- 4 :登場人物
◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月)
23:14:00.63 ID:KZkJifhB0
- 〜ヴィップの兵〜
●(`・ー・) ハンナバル=リフォース
41歳 総大将
使用可能アルファベット:R
現在地:ヴィップ城
●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
20歳 大尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヴィップ城
●( ´∀`) モナー=パグリアーロ
30歳 大将
使用可能アルファベット:P
現在地:ヴィップ城
●(,,’」’) セシル=ヒレンブランド
33歳 少将
使用可能アルファベット:J
現在地:エヴァ城
●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
24歳 少尉
使用可能アルファベット:J
現在地:ヴィップ城
- 13 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:15:22.12 ID:KZkJifhB0
- 総大将:ハンナバル
大将:モナー/ディルクレッド
中将:
少将:セシル
大尉:ジョルジュ
中尉:
少尉:ヒッキー
- 17 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE
:2007/11/26(月) 23:16:16.52 ID:KZkJifhB0
- A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:ヒッキー/セシル
K:
L:ジョルジュ
M:
N:
O:
P:モナー
Q:
R:ハンナバル
S:ベル
T:
U:
V:
W:
X:
Y:
Z:
- 21 :この世界の単位 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:17:01.79 ID:KZkJifhB0
- 一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml
(現実で現在使われているものとは異なります)
- 26 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:18:43.15 ID:KZkJifhB0
- 【第80話 : Scissors】
――世界暦・501年――
――ヴィップ城・西塔最上階――
風の強い夜が好きだった。
(`・−・)「なんで『鬼の居ぬ間の洗濯』なんだろうな?」
( ゚∀゚)「はぁ?」
刀身を紙で擦り、汚れを落としていく。
銀の色が鮮やかになり、いっそう輝きを増す。
二人でアルファベットの手入れをしていた。
基本的にアルファベットはあまり刃毀れせず、血の脂で切れ味が落ちることもないが、手入れによって確実に寿命は伸びる。
α成分という特質な要素はあるものの、武器であることに変わりはないからだ。
α成分の消耗を上手く軽減してやるのも、アルファベット使いにとっては大事なことだった。
(`・−・)「いやだって、洗濯よりもっと他にやるべきことがあるんじゃないか?
まぁ水に触れるのはいいことだけどよ」
(;゚∀゚)「どんだけ水好きなんだよ、ハンナバル。
あの洗濯は『命の洗濯』、つまりリフレッシュ的な意味があるって聞いたけどな」
(`・ー・)「なーるほどなー。回りくどい言い回しだなー」
- 27 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:19:47.74 ID:KZkJifhB0
- 少し考えれば分かりそうなものだが、ハンナバルにとっては意外な答えだったようだ。
手を叩いて納得している。
共に過ごすようになって、一年半以上。
ハンナバルは相変わらずだった。
普段の振る舞いから総大将らしさは全く感じられない。
まだハンナバルと共に戦ったことはない。
近いうちにラウンジ戦を見据えてはいるが、力を蓄えきれていないのだ。
できるだけ早いうちにハンナバルの力を側で感じたい、と思っているが、果たしていつになるだろうか。
(`・ー・)「やっぱ水はうめーなぁ」
