120 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:48:01.57 ID:KZkJifhB0
〜ヴィップの兵〜

●(`・ー・) ハンナバル=リフォース
41歳 総大将
使用可能アルファベット:R
現在地:ローゼン城

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
20歳 大尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ローゼン城

●( ´∀`) モナー=パグリアーロ
30歳 大将
使用可能アルファベット:P
現在地:ローゼン城

●(,,’」’) セシル=ヒレンブランド
33歳 少将
使用可能アルファベット:J
現在地:エヴァ城

●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
24歳 少尉
使用可能アルファベット:J
現在地:ローゼン城
122 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:48:52.68 ID:KZkJifhB0
総大将:ハンナバル

大将:モナー
中将:
少将:セシル

大尉:ジョルジュ
中尉:
少尉:ヒッキー
127 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:50:23.55 ID:KZkJifhB0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:ヒッキー/セシル
K:
L:ジョルジュ
M:
N:
O:
P:モナー
Q:
R:ハンナバル
S:ベル
T:
U:
V:
W:
X:
Y:
Z:
134 :この世界の単位 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:51:24.81 ID:KZkJifhB0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

135 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:52:25.49 ID:KZkJifhB0
【第81話 : Fatherly】


――ローゼン城――

 ハンナバルは、終始ベルを圧倒していた。
 あの、ベル=リミナリーを。

 ほとんど何もさせなかった、と言っていい。
 万全の状態で、堅陣を敷いてきたベルを、打ち破ったのだ。
 見事な、勝利だった。

 だが、あくまでそれは局所的なものに過ぎなかった。

(;´∀`)「辛い戦いになってしまいましたね……」

 モナーの声も、悲痛だった。
 多くの兵が沈痛な面持ちで、俯いている。

 ベルが四万を率いていた。
 そしてそれを、打ち破った。

( ゚∀゚)(……くそっ……)

 勝てるはずの戦だった。
 しかし、予想だにしない部分で、ヴィップは躓いてしまった。

 二万のほうを攻めていたディルクレッドが、討ち取られてしまったのだ。
138 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:53:41.42 ID:KZkJifhB0
 ハンナバルは、ベルを破った直後にその報せを受けた。
 そして即座に、ハルヒ城を諦めた。

 属城を基点として転回し、すぐさまディルクレッドが率いていたほうの部隊を助けに向かったのだ。
 決断は早かった。そして、意外でもあった。
 ハルヒ城を落とせるかどうかは、確かに微妙なところだったが、ハンナバルは躊躇なく仲間を助けに向かったのだ。

 ハンナバルらしい、といえば確かに、ハンナバルらしい。

(`・−・)「葬儀はヴィップ城に帰ってからだな……」

 軍議室に将校が集められていた。
 何故負けたのか、何が起きたのか。それらを分析するためだ。

(`・−・)「詳細について話してくれ、モナー」

(;´∀`)「申し訳ありません。力が及びませんでした。
     伏兵を仕掛けられていることには、薄々感づいていたのですが」

 ディルクレッドが、止まらなかったのだろう。
 猛攻が得意な武将だが、その途端に周りが見えなくなる。
 攻めが好きなやつには、よくあることだ。

 もう五十を過ぎていたはずだ。
 老いによる判断力の低下もあったのかも知れない。

( ゚∀゚)「だからベルは二万のほうを手薄にしたのですね。伏兵がいたから」

(;´∀`)「そういうことだと思います。もっと警戒すべきでした」
141 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:54:54.64 ID:KZkJifhB0
 モナーとディルクレッドが率いていた二万五千は、二万になっていた。
 それもハンナバルが救援に向かったおかげだ。放っておけば、半減は避けられなかっただろう。
 モナーさえ討ち取られていたかも知れない。

