- 2 :登場人物
◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水)
12:13:22.37 ID:9R6D8A2v0
- 〜東塔の兵〜
●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 少将
使用可能アルファベット:V
現在地:ミーナ城
●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:フェイト城
●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:フェイト城
●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:シャッフル城
- 3 :階級表
◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水)
12:13:59.85 ID:9R6D8A2v0
- 〜東塔〜
大将:
中将:モララー
少将:ブーン
大尉:ビロード/ベルベット
中尉:ロマネスク
少尉:
〜西塔〜
大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー
大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:
(佐官級は存在しません)
- 7 :使用アルファベット一覧
◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水)
12:15:06.78 ID:9R6D8A2v0
- A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー
T:アルタイム
U:
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:
Z:ショボン
- 9 :この世界の単位&現在の対立表
◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水)
12:16:12.39 ID:9R6D8A2v0
- 一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml
(現実で現在使われているものとは異なります)
---------------------------------------------------
・全ての国境線上
- 14 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:17:20.65 ID:9R6D8A2v0
- 【第72話 : Memory】
――ミーナ城――
夕闇に染まる二つの影。
斜めに伸びて、重なり合う。
(#‘_L’)「はぁぁぁぁっ!!」
勢いをつけて横に払った。
決してリーチは短くないJ。振るいやすさもある。
しかし、ショボンは難なくそれを回避した。
(;‘_L’)「くっ……」
アルファベットでは受け止めてこない。
あくまで攻撃を躱すだけだ。
弄ばれている。
それが、はっきりと分かる。
ショボンが使うアルファベットは、最上位であるZ。
あのベル=リミナリーでさえ達せなかったZだ。
さすがに、形状も特異だった。
Zは、N同様に分離型アルファベットだ。
雷のような形をした刃の両端に、柄がついている。
そして、その刃の縦に線が入り、ほぼ真っ二つに分かれるのだ。
- 21 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:19:24.74 ID:9R6D8A2v0
- 元はひとつのアルファベットだが、これを分離させずに使う人間はいないだろう。
両手に持ち、二振りの長剣として使ったほうが確実に汎用性は高い。
二つのZ、と見ることもできる。
適度なリーチ、適度な振るいやすさ。
そして双剣。
形状が異質なだけではない。機能性も相当高められている。
紛れもなく、最強のアルファベットだ。
(´・ω・`)「IからJになって良かったな。攻撃に鋭さがあるぞ」
冷静に、まるで他人同士の戦いを見ているかのように。
ショボンは、言った。
アルファベットで、受け止めさせることすらできない。
恐らくショボンは、Zで受け止めればJが壊れてしまうかも知れない、と思っているのだ。
実際、その可能性がある。
相手からの攻撃を受け止めた場合、まずJはもたないだろう。
しかしこちらからの攻撃をZに当てた場合は、すぐには壊れないはずだ。
恐らく、十数合は打ち合える。
いや、そんなことは関係ないのだ。
ショボンは、いつでも攻撃できるのに、してこない。
こちらの攻撃を、ただ躱しつづけている。
いつでも、殺せる。
だからこそ、遊んでいる。楽しんでいる。
それが分かってしまう。
- 27 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:21:47.84 ID:9R6D8A2v0
- (#‘_L’)「くそおおおぉぉぉッ!!」
振り上げた。
ショボンは、腰を軸にして体を傾け、あっさり躱してくる。
完全に、見切られている。
(;‘_L’)(……ダメだ、熱くなったら勝機が消える……)
嘗められていることに対し、感情的になってはならない。
ショボンは、いつでも自分を殺せるのだ、と忘れてはならない。
完全に嘗めきっていることを、利用してやらなければ。
不意を突く。隙を突く。
何でもいい。とにかく、一撃でいい。
アルファベットには、一撃で討ち取れる力があるのだから。
(´・ω・`)「熱くなるなよ。冷静に挑んで来い」
(#‘_L’)「黙れ!!」
力任せに振るった。
やはりショボンは、軽い身のこなしで回避してくる。
更に二度三度、強引な攻めを繰り出した。
冷静さを欠いている、と思わせたい。
もっと、油断させたい。
