2 名前:登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:40:09.62 ID:oC/6Xu760
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 少将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:シャナ城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:オリンシス城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:ローゼン城

3 名前:階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:41:00.72 ID:oC/6Xu760
〜東塔〜

大将:
中将:モララー
少将:ブーン

大尉:ビロード/ベルベット
中尉:ロマネスク
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
7 名前:使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:41:32.45 ID:oC/6Xu760
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー/ファルロ
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
13 名前:この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:42:30.38 ID:oC/6Xu760
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

16 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:43:28.89 ID:oC/6Xu760
【第77話 : Hope】


――ヴィップ城――

 色鮮やかに咲き誇る桜とは、対照的だった。

 敗残の兵。絶望に満ちた表情。
 背は曲がり、足取りは重く、痛々しいほどに暗い。

 ヴィップ城に帰ってくる兵たちの様は、一様だった。

(;^ω^)「こっちで引き受けるお、休んでくれお」

 行軍を終えた部隊長に告げる。
 前線で物資を失ったため、それを取りに戻ってきたのだ。
 千名ほどの部隊だった。

 多くの兵はオリンシス城やシャッフル城、マリミテ城などに留まっている。
 まだラウンジからの脅威が残っているためだ。
 前線の兵は減らせない。

 ただ、前線は物資が足りておらず、全兵を受け入れる余裕もない。
 前線指揮官の判断で、こうやって本城まで戻ってくる兵が少なからずいた。

 エヴァ城やシャナ城で留まっている兵も多い。
 ヴィップ城まで帰ってくるとなると疲弊が激しいからだ。
 また、前線に兵が足りなくなる恐れもあるため、ヴィップ城からも兵が進発していた。
21 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:45:16.26 ID:oC/6Xu760
 西塔は一つも城を失っていないため、情勢は落ち着いている。
 それが救いだった。西まで混乱していたら、どうしようもなかった。
 兵も物資も足りず、降参するより他なかっただろう。

(;^ω^)(ジョルジュ大将は……)

 病をおして、大将室の寝床で城内の仕事を処理しているという。
 それがひたすら、申し訳なかった。自分たちの失態で、迷惑をかけている。
 病を得ており、療養に専念しなければならないのに、だ。

 桜の色が夕闇に煽られて落ちていく。
 兵たちの表情も確認しづらい時間になってきた。

 ヴィップ城に帰還したのは、正午ごろだった。
 最初に出迎えてくれたのはヒッキーだ。心の底から心配してくれていた。
 その後は、城に戻ってくる兵の受け入れと、情報整理に追われた。

 西塔の将校も、フサギコとサスガ兄弟がヴィップ城に帰還するという。
 ラウンジが攻めの姿勢を見せていないため、この間に体勢を立て直す、とヒッキーは言った。

 東塔も、モララーとロマネスクが本城に帰還することになっている。
 モララーは重傷を負っているようだが、ヴィップ城での話し合いに参加するつもりらしい。
 ロマネスクも同様だ。話し合いのための帰還だという。

 肝要なオリンシス城とシャッフル城には、それぞれビロードとベルベットが残っている。
 守備に長けたビロードと、万能なベルベットだ。当面は安泰だろう。
 兵糧も何とかなりそうだという。

22 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:46:50.27 ID:oC/6Xu760
 しばらく仮眠を取り、夜が明けないうちに再び任務に戻った。
 城から離れて警戒に当たったりもする。ラウンジが迫ってこないとは限らない。
 一番怖いのは、混乱に乗じた敵軍がヴィップ城を攻めてくることだ。

 やがて払暁を迎えた。
 それと同時に、戻ってきた一隊があった。

 東塔の兵ではない。
 西塔。フサギコ=エヴィスの率いる部隊だ。

(;^ω^)「フサギコ少将」

 疲弊はあまりないように見えた。
 戦をおこなったわけではないのだから、当然と言えば当然だ。
 ただ、行軍は長かったはずだ。

(;^ω^)「……え……?」

 疲労は、ない。
 しかしいつもと違う表情。

 判然たる慄きに、襲われた。

(;^ω^)「少将ッ……!?」

 素通りされた。
 こちらに、目もくれず、城内へと入っていった。

 明らかな怒気。
 憤懣やるかたない、というような表情。
25 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:48:21.10 ID:oC/6Xu760
 そこで初めて気付いた。
 西塔の将たちは、東塔に対して怒りを抱いているのだ。
 ずっとショボンの側にいながら、叛意を見抜けなかった東塔に。

