12 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:35:18.89 ID:b/pcF6QD0
〜東塔の兵〜

●( ^ω^) ブーン=トロッソ
31歳 少将
使用可能アルファベット:V
現在地:ミーナ城

●( ・∀・) モララー=アブレイユ
36歳 中将
使用可能アルファベット:X
現在地:フェイト城

●( ^Д^) プギャー=アリスト
37歳 少将
使用可能アルファベット:R
現在地:フェイト城

●( ><) ビロード=フィラデルフィア
34歳 大尉
使用可能アルファベット:?
現在地:フェイト城

●( <●><●>) ベルベット=ワカッテマス
30歳 大尉
使用可能アルファベット:R
現在地:シャッフル城
17 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:37:03.59 ID:b/pcF6QD0
●( ФωФ) ロマネスク=リティット
24歳 中尉
使用可能アルファベット:L
現在地:シャッフル城

●(´・_ゝ・`) デミタス=コーフィー
29歳 少尉
使用可能アルファベット:O
現在地:シャッフル城


〜西塔の兵〜

●( ゚∀゚) ジョルジュ=ラダビノード
45歳 大将
使用可能アルファベット:V
現在地:ヴィップ城

●<ヽ`∀´> ニダー=ラングラー
46歳 中将
使用可能アルファベット:S
現在地:パニポニ城

●(-_-) ヒッキー=ヘンダーソン
49歳 少将
使用可能アルファベット:O
現在地:ヴィップ城
20 :登場人物 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:38:12.99 ID:b/pcF6QD0
●ミ,,゚Д゚彡 フサギコ=エヴィス
42歳 少将
使用可能アルファベット:?
現在地:パニポニ城

●( ´_ゝ`) アニジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:パニポニ城

●(´<_` ) オトジャ=サスガ
44歳 大尉
使用可能アルファベット:P
現在地:パニポニ城
32 :階級表 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:40:10.31 ID:b/pcF6QD0
〜東塔〜

大将:
中将:モララー
少将:ブーン/プギャー

大尉:ビロード/ベルベット
中尉:ロマネスク
少尉:デミタス


〜西塔〜

大将:ジョルジュ
中将:ニダー
少将:フサギコ/ヒッキー

大尉:アニジャ/オトジャ
中尉:
少尉:

(佐官級は存在しません)
37 :使用アルファベット一覧 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:40:52.62 ID:b/pcF6QD0
A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:
L:ロマネスク
M:
N:
O:ヒッキー/デミタス
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:プギャー/ベルベット
S:ニダー
T:アルタイム
U:
V:ブーン/ジョルジュ
W:
X:モララー
Y:ショボン
Z:
42 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:41:35.28 ID:b/pcF6QD0
一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml

(現実で現在使われているものとは異なります)

---------------------------------------------------

・全ての国境線上

 

47 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:43:11.01 ID:b/pcF6QD0
【第71話 : Betrayer】


――ミーナ城――

(´・ω・`)「実に清々しい。長年耐えてきた甲斐があったというものだ」

 変貌した表情。
 不敵すぎるほどの笑み。

 今まで、接してきた人物と。
 あれが、本当に、同一人物なのか。

 違っていてくれ。
 そんな願いは虚しいだけだと、分かっていた。

(´・ω・`)「そんなに悲しかったか? 俺がラウンジの人間だったことが」

 不敵な笑みは、崩さないまま。
 そしてそれを見ていると、何も言えなかった。

(´・ω・`)「憤りか? どっちでもいいがな……。
      クラウン=ジェスター様の命を受けてから、実に31年。
      あまりに長すぎた。クラウン国王には申し訳ない限りだ」

(;゚ω゚)「……最初から……ラウンジに寝返っていたのかお……?」

(´・ω・`)「違うな。そもそも俺がヴィップに忠誠を誓ったこどなどないのだから、寝返りではない。
      本来居るべき場所に帰るだけさ。少々、長くかかりすぎたがな」
53 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:45:18.76 ID:b/pcF6QD0
(;゚ω゚)「どういうことだお!! なんで、なんで……!!」

(´・ω・`)「存外、物分かりが悪いな。状況を判断する力はあると思っていたんだがな。
      ラウンジ国で生まれ育った俺は、まずヴィップ国民となった。
      孤児院に入れられそうな青年が居るという情報を得てな、殺して成りすましたんだ。
      そうやってヴィップの一国民になった。戸籍をごまかさなければ国軍には入れないからな」

(;゚ω゚)「……!?」

(´・ω・`)「『戸籍をごまかしてヴィップ軍に入り、ヴィップを内部から崩壊させる』……。
      これが俺の使命だった。それだけの話さ。
      ずっとラウンジの人間だったんだよ、俺は。長く離れすぎてしまったがな」

