6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:29:41.35 ID:gQ0H1By00
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 少将
使用可能アルファベット:V
現在地:ミーナ城とシャッフル城の中間地点

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:フェイト城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:フェイト城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:シャッフル城

7 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:29:59.76 ID:gQ0H1By00
〜東塔〜

大将:
中将:モララー
少将:ブーン

大尉:ビロード/ベルベット
中尉:ロマネスク
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)

8 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:30:17.44 ID:gQ0H1By00
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー/ファルロ
T:アルタイム
U:
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
11 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:30:35.51 ID:gQ0H1By00
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

15 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:31:10.02 ID:gQ0H1By00
【第74話 : Existence】


――シャッフル城――

 価値は高い。
 何と言っても、国を統べる大将と中将なのだ。

 是が非でも、討ち取っておきたい。

( <●><●>)「ロマネスク、右方へ」

( ФωФ)「承知致しました」

 短くロマネスクに伝えて、同時に駆け出した。
 時間はない。早めに決着をつけなければ。
 体勢が整っているとは言え、数字の上では不利なのだ。

 しかも、相手はカルリナ=ラーラス。
 ラウンジでは随一の将だ。

 今回の策も、直前に見破られてしまった。
 本当は城内に誘い込み、城に火を放つ予定だったのだ。
 その後、城門から逃げ出してきた兵を討ち取る算段だった。

 しかし、気付かれてしまった。
 やはり手強い相手だ。
 思うようには動いてくれない。
18 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:32:08.72 ID:gQ0H1By00
 保険として伏兵を仕掛けておいて良かった。
 この伏兵がほぼ全軍だが、一万五千はいる。
 敵軍が二万程度であれば、打ち破れる。

 ラウンジ軍とぶつかった。
 さすがに体勢が充分でないため、陣としては脆い。
 前陣を容易く打ち破って、中陣に迫る。

 警戒しなければならないのは、大将のアルタイム=フェイクファーだ。
 アルファベットT。自分より幾つか上位を操る。
 ロマネスクではまず敵わない相手だろう。

 全体的な視点では、やはりカルリナに警戒する必要がある。
 何をやってくるか分からない怖さがあるからだ。

 ラウンジは後方に兵を残しているだろう。
 それと合流するまでが、勝負だ。

( <●><●>)「邪魔です」

 立ちふさがるラウンジ軍を、薙ぎ倒す。
 アルファベットRを振るい、道を切り開いた。
 しかし、中陣ともなるとさすがに堅い。

 ラウンジは必死に体勢を立て直そうとしている。
 しかも、その動きが速いのだ。
 さすがに統率力はある。
26 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:34:01.48 ID:gQ0H1By00
 アルタイムとカルリナ。
 この二人は充分、脅威となる組み合わせだ。
 戦略や戦術で力を発揮するカルリナを、アルタイムが上手く補っている。

 今後のヴィップにも立ちはだかってくる相手だ。
 何としても、討ち取りたい。

 気の逸りはない。
 行動は、あくまで慎重だった。

( <●><●>)「ッ……」

 しかしやはり、ラウンジは容易い相手ではないようだった。
 中陣が、なかなか崩れてこないのだ。

 鉦を一度、鳴らさせた。
 ロマネスクへ指示を送るためだ。
 いったん攻撃の手を緩め、敵の油断を誘う作戦。

 普通なら、ラウンジはここで反撃に出てくる。
 体勢はそれなりに整っており、反撃に出るメリットは大きいからだ。
 しかし、ラウンジは守りを崩さない。

 誘いには、乗ってこなかった。
 あくまで体勢を立て直すことだけに専念している。

 隊を二つに分けた。
 一方を側面に回し、方々から崩してみようと考えたのだ。
 ラウンジが前だけに集中していれば、横から崩せる可能性がある。
28 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:35:01.48 ID:gQ0H1By00
 尚もアルファベットを振るい続けた。
 ラウンジの前面にはG隊。完全に守勢だ。
 アルファベットGは守りに優れている。上位でもなかなか崩せない。

