5 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:00:44.57 ID:op0wNlDm0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 少将
使用可能アルファベット:V
現在地:ミーナ城とシャッフル城の中間地点

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:???

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:???

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:シャッフル城
11 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:02:05.54 ID:op0wNlDm0
〜東塔〜

大将:
中将:モララー
少将:ブーン

大尉:ビロード/ベルベット
中尉:ロマネスク
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
13 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:02:31.44 ID:op0wNlDm0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー/ファルロ
T:アルタイム
U:ミルナ
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
26 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:04:17.10 ID:op0wNlDm0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

 

32 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:04:58.00 ID:op0wNlDm0
【第75話 : Soon】


――間道――

 鋭い打ち込み。
 しかし、見切れないほどではない。

 受け止めて、弾き返した。
 ファルロは体勢を崩すことなくこちらを見据えている。

 あまり悠長に構えてはいられない。
 すぐにでも決着をつける必要がある。

 だが、そう易々と通してはくれないようだった。

(# ̄⊥ ̄)「ふんっ!!」

 鋭さがある。
 そして、重みもある。

 相当に鍛錬を積んでいることは、一合目で分かった。
 自分よりいくつか下位のアルファベットだが、油断はできない。

(#^ω^)「おおぉぉッ!!」

 ファルロの攻撃をいなして反撃に移った。
 屈折した刃を持するV。曲折した刃を持するS。
 リーチにさほど差はない。
43 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:06:48.27 ID:op0wNlDm0
 振り下ろす攻撃を、ファルロは冷静に受け止めてきた。
 押し切れるか。試してみよう、と思った。
 力を込める。上腕の筋肉が盛り上がる。

 ファルロは全くたじろいでいない。
 力では負けているか。ファルロは見るからに体格もいい。
 押し切るのは難しそうだ。

 例え力で負けていたとしても、技術では確実に上回っている。
 それを見せ付ける必要も、ありそうだった。

 手首を返して、折れ曲がった刃の先端を突きつけた。
 ファルロも素早く反応してくる。刃がこちらに向く。

 だが、甘かった。
 Sの刃にVを引っ掛け、瞬時に力の向きを変える。
 横から、上へ。

 Sが一瞬、浮き上がったように見えた。
 ファルロはアルファベットを離してはいない。
 しかし、体勢は思わしくないだろう。

 すかさずアルファベットを引き戻した。
 ためが要る。それも、素早く行わなければならない。
 だが、それを為せる。技術の差がある。

 これが、お前との差だ。
 そう言ってやりたかった。

 アルファベットを、振り下ろした。
52 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:08:56.24 ID:op0wNlDm0
(;^ω^)「ッ……」

 決まった、と思った。
 さっきの一撃で、勝負は決した、と。

 だが、ファルロは攻撃を防いできた。
 それも、際どくはない。確実に、防いできたのだ。
 驚いた。守りの力は、相当にある。

 もう一度、攻撃を見舞った。
 振り払い。しかしそれも、ファルロは防いできた。
 アルファベットを縦に使われた。上手い防ぎ方だ。

 主導権はこちらが握っている。
 相手には攻めさせていない。確実に、有利だ。
 しかし、一撃を与えられない。

 攻めきれない、というのが本音だった。
 ファルロの戦い方は、恐らく守りに主眼を置いている。
 相手の攻撃を防ぎ続け、隙を見て反撃するという戦い方だ。

 自分は真逆だった。
 攻撃に攻撃を重ね、相手を圧倒し、押し切るという戦い方だ。
 もちろん状況によって変わることはあるものの、基本的に攻めを主として考えている。

 どちらにも利点はある。
 自分に合った戦い方が最良だ。

 果たして、上回るのはどちらか。
58 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:10:57.52 ID:op0wNlDm0
(#^ω^)「うおおおぉぉぉッ!!」

(# ̄⊥ ̄)「はぁぁぁぁぁッ!!」

 打ち合った。
 甲高い金属音がひときわ大きく鳴り響く。
 上位アルファベット同士の衝突。それは、想像を絶する高み。

 昔に比べれば増えたとは言え、Sの壁突破者は決して多くない。
 それが二人揃う。そして、アルファベットをぶつけあう。
 となれば当然、衝突する力は果てしなく強力なものになる。