水で満たされた杯を呷るハンナバル。
側に置かれた瓶から再び杯に水を注ぎ、もう一度呷った。
( ゚∀゚)「飲みすぎだろ。腹壊すぞ」
(`・ー・)「つってもなぁ、うめーもんはしゃーない」
( ゚∀゚)「冬真っ盛りだっていうのに、よくそんなに飲めるよな」
(`・ー・)「なーんか最近、よく喉が渇くんだよな。体が水を欲してるっていうか」
アルファベットRの刃が、一瞬怪しい光を放ったように見えた。
気のせいかも知れない、と思う程度のものだった。
外の闇を駆け回るは強風。
音を衝撃を窓に生じさせている。
不穏さを醸し出すほどに。
- 31 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:21:06.41 ID:KZkJifhB0
- ( ゚∀゚)「…………」
(`・ー・)「なんだよ、じーっと見て」
( ゚∀゚)「……何でもねぇ。社会の窓開いてんぞ」
(;`・ー・)「マジかよ! こっそり閉めといてくれよ!」
(;゚∀゚)「何でだよ!」
暖炉に火が入れられている。
西塔の最上階。大きすぎるほどに大きな部屋だが、ハンナバルは一部しか使用していない。
大将ともなればいくらでも女を囲えるが、ハンナバルは正室以外を欲してはいないようだった。
それでも西塔の最上階には活気があるように感じた。
恐らく、ハンナバル自身の活気が大きいのだ。
それが失われることなど、想像もできなかった。
――501年・秋――
――ローゼン城――
外観は美しいが、内部の機能性が高いとは言えない城だった。
防衛には向かないだろう。ラウンジが攻め寄せてきた場合は、苦しいことになりそうだ。
だからこそ、ラウンジのハルヒ城を奪うべきなのだった。
- 38 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:22:59.36 ID:KZkJifhB0
- (`・ー・)「さーて、ハルヒ城攻略戦についてだが」
オオカミとの戦から、二年以上経過した。
久々とも思える戦だった。
ヴィップに来てからも、もう二年以上ということになる。
時間を冷静に考えると、長い。が、一瞬だったような気さえする。
この二年間の出来事はありありと思い出せる。そのほとんどに、ハンナバルは登場した。
(`・ー・)「ラウンジは昨年、オオカミに敗れてアリア城を失ったばかりだが……」
( ´∀`)「それほど士気の低下があるようには思えませんね。
力は衰えていますが、微々たるものです。元々が巨大すぎますから」
(`・ー・)「だよなー。敗戦の影響はなし、か。ベルも相変わらず、手強いんだろうなー」
困っているように思える言葉。
だが、そう思えない表情。
ベルが万全の状態で迎え撃ってくる。
それが分かり、嬉しいのだろう。ハンナバルとは、そういう男だ。
軍議室に集まった将校たちも、そんなハンナバルを見て朗らかに笑っていた。
(`・ー・)「ハルヒ城を攻略するにあたっての難関は、属城だ。
キョン城、ミクル城、ナガト城。この三つに攻撃を防がれる」
(メ`D´)「難しそうですなぁ」
- 41 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:24:37.77 ID:KZkJifhB0
- ディルクレッド=フィールダーが低く言った。
モナーと並び立つ大将だが、ハンナバルやモナーには遠く及ばない。
ただ、猛攻を仕掛けろと命令されたときは絶大な力を発揮するという。
(メ`D´)「ヒグラシ城が近いせいでしょうなぁ。これだけ属城があるというのは」
( ´∀`)「そういうことでしょうね。
恐らく、はるか昔にヒグラシ城とハルヒ城の間で激戦が繰り広げられたのでしょう」
(メ`D´)「いかが致しますか、総大将。まずは属城を一つずつ潰していくべき、と思いますが」
ディルクレッドの頬にある特徴的な傷跡が、言葉に合わせて上下している。
まるで生きているもののように見えた。
(`・ー・)「そーだなー。それが無難だろうなー」
( ´∀`)「でも、総大将が好きではない戦ですね」
常に笑みを浮かべているように見えるモナー。
しかし、今ははっきりと笑っていることが分かった。
どことなく、楽しそうだ。
(;`・ー・)「べ、別に好き嫌いで戦略や戦術を決めるわけじゃねーぞ」
( ´∀`)「そうだったのですか。意外です」
(;`・ー・)「おいおい」