 Rなら難しい相手ではないのだが、従えている兵たちはほとんどがI以下なのだ。
 守りに専念したG隊が相手では、不利にこそならないものの優位にも立ちにくい。

 ラウンジは、堅かった。
 側面からの攻撃も、あまり上手くはいっていないようだ。
 守りの重点を前だけに置いている、というわけではないらしい。

 ロマネスクも攻めあぐねている。
 ラウンジの守りに、いなされてしまっている。

 ラウンジは少しずつ、後退していた。
 上手い戦い方だ。撤退戦の見本のようだった。
 守りと逃げの両立がなされている。

 このままではいけない。
 アルタイムとカルリナに、逃げ遂せられてしまう。

 多少の無理は承知で、攻めに出る必要がある、と思った。

( <●><●>)「鉦を」

 再び鉦を鳴らさせた。
 何かを仕掛ける、と敵に気付かれるのが難点だが、ロマネスクに伝えるためには仕方ない。
 伝令を送っている余裕はないのだ。
32 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:36:02.58 ID:gQ0H1By00
 狙いは、一気打通。
 隊を一本の槍のようにして、敵陣に突っ込ませる。

 先鋭な攻撃を繰り出せる反面、横からの攻撃にはひどく弱い。
 しかし、まだ体勢が整いきっていないラウンジになら、通じるはずだ。

 逡巡している余裕はなかった。
 すぐに、駆け出した。

(#ФωФ)「ハァァァァァッ!!」

 ロマネスクのものらしき雄叫びが聞こえた。
 普段は冷静な男だが、戦になると熱さを出す。
 感情のコントロールが上手い、という印象だった。

 自分はただ、淡々と敵陣を切り裂いた。
 攻撃が鋭くなったことにより、ラウンジ軍は動揺している。
 思った以上の効果だ。

 先ほどまでは敵を押し潰す構えだったが、今は敵将のみを見据えている。
 ただ、頭だけを狙って。

 勢いを緩めれば敵にやられる。
 強引に突き破るのが最善だった。

( <●><●>)「どいてください」

 敵兵の首を刎ね飛ばした。
 アルファベットGで守ろうとしてきたが、無理やりに討ち取る。
 それが為せるのが上位の力だ。
38 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:37:05.80 ID:gQ0H1By00
 敵の反撃もないわけではない。
 それでも、怯まずに駆けた。
 身命を賭しながら。

 やがて、見えた。
 敵将の、背。

 あれは、カルリナ=ラーラスだ。

 背を向けて逃げようとしている。
 生き延びることに、必死なようだ。

 自分が死んではならない、と自覚しているのだろう。
 だからこそ、討ち取っておきたいのだ。

( <●><●>)「一戦所望、仕ります」

 アルファベットを低く構え、更に勢いを増させた。
 景色の流れが速くなってゆく。
 カルリナの背が、みるみるうちに近づいてくる。

 一度だけ、カルリナが振り向いた。

( <●><●>)「?」

 おかしい。
 何故、焦っていない。

 敵将が背後から迫っているのに、カルリナは余裕を見せていた。
 繕いだろうか。しかし、とてもそんな風には見えなかった。
46 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:39:12.97 ID:gQ0H1By00
 では、いったい何故。
 頭で考えても、分からなかった。

 その理由に気付いたのは、側方からの衝撃を受けたときだった。

(`・ι・´)「大したものだ、ベルベット=ワカッテマス」

 アルタイム。
 長尺のTを、豪快に振るってきた。

 瞬時に受け止めたが、体への衝撃は強い。
 痺れが全身を駆け巡ったほどに。

(`・ι・´)「あの状況でラウンジに逆襲を仕掛けるとは、見事としか言いようがない。
      だが、やられはせんぞ。お前ほどの男、ここで討ち取っておかねば後日の災いとなる」

 アルタイムが待ち伏せていたのか。
 それなら、あの余裕も頷ける。

 ラウンジ国内では最も上位である、Tの使い手。
 もう五十に近いはずだが、力の衰えがあるようには思えなかった。

 アルタイムとの一騎打ちは、辛い。
 更にカルリナが反転してきている。
 右手に握りしめるアルファベットは、P。

 二人が相手では、勝ち目がない。

(`・ι・´)「どこへ行く気だ!」
61 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:43:07.34 ID:gQ0H1By00
 アルタイムの言葉を、背中で受けた。
 ここは、退却するより他ない。

