301 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:11:46.85 ID:y1qIQMtk0
【第79話 : Wild】


――世界暦・499年(28年前)――

――エヴァ城――

 奪うべく狙っていた城に、降将として入ることになるとは思わなかった。

 内部の木造建築が美しい城と聞いていたが、実際見てみても何も感じなかった。
 燃えやすそうだな、と思っただけだ。

 この城をオオカミの将として奪うことがあったら、取り壊すことも考えたほうが良さそうだ、と思った。

(`・ー・)「んー……さて」

 アルファベットは持たされていないが、縄を打たれているわけでもない。
 その気になれば、逃げ出せそうな気もした。

 その気になれば、後ろから殴り殺せそうな気もした。

( ゚∀゚)(……直に見たのは、これが初めてだが……)

 自分の前を歩く、ハンナバル=リフォース。
 ヴィップ国軍の総大将。

 人のことは言えないが、体格はさほど大きくなく、覇気もない。
 常に笑みを浮かべているように見えて、間が抜けていた。
 こんな男が総大将で、よく国がまとまっているものだ、と感じたくらいだ。
307 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:12:59.01 ID:y1qIQMtk0
 いつでも、殺せる。
 半ば確信に近い思いさえ、あった。

(`・ー・)「みんなは、なんて言うかな」

 これから、軍議室に連れていかれるらしい。
 自分の処遇を決断するようだ。

(`・ー・)「どう思う? ジョルジュ」

( ゚∀゚)「は? 知らねぇよ」

(`・ー・)「ナーマイキな口を利くなよ。まだ二十歳にもなってないガキだろ?
     俺はもう三十九だぞ。ちょっと悲しい年齢になってきたけどな」

( ゚∀゚)「戦じゃ年齢なんか関係ねーだろ」

(`・ー・)「はは、まぁ確かにそうだな」

 屈託のない笑み。
 それが余計に、自分を苛立たせる。

 能天気な男だった。
 まさか、自分の降伏を本意だとでも思っているのだろうか。

 マリミテ城防衛戦で、伏兵としてヴィップ軍を待っていた。
 情報は統制されていた。上手くいくはずだった。
 しかし、ヴィップには見破られていた。
315 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:14:16.30 ID:y1qIQMtk0
 いったん逃げ出したあと野戦でモナーと戦ったが、体勢が悪すぎた。
 大して抗えず、アルファベットLを操る男を討ち取ったくらいしか戦功はなかった。

 結果、惨敗して囲まれたが、こんなところで死にたくはなかった。
 降伏という決断は、すぐに浮かんだ。死は免れるだろうと思ったからだ。
 しばらくヴィップに留まって、いずれ裏切ってやるのも面白い、と思った。

 しかし、今はできるだけ早く逃げ出したい気持ちだった。
 総大将が、思ったよりも鬱陶しい。馴れ馴れしくて、不快だ。
 オオカミのためでも、ここで戦うことには耐えられそうになかった。

 こんな男が統べているのに、何故ヴィップが手強いのか、不思議でならなかった。
 分かりたくもない、という気分だった。

 しかし、その強さを消しておく必要はありそうだ。
 見るからに隙だらけの男。どうやったって、殺せる。
 あとは、時期の問題だろう。

(`・ー・)「ここだぜ。ほら、入れ」

 背中をぐいと押された。
 その手を、乱暴に跳ね除ける。

 温かみが、不快だった。
321 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:15:18.12 ID:y1qIQMtk0
――軍議室内――

(`・ー・)「えーっと、まぁ今回話したいのはジョルジュ=ラダビノードの処遇についてなんだが……」

 軍議室の中には、将校のみが集まっていた。
 見覚えのある顔ぶれもある。
 いつも、討ち取ってやろうと思っていた面々だ。

 いずれ、討ち取ってやろう、と今は思う。

(`・ー・)「みんなの表情見る限り……まぁ、半々か?
     オオカミとの取引に使うべきってやつもいるみてーだな」

(,,’」’)「私はそうすべきだと思います。
     上手くやれば膠着しつつあるオオカミ戦の局面を打破できるのではないかと」

 セシル=ヒレンブランド大尉だった。
 名は知っていたが、見たのは初めてだ。
 しかし、一目で分かった。異色とも言える、隻腕の将。

 決して若くもないのに、片腕を失ってなお、戦場に立ち続けている。
 自分なら、どうだろうか。戦場に立つ気力が沸くだろうか。
 何気なく、そんなことを考えた。

(`・ー・)「でもな、ぶっちゃけて言うと俺はこいつを将校として使うことしか考えてねーんだ」

 軍議室内が一瞬、ざわめいた。
 が、すぐに収まった。
331 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:16:38.49 ID:y1qIQMtk0
 どうやら、こんなことは日常茶飯事らしい。
 突拍子もない意見。それを、明朗に語る。
 まただよ、と言いながら笑っている将校さえいた。