果たしてショボンは、騙されてくれるだろうか。
- 32 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:24:00.09 ID:9R6D8A2v0
- ひたすらアルファベットを振るい続けた。
Jは、片腕で振るうには辛いアルファベットだ。既に腕の感覚が消えつつある。
何年も片腕でアルファベットを扱う訓練をしてきたが、Jの重みはIとは比べものにならないのだ。
それでも、踏ん張らなければ。
この日のために九年、訓練と調査を重ねてきたのだ。
思考を続けてきたのだ。
全ては、自分が片腕を失ったときから。
ショボンに相談し、ジョルジュに話をしてもらったときから。
ジョルジュに、全てを打ち明けてもらったときから。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
――518年(9年前)――
――エヴァ城――
( ゚∀゚)「十数万もいる兵士の中で将校になれるのはほんの一握りだ。その将校に、お前はなった。
堂々、胸を張ればいい。お前はよくやった。ショボンだってお前を心から労ってくれるさ」
(;_L;)「……はい……」
流すまい、と思っていた涙が、零れた。
ジョルジュの優しい言葉と、ショボンの心遣い。
偉大な二大将の思いが一気に押し寄せて、止まらなくなった。
- 40 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:26:08.10 ID:9R6D8A2v0
- ( ゚∀゚)「じゃあ……またな」
ジョルジュが静かに椅子から立ち上がった。
部屋の扉へと歩いていく。
涙で視界が滲んでしまって、その後姿をはっきりと見ることはできなかった。
(;_L;)「……?」
滲んだ視界で、留まり続ける後姿。
部屋の扉まで行って、それを開けようとしない。
(‘_L’)「……ジョルジュ大将?」
涙を拭って、声をかけた。
ジョルジュは何故か、驚いたようにこちらを見た。
(‘_L’)「あの……いったい……?」
( ゚∀゚)「……すまん、もう少しだけいいか?」
思い詰めたような表情。
誰かに、助けを求めるような。
こんなジョルジュは、見たことがなかった。
(‘_L’)「……はい」
頷くと同時に、ジョルジュはこちらへ戻ってきた。
大き目の椅子に再度腰掛ける。
- 45 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:28:28.83 ID:9R6D8A2v0
- 両手を膝に置いて、顔を俯けるジョルジュ。
必死で何かを考え込むようにして。
切羽詰った表情で。
( ゚∀゚)「……フィレンクト。今お前の心境は、退役に傾いているか?」
絞り出したような声。
まるで、呟きだった。
(‘_L’)「……はい」
正直に言った。
ショボンとジョルジュ、二人の大将がそれぞれ気にかけて、話をしてくれた。
軍人を続ける。もしくは、やめる。そのどちらでもいい、と言ってくれた。
話をよく考えてみたが、やはり退役しかないだろう、と思った。
片腕のまま戦場に立つのは難しい。指揮官としても不便なことが多いだろう。
隻腕で活躍したセシル=ヒレンブランドのような精神力が、自分にもあるかは分からないのだ。
隻腕の将としてやっていくには、あまりに非力すぎる。
そう思えてならなかった。
( ゚∀゚)「……なら……お前に、頼みたいことがある」
(‘_L’)「頼みたいこと……?
ジョルジュ大将が、私にですか?」
( ゚∀゚)「あぁ……」
- 52 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:30:45.49 ID:9R6D8A2v0
- やはり、思い詰めたような表情。
助けを求めているような声。
ただごとではない、と分かった。
( ゚∀゚)「お前が退役するというなら、俺はヴィップ軍でたった一人、お前だけを信じる。
お前が心からヴィップのことを思っていると信じて、俺の考えを話す」
ジョルジュの言葉は、途切れ途切れだった。
必死で言葉を選んでいるようにも感じた。
(‘_L’)「……はい。言葉で示すのは難しいことですが、私は軍人をやめても死ぬまでヴィップの忠臣です」
( ゚∀゚)「その言葉で、充分だ。嬉しく思う。
……俺が今から語ることを、お前はきっと信じられないはずだ。
根拠は限りなく薄い。ほぼ勘と言ってもいい。
しかし、俺の考えを打ち明けてみようと思う。今まで誰にも話すことのなかった、疑いを」
(‘_L’)「……お願いします」
ぽつりぽつり、とジョルジュは語り始めた。
最初に出てきた言葉がまず、衝撃的だった。
ショボンが、裏切るかも知れないという可能性。
冷静に考えれば、まずありえないこと。
ショボンはずっとヴィップのために戦っている。そう思える。
疑ったことすらない。
- 61 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:33:15.28 ID:9R6D8A2v0
- その上、論拠が極めて希薄だった。
ショボンを疑いだした理由が、怪しい雰囲気を感じたからという、ただそれだけらしいのだ。
あまりに希薄すぎる。
ジョルジュは、誰も寄せ付けない空気を持つ、孤高の将として有名だった。
しかしそれは、もしやオオカミに忠誠を抱いているのではないか。
いつか裏切って、またオオカミに戻るのではないか。
そんな噂さえあった。
自分はジョルジュを信じている。
しかし、この状況でその噂を思い出さないほうが無理だった。
(;‘_L’)「……正直に申しまして……その話は、信じられません……」
( ゚∀゚)「だろうな……」
本音を語った自分に、気落ちした表情を見せるジョルジュ。
嘘はついていない、と思う。ジョルジュは、本気でそう疑っているのだ、と。
だが、ショボンの裏切りをジョルジュと同様に疑うことはできない。
( ゚∀゚)「バカバカしい話だと思うだろ?