 やはり、ラウンジは手強かった。
 もっと兵数がいればまた話は違っただろうが、この数ではいかにも厳しい。
 ラウンジが背後に数万の兵を残しているのも手痛かった。

 大回りに反転して、シャッフル城への道を辿った。
 ラウンジからの追っ手は、ない。
 当然だった。追撃する余裕などあるはずがない。

 ロマネスクも状況を見て敵陣から離脱してくれたようだ。
 損害はあまりないように見えた。

( <●><●>)「及びませんでしたね」

( ФωФ)「致し方ないことと存じまする」

 伏兵を仕掛けていたとは言え、やはりカルリナに策を見破られたのが痛かった。
 城内に誘い込めていれば、全滅させることも可能だったはずだ。
 しかし結果的には、失敗に終わってしまった。

 敵兵はかなり多く討ち取った。
 被害は数千に及んでいるだろう。
 それに対するヴィップ軍の損害は、微々たるもの。

 戦として見れば、大勝利だった。
 互いの損害数にかなりの差が出たのだ。
 しかし、当初の目的を果たせなかった、というのがやはり、悔いとして残る。
70 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:45:47.72 ID:gQ0H1By00
 アルタイムもカルリナも討ち取れなかった。
 せめてどちらかは、と思っていたが、上手く躱されてしまった。

 やはり、二人とも戦は上手かった。
 いや、正確に言えば、二人が揃って初めて戦が上手くなるのだろう。
 それほどにあの二人のコンビネーションは絶妙だ。

 だが、不思議と悪い気はしなかった。
 強い相手と戦えるのは、やはり嬉しいものなのだ。
 軍人としてではなく、武人としての感情が、そう思わせる。

 また戦えるときを、心待ちにさせてくれる。

( <●><●>)「ラウンジが反転してくることも考えて、警戒を怠らないようにしましょう」

( ФωФ)「了解であります」

 馬が無理をしない程度の速度で、シャッフル城へ戻った。
 いつの間にか夜が近づいていた。



――フェイト城――

 夜の帳が下りていた。
 プギャーやビロードの表情は、辛うじて掴める程度だ。
 しかし、先ほどよりも声はよく通る、と感じた。

( ^Д^)「天才と謳われたモララー中将ともあろうお方が、無様なもんだなぁ?
      人質を取られて呆然と立ち尽くすしかできねーなんてよ」
77 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:47:40.38 ID:gQ0H1By00
 白い歯が見えた。
 嘲笑しているのだ、と分かった。

 苛立ったりはしない。
 プギャー如きに何を言われようが、大して気にはならない。
 しかし、現状には苛立ちが募る。

 ビロードが人質になっている。
 下手を打てば、殺されてしまう。

 自分の命も危ない状況だ。
 ビロードを助けるだけなら可能だが、自分まで生き残るのは難しい。
 相当に、危機的な局面だった。

 自らの命が惜しいわけではない。
 ただ、ショボンが居なくなってしまったヴィップに、自分の力は不可欠なのだ。
 主観的に見ても客観的に見ても、それは間違いない事実だ。

(;・∀・)(くそぉ……!)

 どうしようもない。
 この状況を切り抜ける術は、ない。

 自分の無力さが、腹立たしいのだ。
 苛立つのだ。
 プギャー如きを相手にして、活路を見出せないなんて。

 プギャーに戦局を見通す力はない。
 それに、状況を把握する力も欠けている。
 この二つを利用すれば、何とかなる気はするのだ。
81 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:49:04.41 ID:gQ0H1By00
 しかし、自分の頭を支配する焦燥。
 思考が上手く働かない。妙案が浮かんでこない。
 もっと時間と余裕があれば、と嘆いてもしょうがない状況だった。