 得手ではない、と知っていた。
 モナーは、守りの武将だ。攻めを得意とはしていない。
 だが、常に冷静さを失わない。ディルクレッドとは、いい組み合わせだと思った。

 実際今までもディルクレッドと共に戦うことは多かったらしい。
 経験豊富で、気心も知れている仲。何ら問題はない、とハンナバルも考えたはずだ。
 だが、負けてしまった。これもめぐり合わせだろう。

(`・ー・)「切り替えていくぞ、みんな」

 立ち上がり、明朗な声でそう言った。
 気丈な振る舞い。

(`・ー・)「ハルヒ城はまだ狙える。ディルクレッドのためにも勝とう。
     気を緩めるなよ!」

 アルファベットを掴み取り、真っ先に軍議室を後にした。
 室内に残ったのは、全将校と、微妙な空気。

 ぽつりぽつり、と立ち上がっていく。
 皆、無言だった。

 ハンナバルの態度に対し、微妙な思いを抱えている。
 言葉にしなくとも、皆がそう思っていることは、分かった。

( ゚∀゚)「…………」
146 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:56:29.35 ID:KZkJifhB0
 最後に、軍議室から出た。
 自分が向かう先を誰にも知られたくなかったためだ。

 階段を昇って屋上へ向かった。
 いや、正確にはそこから階段がのびている、城塔だ。

 きっと屋上には、ハンナバルがいる。
 だからこそ、城塔へ向かおうと思った。

( ゚∀゚)(……居るな)

 気付かれないように、屋上から城塔への階段を昇った。
 そして城塔から、ハンナバルを見下げる。

 酒を呷っていた。
 丸い酒瓶が、丸い月に向かっている。
 中の液体が月光を反射させている。

 光が、揺れていた。
 酒瓶の中で。
 そして、ハンナバルの頬の上で。

 涙の、上で。

( ´∀`)「お分かりでしょう、ジョルジュ大尉」

( ゚∀゚)「ッ……モナー大将……」

 いつから後ろにいたのか。
 まったく、分からなかった。
149 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:58:27.94 ID:KZkJifhB0
( ´∀`)「こういう心優しい総大将だからこそ、私たちが支えなければならないのですよ。
     ハンナバル総大将はきっと、一人では戦えない人なのです。ベル=リミナリーとは違って。
     だからこそヴィップは強い、と私は思っておりますが」

( ゚∀゚)「…………」

( ´∀`)「皆、分かっています。ハンナバル総大将が、無理をして明るく振舞っていたことは。
     総大将として、強引に感情を封じ込めていますが、それを貫けるような人ではありませんから。
     私たちがハンナバル総大将を支えたい、と思う理由は、そこにあります」

( ゚∀゚)「……俺に言ったところで、何の意味もありませんよ」

( ´∀`)「いえ、きっと意味はあります。私の見立てが正しければ、ですが」

 感情を上手く操れない。
 仲間の死に咽び、涙を流し、悲しんでいる。
 それは決して、褒められた態度ではない。

 だが、感情がまったくないというのも、困りものだ。
 ハンナバルは、感情を顕わにする。ときどき、こちらが心配になるほどに。
 だからこそ、配下が支えなければならない、という気になるのだ。

 支えたい、と思うのだ。

( ´∀`)「これからも、よろしくお願いします」

 モナーが一度、頭を下げた。
 そしてそのまま背を向け、階段を下っていく。

 何か言葉を返そうと思ったが、声にならなかった。
153 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:59:39.75 ID:KZkJifhB0
――502年・春――

――ヴィップ城――

 鮮やかだった。
 こんな花はオオカミにはない。ヴィップ特有だ。
 舞い散る花びらさえ、彩りに満ちている。

 桜、という名らしかった。
 ヴィップの国花にも指定されている、美しい花木だ。
 城の外を囲むように植えられている。

 城内から外へ出ていく兵が足を止めるのも、自然なことだった。

( ゚∀゚)「見事なもんだ」

 呟いた。
 それを、角張った顔の男がしっかり拾っていた。

<ヽ`∀´>「こんな花は、故郷にはなかったですニダ。
      父や母にも見せてあげたいですニダ」

 ニダー=ラングラーという少尉だった。
 先の戦、ハルヒ城攻略戦の頃、二人の将校が欠けた。
 大将のディルクレッドは討ち取られ、少将のセシルは体力の限界を理由に軍を退いた。