 当然のことだった。
 東塔の将校たちは、まんまとショボンに出し抜かれたのだ。
 いくつもの城を失い、ギコというかけがえのない将も討ち取られてしまった。

 フサギコの怒りは、西塔の怒りは、尤もだ。
 取り返しのつかないことに、なってしまっているのだ。

 ヴィップ城に帰ってきてから、まだジョルジュとは会っていない。
 お互いに抱えている任務が多すぎる。やるべきことが多すぎる。
 だから、ジョルジュが今回のことに対し、どう思っているのか、分からない。

 恐怖すらあった。
 同時にやはり、申し訳なく思う気持ちもあった。

 一日ほど経って、今後はサスガ兄弟の部隊が到着した。
 兵数はあまり多くない。五千程度だ。
 やはり前線にかなりの兵を残している。

 そして自分をスルーしていくアニジャ。

 あんなに気さくで、いつも朗らかに接してくれていたのに。
 自分を、完全に無視して、通り過ぎていった。

(´<_` )「……すまない、ブーン少将」

(;^ω^)「オトジャさん……」
30 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:49:54.86 ID:oC/6Xu760
 馬から降りたオトジャが、小さい声で話しかけてくれた。
 その表情は、夜だということは関係なしに、暗い。

(´<_` )「アニジャは、良くも悪くも正直でな……。
       今回のことに関しては……やはり憤っているんだ」

(;^ω^)「それは、謝られるようなことじゃないですお……。
     どう考えても、ブーンたちの責任ですお……」

(´<_` )「いや、俺はそうじゃないと思ってる……。
       もし仮に、俺たちが東塔の将校だったら、気付けていたか否か。
       恐らく、後者だろう」

 仮定の話をしたところで、意味はない。
 自分たちに対しショボンがどんな態度で接していたか、オトジャは分からないのだ。
 ただ、こちらを慮ってくれるのは、ありがたいことだった。

(´<_` )「誰一人として疑わなかった。気付けなかった。
       それほど巧妙に、ショボンは策謀を隠していたんだ。
       東塔だけが責められるべきではないと思う」

(;^ω^)「でも……一番身近にいたブーンたちが……」

(´<_` )「身近にいたからこそ気付けなかった、ということもあるさ……。
       恐らくショボンは、身近な者にこそ気を遣っていただろう。
       信頼を盾にして、皆を欺いていたという風に、今は思う」

 信頼。
 それを、誰よりも得てきた大将だった。
35 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:51:26.97 ID:oC/6Xu760
 あのアラマキ皇帝でさえ、ショボンを信頼していた。
 人を信じすぎる性格、とまで言った。
 その何もかもが、嘘で塗り固められていたのだ。

 全て、自分のために利用しただけだった。
 周りからの信頼も、ショボンが周りに寄せる信頼も。
 何もかも、策謀のために。

(´<_`;)「上手く言葉にできん……すまんな……。
       俺は西塔に所属しているが……ショボンのことは、信じていた。
       誰よりもヴィップのために尽くしているとすら思っていた……。
       ……だから……今もショックが拭えない……」

( ´ω`)「……ですお……」

(´<_` )「アニジャも一緒なんだ……今まで、ショボンを無条件に信じていた。
       疑う余地などなかったからな……当然のことだ……。
       あの態度には多分、そういったやるせなさも、込められているのだろうと思う」

 みんな、同じなのだ。
 ショボンが裏切ったことに、衝撃を受けている。
 そして少なからず、落ち込んでいる。暗澹さを隠せていない。

 あまりに順調だった。
 戦に勝ち、快進撃を続け、ヴィップは版図を拡大してきた。
 いよいよラウンジとの最終決戦。そんな折での、衝撃だった。

 アニジャもフサギコも、落ち込んでいる。
 怒りの矛先はきっと、東塔だけでなく、内なる自分にも向けられているのだ。
 見破れなかったという自責があるのだろう。あれほどの武人なら、恐らくそうだ。
38 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:52:57.29 ID:oC/6Xu760
(´<_` )「後は誰を待っているんだ?」