 しかしそれは、どことなく、明るい笑みに見えた。

(`・ー・)「モナー、どう思う?」

( ´∀`)「ハンナバル総大将がそう仰るなら、それが正しいのだと思います」

(;`・ー・)「まーたそれかよ。主体性ってもんはねーのかよ」

( ´∀`)「いえいえ、ありますよ。あなたの意見に従うことが、私の主体性です」

(;`・ー・)「おいおい……」

 しかし、反論は誰からも出なかった。
 取引に使うべき、と言っていたセシルさえ、笑みを浮かべて賛成している。

 慕われているのだ、と分かった。
 同時に、何故だという気持ちが沸いた。

 こんな男に慕う気持ちが、起きるはずがない。
 そう感じた。なのに、驚くほど配下の兵に慕われているのだ。
 疑問符を付けざるをえない事柄だった。

(`・ー・)「もう一人くらい意見を述べてもらいたいところだが……
     んー、じゃあヒッキー。私見を頼む」
337 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:18:12.09 ID:y1qIQMtk0
 ハンナバルから一番遠いところで、陰気な空気を出している男がいた。
 見覚えはないが、名前は知っている。ヒッキー=ヘンダーソンという少尉だ。
 本当に軍人なのかと思えるほど、覇気のない男だった。

(-_-)「……有能な人材は、不可欠かと……」

(;`・ー・)「相変わらず短いな。まぁ、いつも通り的確だが」

 確かに、意見に無駄がない。
 頭は良さそうな男だ。しかし、いかにも消極的すぎる。
 あれでは少尉から昇格しそうもない、と思った。

(`・ー・)「んじゃー、ジョルジュ=ラダビノードは今日から将校だ。
     オオカミじゃ大尉だったみたいだけど、ここじゃ少尉からスタートだな。
     よろしく頼むぜ、ジョルジュ少尉!」

( ゚∀゚)「…………」

 それも道だ、と思っていた。
 しばらくヴィップに仕え、然るのちに裏切って打撃を与える。
 あるいはそれこそが、最もオオカミのためになることかも知れない。

 が、気は進まなかった。
 ハンナバルの許で戦うことに対し、自分の気持ちがはっきりと拒絶している。
 肯んじられないでいる。

 しかし、どうしようもないことだった。

( ゚∀゚)「……よろしく頼む」
343 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:19:22.93 ID:y1qIQMtk0
 そう言うより他なかった。
 そして、自分に沸いた感情は、ハンナバルへの憎しみだった。


――世界暦・500年――

 新しい年になっても情勢は動かなかった。
 ヴィップはマリミテ城をいったん諦め、エヴァ城で休息を取っている。
 オオカミも軍を休ませることに専念しているようだ。

 その間、調練に追われていたが、全く熱は入れていなかった。
 いずれ敵対する部隊を、鍛えるわけにはいかないからだ。
 誰にも気付かれない程度に手を抜いて、見かけ上は厳しくやった。

 エヴァ城ではほぼずっと、ハンナバルと一緒だった。
 何度拒んでも、ハンナバルは離れない。一緒にいようとする。
 腹立たしいことこの上なかった。

( ゚∀゚)「飯くらい一人で食える」

(`・ー・)「んなこと言うなって。二人で食ったほうが旨いだろ?」

( ゚∀゚)「一回も思ったことねーよ、そんなこと」

(`・ー・)「一匹狼ってやつか、元オオカミの将なだけに」

( ゚∀゚)「つまんねぇ」

(;`・ー・)「……自信あったんだけどなぁ」
353 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:20:49.61 ID:y1qIQMtk0
 調練を終えたあとの飯のときまで、これだ。
 気の休まるときがなかった。

 誰かと一緒にいるなど、疲れるだけだ。
 そう確信している自分のことを、ハンナバルは理解しようともしない。
 ただ自分のやりたいようにやっているだけだ。

 身勝手な総大将。
 それが、自分の認識だった。

 いつ殺してやろうか、とずっと考えていた。
 殺すのは無理なくできる。アルファベットで後ろから襲えばいい。
 あとは逃げ道さえ確保しておけばいい。

 そう思っていたが、認識が甘かった。
 感覚を研ぎ澄ましてみると、ハンナバルにはまったく隙が見えない。
 操るアルファベットはQ。自分より、はるかに上。

 しかし、原因はそんなことではない。
 やはり隙がないのだ。恐ろしいほどに。
 いつも側にハンナバルはいる。だからこそ、感じるのだ。

 それと関係があるのかないのか、はっきりとは分からない。
 分からないが、討ってやろうという気持ちが、姿を曖昧にしつつあった。

(`・−・)「お前さ、家族いなかったんだろ?」

 パンを齧る口が、止まった。
 その自分の前で、ハンナバルは変わらずに咀嚼を繰り返している。
361 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:22:05.29 ID:y1qIQMtk0
(`・−・)「お前のこと、少しは調べたさ。父親を戦で、母親を病で亡くしてるな。
     ま、別に珍しいこっちゃないが……それから入軍するまでの間、孤児院にも入ってなかったんだろ?」

