- 2 :登場人物
◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火)
04:04:39.81 ID:S9fxTTBi0
- 〜オオカミの兵〜
●( ゚д゚) ミルナ=クォッチ
45歳 大将
使用可能アルファベット:U
現在地:オオカミ城
●| `゚ -゚| フィル=ブラウニー
40歳 中将
使用可能アルファベット:R
現在地:オオカミ城
●(ゝ○_○) リレント=ターフル
39歳 中将
使用可能アルファベット:N
現在地:オオカミ城
●〔´_y`〕 ガシュー=ハンクトピア
44歳 中将
使用可能アルファベット:O
現在地:オオカミ城
- 7 :使用アルファベット一覧
◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火)
04:05:27.88 ID:S9fxTTBi0
- A:
B:
C:
D:
E:
F:
G:
H:
I:
J:
K:ロマネスク
L:オワタ
M:
N:デミタス
O:ヒッキー
P:アニジャ/オトジャ
Q:
R:ギコ/プギャー/ベルベット
S:ニダー
T:アルタイム
U:ブーン/ミルナ
V:ジョルジュ
W:モララー
X:
Y:ショボン
Z:
- 10 :この世界の単位&現在の対立表 ◆azwd/t2EpE
:2007/08/21(火) 04:06:23.61 ID:S9fxTTBi0
- 一里=400m
一刻=30分
一尺=24cm
一合=200ml
(現実で現在使われているものとは異なります)
---------------------------------------------------
・ヴィップ 対 オオカミ
(シャッフル城〜フェイト城)
・ラウンジ 対 オオカミ
(アリア城〜ヒダマリ城)
- 15 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:06:57.70 ID:S9fxTTBi0
- 【第65話 : Crisis】
――オオカミ城――
夏が近づいていた。
今年は照りが強く、雨季も吹き飛んでしまったかのような暑さが続いている。
実際、旱魃を訴える地域も出ていた。
それは全て文官に任せ、自分はひたすら大将室で地図を見ていた。
見飽きるほどに見た地図を。
ラウンジとヴィップの攻撃を、思い浮かべながら。
(;゚д゚)「…………」
シャッフル城、オリンシス城。
アリア城。
その三城に、大軍が集められている。
いずれもオオカミと接する城たちだ。
どう考えても、二正面だった。
同時に攻め込んでくるとしか、思えなかった。
(;゚д゚)(……やられた……)
油断していた。
まさか、ラウンジとヴィップが結託してくるとは。
- 19 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:08:54.80 ID:S9fxTTBi0
- 外交を怠った。
そんなつもりはなかったが、結果的にそうなった。
想像すらしなかったのだ。同時に攻め込んでくるとは。
ヴィップのジョルジュは、オオカミと通じている。
二十七年前、オオカミからヴィップに寝返ったとき、ジョルジュは手紙を残したのだ。
いつか必ずオオカミに帰る、と。
そのジョルジュが軍の頂点に上り詰めた。
位ではショボンと同列だが、実質的にショボンより上の地位だ。
だから安心していた。ジョルジュがいれば、ラウンジと結託することはない、と。
何故、反対してくれなかった。
何故、食い止めてくれなかった。
心の中でひたすらジョルジュに問いかけた。
(;゚д゚)(……まさか……嘘だったのか……?)