( ^ω^)「モララーさんとロマネスクですお……」

(´<_` )「モララー中将は、ヴィップ城に戻ってくるんだな……。
      プギャーによって重傷を負わされたと聞いたが……」

( ^ω^)「今後のヴィップについて、俺の意見が必要だろう、と……」

(´<_` )「さすがに、自分の価値をよく分かっているな」

 皮肉でもなんでもない発言だ、と思った。
 モララーは、自分が何をすべきか、しっかり把握している。
 だからこそ、怪我をしているにも関わらず、ヴィップ城まで戻って軍議に参加するつもりなのだ。

 ジョルジュとて、そうだ。
 病は決して軽くない。なのに、任務をこなしてくれているし、軍議にも参加してくれる。
 責任感が強いのだ。

 二人とも決して万全ではない。戦場に立てない。
 しかし、生きている。動いてくれている。
 まだヴィップに望みはある、とさえ思わせてくれる。

(´<_` )「それとブーン少将、気をつけることだ」

( ^ω^)「……何がですかお?」

(´<_` )「ショボンに目をかけられていた将校は、必ず疑われる」

(;^ω^)「ッ!!」
44 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:54:33.55 ID:oC/6Xu760
 考えもしなかった。
 しかし、言われてみれば、確かにありうることだ。

 ショボンによって入軍早々に将校に引き上げられた。
 それだけで充分、疑われる原因になる。

(´<_` )「さっきのフサギコとアニジャの憤然は、少将を疑っているからこそかも知れない」

(;^ω^)「納得できますお……」

(´<_` )「一応言っておくが、俺はブーン少将を信じている。
      ファルロ=リミナリーを斬ったという情報もあることだしな。
      ただ、ファルロを討ち取らなかったことによって、疑いは深まっている」

(;^ω^)「あれは……討ち取ってしまうと、ファルロ配下の兵が躍起になって」

(´<_` )「迫ってくる、と思ったからこその行動だろう? 分かっているさ。
      ただ、みんながみんな、信じてくれるとは限らない」

 背中に、冷たい汗を感じた。
 恐怖が流れ落ちたのだ、と思った。

(´<_` )「皆、疑心暗鬼になっている。俺だって、常に警戒している。
      ブーン少将、いま最も疑われているのは君だ。
      第二のショボンになるのではないかと思われている」
48 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:56:08.65 ID:oC/6Xu760
(;^ω^)「……ブーンは……ブーンは、ヴィップの忠臣ですお……」

(´<_` )「言葉は、脆い……猜疑心が突けば、いとも容易く崩れてしまう。
      君はきっと、無力さを知る。言葉で語ることの、無力さを」

(;´ω`)「ッ……」

 オトジャの言葉が、いや、それに込められた思いが、重く圧し掛かる。
 疑われている。あのショボンのように、ヴィップを裏切るのではないかと。
 もう、仲間ではない、と思われている。

 皆が皆ではない。
 ただ、悪い噂は迅雷の如き早さで知れ渡る。
 フサギコやアニジャが一言漏らせば、あっという間だろう。

 言葉では何とでも言える。
 しかし、今まで自分たちはずっと、ショボンの言葉に騙されつづけていたのだ。
 言葉というものの儚さを今、改めて実感させられている。

(´<_` )「ただ、これだけは覚えておいてくれ、ブーン少将」

 オトジャが肩を掴んできた。
 そこに、微かな力が込められているのを感じた。

(´<_` )「俺は君を信じている。アニジャだってフサギコだって、いずれきっと君を信じる。
      信じる力を、侮らないでほしい。俺たちは、結託して戦っていくしかないんだ。
      君は決して疑うな。俺たちを信じてくれ。
      そうすればきっと、みんなも君を信じる」
53 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:57:55.43 ID:oC/6Xu760
 今まで、知らなかった。
 オトジャが、こんなにも強く、深みに響く言葉を、発するだなんて。

 気落ちせざるをえなかった自分の気持ちが、自然と明るくなるような。
 疑う力の強さを感じていた自分を、勇気付けてくれるような。

 そんな、言葉。

(´<_` )「アニジャは俺が説得するさ。上手くいくかどうかは分からんが……。
      今は感情的になりすぎているだけだと思う。冷静になれば、多分大丈夫だ。
      しかし、最終的にはブーン少将、君次第だ」