 この状況下でも策を捻り出せる力があれば良かったのだ。
 結局、自分の力不足だった。
 それはショボンの裏切りを見抜けなかったことも、そうだ。

 信じきっていた。
 ショボンの許で戦い続けることに、疑いなど抱いたことがなかった。

 自分は、ショボンに利用されていただけなのか。
 ラウンジの天下のために、オオカミを潰すために。
 盤上の手駒となって動かされていただけなのか。

 あんなに優しく、頼もしかったショボン。
 常にヴィップのことだけを考えている、と思えたショボン。
 あれら全てが、欺瞞だったというのだ。

 できれば否定したかった。
 プギャーがこうしてビロードを人質に取っていなければ、信じようとしなかっただろう。
 大将の、裏切りなど。

 何故、見抜けなかった。
 冷静に考えれば、おかしいと思える点はいくつかあったはずなのに。
 常に冷静に見ていたはずが、ショボンには上回られていたというのか。

 唇を噛み締めた。
 無力さが、あまりに腹立たしかった。
88 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:50:12.98 ID:gQ0H1By00
 しかし、それは後にしよう、と思った。
 この状況から脱したあとに。

 現世との離別後に、ゆっくりと。
 時間をかけて自分の無力さを呪おう、と思った。

 自分の命は、捨てるしかない。
 このまま逃げ出せば助かるかも知れないが、ビロードの首はないだろう。
 それだけは、我慢ならない。

 目の前の友を見捨てて生きられるほど、自分は強くない。

 できることならプギャーを討ち取りたい。
 一矢報いるという意味ではなく、今後のために。
 自分の命を費やしてまでも。

 無能な男だが、ラウンジでも将校となるのは間違いないだろう。
 今のうちに殺しておいたほうがいい。
 しかし、どうやって。

( ^Д^)「ずーっと黙りやがって……別れを惜しんでんのか?」

( ・∀・)「……まぁ、そんなところだ」

( ^Д^)「俺は慈悲深いからな。待ってやるよ。
      せいぜい自分の無力さを噛み締めてろ」

 プギャーの言葉など、頭には入らなかった。
 どうやって討ち取るか。ただそれだけを考えていた。
93 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:51:47.80 ID:gQ0H1By00
 命に危険が及ぶような真似に、プギャーが出るはずはない。
 例え一騎打ちを望んだとしても受け入れないだろう。
 相手のほうが上位アルファベットなら話は別だが、自分のほうがいくつも上のアルファベットなのだ。

 アルファベットWは側近の兵に持たせてある。
 あれならば、この距離さえも容易い。
 が、意味はないだろう。喰らってくれるはずがない。

(;・∀・)(くっ……)

 八方塞がり。
 どうしようも、ない。

 ただ無意味に死んでいくのか。
 何の対価も得られないままに。

 それでいいはずがない。
 しかし、どうすることもできないのだ。

 封じられてしまった。
 何もかも、ショボンに。
 上回られてしまった。

 思い通りにさせてはならない。
 ヴィップの未来を閉ざさせないためにも。
 そう、強く思うのに。
96 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:53:19.86 ID:gQ0H1By00
 何もできないのだ。

 ただ、死を待つことしか。


 ――――それしか――――


( ・∀・)「ッ!!」


 ――――いや、ある。

 できることが、ある。

 自分の命もビロードの命も助けられる。
 そして、プギャーを討ち取れる。
 全てを実現できる未来が、今、はっきりと見えた。

 何故かは分からない。
 しかし、確かだ。
 間違いない。

 あとは、たった一つ。
 プギャーとビロードを城外に出す、ということさえできれば。
 その一つさえ成し遂げられれば、作戦はきっと上手くいく。

 やってみるしかない。
102 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:55:01.28 ID:gQ0H1By00
( ・∀・)「……プギャー、来いよ」

( ^Д^)「あ?」

 手招きした。
 挑発するようにして。

 冷静さは既に奪ってある。
 きっとプギャーは自分に対する苛立ちを抱えている。
 それを利用するしかない。

( ・∀・)「俺に恨みがあるんだろ? ならそれをぶつけに来いよ。
     俺だってお前にゃイラついてんだ。その醜い顔が更に醜くなるくらいに殴りてーんだ。
     だから来い。俺とお前で一騎打ちだ。
     俺も武人として、最後は敵と戦いてーんだよ」

( ^Д^)「バカかテメー。俺がそんな誘いに乗るわけねーだろ。
      俺とお前のアルファベット差くらい分かってんだよ。
      お前と一騎打ちなんかしたって何のメリットもねー」

