3 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:14:07.56 ID:y1qIQMtk0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 少将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:ヴィップ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ヴィップ城
6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:14:43.63 ID:y1qIQMtk0
〜西塔の兵〜

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:カノン城

●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヴィップ城

●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:ヴィップ城
8 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:15:14.10 ID:y1qIQMtk0
●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ヴィップ城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:ヴィップ城
11 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:15:55.56 ID:y1qIQMtk0
〜東塔〜

大将:
中将:モララー
少将:ブーン

大尉:ビロード/ベルベット
中尉:ロマネスク
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
13 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:16:36.20 ID:y1qIQMtk0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー/ファルロ
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
18 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:17:31.19 ID:y1qIQMtk0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

21 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:18:02.70 ID:y1qIQMtk0
【第78話 : Suspicion】


――ヴィップ城――

 ミルナを最上階まで案内してすぐ、第一軍議室へと向かった。
 モララーが到着し、将校が全員揃ったため、軍議を行える状態になったのだ。

 行軍の疲れがモララーにあるだろう、と思ったが、モララーは構わないと言った。
 早めに軍議したほうがいい、と考えているようだ。

 将校たちの部屋が並ぶ五階を走った。
 ここは人が少なくて、通行しやすい。
 急いでいるときはいつもここを駆けた。

 陽光が窓から射し込み、無機質な廊下の上に乗っかっている。
 真四角の光が等間隔に並んで、廊下の向こうまで続いていた。

( ^ω^)「……お……?」

 石を足裏で叩く音が、大きく響いていた。
 音は一つ。そう思った。
 しかしもう一つだけ、ここには音があった。

 扉が、開く音。

(*゚ -゚)「ッ……」

(;^ω^)「あっ……!」
26 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:19:14.58 ID:y1qIQMtk0
 ギコの正妻であった、しぃだった。

 自分の姿を見ると、しぃはまた扉を閉めた。
 再び鳴る音。扉が奏でたという点では、一緒だった。

 ギコは、死んだ。
 ショボンによって討ち取られてしまった。

 それをしぃが知らないはずはない。
 見た目、変わりないように見えたが、ギコが死んだ報せを受けてからもうだいぶ経っているはずだ。
 報せを受けたあとは、泣き喚いたに違いない。

 ギコは唯一、しぃを心から愛した人間だった。
 給仕をやっていた頃、見目の美しいしぃの周りに、兵が呆れるほど群がったという。
 しかし、脳に障害を抱えていると知った途端、みな身を引いたらしい。

 そんなことお構いなしにしぃを愛したのが、ギコだった。
 ギコは、心から愛していた。だから、脳の障害など関係なかったのだ。

 しぃは、幸せそうだった。
 ギコと一緒にいるときの笑顔は、明るく、また華々しかった。
 ギコが遠征でいないときは、毎晩枕を涙で濡らしていたらしい。

 恐らくもう、枕が乾くときはないだろう。

(;^ω^)「…………」

 ギコの部屋の前に、立った。
 中からの音はない。
28 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:20:44.60 ID:y1qIQMtk0
 扉を叩くべきか、迷った。
 しぃと、話したい。そういう気持ちはある。
 が、何を話せばいいかは、分からない。

 励ますべきか、慰めるべきか。
 苦しみを分かち合うべきか。

 しぃにとって、いま何が必要なのか、分からない。

( ´ω`)「…………」

 扉の前から、去った。
 軍議が始まる。遅れるわけにはいかない。
 それにやはり、かけるべき言葉が見つからない。

 しぃのことを心配しつつも、ゆっくりと軍議室へ向かった。


――第一軍議室――

 既にほとんどの将校が集まっていた。
 ロマネスク、サスガ兄弟、ヒッキー。
 部隊長レベルの兵も参加しているため、軍議室内に人は多い。

 将校でまだ来ていないのはフサギコとモララーだ。
 しかし、自分に次いですぐモララーがやってきた。
 二人の従者に体を支えられながらの登場だった。

( ・∀・)「上座には……俺が座ることになるのか」
32 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:21:48.35 ID:y1qIQMtk0
 少し、寂しそうにモララーは言った。
 自分も、複雑な気持ちだった。

 やがてフサギコも登場し、軍議に参加するメンバーは全て揃った。

( ^ω^)「軍議を始めますお」

 暗くならないよう、少しだけ明るめに言った。
 皆、未だショボンが裏切ったことの衝撃を抱えている。
 しかしこれからは、今後のことを見据えていかなければならないのだ。

