3 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:21:45.39 ID:xKbcCS210
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 少将
使用可能アルファベット:V
現在地:???

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:フェイト城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:フェイト城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城

●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:シャッフル城
6 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:22:18.62 ID:xKbcCS210
〜東塔〜

大将:
中将:モララー
少将:ブーン

大尉:ビロード/ベルベット
中尉:ロマネスク
少尉:


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
9 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:22:54.21 ID:xKbcCS210
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー
T:アルタイム
U:
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
12 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:23:38.41 ID:xKbcCS210
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

16 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:24:16.31 ID:xKbcCS210
【第73話 : Talk】


――トーエー川・北岸――

 穏やかな川の流れ。
 しかし、お世辞にも美しいとは言えない。

 全土最大の川であるトーエー川の水は、いつも薄く濁っている。
 水深が深いこともあるが、とても底など見えはしない。
 手を入れただけでも、指先がほとんど見えなくなってしまう。

 実際水に触れてみると、手に砂がついたような感覚が残る。
 魚も棲息しているが、他の川の魚と比べるといささか劣っていた。
 調理次第では旨くもなるが、手間がかかりすぎるらしい。

( ’ t ’ )(楽しい船旅には、ならないな……)

 トーエー川の水の濁りは、上流にある鉱山が原因だと言われている。
 脆い土砂による影響も大きいが、やはりα鉱石が直接的だろう。
 鉱山帯を割って入るようにして流れているためだ。

 川の上流はヴィップが鉱山を保護する名目で封じている。
 上流を取られるのは不満だが、仕方なかった。川を開放すれば、賊などに狙われかねない。
 民衆がアルファベットを持ってしまう危険性に比べれば、上流をヴィップに持たれるほうがまだいい、という考えだ。

 トーエー川の上流からヴィップが攻め込んでくることはまずない。
 恐らく、鉱山が密集しているため船を用意する余裕はないのだろう。
 ラウンジにとっては助かることだった。
20 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:25:50.95 ID:xKbcCS210
( ’ t ’ )(対岸は、遠いな……)

 川幅、およそ三里。
 長大な川であるため場所によって違うが、ダカーポ城からシャッフル城まで最短で行く場合、三里を渡る必要がある。
 船に乗っているのはあまり好きではないが、早く降りることもできなさそうだった。

 揺らめく水面と、そこで揺蕩う光をずっと見つめていた。
 やはり、美しいとはとても思えない。
 が、不思議と心境が穏やかになった。

( ’ t ’ )(……ベルベットとロマネスクが投降か……)

 東塔の二将校の名を思い浮かべた。
 実際には見たことのない二人だった。

 デミタス=コーフィーは城内の兵を人質に取り、二人を投降させたという。
 討ち取るまでは至らなかったようだ。恐らく、ベルベットの判断が良かったのだろう。
 先に投降を切り出せば、誰の命も失われないで済む、と考えたはずだ。

 しかし、心の底から信じているわけではなかった。
 ベルベット=ワカッテマスと言えば、才知に溢れる将としてラウンジにも知られているほどの男だ。
 ロマネスク=リティットも、冷静さを持った将来性ある武将だという。

 純粋な降伏であるはずがない。
 必ず何かを企んでいる。

( ’ t ’ )(……果たして、何を考えているか……)

 上回ればいい。
 企みを、上から潰してしまえばいい。
27 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:27:44.81 ID:xKbcCS210
 それだけだが、侮れない相手だ。
 窮地からでも活路を見出してくる、と思える。

 もっともありえるのは、一度ラウンジ軍内に入り、脱出や反乱を狙うという可能性だ。
 降伏の将として二人を受け入れるつもりはないが、独房からでも脱出してくるかも知れない。
 牢の防備には限界がある。ラウンジ軍内に間者が紛れ込んでいたら、脱出を手引きされる恐れもあるのだ。

 状況を大きく左右するのは、降伏した二人が持っている情報だ。
 ショボンが裏切ったことを知っているのか、否か。
 デミタスだけの裏切りだと思っているのか、そうでないのか。

 もしショボンが裏切ったと知っているなら、かなり警戒する必要がある。
 ラウンジをかき乱すために降伏した可能性が高い。
 しかし、デミタス単独の裏切りだと思っているなら、純粋な降伏であることも考えられるのだ。

 いずれにせよ警戒しなければならない。
 疑いなく降伏を受け入れるべきではないだろう。

( ’ t ’ )(とりあえず、シャッフル城の様子を見てからだな……)