 疲れた表情を浮かべている。
 それも、笑いながら、だ。

 達成感に満ちている。
 それがはっきりと分かった。

(´・ω・`)「邪魔者が入ることもあったが、何とか目標を達成できた。
      今頃モララーもプギャーの手によって窮地に陥っていることだろう」

(;゚ω゚)「ッ!?」

(´・ω・`)「俺のようなやつを、クラウン国王は何人もヴィップに送り込んでいた、ということさ。
      プギャーもそうだ、ということに気付くのには時間がかかったがな」

(;゚ω゚)「……プギャーさんが……」
64 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:47:29.37 ID:b/pcF6QD0
(´・ω・`)「まぁ、あいつ如きではモララーを討ち取れんかも知れんがな……。
      俺がモララーを狙って、万一のことがあったら大変だ。プギャー程度に任せておくのがいい。
      あいつはアルファベット以外無能だが、バカみたいに俺に忠実なところがいい」

 そしてまた笑い出すショボン。
 あまりに不気味すぎる笑み。
 殴り飛ばして、ぐちゃぐちゃに潰したくなるような。

(´・ω・`)「これで東塔の将官は全滅だ。全く、愉快で堪らんな」

(;゚ω゚)「……まだブーンがいるお」

(´・ω・`)「あぁ、お前も今から殺すのさ。当然だろう」

 ゆっくりと、突き出される。
 アルファベットY。

 重厚な、凶器。

(´・ω・`)「お前には期待していたんだ、俺は。いつかラウンジに寝返らせようと思った。
      お前は俺を信頼していただろう? だから可能だ、と思ったんだがな……。
      やはり、お前の初陣を西塔に預けるべきではなかったな。
      あれ以来、お前がジョルジュの手先に見えて仕方なかった」

(;゚ω゚)「……!?」
77 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:49:46.30 ID:b/pcF6QD0
(´・ω・`)「それでもお前は、俺を信頼していると思った。間違いないだろう、とも。
      しかし、拭いきれなかった。ずっと、俺を助けてくれる存在になると思っていたんだが。
      まぁ、お前はヴィップの将としてはよくやってくれた。オオカミ戦で活躍してくれた。
      感謝しているよ。優秀な駒だったさ、お前は。
      アルファベットが成長しすぎたのだけが、少しいただけなかったがな」

(;゚ω゚)「……ふざけるなお……!!」

(´・ω・`)「お前の怒りも尤もだ。ずっとラウンジのために動かされていたんだからな。
      しかし、もうどうでもいいだろう。愛する者も親友も失ったじゃないか。
      ここで果てても悔いなどあるまい」

 そしてショボンの笑みは、不敵なものに戻った。
 瞬間、悪寒がした。

 同時に、怒りが噴き出した。

(;゚ω゚)「……まさか、ツンさんを殺したのは……!!」

(´・ω・`)「俺だ。正確に言えば、俺の部下がやった。
      警護兵を俺の部下に変えるくらい、造作もないことだ。
      警護兵と同じ数の死体を輜重で運ばせ、森の近くにばらまいておけば、外部犯のように見えるだろう。
      ツン=デレートにもう用はなかった。そして、生かしておけばラウンジにとっては不利だ。
      最初から、時期を見て殺すことは決めていたさ」

(#゚ω゚)「ショボン……ッ!!」

 あんなに憤っていたのに。
 ツンが死んで、悲しんでいたのに。
90 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:51:54.89 ID:b/pcF6QD0
 嘘だったのか。
 悲しみを忘れるな、という言葉も、欺瞞だったのか。

 ツンの死さえ、この策に利用しただけなのか。

(´・ω・`)「ついでに教えといてやろうか。ドクオを殺したのも、俺だ」

(;゚ω゚)「ッ!?」

(´・ω・`)「まぁ、間接的だがな。実際あいつを殺したのはミルナだからな。
      あいつに出陣の命令が下ったとき、俺は『手紙がすり替えられた』と言ったが……
      すり替えられてなんかいない。俺があいつに出陣の命令を出したのさ」

 幼い頃から、ずっと一緒だった、親友。
 妹のために戦いつづけた、優しい兄。

 共に天下を目指そうと誓い合った、仲間をも――――

 ショボン、お前の手によって――――

(´・ω・`)「状況的に見て、オオカミが森に伏兵を置いていることは間違いなかった。
      ドクオは才能があったからな。早めに殺しておいたほうがいい、と判断したんだ。
      後で手紙が発見されたときに言い訳できるよう、字は雑にしておいたが」

 ――――何もかも。

 何もかも、お前の仕業だったのか。


 皆、お前の思惑通りに動かされていたのか。
101 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:53:52.10 ID:b/pcF6QD0
(´・ω・`)「みんなよくやってくれた。実に、俺の思惑通りだった。
      オオカミを滅ぼし、大将がラウンジへ行き……天下は目前だ」

