだ。しかし、問題が出てくる」

( ・∀・)「誰が、そこに赴くか、ですか」

 ジョルジュが頷いた。
 病身だからなのか、それとは関係ないのか、小さな頷きだった。
60 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:07:46.81 ID:18612oqi0
( ・∀・)「出ようと思えば出られる状況ですけどね。僕はともかく、ジョルジュ大将なら」

( ゚∀゚)「あぁ。だがそれじゃーマズイ」

( ・∀・)「万全の状態の者を立てるべき、ですか」

( ゚∀゚)「それと連動して、決めなきゃいけないこともあるだろ。
     現時点で東塔と西塔の頂点に立つ、俺とお前。二人とも戦場には立てない状態だ」

( ・∀・)「戦のできる者を、大将とせねばなりませんね」

 あえて、順序立てて話していた。
 ひとつずつ、階段を昇るように。

 だが、二人の心中は同じだと、分かっていた。

( ・∀・)「東塔と西塔という、二つに分かれた状態をどうするかは、新しい大将に委ねましょう。
     そしてその新大将は――――」

( ゚∀゚)「ブーン以外、ありえない」

 場の空気が、弛緩した。
 硬直しそうな場面で何故か、弛緩した。

 分かりきっていた心中を確かめ合ったことによるものだった。

( ・∀・)「同じ考えです。ブーンしかいないでしょう」

( ゚∀゚)「消去法じゃなく、俺はそう思ってる。あいつが適任だと」
69 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:09:20.63 ID:18612oqi0
( ・∀・)「それも、同じです」

 ジョルジュがまた姿勢を変えた。
 金髪が連動する。波の如く左右に揺れている。
 緩まった空気に、溶け込むように。

( ゚∀゚)「あいつはいい奴だ。散々疑ってきた俺に、こんなことを言う資格はないかも知れんが」

( ・∀・)「昔からあいつは兵に慕われてます。あいつの許で頭角を現し、力を発揮した将もいました。
     ドクオ=オルルッドやフィレンクト=ミッドガルド、ベルベット=ワカッテマスなど」

( ゚∀゚)「不思議と人を引き寄せる。あいつの周りにはいつも人がいる、というような気がする」

 ジョルジュが何を考えているのかは、よく分かる。
 まるで、透明な窓の向こうを見ているように。

 ジョルジュが、ブーンを、誰と重ね合わせているのか。
 それが、驚くほど鮮明に、よく分かるのだ。

( ゚∀゚)「どう思う、ミルナ?」

( ゚д゚)「……俺には、あいつの人間性など分からん」

( ゚∀゚)「そうじゃねぇよ。敵として見ていて、どう思ったかだ」

( ゚д゚)「……なるほど」

 ミルナがジョルジュの隣に腰掛けた。
 ずっと立ち続けていて、撓んだのか。
 表情の強張りは薄れている。
73 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:10:50.54 ID:18612oqi0
( ゚д゚)「改めて考えると、ブーン=トロッソが将校となった514年以降の、東塔の躍進ぶり。
    あれには瞠目させられるものがあった」

( ・∀・)「確かに、あいつが将校となってからは連戦連勝だった」

( ゚д゚)「どれほどあいつの影響があったのかは知らん。
    知らんが、ブーン=トロッソの存在は大きかったのだろうと思う」

( ゚∀゚)「そうだな。多分、モララーたちも意識していなかったことだろうと思うが。
     あいつが将校となってから東塔が強くなったのは事実だ」

( ゚д゚)「――――しかし、だからと言って大将に相応しいとは言い切れんだろう。
    ブーン=トロッソは軍人として、武人として、それぞれ有能だ。
    しかし、お前たち二人に優っているとは思わん」