 船上では何も新しい考えが浮かばない。
 いったん戦に関することは忘れよう、と思った。

 今回のシャッフル城の占領が、終わったあとのことを自然と考え出した。
 ショボンがラウンジに加わる。プギャーやオワタ、デミタスらも加わる。
 陣容が、変わる。

 軍内の関係はどうなるのか。
 今まで通り不協和音を奏でることなくやっていけるのか。
 分からない。
36 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:29:26.90 ID:xKbcCS210
 戦うだけだ、と思う。
 戦をやって、勝てばいい。ヴィップに打ち勝てばいい。
 ただ、それだけ。

 しかし、拭いきれない不安。

( ’ t ’ )(……情勢が落ち着いたら……多分、クラウン国王から説明があるんだろうけど……)

 今回の策謀を仕掛けたのは、クラウン自身だ。
 三十年以上にわたって策を続け、ようやくそれが実った。
 効果が絶大だったのは誰もが認めるところだ。

 釈然としないのは、自分だけなのだろうか。
 ふと、そんな孤独感に包まれた。

 クラウンから説明がなされても、納得できない気がする。
 例えどれほど美しく、力強い言葉を使われたとしても。
 ショボンたちが素晴らしい人格者だったとしても。

 アルタイムは、状況を冷静に判断し、受け入れていた。
 さすがに経験豊富だ、と感じる。
 自分とは違って、大人だ。

 アルタイムとは十四も歳が離れているが、軍内では最も仲の良い男だった。
 自分が入軍したころ、既にベルを支える存在として活躍しており、知り合った頃は会うたびに緊張していたくらいだ。
 今のように気兼ねなく話せるようになったのは、ベルが死去してからのことだった。

 ベルの従者として側に置いてもらい、ベルから多くのことを学んだ。
 あまり戦に出ないうちから軍略などを叩き込まれ、いつかラウンジを支えろと言われた。
 しかし、あの頃の自分はまだ、今よりももっと、幼かった。
39 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:31:22.27 ID:xKbcCS210
 軍人として成長できたのは、アルタイムのおかげだった。
 ベルが目をかけていた男、という理由で、自分を指揮官に抜擢してくれたのだ。
 あのときアルタイムは周りからの批判も受けながら、ただ黙って全ての責任を取ってくれた。

( ’ t ’ )(……アルタイム大将は、変わったな……)

 アルタイムは、あまり戦が上手くない中将として有名だった。
 ベルが抜群に上手かったせいもある。比較される対象が、あまりに偉大すぎた。
 しかし、それを差し引いても他国の中将に劣る、と言われたものだった。

 機転が利かず、ベルの命令を忠実にこなすことしかできない。
 そのくせ、臆病なところもある。
 そんな評価をしばしば聞いていた。

 実際、ベルもさほど高い評価は与えていなかった。
 ベルとの会話を思い出してみても、アルタイムへの褒め言葉がほとんど出てこないのだ。
 アルファベットではベルに次ぐほど優秀だった。しかし、それだけだった。

 そんなアルタイムが変わったのは、ベルがこの世を去ったあとのことだ。
 大将となっても自身が主となって指揮執ることはなく、若かった自分に指揮権を託してくれた。
 そして、戦の責任は取ってくれた。

 周りの言葉を借りれば、ベルの死去によって改めて自身の力量を把握した、ということらしい。
 つまり、大将の器ではないと自覚したのだろう。
 だから、ベルに育てられた自分を指揮官にするという決断を下した。

( ’ t ’ )(……今にして思えば……あれは、正しい判断だったんだろうな……)

 ラウンジは、ベルありきの国だった。
47 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:33:24.03 ID:xKbcCS210
 ベルがいてこそのラウンジ。ベルがいなければ、ラウンジなど敵ではない。
 これからラウンジは凋落の一途を辿るに違いない。

 オオカミやヴィップは、少なからずそう思ったはずだ。
 自分自身、ベルのいないラウンジに不安を抱えることもあった。

 しかし、今のラウンジに対する評価は、当時の予想と大きく違っていた。
 ベルの穴を完全ではないにしろ、埋めることができている。
 領土を失いはしたが、将校たちの力量は上がっている。

 他国の将や有識者からは、そんな評価が下されているらしい。

 何度も何度も苦しんだ。
 嬉しいことも辛いこともあった。
 それでも、遂にはオオカミを討ち滅ぼし、ヴィップとの最終決戦にまで持ち込んだのだ。

 アルタイムやファルロといった、仲間たちと共に。
 ずっと、国を支えてきたのだ。

( ’ t ’ )(……だからこそ、なのか……?)