あの手紙は、嘘だったのか。
オオカミからの追っ手を退けるための、欺瞞だったのか。
いや、そんなはずはない。
ジョルジュは、親友だった。何年も一緒に過ごした友だった。
入軍してからもずっと、オオカミの天下を目指して頑張ろう、と語り合っていたのだ。
確かに、ジョルジュがヴィップに降らざるを得なかった理由は、自分にある。
二十七年前、マリミテ城を攻めたヴィップ軍相手にミスを犯し、ジョルジュは孤立した。
包囲されたジョルジュは生き残るためにヴィップに降った。
- 26 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:11:07.61 ID:S9fxTTBi0
- ドクオのように、裏切りを是とせずに死ぬ兵もいる。
ジョルジュのように、生存にこそ価値を見出して生きる兵もいる。
どちらがいいとは言えない。どちらも、その兵にとっては正義なのだ。
(;゚д゚)(……ジョルジュ……)
ジョルジュがヴィップに降ったのは、自分のせいだ。
自分がミスを犯したから。
それが理由でジョルジュは、もう、オオカミに愛想を尽かしてしまったのかも知れない。
いや、きっとジョルジュは動いてくれる。
何か策を用意しているのだ。でなければ、こんな事態を招くはずがない。
ジョルジュが阻止してくれたはずだ。
ジョルジュに手紙を書こう、と決めた。
今までもし誰かに発覚したらまずい、と思って連絡を取らないようにしてきたが、そんなことも言ってられない。
国家の危機だ。存亡をかけた戦いが始まってしまうのだ。
大丈夫だ。きっとジョルジュが何とかしてくれる。
親友が、仲間が。
オオカミを、救ってくれる。
それまで、自分はとにかく抗うことだ。
ヴィップとラウンジを同時に相手にするのはかなり辛いが、戦うしかない。
押されるだろうが、滅びなければ大丈夫だ。国家さえ生きていれば。
持ち堪えてみせる。
何十年と戦ってきたのだ。この歳になっても、アルファベットを振るい続けてきたのだ。
大丈夫だ。戦える。きっと持ち堪えられる。
- 34 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:13:11.11 ID:S9fxTTBi0
- 〔;´_y`〕「ミルナ大将」
筆を取って机に向かおうとしたところで、ガシューが大将室に入ってきた。
焦りの表情。どうやら、二国が攻めてくることと関係あるようだ。
だが、それよりもっと逼迫したことを憂えているように見えた。
〔;´_y`〕「フィラッド=ウルフ国王が、お呼びです」
( ゚д゚)「ッ……」
思わず、舌打ちしてしまった。
二国が攻めてくるという情報を得てしまったようだ。
フィラッドは何も知らないまま、ただ書類に判を押していればいいだけなのに、面倒なことになった。
( ゚д゚)「……分かった」
〔;´_y`〕「あの、大丈夫でしょうか?」
( ゚д゚)「何も心配要らんさ。お前は戦の準備を進めてくれ」
ガシューの肩を叩いてすれ違い、大将室から出た。
今日は嫌になるほどいい天気だ。
この天気を見て気分が晴れないのは自分くらいのものだろう。
鬱々としたものを内包しながら、国王室へ向かった。
無駄に飾り立てた無意味に広い部屋。何の価値があるのだ、と思っていた。
フィラッドがこの部屋を作ってから、ずっとだった。
|⌒‥⌒|「ラウンジとヴィップが攻め込んでくるようだが?」
- 41 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:15:15.06 ID:S9fxTTBi0
- 王座にふんぞりかえったフィラッド。
贅肉を隈なく備え付けた全身は、微動でも大きく上下に揺れる。
それに加え、特有のねちっこい汚声。こいつを好きになれ、というほうが無理な話だ。
( ゚д゚)「ご心配なく。既に策を講じてあります」
一刻も早く会話を終わらせたい。
フィラッドと話している時間ほど無駄なものはないのだ。
|⌒‥⌒|「是非お聞かせ願いたいものですな、ミルナ大将」
( ゚д゚)「私を信じてくださらないのですか?」
|⌒‥⌒|「それとはまた話が別だろう」
また、舌打ちしそうになった。
肝心なところで無能なくせに、こういうことだけは頭が回る。
リレント以上に面倒なやつだ。
|⌒‥⌒|「ミルナ、私はお前を信じておらんわけではない。
長年大将を務めてくれたことに感謝もしておる。
だがしかし、ここ数年でオオカミはいくつもの城を失った。
私がお前を疑ってしまっても、私に非はあるまい」
非はない、だと。
ふざけるな、フィラッド=ウルフ。