( ^ω^)「……はいですお」

(´<_` )「周りから嫌疑の目を向けられても、負けないでくれ。
      東塔から五人の将校が消え、ジョルジュ大将は病、モララー中将は重傷……。
      かつてない窮境だ……しかし、俺は絶望していない。
      今のヴィップで、唯一ショボンに対抗できる。
      そんな君が、希望の光なんだ」

 そしてオトジャは握り拳から親指を立てた。
 そのまま馬を曳いて城内へと入っていく。

 希望の光、とオトジャは言った。
 折りしも、自分がジョルジュやモララーを、希望だと言ったように。

 オトジャは、自分に対して同じ感情を抱いてくれた。
 それはどんな言葉よりもはっきりとした、信頼の証だった。
62 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 01:59:46.00 ID:oC/6Xu760
――翌々日――

 相変わらずやるべきことは多くあった。
 頻繁に情報が舞い込んできて、前線からは救援や支援を求められる。
 文官の仕事も相当に増えているようで、過労で倒れた者もいたくらいだ。

 さすがに調練などと言っていられる状況でもなかった。
 総出で支援や警戒にあたり、何とか敵からの脅威に備えている状態だ。

 昨日、ロマネスクが帰ってきた。
 シャッフル城はベルベットが隙なく守っているから大丈夫だ、という。

 デミタスが裏切ったときの話も聞いた。
 なにやら挙動のおかしなデミタスが、落ち着きを失った様子で、隊の編成を任せてほしいと言ってきたらしい。
 不審に思ったベルベットとロマネスクが動向を確かめたところ、ラウンジとの繋がりが発覚したらしい。

 デミタスが間抜けだったとは言え、それを見逃さなかったのはさすがだった。
 おかげでシャッフル城は保たれ、ラウンジによる侵攻を防げている。
 価値は高かった。

 ようやく、少しだけ落ち着きが戻ってきた。
 最初は皆、自分が為すべきことを把握できず、狼狽しながらの作業だった。
 それが時間とともに定着してきて、各々の役割を把握するようになったのだ。

 そうやって沈着を見せた頃だった。
 西のほうから、モララーが帰ってきたのは。

(;^ω^)「……え……?」
67 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:01:21.92 ID:oC/6Xu760
 モララーが帰ってきてくれたのは、嬉しかった。
 確かに重傷を負っているが、ちゃんとした口調で喋っているし、相変わらず頭脳も明晰だ。

 ただ、そのモララーが帰ってこれた理由。
 ずっと付き添っていたらしき人物。

( ゚д゚)「いったい何故だ、とでも言いたげだな」

 亡国の将、ミルナ=クォッチだった。
 何故だ、という言葉より先に、警戒心を露わにした自分がいた。

 聞かされていなかった。
 モララーはビロードと共に上手く窮地を脱し、ヴィップ城に向かっている。
 それしか報告は受けていなかったのだ。

 ミルナが一緒だとは、知らなかった。
 恐らく、誰も知らなかっただろう。
 モララーはあえて隠していたようだ。

 周りの兵たちは戸惑っている。
 警戒と怯えが入り混じってしまっているようだ。
 それが混乱となって、動きを静止させているのだろう。

 そういう自分も、思うように体が動かなかった。

( ゚д゚)「敵愾心などないさ。戦ったところで、意味がない」

(;^ω^)「…………」

( ゚д゚)「まぁ、いい。警戒したいのなら、勝手にしておけ」
75 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:02:54.09 ID:oC/6Xu760
 ミルナはゆっくりと、モララーを馬から降ろした。
 その体をすぐに支えに向かう。

( ・∀・)「すまねーな」

(;^ω^)「命があって何よりですお」

( ・∀・)「お前もな。よく生きててくれた」

 包帯を体中に巻きつけている様は、見るからに痛々しい。
 ただ、それを感じさせないほど、モララーはいつも通りの様子だった。

(;^ω^)「……何で、ミルナが……?」

 呟くように、言った。
 意図的ではなかった。何故か、呟きのようになってしまったのだ。
 恐らく、ミルナにも聞こえただろう。

( ・∀・)「詳しく話すと長……いや、別に長くねーか。
     プギャーに裏切られて襲われたときに、助けてくれたんだよ。
     んで、その代わりにジョルジュ大将と話させろってさ。
     警戒されてもなんだし、言わないほうがいいと思って隠してたが」