 周りの兵が、寄り付かない。
 それほどのものなのだ。

 しかし、ファルロはまだSだ。
 自分は何年も前に突破した。今はVを握っている。
 上位の強みというのは、必ずある。

 活かさなければ。
 その先にこそ、勝利は見えるはずだった。

 アルファベットを振り上げた。
 ファルロが躱す。そして、反撃に移ってくる。
 防いだ。攻撃は、通さない。

 既に十数合は打ち合っている。
 長引く一騎打ち。あまり思わしくはない状況だ。
 しかし、焦ることもできない。
63 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:13:16.65 ID:op0wNlDm0
 周りの兵はよく戦ってくれている。
 いや、持ち堪えている、といったほうが適切だろうか。
 兵数はラウンジのほうが多い。確実に不利な状況だ。

 兵の錬度では優っている自信があるが、それだけでは埋まらない差があった。
 やはり兵力というのは、どんな状況であれ強みになる。

 Vを突き出した。
 ずっと振りばかりだったが、いま初めて突きを見舞った。
 ファルロが動じたのが分かった。

 そのまますかさずアルファベットを横に動かす。
 ファルロのSにそれは防がれるも、体勢は崩した。
 追撃。あまり力はこもっていないが、そのまま体を切り裂くようにして。

 曲折したSの刃に、Vを引っ掛けられた。
 やはり防御は上手い。今の攻撃も、防がれた。
 愚直な攻撃では打ち破れない。策を巡らせる必要がありそうだ。

( ^ω^)(……よし……)

 とにかくやってみよう、と思った。
 多少危険も伴うが、何とか上回れるはずだ。
 それだけの差が、二人の間にはある。

(#^ω^)「くぉっ!!」

 掛け声と共に再びVを突き出した。
 ファルロはやはり躱してくる。先ほどと同じ動き。
 そしてやはり同じように、アルファベットを横へと動かした。
73 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:15:05.28 ID:op0wNlDm0
 ここまで先ほどの動きをトレースした。
 恐らくファルロは、無意識のうちに、次の動きをイメージしている。
 先ほどと同じ動きを思い浮かべている。

 しかし、変えた。
 先ほどは振り下ろすような動きだった。だが今度は、再び横。
 ファルロのSを、押し切るようにして。

(; ̄⊥ ̄)「ッ!!」

 ファルロの焦りが、見てとれた。
 決して意外な行動ではない。しかし、布石があった。
 以前と同じ動きを、想定してしまった。

 そんなファルロの思いが、表情から伝わってきた。

(#^ω^)「おおおおおぉぉぉぉッ!!」

 力の向きを少しだけ変えた。
 ファルロのアルファベットを弾く。そのために。
 ここで相手に隙を作らせれば、討ち取れる。

 力を込める。
 ただ強く、ただただ強く。

(;^ω^)「ッ……!?」

 だが、崩れない。
 ファルロが、崩れてこない。
80 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:17:02.24 ID:op0wNlDm0
 全力を出している。
 力で負けているとは言え、体勢がいいのは自分だ。
 この状態なら、押し切れるはずなのに。

 ファルロは、堪えている。
 いや、押し返そうと――――

(# ̄⊥ ̄)「ぬおおおぉぉぉぉッ!!」

(;^ω^)「ぐっ!!」

 想像以上。
 ファルロは、アルファベットを押し返してきた。

 弾かれる。
 互いに、隙。

 どちらが速く、アルファベットを出せるか。
 勝負は、そこに向いた。

 素早く肘を曲げる。
 アルファベットに勢いをつけ、ファルロの首を狙う。

 だがファルロも速い。
 肩を使ってアルファベットを僅かに引っ込め、勢いをつけた。
 そしてそのまま、突き出してくる。

 タイミングは、同時。
 アルファベットが、ぶつかる。
87 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:19:24.31 ID:op0wNlDm0
(#^ω^)「くぉっ!!」