( ゚∀゚)「山で小屋建てて暮らすほうが楽だと思ったからな」

(`・ー・)「なるほど、身丈に合わぬ驚異的な身体能力は、そんとき会得したってわけか」

 石斧や木の槍で獣を狩った。
 すばしっこい魚も、捨てられていた農耕用の鍬を改造して銛にし、一撃でしとめた。
 そうしなければ、生きてゆけなかったからだ。

 そのおかげか、オオカミ軍に入軍してからのアルファベット上達速度は、常人の比ではなかった。
 他の者が散々苦労していたJの壁も、Iになってからわずか半年で越えることができたのだ。
 自分に追従してくるのは、同期であるミルナ=クォッチくらいのものだった。

(`・ー・)「でも、お前はずっと孤独な生活を強いられてきたってわけだよな。
     だったら普通、寂しさとか」

( ゚∀゚)「ねぇよ、そんなもん」

 偽りなき、本心だった。
 孤独であることの、気楽さ。それを自分は知っている。
 馴れ合いで生きてきたハンナバルにはきっと、分からないだろう。

(`・−・)「そうは見えねーんだけどなぁ」

 喉を鳴らしたハンナバルが、今度は果物に手をつける。
 赤い小さな果実だった。
369 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:23:31.23 ID:y1qIQMtk0
( ゚∀゚)「分かりもしねーのに知った風な口を利くなよ、ハンナバル」

(`・−・)「あー、お前また呼び捨てにしたな?
     『ハンナバル』じゃなくて、『ハンナバル総大将』だろ?
     それに、ちゃんと敬語も使えよ。野生児じゃねーんだから」

( ゚∀゚)「……めんどくせぇ」

(`・−・)「めんどくさいです、だ」

(;゚∀゚)「めんどくさいってこと自体はいいのかよ」

 やはり、おかしなやつだ。
 こいつが兵から慕われているという事実は、理解できそうもない。

 ヴィップには、馴染めそうもない。

( ゚∀゚)「お前に敬語を使う気にはなれねーし……総大将、なんて寒気がする」

(`・ー・)「礼儀がなってねーやつだなー、お前は。
     よし、決めた。これから『アカサタナ作戦』を発動する!」
  _
( ゚∀゚)「…………」

 またわけの分からないことを言い出した、と思った。
 軍議でも、いつもそうだ。突然、理解しがたいことを言い始める。
 そして大抵それが受け入れられ、通ってしまうのだ。

 自分が将校になったときも、既存の将校たちはすぐに納得していた。
 不意なハンナバルの提案にも、完全に慣れてしまっているようだった。
379 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:24:56.37 ID:y1qIQMtk0
( ゚∀゚)「なんだよ、その気味の悪い作戦は……」

(`・ー・)「これはな、俺が昔アカサタナ=ハマヤラワという兵に施した作戦でな。
     平たく言えば一緒に遊ぼうって作戦だ!」

(;゚∀゚)「はぁ?」

(`・ー・)「よし、まずは明日の夜だな。釣りに行くぞ、釣り」

(;゚∀゚)「行くわけねーだろ! 誰がお前なんかと……!」

(`・ー・)「残念だがこれは上官命令だ。何ならアラマキ皇帝に詔勅を出してもらおうか」

(;゚∀゚)「お前、こんな下らないことに詔勅を」

(`・ー・)「ま、とにかくお前は従うしかないってことだ。んじゃ、また明日な」

 席を立ってすぐにその場を離れるハンナバル。
 引き止めて断ろうと思ったが、歩く速度が早すぎた。
 周りの兵は道を空けるため、尚更だった。

 その周りの兵からは、冷たい視線が注がれた。
 当然だ。裏切りの将である上に、碌々ハンナバルの言うこともきかない。
 オオカミのためを思うなら、むしろハンナバルに取り入ったほうがいいのだが、どうしてもそんな気になれなかった。

 兵からの視線など、気にならなかった。
 勝手にすればいい。どうせ、この国にずっといるわけではない。
 全て無視して食堂を後にした。

 しかしやはり、次の日のことは、無視できなかった。
387 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:26:17.36 ID:y1qIQMtk0
(`・ー・)「ちゃんと二人分の釣竿を用意してあるぜ!」

( ゚∀゚)「…………」

 一日の調練を終えたあと、すぐにハンナバルは自分の許へ駆け寄ってきた。
 どうやら、このまま夕食を取らずに釣りへ出かけるつもりらしい。
 既に馬まで用意されている。避けようがなかった。