(;^ω^)「……ジョルジュ大将と?」

( ゚д゚)「俺とあいつが旧知の仲であることくらい、知っているだろう。
    少し、話したいことがある。モララーの了承は既に得ている」

( ・∀・)「ま、そんくらいいいだろうと思ってな。
     ただ、ジョルジュ大将がなんて言うかは知らねーぞ」
85 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:05:31.92 ID:oC/6Xu760
( ゚д゚)「拒まんさ。あいつも、俺に言いたいことがあるはずだ」

(;^ω^)「…………」

 自分にどうこうできる話ではないようだ。
 モララーが承認したということは、既にミルナとジョルジュだけの問題へ移っている。

( ゚д゚)「ジョルジュは病だったな。西塔の最上階まで行けばいいのか?」

(;^ω^)「いや、先にこっちで話をつけてきますお」

( ゚д゚)「それなら、待とう。勝手に入るわけにはいかんだろうからな」

 ミルナが脚を折って地べたに座り込んだ。
 腕を組んでいる。どうやら、ここで待つ気のようだ。

 配下の兵に命令し、西塔の最上階まで走らせた。
 ミルナが来ている。話をしたいらしい。
 それだけ伝えれば充分だろう。

 堂々と地面に座って腰を落ち着かせているミルナ。
 周りの兵が好奇の目で見始めた。
 衆目に晒されることは、不快ではないのか。

 特別な待遇を与える必要はないだろう。
 今やただの亡臣。いや、元々は敵国の大将だったのだ。
 過激な指揮官なら、首を刎ねようとしてもおかしくない。

( ・∀・)「あまり敵意を向けるなよ、ブーン。一応、命の恩人だからな」
92 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:07:15.08 ID:oC/6Xu760
 ミルナにばかり視線を送っていた。
 それに気付いたモララーが、諌めるような口ぶりで言った。

( ^ω^)「……そんなつもりはないですお」

( ・∀・)「自覚ねーみたいだが、相当尖った視線だぞ」

( ゚д゚)「別に、気にしてはいない。詮無きことだろう。
    ――――俺とお前の間には、拭いがたい遺恨があるのだから」

( ^ω^)「……だお」

( ・∀・)「……?」

 忘れはしない。
 死ぬまで、忘れることはない。

 幼いころから親友だった。
 同じ志を抱き、ともに戦い、生きてきた。
 ドクオ。

 その首を刎ねたのは、他ならぬミルナだ。
 戦では起こりうること。ドクオも、覚悟していた。
 分かっていても、憎しみがないとは言えなかった。

 幼稚な感情だとも思うが、無理に抑えこんでも仕方がない。
 ミルナがドクオを討ち取ったという事実がある以上、簡単には拭い去れないのだ。
96 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:08:52.10 ID:oC/6Xu760
 そしてミルナも自分を恨んでいるだろう。
 ドラル。リレント。そして王子であったディアッド=ウルフ。
 それらを討ち取ったのは、いずれも自分だ。

 フィルとガシューはラウンジによって討ち取られた。
 つまり、ヴィップの将でオオカミの主要武将を討ち取ったのは、全て自分なのだ。
 ミルナは当然、それを知っている。

 互いに、失いたくないものを失った。
 そしてそれを奪った相手が、目の前にいる。
 和やかに話せようはずもなかった。

 お互い遺恨を抱えている、という言葉通りだ。

( ・∀・)「戻ってきたな」

 城門のほうに目をやってモララーが言った。
 先ほど命令を与えた兵が、駆け足で戻ってきた。

( ^ω^)「ジョルジュ大将は、なんて仰ったんだお?」

(兵ヘ_イ)「分かった、と」

 ジョルジュらしい、短い答えだった。

( ゚д゚)「案内してくれるか?」

 立て膝に手を突きながら立ち上がるミルナ。
 強い視線を、自分に向けていた。
 敵意は感じられない。
102 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:10:23.31 ID:oC/6Xu760
( ^ω^)「……分かりましたお」