(#゚ω゚)「お前の好きにはさせないお!!」

(´・ω・`)「吼えたいだけ吼えろ。どうせ最後だ」

(#゚ω゚)「最後なんかじゃないお!!」

 させない。
 最後になんか、させてたまるか。

 こんなところでヴィップを終わらせるわけにはいかない。
 ショボンの思い通りに、させるわけにはいかない。

 打ち破らなければ。
 友を失った者として、愛する者を失った者として。

 ヴィップの忠臣として。

[#`二´]「てめぇはとっくに終わってんだよ!! とっととくたばりやがれ!!」

 城壁から姿を見せる兵。
 ラウンジ兵。
 Dを、構えている。

(´・ω・`)「よせ」

 ショボンの静止を振りきって、Fを放ってきた。
 あまりに鈍すぎる、一撃を。
109 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:56:01.86 ID:b/pcF6QD0
(#゚ω゚)「こんなもんで殺せると思うなお!!」

 眼前。
 右手で、Fを掴んだ。

[;`二´]「なっ……!!」

 近くの兵のDを使って、瞬時に放ち返した。
 首を射抜く。頭と体が同時に城壁を滑り落ちる。
 背のアルファベットJが転がった。

(´・ω・`)「バカが……お前如きで相手になるか」

 心底、呆れていた。
 自分の部下が死んだというのに。

(´・ω・`)「やぁ、すまんな。バカが勝手な真似をした」

(#゚ω゚)「降りて来いお!! お前を殺してやるお!!」

(´・ω・`)「勝てると思っているのか? 俺に」

(#゚ω゚)「殺してやるお!!」

(´・ω・`)「冷静さを欠いたか。まぁ、お前のそんなところは嫌いじゃなかった。
      お前はいい部下だったさ。だからこそ、ラウンジに連れて行きたかったんだが」

(#゚ω゚)「ドクオもツンも殺したのに、誰が……!!」
120 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 04:58:19.26 ID:b/pcF6QD0
(´・ω・`)「まぁ、もう無理だろうな。分かっているさ。だから殺すしかない。
      そこで待っていろ。すぐに殺してやるさ」

 アルファベットVを握り締めた。
 強く強く、握り締めた。

 ここで、ショボンを殺す。
 それしかない。
 自分にとっても、ヴィップにとっても。

 こいつはもう、東塔の大将ではないのだ。
 ラウンジの男なのだ。

 ここで殺しておかなければならない。

(#゚ω゚)「来いお!!」

 ショボンは不敵な笑みを、ずっと崩さなかった。



――ヴィップ城・西塔大将室――

 嫌な天気だった。
 多くの色を混ぜ合わせたような空。
 そして雲。

 朝から、気分が晴れなかった。
 そんな日だった。
132 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:00:11.66 ID:b/pcF6QD0
 _
(#゚∀゚)「クソッ!!」

 報せが入った。
 ずっと疑っていたことが、真実だったと分かった。

 思わず、拳を叩きつけた。
 _
(#゚∀゚)(ショボン……!!)

 裏切った。
 ショボンが、裏切ってしまった。

 ずっと疑っていた。
 あいつは、ラウンジに通じているのではないかと。
 ラウンジのために戦っているのではないかと。

(#゚∀゚)「本当に……ショボンが、裏切ったのか……」

 疑っていた。
 しかし、証拠がなかった。

 ショボンを疑った理由は、確たるものではなかった。
 言葉で表現するとすれば、何となくだった。微かに怪しい雰囲気を感じただけだ。
 そんな曖昧な理由で、仲間を疑ってしまった。しかし、拭い去れなかった。

 ショボンを、信じたかった。
 あいつはヴィップの仲間だ、と。
 しかしどうしても信じられなかった。
146 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:02:12.44 ID:b/pcF6QD0
 そんな葛藤に、自分は、ずっと苛まれつづけていた。

(;-_-)「……もしや、ジョルジュ大将……あなたは、これを予測していたのですか……?」

 報せを持ってきてくれたヒッキーが、ただ呆然としていた。
 今回の戦、唯一本城に残っている将だ。

( ゚∀゚)「……そうかも知れねぇ、と思ってただけだ……俺はどうしてもあいつを信じられなかった……」

(;-_-)「何故、何故話してくださらなかったのですか?」

( ゚∀゚)「何も証拠がなかった……下らない猜疑心が働いただけだ、と思った……。
     そんな状況で、大将が裏切るかも知れないと言ってみろ……国は崩壊するぞ……」

 そうだ。
 やはり最も手痛かったのは、何も証拠がなかったことだ。

 個人的に、怪しさを感じた。
 こんな希薄な理由はない。
 自分自身、怖かった。仲間を疑ってしまったことが。

 ショボンは、味方なのではないか。
 心からヴィップに忠誠を誓っているのではないか。
 そう思うことのほうがむしろ多かったのだ。

 間違っているのは自分ではないか。
 そう思ってしまうことのほうが、多かったのだ。

(;-_-)「……私にさえ……お話いただけなかったのですか……?」
159 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:04:15.26 ID:b/pcF6QD0
 切なげな表情を、ヒッキーは浮かべていた。
 心が、ずきりと痛むような。