 ショボンたちが来ることを、快く思えない。
 それは、今まで自分たちが創り上げてきたものに、他人の手が加わるせいなのか。
 あくまで自分たちだけで成したい、と思うせいなのか。

 どこか、違う気がする。
 しかし、的を射ている気もする。

( ’ t ’ )(靄がかった感覚が、消えないな……)
62 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:38:03.63 ID:xKbcCS210
 蟠りの理由が分からない。
 分かる気がしない。
 いったい何故、ラウンジの天下が目前の状況で、気分が晴れないのか。

 答えが出ないままに、やがて船は南岸に到着した。



――ミーナ城 - オリンシス城間――

 この三千は、信頼が置ける。
 見知った顔も多い。
 仮に裏切り者がいたとしても、数人だろう。大したことはなかった。

(;^ω^)「ハァ、ハァ……」

 オリンシス城を目指していた。
 ミーナ城からヴィップ城に向かうなら、休息のためにも拠るべき城だ。
 防備がかなり整えられているし、備蓄もある。

 ただし、ラウンジの手が加わっていないとは限らない。
 ショボンが、オリンシス城の守将にも手を伸ばしている可能性があるのだ。

 あまりに手痛すぎる、大将の裏切り。
 絶対的な権力を持ち、信頼を得ていた、ショボンの謀反。
 東塔は、半壊状態だった。

 西塔はどうなっているのだろう。
 情報は届いているだろうか。乱れていないだろうか。
 不安だったが、今の自分にはどうしようもなかった。
70 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:39:34.30 ID:xKbcCS210
 ジョルジュが、西塔の頂点に立っていた。
 ショボンでさえ、手出しできない男だった。
 恐らく西塔からの裏切り者は出ないはずだ。

 しかし、東塔からはまだ裏切りが出る可能性がある。
 ショボン以外にも叛意を抱いた者がいただろう。
 オワタ、プギャー。この二人は既に確定している。

 オワタと同じく、ショボン配下から成り上がったデミタスも、裏切っている恐れがある。
 あのとき同時に昇格したロマネスクも、可能性は拭いきれない。

(;^ω^)(……いや、疑いだしたらキリがないお……)

 それこそ、ビロードやベルベッドだって反旗を翻す可能性がある。
 ヴィップに忠誠を誓っていると信じているが、可能性までは否定できないのだ。
 他の将からすれば、自分も信頼できる人間とは言いがたいだろう。

 疑心暗鬼。
 怖い武器だ、と思った。
 ショボンの狙いが、恐ろしく思えた。

 互いが互いを信じられなくなり、孤立してしまう。
 気疲れし、しまいには同士討ちまでおこなってしまうかも知れない。
 ただでさえ、崩壊状態だというのに、だ。

( ^ω^)(……信じるお)

 疑って仲間を頼れなくなるくらいなら、愚直なまでに信じたほうがいい、と思えた。
 とにかく、ヴィップは危急の事態に陥っているのだ。存亡の秋なのだ。
 結束しなければならない。
78 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:41:26.69 ID:xKbcCS210
 東も西も関係ない。互いに、協力しあわなければ。
 何かもショボンの思惑通りになってしまい、ラウンジの天下が訪れる。
 それは、何としても避けなければならない。

 何万という兵士が志のために死んでいったのだ。
 ヴィップの天下の礎となったのだ。
 生き残った者たちは、それに応えなければならない。

 こんなところで、終わらせるわけにはいかない。

( ^ω^)「ッ……」

 難しい岐路に、直面した。

 恐らく、今はミーナ城とオリンシス城の、中間点あたりだ。
 風景に見覚えがある。

 眼前に広がるのは森。
 深く広い、森林だ。

 これを抜けるのが最短だった。
 深いぶんだけ道も広く、進軍にさほど影響はない。

 しかし、もしラウンジに兵を伏せられていたら、避けようがない。

 三千が散り散りになって、オリンシス城まで到達するのは困難になる。
 多くを伏せるのは難しいだろうが、五千くらいならヴィップに気付かれず兵を置けたはずだ。

 五千の伏兵を受ければ、全滅さえありえる。
 森を通過するのは、かなり危険だった。
85 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:43:45.37 ID:xKbcCS210
 しかし、森を迂回すれば大幅に時間を失ってしまう。
 恐らく後方からはラウンジの追っ手が迫っている。時間を無駄にはできない。
 後方からのラウンジ隊は森を突っ切れるのだ。一気に差を詰められてしまう。