じゃあお前はいったい、何をしてくれたんだ。
戦いを支援してくれたか。有能な文官を送ってくれたか。
何もしていないだろう。ただここで椅子に座っていただけだろう。
- 46 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:17:14.89 ID:S9fxTTBi0
- 戦いに負けたのは、大将である自分の責任だ。
それは分かっている。しかし、何もしなかった国王にとやかく言われる筋合いはない。
こんな肥満体に戦を手伝えとは言わないが、せめて文官くらい育ててくれても良かっただろう。
有能な文官が外交をやってくれれば、もっと戦に集中できた。
アルファベットの訓練もできたし、兵の調練もできた。
しかし、何もかも大将に押し付けたのはフィラッド、お前ではないのか。
ただ父親の財を食い荒らしただけの男に、文句を言われたくはなかった。
建国者でもある先代のリアッド=ウルフは立派な国王だった。フィラッドとは比較にならないほどだ。
こいつはただ財産を受け継いで、その金を酒と女に変えただけだ。
何もしてはくれなかった。
ただ仕事や責任を押し付けて、戦場へ兵を蹴り出しただけだ。
血以外に何ら価値はない男なのだ。
それでも、国王だった。
権力を、持ってしまっているのだった。
|⌒‥⌒|「まぁいい。策を持っていると言うのなら、お前を"信頼"してみよう」
( ゚д゚)「……感謝致します」
上辺だけの、言葉だけの信頼。
あまりに薄っぺらい。
それでも良かった。
こんなやつに策を話しても何ら利はない。
支援してくれるわけでもないのだから。
- 57 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:19:22.37 ID:S9fxTTBi0
- |⌒‥⌒|「だがお前は大将だ。責任ある立場だ。
もしこの戦で国が危急の事態に陥るようなら」
( ゚д゚)「皆まで言わずとも、分かっております」
ずっとそのつもりでやってきたのだ。
いまさら念を押されなくても分かっている。
命を賭けて戦ってきた。
そして、何十万という兵の命を預かってきた。
全て、覚悟の上だった。
( ゚д゚)「国王はただ、ここに座しておられれば良いのです」
皮肉を込めて言ってみた。
フィラッドは全く表情を変えず、細い目で自分を睨んでいる。
どうやら意味を理解できなかったようだ。
( ゚д゚)「お話は以上ですか? 私は戦の準備がありますので、何もなければこれで」
|⌒‥⌒|「まぁ、待て。最後にひとつ、聞いておこう」
強引に帰るつもりだったが、最後にひとつ、と言われては留まらざるをえなかった。
気付かれないように小さく嘆息を吐いて、再びフィラッドのほうを見る。
暗く澱んだ瞳、油っぽい髪。
ひん曲がった鼻、浮き出た痘痕。
先代国王の血を本当に受け継いでいるのか、と問いたくなった。
- 64 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:21:39.64 ID:S9fxTTBi0
- |⌒‥⌒|「もうすぐ始まるであろうこの大戦に、オオカミは、勝てるのか?」
珍しく真面目な顔つきになっていた。
果たして何を憂えた上での質問なのか。国か、自身か。
分からないが、フィラッドがここまで真剣になるのは久方ぶりのことだった。
だが、質問内容は凄まじく間が抜けていた。
( ゚д゚)「戦は、やってみなければ分かりません。
ですので私には、勝利を得られるよう奮戦するとしかお答えできません」
当たり前のことだ。
勝てるのか、と聞かれ、勝てる、と答えられるはずがない。
何が起きるか分からないのが戦なのだ。
|⌒‥⌒|「……下がってよいぞ」
フィラッドが望んでいた答えではなかったようだ。
しかし、自分にとってはどうでもいい。
頭を少しだけ下げ、すぐに国王室から退出した。
言い知れない安堵感が身を包む。解放感さえあった。
フィラッドと話す頻度はさほど高くないが、会うたびに嫌な思いをさせられるのだ。
呼び出しがかかるだけで気分が沈む。晴れ間さえ忌々しく見える。
まだリレントと話しているほうが随分マシだった。
ヽ;`・−・)「ミルナ大将」
- 70 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:23:54.76 ID:S9fxTTBi0
- 大将室に戻ろうとした自分を、引き止める声。
慌てて追ってきたようだ。
ディアッド=ウルフ王子だった。
( ゚д゚)「王子、いかがなさいました」
ヽ;`・−・)「あの、申し訳ありません。父が無礼を」