 城門へ向かって、歩き出す。
 静かに後をついてくるミルナ。

 寮塔の中を通って、西塔最上階へと向かった。
 すれ違う兵が皆、一様に驚いている。当然だった。

 安心してほしい、と視線で告げて最上階へと進んでいく。
 しかし、そう告げている自分が一番、警戒しているのだ。

( ゚д゚)「さっきは、あぁ言ったが」

 階段を一段ずつ上がっていく途中、ミルナが冷静な声で言った。
 自分より、数段下の位置にいる。

( ゚д゚)「中将や王子を討ち取ったのは、戦である以上、仕方のないことだ。
    それは俺も分かっている。恨みがないとは言わんが、お前を討ち取りたいなど、思ってはいない」

( ^ω^)「……分かってますお」

( ゚д゚)「お前は、どうなんだ」

 苛立っている、と言葉だけを捉えれば思える。
 だが、ミルナは相変わらず、冷静さを保っているようだった。

( ^ω^)「……ドクオの首をミルナさんが刎ねたのは、当然のことですお。ドクオが、負けたからですお。
     しかもそれは、オオカミにじゃなく、ショボンに」

( ゚д゚)「ちょっと待て、どういうことだ?」
109 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:11:55.37 ID:oC/6Xu760
 ミルナが立ち止まった。
 そして、強い口調に変わった。

( ゚д゚)「ショボンに負けたから、首を刎ねられた? どういうことだ?
    説明してくれ」

( ^ω^)「……あっ……」

 そうか、そういえばそうだ。
 ミルナは、ドクオが出兵した真実について、何も知らない。

 再び、上に向かって歩き出した。
 ドクオはショボンに嵌められたのだと、説明しながら。

 ミルナは、愕然としていた。

(;゚д゚)「……そこまで計算していたのか……ショボンは……」

( ^ω^)「大将だからこそ、できたことですお……。
      周りには手紙を摩り替えられたと言って、ホントは自分が書いてたなんて……」

( ゚д゚)「ドクオの才能は本物だった……特に守りの力は、凄まじかった……。
    それを危ぶんだ、ということか……」

( ^ω^)「ですお……」

 ミルナは、明らかに気落ちしていた。
 死闘を繰り広げた相手。そのドクオが、ショボンによって嵌められた、という事実。
 きっと、悔しいのだろう。
116 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:13:31.48 ID:oC/6Xu760
 ミルナは、利用されたのだ。
 ドクオを消す、というショボンの思惑に。

 もはや、悔しいという次元を超えた感情かも知れない。

( ゚д゚)「あのとき、ドクオをオリンシス城から引き出すのは、リレントの役目だった。
    俺は何も聞かなかったが、リレントが上手くやってくれたのだろうと思っていた。
    ……しかしあれは、ショボンの狙い通りだったというわけか」

 今度は、怒気。
 確然たる憤激。

 誰しもが、そうだ。
 卑劣な手段でヴィップを陥れたショボンを、恨んでいる。
 怒りを募らせている。

 オオカミさえ、ヴィップを潰すために利用された部分があるのだ。
 ミルナの怒りは、当然だった。

 説明と会話を続けている間に、西塔の最上階まで到達していた。
 扉の前に立つ。どうやら、鍵は開いているようだ。
 即ち、入室可ということ。

 ミルナは少し、顔が強張っていた。

( ^ω^)「ブーンは軍議があるので、失礼しますお」

( ゚д゚)「すまなかったな」
124 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:15:02.59 ID:oC/6Xu760
 ミルナに別れを告げ、一段ずつ飛ばしながら階段を下りた。
 気分が良かったわけではないが、何となく両腕を広げながら、駆け下りていった。



――ヴィップ城・西塔最上階――

 侍女が扉の向こうに居た。
 緊張した面持ちだった。

 黙って中へ案内される。
 大将室はあのラウンジ城のものより広い、と聞いていたが、その通りだった。
 オオカミ城で使っていた自分の部屋など、ここでは将官クラスの部屋の大きさだろう。