俺だってそうさ。こんな疑い、抱えたくはなかった。
ショボンを心から信じることができたら、どれほど楽だったか……。
こんな話、誰にも話せねーしな……どうせ信じてもらえない」
(‘_L’)「……私はジョルジュ大将のことを尊敬しております。
ヴィップ軍のために命を賭けている大将だ、と思っております。
しかし、あくまで事実のみを捉えて考えると……論拠が薄すぎると言わざるを得ません」
- 69 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:35:58.60 ID:9R6D8A2v0
- ( ゚∀゚)「お前は、頭がいいな。この話を冷静に処理してるんだから、大したもんだ。
確かに論拠は薄すぎる。俺が他人からこの話を聞いたら、鼻で笑うところだ。
……だが、実はもう一つだけ、論拠になりえるものがあるんだ」
(‘_L’)「……?」
( ゚∀゚)「今の俺は、それに支えられていると言っても過言じゃない。
それがあるからこそ、俺はショボンを疑いつづけていられる。
心が折れそうになっても、ヴィップのためにショボンを監視しつづけられている」
(‘_L’)「……それは、いったい何なのですか……?」
( ゚∀゚)「この手紙だ」
懐に手を突っ込んだジョルジュが出した、小さな封筒。
色は白だが、少し汚れている。
手垢だろうか。
( ゚∀゚)「これは三年ほど前に、オオカミのガシュー=ハンクトピアから送られてきたものだ」
(;‘_L’)「ッ!?」
( ゚∀゚)「とは言っても、俺がオオカミと通じてるわけじゃねぇ。あっちが勝手に送ってきただけだ。
どうやらガシューは国内の人間に対し、不信に陥ったらしくてな。まさに俺と同じように。
そこで、元オオカミである俺に手紙が来たわけだ」
(‘_L’)「……手紙の内容は……」
( ゚∀゚)「ガシュー=ハンクトピアの、失敗についてだ」
- 83 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:38:16.68 ID:9R6D8A2v0
- 何度も開封を繰り返されたのが、一目で分かった。
封筒の開閉部分がぼろぼろになっているのだ。
中から出てきた手紙にもやはり、手垢らしき汚れがついている。
( ゚∀゚)「覚えているか? 東塔がシャッフル城を奪ったとき、ショボンとドクオが兵糧の焼き討ちをおこなったことを」
(‘_L’)「無論です。あれが成功したおかげで、シャッフル城戦に勝利できたのですから」
( ゚∀゚)「さて、問題はそこだ。何故焼き討ちは成功したか?」
思わず、首を傾げてしまった。
何も問題などない。あれは、オオカミの内部情報を掴めたから成功したのだ。
どの日にどのくらい運ぶか、どのルートで運ぶか。それらの情報を得たからこその成功だった。
(‘_L’)「何も問題など」
( ゚∀゚)「ない、と思うだろ? ところが、大アリなんだ。
兵糧に関する情報は、直前まで四中将と大将しか知らなかったんだから」
(;‘_L’)「ッ……!?」
それは、確かにおかしい。
四中将や大将の中に、ヴィップと通じている者はいないはずだ。
もし居たらとっくにオオカミを圧倒している。
いや、もしかしたら自分が知らないだけで、密かに通じている者がいるのか。
そこからショボンは情報を得たのか。
( ゚∀゚)「当然、四中将と大将は嫌疑にかけられる。
実際フィル=ブラウニーが、この中に裏切り者がいるのではないか、と言ったそうだ」
- 91 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:40:28.58 ID:9R6D8A2v0
- (‘_L’)「では、やはりヴィップに通じていた者が……」
( ゚∀゚)「ところが、いなかったんだ。誰もオオカミを裏切ってなんかいなかった。
これは、ガシュー=ハンクトピアの失敗によるものだったからだ」
話が少しずつ、繋がってきた。
しかし、核心だけが未だ曖昧だ。
ガシューはいったい、どんな失敗を犯したのか。
( ゚∀゚)「失敗を犯したガシューは、大将のミルナに失望されるのが怖くて、それを言い出せなかったらしい。
部下などに相談したとしても、密かにミルナに告げ口されるのではないか、と疑ってしまったそうだ」
(‘_L’)「完全に、不信に陥ってしまったわけですね……」
( ゚∀゚)「あぁ。だから俺に手紙を送ってきた。私はどうすればいいのですか、と」
ジョルジュが元オオカミの将とは言え、敵国の大将であることに変わりはないのだ。
よほどガシューは切羽詰っていたのだろう。
(‘_L’)「……ガシューの、失敗というのは?」
( ゚∀゚)「それが肝さ。フィレンクト、あのときオオカミはベルを受け入れた礼として、ラウンジから兵糧を受け取っていたよな?」
(‘_L’)「はい。そのせいでヴィップは苦しくなりました」
( ゚∀゚)「ラウンジから、ってのがポイントだった。ラウンジは兵糧支援のためにオオカミに対して動き続けていたんだ。
そこでラウンジ兵は、ガシュー=ハンクトピアにこう言ったらしい。
『兵糧を守るための兵をラウンジから出せるかも知れない。兵糧の輸送について情報が欲しい』と」
(;‘_L’)「ッ!!」
- 102 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:42:45.34 ID:9R6D8A2v0
- 繋がった。
曖昧だった部分が、姿を明確にした。
ばらばらだったものたちが集まり、形を成していく。
( ゚∀゚)「オオカミにとっちゃありがたい話だ。ガシューは当然のように兵糧について教えた。
そのラウンジの兵ってのは、ただの兵卒じゃない。ラウンジの将として長く活躍している将校だったそうだ。
ガシューはその将校を信頼し、情報を与え――――」
(;‘_L’)「……その情報が、ショボン大将に渡ったわけですか?」
( ゚∀゚)「と、俺は思う。しかし、ショボンはラウンジの誰にも自分の正体を明かしていないはずだ。
下手にそんなことをすれば、情報が漏れちまう可能性があるからな。
ここから先は推測だが、その将校は国王からの命を受け、ガシューに情報を求めた。
そして国王から、ショボンの間者に情報が渡り――――ショボンは兵糧についての情報を得た」
(;‘_L’)「……何故、国王が絡んでくるのですか?