( ゚∀゚)「まぁ、そうかも知れんな。あいつはまだ成長途中だ」

( ・∀・)「でも――――だからこそ、ブーンは大将に相応しいと僕は思いますけどね」

 怪訝そうな顔を、ミルナが見せた。

 オオカミでは群を抜いていた。他の誰より優れていた。
 だからこそ、ミルナは大将だった。
 本人も自覚しているだろう。

 ミルナが「理解しがたい」と考えているであろう理由。
 そして、オオカミが滅んだ理由。
 それぞれが、そこにありそうだった。
75 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:12:34.56 ID:18612oqi0
( ゚∀゚)「分かんねーかもな、ミルナ。お前には。
     いや、俺たち全員、本質的には理解できてねーんだ」

( ・∀・)「見事なまでに、この三人は似ていますからね。
     全てを自分で為せる。あらゆることに通暁している」

( ゚∀゚)「自分でそこまで言えるのは大したもんだ。まぁ、その通りだが。
     良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏。一人で戦ができちまうんだ」

( ゚д゚)「それが悪いことだと、俺は思わん」

( ・∀・)「……遠慮なく言わせてもらえば、だからこそオオカミは滅んだんだ」

( ゚д゚)「ッ……」

( ・∀・)「それが分からない愚鈍な男じゃないだろ、アンタは」

 空気が悪くなることはなかった。
 ミルナの表情から怒りは感じられない。
 ただ、若干の曇りは見せていた。

( ゚∀゚)「お前は有能すぎたんだ、ミルナ。外から見てるとよく分かった。
     全部、実行できた。他の者の力を借りずとも。
     攻略戦も防衛戦も、策略も謀略も、戦略の立て方も戦術の組み方も、他の誰より優れていたんだ」

( ゚∀゚)「――――だから、配下は育たなかった。それも、極端に、だ」

 軍議室の外からは、慌しく走り回って廊下を叩く音が聞こえる。
 しぃの捜索はまだ続いているようだった。
82 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:13:48.77 ID:18612oqi0
( ゚∀゚)「でも、それはお前が悪いんじゃねぇ。あの国で、お前以外に大将の務まる兵はいなかった。
     ベルがいたころのラウンジも同じような状態にあったが、あそこは有能な人材が少なからずいた。
     だが、四中将じゃ高が知れてたんだ。どう頑張っても、アルタイムやカルリナのようにはなれなかった」

( ゚∀゚)「俺が言いたいのは、恐らく滅亡の原因の一端を担っただろうってことさ。
     お前が有能すぎた、ということがな」

( ゚д゚)「……なるほど、な」

 腕を組んだミルナが何を思ったのかは、分からない。
 目を伏せたミルナが何を見ようとしたのかも、分からない。

 ただ、すぐにまた目を開いて腕を両横に戻した。
 その直後のミルナは眼光にも、言葉にも鋭さがあった。

( ゚д゚)「お前たちの言いたいこと、考えていることは理解した。
    ブーン=トロッソは確かに、他の将と比べて劣っている部分が少なからずある。
    だが、それを周りの将たちが補えば――――」

( ゚∀゚)「ヴィップは今よりも強くなれる、ってことだ」

( ゚д゚)「それは、確かにそうかも知れんな」

 ジョルジュは、嬉しそうに笑っていた。
 そう、見えた。
 実際には全く表情を変えていない。

( ゚∀゚)「悔しいことだが、周りの将に上手く補わせる、というのを実践していたのがショボンだ。
     あいつ自身は非常に有能だった。なのに、あいつは部下の力を使った。
     だから東塔の将は育ったし、東塔はオオカミを滅ぼした」
85 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:15:31.16 ID:18612oqi0
( ・∀・)「そうですね。言いたかないですが、配下の力を引き出すのは抜群に上手かった。
     確かにショボンは一人でも戦ができたと思います。でも、あえてやらなかった。
     それも今だから思えることですけどね」

( ゚д゚)「ショボンは演じていただけだろうが――――ブーンにも同じことができるかも知れない、ということか」

( ゚∀゚)「そういうことさ」

( ・∀・)「いや、どちらかと言えば――――」

( ゚∀゚)「ん?」

( ・∀・)「――――ハンナバル総大将と同じことが、でしょう?」

( ゚∀゚)「……まぁ、な」

 あえて、言葉にはしていないようだった。
 だがジョルジュはそう思っていたはずなのだ。
 恐らく、以前から。

( ゚∀゚)「とにかく……現状、大将となれるのはブーンしかいない。
     地位から言えばニダーが最右翼だろうが、あいつは大将には向いていない。
     それは俺が断言できる」