(# ̄⊥ ̄)「ふんぬッ!!」

 接する。
 そして、生み出される強大な力。

 火花が散って見えた。

 その瞬間、勝利を確信した。

(; ̄⊥ ̄)「ッ!!」

 まだ、互いの力が完全に伝わりきらないうちに。
 ファルロのアルファベットを、弾いた。

 胴体に完全なる隙。
 瞬時に手綱を引いて、馬を駆けさせる。

 すれ違いざまの、一撃。

 確実な手応えが――――あった。

( ^ω^)「行くお!」

 振り向かずにそう叫んで、駆けた。
 ファルロを一騎打ちで破った。これで、ラウンジ軍は崩れるだろう。
 後ろの三千も抜けてこれるはずだ。
124 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:28:55.40 ID:op0wNlDm0
 最後はやはり、アルファベットの差が明暗を分けた。
 互いのアルファベットが触れた瞬間。明らかに、こちらのほうに分があった。
 一気に押し込めることができた。

 自分の矜持にかけても、負けられなかった。
 その一騎打ちに、勝った。

 後は、敵に追いつかれないようにしながら、オリンシス城に向かうだけだった。



――フェイト城とオリンシス城の中間地点――

 シャッフル城は奪われているかも知れない。
 ここは、オリンシス城に向かったほうがいい。

 それがモララーの意見だった。

( ゚д゚)「確かに、そうかも知れん」

 モララーの意見に同意した。
 ショボンの配下であったというデミタスが居る城だ。
 裏切りによってラウンジの手に落ちている危険性がある。

 情報が得られればいいが、この状況ではいかにも難しかった。

( ゚д゚)「それで、モララー。どうなんだ?」

( ・∀・)「アンタをヴィップ城に連れて行くことか?」
134 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:31:23.66 ID:op0wNlDm0
( ゚д゚)「そうだ。無茶な願いだとは分かっているが」

( ・∀・)「無茶でもなんでもねーさ。それくらい、易いことだ」

( ゚д゚)「ありがたい」

 もっと反発されるだろう、と予想していた。
 しかし、モララーはあっさりと受け入れてくれた。

( ・∀・)「ショボンのことは、フィレンクトに聞いたのか」

( ゚д゚)「あぁ。あくまで『裏切る恐れがある』という、曖昧な話だったがな」

( ・∀・)「しかし、ジョルジュ大将がそこまで読んでたとは思わなかった。
     驚いたな……身近にいた俺やギコ、ブーンたちでさえ気付けなかったのに……」

( ゚д゚)「恐らく、お前たちは身近に居すぎたんだ。
    だからショボンの裏切りを見破れなかった」

( ・∀・)「そうかも知れない……しかし、俺たちに過失はある」

( ゚д゚)「だからと言って、責任を取ろうなどと思うなよ。何の意味もないぞ」

( ・∀・)「分かってるさ、それくらい」

 モララーは、あくまで平静を装うとしている。
 だが、皮膚に浮かぶ脂汗までは隠せないようだ。
 体は相当に痛むのだろう。
142 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:33:25.14 ID:op0wNlDm0
 しかし、痛みを隠そうとしている相手に、それを指摘することはできなかった。
 恥をかかせることになるからだ。

( ・∀・)「……ミルナ、ジョルジュ大将と会って何を話すつもりだ?」

 やはり痛みを堪えながら、モララーは問いかけてきた。
 その声もどこか、平静ではないように感じる。
 次第に痛みが増してきているのだろうか。

( ゚д゚)「他愛もない話さ」

( ・∀・)「俺には言いたくない、ってことか」

( ゚д゚)「まぁ、そうだ。あまりいい話ではない」

( ・∀・)「昔からの付き合いだったんだろ? 積もる話でもあるんだろうと思うが」

 独特の言い方だった。
 言葉に裏の意味はないだろう。だが、深い一言だ。
 積もる話。ある意味では、端的な表現だった。

( ゚д゚)「大したことではないさ。
    ただ、俺はあいつに謝らなければならない」

( ・∀・)「……?」

( ゚д゚)「そして――――俺は真実が知りたい」

 本音がつい、言葉になってしまった。
 真実が、知りたい。理由の比重は、それが大きい。
150 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:35:53.40 ID:op0wNlDm0
 ジョルジュとの間に、分からないことがいくつかある。
 知りたいことが、いくつかある。
 だから話したいのだ。話してどうなるというわけでもないが、聞いておきたいことがあるのだ。