そのラウンジ将校から、ショボン大将の間者が上手く情報を盗み出した、という可能性も」
( ゚∀゚)「無論ある。その可能性があるから、ショボンがラウンジと繋がっているとは断定できねぇ。
それと国王が絡んだという推測についてだが、これも論拠のない憶測だ。でも一応聞いておいてくれ。
俺は、国王のクラウン=ジェスターが、途轍もなく大きな謀略を仕掛けてきたんじゃないか、と踏んでいる」
国王との繋がり。
大きな、謀略。
頭の中で、上手く合致しない。
いったい、どういうことだろうか。
- 112 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:45:03.36 ID:9R6D8A2v0
- ( ゚∀゚)「ショボンの戸籍についてはとっくに調べてある。あいつはヴィップ生まれのヴィップ育ちだ。
どこの国軍もそうだが、自国民であることを証明しなきゃ軍には入れないから、当然のことだ。
だがもし、何らかの方法で戸籍をごまかしているとしたら」
(;‘_L’)「ごまかし……!?」
( ゚∀゚)「あぁ。ごまかせたとしたら――――ラウンジ生まれのやつがヴィップに紛れ込んでいる可能性がある。
つまり、クラウン=ジェスターの命によって送り込まれた、ヴィップの内部破壊を目論んだ人間かも知れないってことだ」
(;‘_L’)「ま、待ってください。話が飛躍しすぎています」
( ゚∀゚)「だから憶測だ。何の証拠もない。一応、筋が通っているというだけの話だ。
バカバカしいだろ? ショボンというヴィップの大将を、ここまで疑っちまってるんだ、俺は。
もしあいつが心の底からヴィップに尽くしているなら、申し訳ない限りだ」
(;‘_L’)「……事実のみを見れば、ショボン大将はひたすらヴィップのために尽くしているように思えます」
( ゚∀゚)「分かってる。あいつほどヴィップのために働いてるやつはいない、と俺も思う。
だが、俺の猜疑心は囁き続けるんだ。ショボンはいつか裏切るかも知れない、と。
恐らくこの感情はずっと拭えない。だから俺は死ぬまであいつを監視しつづける。
もしもが起きちまったとき、全く対策を講じていない状態だとヴィップは滅びかねない」
それは、確かにそうだ。
本当にショボンが裏切ったとしたら、ヴィップ軍は崩壊する。
たちまち滅亡の危機に瀕する。
ジョルジュはそれを恐れている。
だから自らヴィップのためにラウンジと戦いつつも、ショボンを疑いつづけている。
ただヴィップのために。
- 122 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:47:17.67 ID:9R6D8A2v0
- オオカミと通じているかも知れない、などとんでもなく失礼な噂だ。
ジョルジュは、誰よりもヴィップのことを想っている。
国を、守ろうとしている。天下へ導こうとしている。
信頼に値する大将だった。
( ゚∀゚)「疑うだけなら損はない。これからもまだ軍に留まるやつに話すのは、やはり危険だと思うがな。
しかし、不慮の事故で退役するお前なら、信頼できそうな気がしたんだ。
冷静かつ客観的に物事を見れるやつじゃなきゃ、この話は信じてもらえないだろうしな。
様々な事情を勘案すると、やはりここでお前に話すべきだ、と思えたんだ」
(‘_L’)「ありがとうございます。話していただけて、嬉しく思います」
本当に、話してくれて良かった。
ショボンのことを、できれば疑いたくはない。あれほど信頼できる大将だ。
自分も、ショボンの許で戦い、天下を目指そうと思っていた。
だが、ジョルジュの言うことには筋が通っている。
ショボンが裏切ってもおかしくない、と思える。
何より、ジョルジュの言葉には全く嘘が感じられなかった。
むしろ愛国心が横溢しているようにすら感じられたのだ。
ジョルジュほど国を想っている人はいない、と分かった。
だから、信じたくなった。
ジョルジュの、切々たる言葉を。
( ゚∀゚)「具体的に、ショボンに対する策をどうするかについてだが……。
これはもう、ひたすら見張っていくしかねぇ。
あいつがいつボロを出してもいいように」
- 131 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:49:54.98 ID:9R6D8A2v0
- (‘_L’)「……圧力をかけるという意味ですか?」
( ゚∀゚)「そこまで行くと、反撃が怖いところだな。
あいつがラウンジ国王と繋がってるとしたら、背後の力が強すぎる。
おおっぴらに行動はしてこねーだろうが……警戒が必要だ」
(‘_L’)「……なるほど、分かりました。
だから軍を退く私に話してくださったのですね?」
( ゚∀゚)「あぁ。恐らくショボンはお前を監視することはしない。
片腕となり、田舎に帰って畑を耕すと思っているだろうからな。
つまり、お前はショボンの反撃に脅えることなく行動できる」
(‘_L’)「……しかし、私独りではやれることも限られています」
( ゚∀゚)「分かってる。だから、見張っていくしかねぇんだ。
フィレンクト、俺はお前に『ショボンが裏切ったあとのこと』を考えてもらいたいと思ってる。
本当にショボンが裏切ったとき、ひとりでも多くの兵や将校を助けるために」
(‘_L’)「裏切りの防止ではなく、事後の対策ですか?」
( ゚∀゚)「裏切りの防止は俺がやるしかねぇ、と思ってる。
疑ってる素振りを見せて、あいつの行動を制限していくしかない、と。
だが、上手くいく保証はねぇ。あいつは裏切ろうと思えばいつでも裏切れる状態にあるからだ。
それでも俺が何とかするしかない。だから、もし裏切られてしまったときのことは、お前に任せたいんだ」
どちらも、同じくらい重要なことだ。