- 44 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:25:37.55 ID:KZkJifhB0
- ( ´∀`)「冗談ですよ、総大将。
しかし、嗜好に合う戦でなければ本領を発揮できない人ですからね。
こちらとしては、なるべく総大将の好きなように戦をやっていただきたいのです」
率直な、それでいて上手い言い方だった。
下手に遠まわしに言うと、ハンナバルには逆効果だ。ストレートに言ったほうがいい。
さすがに、モナーはよく分かっていた。
(;`・−・)「って言われてもなぁ……うーん。
まぁ、ちまちま一つずつ落としていくよりは、一気にハルヒ城を狙いたいところだが」
( ´∀`)「ではそうしましょう」
(;`・ー・)「おいおい、軽いな」
( ´∀`)「もちろん、最終的な決定権は総大将にありますが」
(`・−・)「そーかー……じゃあ、そうするか」
軽いのはお前のほうだ、と言ってしまいそうになったが、堪えた。
それよりも他に、言わなければならないことがある。
( ゚∀゚)「何か策がおありのようですが、モナー大将」
( ´∀`)「?」
( ゚∀゚)「何も策がないなら、一気にハルヒ城を狙うなどという作戦を薦めたりはしないでしょう。
つまりあなた自身も、ハルヒ城を真っ先に落としたいと思っている。
それは策があるからに他ならないはずです」
- 48 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:26:34.82 ID:KZkJifhB0
- (;´∀`)「……いやはや、何もかもお見通しですか。さすがです」
(`・ー・)「策があんのか。言ってみてくれ、モナー」
( ´∀`)「とは言いましても、これといった謀略があるわけではありません。
ただ、ラウンジはどうやら属城の間でヴィップを食い止めるつもりのようです。
つまり守りの意識は属城に集中している。ハルヒ城を狙うに適した条件、ということです」
( ゚∀゚)「……いや、まだ何か仰りたいことがありそうに見えますが」
(;´∀`)「……うーん、隠し事を察知するのはお上手ですね、ジョルジュ大尉」
隠しておくつもりだったのだろう、と思った。
策には、知らせたほうがいいものと、知らせないほうがいいものがある。
モナーは基本的に、いかなる策でも隠したがる。情報の漏洩を恐れているようだ。
ただ、ハンナバル=リフォースという男は、隠し事を嫌う。
モナーの表情を見るに、あまり綺麗とは言えない策だ。ならば、尚更。
この場で皆に伝えさせたほうがいいだろう。
( ´∀`)「実は、ハルヒ城で門番をやっている兵たちと密かに話をつけてあります」
( ゚∀゚)「ッ……」
(`・−・)「ほほー」
( ´∀`)「内部には数千の兵が残っているでしょう。しかし、門は開きます」
先に聞いておいて、良かった。
- 52 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:27:47.78 ID:KZkJifhB0
- 後からではきっと、ハンナバルの中に蟠りが残る。
だが、先に聞いておけば――――
(`・ー・)「さすがだな、モナー」
勝利が近づいた。それを、ハンナバルは純粋に喜んでいる。
生粋の武人であり、軍人でもある。勝利を手繰り寄せたことが、嬉しくないはずはなかった。
( ´∀`)「ただ、属城間を固めているラウンジ軍に関しては、私は何も策を仕掛けていません」
(`・ー・)「まぁ、それは俺が打ち破ればいいだろ」
呻きのような声が、漏れかけた。
あっさり言ってのけた。属城間を、抜くと。
ラウンジが防備を固めた、属城間を。
自信がある、という風ではない。
ごく当然のことのように、言ったのだ。
それなら、手並みを見せてもらおうか。
そんな気分になった。
( ´∀`)「ジョルジュ大尉」
軍議が終わったあと、モナーに呼び止められた。
ハンナバルは既に立ち去っている。軍議中に何度も腹を鳴らしていたから、きっと食堂だろう。
( ´∀`)「どう思われますか?」
- 55 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:28:56.80 ID:KZkJifhB0
- ( ゚∀゚)「何について?」
( ´∀`)「此度の、策です。お考えを」