 それらに伴い、新たに昇格した将校だ。
159 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:01:17.84 ID:WF53fc+W0
 アルファベットの才は相当にある。
 戦に対する感覚も鋭い。上手く育てば、いずれは将官だろう。
 パク=ルミオンという友人も同時に将校になったが、才覚はニダーのほうが上だった。

<ヽ`∀´>「ジョルジュ大将の、父母は?」

( ゚∀゚)「もういねぇさ。孤児ってやつだ」

<;`∀´>「アイゴー、チェーソンハムニダ」

(;゚∀゚)「方言分かんねぇよ」

<;`∀´>「ごめんなさいニダ、大将」

 礼儀正しく、心も深い。
 入軍当初は周囲からの虐めに遭っていたという。その環境が、ニダーを強くしたのだろう。
 ただそれも、親の育て方が良くなければ耐えられなかったはずだ。芯の強い男、という認識だった。

( ゚∀゚)「……やっぱり、大将って呼ばれ方は、慣れねぇなぁ」

<ヽ`∀´>「そういうもんですニカ?」

( ゚∀゚)「なーんとなくな」

 ディルクレッド=フィールダーが、居なくなった。
 ラウンジに討ち取られ、この世から去った。

 その空席となった大将の座に収まったのは、自分だった。
162 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:02:42.41 ID:WF53fc+W0
 当然、周囲からの反発はあった。
 何しろ自分は、生粋のヴィップ兵ではない。
 オオカミから寝返ってきた将なのだ。

 しかもまだ、三年足らず。
 ラウンジ戦では戦功を挙げた。二度目の戦いで、敵の少将をひとり討ち取った。
 それでも周りからの信頼を得られたとは言いがたかった。

 結局ハルヒ城は諦めざるをえなかった。
 あれから二度ほど攻め込んだが、ラウンジの堅い守りに防がれ、ハルヒ城までは到達できなかったのだ。
 ハンナバルはベルと互角の戦いを繰り広げた。しかし、次第に兵数の差が広がって、勝つのが難しくなった。

 そこでもう少し戦功を挙げていれば、周りからの反発は少なかっただろうか。
 そんな意味のない仮定を思い浮かべたりもした。

( ゚∀゚)「多分、経緯がスムーズじゃなかったからだろうな。
     まぁ、ヴィップに寝返ってきたばかりの男を大将に、なんて反発がないほうがどうかしてるが」

<ヽ`∀´>「でも、相応しいとウリは思いますニダ」

 ハンナバルも、同じ言葉を発した。
 ジョルジュが最も相応しい。今、ジョルジュ以上の将はいない、と。

 かなりハンナバルの主観に因っていた。
 周りを説得できるだけの戦功を挙げられていないからだ。
 それでも周りが納得してくれたのは、ひとえにハンナバルの人望のおかげだった。

 将校たちからの承諾が得られたときは、心の底から安堵した。
 大将という地位が、確定したからだ。
 ハンナバルが自分を見込んで大将に任じてくれた。それに、応えたい気持ちがあったのだ。
169 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:04:44.33 ID:g7s8sEf90
 いつしかもう、オオカミに戻ろうという気持ちは、欠片もなくなっていた。