裏切らせないこと。裏切ったときの対策を考えること。
両方が成り立たなければ、万全とは言えない。
- 139 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:52:18.99 ID:9R6D8A2v0
- 隻腕となった。元より力があるわけでもない。
自分にできることなど、さほど多くはないだろう。
それでも、思考することはできる。
( ∀ )「……すまねぇ、フィレンクト……片腕を失った退役するお前に、こんなことを……」
顔を俯かせるジョルジュ。
金髪が垂れ下がり、その端整な顔立ちが隠れる。
( ∀ )「頭のいいお前なら分かっていると思うが……。
俺がお前に考えを話した理由は、お前が片腕を失ったからだ……。
五体不満足となったお前には、ショボンの息はかかっていないだろう、と思ったからだ……。
すまねぇ……大将ともあろう者が、こんなに非力で……。
腕を失って、故郷で幸せに暮らそうとしている兵を頼るなんて……」
(‘_L’)「顔をお上げください、ジョルジュ大将。
私は、話していただけたことを嬉しく思っています」
ゆっくりと、ジョルジュは顔を上げた。
その瞳の奥には、憂いが見えた。
(‘_L’)「今まで、ショボン大将がラウンジに寝返るかも知れない、など考えたこともありませんでした。
私ではきっと、一生思えなかったでしょう。疑えなかったでしょう。
それを話してくださったジョルジュ大将に、私は感謝しています」
( ゚∀゚)「……いや、やっぱり俺一人で何とかするべきだったんだ。
でも、俺に力が足りなかった……人を信じることもできなくなっちまった……。
そんな非力さのせいなんだ……。
すまねぇ……こんなことは、もう二度とないようにする」
- 147 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:54:41.08 ID:9R6D8A2v0
- (‘_L’)「他の協力者は、求めないのですか?」
( ゚∀゚)「信じられるやつがいねぇ……ただの兵じゃ話したって大して力にならないしな……。
それに、軍に縛られてるやつは大きな行動を取りにくい。
俺以上に権力を持ってる兵はいないしな」
(‘_L’)「そうですね……」
( ゚∀゚)「二人でいい。俺たち二人で、ショボンと戦うんだ。
あいつの潔白が証明できるならそれでいい。いや、そのほうがいい。
だが、万一のことを考えて俺たちは動くべきなんだ」
(‘_L’)「はい」
( ゚∀゚)「フィレンクト、お前はアルファベットの訓練を続けてくれ。
寿命が来たら俺がアルファベットを都合する。
時間を見つけて鍛錬し、なるべくランクが下がらないようにするんだ。
いざというときには、アルファベットを振るえるように」
願ってもないことだ。
Jの壁は越えられなかったが、まだアルファベットに未練はある。
いつか、何かの拍子に越えられるのではないか。
そう思ってしまうときもあったのだ。
半ば、願い事のように。
自分が満足するまでは、訓練を続けたい。
退役する意を固めてからも、そう思っていたのだ。
だから、嬉しかった。これからも、訓練を続けられることが。
- 150 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:57:04.32 ID:9R6D8A2v0
- ( ゚∀゚)「それと、可能な限りショボンについて調べてみてくれ。
俺も調査は続ける。が、戦をやりながらというのは、時間的に厳しい部分もあるからな」
(‘_L’)「病のほうは、大丈夫なのですか?」
( ゚∀゚)「問題ない。もうかなり快復してきている。
俺の病は本当だが、今回東塔で療養させて欲しいと言ったのは、ショボンを見張る意味のほうが大きかったしな」
(‘_L’)「そうだったのですか……納得がいきました」
( ゚∀゚)「こうやって、俺をすんなり受け入れる。それはショボンがヴィップのために戦っているからだ、と思える。
が、俺は不気味さを感じちまうんだ。何もかも見抜かれてるんじゃねーかって思っちまう。
俺が感じる違和ってのは、そういうことだな」
(‘_L’)「……気のせいだと良いのですが……」
( ゚∀゚)「それが一番さ」
やっと、ジョルジュは少しだけ笑った。
話し終えて、気が楽になったのだろうか。
疲れがにじみ出ている笑みでもあった。
( ゚∀゚)「またいつでも手紙を送ってくれ。差出人は伏せてくれていい。
手紙の文頭に『ノア』と書いてくれればお前からの手紙だと信じる。
俺は返事に『ヴォクシー』と書く。それが合言葉だ」
(‘_L’)「分かりました」
( ゚∀゚)「ま、ちょっとシンドイけど頑張ろうぜ」
- 161 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 12:59:28.62 ID:9R6D8A2v0
- 軽い口調だった。
あえてそうしているのだ、と分かった。
(‘_L’)「……はい」
強い口調で答えた。
あえて、そうした。
ジョルジュは、嬉しそうに笑ってくれた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
(#‘_L’)「くぉぉっ!!」
いったん背中に回して、勢いよく振り下ろした。
風を裂くアルファベットJ。
風のみを裂く、と言ったほうが適切か。
(´・ω・`)「振りが大きすぎるな。隙を見せないようにしろと教えたはずだが」
(#‘_L’)「ぬぁぁぁ!!」
体勢を整えて、再び振るった。
今度は、横。
ショボンは軽く躱してくる。
赤く染まった大地の上に、幾滴も汗が落ちていく。
自分のものだけが、だ。
- 167 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:02:25.29 ID:9R6D8A2v0