( ・∀・)「じゃあ、これでどうだ?」

 勢いを、つけた。
 そして、投げ飛ばした。

 旋回しながら遠ざかる。
 アルファベット、X。

(;^Д^)「なっ……!!」
109 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:56:40.71 ID:gQ0H1By00
 そして、東の森に消えた。
 木の葉とぶつかる音でそれは確認できた。

( ・∀・)「俺は何も持たねー。もちろん、俺の後ろにいる二千には何も手出しさせない。
     何ならこの場で全員、アルファベットを捨てさせて遠ざけてもいい」

 やはりプギャーの表情は掴めない。
 しかし、先ほどとは違って、口は閉じられているようだ。
 どうやら考え込んでいるらしい。

 果たして、自分の思い通りになるだろうか。
 不安がないわけではなかった。

 プギャーは、不意に唇を緩めた。
 どうやら不敵な笑みを浮かべているようだ。

( ^Д^)「その二千にアルファベットを捨てさせろ。
      そんでお前から離すんだ。手出しできねーようにな」

 よし。
 これなら二千の命も助かる。

 プギャーがバカで助かった。
 どうやら深いところまでは頭が回りきらないようだ。

 アルファベットを放り投げさせた。
 簡単には拾えないような距離にまで。
 主には、東の森に向かって。
116 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 02:58:24.19 ID:gQ0H1By00
 二千が移動した。
 皆の不安が、伝わってくるようだった。

 大丈夫だ、任せろ。
 心の中でそう言って、再びプギャーを見据える。

( ・∀・)「喜べよ。俺の最後の相手になれるんだぜ?
     ムカつくくらいクソヤローだが、一応敵だからな。
     戦って死ぬんなら悪くない」

( ^Д^)「……クハハハ」

( ・∀・)「……何がおかしいんだ?」

 まさか、気付いたのか。
 いや、そんなはずはない。
 気付けるはずがない。

( ^Д^)「笑えるぜ。あんまりに滑稽すぎてなぁ。
      最後は敵と戦いたい、か。まぁ、戦に生きた人間なら誰しもが思うことだな。
      戦いの中で死にたい、と」

( ・∀・)「あぁ、当然だ」

( ^Д^)「だから笑えるんだよ、モララー。
      俺はお前と戦うなんて言ってねーぜ?
      お前の最後の相手は、コイツだ」

(;・∀・)「なっ……!?」
135 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:03:20.99 ID:gQ0H1By00
 プギャーが前に押し出した。
 縄に縛られた、ビロード=フィラデルフィア。

( ^Д^)「コイツにお前を殺させる。兵卒が使ってるアルファベットIでな。
      惨めだろ? 仲間に殺される最後なんて。
      誰がお前の望み通りの結果にしてやるかよ。せいぜい苦しめ」

(;・∀・)「テメェ……!!」

( ^Д^)「今からそっち行ってやるよ。待ってろ。
      お前の惨めな最後を、間近で観させてもらうぜ」

 城壁から消えるプギャー。
 そしてビロード。

 目を凝らしても表情は確認できない。
 ビロードがどんな顔をしているのか、知りたくても分からない。

(;・∀・)「くそっ!!」

 まさか、まさかだった。
 思ってもみなかった。

 まさか――――


 ――――こんなに簡単に、上手くいくなんて。


 思わず、笑みがこぼれそうだった。
150 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:05:08.92 ID:gQ0H1By00
( ^Д^)「よぉ、待たせたな」

 プギャーが城門から出てきた。そして、近づいてきた。
 縄を打ったビロードを引きずるようにしながら。

 後ろには数十人の兵。
 どうやらDを持っているようだ。
 あれは恐らく、保険だろう。

( ^Д^)「まずは腕と足を縛るぜ」

(;・∀・)「くっ……」

 焦ったふりをするのも、なかなか難しい。
 いや、危険な状況ではあるのだ。プギャーの気分ひとつで、首を落とされる。
 際どかった。しかし、不思議と心は落ち着いていた。

 きっと上手くいく。
 そう思えた。

 プギャーが連れてきた兵卒によって手足を縛られた。
 ここは抵抗しないほうが自然だ。諦めた、と思うだろう。
 こちらは素手。あちらはアルファベットを握っている。抗しようもない状況なのだから。