 迂回した先にあるのは間道だが、伏兵の危険性は薄いだろう。
 見通しが良く、兵を置いたとしても発覚しやすい。
 斥候さえ放てば問題ないはずだ。

 森を行けば時間的な安全を確保できる。
 が、身体的な安全は失われる。

 やはりここは、命の安全性を優先すべきだ、と思った。

( ^ω^)「南から迂回して、オリンシス城へ向かうお」

 落ち着いた、冷静な声で言った。
 兵たちに落ち着きを与えるために。

 指揮官が動揺すれば、配下の兵たちにもそれが伝わる。
 だから、指揮官は常に冷静でいるべきなのだ。

 いつだったか、ショボンにそう教えられた。

(  ω )(……ショボン……)

 今でも、信じたくない気持ちが強かった。
 これが夢であったら、どれほど安堵するだろうか。
 心が安らぐだろうか。
89 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:45:17.46 ID:xKbcCS210
 しかし、現実だった。
 逃れようのない、どうしようもない。
 あまりに冷酷すぎるほどの、現実。

 ショボンはヴィップを裏切り、ラウンジの将として戦う。
 これからは、そうなる。
 ショボン=ルージアルと、戦わなければならない。

 最強の仲間が、最強の敵になった。
 アルファベットで全土最強。戦でも連戦連勝。
 全てにおいて他者より優れていた男が、敵になった。

 言い知れない恐怖。
 そして、絶望感。

 本当にヴィップは、生き残れるのだろうか。
 ラウンジと、戦っていけるのだろうか。

 誰にも分からない。
 しかし、圧倒的不利は誰もが分かっているはずだ。
 このままでは滅亡してしまう、と。

 その中で情報を得た将たちは、何とか盛り返そうとしてくれているだろう。
 ラウンジの脅威的な攻勢を防ぎつつ、押し返そうとしているはずだ。
 城と兵を失わないようにしながら戦っているはずだ。

 事実、フィレンクトは自分を生かすために、あの場に留まってくれた。
 おかげで、ラウンジからの追っ手はさほど厳しいものではない。
 狙い済ましたかのような絶妙な機の登場に、ただ感謝するしかなかった。
100 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:48:09.60 ID:xKbcCS210
 生きなければならないのだ。
 生きて、体勢を立て直し、再びラウンジと戦わなければ。
 こんなところで、ヴィップを滅亡させるわけにはいかない。

 斥候を放った。
 伏兵の危険性は薄いと言っても、油断していると側面からやられかねない。
 警戒を怠れば壊滅の危機に瀕するのだ。

 斥候から、異常なしの報告を受けて再び駆け出した。
 狭い間道ではない。進軍の速度は平原よりやや劣る、という程度だ。
 しかし、もしラウンジの追っ手が森を抜けていたら、かなり際どいところだろう。

 他の城にいた将と兵は、どうしているのだろうか。
 上手く逃げているだろうか。

 フェイト城やシャッフル城は、恐らく堪えきれない。
 ラウンジの主力が近いうえに、他城の裏切りがあった。
 放棄するしかないだろう。

 人さえ生きていればいい。
 城はまだ取り返せるが、人は死んでしまったら、もう戻らないのだ。
 前線の城は肝要だが、将や兵を失ってまで守ろうとするものではない。

 まず守り抜けない現状では、それが真理だった。

 皆、無事に生きて帰ってきてくれ。
 そう願うしかなかった。

(;^ω^)「ッ!!」
109 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 01:50:28.04 ID:xKbcCS210
 そう願った、直後。
 間道を、抜ける直前。

 立ちふさがる、兵。

 ラウンジ軍だ。

(;^ω^)「小さく固まって一点突破だお! 乱されないようにするんだお!」

 瞬時に命令を下し、速度を緩めず敵軍に向かった。
 ここで怯めば押し潰される。強硬に突破するしかない。

 しかし、盲点だった。
 いや、理に叶った待ち伏せだ。出入り口を塞ぐのが最も確実。
 間道の途中に兵を置くより、効果的だろう。

 ラウンジに、動きを読まれてしまっていたのだ。
 森を迂回し、間道を抜ける、と。
 あるいは、双方に兵を置いていたのかも知れない。

 ラウンジ軍の数は分からない。
 一万はいない。いてもせいぜい、五千程度。
 しかし、こちらの数は僅かに三千だ。

 それでもやはり、怯まずに立ち向かうしかない。

(#^ω^)「うおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」

 手綱を引き絞り、アルファベットを低く構えた。
155 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:02:09.30 ID:xKbcCS210
 速度を増して、敵に向かってゆく。
 打ち破らんとして。

 ぶつかった。
 右に二度、左に三度。
 アルファベットを、向ける。

 薙ぎ倒す。
 勢いに気圧されたラウンジ軍が、浮き足立っている。
 しかし、決して抵抗はぬるくない。

 だが、破れる。
 出入り口は突破できそうだ、と思った。

( ^ω^)(いけるお!)