( ゚∀゚)「フサギコやヒッキーも大将としてはいささか頼りない。Sの壁は越えていないしな。
     才気で言えばベルベットは期待できるが、あいつも大将タイプじゃない。
     こうやって消去法で考えてみても、やっぱり、ブーン以外にはありえないと思う」
93 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:17:02.46 ID:18612oqi0
( ゚∀゚)「だから俺は、あいつに賭けてみたいんだ」

( ・∀・)「全て、同意です」

( ゚д゚)「……ふむ……」

 この場に決定権は、ない。
 しかし、確定と言っても良かった。
 自分たち以上に発言権を持った兵は存在しないのだ。

 大将、ブーン=トロッソ。

 思ったより、悪くない響きだ、と感じた。



――ヴィップ城・二階――

 小規模な娯楽室が多くある。
 数人程度の兵が休むのに適した部屋だ。

(;^ω^)「ここに、いるんですかお?」

 前を走るフサギコの背に向けて、言った。
 フサギコは、振り返らない。

 ここ以外には、思いつかない。
 小さく、フサギコはそう言っただけだった。
99 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:18:35.88 ID:18612oqi0
 迷うことなく、フサギコは一つの部屋に入った。
 部屋の番号は65。何故ここなのかは、分からない。
 何となく、聞くこともできなかった。

(;^ω^)「……?」

 部屋の中には、誰もいなかった。
 どうやらフサギコの見立ては、外れてしまったらしい。

 が、フサギコは構わず中に入っていった。
 そして、扉を閉めてしまった。

 すまない。また後で会おう。
 扉の向こうから、そんな声が聞こえてきた。



――娯楽室内――

 雪原に、ひとりきり。
 手を伸ばしながらただ、歩いていた。

 足跡は消えるよ。
 だって、すぐに雪が降るから。

 足跡は、消えているよ。
 だって雪が降ったから。

 ただそれだけ。
107 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:20:11.65 ID:18612oqi0
 だから絶対、どこかにいるはずなんだ。
 ちょっと離れているだけ。
 今までだって同じようなことはあったもん。

 ただ、見えないだけ。

 私のほうから、会いに行くから。
 待ってて、ギコくん。

 白銀の世界の遠くには、何も見えない。
 地平が空と交ざりあって、境目も分からない。
 私が、ばかだからなのかな。

 右も左も全部、真っ白だよ。
 まるで私の頭の中みたいに。

 でも、よかった。
 ギコくん、ケガはしてないみたい。
 だって全部真っ白だもん。

 元気だったから、遠くへ行っちゃったのかな。
 やだな。会うのが遅くなっちゃう。
 いっぱいお話したいのに。一緒にいたいのに。

 なんで、いなくなっちゃったんだろう。

 おしごと終わったら、いつもすぐ帰ってきてくれるのに。
 私のそばに、ずっといてくれるのに。
 なんで?
117 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:22:07.33 ID:18612oqi0
 まだ、おしごと終わってないの?
 他のみんなは、もう帰ってきてるのに。