 いつまでも、落ち込んではいられない。

( ・∀・)「本当なら俺が軍議を率先して進めるべきなんだろうが、見ての通りの状態でな……。
     すまんがブーンに任せる」

( ^ω^)「了解ですお」

 事前に打ち合わせしてあることだった。
 モララーは重傷のため、本来なら軍議に参加できる状態ではない。
 それでも、平静を装って参加してくれている。ありがたいことだった。

( ^ω^)「まずは各地の情勢について」

 説明を始めた。
 現在、シャッフル城には三万の兵。ベルベットが守将。
 オリンシス城には二万の兵。守将はビロード。
37 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:23:32.48 ID:y1qIQMtk0
 カノン城はニダーが守っている。守兵は四万。
 ラウンジ城がすぐ近くにあるが、ニダーが四万を持てば安泰だろう。
 守備に優れている。十万の大軍も防ぐはずだ。

 兵糧は国内中で不足気味だが、前線には切らさず送っている。
 前線で兵糧が欠乏すると撤退を余儀なくされる。それだけは、避けたかった。

( ・∀・)「一番攻められる可能性があるのは、カノン城か」

( ^ω^)「でも、ニダー中将は絶対の自信を持ってるらしいですお」

(´<_` )「あぁ、何がなんでも守り抜くと言っていた。
      こんな事態だからな。責任感が強まったみたいだ」

 すかさず、オトジャが言葉を繋いでくれた。
 ありがたかった。

 フサギコはやはり、険悪だった。
 自分のほうを、見ようともしない。

 アニジャは説得する、とオトジャが言ってくれていた。
 成果がどうだったのかは分からない。何とも言えない。
 良くなったようにも、悪くなったようにも見えない。

(-_-)「……質問があるんだが……いいか……?」

( ^ω^)「はいですお」

 いつも通り、呟きのように小さく、ヒッキーが喋った。
 西塔の中では、ヒッキーとオトジャだけが、温かく接してくれる。
39 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:24:33.42 ID:y1qIQMtk0
(-_-)「……ミルナについてなんだが……」

( ^ω^)「……ッ……」

 当然の疑問だ、と思った。
 皆、既にミルナがヴィップ城に入ったことを知っている。
 関心は高い。

 視線が、集まるのを感じた。

(-_-)「……回りくどく聞くのは、やめよう……単刀直入に聞く……。
    ミルナは、ヴィップ軍に入るつもりなのか……?」

 恐らく、誰もが同じことを考えているだろう。
 どっちなのだ、と思っているに違いない。

 全土でも屈指の武将であるミルナ=クォッチ。
 ヴィップ軍に入れば、これほど力強いことはない。
 それを期待している者すらいる、と感じた。

 ――――しかし――――。

( ^ω^)「……入るつもりはない、と思いますお」

(-_-)「…………」

 ミルナと会話していて、思った。
 ミルナはもう、国家間の争いに関心を失っている。
43 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:25:54.41 ID:y1qIQMtk0
 ヴィップが勝とうが、ラウンジが勝とうが、どうでもいいと思っている。
 双方とも、オオカミを滅亡せしめた国であることに変わりはないからだ。

( ・∀・)「ヒッキー少将、ミルナは単にジョルジュ大将と話したがっていただけです。
     危急の事態に遭った自分を助けたのも、そのため。
     ヴィップに利するための行為ではなかった、ということです」

(-_-)「……なるほどな……しかし……」

( ・∀・)「戦力を失っている現状、ミルナの力は必要かも知れない、ですか?」

 ヒッキーが言葉を続ける前に、モララーが言い放った。
 そしてそれは、ヒッキーの言いたかったことと寸分違わず合致していたようだった。

( ・∀・)「誘ったって、無駄でしょう。あれほどの男が、簡単に心を揺り動かすとは思えません」

(-_-)「……確かにな……」

( ・∀・)「ミルナは死ぬまでオオカミの将。そう考えるのが、ミルナへの礼儀でもあると自分は思ってます」

 軍議室が、少しだけ静寂に満ちた。
 モララーの言葉に、誰も反さない。

(´<_` )「俺からも質問したいんだが、いいか?」

( ^ω^)「どうぞですお」

 いつも通りの態度を見せるオトジャに、アニジャが一瞬、厳しい視線を送った。
 それに気付き、思わず怯んだが、表情には出していないつもりだった。
51 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:27:43.52 ID:y1qIQMtk0
(´<_` )「ブーン少将を助けたという、フィレンクトについてなんだが……彼は……」