( ゚∀゚)「……正直に言う。俺は、誰も信じちゃいなかった」

(;-_-)「…………!!」

 いつも冷静なヒッキーが、衝撃を受けている。
 動揺を、隠そうともしていない。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 ヒッキーは、自分を信じてくれていたのに。
 自分はヒッキーさえ、疑ってしまっていた。

( ゚∀゚)「ずっと信じたかった。信じて、全てを打ち明けたかった。
     だが俺はヴィップの忠臣だ。ヴィップのために死ぬまで尽くすとハンナバル総大将に誓った。
     ――――だからこそ、言えなかった」

(;-_-)「……どういう意味ですか?」

( ゚∀゚)「もしお前がショボンの手先だった場合……俺があいつを疑っているとバレるからだ」

 一瞬、ヒッキーが呆然とした。
 意味が分からなかったようだ。
 しかし、すぐにはっとした顔をした。察してくれたらしい。

 疑っている素振りは見せた。
 しかし、それを確定付けるような真似はしなかった。
172 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:06:32.93 ID:b/pcF6QD0
 そうすることで、ショボンは自分に手出しできなかった。
 ショボンにとっても、自分は国を保つ重要な男だったからだ。
 確たる証拠もないのに迂闊なことはできなかっただろう。

 つまりショボンは、自分と同じ悩みを抱えていた。
 相手を疑いつつも、確証を得られない。
 そういった苦しみを持っていたはずだ。

 だが、その争いには自分が負けた。
 最後の最後で、あいつを信じてしまった。

(;-_-)「……以前仰っていた……自然の流れに任せる、というのは……あれは……」

 ラウンジ戦が始まる前だ。
 寝床で、ヒッキーにそう言った。

 あのときは、何もやる気がなかった。
 今までの自分の努力と我慢が、全て無駄なものだったと思ったからだ。

( ゚∀゚)「……ショボンを、信じちまったんだ……ラウンジを攻める、と言ったあいつを……。
     あいつがラウンジと不可侵条約を結んだあと、俺は意図を問い詰める手紙を送った。
     オオカミとこのまま戦って、討ち滅ぼしたとして、どうするつもりなのか、と。
     その返事にショボンは、オオカミを滅ぼしたあとはラウンジと戦う、と書いてきたんだ」

(;-_-)「…………」

( ゚∀゚)「それに以前、あいつはラウンジ戦に伴ってほしいとも言ってきた。
     俺はそのとき、心の底から迷ったよ。あいつが『協力してラウンジと戦おう』と言ってきたんだから。
     ショボンがベルと戦ったことも引っかかった。あいつがラウンジの人間ならベルと戦うはずがないからだ。
     そうやって色んなことを考えると……やっぱり、ショボンはヴィップの忠臣だと思えたんだ」
189 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:10:53.78 ID:b/pcF6QD0
 ショボンは、誰よりもヴィップのために働いていた。
 それは間違いなかった。
 寝る間も惜しんで部隊を調練し、アルファベットの訓練をしていたことを、自分はよく知っている。

 ショボンが、本当にヴィップの忠臣だったら。
 これほどありがたいことはなかった。
 必ずヴィップは天下を統一できる。そう思えたのだ。

 しかし、ショボンは裏切ってしまった。
 最も起きてほしくないことが、起きてしまったのだ。

(#゚∀゚)「結局、俺はあいつの思い通りに操られてたんだ……!!」

 唇を噛んだ。
 何もかも握りつぶすように拳に力を込める。

 ショボンが頭角を現したのは、将官になった頃。
 途轍もないペースでアルファベットをランクアップさせ、周りから注目された。
 戦を指揮させれば連戦連勝。比肩する者なしとまで言われた。

 やがて大将になったショボンは、打倒オオカミを目標として掲げた。
 それはずっと、最初から最後までずっと、続いていた。
 思えば、東と西の亀裂が深まったのはあの頃からだった。

 前の大将のモナーも、確かにオオカミを狙っていた。
 しかし、露骨にオオカミを倒そうとしたのはショボンの代になってからだ。
 自分がショボンを疑いだしたのも、その頃だった。
201 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:12:11.39 ID:b/pcF6QD0
 何もおかしくはない。
 実際、オオカミと戦うわけにいかなかった自分にとっては、救いでもあった。
 助かった、とも思った。

 何故、違和感を覚えてしまったのか。
 今でも分からない。
 しかし、あの違和感は正しかった。本物だったのだ。

 だが、理由はあまりに希薄すぎた。
 誰かに打ち明けるなど、考えられないほどに。

 ――――そう、たった一人を除いては。

( ゚∀゚)「……将校たちは、無事なのか? どれくらいの兵が裏切った?」

(-_-)「それに関しては、情報が錯綜しておりまして……まだ何も……」

( ゚∀゚)「分かった……お前は情報収集に専念してくれ」

(-_-)「……はい……」

 ヒッキーが頭を下げ、部屋から退出していった。
 その背に、寂しさを漂わせたまま。

 すまない。
 心の中で呟いた。

 ヒッキーのことは、信頼したかった。
 打ち明けたい、と思ったこともあった。
 だが、疑ってしまったのだ。もしかしたら、ショボンの息がかかっているかも知れない、と。
209 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:14:28.90 ID:b/pcF6QD0
 そうやって何もかも疑ってしまった。
 人を、信じられなくなった。