 ジョルジュが寝ている場所までが、遠い。
 大きな部屋の中に、更にいくつもの部屋がある。
 果たして使いきれるのだろうか、と思うほどだ。

 ジョルジュの寝室は、最奥にあるようだった。
 侍女が、そこに向かっていると視線や体の向きで分かる。

( ゚д゚)「ここまででいい。アルファベットを、預かっておいてくれ」

 侍女より前に出て、アルファベットUを壁に立てかける。
 侍女は素手だった。直接手渡すことはできない。
 慌てながら、布で柄を覆っている姿が視界の端に映った。

 そして、寝室の扉を開けた。

( ゚д゚)「…………」
134 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:16:44.04 ID:oC/6Xu760
 清風が、身を撫でた。
 開かれた窓。真正面にある。

 そしてそこにいるジョルジュ。

 実に、二十八年ぶり。
 不本意な形で別れた友が、目の前に、いた。

 窓辺で光を受けていた。

( ゚∀゚)「…………」

 窓の下に、木製の寝床があった。
 ジョルジュはそこで、体を起こしてこちらを見ている。
 後ろからは、光。

 寝室は、さっぱりとしていた。
 本や机がある程度で、きれいに片付いている。
 昔のジョルジュの部屋とは比べものにならないくらいだ。

 ――――何故、こんなどうでもいいことばかり考えてしまうのか。

 分かるようで、分からない。
 言葉が、出てこないのだ。

 何から話せばいいのか分からない。
 話すべきことは、多くある。そんな気がする。
 しかし、あくまで気がするだけだ。
144 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:18:42.18 ID:oC/6Xu760
 感情が頭の中を動き回って、落ち着かない。
 言葉は石のように重く、喉の奥から出てこようとしない。

 謝ろう、と思っていた。
 ジョルジュが、オオカミを去ることになってしまった原因。
 それは自分にあるからだ。

 自分のせいで作戦がヴィップにバレて、ジョルジュは捕らえられた。
 そしてヴィップの将として生きていく道を選んだ。

 直接会って、謝罪すべきことだと思っていた。
 ずっと考えていた。

 なのに、いざ目の前にしてみると、言葉が出ないのだ。

( ゚∀゚)「……すまなかったな」

( ゚д゚)「ッ……」

 言葉が出ないことに苦しんでいた。
 その自分より先に声を出したのは、ジョルジュだった。

 しかも、何故か最初の言葉が、謝罪だった。

( ゚д゚)「何を、謝っているんだ?」

( ゚∀゚)「……分かるだろ。俺はお前を騙しつづけていた」

 ジョルジュの言う通りだった。分かっていた。
 ずっと、騙されていた。
154 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:20:38.54 ID:oC/6Xu760
 必ずオオカミに戻る、とジョルジュは手紙を残した。
 自分だけに。唯一の友だった、自分だけに残していた。

 それを、信じていた。
 ジョルジュは必ず、オオカミに戻ってきてくれると。
 理由もなく、ただ漠然と、信じていたのだ。

 裏切られた形だった。
 しかし、ジョルジュを恨むような気持ちは、なかった。

( ゚д゚)「致し方ない。元はと言えば、俺の失態のせいだ。
    謝らなければならないのはむしろ、俺のほうだろう」

( ゚∀゚)「……確かに、お前が失敗しなきゃ俺がヴィップに降ることはなかった。
     でも俺は、ヴィップに来れて良かったと思ってるんだ。
     だからお前に対しては、明確な裏切りだ」

( ゚д゚)「……そうなるか」

( ゚∀゚)「戻る気もねぇのに、戻る素振りを見せていた。
     オオカミからの追っ手を逃れたかったからだ。
     それにお前は、俺がヴィップにいることで、ヴィップに対して遠慮した部分があっただろ?」

( ゚д゚)「なかったとは言わんがな。まぁ、全力を出していたとしても、ヴィップには負けていただろう。
    それほどに、ショボンは強かった。配下のモララーやギコ、ブーンといった将たちもな」

( ゚∀゚)「……ショボンに対する恨みは、強いのか?」
164 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:22:15.39 ID:oC/6Xu760
 ジョルジュの体には、影ができていた。
 病によって肉が落ち、骨ばってしまっているためだろう。
 昔とは随分、様変わりしている。