( ^ω^)「……多分、ショボンに……」

 毅然と、言った。
 やはり、表情は崩さないように。

 ほんの少し、気を緩めるだけで、瞼から涙が流れ出る。
 それが分かっているからこそ、あえて毅然としていた。

(´<_` )「……そうか……」

 覚悟していたことだ。
 あの場で一人残って、無事でいられるはずはない。

 自分を逃がすためにフィレンクトは囮になってくれた。
 だから、フィレンクトについて振り返るのはやめよう、と思っていた。
 きっと、フィレンクトは望まない。死を悼むことも、悲しむことも。

 前を見て、少しずつでも歩き出していくことを、望んでいるはずだ。
 だから今は、極力感情を抑えこんで、今後のヴィップについて考えていかなければならない。

( ^ω^)「ヴィップ軍について改めて整理しますお。
      現在、全軍でおよそ十五万。ただ、これは確定の数じゃないですお。
      まだ情報が錯綜してる部分があるので、数千から数万の増減もありえますお」

( ・∀・)「前線から脱した兵の数が把握しきれてねーってことか」

( ^ω^)「そういうことですお」
55 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:29:03.08 ID:y1qIQMtk0
(-_-)「ショボンが裏切った報せを聞いて、こちらも慌てて兵を送り出した……。
    正直、数を正確に把握していない……火急の事態だったからな……」

(´<_` )「それは、致し方がないことでしょう。
      数えてる暇があるなら一瞬でも早く送り出したほうがいい、という状況だったでしょうから」

(-_-)「あぁ……しかし、混乱を抑え切れなかったのはまずかったな……。
    かなり、混迷していた……兵も、将も……」

 それだけの事態だった、ということだ。
 ショボン裏切りの報を受けたときのヴィップ城の、混乱。
 想像に難くない。

( ´ω`)「……それと、アラマキ皇帝が……」

 皆、暗い表情になった。
 さすがに報せは受けているようだ。

 アラマキ皇帝が、心労により倒れたという。
 今のところ命に別状はないそうだが、安心はできない。
 もう相当に高齢だからだ。

 衝撃は大きかったはずだ。
 絶大な信頼を、ショボンに寄せていた。それを、自分は知っている。
 一度、直にアラマキ皇帝から聞いたことがある。

 皇帝位を譲ることも考えていた相手だったのだ。
 心労で倒れても不思議はない、と思えるような状況だった。
 それに異常を感じなくなっているのが異常だ、とも思った。
59 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:30:05.22 ID:y1qIQMtk0
 ショボンのやり方は、あまりに卑劣で、巧妙で、ひたすら怒りが沸いた。
 募り積もって堆くなり、しかも果ては見えない。
 際限は、ない。

( ・∀・)「ヴィップが立ち直ればきっと皇帝も元気になる。
     間違いない」

(-_-)「……そうだな……」

(´<_` )「とにかく、これからみんなで力を合わせて戦っていかなければ。
      ラウンジは三十万に迫ろうかという兵力を持っている。脅威的だ。
      屈指の知将として成長したカルリナもいる。そして何より、Zを操るショボンも」

( ФωФ)「一丸となって立ち向かわなければ、勝機は」

ミ,,゚Д゚彡「やめようぜ」

 ロマネスクの言葉が、遮られた。
 不意なる、一言によって。

(;^ω^)「……?」

ミ,,゚Д゚彡「上っ面だけの言葉でまとめようったって無駄だろ?
     俺だけじゃねーはずだ。お前たち東塔の連中を疑ってるのは」

( ´_ゝ`)「同感だな」

 やはり、避けられなかった。
 フサギコ、そしてアニジャ。
 いや、他の西塔の兵たちも。
66 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:31:20.77 ID:y1qIQMtk0
 明らかに、嫌疑の眼差しを向けている。
 主には、自分に。そして、モララーやロマネスクにさえも。

( ・∀・)「ショボンの配下だから、俺たちまでラウンジに寝返るんじゃないか、ってことか?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、その通りだ。全くもって、疑わしい」