 もっと他人を信じていられれば。
 今更思っても、仕方のないことだ。

( ゚∀゚)(……何も変わっちゃいねぇんだな……)

 結局、俺は独りのままか。
 昔と変わらない。何も変わらない。
 ハンナバルが、あんなに眼をかけてくれたのに。

 あの人の想いに、何も応えられなかった。

(  ∀ )(……申し訳ありません……ハンナバル総大将……)

 寝床で横になった。
 力が入らなくなってしまった。

 皆、無事だろうか。
 生きてくれているだろうか。

 いや、きっと何人かはやられている。
 ショボンのことだ。ヴィップを崩壊させるほどの策を練ったに違いない。
 唇を噛み切ってしまいそうなほど、悔しかった。

 せめて、動くことができれば。
 馬に乗って駆けることができれば。
 ショボンを、殺しに行けるのに。
222 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:16:34.21 ID:b/pcF6QD0
 誰かを、助けられるかも知れないのに。

(  ∀ )(……頼む……今はお前しかいないんだ……)

 唯一、打ち明けた人物。
 信頼するとしたら、こいつしかいない。そう思った人物。
 そいつが上手くやってくれることを、祈るしかなかった。

 そして、皆の無事を願った。



――フェイト城――

 どうしようもなかった。

 戦では全てを想定して望むべき、と考えている。
 あらゆるパターンを考え、どんな状況に陥っても対処できるようにするのだ。
 そして自分の構想通りの展開に持っていくべきだ、と。

 しかし。
 味方が裏切ることまで想定していては、戦ができない。
 対処法など、あろうはずもない。

(;・∀・)「お前が裏切るとは思ってなかった……プギャー=アリスト……」

 戦に向かうべく、兵と共に城を出た直後だった。
 突然、城門が閉ざされた。
235 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:18:31.50 ID:b/pcF6QD0
 どういうことなのか、全く分からなかった。
 しかし、一目見ただけで状況が分かるものがあったのだ。

 城壁で、勝ち誇った顔を浮かべている男だ。

 城壁に立った男は、握りこぶしから人差し指だけを突き出していた。
 そして、嘲笑った。

m9(^Д^)「まんまとハメられたなwwwwwwwwwショボン大将の計画通りだwwwwwwwwwww」

 そう、それだ。
 それが一番、問題なのだ。

 ショボンが、裏切ってしまったのだ。
 最も裏切ってはならない男が。

 誰もが、信頼していた男が。

 心の底から、あの人を信じていた。
 尊敬していた。
 この人の許で天下を目指そう、とずっと思っていた。

 しかし、裏切られた。
 そして命を狙われた。

(;・∀・)(くそっ……!)

 疑うべきだったのか。
 先日、何故かプギャーが『編成を任せてほしい』と言ってきた時点で。
252 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:20:46.12 ID:b/pcF6QD0
 編成など、自分がやってもプギャーがやっても大差はない。
 任せてしまっても問題ないだろうと思ったのだ。
 しかし、まさかこんな意図があったとは。

 自分の手勢は僅か二千。
 この二千は信頼できる。いつも自分が率いてきた兵たちだ。
 しかし、城内に残された八千は――――。

(;・∀・)「……なるほど。編成を任せてほしいって言ったのは、そういう意味もあったのか」

 俺の気付かないところで、ラウンジ兵を引き入れていたのか。
 寝返らなかったヴィップ兵を殺し、ラウンジ兵に入れ替えていたのか。

 それでもまだヴィップ兵は残っているはずだ。
 しかしこの状況下では、ヴィップに忠誠を誓ったまま生きるのは難しい。
 寝返るか、殺されるか。どちらかの道になってしまう。

 どれほどの兵が残っているのか分からない。
 しかし、城内からの助けには期待できそうもない。

( ^Д^)「散々傲慢な態度に出てくれたよな、モララー。
      俺とお前は同期で、しかも俺のほうが年上だったってのによ」

 嘲笑いながら、憎しみのこもった声をプギャーが発した。

 こんな状況下で、積年の恨みを晴らそうというつもりか。
 相変わらず、肝の小さな男だ。
262 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:22:47.04 ID:b/pcF6QD0
 何故プギャーが将校になっているのか、ずっと分からなかった。
 才能があるのはアルファベットくらいで、それもSの壁は越えていない。
 戦に関しては、誰かの助けがなければ碌に勝てないような男だったのだ。

 514年のエヴァ城奪取時、本城から将が補充されたとき。
 プギャーが現れたのを見て、しょぼいやつが来たものだと思った。
 昔から、戦に関する才覚はなかったのだ。

 しかし、ヴィップに対する忠誠は本物だと思っていた。
 それ以上に、ショボン大将に対する想いは強い、と分かっていたが、やはりヴィップの忠臣だろうと。
 ラウンジに寝返るのではないかなど、疑ったこともなかった。