 ヴィップ城に行きたい理由は、ただそれだけだった。
 ショボンのことや、ラウンジとヴィップのことなどは、どうでも良かった。

 自分は、ジョルジュと話したい。
 それをフィレンクトは見抜いていた。

 だから取引を持ちかけてきたのだ。
 万一の場合は、将校を助けて欲しいと。
 特にモララーが危ないだろう、と。

 そこで将校を助ければ、ジョルジュに会いたいという要求をしても筋が通る。
 そして、恐らく聞き入れてくれる。
 だから、頼む。

 国を失って気力も萎えていた自分に、フィレンクトはそう言った。
 オオカミが滅亡してから、一ヶ月ほど経った頃だった。

( ・∀・)「そうか」

 モララーは短く言った。
 何かを考えているようでもあったが、言葉にはしなかった。

 しばらく走り続けた。
160 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:37:53.30 ID:op0wNlDm0
 いつの間にかモララーは目を閉じていた。
 ただ、しっかりとビロードにしがみついている。
 ビロードもモララーの腕をしかと握り締めていた。

( ゚д゚)「これからヴィップは、大変だな」

 並走しているビロードに声をかけた。
 何を思うでもなく、ただ自然と声が出たのだ。

( ><)「……はいなんです」

( ゚д゚)「天下は遠ざかった。いや、もうかなり厳しい。
   それは、間違いないだろう」

( ><)「……よく分かんないんです」

 強がりのような言葉をビロードは残し、馬を加速させた。
 呼応するようにして、自分も馬の尻を叩いた。

 いつしか夜も深まりつつあった。



――オリンシス城――

 雪がちらつきはじめた。
 しかし、すぐに止んだ。

 オリンシス城の放つ銀色は、夜でも少し眩しく感じた。
175 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:41:49.90 ID:op0wNlDm0
(;^ω^)「ハァ、ハァ……」

 ファルロ率いるラウンジ軍から逃れ、必死で駆けてきた。
 馬を休ませる余裕もなかった。

 何とか馬を潰さずに、ここまで駆けることができた。
 オリンシス城。幾度も戦の舞台となった城。

 果たして、ここはヴィップの城だろうか。
 その不安が、まずあった。

(;^ω^)(……もしかしたら、ここも……)

 ショボンの手によって、ラウンジのものとなっているかも知れない。
 守将に自らの配下を置くくらい、難なくできたはずだ。可能性はある。
 いや、むしろ高い。

 城は穏やかだった。
 もし既に裏切りが起きていれば、これほど静穏に包まれてはいないだろう。
 そう思うが、分からない。疑いは絶えない。

(;^ω^)(……いや……ここは……)

 信じよう、と思った。
 疑いはじめるときりがない。誰だって疑えてしまう。
 猜疑心の塊になって誰も信じられなくなるくらいなら、命を賭けて信じたほうがいい。

 さっきも思ったことだった。
 自分の決意を、思い出すことができた。
192 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 02:46:35.75 ID:op0wNlDm0
 城内に入ろう、と決めて、馬を進めさせた。
 二百ほど減ってしまった配下の兵と、足並みを揃えながら。

 しかし、自分たちが城門に辿り着くより先に、城門が開いた。
 敵か。そう思ったが、殺気は感じられない。
 恐らく味方だ、と直感が告げていた。

(;‐λ‐)「ブーン少将! いかがなさったのですか!?」

(;^ω^)「オリンシス城の守将かお?」

(;‐λ‐)「はい! レヴァンテイン=ジェグレフォードといいます!」

 薄く開かれた目の奥に、力強い光があった。
 信じたくなる。いや、信じるべきだ、と思える瞳。

 手短かに事情を話した。
 レヴァンテインは、話を聞いた瞬間、腰を抜かした。
 そして、呆然としていた。

(;^ω^)「気持ちは分かるお……ブーンだって信じたくないお……。
      でも、事実なんだお……」

(;‐λ‐)「……そんな……」

 軽い冗談だお。
 そう言えたら、いったいどれほど楽だろうか。
246 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:02:38.37 ID:op0wNlDm0
 だが、目の前にあるのは冷酷なまでの事実だ。
 ショボンやオワタは裏切った。ギコは死んだ。
 モララーたちの安否も分からない。