 そういうことは、前にもあったよね。
 ギコくんは、みんなに頼られてるって、ブーンくんとかが言ってた。
 だから、たくさんおしごと、しなきゃいけないのかも。

 ほんとはね。
 ずっと、一緒にいてほしいんだ。
 でもそんなわがまま言うと、ギコくんを困らせちゃう。

 「りょーさいけんぼ」をめざせ、って給仕のおばさんに言われた。
 私、ききわけのいいお嫁さんになろうってきめた。

 ギコくん、ほめてくれるよ。
 お前はさいこーの嫁さんだ、って。
 私、そのたびに泣けちゃう。

 なんでだろう。
 私のお父さんとお母さんは、私をよく叩いた。
 今でもわかんない。なんであんなに叩かれたんだろう。

 「なんど言ってもわからない子」って言われた。
 その言葉の意味も、私にはよくわからなかった。

 でもとつぜん、二人ともいなくなった。
 私は小さな箱のなかで、ずっと空を見てた。
 それはとてもとても小さな空。

 翔け抜ける鳥が何色なのかさえ、分からなくて。
124 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:23:46.34 ID:18612oqi0
 優しく笑うおばさんに拾われて、私はまたご飯を食べられた。
 おばさんは温かく接してくれた。
 でもね、私が笑うことは一回もなかったんだ。

 お城に来てからもおんなじだった。
 いろんな人が、私に話しかけてくれたけど。
 どうしても、笑えなかったんだ。

 泣くことさえなかった。
 私から、感情って言葉が消えてたんだと思う。

 でも、それを変えてくれたのは、ギコくんだったよね。

 いつも優しく触れてくれた。
 時にはおどけてみせたり、びっくりするくらいマジメな顔で、夢を語ったり。
 最初から好きだったんじゃないかってくらい、私、すぐギコくんのこと好きになってた。

 ギコくんも、好きだって言ってくれた。
 笑顔よりも先に、涙が出てきた。

 私に、感情を与えてくれたよね。
 それから私、誰に対しても笑えるようになったよ。

 こうしていられるのも全部、ギコくんのおかげなんだ。
 そばに、いてくれるから。愛してるって言ってくれるから。
 だから私は、生きていられるの。

 ギコくん、それを知ってた。
 だから分かってる。急にいなくなるはずない、って。
128 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:25:29.84 ID:18612oqi0
 気が遠くなるほど広い雪原。
 何もかも白い世界。
 きっと、どこかにいる。

 探し続けるよ。
 たとえ足跡がなくたって。

 影がなくたって、歩き続けるよ。
 きっとどこかにいるから。

 死んでなんか、いないから。

 そうだよね。
 私に黙っていなくなったりなんか、しないもんね。

 そうだ、って言ってよ。
 いつもみたいに、微笑みながら。
 子供をあやすみたいな、優しい声で。

 答えて――――

(,,゚Д゚)「しぃ」

 真っ白な世界がすべて吹き飛ぶような、声。
 風が吹いて、舞い上がって、世界は色づく。

 今まで見ていたものが夢だったんだ、って分かる。
 でも、いま見ているものも、夢なんじゃないかって気がする。
 どっちなのか、私には分からなくて。
138 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:27:06.48 ID:18612oqi0
(,,゚Д゚)「ごめん。俺はしばらく、お前に会えなくなるみたいだ。
    遠くに行かなきゃいけなくなった。ほんとにごめん」

 声が、出ないよ。
 お話したいって、ずっと思ってたのに。
 もどかしいくらい、何も言葉が出てこない。

(,,゚Д゚)「これからどうするかは、お前が決めてくれたらいい。
    でも、俺の後を追ったり、俺を探したりするようなことはやめてくれ。絶対にだ。
    それが一番悲しいことだから」

(,,゚Д゚)「強く生きてほしい。お前はもう、俺がいなくても生きていけるはずだから。
    長生きしてくれ。たくさん笑ってくれ。俺は、ずっと見守りつづけているから」

(,,゚Д゚)「それが、俺の望みだ」

 色づいたこの世界に、溶け込んでいくギコくんの体。
 消えちゃう、って思った。
 嫌だ、って叫ぼうとした。

(,,゚Д゚)「ごめんな」

 その言葉の直後、私の首にギコくんの手が当たった。
 瞬間、体中を何かが駆け巡って――――

 視界が、ぼやけていった。
146 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:28:37.16 ID:18612oqi0
――ヴィップ城・一階――