(`・ー・)「おー、ジョルジュとニダーじゃねーか。ちょうどいい」

( ゚∀゚)「どうしました?」

 ニダーがいるため、言葉遣いが丁寧なものになった。
 そういう切り替えは、我ながら早かった。

(`・ー・)「釣りいくぞ釣り! 春になったら魚がうめぇ!」

(;゚∀゚)「また釣りですか? 総大将……」

<ヽ`∀´>「相変わらずですニダ」

(`・ー・)「ちょうど釣竿三本持ってんだ! ラッキーだな!」

( ゚∀゚)「誰とも出会わなかったらどうするつもりだったんですか?」

(`・ー・)「ん? まぁそりゃー、一人で三本使うつもりだったが」

<;`∀´>「虚しすぎますニダ」

( ゚∀゚)「ニダー、この人はそれが苦痛じゃないんだ。不思議なことに」

(`・ー・)「出会えたから良かったな、うん。よし、行くぞ!」

(;゚∀゚)「ちょ、一人で先に……あー、行っちまった」

<;`∀´>「急いで追いかけましょうニダ」
172 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:06:28.42 ID:g7s8sEf90
 二人で笑って、馬を曳いてきた。
 急いで跨り、手綱を引き絞る。
 嘶きと共に駆け出した馬が、ハンナバルを追っていく。

 軍での仕事が休みのとき、こうやってハンナバルと共に過ごす。
 それを、純粋に楽しむ自分が、ごく当然のようにいた。

 まるで、ハンナバルを――――のようだと思っていた。

 だからこそ、なのかも知れない。
 何も予想できていなかった。夢寐にも思わなかった。

 突然、別れがやってくることなど。



――504年・春――

 また、風の強い夜だった。
 それが向かい風となっていた。

(;゚∀゚)「ハァッ! ハァッ!」

 大きく呼吸せざるをえなかった。
 階段を二段飛ばして駆け上がる。人を跳ね除けながら廊下を走る。

 屋上に出て、西塔の最上階へ。

 昇りなれた階段も、今は果てしないほど長く感じる。
 すぐ近くに見える扉に、手を伸ばしても、届かない。
179 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:08:09.73 ID:g7s8sEf90
 あそこに、ハンナバルがいるのに。
 まだ、いるのに。

 それでも駆け上がった。
 そして、扉に手をかけた。

(;゚∀゚)「総大将!!」

 扉を開け放ち、叫んだ。
 奥の部屋へとすぐ駆けつける。

 不快なほどに快い風が吹いていた。
 春風。あまりに暖かい。
 馴れ馴れしく、身を撫でていく。

 視界の先端に、ハンナバルはいた。
 小さく見えるのは、きっと距離があるからだ。
 暗く見えるのは、夜だからだ。

 そうに違いない。

(;`・−・)「ジョルジュ……か……」

 何故、苦しそうなのだ。
 呼吸も、所作も。
 突然すぎる。少し前まで、あんなに元気だったのに。

 顔面は蒼白で、頬も扱けている。
 骨に皮が張り付いたような腕、手の甲。
184 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:09:30.70 ID:g7s8sEf90
 消え行きそうな儚さが、ハンナバルを包み込んでいる。

(;゚∀゚)「どういうことですか……?」

(;`・−・)「……さぁ……俺が聞きてぇよ……。
      ジョルジュに教えたのは……誰だ……?」

(;´∀`)「私です、総大将」

 後ろからモナーが追いついてきた。
 呼吸は荒い。全力で駆けてきたようだ。

 外で調練をしていた自分に、危篤であることを教えてくれた。
 恐らくモナーもさっき知ったばかりだろう。
 いの一番に自分に教えてくれた、というのはすぐに分かった。

 思い返せば、確かにおかしかったのだ。
 ここ最近、ハンナバルが姿を見せなかった。
 次の戦の準備で忙しい、と聞いていたが、何日も連続して顔を見せないことなど、今まで一度もなかったのだ。

 本当は、そこで勘づくべきだった。
 しかし、今更すぎた。

(;゚∀゚)「……ダメなのですか……? もう、治らないのですか……?」

(;`・−・)「ちょっと……厳しいな……」

 侍医のほうに視線を向けた。
 悲痛な表情を浮かべたまま、ただじっと俯いている。
192 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:10:53.25 ID:g7s8sEf90
 それを見なくとも、本当は、ハンナバルの顔を見るだけで分かっていた。
 もう、長くないであろうことは。