(´<_`;)「待て、フサギコ。こんなところで疑ったって何にもならん」

ミ,,゚Д゚彡「いーや、重要なことです。もしブーンやモララーが叛意を抱いてたら、どうするつもりですか?
     ショボンらの裏切りによってヴィップは相当な危機に瀕しています。
     同じようなことを繰り返されたら、それこそヴィップは滅亡してしまいます」

(-_-)「……しかし、証左も何もないことだ……」

ミ,,゚Д゚彡「疑って損はありませんよ、ヒッキー少将。
     それに俺は、保険として疑ってるわけじゃありません。
     モララーはともかく、ブーン=トロッソは本気でショボンと通じていると思っています」

(;^ω^)「ッ……!!」

 言葉にできないほど、辛かった。
 味方から、これほど敵意に満ちた視線を向けられるとは。

 オトジャやヒッキーは必死でフォローしてくれている。
 しかし、フサギコとアニジャの気持ちは動かない。
69 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:32:21.13 ID:y1qIQMtk0
(;^ω^)「信じてください、としか言えませんお。
      ショボンに命を狙われ、ファルロに待ち伏せされ……。
      ラウンジと通じているならおかしいことばかりですお。
      だから、信じてほしいんですお」

ミ,,゚Д゚彡「全部切り抜けたんだろ? それが疑わしいってんだよ。
     ショボンに狙われたってだけでも命を落としていておかしくない。
     その上、ファルロの伏兵まで受けて……何で生き延びてるんだ?」

( ^ω^)「それは、周りの助けがあったからこそで」

ミ,,゚Д゚彡「フィレンクトに助けられたから、ってことか?
     それさえ疑わしいな。あいつは片腕を失ったんだぞ。
     助けになんて、来られる状況じゃねーだろ」

 一瞬にして、怒りが沸きあがった。
 フィレンクトは命を投げ出して自分を助けてくれた。それを、否定された。
 黙っていられるはずがなかった。

(#^ω^)「フサギコ少将、ブーンのことを疑うのはまだいいですお。
     でも、隻腕となってなお戦場に戻ってきてくれたフィレンクトさんのことまで」

( ・∀・)「待て、落ち着け。お前の怒りは尤もだが、冷静になってくれ。
     フサギコ少将もだ」

ミ,,゚Д゚彡「何もかも疑わしく見えるんだよ。この状況じゃあな。
     ずっとショボンと一緒にいたのに気付かなかったってのも変だろ?
     誰かが気付いておかしくない。もしお前たちが裏切り者じゃなかったとしても、責任はあるだろ」

( ´_ゝ`)「悪いが俺も同意見だ。ブーンを庇っているその様は、見方を変えればラウンジのためとも取れるしな」
73 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:33:23.40 ID:y1qIQMtk0
( ・∀・)「どう疑おうが俺たちはヴィップに忠誠を誓っている。その事実は変わらない」

(´<_`;)「モララー中将も、もう少し言葉を抑えてください。
      いがみ合ったって何も変わりません」

 そのオトジャの一言で、場は静まった。
 しかし、嫌な静寂だ、と誰もが感じているはずだ。
 不穏さが保たれたままなのだ。

 言葉は、脆い。
 まさしく、オトジャが言った通りだった。
 フサギコもアニジャも、自分の言葉を信じてくれない。

 元より、東塔と西塔の仲は良くなかった。
 大将同士が反目していた。結果、配下の将の間まで険悪になった。
 それでも今まで何とかやってきていたが、この事態は、避けようがなかった。

ミ,,゚Д゚彡「入軍してすぐ少尉になって、次々昇格を果たして……。
     こんなに疑わしいのに、疑わない理由があるか?」

(;^ω^)「正直に言うと、それはショボンがブーンをラウンジに引き抜こうとしてたからですお。
     だからあんなに目をかけられたんだと思いますお」

ミ,,゚Д゚彡「尚更、怪しいじゃねーか」

(;^ω^)「でも、ブーンはラウンジに行こうなんてこれっぽっちも思いませんでしたお。
     だからこそ、ショボンに狙われたんですお」

( ´_ゝ`)「その全てが、この場を切り抜けるための欺瞞だとも思える」
75 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:34:23.55 ID:y1qIQMtk0
 肌に粟が生じるほどの、恐怖。
 アニジャの、鋭い眼光。