( ゚∀゚)「非常に効果的かと」
( ´∀`)「そうではなく、ハンナバル総大将が策についてどう思っておられるか、ですよ」
素っ頓狂な声を出しそうになった。
何故、そんなことを聞くのか。しかも、自分に。
ハンナバルに直接聞けばいいだけの話なのに、だ。
( ゚∀゚)「同じ言葉を繰り返しますが、非常に効果的と思っているはずです」
( ´∀`)「そうですか、それなら良いのです」
( ゚∀゚)「何故、自分に?」
本人に直接聞くべきでは、という言葉は封じ込めた。
何となく、礼を失している気がした。
そういう自分の考え方に一瞬、驚きを隠せなかった。
オオカミ時代なら、絶対に考えなかったことだ。
( ´∀`)「何となく、本人には聞きづらかったのですよ。だから、ジョルジュ大尉に」
( ゚∀゚)「ですから、何故自分に?」
( ´∀`)「ハンナバル総大将のことを、他の誰よりも分かっておいででしょうから」
- 57 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:29:58.00 ID:KZkJifhB0
- 否定、しようと思った。
そんなことはない、と。
だが、自分の言葉を遮るようにモナーは背を向けた。
( ゚∀゚)「…………」
やり場のない思いを自分の中に閉じ込め、歩き出した。
そして、考え出した。
ハルヒ城攻略戦について。
ベル=リミナリーとぶつかる。
稀代の英傑、古今東西に並ぶ者なし。
あらゆる呼称が全て相応しい男だ。
全土で唯一、アルファベットSにまで到達している。
指揮能力も抜群。一人で五万も十万も操る。
相当に厳しい戦になることは間違いなかった。
だからこそ、ハンナバルがどう戦うのかが、楽しみなのだった。
――ナガト城付近(ナガト城まで二十里地点)――
ベルの敷いてきた陣は、予想に反していた。
が、完璧だった。
(`・ー・)「さすがに上手いよなぁ、アイツは」
- 60 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:31:31.57 ID:KZkJifhB0
- 馬に跨りながら、ハンナバルは遠くを見ていた。
その隣でハンナバルと同じく、城を見据える。
( ゚∀゚)(……兵力を分散させてきたか……)
属城は全部で三つ。キョン城、ナガト城、ミクル城。
キョン城とナガト城の間に、四万。ナガト城とミクル城の間に、二万。
総勢六万だが、ラウンジはあえて兵力を均等にしてこなかった。
それが、見事な惑わしになっている。
(`・ー・)「問題は、どっちにベルがいるのか、だ」
( ゚∀゚)「どっちにもいるぜ、ベルは」
(`・ー・)「分かってるさ。だから上手いって言っただろ?」
双方の総指揮を、ベルが取っている。
何とも笑える状況だ。
ベルが、二人いるのだ。
( ゚∀゚)「騙りのファットマン、使い方次第じゃ誰よりも手強いな」
(`・ー・)「ラッキーだよなぁ、ラウンジは。あんだけベルに似た男が存在してるんだから」
双子同然だ、という。
それほどに二人は似ている。
見慣れた者でも騙されるらしい。
- 61 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:32:55.80 ID:KZkJifhB0
- 最近入軍したばかりでまだ戦功は小さいが、いずれは将校に上がるだろう。
経験を積まれると、本当のベルに近い機能を持ちかねない。早めに潰しておきたかった。
(`・ー・)「セオリーで考えると、二万のほうだろうな」
( ゚∀゚)「ベル一人で、不足分を補えるからな」
(`・ー・)「そうだ。だから兵力を不均等にした、とも考えられる」
( ゚∀゚)「でも、こっちにそう思わせる作戦かも知れねぇ」
(`・ー・)「読めねぇなぁ」
二人で唸った。
ベルは属城間でヴィップを止めようとしている。だから、どちらが抜かれても困るのだ。
そう考えると当然、兵力が少ないほうに本物のベルがいるはずだ。
だが、高を括って攻め込むと、痛手を負いかねない。
ヴィップの総兵数は五万。ラウンジにそう劣ってはいない。
これを均等に分けて攻め込んだときが、怖いのだった。
もし四万のほうにベルがいたら、そちらを攻め込んだ部隊は壊滅しかねないからだ。
(`・ー・)「考えても、答えは出ないな」
( ゚∀゚)「……そうだな」
(`・ー・)「俺の勘に、賭けてみるか?」