 光が、溢れた。
 敵軍を断ち割って、視界が開けた。

 それが罠だと気付くのに、時間はかからなかった。

( ̄⊥ ̄)「その首、貰い受けよう」

 突き破った先で待ち構えていた、ファルロ=リミナリー。
 そして数千の兵。

 先ほど打ち破った敵兵もすぐ体勢を立て直し、後ろを塞いできた。
 囲まれた。

(;^ω^)「ぐっ……」
58 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:03:19.24 ID:xKbcCS210
 囲みが薄いのは後方だが、後ろから逃げ出しても仕方ない。間道に戻ることになる。
 前を突破するしかないが、アルファベットを構えてこちらを見据えているのは、ファルロだ。
 アルファベットSを右手に握り締めている。

 敵兵数は、七千ほどだろうか。
 思ったよりも、多かった。

 窮地を脱せるかどうかは、賭けになる。
 しかし、挑戦するしかない。

(#^ω^)「絶対に生きて帰るんだお!!」

 再度、隊を小さく固めた。
 散り散りになれば一巻の終わりだ。まず助からない。
 これでもか、というほどに小さく固まるしかない。

 手綱を引いた。
 馬が嘶いて駆け出す。敵陣へと、向かっていく。
 ファルロの馬も、動き出した。

 一騎打ちになる、と瞬時に分かった。

(#^ω^)「おおおおおぉぉぉぉッ!!!」

(# ̄⊥ ̄)「ぬああああぁぁぁぁッ!!!」

 互いの覇気が、交錯した。

 アルファベットの衝突と共に。
166 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:04:56.94 ID:xKbcCS210
――シャッフル城付近――

 ラウンジの軍旗がはためいている。
 波打つようにして。

 城塔に掲げられた漆黒の軍旗。
 あれが、他国にとっては畏怖にすら感じるという。

( ’ t ’ )(……さて、城内はどうなっているか……)

 シャッフル城まで、二万を率いてやってきた。
 ダカーポ城から率いてきたのは五万だが、残りは北で待機させてある。
 いざというときのための、保険だった。

 シャッフル城を得たが、他の城からの情報はほとんど入ってこなかった。
 どうやら情勢が混乱しているようだ。
 伝令がまともに機能していない。遠方であればあるほど、だ。

 ミーナ城やフェイト城はどうなったのだろうか。
 ずっと気にかけているが、なかなか情報が得られない。
 無理をして得られるものでもないため、じっと待ち続けるしかなかった。

(`・ι・´)「今後の展開が難しいな」

 アルタイムと轡を並べ、ゆっくり進んでいた。
 凹凸の激しい、歪んだ道の上を。

( ’ t ’ )「そうですね。エヴァ城の防備が分かりませんから」
169 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:06:33.32 ID:xKbcCS210
(`・ι・´)「シャッフル城からならマリミテ城も狙えるがな。
      まぁ、普通に行けばエヴァ城だ」

( ’ t ’ )「攻めたことのない城というのは、なかなかに難しいと思います」

(`・ι・´)「エヴァ城はヴィップとオオカミの間では肝要な城だったが、ラウンジとは接点がないな」

( ’ t ’ )「直接見たこともありませんからね。モララーが一度燃やした城だったと記憶してますが」

(`・ι・´)「あれから復興を遂げ、以前よりも堅牢な城になったと聞いた。
      ビロードが城の防衛面を強化したらしい」

( ’ t ’ )「問題は、兵数と兵糧ですか」

(`・ι・´)「そうだな。数千の兵がいるらしいという情報は得ているが、兵糧までは分からん」

( ’ t ’ )「仮に攻め込んだ場合は、篭ってくるでしょうね」

(`・ι・´)「間違いない。兵糧の蓄えが多ければ、エヴァ城は厳しい」

( ’ t ’ )「一気打通を狙って内部に攻め込む手もありますが、深入りすると抜け出すのが難しくなりますし……」

(`・ι・´)「まぁ、まずはシャッフル城を安定させることから始めなければな」

 ショボンの裏切りによってヴィップは滅亡寸前の事態に陥っている。
 本当なら、このまま一気に攻め込んでしまいたいところなのだ。

 しかし、冷静さを欠いてはならない。
 ここはあくまで慎重にいくべきだ。
 ヴィップが死に物狂いで生き残ろうとしている。それを忘れてはならない。
175 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:08:08.87 ID:xKbcCS210
 何か策を打ってくる可能性がある。
 ここから逆転、というのは難しいだろうが、一矢報いる気持ちは持っているだろう。
 油断は、死に繋がる。それは今回に限ったことではないが、気を引き締めなければならない状況だった。