( ゚∀゚)「飯はどーすんだよ」

(`・ー・)「釣って食うに決まってんだろ」

( ゚∀゚)「なんだそりゃ……不確実だな」

(`・ー・)「お前だって昔は魚獲って食ってたんだろ? だったら慣れっこだよな」

( ゚∀゚)「釣りは嫌いだ」

(`・ー・)「なんでもいいから行くぞ!」

 やはり、強引だった。
 常に笑みを絶やさず、ぐいぐいと腕を引っ張ってくる。
 そんな男だ。実に、馴れ馴れしかった。

 それに既に慣れつつある自分が、たまらなく嫌だった。
 しかし、拭うこともできなかった。

 エヴァ城近郊の森に流れる小川まで、馬を駆けさせれば一刻程度だった。
 ハンナバルは、馬の扱いが見事だ。馬と一体化しているようにさえ思える。
 自分の手足のように、自由自在に操るのだ。
401 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:27:39.87 ID:y1qIQMtk0
 馬がこれほど気持ち良さそうに走っているのを、今まで見たことがなかった。
 この騎乗の技術だけは、認めてやってもいいと思っていた。

(`・ー・)「んー、魚いるか? ぼちぼちか?」

 小川に着いてすぐハンナバルは釣り糸を垂らし始めた。
 餌は籠の中に入れてきたらしい。自分もひとつ取って、釣り糸を垂らす。
 釣りは嫌いだと言ったが、本心ではなかった。昔はよく魚を取るために釣りをやっていたのだ。

(`・ー・)「どっちが多く釣れるか勝負だからな!」

( ゚∀゚)「やだよ、めんどくせぇ」

(`・ー・)「よーいドン!」

(;゚∀゚)「話を聞けよ!!」

 どこまでいっても、自分勝手だ。
 もはや呆れることさえ忘れていた。

 竿を振って針先を水中に沈める。
 魚がかかるのを、ただじっと待った。
 久々の釣りだ。悪くない気分だった。

( ゚∀゚)「なぁ、おい」

(`・ー・)「ん?」
410 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:29:08.23 ID:y1qIQMtk0
 ハンナバルが釣り糸を引き戻した。
 針に餌がない。魚に喰われたか、水に流されたようだ。
 再び針先に餌をつけて、緩やかな流れの川に糸を投じる。

( ゚∀゚)「さっきのアカサタナってやつは、いったいどんな兵だったんだ?」

(`・ー・)「あぁ、アカサタナか。大変なやつだったな。
     血の気が多くて腕っ節が強くて、郷里じゃアカサタナに敵う者はいなかったらしい。
     んで、お前みたいに随分不遜な態度を取ってきたんだ」

( ゚∀゚)「…………」

(`・ー・)「お前みたいな男が総大将なんて納得できるか! 俺が総大将になってやる! なんて言ってなぁ。
     俺と勝負しろ、ハンナバル! って言ってきたんだ。まったく、若いとは言え無謀が過ぎる」

( ゚∀゚)「んで、どーなったんだ?」

(`・ー・)「んなもん、俺には敵わんかったさ。組み手をやったら驚くほど弱くてな。
     アカサタナはそれがショックだったらしい。荒れに荒れて、手が付けられなくなった。
     腕っ節が強かったのはホントさ。体捌きが悪かったが、力は相当なもんだった。
     だからこそ、厄介だったんだけどな」

( ゚∀゚)「そんで、一緒に遊んだってわけか?」

(`・ー・)「まぁ、宥めるのが一番だと思ってな。
     こうやって釣りしたり、川で泳いだり、葉っぱレースしたり……」

(;゚∀゚)「全部川での遊びじゃねぇか。他にも何かやれよ」

(;`・ー・)「うるせーなー。水が好きなんだよ、俺は」
420 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:30:30.85 ID:y1qIQMtk0
 既に四十。
 そのはずだが、ハンナバルはかなり若々しく見えた。
 年を聞いていなければ、二十代だと言われても違和感はなかっただろう。

 性格も、どこか子供っぽい。
 無邪気と言えばいいのだろうか。
 恥や外聞はあまり気にしない性格のようで、振る舞いは自由気ままだった。

 だからこそ慕われているのだろうか、とふと思った。

(`・ー・)「おっしゃ来た! 一匹ゲット!」

 ハンナバルが引き戻した糸の先で、小さな魚が暴れていた。
 夜の闇の中に、幾つもの水滴が落ちる。

( ゚∀゚)「良かったな」

(`・−・)「……いや、良くねぇよ」

( ゚∀゚)「ん?」

 針先から魚を取り外すと、ハンナバルはそのまま川に流した。
 流してしまった。

(;゚∀゚)「お前、何やってんだ!?」

(`・ー・)「まだ稚魚だろ? 食ったってしょうがねぇし……。
     逃がしてやったほうがいいだろ」

(;゚∀゚)「ッ……」
431 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:31:50.34 ID:y1qIQMtk0
 考えたことも、なかった。
 釣った魚を、逃がすだなんて。