 その事実を受け止めて、今は生き延びるしかない。

(;^ω^)「船は出せるかお?」

(;‐λ‐)「は、はい」

(;^ω^)「ブーンは今すぐ配下の兵とマリミテ城へ向かうお。
     レヴァンテインは他に逃げてくる兵のことを頼むお。
     モララーさんが来るかも知れないお」

(;‐λ‐)「分かりました」

 とにかく、ヴィップ城へ戻らなければ。
 自分の口から、全てを伝えなければ。

 いま考えるのは、それだけだった。
 最も大事なことだ、と思うからだ。

(;‐λ‐)「マリミテ城の守将であるルシファー=ラストフェニックスは信頼できる男です。自分が保証します」

(;^ω^)「信じるお!」

 水と兵糧を受け取り、少しだけ休息を取って、船に乗り込んだ。
 すぐに船は動き出す。真っ暗な水を切り裂きながら。
 水面に浮かんだ星々を揺らしながら。
256 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:04:42.14 ID:op0wNlDm0
 速く、速く、と気は逸る。
 だが、先ほどまでに比べれば少しずつ落ち着けてきていた。
 ここまで来れば危険性は薄い。その安堵感によるものだ。

 大変なことになってしまった。
 信じられないことが起きてしまった。
 それはただ、受け入れるしかない。

 問題はむしろ、今後にあるのだった。



――ミーナ城付近――

(´・ω・`)「……そうか……ミルナ=クォッチ……」

 ふぅ、と息を吐いた。
 フィレンクトが微笑みながら、喘ぎながら話したこと。
 面白い話、とフィレンクトは言った。

 実際聞いてみたら、実に不愉快な話だった。
 あくまで、"フィレンクトにとって"面白い話だったのだ。

 ミルナが、モララーを助けに行っている、という話。

(´・ω・`)「よく見つけたな」

(‘_L’)「オオカミが滅んだとき、ミルナ殿の動きを見ていましたから」

(´・ω・`)「目をつけていたわけか。オオカミが滅ぶ前から」
270 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:07:26.67 ID:op0wNlDm0
(‘_L’)「貴方の策略によって、オオカミは滅びました。
    だからミルナ殿にはお話すべきだと思ったのです」

(´・ω・`)「相変わらず、頭がよく回るやつだ」

 ミルナは恐らく、国を滅ぼしたものを恨んでいる。
 あれほどオオカミに尽くした軍人だ。当然だろう。
 今まではヴィップとラウンジを。鬱々と、恨んでいたはずだ。

 だが、知ってしまった。
 あれは全て、東塔の大将であり、ラウンジへの忠誠を抱いていた自分によるものだった、と。
 ミルナは、気付いてしまった。

 厄介なことに、なりかねなかった。 

(‘_L’)「ジョルジュ大将は『他の誰にも話す気はない』と仰っていましたが……
    国を失ったあとのミルナ殿なら、問題ないと」

(´・ω・`)「こればかりは、お前が上だったか。相手がミルナでは、プギャーには荷が重過ぎる。
      恐らくモララーは生き延びただろう」

(‘_L’)「そうであれば、喜ばしいことです」

 元々、プギャーでは難しいかも知れないと思っていた。
 読みが悪い。考えも浅い。
 根本的に、頭が悪いのだ。

 だが、討ち取れる可能性は決して低くないはずだったのだ。
 期待もしていた。しかし、相手が悪すぎる。
279 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:09:43.24 ID:op0wNlDm0
 自分でなくて良かった。
 心の底からそう思った。

 プギャーは討ち取られただろうか。
 可能性としては充分、ありえる。モララーとミルナが相手なのだ。
 例え自分でも、安全とは言えない。

 プギャーでは、どうしようもないだろう。
 仮に事前の予定通りビロードを人質に取っても、厳しかったはずだ。
 奇跡に期待するしかなかった。

(´・ω・`)「被害を、できる限り軽減しにきた。そういうことか」

(‘_L’)「その通りです。それが、私の役目でした」

(´・ω・`)「やってくれたな……実に屈辱的だ」

 ジョルジュ、そしてフィレンクト。
 また、ミルナ。

 上手く立ち回られてしまった。
 この戦い、勝ったのは自分だ。それは間違いない。
 ギコを討ち取っている。城も奪っている。そして、ヴィップは何も得ていない。

 だが、屈辱感は拭えなかった。
 ブーンは逃がしてしまった。モララーも恐らく生きているだろう。
 事前の計画は、かなり崩されてしまったのだ。

(´・ω・`)「しかし、何故だ?」
289 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:13:02.47 ID:op0wNlDm0
(‘_L’)「……?」