( ゚∀゚)「総大将はお前だろ。お前が決めろよ」
- 65 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:34:12.80 ID:KZkJifhB0
- (`・ー・)「うっしゃ。じゃあ、発表しよう。
俺の勘では、ベルは――――」
秋風に芒を揺らされた草原は、まるで燃えているかのような赤みを帯びていた。
――二刻後――
こちらも、隊を二つに分けた。
ラウンジとは違い同数。片方をモナーとディルクレッドが率い、片方をハンナバルが率いる。
属城間へと向かって駆けていた。
既に、戦は始まっている状態だった。
立ちふさがる敵数、およそ四万。
ハンナバルは、四万のほうへ攻め込むことを決めた。
( ゚∀゚)「ヴァリー=ポンズが陣頭にいるらしい」
(`・ー・)「悪くない相手だ」
ハンナバルが馬の腹を腿で締め上げていた。
加速する。二十里の距離は、ないも同然だった。
気勢だけは、既にぶつかっている。
軍勢は激しさを増して駆けゆく。
統率された動き。それでいて、覇気がある。
並大抵の指揮官では、こうはならない。
(`・ー・)「みんな! 力を示そうぜ!」
- 68 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:35:36.24 ID:KZkJifhB0
- ハンナバルが天高く掲げたアルファベットは、R。
まるでそこにもう一つ太陽があるかのような、輝き。
士気が、格段に上がった。
(#`・ー・)「うおおおおぉぉぉぉッ!!」
ラウンジの先鋒と、衝突した。
広く横に構えた陣。厚みもさほどない。
隙をなくそうというつもりだろうが、逆効果だ。容易く打ち破れる。
_
( ゚∀゚)「うらぁ!」
アルファベットLを左右に振り回した。
立ちふさがる敵兵の首を飛ばしていく。二つ、三つ。
六つ、九つ。そこから先は、数えるのが面倒になった。
随分と愚劣な陣を敷いてきたものだ。ただ横に構えるだけとは。
ラウンジのヴァリーも守りの下手な武将ではないはずだが、この陣では堪えきれないだろう。
ハンナバルの猛攻は、止まらない。
陣全体が、恐ろしいほどにまとまっている。
ハンナバルを中心として。
これほど統率の取れた軍は見たことがなかった。
調練で知っているつもりだった。
ヴィップ軍の錬度が高い、ということは。
しかし、実際戦になってみると、調練での動きなど比ではなかった。
やがて、ヴァリー率いる第一陣を突破した。
- 73 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:37:15.72 ID:KZkJifhB0
- ( ゚∀゚)「ッ……!」
(`・−・)「っと……これは、どうやら」
第一陣の兵は、およそ一万。
二万五千で攻め込んだ。打ち破れて、当然だった。
問題は、後方にある。それは最初から分かっていた。
(`・ー・)「"当たり"だぜ、ジョルジュ」
三万の兵が、待ち構えていた。
そしてその陣の堅牢さに、思わず怯んだ。
隙が全く見えない。
堅陣。完全に守りの形。
破る術が、思い浮かばない。
敵が臨戦体勢になったからこそ、分かった。
こちらに、本物のベルがいる。
(;゚∀゚)(マズイな……)
冷静に考えれば、そうだ。
ヴァリーが一万を前に出してきたのは、この堅陣を隠すためだ。
強固な守りを、ヴィップの斥候に見せないためだ。
その役目を果たしたヴァリーは、恐らくあえて自分の陣を破らせた。
突破したあと陣を立て直せば、ヴィップを挟撃できる。
そして実際に、そうなってしまっている。
- 75 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:38:47.74 ID:KZkJifhB0
- オオカミのときは、ベルと戦う機会がなかった。
これが初の戦。稀代の英傑、ベル=リミナリーとの。
だから、思う。
これが、ベルの実力か、と。
全く無駄がない。隙もない。
確実に勝ちを掴むという、戦では最も肝要で、最も難しいことを、容易くやってのけている。
やられた、という言葉しか浮かんでこなかった。
(`・ー・)「ジョルジュ」
ハンナバルが馬を並べてきた。
速度は落ちていない。全力で、駆けている。
緩みも全くない、ベルの陣へ向かって。
(`・ー・)「なんか暗い顔してるが、どーしたんだ?