( ゚д゚)「何を仰いますか。私は国に仕えている身なのですから」
ヽ;`・−・)「しかし、明らかに言葉が過ぎておりました。父に代わり非礼をお詫び致します」
深く頭を下げるディアッド。
よしてください、と言ってその肩を掴む。
フィラッドの子とは思えないほど、よくできた息子だった。
ディアッドは母親に似たようで、端整かつ精悍な顔立ちと、それに似合う長身を持っている。
また性格は祖父の血を受け継いでおり、非常に礼儀正しく、また聡明だった。
これでまだ二十になったばかりだ。
国軍将校に欲しい、と思えるくらいの人材だった。
父親に似なくて良かった、と心の底から思ったものだ。
( ゚д゚)「ディアッド王子もやはり、不安ですか?」
非常に礼儀正しく、気配りのできる青年。
だが、時には遠慮なく本音を語る、率直さも持っている。
性格の均整が取れているのだ。
- 76 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:25:55.85 ID:S9fxTTBi0
- ヽ`・−・)「正直に申しまして、厳しい戦いになるのではないかと」
( ゚д゚)「その通りです。ラウンジ軍十四万、ヴィップ軍八万。合計、二十二万が相手ですから」
ヽ;`・−・)「二十二万……かつてない大軍ですね……」
( ゚д゚)「まともに戦えば勝機はありません」
ディアッドになら、正直な見解を述べられる。
大将としての意見だ。
ヽ;`・−・)「……この国は……滅んでしまうのですか……?」
( ゚д゚)「可能性が、ないとは言い切れません」
あえて、毅然とした口調で言った。
しかし自分自身、口にしたくはない言葉だった。
ディアッドが俯いた。
唇を、噛みながら。
ディアッドは、一国の王子だ。
その国が存亡の危機とあれば、沈んでしまうのも当然だろう。
あるいは、悔しさだろうか。
( ゚д゚)「……ディアッド王子、そんな顔をなさらないでください。
確かに二十二万は厳しい数ですが、先ほども申し上げました通り、私には策があります」
ヽ*`・−・)「本当ですか!?
いったいどのような策なのですか!?」
- 88 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:28:35.57 ID:S9fxTTBi0
- 希望に満ちた顔でこちらを見つめていた。
あまり期待されすぎても困るが、やはりディアッドに沈んだままでいてほしくはない。
国家全体の士気にも関わりかねないのだ。
( ゚д゚)「詳しくお話することはできません。もう三十年近く、秘してきた策なのです。
ですが私は必ず成してみせます。オオカミ国を、守り抜いてみせます。
国軍の大将として。ミルナ=クォッチの名にかけて」
ヽ`・−・)「……はい」
煥然とした表情で頷いていた。
やはり明朗快活な人だ。暗愚な父親とは大違いだった。
正直、なるべく早めに父親が逝去することを望んでいた。
この息子が国王になったほうがいい。きっと軍を全力で支援してくれる。
文官も育ててくれるはずだ。今より戦いやすくなることは間違いなかった。
例え、何もしてくれなくてもいい。
散財することしかしないフィラッドよりはいい。
あの国王でないなら犬でも良かった。猿でも良かった。
息子のディアッドは、間違いなく国王としての器を持っている。
あの父親に代わって王の座につけば、オオカミはもっと豊かになるはずだ。
良い国になるはずだ。
こんなところで終わっていい国ではないのだ。
まだ成長できる。まだ発展できる。
更なる高みへ進める国なのだから。
オオカミには、可能性があるのだから。
- 94 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:30:35.17 ID:S9fxTTBi0
- ヽ`・−・)「……ミルナ大将、お願いがあるのです」
( ゚д゚)「はい」
不意に、珍しいことをディアッドは言った。
控えめな印象が強い。今までお願いなどされたことはなかった。
しかし、言うべきところで言う、勇ましさも持っている男なのだ。
ヽ`・−・)「戦に、私を伴っていただきたいのです。私を、戦わせていただけませんか?」
(;゚д゚)「何を……!」
突拍子もないことだった。
国王の嫡男が、戦うなどと。
そんなことが許されるはずはなかった。
ヽ`・−・)「馬鹿げたことだ、とお思いかと存じます。身の程知らずだと。
しかし、居ても立ってもいられないのです。国の危機だというのに、部屋に閉じこもっていたくないのです。
お願いです。後方支援でも最前線での戦でも、何でもやります」