 滅多に使われない部屋だが、応接室というのがあった。
 持て成さなければならないような相手のための部屋だ。

 しかしまさか、ラウンジの使者のために使うことになるとは思わなかった。
 相手は三人。この部屋の広さには、合わない少なさだった。

( ^ω^)「奥の扉の向こうに、寝床が用意されていますお。
      ごゆるりとお休みいただきたく思いますお」

(使~ -~)「ご好意、ありがたくお受け致しましょう」

 三人とも似たような顔をしているな、と何となく思った。
 固い表情を一様に浮かべていることだけが原因ではない。
 何故か、似た顔立ちに見えるのだ。

(使~ -~)「できれば、お早めに回答を」

 差し出された茶には、手もつけていなかった。
 どうやら、使者の目には任務しか見えていないようだ。

( ^ω^)「明朝までには、必ず」

(使~ -~)「そうしていただけると、ありがたい」

(使~ -~)「会談をお受けになられる場合は、そのまま私たちが場までご案内致します。
     ですので、準備をお整えになってからお越し下さいますよう」

( ^ω^)「……了解ですお」
156 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:30:11.50 ID:18612oqi0
 軽く頭を下げて、応接室から退出した。
 思わず息が漏れる。緊張から解放された感覚だった。

 病身のジョルジュ、怪我人のモララー。
 いずれも使者の対応はできない。
 中将のニダーもいない。フサギコもしぃのほうに係りきりだ。

 正式な対応は、自分がするより他ない。

 自分に向いているとは思わないが、やるしかなかった。
 泣き言や弱音を吐いたところで、どうにもならない状況だからだ。

 城内は普段通りの静けさを取り戻していた。
 先刻までしぃの捜索で慌しかったが、しぃが発見されてそれも落ち着いている。

 誰もいない、と思った部屋にしぃは居た。
 あの部屋には隠し扉があり、その向こうでしぃは眠っていたらしい。

 ギコが、しぃにプロポーズした場所だ。
 切なげにフサギコは教えてくれた。
 何故フサギコがそれを知っているのかは、分からない。

 フサギコの予想通りの場所にいたしぃ。
 探していたのだろう、とだけフサギコは言った。
 何を、なのかはもちろん、聞かなくても分かった。

( ^ω^)(……フサギコさんは、何を語ったのかお……)

 アルファベットが重く感じて、背から外した。
 右手で半ば引きずるようにしながら、歩きつづける。
166 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:31:49.68 ID:18612oqi0
 フサギコに頼まれて、伸び放題だった髪を切った。
 髭や眉毛も整えた。
 すると、フサギコは別人のようになった。

 いや、まさしく別人だったのだ。
 あれは、ギコそのものだった。

 昔、ギコが言っていた。
 兄貴が身だしなみを整えたら、入れ替わっても分からない、と。
 しかし、あれほどとは思わなかった。

 ギコのようになったフサギコは、いったい何を語ったのだろうか。
 聞かなかった。聞けなかった。フサギコも、語ろうとはしなかった。
 それは、別に構わない。少し気にかかるが、しぃが元気になってくれたら、それでよかった。

 またいずれ、しぃの部屋に訪いを入れよう、と思った。
 そのとき、奥のほうから人影がこちらへ向かって歩いてきた。

 先ほどまで、軍議室で何度も見た顔だった。

( ^ω^)「アニジャさん……」

(;´_ゝ`)「……久しぶりだな」

(;^ω^)「いや、さっきまで一緒に居ましたお……」

 アニジャは、挙措が不審だった。
 何をしていいのか分からない、何と言っていいのか分からない。
 そう思っているであろうことが容易に読み取れるほどに。
169 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:33:05.51 ID:18612oqi0
 アニジャの後方に、オトジャの姿が見えた。
 だが、こちらに近づいてこようとはしない。
 見守っているような体勢だった。

(;´_ゝ`)「その……すまなかった。言葉が、乱暴すぎた……」

(;^ω^)「……?」

(;´_ゝ`)「さっきの軍議でのことだ……。
      お前を信じるべき状況で、信じられなかった……あれは、俺の弱さだ……。
      ヴィップがこんな状態なのに……俺は……」