 優しかった。間の抜けているところもあったが、いつも暖かかった。
 そのアニジャでさえ、心から疑っている。

 あまりに悲しく、辛い。
 嘆いても仕方がないと分かっているからこそ、尚更だった。

(;^ω^)「……信じて下さい、としか言えませんお」

 疑うな、とオトジャに言われた。
 君が信じれば、周りもきっと君を信じる、と。

 信じるしかない。
 いつかきっと、フサギコもアニジャも自分を信じてくれると願って。

ミ,,゚Д゚彡「言葉じゃ何とでも言えるだろうが、俺たちの疑いは晴れねーぞ。
     いつかラウンジに寝返るかも知れないと思えるやつがいて、安心して戦ができるか?
     しかももう、負けられねーってのに」

(;^ω^)「それでも今は、言葉で伝えるしかないんですお。
      ブーンは、一緒にフサギコさんやアニジャさんと戦っていきたいと思ってますお」

ミ,,゚Д゚彡「悪いが、俺はそんな気分になれねーな」

( ´_ゝ`)「この状況では、俺もフサギコに同意だ」

(;-_-)「待て、二人とも……」
83 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:35:28.21 ID:y1qIQMtk0
(´<_`;)「いったん落ち着いてから、再度話し合いを――――」

( ゚∀゚)「いや、軍議を続けよう」

 扉が、開け放たれていた。
 快い風が、入り込んできた。

 まるで、ジョルジュが送り込んでいるかのように。

(;^ω^)「ジョルジュ大将!?」

ミ,,;゚Д゚彡「ど、どうなさったのですか?」

(;´_ゝ`)「こんなところまで歩いては、病身に障ります」

( ゚∀゚)「部屋に篭ってられねーだろ。この状況じゃ」

 ミルナに、体を支えられながら。
 ゆっくりと室内に入ってくるジョルジュ。

 すぐに自分の椅子をジョルジュのところへ持っていった。
 ミルナが、抱きかかえるようにしてジョルジュを椅子へ導く。

( ゚∀゚)「すまんな」

 腰掛け、息を吐くジョルジュ。
 その傍らに立つミルナ。
122 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:48:15.34 ID:y1qIQMtk0
 何のために、来たのか。
 分かるような気もするが、はっきりとは分からない。
 何故ミルナまでいるのかは、全く分からなかった。

( ゚∀゚)「まぁ、こうなるとは思っていた。
     経緯は聞かなくても分かる。フサギコとアニジャがブーンらを疑ってんだろ?」

ミ,,゚Д゚彡「……当然でしょう。東塔の連中を、易々と信じることはできません」

( ゚∀゚)「だろうな。俺もずっと、ブーンを疑っていたからな」

(;^ω^)「……え?」

 当然のことのように、ジョルジュは言った。
 が、自分にとっては衝撃的だった。

 疑われていた?
 自分が、ジョルジュに?

(;^ω^)「どういうことですかお?」

( ゚∀゚)「ショボンにあんだけ目をかけられてたからな。当然だろ?
     密かに始末してしまおうか、と考えたくらいだ。
     入軍の経緯も、将校になった経緯も、決して自然じゃなかった」

(;^ω^)「そ、それは……」

( ゚∀゚)「大丈夫だ、今は疑ってねーさ。安心してくれ」
133 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:49:50.02 ID:y1qIQMtk0
 ジョルジュが微かに手を動かしながら、そう言った。
 その動作が何を意味したのかは、分からない。

( ゚∀゚)「確かにショボンが二段構えを仕掛けている可能性はある。
     一度ショボンらが裏切ったあとは警戒が薄れるからな。
     そのあとにブーンを裏切らせれば効果的だろう。
     が、俺はその可能性はないと見てる」

( ´_ゝ`)「何故ですか? 論拠はいったい、どこに?」

( ゚∀゚)「あいつは、俺に似て臆病者だからさ」

 少しだけ、ジョルジュが笑った。
 自虐的な意味が込められているのだろう、と思った。

( ゚∀゚)「もし仮にブーンがラウンジの人間だったとして、だ。
     俺たちがそれを見破り、ブーンを掌握した場合、ショボンは苦しくなる。
     計画通りにブーンを裏切らせても、それはもうヴィップの刺客になっているからだ」