 確かに稚魚で、食ったって旨みはない。
 が、多少腹は膨れる。
 自分にとっては紛れもない食糧だった。

 しかし、違う。
 ハンナバルは、はっきりと違う。
 意識の、持ちようが。

 視野が広いのか、心が広いのか。
 自然と、そんなことを考えた。
 しかし、考えたくないことだった。

(`・ー・)「ま、釣り勝負の匹数にはカウントするんだけどな!」

(;゚∀゚)「おい、なんかズルくね?」

(`・ー・)「ズルくねーよ! 釣ったのは事実だからな!
     あ、ちなみにこの勝負、負けたほうが何でも言うこと聞くって条件だぞ」

(;゚∀゚)「おい! それこそ聞いてねぇよ!」

(`・ー・)「さー、俺の一匹リードだ!」

 餌を手早くつけて再びハンナバルは糸を投げた。
 手馴れている。先ほどの技術を見る限り、釣りは相当上手いようだ。
439 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:33:19.57 ID:y1qIQMtk0
 が、所詮は遊びだ。
 生きるための手段だった自分とは、違う。

( ゚∀゚)「何でも言うこと聞くんだな?」

 一度、糸を引き戻した。
 餌が流れている。付け直して、再び竿を振った。

(`・ー・)「ん? あぁ、何でも聞こう。約束だ」

( ゚∀゚)「それなら俺も本気でやってやるよ」

 流れを、肌で感じる。
 川の、そして魚の。
 呼吸に近いものを、感じ取っていく。

 竿を、一瞬で引いた。
 一尺程度の大きさの魚が、針先で尾を振っていた。

(;`・ー・)「おぉ!?」

( ゚∀゚)「これで並んだ。次は、追い越すぞ」

(`・ー・)「負けらんねーな!」

 次の一匹は、お互い同時だった。
 大きさは自分が優っている。しかし、あくまで匹数の勝負だ。
 昔は大きな魚ばかり狙っていたが、今日は数を見据えていかなければならない。
454 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:34:49.32 ID:y1qIQMtk0
 ハンナバルのように、稚魚は逃がしておいた。
 明確な理由はない。何となくだ。
 そういった気分だった。

 釣りをしながら、側で魚を焼いた。
 ハンナバルが持ってきた塩をまぶして、全体に火が当たるよう魚を裏返す。
 充分に焼けてから身を齧った。

 焼いている最中も、食べている最中も、釣りは止まらなかった。
 現在、互いに八匹ずつ。ペースはほぼ同じだ。
 ハンナバルは自分より腕が劣るが、何故か魚が食いついていた。

 底抜けの負けず嫌いだ、と思った。
 こんな勝負にも、驚くほど真剣になっている。勝ちにいっている。
 それは、大将としては欠かせない要素だった。

 オオカミの大将であるアテナット=クインスは、堅実な戦が得意な男だ。
 無理はしない。危険は冒さない。だから、戦に負けることはほとんどない。
 しかし、勝利することもあまりない。

 大将としては、いささか物足りない、と思っていた。
 貪欲なまでに、勝ちを狙って欲しい。いかなるときも、いかなる状況でも。
 それでこそ兵の士気も上がる。統率も良くなる。

 それを堅実な配下が支えてやればいいのだ。
 だから、負けず嫌いの大将というのは、決して悪くない。
 ヴィップにはモナーという堅実な大将もいる。理想的な陣容だった。

(`・ー・)「お、この魚うめぇな」
459 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:36:04.38 ID:y1qIQMtk0
( ゚∀゚)「春になったらもっと旨くなるぞ」

(`・ー・)「そうなのか? じゃあまた春にも来なきゃだな、ジョルジュ!」

( ゚∀゚)「俺と一緒に行く気かよ。やだよ」

(`・ー・)「んなこと言うなって! よし、約束だ!」

( ゚∀゚)「強引だな……勝手にしろ。ほら、九匹目だ」

(`・ー・)「俺も九匹目だ! 離されんぞ!」

( ゚∀゚)「そーいやこの勝負、終わりを決めてなかったよな。どーするんだ?」

(`・ー・)「ん? 十匹目を先に釣ったほうでいいんじゃないか?
     時間も遅くなってきたことだしな」

 些細なことだが、やはりそうだ、と思った。
 ハンナバルは、決断が早い。判断がいい。
 これも当然、上に立つ者には欠かせない要素だ。

 なるべくして、総大将になった男。
 そんな気がした。

( ゚∀゚)「よし、すぐに釣ってやるよ、十匹目」

(`・ー・)「残念ながら俺には勝てねーぜ! 今すぐにでも魚が食いついてくる! 気がする」

(;゚∀゚)「気がするだけだろ。思い込みじゃ勝てねーぞ」
467 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:37:32.05 ID:y1qIQMtk0
 同時に糸と針を投げ入れた。
 流れに乗って少し下流へ。それをゆっくり戻してやる。
 あまり遠くに行き過ぎると、引き上げるときが大変だからだ。