 それは、プギャーと同様に、ショボンに対しても、だった。

( ^Д^)「ラッキー続きで戦に勝ったくらいで調子に乗りやがって……。
      今日という日をどれだけ待ったことか」

( ・∀・)「……ずいぶん、高みからの発言だな。ショボンに媚びへつらうしか能がなかったのに」

(#^Д^)「……あ?」

 状況を把握する時間が欲しい。
 今、どうなっているのか。これからどうすべきか。
 すぐにはまとまらない。考える時間が必要だ。

( ・∀・)「どうせだから言っといてやるよ。俺は東塔の中で、お前が一番使えないと思っていた。
     自分の力をひたすら過信して、いざ戦をやらせりゃ役に立たない。
     アルファベットだって中途半端。しかももう、壁突破の見込みは薄い」

(#^Д^)「なんだと?」
278 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:25:03.45 ID:b/pcF6QD0
( ・∀・)「ようやく納得がいったよ。ショボンの手駒だったってわけか。
     分かりきったことを偉そうに語るくらいしかできねーやつが、なんで将校なのか疑問だったんだよ。
     ありゃヒイキだったってわけか。美味しいポジションだな、まったく。
     ショボンの忠犬として働いてりゃ楽々昇進ってわけだろ? 戦功はなかったもんな」

(#^Д^)「おい、黙れよモララー。まんまとハメられた男が粋がってんじゃねーぞ」

( ・∀・)「ショボンには上手くやられたよ。全く予想していなかった。俺のミスだ。
     でもお前はそれに付き従っただけだろ? お前こそ粋がってんじゃねーよ。
     能無し野郎、お前だけがラウンジに寝返ったんならむしろラッキーだったんだ。
     ショボンの裏切りは痛すぎる。お前は心底どうでもいいが」

(#^Д^)「……殺すぞ」

( ・∀・)「やってみろよ。たかだかR、一撃で粉砕してやるよ。
     首が大事なら引っ込んでろ、エセ将校」

 プギャーの冷静さを奪うことは、成功したようだ。
 相変わらず単純な男だった。

 しかし、この場でプギャーを討ち取るべきか。
 成功するかは分からない。一騎打ちとはいかないだろうからだ。
 となると、やはり逃げを先に考えるべきか。

 ショボンが裏切った今、自分が死んでしまってはヴィップが崩壊しかねない。
 ここは、生き延びなければならない。

(#^Д^)「……いいこと教えてやるよ。こうしてる間にも、ラウンジがお前の後ろに迫ってるぞ」

( ・∀・)「ッ……」
300 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:27:58.98 ID:b/pcF6QD0
 そうか。しまった。
 こちらから攻め込む予定だったため、悠長に構えすぎた。
 ラウンジと連携を取っているなら、確かに後ろから迫られておかしくない。

( ^Д^)「それと、こいつは捕虜として預かっとくぜ。ま、殺してもいいんだがな」

(;・∀・)「なっ……!」

 しまった。
 まだ城内には、将校がいたのだ。
 自分とプギャー以外にも、フェイト城に入っていた将がいたのだ。

(;><)「……モララー中将……」

 ビロード=フィラデルフィア。
 縄を打たれている。
 どうやら不意を突かれて捕らえられてしまったようだ。

( ^Д^)「お前があんまりなめた口を利くようなら……ここで首を落としてもいいんだがなぁ」

 プギャーのRが、抵抗できるはずもないビロードの首に、近づいていく。
 開く刃。首を覆う刃。

(#・∀・)「やめろ!!」

( ^Д^)「なら大人しくしてろよ。お前の行動次第じゃ、こいつの首が消えるぜ」

 身動きが、取れない。
 ビロードを捕虜に取られてしまっては。
321 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:29:59.89 ID:b/pcF6QD0
(;><)「僕はどうでもいいから逃げてくださいなんです!! モララー中将が死んじゃったら……!!」

( ^Д^)「黙ってろよ。どのみちモララーは殺すんだよ。
      ま、ラウンジに忠誠を誓うってんなら生かしてやらんでもないが」

 お前如きが、弄ぶつもりか。
 そう思ってしまう状況だった。

 しかし、恨みを持った者が優位に立つと、面倒なことになる。
 嫉妬交じりの恨みであり、筋が通ったものではないのだが、プギャーにとっては同じことだろう。
 いずれにせよ、恨みなのだ。

 このまま何もしなくても、ラウンジが迫ってくる。
 しかし、下手を打てばビロードが殺される。
 そして自分も。

 どうすべきだ。
 何が、最善だ。

(;・∀・)(くそぉ……!!)