- 夕日は二人の戦いをじっと見守っていた。
なかなか沈まずに、山から顔を覗かせていた。
(´・ω・`)「やれやれ。怒りで我を失ったか。それでは俺に勝てるはずもないというのに」
ショボンの意図は、分かる。
あえて自分を宥めて、反発させようというつもりだろう。
冷静さを失わせるためか、激情させるためか。それは分からない。
しかし、ショボンの思い通りになってはならない。
あくまで一撃を見舞うことだけを考えなければ。
(#‘_L’)「はぁっ!」
隙。
それさえ、作れれば。
ショボンは油断している。
高みから、自分を見ている。
それを利用するしかない。
(‘_L’)(……攻撃してこい……)
無茶振りを繰り返している。
勝機はない、と誰もが思える攻撃を、何度も何度も。
ショボンも呆れ返っている。
もういいだろう、と思ってくれれば。
そろそろ楽にしてやる、と考えてくれれば。
- 179 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:05:29.71 ID:9R6D8A2v0
- 僅かな隙が、見えるかも知れない。
(´・ω・`)「……片腕で必死にアルファベットを振り回す様は……美しくもあり、無様でもあるな」
(#;‘_L’)「ハァ、ハァ……」
(´・ω・`)「俺に尽くしてくれたお前が苦しんでいる姿は、心が痛む」
Zを、前に突き出すショボン。
屈折した刃が不規則に夕日の光を照り返す。
(´・ω・`)「そろそろ、楽にしてやろう」
来た。
遂に、来た。
ショボンがアルファベットを構える。
攻撃せんとして前傾姿勢になる。
これが、最初で最後の機だ。
必ずモノにしてやる。勝ってやる。
ヴィップを愛する者として、この国を、救ってみせる。
(´・ω・`)「別れのときだ、フィレンクト=ミッドガルド」
(#‘_L’)「来い!!」
構えられたZ。
殺気を放つショボンの巨体。
- 191 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:08:30.00 ID:9R6D8A2v0
- (#´・ω・)「はぁっ!!」
ショボンが突っ込んでくる。
アルファベットを強く握り、見据えた。
素早い。それでいて、力強い。
あまりに強大だった。
それでも、臆したりはしなかった。
――ダカーポ城――
一晩寝ても変わらなかった。
二晩寝ても、やはり変わらなかった。
ずっと、頭が痛い。
時には吐き気を催すほどに。
( ’ t ’ )(……ふぅ……)
厠で用を足して、陣に戻った。
兵の士気は高い。どこからも気勢が上がっている。
反目するようにして、自分の士気は落ちていく。
城内に戻って、少し休憩を取った。
とても動き回れる状態ではなかった。
(`・ι・´)「浮かない顔だな、カルリナ」
- 206 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:11:07.13 ID:9R6D8A2v0
- 休憩室で横になっていたところに、アルタイムがやって来た。
自分が城内に戻ったと聞いて、心配してきてくれたのだろうか。
気持ちは、ありがたかった。
しかし、今はアルタイムともあまり喋っていたくない気分だった。
(`・ι・´)「体調はどうだ?」
優しさと気遣いのこもった声だった。
寝台から起き上がり、そこに腰掛ける。
アルタイムも同じように並び座った。
( ’ t ’ )「正直に申しまして、あまり優れません」
(`・ι・´)「早めに治してくれ。お前がいなくては戦にならん」
( ’ t ’ )「……そうでもないでしょう。ショボンがいるのですから」
(`・ι・´)「…………」
ショボン=ルージアルの寝返り。
突如として起きた、敵国大将の離反。
信じられなかった。
夢にも思わなかった。
まさか、ショボンがラウンジに寝返って来るとは。
ずっと教えてくれなかった。
クラウン=ジェスターも、アルタイムも。
誰も自分に教えてくれなかったのだ。
- 221 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:13:39.47 ID:9R6D8A2v0
- これはクラウンがずっと前に仕掛けた謀略だという。
敵国に自国民を紛れ込ませ、内部破壊を狙う、といったものだ。
ただの兵卒ならさほど効果はないが、大将ともなればその威力は絶大だった。
クラウンの人を見る目は確かだ。
幼いショボンの才覚を見抜いたのも、さすがというより他ない。
アルファベットでは全土最強。戦でもほぼ無敵の男だった。
クラウンはずっと、誰にも教えずにいたのだという。
あのベル=リミナリーにさえ黙っていたというのだ。
ベルとショボンが戦ったときは、相当に肝を冷やしたことだろう。
あのときベルは、アルタイム以外の誰にも教えず、ショボンを討ち取りに行った。
そして当時のアルタイムは、ショボンがラウンジと通じていることを知らなかった。
クラウンにしてみれば、危うく大事な戦力を失うところだった、ということだろう。
あの一戦、結果的にベルが負けてショボンが生き残ったことで、クラウンは心から安心したはずだ。
ベルに黙っていた理由は、生粋の武人が納得する策ではない、という理由らしかった。
クラウンは賢い国王だ。ベルの性格もしっかり把握していたようだった。
年数をかけて敵の内部破壊を狙うなど、ベルが頷くはずがない。
アルタイムは、以前ショボンからの使者が来たときに知ったらしい。
ショボンが共同歩調を持ちかけてきたときだ。
ショボンから話を持ちかけられ、共にオオカミと戦う、とラウンジは決めた。
アルタイムの意見が大きく反映された結果だった。