 今まで通りならすぐにでも魚がかかるはずだが、何故か魚の呼吸を感じられなくなった。
 夜が深まってきたからだろうか。川の流れが早まりつつあるからだろうか。
 理由は分からないが、どうやらすぐに勝負がつくことはないようだ。

 しばらく、空間には川の流れる音だけが存在した。
 後は全て霞んでいるように感じた。

 呆然と、オオカミのことを思い出した。
 将兵は、自分のことを何と思っているだろうか。不遇者か、謀反者か。
 投降せざるを得ない状況だったとは言え、自分なら投降した者には失望するだろう。

 あの戦に負けたのは、ヴィップが強かったからだ。
 いや、裏を返せば自分が弱かったからだ。
 それについて言い訳するつもりはない。

 しかし、だからこそ、考える。
 ミルナ=クォッチはいったい、どう思っているのだろうか、と。

 両親を亡くしてからずっと独りで生きてきた。
 そんな自分が、唯一友と呼べた男。それが、ミルナだ。

 ミルナは鋭かった。物事に対し、常に峻烈だった。
 戦を見通す力に長け、判断力に優れ、実行力も備えている。
 大将のアテナットよりも間違いなく才覚はある、と思っていた。
479 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:39:17.23 ID:y1qIQMtk0
 自分と、よく意見が合った。そして、気も合った。
 いつしか自然と親しくなり、行動を共にすることが増えた。
 独りで居るのと同じくらい、ミルナと一緒にいる時間は気が楽だった。

( ゚∀゚)(……手紙は、読んだだろうか……)

 ヴィップに寝返った直後、ミルナには手紙を出した。
 ハンナバルに勘付かれないよう、わざわざ街の配達屋まで行ってオオカミに届けさせたのだ。
 いつか必ずオオカミに帰る、と書いた手紙を。

 ミルナだけに伝えた。それで、充分だと思った。
 いずれミルナは上に昇る。大将にさえなりえる。
 アテナットに伝えるよりは、いいだろう。あの大将では、どんな対応をしてくるか分からない。

 その手紙を読んで、ミルナは何を考えただろうか。
 自分を信じてくれただろうか。あるいは、疑っただろうか。
 何も分からない。しかし、現状を維持していくしかない。

 ヴィップに忠誠を誓ったふりをして、重要な地位まで昇格する。
 そして権力を握ったあとに、国軍に被害を与えてオオカミに寝返る。
 それが、オオカミにとっては最善だろう。

 今でも実行する気持ちは、ある。
 あるが、何故か、未来が不透明だ。
 曖昧で、靄がかって見える。

 そしてハンナバルの顔を見ると、視界が明朗になったりする。
 理由は、分からない。

(`・−・)「んー、釣れないな」
485 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:40:46.31 ID:y1qIQMtk0
( ゚∀゚)「そのうちかかるさ」

(`・−・)「ずっと待ち続けるのは、性分に合わないな」

( ゚∀゚)「総大将ならもっとどっしりしてろよ」

(;`・ー・)「おー、俺に一番似合わねー言葉だ」

( ゚∀゚)「全くだな……ん?」

 糸がぴくりと動いた。
 流れによるものではない。明らかに、別の要因。
 そしてそれが、断続的に続く。

 魚が、かかった。
 ただし、自分のほうに、ではなかった。

(`・ー・)「よっしゃ!! 十匹目ゲット!!」

 元気に跳ね回る魚を見て、舌打ちした。
 十匹目を先に釣り上げたのは、ハンナバル。
 勝負に、負けてしまった。

( ゚∀゚)「こっちも今来た。僅差か」

(`・ー・)「勝ちは勝ちだ! 言うこと聞いてもらうぞ!」

( ゚∀゚)「……やーな予感がするな」
495 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:42:39.83 ID:y1qIQMtk0
(`・ー・)「これからは俺に敬語を使うこと。それとハンナバル総大将って呼ぶこと。
     あ、もちろん他の将校にもちゃんと敬称つけて敬語で喋れよ」