(;゚д゚)「……ディアッド王子……」
想像以上だった。
自分が思っていた以上に、ディアッドは、国のことを想っている。
オオカミを、愛していたのだ。
ディアッドは十八のときにアルファベットに触れ、二年でIまで上がっている。
空いた時間にはいつもアルファベットを振るっているのを、自分は知っていた。
だが、まさか戦う意思まで持っているとは思わなかった。
- 99 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:32:33.98 ID:S9fxTTBi0
- ( ゚д゚)「……一国の王子を戦に伴い、もし何かあったら」
ヽ`・−・)「勝手に紛れ込んだ、ということにしてください。そういった事実も偽装しておきます。
ミルナ大将には何一つご迷惑をおかけしません。ただ一兵を加えた、という、それだけの話で」
( ゚д゚)「しかし、ディアッド王子は嫡男です。父上の身に何かあった場合は、王を継がなければなりません」
ヽ`・−・)「僕の代わりなんて、何人でもいます。また違う人が王になるだけです」
それは、確かにそうだ。
もしディアッドが居なくなった場合は、違う息子が王になる。
ディアッドは長男であり、正室の子であるため、継承の順位が最上なのだ。
だが、最上なのは英知や才知のほうだ。
確かにフィラッドは、ディアッド以外の子を何人も儲けている。
側室との子が、自分が知っている限りでも八人はいる。
毎日女を変えているフィラッドのことだから、本当にできた子供の数は計り知れない。
多くは養子に出されたり、孤児院に飛ばされたり、酷いときには捨てられることもある。
フィラッドは面倒を見ようとしないため、女が苦渋の決断を下すのだ。
それらの子供には、王を受け継ぐ権利がない。
何十、何百というフィラッドの子供が城から去っていくことを考えると、残った数人は恵まれていた。
ディアッドは実によくできた息子だ。
才がある。器がある。嫡男で良かった、と心の底から思った。
そのディアッドを失っては、国家全体に影響を及ぼすのだ。
継承順位ではディアッドに次ぐ第二子が、暗愚だとは言わない。
しかしどう見ても、ディアッドには劣る男だ。
- 104 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:34:48.35 ID:S9fxTTBi0
- やはりディアッドが継がなければならないのだ、この国は。
それでこそ、明るい未来が見えてくるのだ。
( ゚д゚)「やはり、王子を伴うわけにはまいりません。戦場は危険です」
妥当な判断だろう、と思った。
いま一兵でも多くほしいことは間違いないが、ディアッドを失うのはあまりに手痛い。
一兵として扱うには、大きすぎる存在だ。
ヽ`・−・)「……後でももう一度、返事をください。今は引き下がります」
( ゚д゚)「何度言われても、私は」
ヽ`・−・)「お願いします。もう一度だけ、考えてみてください。
では、私は失礼致します」
さっと背を向けて、遠ざかっていった。
強引な去り方だった。
( ゚д゚)「ふぅ……」
大将室に戻って、考えてみた。
ディアッドについてではない。戦についてだ。
果たしてどう戦っていくべきか。
重点的に防ぐべきは、ヴィップからの攻撃だ。
オオカミ城が近い。オリンシス城から一気に狙われる可能性がある。
ヴィップ方面に六万は割かなければならない。
- 112 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:37:04.22 ID:S9fxTTBi0
- そうなるとラウンジ方面に向けられる兵数は、同数の六万が限界だ。
しかも長引くと不利だ。とてもその兵数を維持できる力はない。
もって三ヶ月。最前線に兵を向かわせるなら、そうなる。
( ゚д゚)「……軍議の召集をかけろ」
従者に命じて、すぐに軍議を開いた。
自分ひとりで考えるよりも、やはり中将たちの知恵を併せたほうがいい。
特に最近のリレントは期待できる、と思っていた。
――――しかし。
(ゝ○_○)「……何も策はありません」
開口一番だった。
軍議室に入り、状況を説明し、何か策はないかと問いかけてみた。
ほとんど即答だった。
確かに、自分もジョルジュがいなければ何も策は思い浮かばない。
外交が後手後手に回ってしまったからだ。
しかし、期待していた。
荒唐無稽な策でもいいから何か言ってくれ、と思っていた。
まさか、こんな弱気なリレントを見ることになるとは。
〔;´_y`〕「まだ外交の余地はあるのではありませんか?