ショボンには、以前ファルロを助けてもらった恩があった。その借りを返す形で、ショボンの案に同調したのだ。
- 229 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:16:03.82 ID:9R6D8A2v0
- 自分も、不満はなかった。
手強いのはオオカミよりヴィップだが、国を潰せるなら潰しておいたほうがいい。
オオカミは油断ならない国だ。ミルナというカリスマが怖い存在としてずっと居たからだ。
国内で反発しあっているヴィップより、場合によっては手強いかも知れない。
オオカミとの一対一はできれば避けたかったのだ。
だからヴィップと協力してオオカミと戦うことには、自分も賛成だった。
しかし、今にして思えば。
あのとき既にアルタイムは、ショボンの裏切りを知っていたのだ。
使者からではなく、恐らくクラウンから聞かされたのだろう。
それも、不満だった。
何故、自分には直前だったのか。
ヴィップ戦が始まる寸前になって知らされたのか。
心の準備も何もできなかった。
ショボンが裏切ってくると聞かされ、次の瞬間にはもう裏切っていた、という感じだった。
とても納得できなかった。
(`・ι・´)「軍の中将が塞ぎこんでいては士気に影響する。
これからはヴィップを滅するための戦をしなければならないのだぞ」
( ’ t ’ )「……だったらどうして黙っていたのですか?」
不機嫌さを隠す余裕はなかった。
抑えられるような苛立ちでもない、と感じていた。
- 239 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:18:34.55 ID:9R6D8A2v0
- ( ’ t ’ )「何故、私に教えてくださらなかったのですか?
ショボン=ルージアルが、裏切ると」
(`・ι・´)「……それは……」
アルタイムが口篭った。
視線を、ゆっくりと逸らしながら。
( ’ t ’ )「反対すると思ったからですか?
ショボンを受け入れないだろう、と思ったからですか?」
(`・ι・´)「……否定しない。お前は拒む可能性もあると思った」
( ’ t ’ )「突然知らされるほうが嫌でした、私は。思わず拒みたくなるほどに」
(`・ι・´)「すまない……お前の怒りも尤もだ」
( ’ t ’ )「怒っているわけではないのです。ただ、釈然としないだけです」
(`・ι・´)「……仮に、俺がショボンの裏切りを知ってすぐ、お前に教えていたとしたら……
お前は、自分がどういう行動を取ったと思う?」
( ’ t ’ )「やめてください、仮定の話は。意味がありません」
(`・ι・´)「……そうだな……」
( ’ t ’ )「いずれにせよ私は、全力でヴィップと戦うつもりです」
アルタイムの目を見ながら言った。
少し驚いた表情が、言葉の代わりに返ってきた。
- 249 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:20:56.89 ID:9R6D8A2v0
- ショボンなど、関係ない。
ヴィップから裏切ってきて、ラウンジが俄然有利になったのは事実だが、今まで支えてきたのは自分たちだ。
ベルをはじめとする将たちだ。
これからも自分の戦をやっていくより他ない。
(`・ι・´)「そうか……それならいいんだ」
アルタイムは胸を撫で下ろしていた。
自分が、もう戦わなくなるかも知れない、と危惧していたのだろう。
そう思われて仕方ない態度を取ってきたからだ。
しかし、自分は軍人だ。
これまでずっと、ラウンジのために尽くしてきた。
それはショボンがラウンジに来ようが関係ない。
これからも、変わらない。
( ’ t ’ )「西塔の動きはどうですか?」
(`・ι・´)「軍を移動させている。ショボンの裏切りが西塔にも伝わったのだろうな。
シャッフル城にいたデミタス=コーフィーも裏切ったはずだから、西塔の連中はローゼン城まで戻るだろう。
一部はヴィップ城まで帰還するはずだ」
( ’ t ’ )「パニポニ城の守りは?」
(`・ι・´)「二万の兵が残っているようだ。パニポニ城を落とそうと思うなら、十五万は兵が要るな」
( ’ t ’ )「天然の要塞ですからね、パニポニ城は。
その十五万は、半減することを覚悟しなければなりませんし」
- 256 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:22:49.93 ID:9R6D8A2v0
- (`・ι・´)「パニポニ城を落とすのは無理だな。やはり防備が固すぎる。
モナー=パグリアーロが不落の難城に仕立てあげてしまったせいだ」
( ’ t ’ )「となると、狙いどころはカノン城か、ヒグラシ城か……」
(`・ι・´)「だが、ニダーとフサギコはさすがに抜け目ない。
ショボンが裏切ったと知った瞬間、専守に切り替えたようだ。
カノン城もヒグラシ城も、薄い守りではない」
( ’ t ’ )「今ラウンジは東塔の方面に戦力を大きく割いていますからね。
西塔が守りに入ったとなると、崩すのは難しいところですか」
(`・ι・´)「東塔がもっと乱れてくれれば、機はある。ショボンが上手くやってくれれば、だ」
( ’ t ’ )「他人はあてにしないでおきましょう。あくまで自分たちの力で為していくべきです」
(`・ι・´)「……ショボンは仲間だぞ」
( ’ t ’ )「直接喋ったことのない仲間というのも、不思議なものですね」
(`・ι・´)「……カルリナ」
( ’ t ’ )「アルタイム大将、シャッフル城はどうなっているのですか?」
アルタイムの言葉を、無理に遮った。
それをアルタイムも察したようで、あえて言葉を続けることはしなかった。
いったん息を吐き、話を切り替えてきた。