 考えが追いつかない。
 有利な材料が足りない。時間も足りない。
 それでも、何とかしなければ。

 活路を見出さなければ。
340 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:33:29.77 ID:b/pcF6QD0
――ミーナ城――

 止まった。
 城壁の上にいるショボンの動きが、止まった。

 同時に、自分の動きも。

(;゚ω゚)「な……なんで……」

 何故、ここにいる。
 どうして。

 この状況で、何故、現れたのだ。
 どうしてここに。

(´・ω・`)「これは、驚いた……まさかお前が……」

 ここにいるはずのない男。
 ありえないはずの男。

 しかし、いる。
 確かにここにいる。

 懐かしき、友が。

(‘_L’)「ジョルジュ大将の、言った通りになってしまいましたか……」

 フィレンクト。
 片腕を失い、軍を去った男。
 長く共に戦った、盟友。
394 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:36:10.88 ID:b/pcF6QD0
 そのフィレンクトが、何故。

 風で右の袖が揺れている。
 そしてその左手には、アルファベットI。

 何故、アルファベットを握っている。
 何故、ここにいる。
 分からない。声も、出ない。

(´・ω・`)「なるほど。しかし、まさかお前が来るとは思わなかった」

(‘_L’)「できることなら、私も来たくはありませんでした」

(´・ω・`)「だろうな」

(‘_L’)「……貴方が裏切ると、思いたくありませんでした」

 フィレンクトがショボンから顔を背けた。
 そして、以前のままの優しい顔を、自分に向ける。
 あまりに、懐かしい。

(‘_L’)「ブーン少将、お逃げください」

(;゚ω゚)「おっ!?」

 唐突な一言だった。
 フィレンクトの顔は、優しさを保っている。
 しかし、そこに真剣さが加わっている。

 逼迫感が、ある。
416 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:38:11.96 ID:b/pcF6QD0
(‘_L’)「私がショボンを引き付けます。その間に、何とかヴィップ城まで」

(;゚ω゚)「ダメだお! こんな状況で、フィレンクトさんが一人になったら……!!」

(‘_L’)「大丈夫ですから。私のことはご心配なさらずとも。
    さぁ、早く。ラウンジから追っ手が来ます」

(;゚ω゚)「ブーンも一緒に!!」

(‘_L’)「貴方は生きなければ。ヴィップのために、生きつづけなければならないのです」

(;゚ω゚)「フィレッ……ッ!?」

 視界が、動いた。
 何故か、フィレンクトが遠ざかっていく。

 馬が、突然走り出していた。
 フィレンクトが馬の尻を叩いたのだ。

(;゚ω゚)「待ってくださいお!! ブーンも一緒に!!」

(‘_L’)「今まで、ありがとうございました」

 頭を下げるフィレンクト。
 その光景が、徐々に、確実に遠ざかっていく。

 そして、涙で霞んでいく。

( ;ω;)「フィレンクトさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
446 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:40:15.59 ID:b/pcF6QD0
 力の限り叫んでも、もう、どうしようもなかった。
 急に走り出した馬は止まらない。
 それに、後ろから騎馬隊がついてきている。

 フィレンクトの想いを、無駄にできない。
 ここで引き返せば、決死の思いを蔑ろにしてしまうのだ。
 だからこのまま、逃げ続けるべきなのだ。

 そう、分かっているのに。
 感情が、言うことをきかない。

(#;ω;)「ショボンッ!!!!」

 悲しみはやがて、憎しみに変わった。
 いつか絶対に、あいつを討ち取ってやる。
 殺してやる。ラウンジを討ち滅ぼしてやる。

 そんな、憎しみに。


――ミーナ城――

(´・ω・`)「ジョルジュの差し金か。なるほどな……」

 ブーンを逃がした。
 その配下だった三千の騎馬隊も伴わせた。

(‘_L’)(……あとは、ショボンの気をひきつければ……時間を稼げる……)

 ここに残ったのは、正真正銘、自分だけだった。
462 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:42:13.91 ID:b/pcF6QD0
 恐らくミーナ城内にヴィップの兵はいない。
 大将の力を使えば、城内の兵を入れ替えるくらいは容易いはずだ。
 ショボンは誰からも信頼されていた将だった。尚更だ。

 いったい、どれほどの兵がショボンに随従しただろうか。
 この裏切りで、情勢は完全にラウンジに傾いた。天下目前と言っても過言ではない。
 となると、裏切り者はまだ増える可能性がある。

 ミーナ城の兵は多くが裏切っただろう。
 殺されるくらいなら、と思った兵は多いはずだ。
 ショボンがアルファベットで脅せば、その威力は凶悪なものだろう。

 それに、たかが一武将の裏切りならまだしも、今回は大将。
 影響力は絶大だ。

(‘_L’)(……それでも……束ねる者がいれば……)

 きっとブーンは、そうなりえる。
 崩壊しつつあるヴィップ軍を、立て直せる。
 そのはずだ。

 そのためなら自分の命くらい、どうということはない。

(´・ω・`)「お前は、将としては実に有能だったな。今になって、惜しい」

(‘_L’)「私の心がヴィップから動くことはありません」

(´・ω・`)「まぁ、それも分かっている。お前もそうだ、モララーもそうだ。
      国への忠誠心が強いやつが多かった。厄介だったよ、全く。
      軍人をやめてからもヴィップに尽くすとは、殊勝なことだな」
472 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:44:12.81 ID:b/pcF6QD0
(‘_L’)「……武人までやめたつもりはありません」