 ハンナバルの周りに、生薬や鍼などが大量に置かれている。
 手を尽くしたのだ、ということは分かる。
 だが、信じたくなかった。まだ何か、治す手立てがあるのではないか、と思った。

 いや、そう思いたかった。

(;`・ー・)「まぁ、ちょうどいい……聞いてくれ、ジョルジュ……」

 何故か、ハンナバルは微笑んだ。
 死の苦しみの、真っ只中で。

(;`・ー・)「ラウンジを攻める準備を、進めてある……あともう少しで、整うはずだ……。
      それが終わり次第、ハルヒ城を攻めてくれ……お前なら、きっと落とせる……」

(;゚∀゚)「総大将は……」

(;`・ー・)「……一緒に戦いてぇけどなぁ……無理、だろうなぁ……」

 全身を刺すような痛みが襲う。
 心が、糸か縄か、あるいは鎖で、締め付けられているようだ。

(;`・ー・)「頑張ってくれ……お前はきっと、ヴィップを天下に導ける……」

(  ∀ )「…………」
201 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:12:31.97 ID:g7s8sEf90
 何度も、深く息を吸い込んだ。
 少し、顎を上げながら。

 そうしなければきっと、何かが溢れ出てしまうから。

(;´∀`)「総大将……貴方は私たちにとって、まるで太陽のようでした。
     貴方を中心として、ヴィップはずっと回っていたのです。
     ……ですから……貴方が居ないヴィップなんて、私には……」

(;`・−・)「……お前は、決して弱さを見せないでくれ……兵たちの、拠り所になってやってくれ……。
      すまんな……いつもお前には、迷惑をかけた……」

(;´∀`)「そんな……私にとっては、生きがいだったのです。謝らないでください」

(;`・ー・)「有能な部下を持って……俺は、幸せだったんだろうな……改めて、そう思うぜ……」

 ハンナバルが大きく咽た。
 右手で口元を押さえる。掌を一度見て、すぐに引っ込めた。
 隠したつもりだろう。しかし、こちらからでも赤く染まっているのは分かった。

 月明かりが窓から射し込む。
 ハンナバルの体を、優しく照らし出す。

(;`・−・)「ジョルジュ……悪いな……お前にはもっと、いろんなことを……教えて、やりたかったんだが……」

( ゚∀゚)「……多くのことを、教えていただきました」

(;`・ー・)「別に、そんな言葉遣いじゃなくてもいいぞ……? どうせ、もう……」

(  ∀ )「いえ……総大将への敬いがあるからこそです……」
206 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:14:00.08 ID:g7s8sEf90
 やはり、堪えきれない。
 それでも何とか抑え込んだ。
 一度袖で拭えば、視界は明確だった。

( ゚∀゚)「……オオカミからヴィップに来て、総大将と共に日々を過ごしました。
     それは、孤児だった自分を、拾って育ててくれたようなもので……」

 訥々と、言葉が溢れ出てくる。
 何も包み隠さぬ、率直な思いが。

(  ∀ )「幼い頃に、親を亡くしていた自分にとって……
     ……ハンナバル総大将は、まるで――――」

(  ∀ )「――――父親のようでした」

 開け放たれた窓から、再び春風が吹き込んだ。
 髪が揺れる。目の前を覆う。
 ハンナバルが一瞬、見えなくなる。

 しかし、微かに見えた口元は、笑っているように見えた。

( ゚∀゚)「……だから、誓います。自分にとって、唯一の家族である、ハンナバル総大将に。
     必ず、ヴィップの覇道を成し遂げると」

(;`・ー・)「……頼んだぜ……息子よ……」

 ハンナバルが一瞬、目を閉じた。
 体から少し、力が抜けたようだった。
215 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:15:51.24 ID:g7s8sEf90
 風の音が、聞こえた。
 城外にある桜の木が、揺れているのだろうか。
 草花が擦れあって、音を奏でたのだろうか。