( ^Д^)「さーてと……」

 手足を封じられた状態で、座らされた。
 そして、目の前には縄を解かれたビロード。
 絶望的な表情を浮かべている。
167 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:07:56.13 ID:gQ0H1By00
 震えた両手で、アルファベットIを握っている。

( ^Д^)「準備万端、だな」

 プギャーがビロードの後ろについた。
 アルファベットRを構えながら。

 構図としては、こうだ。
 縄を打たれた自分。その自分にアルファベットを向けるビロード。
 そして更に、その後ろでアルファベットを構えているプギャー。

 自分から少し離れた位置に、アルファベットDを構えた兵。
 万一のときにはD兵が自分を狙うのだろう。
 準備万端、とプギャーが言うだけのことはある状況だった。

( ^Д^)「っと、忘れるとこだったぜ」

 吐き気のするような笑みを浮かべながら、再びプギャーは自分に近づいてきた。
 そして立ち止まった。
 瞬間、体に走る衝撃。

(;・∀・)「ぐぁっ……!!」

(;><)「モララー中将!!」

 後ろに倒れこんだ。
 星の輝かない夜空が遠くに見える。
 地面から見上げたせいだろうか。
171 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:09:43.26 ID:gQ0H1By00
 プギャーの蹴りをまともに腹に受けた。
 空っぽの胃から、胃液が押し出されそうな衝撃。
 Rに到達しているだけのことはある。重みのある蹴りだ。

( ^Д^)「最後に恨みを晴らしとくとするぜ」

 降りかかる追撃。
 胸部や腹部への執拗な蹴りを見舞われる。
 踏みつけるような攻撃だった。

( ^Д^)「思えば長い付き合いだったよなぁ、モララー。
      心の底からお前がうざかったぜ」

 骨の折れる音がした。
 呼吸が苦しい。痛みが全身に広がる。
 これは、まずいかも知れない。

 ここで作戦を発動させるべきか。
 いや、危険だ。プギャーのRはビロードの首に巻きついている。
 何かあれば即座にビロードの首は刎ねられてしまう。

 ビロードはIを握ったままだが、何もできないだろう。
 アルファベットの腕ではプギャーのほうが上だ。ビロードが動いた瞬間、Rで首を刎ねられる。
 さすがに下手は打たない。

 やはり、ビロードの首にRがある状態では、何もできない。

( ^Д^)「おらよ」
178 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:11:00.94 ID:gQ0H1By00
 渾身の一撃と思われる、蹴り。
 腹に叩き込まれた。

 口から溢れ出す、血液。
 頬を伝って地面に流れ落ちて行く。

 十数撃を加えて、プギャーはようやくビロードの後ろに戻ったようだ。
 目が霞んでしまって、プギャーの動きをはっきりと確認することはできない。
 ビロードの青ざめた顔だけは何とか見えた。

( ^Д^)「あぁ、すっきりしたぜ。
      さぁやれ、ビロード。お前の手で殺してやれ。
      もしできねーってんなら、この場でお前を殺すだけだ。
      もちろん、そのあとでモララーも殺す。お前が生き延びるには、モララーを殺すしかねーよ」

(;><)「ッ……!!」

 逼迫した表情。
 もはや絶望さえ通り越しているようだった。

(;・∀・)(……ビロード……気付け……!!)

 目を瞬かせた。
 プギャーには分からないよう、小さく、小さく。
 ビロードに対し、必死で合図を送った。

 ここでビロードが気付いてくれなければ、全てが終わる。
 頼む、気付いてくれ。
 戦局眼に優れたお前なら、いま何が起きているのか、きっと分かるはずだ。
186 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:12:17.28 ID:gQ0H1By00
 将校としての、お前の武器を。
 今ここで、発揮してくれ。

 頼む、ビロード。

(;><)「……?」

 ビロードが、不思議そうな顔をした。
 手の震えが、止まっていた。

 どうやら、合図に気付いてくれたらしい。

 少しだけ顔を動かした。
 絶対に不自然ではない、という程度の動かし方。

 ビロードが、視線を一瞬だけ、動かした。
 そして、はっとした顔をした。

( ・∀・)(よしっ……!)