( ^ω^)「……いや、それは違いますお……。
      信じることは凄く大事ですお。だけど、闇雲に信じるのは危険ですお。
      ショボンにブーンたちが騙されていたみたいな……そんなことが、起きるかも知れませんお」

(;´_ゝ`)「……うむ……」

( ^ω^)「疑われたのも……ブーンは、仕方ないことだと思ってますお……」

( ^ω^)「だからブーンは、行動でみんなに示そうと考えてますお。
      ヴィップに抱いた忠誠は本物だってことを」

( ^ω^)「疑おうと思えば、きっとどこからでも疑えちゃいますお……。
      だけどそれでも、人を信じるってことは大事なんだと思いますお。
      アニジャさん、ブーンは必ず、ヴィップを天下に導いてみせますお」

( ´_ゝ`)「……俺も同じ気持ちだ……ヴィップのために戦いたい……。
      ジョルジュ大将の話を聞いて、心が変わった……信じたくなったんだ。
      虫が良すぎるかも知れない。でも、共に戦いたい」
172 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:34:12.59 ID:18612oqi0
( ^ω^)「ブーンはずっと、そう思ってますお」

 アニジャに、笑顔が戻った。
 それが何よりも、嬉しかった。

( ^ω^)「本当の信頼を、築いていきたいんですお」

 深く、アニジャは頷いた。
 後ろからオトジャが近づいてきて、何度か頭を下げられたが、かえって申し訳ない気持ちだった。
 きっと、本当の信頼のために、必要なことだったからだ。

 今はとにかく、二人が自分を信じてくれたことが、嬉しかった。

( ^ω^)(ラウンジは……いったい何のつもりかお……)

 サスガ兄弟と別れ、第一軍議室に向かうまでの間、ぼんやりと考えた。
 会談の申し入れ。ただし、何の会談かは伝えてこない。
 ただ、話したいのだという。

 ショボンが出てくる。
 それは、言われずとも分かっていた。

 申し入れを、受けるかどうか。
 まだ、決定はしていない。
 自分の一存で決めるわけにもいかない。

 ジョルジュとモララーの意見を仰ぐ必要がある。
 しかし、二人はなんと言うだろうか。
179 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:35:29.39 ID:18612oqi0
 自分の意見は決まっていた。
 だがやはり、二人の意見に左右されるところが大きくなるだろう。
 今や、東と西の頂点に立つ二人だからだ。

 そう、思っていた。

(;^ω^)「……ほぇ?」

 第一軍議室の扉を開けて、すぐだった。
 形式上は、打診。しかし、事実上の決定と言ってよかった。

 大将を務めてくれ、と二人に言われた。

( ゚∀゚)「お前以外にはいないんだ」

( ・∀・)「よろしく頼む」

(;^ω^)「ちょ、ちょっと待ってくださいお! そんな、突然……!!」

 話が突飛すぎた。
 お前以外にいない、とジョルジュは言ったが、そんなはずはない。
 自分以上の将など何人もいる。

( ゚∀゚)「俺とモララーは戦に出れねぇ。ニダーやフサギコやヒッキーは大将タイプじゃねぇ。
     ま、理由はそんな消去法じゃないんだが……とにかく、お前しかいない」

(;^ω^)「……いや、そんなことは……」
182 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:36:53.24 ID:18612oqi0
( ・∀・)「ラウンジからの会談の申し入れは、受けるしかないだろ。
     そこに、大将として行ってもらいたいんだ。お前には。
     ヴィップの代表として」

(;^ω^)「ブーンが会談に出向くのは構いませんお。でも、別に大将としてじゃなくても」

( ゚∀゚)「締まらねぇだろ、少将じゃ。まぁ、今はそんなことどうでもいいんだ。
     今後のヴィップに、お前の力は欠かせない。お前が主たる存在としてあるべきだ。
     俺やモララーがしばらく戦に出れない状態だから、尚更に」