 ここからでは、確かめようもない。

(`・ー・)「……桜は……」

 風声に交じる、ハンナバルの声。
 まるで、人のものではないように。

 何故かその表情は、驚くほど平静だった。
 苦しんでいる風に、全く見えなかった。

(`・ー・)「桜は、まだ咲いてる……かな?」

( ゚∀゚)「……桜、ですか?」

 窓の外を、確かめようとした。
 寝床のすぐ近くにある。ハンナバルも、体を動かせば見れる距離だ。
 しかし、それは叶わない状態なのだろう。

 そのとき、ふと、気付いた。

(;゚∀゚)「ハンナバッ……!!」

 目を、開いたまま。
 姿勢も全く変わらないまま。

 ただ、瞳の光だけが、失われていた。
227 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:17:20.42 ID:g7s8sEf90
(;´∀`)「総大将!? 総大将!?」

 モナーの呼びかけに、応える命を持たない。
 まるで、気を失うように。考え事でもしているかのように。

 ハンナバルは、息を引き取っていた。

 静寂に満ちる大将室。
 ただ、ハンナバルの亡骸を見つめる、自分とモナー。

 桜の花びらが、風に乗って舞い込んできた。
 今日は風が強い。きっと、花びらを散らしてしまっただろう。

 それ以来、風の強い夜が、好きではなくなった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


( ゚∀゚)「……ハンナバル総大将を失ったヴィップは、しばらく立ち直れなかった。
     誰もがあの人を信頼していたからな。それほどに、大きな存在だったんだ。
     サスガ兄弟やフサギコは、覚えていることと思う。当時の軍内の空気を」

(´<_` )「……はい」

 ジョルジュの言葉に、深く頷きながら相槌を打つオトジャ。
 アニジャとフサギコも、ジョルジュのほうを見つめている。
235 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:19:02.39 ID:g7s8sEf90
(;^ω^)「ジョルジュ大将、大丈夫ですかお? お体のほうは……」

( ゚∀゚)「大丈夫だ、心配すんな」

 そうは言われても、自然と心配してしまう。
 長く喋りすぎたせいか、ジョルジュの顔から疲労が伺えるのだ。

 ただ、それでもジョルジュは話すことをやめなかった。

( ゚∀゚)「でも、だからこそ俺はハルヒ城奪取に拘った。
     軍内の空気を変えたかったし、ハンナバル総大将がいなくてもやれる、と証明したかったんだ。
     あのとき、完全にベルを封じ込めてハルヒ城を奪えたのは、そういう"思い"の力があったからこそだな」

 ジョルジュの後ろで立ち尽くすミルナ。
 ただじっと、ジョルジュの声に耳を傾けている。

( ゚∀゚)「あの頃は、まだ良かった。
     ハンナバル総大将がいなくなったのは心から辛かったが、戦に身を投じれば少し忘れられた。
     勝ち続けることで恩を返そうと思ったし、安心させようと思った」

( ^ω^)「…………」

( ゚∀゚)「だが――――歯車が微妙に狂い始めた。
     あれは確か、507年のことだったな」


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248 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:20:55.33 ID:g7s8sEf90
――世界暦・507年――

――ヴィップ城――

 異様に図体の大きな奴だ。
 最初の認識は、その程度だった。

 しかし、その認識を改めさせられるのに、大した時間はかからなかった。

(´・ω・`)「新たに将校となりましたショボン=ルージアルです。以後、お見知りおきを」

( ゚∀゚)「……あぁ、よろしくな」

 手を交わしたとき、まるで岩のようだと思った。
 それは、ゴツく大きいという理由だけではない。
 何故か、恐ろしいほどに冷たい手だったのだ。

 話は周りから聞いていた。
 ショボン=ルージアル。入軍と同時にIを握ったという天才だ。
 Jの壁も僅か半年で突破し、今はLを操っているという。

 昨年入軍してきたばかりで、まだ戦の経験は多くない。
 将校になれた理由は、アルファベットの才だろう。確かに、将校はアルファベットに長けていたほうがいい。
 配下の兵から尊敬を集めることができ、統率力が上がるからだ。