ミ,,゚Д゚彡「……しかし、それはブーンがヴィップに忠誠を抱いている証拠にはなりえません」

( ゚∀゚)「だから言っただろ? あいつは臆病者だ、って。
     そんな不安要素を残すとは思えねーんだ。
     一般兵士ならともかく、ブーンは少将。下手を打てば被害がデカイ」

ミ,,゚Д゚彡「……仰っていることの意味が、よく分かりません」

( ゚∀゚)「分からないふりをするようなヤツじゃないだろ、お前は」
135 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:50:51.43 ID:y1qIQMtk0
ミ,,゚Д゚彡「純粋に、分からないのです。
     ブーンがラウンジに通じていたとして話を続けますが、
     その場合、ブーンをヴィップに残しておいても、さほどリスクがあるとは思えません。
     ブーンがヴィップに掌握されていても、ショボンほどの男なら見抜くでしょう」

( ゚∀゚)「いや、あいつは脅えているさ。今だからこそ、はっきり分かる。
     あいつは俺を脅威に思っていた。俺に対して常に警戒を抱いていた。
     ブーンを完璧に掌握し、ラウンジの崩壊を狙う、とまで俺が考えていても不思議じゃない、と思ったはずさ」

( ´_ゝ`)「しかしそれは、憶測でしょう?」

( ゚∀゚)「もちろん、そうだ。しかし、臆病者という点に関しては、間違いないと思ってる」

ミ,,゚Д゚彡「ですが、それだけではブーンの疑いは晴れません」

( ゚∀゚)「結局、完璧に不安要素を除ききることなんかできねーさ。
     俺はあくまで自分の推測に基づき、ブーンを信じているというだけの話だからな。
     散々疑ってきたが、フィレンクトに言われたことを思い出して、俺もブーンを信じたくなったんだ」

(;^ω^)「……フィレンクトさんに?」

( ゚∀゚)「俺がずっとショボンを疑っていたという話、ここのやつは多分、ほとんど知らないだろうな。
     まぁ、それはいずれ話すとして……俺はたった一人、フィレンクトだけに自分の考えを話した。
     そしてショボンが裏切ったときのことを、フィレンクトに託したんだ」

(;´_ゝ`)「真の話ですか?」
140 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:52:00.18 ID:y1qIQMtk0
( ゚∀゚)「当たり前だ。フィレンクトが腕を失ったとき、全てを話し、託した。
     その前から俺は、こう考えてたんだ。
     『プギャーとブーンは恐らく、ショボンに随従して裏切る』と」

(;^ω^)「ッ……」

 疑っていた、と言っていた。
 だから、当然の言葉だ。
 分かっていても、衝撃は避けられなかった。

( ゚∀゚)「もちろんフィレンクトにもそう伝えた。あの二人は、危険だと。
     フィレンクトも、『確かに怪しい』と言ったよ。
     ――――プギャーに対しては、な」

 数十もの兵が集まっている軍議室は、普段では考えられないほど、静かだった。
 広壮な室内の、隅々にまで、ジョルジュの声が行き渡っていると感じた。

( ゚∀゚)「ブーンに対しては、はっきりと否定した。
     『あの人は間違いなくヴィップの忠臣だ』と。
     『左腕をかけてでも、私が保証します』ってな」

( ^ω^)「……フィレンクトさん……」

( ゚∀゚)「ブーンと一緒に戦い、語り合ったからこそ、分かるものもあったんだろう。
     俺は疑いを拭いきることはできなかったけどな。
     でも今回、実際にブーンは裏切らずヴィップ城に戻ってきた。
     だから、俺はブーンを信じようと思ったんだ」
150 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:53:22.31 ID:y1qIQMtk0
 ジョルジュが小さく息を吐いた。
 本当は、こうやって座っているのもあまり楽ではないはずだ。
 そのうえ、かなり長く喋っている。相当に疲労があるのだろう。

 しかし、目の奥に光が戻っている。
 以前、薄れてしまったと感じた、光が。

 嬉しい、という感情が沸いてきたのは、ジョルジュが自分を信じてくれたことだけではなかった。
 以前のような強い光が、瞳に戻ってきたことも一因だったのだ。

ミ,,゚Д゚彡「……やはり、納得しきれません」

( ´_ゝ`)「私もです、ジョルジュ大将」

 ジョルジュの言葉のあとに、長い間があった。
 二人は今、どんな気持ちを抱いているのだろうか。
 自分を、どんな目で見ているのだろうか。

( ゚∀゚)「お前らの気持ちは分かるが、疑いだしたらキリがねーんだ。
     俺は、誰も信じられなくなって、結果的に失敗した。
     ショボンを疑っていたのに、誰にも話せなくて、結局ショボンの裏切りを許しちまった。
     もうそんなミスは繰り返したくねーんだ」