- 265 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:25:23.53 ID:9R6D8A2v0
- (`・ι・´)「デミタスが裏切って、ベルベットとロマネスクの命を狙っているはずだ」
( ’ t ’ )「上手くいきますかね」
(`・ι・´)「分からん。できればベルベットは討ち取ってほしいところだが」
( ’ t ’ )「城自体は、どうなってます?」
(`・ι・´)「それも分からん。シャッフル城は一番、謀略が薄かった。
奪えてないかも知れんな」
( ’ t ’ )「それなら、自分たちで奪いに行くだけです」
(`・ι・´)「俺も軍を向けるべきだと思っている。既に準備は進めている」
( ’ t ’ )「しかし、ショボンの裏切りを事前に発覚させないためとは言え、準備が整ってなさすぎますね」
(`・ι・´)「致し方ない。それだけ効果が大きいんだ、ショボンの裏切りは」
( ’ t ’ )「分かっていますが、こちらの戦にまで影響を及ぼされると、士気が下がってしまいます」
(`・ι・´)「……そうかも知れん」
( ’ t ’ )「まぁ、ラウンジの天下は目前ですから、兵たちの士気は高いようですが……」
(`・ι・´)「それが救いだ。下がることも懸念していたからな、上がってくれて良かった」
( ’ t ’ )「他の城はどうなっているのですか?
他の裏切り者は?」
- 271 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:27:01.24 ID:9R6D8A2v0
- (`・ι・´)「オワタがオオカミ城を奪い、ショボンがミーナ城を落とし……
フェイト城もプギャーが奪取したはずだ」
( ’ t ’ )「プギャーと共にいたのはモララーでしたね。モララーはどうなりましたか?」
(`・ι・´)「まだ情報がない。が、討ち取る策は用意してあるとのことだった」
( ’ t ’ )「場合によっては、投降してくることも」
(`・ι・´)「考えられる。モララーやビロードもそうだし、ベルベットやロマネスクもそうだ」
( ’ t ’ )「討ち取ってくれるほうがありがたいですけどね」
(`・ι・´)「そうだな。投降では対応が難し……ん?」
二人が利用するだけで精一杯だ、と思えるような、小さな休憩室。
そこに、一人の兵が入ってきた。
慌てていた。
(伝;З-З)「ハァ、ハァ……」
伝令章を差し出してきた。
新たな情報が入ったらしい。
(`・ι・´)「何があったんだ?」
何となく、嫌な予感に襲われた。
また陰鬱とした気分になってしまいそうな、そんな予感。
そして、そういった予感は、得てして現実となってしまうものなのだ。
- 281 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:28:58.31 ID:9R6D8A2v0
- (伝;З-З)「と、投降者が出ました!」
アルタイムと話していた矢先の報せだった。
投降は対応が難しい。できれば討ち取ってほしい。
そう話していた、直後だった。
(`・ι・´)「東塔の将校だな?」
(伝;З-З)「はい」
潔く敵と戦って散る道もある。
泥に塗れて生き、可能な限り命を保持する道もある。
どちらがいいとは言えない。人それぞれだ。
しかし、泥に塗れることを選んだ将がいるようだった。
この対応は難しくなりそうだ、と思った。
投降してきた者への対応は、大きく分けて二つある。
捕虜として生かす。もしくは、打ち首とする。
しかし、投降者を斬るのはよほどの理由がないと難しい。
投降者が西塔ならまだ良かった。
今までラウンジと戦ってきた相手だからだ。
仲間を何人も殺した、という理由がつけられる。
だが、今まで一度も戦ったことがなかった東塔では、その理由がつけられない。
いや、ヴィップという国で括ればその理由を適用することも、できなくはないはずだ。
が、必ず国内からの反発が起きてしまう。
- 290 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:31:01.10 ID:9R6D8A2v0
- オオカミの国王であったフィラッド=ウルフでさえ、捕虜として生かされているのだ。
投降した者を斬るというのは、人道的でないという意見が軍内にも多くある。
自分も、投降した兵を斬るのは気が進まなかった。
敗北を認めた兵は、既に一度死んだようなものなのだ。
そこにアルファベットを向けるのは、やはり気が引けてしまう。
やはり今回は、討ち取ってくれたほうがありがたかった。
兵卒は投降してくれたほうがいいが、将校はまた話が違ってくるのだ。
捕虜として生かしておくのは、面倒なことになりかねない。
駆け引きに使うのもあまり好きではなかった。
そして、ショボンはそれを好みそうな気がする。
やはり、面倒なことになりそうだ、と思った。
投降したのはいったい、誰だろうか。
何となく名前を聞きたくない気分だった。
今後のことを考えると、憂鬱だからだろうか。
それでも、聞かなければならないのだった。
思わず溢れそうになった嘆息を飲み込み、伝令兵を見た。
( ’ t ’ )「投降者の名を」
短く言った。
- 293 :第72話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/12(水) 13:31:24.87 ID:9R6D8A2v0
- 伝令が、頷く。
少し早口で、しかしはっきりと、投降者の名を口にした。
第72話 終わり
〜to be continued
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