 近づいた。
 ゆっくり、歩み寄った。

 転がっている死体が二つある。
 ひとつは、ギコ=ロワード。ヴィップ軍の将だった。
 自分も世話になった。優しくて、頭が良くて、芯の強い将だった。

 ギコを失っただけでも、既に東塔は大打撃だ。
 この上、モララーやブーンまで居なくなってしまったら――――。

(´・ω・`)「ん……?」

 もう一つの死体のほうに、近づいた。
 首が離れている。ラウンジの兵のようだ。
 どういった経緯でこうなったかは分からない。

 しかし、幸いだった。
 挑戦する条件が、整っている。

(´・ω・`)「まさか……」

 転がっているアルファベット。
 それは、壁。
 あまりに高すぎた、壁そのものだ。

 死体の側にあるJ。
 何年かかっても越えられなかった、Jの壁。
496 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:46:18.66 ID:b/pcF6QD0
 片腕を失った。それでも、訓練は続けてきた。
 アルファベットの寿命が切れたときは、ジョルジュの助けを借りて新しいものを手に入れた。
 だから今でもIを握れている。

 しかし、健常な状態でも触れなかったJ。
 普通ならまず触れないだろう。
 あれから随分、歳を重ねた。片腕も失った。

 だが、不思議だ。
 あんなに遠く見えたものが、こんなに近く感じる。
 手招きされているような気さえする。

(‘_L’)(……共に戦おう)

 心の中でそう呼びかけ、柄を、掴んだ。
 ぐっと、力を込めながら。

 熱は、なかった。
 アルファベットを、掲げることができた。

(´・ω・`)「ッ! ここで壁を越えたか……」

 ありがとう、J。
 気持ちに応えてくれて。

(‘_L’)「ショボン=ルージアル、お前を討ち取ってみせる」

 切っ先を向けた。
 ショボンの、喉元に。
523 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:48:35.94 ID:b/pcF6QD0
 体中から、闘志が溢れ出そうだった。

(´・ω・`)「壁を越えたとは言え所詮J、それにも関わらず俺に挑んでくる。
      実にいい。お前を殺すのが惜しいくらいだ」

(‘_L’)「双方生き残ることは、ない」

(´・ω・`)「分かっているさ。だから、惜しいんじゃないか。
      しかしせめて、お前の気持ちに応えよう。お前を武人らしく死なせてやろう。
      誰にも邪魔はさせんさ。一騎打ちだ」

 そしてショボンが、アルファベットを動かした。

(‘_L’)「ッ……?」

 何故、動かしたのだ。
 城壁から見えていたYを、後ろに下げた。
 そして、手から離した。

 ――――まさか――――。

(´・ω・`)「俺の全力を持って、お前と戦おう。この、アルファベットZで」

 掲げられた。
 形状が、はっきりと見えた。

(;‘_L’)(あれが……Z……!!)

 思わず、身が震えた。
 自分の何が、体を震わせたのかは、分からなかった。
548 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:50:54.58 ID:b/pcF6QD0
(´・ω・`)「待っていろ。すぐそっちへ行ってやる」

 そしてショボンは城壁から消えた。
 恐らく、これから外に出てくるのだろう。

 手に汗が生じていた。
 それをすぐに右の袖で拭う。
 恐怖を、振り払うように。

(‘_L’)(……相手のアルファベットがなんであろうと、関係ない……!)

 戦うしかない。
 ショボンを、討ち取るべく。

 最低でも、時間稼ぎにはなるのだ。
 きっとラウンジからの追っ手は出ている。それでも、ショボンを食い止めることはできる。
 ショボンが動かないのなら、ミーナ城からは本格的な追っ手が出ないのだ。充分、価値はあるはずだ。

 それに、討ち取れる可能性とて、ないわけではない。

(´・ω・`)「待たせたな」

 単騎。
 ショボンが、城門から姿を現した。

 城壁の側、多くの目に晒された平原。
 二人の距離は、およそ二十歩ほど。
567 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:52:54.79 ID:b/pcF6QD0
 風の音が静寂を表現する。
 夕闇に染まりつつある空と伸びる影。
 草木の擦れる音。

 高鳴る、鼓動。

 ショボンが、そしてZが、一歩ずつ近づいてくる。
 そのたびに、心音が大きくなっていく。

 同時に、戦意が高まってくる。

(´・ω・`)「さぁ、行くぞ」

 ショボンが動きを速めた。
 二人の距離が、一瞬で詰まる。

 死力を尽くして、戦うしかない。
 アルファベットJと共に。
569 :第71話 ◆azwd/t2EpE :2007/09/02(日) 05:53:13.89 ID:b/pcF6QD0
(#‘_L’)「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」

 アルファベットJを、振り上げた。
 そして、渾身の力で振り下ろした。



















 第71話 終わり

     〜to be continued

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