ミ,,゚Д゚彡「だからブーンも信じるというのですか? それは……」

( ゚∀゚)「根拠が薄い、か? 確かにそうかも知れねぇけどな……。
     さっきも言ったように、疑い出せばキリがない。
     フサギコ、お前は俺がラウンジに通じてないと言えるか?」

ミ,,;゚Д゚彡「はっ……!?」
159 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:54:48.17 ID:y1qIQMtk0
( ゚∀゚)「アニジャ、どうだ?」

(;´_ゝ`)「……いや、それは……」

( ゚∀゚)「否定できない、だろ? 俺だってラウンジと通じてるかも知れねーんだ。
     ショボンといがみ合ってたのだって、お前らを騙すためかも知れない。
     そう考え出すと、際限がない。どこまででも疑えてしまう」

(;´_ゝ`)「……しかし……」

( ゚∀゚)「お前たちが俺を信じてくれているのは分かってるさ。
     が、それも結局は根拠に乏しい、脆い信頼でしかないんだ。
     信頼ってのは作るのは難しいくせに、崩すのは呆れるほど簡単だからな」

( ^ω^)「…………」

( ゚∀゚)「何をもって人を信じるか。それは、個人によって違う。
     フサギコ、アニジャ。お前たちは俺を信じてくれているだろう。
     でも俺はお前たちに何も語っていない。ただ大将として存在しただけだ」

 二人が、押し黙った。
 気付いたのだ。何故、東塔がショボンの裏切りを見抜けなかったのか。
 自分も今、ジョルジュに気付かされた。

 ショボンが大将として存在したから。
 絶対的な力を持ち、軍を掌握し、兵を指揮する大将。
 その立場にいたショボンはあまりに心強く、頼もしかった。
162 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:55:55.68 ID:y1qIQMtk0
 だからこそ、無条件に信頼を寄せていた。
 頼れば頼るほど、ショボンは力を発揮してくれた。いつも、頼もしかった。
 そうやってショボンは大将という立場を上手く利用していた。

 モララーでさえ、見抜けなかった。
 誰もが信じていた。

 それは、ショボンが大将だったからこそなのだ。

 仕方がない、などとは思わない。東塔に属していた者は、当事者なのだ。
 自分を擁護するつもりもない。
 しかし、判然とした理由が分かった。それが、自分の中の引っかかりを溶かしていった。

( ゚∀゚)「だから俺は、語ろうと思ったんだ。お前たち、全員に」

 その言葉に、ミルナが僅かに反応した。
 普通の者なら分からないであろう、小さな反応。
 気付いたのは、将校だけだろう。

( ゚∀゚)「体を動かせない俺は、言葉でしかお前たちに伝えられない。
     いくらでも疑えるだろう。でも、聞いてくれ。
     俺が何故オオカミを裏切ったか。何故ヴィップに忠誠を抱いているか。
     全てを語ることで、俺はみんなに信じてもらいたい」

 誰も、言葉を返さなかった。
 無言こそが、肯定だ。それが、分かっているからこそだった。

( ゚∀゚)「俺が今、ここにいることになった理由。
     それを作った、ある男との話を。
     ――――最も憎んだ男との話を、語ろう」
174 :第78話 ◆azwd/t2EpE :2007/11/11(日) 01:57:44.67 ID:y1qIQMtk0
 扉のすぐ近くで、椅子に腰掛け佇むジョルジュ。
 緊迫感に満ちた室内。

 息苦しさは、ない。
 なのに何故か、心臓の鼓動が早まり、呼吸が荒くなった。

 ジョルジュが語り出すまで、それは収まらなかった。





 第78話 終わり

     〜to be continued




――世界暦・499年(28年前)――

(`・ー・)「礼儀がなってねーやつだなー、お前は。
     よし、決めた。これから『アカサタナ作戦』を発動する!」
  _
( ゚∀゚)「…………」

 寝首を掻いてやろうか、飯に毒を入れてやろうか。
 訓練中、事故を装って斬るのも面白い。

 そんなことばかりを、考えつづけていた。

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