ラウンジ、もしくはヴィップに、密かに結託しようと持ちかけるなど」
ガシューが、何とか搾り出した、というような声を発した。
切迫感があった。
- 115 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:39:25.40 ID:S9fxTTBi0
- ( ゚д゚)「……可能性は模索しているさ。しかし、この磐石の状態を突き動かすとなると……。
実質……オオカミはどちらかの臣下に入らざるを得なくなる」
| `゚ -゚|「臣従の代わりに助けてもらう、という形ですか……」
( ゚д゚)「だが、信頼は得られん。いずれ裏切るのではないか、と疑われるだろう。
危険な獣を懐で飼うくらいなら、今のうちに殺しておこう、と考えるさ。
俺がラウンジやヴィップの立場だったら、そうだ」
(ゝ○_○)「しかし、ヴィップは未だラウンジに国力で劣ります。
ここでラウンジを裏切ってオオカミを助ける道もありえるのでは?
オオカミに恩を売る、というような」
( ゚д゚)「……多分、ないだろうな」
この策を持ちかけたのは、ヴィップ側だという。
最大国ラウンジを先に潰すのではなく、国力で最も劣るオオカミを潰しにきた。
それは恐らく、ショボンがジョルジュのことを懸念したからだ。
ジョルジュが元オオカミの将だというのは知っているはずだ。
ならば裏切る恐れのある国を先に潰しておいたほうがいい、と思ったのだろう。
悔しいが、懸命な判断だった。
ジョルジュがヴィップに潜入したことでオオカミが危機に陥るとは、何とも皮肉な結果だ。
現時点では、ジョルジュが西塔に入ったことが裏目に出てしまっている。
国家存亡の危機を招いてしまっている。
しかし、ジョルジュが行動を起こしてくれれば。
オオカミを攻め込もうとしている東塔を、どうにかしてくれれば。
オオカミはまだ、生き残れる可能性がある。
- 123 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:41:35.14 ID:S9fxTTBi0
- ( ゚д゚)「戦について考えよう。まず、ラウンジとヴィップの割り当て。
いまオオカミが遠征に出せるのは十二万。これが目いっぱいだ。
これを六万ずつ両面に当てる」
| `゚ -゚|「その数ならヴィップ方面はまだ戦えますが、ラウンジは」
( ゚д゚)「それについて俺は皆の意見を聞きたい。
これは両面に言えることだが、軍を遠征させれば兵站の維持が難しくなる。
無駄に兵糧も失ってしまう。だから俺は、いくつかの城を放棄したいと思う」
(ゝ○_○)「放棄……!」
( ゚д゚)「具体的に言うと、まずラウンジ方面ではヒダマリ城をネギマ城を放棄する。
ヴィップ方面ではフェイト城。場合によってはミーナ城の放棄も考える。
もしオオカミ城を一気に狙ってくるようなら、ミーナ城を餌にして時間を稼ぐ、ということだ」
〔;´_y`〕「四城……ですか……」
( ゚д゚)「それが、ベストだと思う」
悔しさを噛み殺して、また、毅然とした口調で言った。
何十年もの歴史を積み重ねてきた、オオカミ国。
十を超える城を有してきた。
自分が、あまりに情けない。
建国者のリアッド=ウルフ、そして初代大将のアテナット=クインス。
偉大な二人の先人に、申し訳が立たない。
- 127 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:43:54.55 ID:S9fxTTBi0
- それでも、やれるだけやるしかない。
ジョルジュを信じ、国を信じ、自分を信じ。
戦うしかないのだ。
( ゚д゚)「ラウンジ戦はヒトヒラ城で、ヴィップ戦はオオカミ城で。
そう思っていてくれ。いざというときには遷都も考える。
これから戦まではとにかく準備だ。兵糧とアルファベットを揃え、編成を整えるぞ」
軍議の終了を告げ、席を立った。
ラウンジとヴィップはいつ攻めてくるか分からない。時間がないのだ。
少しでも兵を鍛え、少しでも優位に立てるよう努力しなければならない。
それから、寝食を忘れて任務をこなす日々が続いた。
軍議も頻繁に行った。細かい部分を詰める必要があったからだ。
ラウンジ方面にはフィルとガシューを。
ヴィップ方面には自分とリレントが赴く。
そう決めた。ベストな布陣だろう、と思った。
太陽の浮沈や空の濃淡など、全く記憶にない日々だった。
調練も全て中将に任せたため、風の匂いもずいぶん感じていない。