(;^ω^)「で、でも……」

( ・∀・)「抱えているのは、逡巡か? それとも、不安か?」

 モララーは、身動ぎひとつ取らなかった。
 取れないだけだ、と分かっていても、それが言葉の重みを増させていた。

(;^ω^)「……どちらでもありませんお。
      ブーンは自分の力量をしっかり把握しているつもりですお。
      だから、大将に相応しいとは思えないんですお」

( ・∀・)「いや、いいんだよ。お前はまだ成長しきっていない、不完全な状態だからこそ。
     周りが最大限、力を発揮できる」

(;^ω^)「……?」

( ゚∀゚)「お前を支えるべく、みんなが頑張れるってことさ。
     そうすりゃヴィップはもっと強くなるしな」

( ゚∀゚)「それに……みんなから『本当の信頼』を得られる大将となれるのは、お前以外にいねぇさ」
186 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:38:11.12 ID:18612oqi0
(;^ω^)「……それも、ブーンにはよく分かんないですお……」

( ゚∀゚)「自分で分かることじゃねぇさ。でも、俺たちには分かる。
     自覚しなくていい。お前は、お前らしくあればいいんだ。
     周りを信頼する、そして周りから信頼される。そんな将であってくれれば」

( ・∀・)「あとは、戦で示してくれりゃあいい」

 二人が、次々と言葉を繰り出してくる。
 反する言葉が、出てこない。

( ・∀・)「とりあえずは暫定でもいい。とにかく、会談には大将として出てくれ。
     いきなり言われて、気持ちが追いついてないのは分かってる。
     お前ばかりに負担をかけて申し訳ないとも思うが」

(;^ω^)「いえ、そんなことは」

( ゚∀゚)「とにかく、頼んだ。大将、ブーン=トロッソ」

 何度、考えても。
 やはり、言葉を上手く返せない。

 二人の視線が注がれている。
 そこに、純然たる期待が込められているのを、肌で感じる。

(;^ω^)「分かり……ましたお……」

 そう言って頷くしか、なかった。
193 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:39:35.67 ID:18612oqi0
――ヴィップ城・ブーンの自室――

 蟠りがないとは言えなかった。
 寝床に身を投げて、しばらく考えてみてもやはり、拭えなかったのだ。

 大将という、地位。

 あまりに重過ぎる、とさえ感じた。

( ^ω^)「ふぅ……」

 寝床から起き上がって、椅子に腰掛けた。
 目の前にある机には、膨大な量の書類が溜まっている。
 モララーやジョルジュが執務を行えないため、自分に仕事が回ってきているのだ。

 実質、大将と同じだけの仕事をこなしていることになる。

 だが、あくまで一時的だ、と考えていた。
 モララーとジョルジュが、復帰するまでの間。
 一時的に、大将の代わりのようなこともしなければならない、と思っていただけだ。

 まさか本当に、大将という地位に就くことになるなど、想像もしなかった。

 暫定だ、とモララーは言ったが、果たしてあとになって断れるのだろうか。
 自分の意思が固まらないままに、もう引き下がれないところまで進んでしまうのではないだろうか。
 そんな恐怖も、あるにはあった。

 客観的に見れば確かに、大将の候補だった。自覚していた。
 だが、何となく自分からは遠い世界の話だ、という気がしていたのだ。
201 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:41:02.22 ID:18612oqi0
 ベルやミルナ、ショボンやジョルジュ。
 いずれも自分には遠く及ばない存在だ。
 そう、昔から思っていた。だからこそ、だろうか。

 モララーが言ったように、不安もないわけではなかった。

(;-ω-)「…………」

 堆く積み上げられた書類を、手早く処理した。
 最初は慣れなかったこの作業も、いつしか考え事をしながらでも行えるようになっている。

 モララーとジョルジュは、期待してくれている。
 窮境に喘ぐヴィップを、救う存在となることを。
 それはありがたいが、やはり自分の実力を見つめなおすと、素直に頷けないのだ。