 頭脳も明晰だった。
 視野が広い。それでいて、細かなケアも忘れない。
 まさに、戦をやるために生まれてきたような男だった。
262 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:22:43.75 ID:g7s8sEf90
 だからこそ、だろうか。
 何となく、ショボンのことが好きになれなかった。

 悪い男ではない、と思う。
 思うが、なんとなく心を許しがたい相手だ。
 尤も、自分が本当に心を許した相手は、ハンナバル以外に存在しない。

 ショボンは、いずれハンナバルのようにSの壁を突破するかも知れない。
 そう思うと、何となく対抗心が芽生えてきた。
 ショボンより先に、壁を越えたいと思うようになった。

 だが、この時点では明確な敵意というものは、まだ持ち合わせていなかった。
 好きにはなれない。しかし、そんな奴は数え切れないほどいるのだ。
 ショボンは、そのなかのただの一人。自分にとって、決して特別な存在ではなかった。

 四年後、モナーが大将の座をショボンに譲る、というときまでは、だった。

(;゚∀゚)「どういうことですか? モナー大将」

( ´∀`)「もう中将ですよ、ジョルジュ大将」

( ゚∀゚)「年齢的な衰えを理由にしておられますが、そんな風には見えません」

( ´∀`)「見えない部分で、衰えているのです。きっと、私にしか分かりません」

 そのモナーの言葉を、信じきれなかった。
 嘘くらい、平気で吐ける男だ。謀略のときにそれを何度も見ている。
273 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:24:20.30 ID:g7s8sEf90
 本当は、もっと容易く信じていればよかったのだ。
 モナーは深く考えていなかった。あるいは本当に、年齢的な衰えを感じていた。
 いずれにせよ、自分が危惧したような事態ではなかったのだ。

 モナーがショボンに大将を譲る、ということに対する反発は、さほどなかった。
 自分が大将になったときのほうが、当然だがはるかに多かった。
 それに比べれば、まだ二十五だったショボンが大将位に就くなど、何とも思わないということだろうか。

 だが、自分は違和感を覚えてしまった。
 昇格祝いの宴で、大将という座を得たショボンが、一人で酒を飲んでいた。
 その光景を見て、違和を感じ取ってしまったのだ。

 何故かショボンが、ほくそ笑んでいるように見えたせいだった。

 達成感とは違う。喜びともまた違う。
 率直に言ってしまえば、悪意が感じられたのだ。
 純粋な感情ではない、と思ったのだ。

 何の確信もない。証拠もない。
 だが、自分の本能は告げていた。あの男は、危険だと。

 そう思い始めてからは、止まらなくなった。

 他国が送り込んできた、刺客ではないのか。
 ヴィップを崩壊させるために、新兵を装って軍内を乱そうとしているのではないか。
 そんな疑念を抱くようになってしまったのだ。
282 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:26:31.69 ID:g7s8sEf90
( ゚∀゚)(……オオカミは、ないな)

 大将となったミルナ=クォッチは、そんな手段を好む男ではない。
 正々堂々と敵に当たりにいく、愚直なまでの武人だ。

 国王のフィラッド=ウルフは、もっとありえない。
 あれは超がつくほどの愚鈍な男だ。先代国王リアッド=ウルフの血を受け継いでいるとは思えない。
 フィラッドが国王でなければ、オオカミから完全に離反することはなかったかも知れない、と今もときどき考えるほどだ。

( ゚∀゚)(なら、やっぱり……ラウンジか……?)