( ’ t ’ )「アルタイム大将、ベルベットとロマネスクについてですが」

(`・ι・´)「縄を打った状態でラウンジ城まで連れて行く。
      その後、地下牢に幽閉し、軍議にて処遇を定める」

 素早い決断だった。
 どうしますか、と聞く暇もなかった。

 とりあえずは、そうするしかない。
 この場で切り捨てるわけにはいかないからだ。

 しかし、その後どうするか。
 ずっと幽閉しておくのか、駆け引きに使うのか。
 それを聞こうと思ったが、アルタイムは軍議で処遇を定めると言った。

 恐らく、ショボンの意見を聞くつもりなのだろう。
 ショボンだけではない。プギャーやデミタス、オワタといった裏切りの将たちの意見もだ。
 純粋に意見を欲しがっているようには思えない。心中を読み取ろう、というつもりだろうか。

 それもいい、と思った。
 自分たちだけで決めてしまうのもいいが、ショボンたちの意見を聞くのも悪くない。
 果たして、何と言ってくるか。

 これから長い付き合いになるのだろう。
 相手の人間性は、可能な限り把握しておくべきだった。
181 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:09:59.88 ID:xKbcCS210
( ’ t ’ )「分かりました」

 少し沈黙したあと、アルタイムの言葉に頷いた。
 アルタイムは厳格な表情を崩さないままだ。

 やがて、シャッフル城の城壁まで、僅かな距離に迫った。

( ’ t ’ )「……?」

 城壁に、誰かいる。
 見覚えのない、誰かが。

 縄を打たれた男。
 それが、二人。

 その背後に立つ男が、一人。

(`・ι・´)「ベルベットとロマネスク……後ろにいるのがデミタスか」

 聞かされていた特徴、そして似顔絵と、ほぼ一致していた。
 縄を打たれているのがベルベットとロマネスクだ。

(´・_ゝ・`)「お待ちしておりました。どうぞ、城内へ。
       ご覧の通り、この二人には縄を打ってあります」

(`・ι・´)「……降将に対しその扱いは頂けないな。
      縄はそのままでいいが、城壁に晒すなど無礼極まりない」

(´・_ゝ・`)「失礼致しました。とにかく、城内へ」
189 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:11:44.40 ID:xKbcCS210
 城壁からベルベットとロマネスクが姿を消した。
 二人とも、まるで覇気のない顔をしていた。

 ラウンジ軍内に入り、内部崩壊を狙ってくる。
 そう思っていた。半ば、決め込んでいた。
 しかし、違うのだろうか。

 あの表情は、絶望感に満ちていた。
 ヴィップに未来がないことを悟ったのだろうか。

 二人の降伏は、ヴィップ兵を生かすためのものなのか。
 将が降伏すれば、部下を殺すことはできない。ヴィップ兵はラウンジに組み込まれる。
 あるいはそれが狙いなのか。

( ’ t ’ )(……疑いすぎているのか……?)

 よく、分からなくなってきた。
 本当の降伏か、虚偽の降伏か。
 それさえ、分からないのだ。

 素直に受け入れてしまえばいい、と思える。
 しかし、胸騒ぎが収まらない。

 軍人としての、勘。

 それが、ざわめくのだ。
 うるさく喚き続けるのだ。

( ’ t ’ )(……本当に絶望したのか……? いや、そんなはずはない……!!)
196 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:13:34.26 ID:xKbcCS210
 もっと考えろ。
 ベルベットとロマネスクは、こんなに容易い相手ではないはずだ。
 もしこれほど簡単に絶望するような将なら、東塔など強国オオカミに押し潰されていたはずなのだ。