( ゚∀゚)「うわ、めんどくせぇ……」

(`・ー・)「約束を破るような男じゃないだろ? お前は」

( ゚∀゚)「知りもしねぇのにテキトーなこと言うなっつの」

(`・ー・)「見てりゃ分かるさ、それくらい」

 もう一度、舌打ちした。
 ハンナバルにも聞こえるように。

 それでもハンナバルは、笑みを崩さなかった。

( ゚∀゚)「……分かった。負けた以上、しょうがねぇ」

(`・ー・)「おいおい、実行が遅いぞ」

( ゚∀゚)「分かりましたよっと」

(;`・ー・)「なーんか生意気さが抜けてないな。まぁ、とりあえずは良しとするか」

 後から聞いたことだが、ハンナバルは自分のことを野生児のようだ、と思っていたらしい。
 言葉遣いは乱暴で、振る舞いにも落ち着きがない。
 独りで生きざるをえなかった環境がそうさせたのだろう、と考えていたそうなのだ。
500 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:43:43.95 ID:y1qIQMtk0
 だからこそ、敬称と敬語をつけることを強制させた、らしい。
 そんな思惑は知る由もなかったが、さほど抵抗感はなかった。
 抵抗感がないことに違和を覚えることさえ、なかった。


 やがてヴィップ軍はエヴァ城から軍を退いた。
 越冬したが兵糧が足りず、引き返さざるをえなかったのだ。
 ハンナバルは悔しがっていた。勝てはしなかったものの、戦の内容は確かにヴィップのほうが良かったのだ。

(`・ー・)「次は必ず奪るぞ!」

 全兵の前でそう意気込んだハンナバルに、呼応の声が返る。
 士気を上げるのも、上手い。恐らく、狙ってやっていることではないだろう。
 だからこそ、総大将としては相応しいのだ、と思った。

 しかし、ハンナバルが主導してオオカミ戦が行われることは、二度となかった。


――500年・夏――

 オオカミとラウンジの戦が始まっていた。
 アリア城、ヒダマリ城という、西端での戦だ。
 お互い、ベルとアテナットが出陣していて、相当に力を入れた戦になっているようだった。

 ヴィップはしばらく休養だった。
 戦が終わったあと、またすぐ戦ができるほど、この国に力はない。
 面積割合ではラウンジやオオカミ以上の兵糧が得られるが、その面積が少ないのが難点だった。
507 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:45:30.30 ID:y1qIQMtk0
(`・ー・)「んー、凄い雨だな」

( ゚∀゚)「そうですね」

 朝食をハンナバルと共に食べ終え、居室に向かうべく並び歩いていた。
 窓に打ちつける雨は強く、強風と相俟って激しい音を奏でる。

( ゚∀゚)「しばらく続きそうですね」

(;`・ー・)「……前から思ってたけど、お前の敬語は素っ気無いな」

( ゚∀゚)「そんなことないですよ」

(;`・ー・)「やっぱ二人のときは敬語じゃなくていい。他に人がいるときだけ敬語にしてくれ」

( ゚∀゚)「そりゃ助かる」

 ハンナバルの居室に入った。
 西の寮塔の最上階。ヴィップ城で最も広壮な部屋だ。

 ちなみに東寮塔の最上階はモナーが使用している。
 西大将であるディルクレッド=フィールダーも同列の地位だが、実績の差によりモナーが寮塔最上階に入っていた。
 ディルクレッドはその次に広い部屋をあてがわれている。

 雨が降っているため午前の調練は中止になった。
 たまには休みもいい。ずっと調練ばかりではかえって動きが悪くなる。
 気を抜くのも大切なのだ。

 ハンナバルの受け売りだった。
 今までそう考えたことはなかったが、納得させられるものがあった。
513 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:46:56.14 ID:y1qIQMtk0
(`・ー・)「んー、足早な攻めだな」

( ゚∀゚)「アンタが相手だと、後手後手になりやすいからな」

 丸型の卓の上に、四角い盤が乗せられている。
 そしてその上で、二十の駒が不揃いな形で立っている。

 ハンナバルとの旗地の勝負は、序盤から中盤へと移ろっていた。

(`・ー・)「だがちょーっと、守りが薄いぞ」

 ハンナバルが中将駒を掴み、三歩前進させた。
 こちらの守りの間隙を、突いてきた。

 そして旗が立てられる。
 深みを刺された。これで、ハンナバルは二本目の旗。
 こちらは三本立てているが、あまり深くない。有利なのは、ハンナバルのほうだった。

(`・ー・)「オオカミじゃミルナ=クォッチ以外は相手にもならなかったんだったか?
     ま、俺にはちょっと及ばねーみてーだな」

( ゚∀゚)「余裕こいてる間に逆転されても知らねーぞ」

 少将駒を縦に移動させた。
 馬に乗せている。機動力は高い。
 そして、ハンナバルの中尉駒に攻撃を仕掛けた。

 賽を振る。
 出目は、八。攻撃成功だ。
 中尉駒をしとめた。
519 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:48:16.41 ID:y1qIQMtk0
(`・ー・)「騎兵じゃ旗は刺せねーぞ。大丈夫か?」