(´・ω・`)「何故、それを俺に話した? 別に話す必要はなかっただろう。
      ミルナがモララーを助けることなど」

 純粋な疑問だった。
 自分に話したところでフィレンクトに利はない。
 確かに損もないが、あえて話す意味などなかったはずだ。

 しかし、フィレンクトは笑顔だった。

(‘_L’)「お伝えしたかったのですよ」

(´・ω・`)「……何をだ」

(‘_L’)「お前の思い通りにはさせない。
    ヴィップは必ずラウンジを打ち破る。
    ――――そう言いたかった。ただ、それだけです」

 力強い、フィレンクトの言葉。
 とても死ぬ間際とは思えないほどだ。

 ヴィップは、ラウンジを打ち破る。
 必ず。

 これ以上はないほど、清々しい最後の言葉だ。

(´・ω・`)「よく、ここまで頑張ったな」
298 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:14:53.12 ID:op0wNlDm0
 アルファベットZを構えた。
 双剣。闇夜に混じる。
 暗い輝きを発しながら。

(´・ω・`)「だが、ヴィップの天下なんぞ訪れはしない。
      天下はもう掌の上にある。あとは、掴むだけだ」

(‘_L’)「勝てませんよ、貴方では。
    ヴィップにいた貴方が、一番分かっているでしょう」

(´・ω・`)「ヴィップの力を分かっているからこそ、だ」

 フィレンクトの顔や言葉は、最後まで清々しい。
 この世との離別が迫っているように、感じさせない。

 恐らく、ヴィップの将校たちもそうだろう。
 まだ諦めてはいない。これから、もがこうとしてくる。
 本気で、ヴィップの世を築こうとしてくる。

 それを打ち破るからこそ、得られる快感もあるのだ。
 恐らく、フィレンクトには分からないだろう。

 あっちで見ていろ。
 お前が必死で守ったものが、俺に潰される様を。
 打ち壊される光景を。

 心の中だけでそう言った。

(´・ω・`)「さらば」
318 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:17:26.13 ID:op0wNlDm0
 すっと、通り過ぎた。
 フィレンクトの首を、アルファベットZが、横切った。

 最後まで上を向き続けていたフィレンクトの首が、横に向いて転がった。

川 ゚ -゚)「ショボン様」

 アルファベットを振って、血を払った。
 フィレンクトの屍体には、眼が行かなかった。

(´・ω・`)「クーか。何だ」

川 ゚ -゚)「ご報告を」

 兵の身なりをした間者のクーが、フィレンクトの屍体の側に立った。
 首の離れたそれには、見向きもしなかった。

川 ゚ -゚)「モララー=アブレイユはミルナ=クォッチの救援によって逃げ遂せました。
    ビロード=フィラデルフィアも生きています」

(´・ω・`)「使えんな、プギャーは」

川 ゚ -゚)「ただ、モララーはプギャー様によって相当の傷を負いました。
    恐らく、一年か二年は戦に出れないかと」

(´・ω・`)「そうか。しかし、あいつには知略がある。
      生きているだけでそれは発揮されてしまう」
343 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:20:28.30 ID:op0wNlDm0
 病を得ているジョルジュとて、そうだ。
 戦には出れないが、頭を使って国を動かすことができる。
 戦略、戦術。謀略。いずれも頭と口さえ動けばいい。

川 ゚ -゚)「デミタス様は討ち取られました。
    ベルベットとロマネスクに謀反を見破られたようです。
    シャッフル城も奪えませんでした」

(´・ω・`)「期待はしていなかったが、まさか討ち取られるとはな。
      とんだ下手を打ったものだ。
      あいつの気弱さが災いしたんだろう」

川 ゚ -゚)「どうやら、そのようです。
    またその際、カルリナ様とアルタイム様がシャッフル城を攻めましたが、返り討ちに遭っています。
    ただ、敵の攻撃を上手くかわして逃げ延びたようです」