 自分でいいのだろうか、と思ってしまうのだ。

 ラウンジからの使者にはもう、会談を受けることを伝えた。
 明朝に出発して、その場に連れて行かれる予定だ。

 意外だったのは、ジョルジュも共に行くと言って来たことだった。
 しかも、護衛としてミルナを伴うというのだ。

 ショボンと何か、話したいことがあるのだろう。
 病を得ており、決して楽な状態ではない。
 無理をすれば、命にも関わりかねない。

 それでも行く、というのは、ただごとではなさそうだった。
208 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:43:34.44 ID:18612oqi0
 ジョルジュはミルナを伴うというが、暗殺の心配は、していなかった。
 ここまで来て、敵国の将を騙し討つような真似をするとは、考えにくい。
 ラウンジの軍内からも国内からも、大きな反発があるはずだからだ。

 会談の場は、恐らくどこかの城だろう。
 あるいは、見晴らしのいい場所に幕舎でも張って待っているのかも知れない。

 ショボンが何の話をしてくるのかは、分かりそうもない。
 今はもう、考える気にさえならない。

( ^ω^)「…………」

 仕事に一区切りついたところで、部屋から出た。
 音のない空間。自分が歩くだけで、まるで喧騒のようだ。
 灯された蝋燭の火が、僅かに揺らめいていた。

 階段を昇って、屋上に出る。
 風はない。やはり、静かな夜だ。
 西塔の大将室には明かりがある。ジョルジュとミルナがいるはずだった。

 城外には少なからず兵がいた。
 指揮はロマネスクとヒッキーが執ってくれているはずだ。
 心の中で感謝を告げて、更に階段を昇った。

 東塔、大将室への階段を。

( ^ω^)(鍵は……)
217 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:45:04.56 ID:18612oqi0
 衣服のあちこちを探った。
 上着の内側に入れた鍵を発見して、鍵穴に差し込む。
 右に捻って、中に入った。

 閑散としている。

 以前、ショボンが入っていたときのまま残してあるが、何故かそう思った。

( ^ω^)「…………」

 ゆっくりと、歩いていく。
 一歩ずつ。

 見慣れた部屋。
 それでもここに入ったのは、はるか遠い昔だった気がする。

 ショボンの執務机も、はるか遠くに感じる。

( ^ω^)(……鍵は、確か……)

 後ろの本棚にあるはずだ。
 どの本に挟まっているかは、時によって違うと言っていた。
 根気よく探そう、と思った。

 アルファベットで壊してしまってもいいが、何となく鍵で開けたい気分だった。

 本棚に収められている冊数は、百ほどだろうか。
 ひとつひとつ調べても、さほど時間はかからなさそうだった。
235 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:47:13.96 ID:18612oqi0
 集められている本には、統一性がなかった。
 軍略や謀略についての本もあれば、経済や数学の本もある。
 ショボンの博識さは、ここで身につけられたものだろう。

 最上段を全て探し終え、二段目に移った。
 最初の本は、人心掌握術についてだった。

 その本から、何かが滑り落ちる。

( ^ω^)(……あったお……)

 銀色の鍵が、月光を照り返して輝いていた。

 執務机の、一番下の引き出しを、開ける。
 思ったよりも、軽かった。

( ^ω^)(……手紙、だお……)

 真っ白だった。
 引き出しの中に収められていたからか、相当前に書かれたもののはずなのに、まったく変色していない。
 ただ、手紙には厚みがある。封筒の中には、数枚の便箋が収められているようだった。

( ^ω^)「…………」

 手紙を、衣服の中に入れた。
 引き出しを閉め、本を元の場所に戻し、大将室から去る。

 外には少し、風が吹き始めていた。
252 :第82話 ◆azwd/t2EpE :2007/12/03(月) 01:49:25.48 ID:18612oqi0
 明日には、ショボンとの再会へと向かって出立する。
 最悪の謀反者である、ショボンとの、再会へと。

 感情に、流されないよう。
 冷静に対処したいところだ。

 会談の場で、ショボンは何を言うのだろうか。
 衣服の中に収めた手紙に手を当てながら、再び考えた。

 しかし、思考はすぐ風に流されていった。















 第82話 終わり

     〜to be continued

戻る

inserted by FC2 system