 ビロードが気付いてくれた。
 はっきりとではないかも知れない。しかし、何かを感じてくれたのだ。

 いや、この活気に満ちた表情。
 むしろ、全てに気づいてくれたのかも知れない。

 いける。
 この作戦は、成功する。

 そう確信した。
200 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:14:08.21 ID:gQ0H1By00
(;><)「……できません……」

 か細い、消え入るような呟き。
 何の力も込められていなかった。

( ^Д^)「……あ?」

(;><)「モ、モララー中将を斬るなんて……僕には……できません……!」

 膝を折った。
 そして、肩を落とした。
 涙まで流し始めた。

 ビロード。
 ここまでやってくれるとは思わなかった。

 完璧だった。

( ^Д^)「……使えねーやつだ」

 プギャーの足が動いた。
 そして、ビロードの背中に突き刺さった。

(;><)「ッ!!」

 蹴りに押され、地面に倒れこむビロード。
 しかし、アルファベットは離さない。
 自分のやるべきことを、完全に理解してくれているようだ。

( ^Д^)「仲良くあの世に送ってやるよ。まずは意気地なしのテメーからだ、ビロード」
213 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:15:57.96 ID:gQ0H1By00
 プギャーがRを握り締めたまま、ビロードの近くに立った。
 どうやら憤懣は隠し切れないようだ。
 完全に冷静さを失っている。まるで周りが見えていない。

 まだ危険な状態であることに変わりはない。
 しかしやはり、不思議と落ち着いていた。
 きっと上手くいくと、何故か感じていたのだ。

 プギャーが、ゆっくりとアルファベットを振り上げた。
 まずはビロード、というつもりらしい。
 しかし、その動きはかなり遅かった。

 それが命取りになるとも知らずに。

 プギャーのRが頂点に達した。
 月も星もない。Rの刃は輝かない。
 プギャーに、輝きはない。

( ^Д^)「じゃあな」

 不敵な笑みのまま、別れの言葉を告げたプギャー。
 アルファベットRが、高みから、振り下ろされかけた。

 そのときだった。

(;^Д^)「ッ!?」

 一本の、線。
 飛来した。そして、襲い掛かった。
 裏切りの将、プギャー=アリストに。
227 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:17:36.67 ID:gQ0H1By00
 それをプギャーは躱した。
 しかし追撃。もう一度、プギャーを襲う。

 しかし、アルファベットによって防がれた。
 恐らくMによるFだろう。Rなら容易く防げる。
 だが、体勢は完全に崩れていた。

 そこに、ビロードの一撃。
 アルファベットI。

(;^Д^)「ぐっ!!」

 プギャーは無様に躱すことしかできなかった。
 後方に逃げる。しかし、ここは深追いできない。
 無理をすればやられる。

 自分に向かって、D兵からFが飛んできた。
 しかし、それはビロードがIで弾いてくれた。
 助かった。

(;・∀・)「わりぃけど抱えて走ってくれ! ちょっと動けそうにねぇ!」

(;><)「了解なんです!!」

 後方に遠ざけておいた二千も動き出してくれた。
 しかし、同時にフェイト城のラウンジ軍も動き出す。
 これは、際どい。

 そう思ったのは、一瞬だけだった。
245 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:20:09.95 ID:gQ0H1By00
(;^Д^)「なんだと!?」

 西の森から飛び出してきた兵。
 高々とヴィップ軍の国旗を掲げている。

 先ほどプギャーを襲ったのも、西の森からの攻撃だった。
 プギャーは完全に動揺している。状況が掴めていないようだ。
 いや、この場で把握できているのは、恐らく自分とビロードだけだろう。

 森の後方から、大量の火が見えた。
 何百、いや、何千の兵がいるのだ。
 プギャーたちは、そう思っただろう。

 フェイト城の兵も脅えているようだった。
 どうやら、何とかなりそうだ。

 ビロードに抱えられて走った。
 自分の体は決して軽くないはずだが、ビロードの走りがかなり速い。
 無我夢中で駆けているようだ。

 後ろからは、自分の二千。
 そして森から飛び出してきた兵たち。

 ラウンジ軍も追ってきている。
 どうやら、森にいた兵がさほど多くなかったことに気付いたようだ。
 あの火は、多く見せかけるだけの策。古典的な作戦だが、効果は確かにあった。