(´・ω・`)「そうか。まぁ、いま死なれると困るな。
      とりあえずは、生き延びてくれて良かった」

 デミタスの使い方については、迷っていた。
 アルファベットの才覚はあるが、どうにも頭が弱かったのだ。
 とりあえずシャッフル城を任せてみたが、上手くいくことはさほど期待していなかった。

 だが、討ち取られた挙句にアルタイムやカルリナにまで危険が及ぶとは、想定していなかった。
 思った以上に使えない男だった。死んでくれたことは、むしろ良かったかも知れない。

 デミタスもオワタも、クラウン国王によって送り込まれた刺客だ。
 さすがにクラウン国王は見る目がある。二人はいずれもJの壁を突破した。
 ただ、性格まではどうにもならなかったようだ。
358 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:22:31.79 ID:op0wNlDm0
 大事なのはアルファベットの使用ランクだ。
 最低でもJの壁を突破してくれないと、将校に推挙できない。
 フィレンクトほどの才知があれば別だが、それは極端に稀なケースだった。

 前線の城を任せるとなると、やはり将校でなければならない。
 そうすると当然、壁の突破者である必要がある。
 だからクラウン国王の送ってくれた人間は、まさに的確だった。

 できればもう少し、頭の回るやつであれば。
 そうも思うが、ラウンジからの刺客は幼い頃に送り込まれるため、難しい部分があるのだ。

 しかし、オワタはしっかり自分の役目を果たしてくれた。
 名城と名高いオオカミ城を奪えたのは大きい。
 あそこからオリンシス城を狙っていける。

 オリンシス城やマリミテ城、エヴァ城などに、自分の配下は置いていない。
 兵卒は紛れ込ませてあるが、主だった地位の兵は一人としていないのだ。

 それは、デミタスのように下手を打たれ、事前に発覚するとまずかったからだった。
 デミタスの件など、一歩間違えばギコを殺す前に自分のことが知れ渡っていた。危なかった。

 そういった危険性を回避するために、他の城は普通のヴィップ兵に任せておいた。
 それでいい。裏切りは効果が大きいが、失敗すると受ける被害も大きいのだ。
 相手を弱らせてから普通に奪いにいったほうが確実だった。

 そう思ったのはやはり、ジョルジュの存在が大きかった。
 自分のことを疑っていた。その状態であまりに仲間を増やすと、ジョルジュに見破られかねなかった。
366 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:25:13.09 ID:op0wNlDm0
 今回の戦が始まる前に、ジョルジュの信頼を得ること。
 それが何よりも重要だったのだ。
 全ての指揮権を得られた。そうすることで心置きなく、東塔の将校を狙いにいけた。

 城の一つや二つで危険を冒したくはなかった、ということだ。

(´・ω・`)「奪えた城は、三つか」

川 ゚ -゚)「はい」

(´・ω・`)「まぁ、悪くはない。四つか五つ奪えればなお良かったが」

川 ゚ -゚)「状況的に、五つは難しかったことでしょう」

(´・ω・`)「そうだな。あまり手を回しすぎると、発覚する恐れがあった」

川 ゚ -゚)「それを避けての謀反、お見事でした」

(´・ω・`)「まぁ、上手くいかなかった部分もある。反省点は少なくない」

川 ゚ -゚)「しかし、効果は絶大でした」

(´・ω・`)「一定の効果はあった。それは俺も感じている」

 だが、とどめを刺すまでには至らなかった。
 その言葉はあえて口にせず、喉の奥に押し込めた。

 ブーンもモララーも生きている。
 そして、ミルナがヴィップに加わるかも知れない。
375 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:27:43.01 ID:op0wNlDm0
 東塔は一気に五人の将校を失った。
 モララーも重体。かなりの戦力を削いだ。
 しかし、西塔は無傷で残っている。

 さすがに西塔には手を付けられなかった。
 ジョルジュの目が光っていたし、将校たちも鋭かった。
 西塔を崩壊させることは早々に諦めていた。

 だが、クーの報告によれば、西塔は素早く守りに移って体勢を整えたという。
 西塔の方面で一つくらい城を落としてほしかったが、どうやら成せなかったようだ。

 西塔も手強い。
 何か工作が必要だったか、とも思うが、やはり危険性が大きすぎた。

 ヴィップ軍は崩壊しつつあるものの、立て直せないレベルではない。
 いや、必ずラウンジに立ち向かってくる。このままでは、面倒なことになる。
 何か策を講じる必要がありそうだ。