大将は他にやらなければならないことが多くあるのだ。
文官からの報告も次々入っていた。
兵糧はやはり足りない。半年が精々。まともに戦えば勝ち目はない。
ジョルジュの動きに期待するしかない。
信じるしかない。
やがて、ヴィップ軍の五万がシャッフル城に入ったという報せが入った。
- 133 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:46:32.35 ID:S9fxTTBi0
- ( ゚д゚)(遂に来るか……)
両軍は足並みを揃えてくるだろう。だから、ヴィップはまだ攻めてこないはずだ。
ラウンジの準備が終わっていない。十四万という数を動かすのは大変なのだろう。
それに、ラウンジはオオカミを攻めるために、トーエー川を渡らなければならない。
ヒダマリ城を放棄する、と言ったが、ラウンジには水軍で抵抗するつもりだ。
可能な限り苦しめてやる。時間を稼いでやる。
水軍が敗れたらヒダマリ城は即放棄だ。とても保てない。
明朝、軍を全てオオカミ城から発たせる。
既に八万は動いた。あと行軍させるのは四万だ。
オオカミ城には二万を残す。この数なら突然攻められても抗えるはずだ。
( ゚д゚)「ディアッド王子、やはり貴方を前線に伴うわけにはまいりません」
出陣前夜。
ディアッドに返事を求められ、そう答えた。
月が薄雲で姿を曖昧にしている夜だった。
ヽ`・−・)「……そうですか……」
ディアッドが、俯いた。
その右手には、長柄のアルファベットI。
ずっと訓練をしていたのだろう。
力なく垂れ下がった左手には、いくつもの肉刺の痕があった。
( ゚д゚)「……ですが、ディアッド王子。私は貴方に、お願いしたいことがあります」
- 142 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:48:48.78 ID:S9fxTTBi0
- ゆっくりと顔を上げたディアッドに、手渡した。
緑色の、獣を模った、将校章。
その左手に、握らせた。
( ゚д゚)「ディアッド王子……いや、ディアッド少尉」
言葉を、強くした。
はっとした顔のままのディアッドに対して。
先ほどまでは、王子と家臣の関係だった。
しかし今、大将と少尉の関係になったのだ。
両手で肩を掴んだ。
( ゚д゚)「お前はここで戦うんだ、ディアッド=ウルフ。
城内から防衛戦を指揮執り、オオカミにとって最適な判断を下してくれ。
俺はお前が幼い頃から才気を発揮していたのを知っている。お前ならできる、と信じている。
ボロボロになるまで訓練した手、寝ずに勉強して得た戦に関する知識。
充分、将校たりえると俺は思う。だからお前に将校章を渡したんだ」
ディアッドの頬が、濡れていた。
鮮明に映し出していた瞳の中の薄雲が、滲んでいた。
( ゚д゚)「フィラッド国王を正しい道に導けるのはお前しかいない。
頼む。共に、戦ってくれ。
この国を、守り抜こう」
固く手を結んだ。
ディアッドは、涙ながらに頷いていた。
- 149 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:50:51.08 ID:S9fxTTBi0
- ディアッドなら、きっと上手くやってくれる。
既に二万の兵には指示を下してある。オオカミ城に残す将校に、ディアッドのことを頼んでもある。
城内からの指揮なら身に危険が及ぶこともないだろう。
ディアッドにまで頼らなければならないのは、自分の力が足りないせいだ。
そんな自責は、ここ最近、毎日のようにあった。
(ゝ○_○)「ミルナ大将、出立の準備は全て終わりました」
自分を、探していたのだろうか。
軽く息を切らせたリレントが、走り寄ってきた。
( ゚д゚)「そうか」
不思議と、穏やかな気持ちだった。
以前のように、話しかけられるだけで嫌な気持ちになることは、あまりなくなった。
リレントが丸くなったせいだろうか。あるいは、自分が歳を取ったせいだろうか。
もう、四十五になっている。
ベル=リミナリーが死んだのは四十九のとき。あと、たった四年。
たった四年で、あのときのベルと同じ年齢になる。
ショボンと戦い、倒れたベルが、頭の中に思い浮かんでくる。
体は痩せ細っていて、頬もこけていた。
それでも覇気に満ちていた。
倒れたベルの体を抱き起こしたとき、信じられないほど軽く感じたのを、今でもよく覚えている。