(`・ι・´)「どうした、カルリナ。早く城内へ」

(;’ t ’ )「待ってください!!」

 思わず叫んでしまった。
 アルタイムが驚きを率直に表現している。

 何故か、思ったのだ。
 シャッフル城内に、入ってはならないと。

(;`・ι・´)「どうしたというんだ? いったい」

(;’ t ’ )「……直接会って、感じました。やはり降伏は不自然です」

(;`・ι・´)「なんだと……?」

 何かがおかしいのだ。
 戦とは、こんなに簡単なものではないはずなのだ。

 デミタスが、裏切っていない可能性。
 それをまず考えた。ありえない可能性。
 自分たちは、デミタスからの伝令を受けてここまで来たのだ。裏切っていないなど、ありえない。

 あの伝令は確実にデミタスからだった。
 伝令章も掲げていた。間違いないのだ。
 デミタスの裏切りは、確たるものだ。
202 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:15:26.40 ID:xKbcCS210
 じゃあ、なんだこの違和感は。

 全身に生じる嫌な汗は、いったいなんなのだ。

(;`・ι・´)「とりあえず、シャッフル城の中にいる兵に出てきてもらおうか?
       自分たちが入るより、向こうに出てきてもらったほうが、安全な」

(;’ t ’ )「ッ!!」

 アルタイムの、言葉。
 それで、やっと気付けた。

 不思議な違和感。
 その、正体に。

(;’ t ’ )「全軍ッ!! すぐに退却だ!!」

(;`・ι・´)「なっ……!?」

(;’ t ’ )「城内に兵の気配を感じません!! 恐らく城外に――――」

 その叫びが、引き金だった。

 側方の森から、ヴィップ軍が姿を現した。
 伏兵。かなりの数だ。
 一万を優に超えている。二万ほどいるかも知れない。

(;’ t ’ )(しまった……!)
210 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:17:00.08 ID:xKbcCS210
 あそこに斥候は放っていなかった。
 迂闊だった。伏兵とは、思わなかった。
 いや、デミタスの裏切りが虚偽だとは思わなかった。

(;`・ι・´)「いったい、どういうことだ……!!」

 浮き足立っているラウンジ軍二万を、すぐに固めた。
 散らされると辛い。甚大な被害を受けてしまう。
 とにかく今は、逃げなければ。

 すぐに後方の三万に向け伝令を送ったが、あまりに遠い。
 かなり、厳しい。

( <●><●>)「大将と中将が討ち取られればラウンジにとって大打撃。
        もちろん、それくらい分かっています」

 ベルベット=ワカッテマス。
 モララーの再来と呼ばれた男。

 この状況で、二人の将官の命を狙ってくるとは。

( ФωФ)「下賎の輩の首は、貴公らにこそ相応しい」

 そう言って、ロマネスクは首を放り投げてきた。
 デミタス=コーフィーの首だ。

 全て、合点がいった。
 デミタスは、謀反に失敗したのだ。
 見破られてしまったのだ。
233 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:19:28.55 ID:xKbcCS210
 城壁からの言葉は、脅されて発したものだったのだろう。
 こちらからでは見えなかったが、デミタスの後ろにはアルファベットを持った兵がいたはずだ。
 ベルベットらに打たれていた縄も、見せ掛けだけだったのだろう。

(;’ t ’ )「ぐっ……!!」

 敵兵が迫ってくる。
 ベルベット、ロマネスクの指揮の下に。

 完全に、嵌められた。
 全て先手を打たれている。抗うことすら難しい。
 ヴィップは体勢充分。こちらは、あまりに不充分。

 次に奪う城まで考えていた戦は、どう逃げるかを考えなければならない戦になってしまった。



――ミーナ城――

 並々ならぬ気迫。
 真にさえ迫っている。

(´・ω・`)(面白い)

 圧倒的な力差を、感じさせなかった。
 それほど、フィレンクトは覇気に満ちていた。

 フィレンクトとの距離が、詰まっていく。
 まったく隙のない構えを見せている、フィレンクトとの距離が。
250 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:21:26.88 ID:xKbcCS210
 思わず、逡巡した。
 右からいくか、左からいくか。
 両手に握り締めたアルファベットが、動かなかった。

(#´・ω・)「ふんっ!!」

 右。
 アルファベットを、振り下ろした。

 受け止める構え。
 フィレンクトが、Jを前に出してきた。
 どうやら本気でZを受けるつもりらしい。

 命取りだ。
 この勢いなら、Jなど瞬時に破壊できる。
 そしてそのまま、フィレンクトを討ち取れる。

 何故か、過去がフラッシュバックした。
 フィレンクトが東塔将校だった頃の映像。
 頭の中を、流れてゆく。

 こんな体で、よく頑張ったものだ。
 そう素直に賞賛できた。
 これほどの男だと分かっていたら、軍から去らすこともなかった。

 しかし、今更すぎた。

 ギコを不意に討ち取ったときもそうだった。
 こんな風に、過去の映像が頭に流れ込んできた。
 まるで、懐古するようにして。
259 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:23:08.97 ID:xKbcCS210
 斬ることに躊躇いはない。
 全て、ラウンジの天下のためだ。
 クラウン=ジェスターのためだ。