川 ゚ -゚)「これから、どうなさいますか?」

(´・ω・`)「少しの間、ここに留まる。城を整備しなければな。
      しばらくしたらラウンジ城へと向かうつもりだ。
      今のうちにヴィップを攻めたい気持ちもあるが、まずは国王に挨拶したい。
      既存のラウンジの将たちと会話する必要もあるだろう。
      今のままヴィップに攻め込んでも、連携が取れないからな」

川 ゚ -゚)「……はい」
386 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:29:34.30 ID:op0wNlDm0
 クーが凛とした顔で頷いた。
 相当に美しい顔立ちをしている。しかし、自分にとってはどうでもよかった。
 間者としての能力がなければ、顔立ちなど無意味だ。

 だが、時にはその美貌を活かして男を誑しこんだりもする。
 そうやって自分の特徴を最大限活かすからこそ、クーは有能だった。
 もちろん、頭の良さや武術、剣術などの心得もある。これ以上はない、というほど優秀な間者だった。

 クラウン国王が育ててくれた間者だ。
 異国で働く自分のために、軍学を学ばせ、アルファベットを遣わせ、男を魅了する術まで身につけさせた。
 今の自分があるのはクーのおかげだ、と言っても過言ではなかった。

川 ゚ -゚)「首は、持っていかないのですか?」

 初めて、クーはフィレンクトに目を向けた。
 右腕がない。左手もない。
 そして、首もない。

川 ゚ -゚)「見せしめとするのも手かと存じますが」

(´・ω・`)「死んだ地の土に還る。武人はそうあるべきだ、と思っている」

 最後まで雄々しかったフィレンクトには、それが合っているだろう。
 首も体も、このまま放っておくつもりだった。

 自分に立ち向かってきたのは、生きていたときのフィレンクトだ。
 死んだ今となっては、もはやフィレンクトではなく、ただの屍体。
 ただし、武人の屍体だった。
394 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:31:25.03 ID:op0wNlDm0
 最後まで武人らしく居させてやる。
 そんな気持ちが、自分のどこかにあった。

 本来、捨てなければならない感情だった。

川 ゚ -゚)「……やっと、お帰りになれますね」

 クーが、冷静に言った。
 だが、微かに感情が込められているのが分かった。
 クーも喜んでくれている、と思った。

(´・ω・`)「長かった。しかし、やっと帰れる。
      我が故郷へ」

 三十年以上、ヴィップで暮らしてきた。
 それでも、ラウンジに対する想いは揺るがなかった。

 ヴィップで兵として、将校として、大将として。
 ずっと、生きてきた。
 だが、ヴィップに感情が傾くようなことはなかった。

 ただただ、ラウンジに帰る日を心待ちにしていた。
 そのために、頑張れた。

 ――――クラウン国王に会うときのために、日々を我慢することができた。

(´・ω・`)(少しだけお待ち下さい、父上)
416 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:33:25.77 ID:op0wNlDm0
 もうすぐ帰ります。
 貴方に、お会いしにいきます。

 もうすぐです。

 頭の中を、言葉が駆け巡った。
 それが口から出ることはなかった。

 今後、ヴィップに対して取る策も思い浮かんだ。
 ラウンジに戻ったらすぐ提案してみるつもりだ。
 きっとクラウン国王は受け入れてくれるだろう。

 とにかく、再会のときが楽しみだった。

(´・ω・`)「体勢を整えて、向かおう。
      ラウンジの天下への道を、進もう」

川 ゚ -゚)「はい」

 クーの声には、いつも通りの冷静さだけがあった。

 踵を返して、ミーナ城へと戻った。
 冬の空。澄み渡る夜空。
 点在する星々。

 それらを少し、眺めながら。

 ずっと遠くに感じていた。
 遥か彼方。あまりに遠方。
 必死になって手を伸ばしても、永劫届かないとさえ思えた。
419 :第75話 ◆azwd/t2EpE :2007/10/07(日) 03:33:57.22 ID:op0wNlDm0
 それが今、目の前にある。
 もうすぐに、手に入る。

 ラウンジの世は、もう、決して遠くない。















 第75話 終わり

     〜to be continued
 

 

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