 全てが、個人的な推測だ。
 何の証左もない。

 だが、疑って損はないはずだった。
 ラウンジ国王のクラウン=ジェスターは、聡明で利発な男だ。
 そして、悪知恵も働くと聞く。敵国に、埋伏の毒を送り込んだとしても、何ら不思議はない。

 やがて自分の中で、疑念は姿を明確にしはじめた。
 ショボンを、いや、周りの人間を信じられなくなった。
 古参の将であるモナーさえ、ショボンに大将を譲ったという理由で、信頼できなくなったのだ。

 ひとつを疑いはじめると、全てを疑わなければならなかった。
 側近の兵さえ、ショボンと通じていたら、と思うと怖くなった。
 見えない敵と戦っている気分だった。

 だが、戦おうと思った。
299 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:29:13.02 ID:g7s8sEf90
 もし本当にショボンがラウンジによって送り込まれた人間なら、ヴィップの存亡に関わってくる。
 警戒している人間が一人もいなければ、本当に滅んでしまうかも知れないのだ。
 ハンナバルたちによって創り上げられた、この国が。

 誰にも頼れない苦しみには、耐えられる。
 疑いを絶やすな。それがヴィップのためだ。
 ひたすら自分に言い聞かせた。

 そうやって自分は、ヴィップでの日々を過ごしてきた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(;^ω^)(……ジョルジュ大将……)

 また、軍議室内は静まりかえった。
 誰もがジョルジュを見つめ、そして言葉を発しない。

 ずっと一人で戦っていた。
 国外とだけではなく、国内とも。

 不要な部分もあった。
 疑いすぎた部分もあった。

 それでも、ジョルジュは誰よりもヴィップのために戦っていたのだ。
307 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:30:45.88 ID:g7s8sEf90
( ゚∀゚)「……色んなことを考えた。ときには、実行した。
     オオカミに寝返ってショボンを討とう、と考えたこともあった。
     そのために、レナッド=ロールファーをオオカミに送り込んで、オオカミとのパイプを繋ごうとしたりな」

( ゚д゚)「…………」

( ・∀・)「……レナッドを討ったのは、自分ですね」

( ゚∀゚)「あれは俺のやり方が悪かった。やっぱり、冷静じゃなかったんだ。
     そんな行動は数多くある。誰も信じられなくなって、頼れなくなって、追い詰められてたんだ」

 やはり、疲れたようにジョルジュは目を伏せた。
 本当は体が辛いはずだ。それは分かっている。
 だが、止めることもできない。

( ゚∀゚)「ハンナバル総大将が、教えてくれていた。
     互いに信じあってこその信頼だ、と。
     俺はそれを何も理解できちゃいなかったんだ」

( ゚∀゚)「だから、こんなことになっちまった。
     みんなには申し訳なく思う。俺の取った行動は、最善とは言えなかった。
     そんな俺が、みんなにこう言うのは筋違いかも知れないが――――」

( ゚∀゚)「――――これからは、信じあって戦いたい」

 軍議室の外を、誰かが走る音が聞こえた。
 それほどに、室内は静まっていた。
319 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:32:31.36 ID:g7s8sEf90
 ジョルジュは自分の過去を話してくれた。
 皆、それを知った。

 ならば、もちろん――――

(兵;`T´)「失礼します!!」

 大音声が鳴り響いた。
 勢いよく開かれた扉。慌てて駆け込んできた兵。

 ただごとではない、と誰もが感じたはずだ。

(;^ω^)「どうしたんですお? いったい、何が」

(兵;`T´)「二点、ご報告申し上げます!」

 多さに、肌が痛かった。
 二点。この状況で、慌てて飛び込んできて、二点。
 多すぎる、とさえ思った。できれば、聞きたくないほどに。

 決していい報せではないことくらい、分かっていた。
337 :第81話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/27(火) 00:34:48.37 ID:g7s8sEf90
(兵;`T´)「ラウンジが――――それと、ギコ殿の正室の、しぃ様が――――!!」

 息を切らせていた。
 言葉は、聞き取りづらかった。

 それでも、何があったのかは、辛うじて分かった。















 第81話 終わり

     〜to be continued

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