(ゝ○_○)「最後の戦になるかも知れませんね」
- 155 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:52:57.82 ID:S9fxTTBi0
- 月を見上げながら、リレントが言った。
城内の廊下は暗い。月明かりが眩しく感じるほどに。
いつしか薄雲は流れ去り、月は明朗さを取り戻していた。
( ゚д゚)「そうだな」
リレントの声は、いつもの白々しさが全くなく、感情がこもっていた。
大抵、こういう話のときのリレントは、淡々としているのだ。
しかし、今夜は違う。
( ゚д゚)「もし最後なら、残念だったな。お前は大将になれずじまいだろう」
軽く笑いながら、言った。
リレントは、頬を掻いていた。
(ゝ○_○)「確かに大将位は私の目標でありました。いずれはミルナ大将から譲り受けたい、と」
( ゚д゚)「残念ながら、叶いそうにないみたいだな、その夢は」
(ゝ○_○)「今の私にとっては、大将位などどうでもいいのです」
やはり、違う。
言葉に、感情が込められている。
いつも不自然に作られていた表情も、自然さのみが際立っていた。
月明かりを受けるリレントの表情。
だからなのか。それとも、本当に、なのか。
その表情には、リレントの素が見えた。
- 168 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:55:08.06 ID:S9fxTTBi0
- (ゝ○_○)「ミルナ大将」
( ゚д゚)「何だ?」
(ゝ○_○)「……私は、オオカミ国で生まれ育ち、長年、オオカミのために戦ってまいりました」
凪いでいた風がまた吹き出す。
小さな窓から吹き込んでくる。
リレントの髪が、穏やかに揺れていた。
(ゝ○_○)「この国の天下のためならば、と毎日必死で策を考えてまいりました。
大将位を得たいと思ったのも、自分の策を実行したいが故です。
それが国のためになる、と、私は思っておりました」
( ゚д゚)「間違ってはいないさ、お前の気持ちは」
(ゝ;○_○)「ミルナ大将、私は、私は――――!」
リレントが、言葉に詰まった。
両目を手で覆う。鼻を啜る。
口から漏れた声は、掠れていた。
(ゝ;○_○)「私は――――この国を、失いたくありません」
目を覆った右手の下から漏れる、涙。
短く、小さな嗚咽。
- 177 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:57:09.10 ID:S9fxTTBi0
- リレントは、心の底からオオカミのことを想っていたのだ。
ディアッドのように。自分のように。
オオカミを、愛していた。
確かにリレントは、今まで常にオオカミの勝利だけを考えてきていた。
発する案は上策と言えないものばかりだったが、どれも真剣に考え抜かれたものだった。
それは、リレントの説明を聞けばすぐに分かった。
リレントは今回、何の策も出せなかった。
この状況を打破する方法を、見出せなかった。
だからこその涙なのだろう、と思った。
( ゚д゚)「リレント、俺を信じてくれ」
リレントの肩に手を回した。
下顎から垂れ落ちる涙を、右手で拭ってやりながら。
( ゚д゚)「必ずオオカミを生き残らせてみせる。滅亡させたりしない。
俺のような男に命を預けてくれた兵たち、そしてお前のような男のためにも」
今宵の月は、輝かしい。
薄雲がなくなっためそう見えるのか。
それとも、久しく見ていなかったからだろうか。
( ゚д゚)「戦おう。戦って、国を守り抜こう。
俺たちは軍人だ。戦うしかないんだ。
アルファベットを握り、自分の力を信じて戦うことしかできないんだ」
- 191 :第65話 ◆azwd/t2EpE :2007/08/21(火) 04:59:02.40 ID:S9fxTTBi0
- リレントは、涙交じりの声で答えた。
短く一度だけ、頷いた。
戦うしかない。
戦場に行って、アルファベットを振るうしかない。
そうすることでしか、自分たちは、国を守れないのだから。
( ゚д゚)「行こう。最後の戦にしないためにも。オオカミの天下のためにも」
もう一度、リレントは頷いた。
先ほどより、強い意志を感じる表情になっていた。
第65話 終わり
〜to be continued
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