 悲しみもないし、苦しみもない。
 ただ、斬るだけ。
 あるいは、だからこそ過去が思い出されるのだろうか。

 恐らくは、そんなものだろう。

 蹂躙してやる。
 ラウンジに仇なす、全てのものを。
 そこに迷いなど、存在するはずがなかった。

(#´・ω・)「ハァァァァッ!!」

 フィレンクトのJに襲い掛かった。
 頭の中にはもう、過去などいない。
 フィレンクトを両断する、未来だけが見える。


 ――――そう。

 それは、未来だ。


 決して、現実ではない。

 未来とは、違う。
276 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:25:27.44 ID:xKbcCS210
(#‘_L’)「うおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!」

 引いた。
 フィレンクトが、アルファベットを引いた。
 そして同時に、体も。

(´・ω・`)「ッ!!」

 しまった。
 勢いを、つけすぎた。
 アルファベットZが止まらない。

 空振り。
 フィレンクトが、Jを振り上げる。
 照り返しによって、夕陽がそこにあるように見えた。

 よく、ここまで戦った。
 実に素晴らしかった。

 実に、惜しかった。

(;‘_L’)「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 フィレンクトの体から、アルファベットが離れた。
 その左手に握り締められたまま。

 フィレンクトの、手首を斬った。
 鮮血が、夕日の光に混じる。
 同色の地面に溶け込んでいく。
290 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:27:09.35 ID:xKbcCS210
(´・ω・`)「惜しかったな」

 膝を突いたフィレンクトに向かって言った。
 右腕はない。左手もない。
 フィレンクトはもう、戦えない。

 そのまま倒れこんだ。
 これほどの重傷で、立っていられるはずはなかった。

 体中の血が、腕から抜けていくだろう。
 もう、永くはないはずだ。

(´・ω・`)「お前に右腕があれば、最後の一撃、俺を貫けていたかも知れん。
      実に惜しかった。が、よく戦った」

(;‘_L’)「……侮辱しているのか……? 慰めの言葉など……」

(´・ω・`)「率直な言葉くらい言わせろ。素直に賞賛しているのさ」

 生気が抜けていっているのが、眼に見えて分かった。
 顔色が明らかにおかしくなっている。
 呼吸も激しい。

 これで二人目。
 まだまだ、残りは多い。

 何人でも討ち取ってやるさ。

 何の混じり気もない感情が、そう呟いた。
303 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:29:35.68 ID:xKbcCS210
(;‘_L’)「……及ばなかったが、満足はしている……ブーン少将を逃がすことができた……」

(´・ω・`)「あぁ、そうだな。追っ手は出したが、お前のせいでずいぶん遅れた」

 ブーンを討ち取るのは、難しいかも知れない。
 伏兵を仕掛けておいたが、上手く機能するかは分からないからだ。

 しかし、生き延びるのならそれもいい。
 この手であいつを討ち取ることができる。

 それは純粋に、楽しみだった。

(´・ω・`)「苦しいだろう。一思いに討ち取ってやるさ」

 Zを、構えた。
 フィレンクトの眼を見据えたままで。

 フィレンクトは、穏やかな表情だった。
 東塔にいたころと、同じような。
 なんでもないという風に見えた。

 死とは、そんなものなのだろうか。
 自分には分からない。
 分かりたくもない。

(‘_L’)「最後に」

 呟きだった。
 耳を欹てなければ、聞こえないほどの。
316 :第73話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/24(月) 02:31:30.37 ID:xKbcCS210
 恐らく自分以外には聞こえていないだろう。
 それが、わざとなのか、もう声が出ないのか。
 やはり、分からなかった。

(´・ω・`)「なんだ?」

(‘_L’)「最後に、楽しい話を、ひとつ」

 少しだけ、微笑んだようだった。
 唇が痙攣しただけかも知れない、と思う程度の笑みだった。

(‘_L’)「貴方に、お話し致しましょう」

 仰向けの状態で、空をじっと見続けるフィレンクト。
 その顔は、不思議なほど充足感に満ちていた。












 第73話 終わり

     〜to be continued
 

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