戦は先に『やられた』って思ったほうが負けるぞ」
見透かしたようなことを、言われた。
しかし実際、そうだ。ベルに上回られている。
やられた、と思わないほうがおかしい。
( ゚∀゚)「強がりで戦に勝てるほど、甘くはねーさ」
(`・ー・)「強がりなんかじゃねぇよ。
あいつが守りの陣を敷いてくることくらい、最初から分かってたさ」
( ゚∀゚)「ッ……」
- 81 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:40:19.76 ID:KZkJifhB0
- 何故なんだ、と問いたくなるほど、余裕に満ち溢れた表情。
本当か。本当に、全てを予測済みだったのか。
もしそうなら、この男は――――
( ゚∀゚)(……そうか、堅陣を前にしてもこの勢いを保っているのは……)
中途半端な速度で当たると、危険だからだ。
敵陣を破り、勢いに乗っている。ラウンジの堅陣を気圧すほどに。
確かにこの勢いなら、あの堅陣も崩せるかも知れない。
その瞬間、鉦が鳴った。
これはヴィップ側の鉦。ハンナバルからの、命令だ。
( ゚∀゚)(……この鉦は……!)
意外な作戦を取ってきた。
恐らく、今さっき決めたことだろう。事前には何も聞いていなかった。
果断な行動だ。
隊を二手に分ける。
そして、鋏のように敵陣を切り裂く。
ハンナバルが得意とする攻め方だ。
しかし、普段は寡兵が相手のとき、と見定めて調練していた。
多勢を相手に、この戦法を取ってくるとは思わなかった。
鉦が鳴ってすぐそれに対応するヴィップ軍。
ラウンジの動揺が、こちらにまで伝わってくる。
尋常ならざる迅速な動き。この部分に関しては、ハンナバルは完全にベルを上回っている。
- 83 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:41:50.09 ID:KZkJifhB0
- 自然と、高揚していた。
_
(#゚∀゚)「ハァッ!!」
敵陣に、斬り込んだ。
勢いを衰えさせることなく。
立ちふさがってくるG兵を、容赦なく弾き倒した。
血飛沫と共に、首が飛び散る。
敵の攻撃をいなしながら、首を刎ねていった。
無数にも見える人の波が、揺らめいている。漣のように。
そして徐々に、大きなものへと変わっていく。
左の刃を、ハンナバルが指揮している。
そして、右の刃を自分が操っている。
二つの刃が距離を縮め、接しそうなほどに迫る。
そこで一気に離れ、敵陣を斜めに切り裂く。
再び寄り、また離れ、再度寄る。
俊敏な動き。ラウンジは、完全に後手に回っている。
隙など寸分もないと思った堅陣が、隙だらけだ。
(`・ー・)「いるぞ!」
ハンナバルの大声が響いた。
何が、かは聞かなくても分かった。
(`∠´)「無謀な攻めだな、ハンナバル」
- 89 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:43:49.18 ID:KZkJifhB0
- ラウンジ軍大将、ベル=リミナリー。
鋭い眼光は、並みの者なら竦みあがるほどだ。
肌にひりつくような痛覚がある。
堅陣の中核へと攻め込む。
そこで一気に、自軍の勢いが落ちた。
堅い。統率された力が、ひとつにまとまっている。
怯むのも当然だった。
しかし、その当然をものともしない男もいた。
(#`・ー・)「おらぁぁぁぁ!!」
果敢にアルファベットを振るっている。
守勢に対する、攻勢。何が最も適当なのかを、ハンナバルは本能で知っているのだ。
無論、ベルが大人しくしているはずもなかった。
陣が更に小さく固まる。ヴィップの攻撃を、寸分も通さないという構え。
そこを力押しで破ろうとするハンナバル。
純粋なる、力と力の衝突だった。
_
( ゚∀゚)「負けてられねぇな!」
自陣に発破をかけた。
ベル率いる中核を叩く。揉み潰すようにして。
ここを崩してしまえば、ハルヒ城まで一気に突っ切るのも容易い。
- 95 :第80話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/26(月) 23:46:08.49 ID:KZkJifhB0
- 矛のように攻め込むヴィップ軍。
盾のように守り抜くラウンジ軍。
その二つの勝負の、帰結は――――
第80話 終わり
〜to be continued
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