(兵゚6゚)「これを」

(;><)「感謝なんです」
251 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:20:44.80 ID:gQ0H1By00
 森から出てきた兵に、馬を借りた。
 これで何とか逃げ切れるだろう。

 気分はずっと落ち着いていた。
 しかし、実際この状況になるまで、どうなるかは分からなかったのだ。
 安堵感はやはりあった。

 そして当然、感謝の念も。

(;・∀・)「助かった。まぁ、何で助けてくれたのかは知らねーけど」

 馬を並べてきた男に向かって言った。
 懐かしいとさえ思える顔だった。

( ゚д゚)「別に、助ける必要などなかった。ただ、お前に頼みがあるだけさ」

 ミルナ=クォッチ。
 亡国オオカミの、大将だった男だ。

 オオカミは、ヴィップとラウンジの手によって滅ぼされた。
 国王が降伏を申し入れてきたためだ。
 中将たちは全員討ち取られたが、肝心の大将だけは行方知れずだった。

 まさか、こんな形で会うとは。
 思ってもみなかった。

 森の中から合図を送ってくるミルナに気付けて、良かった。
 ミルナが『少しだけ待っててくれ』と表情で告げていたので、その後は最善と思える行動を取ったのだ。
 どうやらミルナが時間を欲しがったのは、配下の兵に火などを準備させるためだったらしい。
295 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:23:59.26 ID:gQ0H1By00
 ミルナがMを持っていた時点で、プギャーに隙を作らせることは決めた。
 ビロードとプギャーを外に出し、プギャーに攻撃を繰り出させ、討ち取ろうとした。

 大事なのは『プギャーがアルファベットを振り上げること』だった。
 アルファベットを振り上げた状態は最も隙が大きい。それを狙ったのだ。
 意外なほど機敏な動きを見せたプギャーに躱されてしまったが、限りなく惜しかった。

 プギャーはまだ生きているが、作戦はほぼ完璧だった。
 上手く逃げ出すことができた。

 全身の痛みのせいで、皮膚には脂汗が浮かんでいた。
 肋骨や足の骨は完全に折れてしまっている。
 それでも平静を装った。

( ・∀・)「……頼み、か? なんだ?」

 ビロードの体にしがみついていた。
 体中が痛むが、かえって気を抜かずに済む。
 もし眠りに落ちようものなら、馬から振り落とされてしまうだろう。

 自分は、オオカミにとって仇だ。
 ミルナが何の理由もなく助けるわけはない、と分かっていた。
 しかし、頼みごととは。内容の想像がつかない。

( ゚д゚)「お前たちが狙われた理由は分かっている。ショボンの裏切りだろう。
    そのことは、俺も"とある男"に最近聞かされた。裏切る可能性がある、と」

 以前と変わらぬように感じたミルナの姿。
 しかし、よく見れば少し、頬がこけている。
 国を失ったからだろうか。痩せたようだ。
305 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:25:42.36 ID:gQ0H1By00
( ゚д゚)「だからこそこの近くに来ていた、ということでもあるんだがな。
    まぁ、俺の頼みというのは、それを踏まえたうえでのことだ」

( ・∀・)「……?」

 不思議な感情が心に兆した。

 ミルナの言葉を、聞きたいような、聞きたくないような。
 そんな、不可思議な思い。


 しかし、自分の感情はお構いなしに、ミルナは言葉を続ける。

 衝撃的な、ある意味では至極妥当な一言を、発した。


( ゚д゚)「俺を――――ヴィップ城に連れて行ってくれ。
    そして、ジョルジュ=ラダビノードに会わせてくれ」

( ・∀・)「ッ……!!」

 馬が疾駆する音が原野を支配した。
 ただただ、轟々としていた。
310 :第74話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/30(日) 03:26:05.17 ID:gQ0H1By00
 ラウンジからの追っ手はなかなか迫ってこない。
 このままヴィップ城まで逃げ帰るのも、難しくはなさそうだった。















 第74話 終わり

     〜to be continued

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