( ゚д゚)「正直に言って、どうでもいい。ショボンのことなど、関係がない。
    オオカミは消えた。大将の俺が不甲斐なかったせいでな。
    恨むとすれば、己の無力さだろう」

( ゚∀゚)「……そうか」

( ゚д゚)「ジョルジュ、俺がしたい話は、そんなことではないのだ」

 窓の向こうに広がる、果てなき蒼穹。
 その手前、まるで翼を失った鳥のように見える、ジョルジュ。
 固く、手を閉じている。

( ゚д゚)「教えてくれ。お前は、最初から俺を欺くつもりだったのか?
    ヴィップでずっと動き続けるために、あの手紙を残したのか?」

 一歩前に出ながら、言った。
 ジョルジュは、少し顔を俯けた。

( ゚д゚)「俺はそれが知りたい。真実が、知りたい。
    お前がいったいどういうつもりで、ヴィップに寝返ったのか。
    そしてヴィップに寝返ったあと、何があったのか」

(  ∀ )「…………」

( ゚д゚)「それだけが、聞きたかったんだ」
70 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:23:46.91 ID:oC/6Xu760
 俯き加減から一向に上がらない、ジョルジュの顔。
 何を、見つめているのか。

 例えば、未来が上にあるとすれば、過去は下にあるのだろう。
 だからジョルジュは、俯きながら下を見ているのだ、と思った。
 握り締められた、己の手を。

( ゚∀゚)「……ミルナ、肩を貸してくれるか?」

( ゚д゚)「……は?」

 意を決したような表情で、言葉を発した。
 真実を、語ってくれるのだろう、と瞬時に察した。

 が、違った。

( ゚д゚)「どういう意味だ?」

( ゚∀゚)「ちょっと、行きたいところがある」

( ゚д゚)「待て、俺の質問に」

( ゚∀゚)「行った先で答えるさ。必ずな。
     だからすまん。少しだけ、肩を貸してくれ。
     一人でも歩けなくはないが、多少辛い」

 すぐに頷くことはできなかった。
 ジョルジュの、目的が分からない。言葉の意味も。
179 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:25:18.17 ID:oC/6Xu760
 オオカミという国がなくなってから、ずっと考えていた。
 ジョルジュがヴィップに寝返った真意。そして、その後の心境の変化。
 きっと何かある、と思ったのだ。

 それはひどく個人的な引っかかりで、国を失ったからこそ考えられたことだった。
 国軍の頂点に立つ者の思考としては、あまりに些細すぎる。
 ただの男に成り下がったからこそ、そんな些細なことを、気にしていられたのだ。

 そして、それを聞かないことには死ねない、とも思った。
 自ら命を絶つ気はないが、いつ果てるかは誰にも分からないのだ。
 だから、なるべく早めに聞いておきたかった。

( ゚д゚)(……それを遮られたのは……少々、納得がいかないが……)

 ジョルジュは、行った先で答えると言った。
 ならば、それでもいい。急ぎではない。
 答えさえ得られればいいのだ。

( ゚д゚)「分かった」

( ゚∀゚)「すまんな」

 寝床から降りたジョルジュに、肩を貸す。
 その体は、窓から吹き込んでいる風に乗るのではないか、と思うほど軽かった。

 ジョルジュはアルファベットVを使っていたというが、恐らくもう、Vは使えないだろう。
 何となく、しかし確信のように、そう思った。
185 名前:第77話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/28(日) 02:27:20.58 ID:oC/6Xu760
 半ば、肩に担ぐようにして、寝室から出る。
 ジョルジュの足取りは覚束ない。
 一応歩いてはいるが、一人なら長くはもたないのだろう、と分かった。

 どこに行くのか、は聞かなかった。
 ジョルジュが進む方向に、ただ向かうだけでいい。

 例えどれほど遠方であろうと、構わなかった。
 いつまででも肩を貸してやる、体を支えてやる、と思った。

 侍女が心配そうに後をついてきたが、ジョルジュが視線を送ると立ち止まった。
 若く、肌の美しい女だった。
 アルファベットだけを受け取り、その侍女から離れる。

 ゆっくり、ジョルジュの歩調に合わせて、大将室から出た。
 やはり、ジョルジュの体は軽い、と風に思わされた。











 第77話 終わり

     〜to be continued

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