( ゚∀゚)「何の心配してんだよ。全く問題ねー」

(`・ー・)「お前の攻めはいまいち読めんな。セオリーに反しすぎる」

( ゚∀゚)「それも、戦い方だろ」

 ハンナバルが中将駒を更に深みへと進めた。
 狙いは、こちらの大将駒か。しかし、無謀すぎる。
 守りは固めてある。大将駒への攻撃は、中将駒によって防がれるのだ。

 ここに旗を立てられた場合は苦しかっただろうが、もう中将駒は旗を持っていない。
 つまり、中将駒には攻めという選択肢しか残されていないのだ。
 しかし、攻めの上手いハンナバルがそんな愚を犯すとは思えない。

 まさか、狙いは――――。

( ゚∀゚)「……ちっ」

 弓を、隠し持っていた。
 二駒にだけ持たせることのできる弓。普通は、後方で使う。
 しかし、ハンナバルはあえて攻撃力の高い中将駒に弓を持たせてきた。

 大将駒が、射程距離内に入っていた。
 賽が投げられる。出目は二。
 攻撃、失敗だ。

(`・ー・)「んー、惜しい」
526 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:49:37.44 ID:y1qIQMtk0
( ゚∀゚)「今のミスは致命的だぞ」

 押し進めた少将駒で更に大尉駒を討ち取る。
 これでハンナバルの守りはかなり薄くなった。

 ハンナバルは再び弓で攻撃を仕掛けてきた。
 出目は四。またも失敗。
 大将駒なら、回避率は高い。ハンナバルの攻撃は、確実性が高いとは言えなかった。

 そして、自分の少将駒が、大将駒に迫った。

( ゚∀゚)「七以上なら、終わりだな」

(`・ー・)「こればっかりは、何ともしようがないな」

 賽を、投じた。

 卓に当たって音が立つ。
 卓上を転げ回る賽。
 時間が、長く感じる。

 やがて上を向いた面は、六だった。

(`・ー・)「ジョルジュ」

 順番がハンナバルに移った。
 ハンナバルは、自分の大将駒を見据えている。
 当然だった。カウンターを繰り出せるからだ。

(`・ー・)「この"旗地"という遊びで、最も攻撃成功率と回避成功率が高いのは、どの駒だ?」
531 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:50:39.61 ID:y1qIQMtk0
( ゚∀゚)「……はぁ? 大将駒に決まってんだろ」

(`・−・)「じゃあ、その攻撃率・回避率が高いことを、普通はなんて言う?」

 ハンナバルの顔が、変わった。
 休息に安らいでいた表情が、一瞬にして、峻厳たる総大将の顔へ。

 答えはわかっているのに、何故か少し、声にするのを逡巡してしまった。

( ゚∀゚)「……信頼性が高い、だろ?」

(`・ー・)「そうだ」

 ハンナバルが、賽を振った。
 動きはすぐに止まる。出目、八。
 少将駒が、やられた。

(`・ー・)「大将には力がある。だから、信頼性が高い。
     旗地だけじゃねーさ。現実の戦でも、大将ってのは信頼される。
     それも、無条件に」

( ゚∀゚)「それが大将だろ?」

(`・ー・)「そうだ。だから、危険なんだ。
     兵卒や将校が、拠り所にしすぎる。依存し、停滞する。
     薄っぺらい信頼は、必ずそうなる」

( ゚∀゚)「……分かんねぇな」
543 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:52:22.43 ID:y1qIQMtk0
(`・−・)「いや、分かってくれ。大事なことだ。
     大将ってのは信頼されるが、それだけじゃダメなんだ。
     大将も、周りを信頼しなきゃいけない。じゃなきゃ、本当の信頼になりえないんだ」

( ゚∀゚)「何でだ? 大将が圧倒的な力を見せ付ければ、絶大な信頼が得られる。
     大将が周りを信頼するかどうかは、関係ねぇだろ。自己満足じゃないのか?」

(`・−・)「違う。互いに信じあってこその、信頼だ」

( ゚∀゚)「違わねぇ。信頼ってのは、一方的なもんだ。それが互いに重なることはあるとしても」

(`・−・)「……いつかきっと分かるさ、お前も。
     お前は頭がいい。だから、きっと。いや、必ず」

 ハンナバルが、中将駒の弓で大将駒を狙ってきた。
 出目は九。攻撃成功。
 大将駒を失った。

( ゚∀゚)「俺の負けか」

(`・ー・)「残念。惜しかったな」

( ゚∀゚)「信頼性の高い大将でも、あっさりやられたりする。
     それも、このゲームの怖いところだな」

(`・ー・)「ま、現実じゃそうならないように気をつけねーとな」

 卓上の盤をそのままにして、ハンナバルは椅子から立った。
 もうすぐ昼食時だ。このまま食堂に向かうつもりだろう。
550 :第79話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 02:53:36.90 ID:y1qIQMtk0
 自然な流れで、後ろについていった。
 一度振り返って、見る。卓上の、盤を。

 倒れ転げた大将駒が、何故か頭に残った。















 第79話 終わり

     〜to be continued

 

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